最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

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幕間・正直よく理性保ったなとアクアは語る

 個体差こそあるが、蛇は交尾に二十四時間以上かけるものもいるらしい。

 時として連日行われる程に情熱的なそれ。

 今のアクアとみなみもまた、蛇のつがいのように身体を絡め合わせて、体温を共有しながら相手のことだけを考えていた。

 

「(何でこんなに柔らかくて、抱き心地がいいんだろうか……正直もう色々とヤバいけど耐えれるのは……癒やしと幸福感が半端ないからだよな……)」

「(どないしよ……何か気を抜いたら、またほっぺにキスしたくなるんやけど……! アカンやろ……! いや、寧ろええの? わからへん!)」

 

 訂正。考えてはいたが、わりといっぱいいっぱいだった。

 時間はたくさんある。サボタージュした以上、示し合わせずとも二人とも限界まで一緒にいたい所存だったが……。ここに来て理性という壁が現れていた。

 

 アクアは、映画を終えるまではと宣言した以上、曲げることを自分に許してはいない。ここでみなみに不誠実な姿を見せたくないという、なけなしの意地もあった。

 この男、今でこそ復讐という頸木が外れてはいるが、元々が大切な相手の為ならば鬼にも悪魔にもなれる人間である。

 つまり、どんなに自分が苦しくとも耐えられる鋼の理性を持ち合わせていた。

 たとえアクアのアクアマリンが凄いことになろうとも、己を保っているのはそれが理由でもあった。

 本音を言うと、本人からのOKも何故か出ちゃっているので好き放題に触りたかったし、予約だってしたかった。だが、彼は耐えた。

 それをやったが最後。理性完全崩壊の合図になるからだ。多分揉みしだくわ、予約が完売になるわで、映画ならば間違いなくR18へまっしぐらになってしまう。

 正直みなみをめちゃくちゃにしたい気持ちはあるが、アクアは頑張っていた。

 だから身体に当たる素晴らしく柔らかい感触だとか、さっきから絶対にわざと首や鎖骨に押し当てられてくる可愛い唇の形だとか。最近出先で買いがちな焼き菓子のような甘い香りを楽しむくらいは許して欲しい。彼はそう思っていた。

 

 一方のみなみは、アクアからの返事を待っている状態だ。だからこそ、その時がくるまでは彼を支える女でありたい。そう思っていた。少なくとも自分の幸せに恐怖するような複雑な人だ。ゆっくりと彼の傷を癒したいと考える以上、みなみもまた、焦ることはしたくなかったのだが……。

 恋する乙女が告白まで済ませ、相手から反応も悪くなく。今こうして抱きしめられている。舞い上がらない筈がなかった。

 なんならこの女、アクアのアクアマリンが凄いことになっていても、嫌悪感を抱くどころか「お兄さん、ウチで興奮してくれとる……!」と、喜んじゃうタイプだった。

 はっきり言うと、時々思わせぶりな事を言うのも最近はわざとだった。触ってほしいし、向こうに予約もして欲しい。だが、彼女はこれ以上自分から行くのは耐えていた。

 理由はアクアの決意を尊重したいから。映画を経て色々乗り越えた彼ならば、きっと先に進む勇気を持ってくれる。そう信じているからだ。

 正直アクアにめちゃくちゃにされたい気持ちはあるが、みなみは彼の為に我慢していた。

 だから、身体を包む彼のたくましさや爽やかな花みたいな匂いにクラクラしちゃうのも。頬ずりするフリで首や鎖骨に唇を掠めるのも……見逃して欲しかった。

 

「寿、重くないか?」

「ん、平気やで〜」

 

 因みに今は、アクアがみなみに覆いかぶさるような形でハグしていた。最初は横向きだったのが、みなみが引っ張る形でこうなったのである。

 じゃれつくように優しく抱き合う二人。密着感は普通より多め。身をよじれば衣擦れの音と一緒にベッドのスプリングがギシリと軋み……それが二人の心臓の鼓動を少しだけ早めていた。

 

「寿……」

「……ん、お兄さん……耳、アカンよぉ……」

 

 特に意味はなく、ただ呼びたくて口にした言葉が、みなみの身体を震わせる。ぴったりと重なりあったまま、そのもどかしい痺れに酔いしれる。

 

「ゴメンな。潰しちゃいそうで、大丈夫か時々声かけたくなるんだよ」

「心配しすぎやで。お兄さんくらいの重みは……それがいい、ねん」

「そういうもんか?」

「ん。寧ろウチ、上からお兄さんにのしかかられるの……結構好き」

「…………」

 

 寿ィ! とアクアは内心で叫びたかった。それを知ってか知らずか、みなみは無意識の誘惑を重ねていく。

 

「なんかお兄さんに組み敷かれて、イケナイことしてるみたいで……力抜けちゃうねん」

「……寿。あのな」

 

 少しだけわざと言っている気配を感じたのか、アクアの目が変わる。

 静かに回した腕を一気に引き寄せて、いっそ締めあげんばかりに、アクアはみなみをキツく抱きしめた。

 

「――っか、はっ!? お、お兄さん!? どうし……」

「……悪い子だな。寿……」

「ひゃあぁ!?」

 

 みなみの耳元でアクアが低い声で囁く。ただでさえ好きと公言した上からのしかかられた状態で、お互いが好きな強めのハグ。そこへ耳への色っぽい声(みなみ談)。

 対戦式のゲームならば、一撃でノックアウトされかねない事態がみなみを襲っていた。

 

「あまり……そそらせないでくれ……」

「そ、そんなこと……!」

「本当に? わざとやっていないって……言えるか?」

「それ、は…… っ、で、でもお兄さんだって! ウチの耳元でぇ……!」

「そうだな。食べちゃいたいくらい可愛い耳だ」

「た、食べっ……んっ、お兄さ、っ、そんなに強くダメッ、……アカンて……ダメェ……」

 

 大好物な激しめのハグ。甘やかすような声とは裏腹な行動に、みなみはもう脳や身体をトロトロに蕩けさせられて、色々と大変なことになる。

 だが、そこでアクアが優しく力を抜き、みなみは解放された。体勢が入れ代わり、みなみは短く息を切らしながら、アクアの胸に身体を預ける形になる。

 

「悪い悪い。いじめすぎたな」

「…………いけずや。うちのこと弄んだん? 可愛い耳ってのも嘘やったの?」

「いや、可愛いは本当だ。食べちゃいたい……は違うけどな」

「むむぅ……」

 

 本当は耳どころか全部と言いたいが、それを今言わないのが星野アクアである。ついでに、食べちゃいたいを否定して女の子をやきもきさせるテクニック(?)は……無意識に行っていた。

 だからスケコマシと多方面から言われるのだが……それに彼は気づいてなかった。そして――。

 

「食べちゃったら、大変だろう? 耳だけじゃすまなくなるぞ」

「――っ!? もぉお〜……!」

 

 トドメは容赦なく刺すのもまた、星野アクアであった。その直後、みなみの拳がペチペチとアクアの胸を軽めに叩き続けるが、アクアはやりきったとばかりにみなみの髪を手で優しく梳いていく。

 ……実際、あの体勢は理性が一番ヤバいわ、みなみの反応が妙にエッチだわで大変だったのは事実であり、早急に切り上げたかったからこその大胆な行動だったのであるが……それはアクアだけの秘密である。

 

「お兄さん、ぎゅ〜しよ?」

 

 息を整えたみなみが再び甘えてきて、アクアはそれを受け入れる。この時間が好きになってしまった自分にはまだ少しだけ戸惑いがあるけれど、これもまた幸せを受け入れる為の予行演習と考えよう。あと、普通にふわふわ柔らかくて最高……。

 

「ねぇ、お兄さん」

 

 なんやかんやで頭が悪いことを、その時星野アクアは考えていた。故に。

 

「この、耳たぶのとこ……噛み傷やん? どないしたの? ……誰がつけたん?」

 

 そこにあった、出来ればみなみに気づかないで欲しかったものを、完全に忘れていた。

 

 ※

 

 あっ、まずいこと聞いてもうたかな?

 抱きついていたアクアの身体が露骨に強張ったのを感じて、みなみは少しだけ後悔する。

 表情を伺おうとしてもアクアに抱きすくめられたままなのでそれも難しい。ただ、純粋に気になっただけなのだが……少しだけ声が強張ってしまったかもしれない。

 

「(……嘘やな。めっちゃ気になる。それは間違いないねん)」

 

 だが、現状アクアとみなみは男女の関係にない。だからアクアが他の女性に……女性の、筈だ。耳を噛まれようとも、それを咎める権利などない。ないのだが……。

 

「(あっ、これ……お兄さんめちゃくちゃ困っとる)」

 

 何となく、痛みに耐える獣のような息遣いを感じた時、みなみはそう察した。

 どうにかして、話題を変えようと思うが、もう遅い。

 言葉にしてしまった以上、もうアクアも答えざるをえない訳で……。

 

「その、これは……不可抗力。いや、悪いのは俺なんだけど、……その……」

 

 まるで浮気を咎められた亭主……いや、この場合、テストを隠していた子どものような反応に、みなみは内心で吹き出しそうになりながら、静かにアクアの答えを待つ。

 だが、しどろもどろになっていたアクアは、やがて途方にくれたかのように「ふぐぅ……」と息を詰まらせたまま、固まってしまっていた。

 

「……お兄さん、ゴメンなぁ、問い詰めるような口調になってもうて。……言いたくないんやったら、言わんでええからな?」

 

 ひとまず助け舟を出す。気にしてない。そう伝える為に彼の耳たぶにそっと指を当てて、フニフニとまさぐって見せた。

 痛いの痛いの飛んでけ〜。何て冗談交じりに呟いて。それでも気まずそうにしていたので、顔を寄せて唇をそこに当てる。

 本当に触れるだけ。だが、それが琴線に至ったのか、アクアはやがてポツリポツリと迷いながら話し始めた。

 

「すまない。その……言いたくないのは本音だから否定できないが……、やましいことはしていないというか……悪いことはしたが……その……」

「む、無理せんでええよ?」

「いや、ちゃんと言うべきなんだ。何があったかを。これもまた俺の罪で……」

「ま、待てや。そんな重くとらえることあらへんやろ!」

「でも……俺は……」

「……よし。お兄さん、ウチのおっぱい、いる?」

「ああ、欲し……んんっ!? いや、待て! 何でそうなる!?」

 

 もう見ていて可哀想になるくらいに萎々になっているアクアを見かねて、みなみは更なる助け舟を出す。

 言いにくいならば、取り敢えず癒やしてあげればいいのでは? 何て雑な思考回路だが、この場面ではこの上なく効果は覿面な提案だった。

 

「だ、駄目だ。これに甘えてそこに顔を埋めて懺悔までしたら……俺はいよいよ戻れなく……」

「ウチ今、制服やで?」

「…………っ」

「ボタンも……あ。えへへ……お兄さんとモゾモゾしてたら、一個外れてもうたなぁ……」

「……今すぐつけ……待て。ちょっと待て! 外すな! そこまで外したら……!」

「上二つ外すのは、この間パジャマでやったやろ。今日は……真ん中二つやけど」

「寿ィ……!」

 

 頭を抱えるアクアを見ながら、みなみは少しだけアクアから離れ、横向きで両手を広げた。おいでおいで〜と受け入れるようなポーズ。勿論わざとである。

 でも、これくらいはいいだろう。暗くなりかけていたアクアが、この他愛ないやり取りで、少しだけ元気を取り戻しつつあるのだ。

 ならもっと元気になってもらわねば。……下心半分。本心も半分だった。

 

「……今、ナイトブラやないから……いつもより柔らかいかも……」

「いや、だから……」

「…………」

「…………」

「……ね、お兄さん。ムギュッてしてあげたいねん。……来て?」

 

 数秒後。「ふよん」という音が立ちそうなくらいにみなみの乳房が形を変えて、アクアを受け入れた。

 愛しい彼を優しく包み込む事に本能的な幸福感を覚えながら、みなみはアクアの背中を撫でながら、はちみつ色の髪に頬ずりし、内緒で唇を頭頂に触れ合わせる。

 

「何があったん?」

「……もうダメだ。ダメ人間になりそうだ……」

「ええやん、ウチの前でくらい。ほな深呼吸しよな〜」

「――っ!? いや、それこそもっとダメにな……」

「はい、お兄さん。吸ってぇ〜?」

「――……スゥ~」

 

 この後、アクアはめちゃくちゃ深呼吸して。洗いざらい吐かされて。なんやかんやでぐっすり眠ったという。

 因みに……。

 

「お兄さん、ウチもお兄さんの耳……一回だけハムッてしてみてもええ? 歯は立てへんから」

「待て。落ちつけ寿。まだ慌てる時間じゃない」

「…………上書き、したいねん。何となく」

「……いや、その」

「ウチの耳にもしてええから……ダメ?」

「あ〜。えっと……」

「……それとも、耳以外の方がええの? お兄さんなら、何処でも……」

「寿ィ! 頼むから少し止まれ! 大胆になりすぎなんだよ昨日から!」

 

 一眠りして、起きた後もべったりくっついたままな二人の間で、そんなやり取りがあったとかなかったとか。

 最終的にどうなったかは……神のみぞ知る。

 ただ、何かに耐えるかのようにくぐもったアクアの呻き声と。みなみの可愛らしい小さな悲鳴が交互に上がったという事実だけ……今はお伝えしておくことにする。

 結局二人の身体が完全に離れたのは、部屋を後にする直前だったという。

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