最近出来た推しカプの何処がいいか?
そう聞かれたならば、軽く二時間以上はその良さを語れると、不知火フリルは答えるだろう。
星野アクアと寿みなみ。まず単純に顔とスタイルがいい。結局外見かと侮るなかれ。目の保養になるとはそれ即ち、いい見た目であることが最重要案件なのである。
みなみは言うまでもなく、ミドジャンを始めとするいくつもの雑誌にて表紙を飾っていることから、そのビジュアルの良さは折り紙付きだ。
現役高校生のグラビアモデルは水着だけではなく、ファッション誌などでもそのワガママボディの威力を存分に爆発させている。この間も、とある女性誌のグラビアに出ていたが、そのドレス姿は素晴らしかった。
フリルは密かにマネージャーさんを通して、いつぞやのカフェで見たことがある写真ではあったけど、いざ雑誌の表紙になってみると、無意識に親指を立てていたのは記憶に新しい。
あと、やはりあの構図が神と思っている同志はわりといたんだということは、SNSで確認済みだ。
寿みなみは、おっぱいだけじゃない。何なら全身えちえち……いかん。取り乱した。とにかく。あの写真を撮ったカメラマンに、フリルは拍手を送りたかった。
他、別ページの前や横から見た写真も良かった。何というか、待ってましたというべきか。フルーツの装飾たっぷりなドレスだが、一番美味しそうな二つの果実の破壊力が凄かった。もぎもぎフルーツしたくなった紳士淑女は、フリルを含めてたくさん現れたに違いない。
可愛いのにえちえちを隠しきれないとは、寿みなみはとんでもない奴である。
えちえちといえば、星野アクアだ。最近彼もグラビアを飾っていて、ルビーとみなみの三人によるグループラインにて、その画像が流れてきて……フリルは思わず、「ワオ」と、コメントしてしまったものだ。
何せその雑誌に載せられたアクアはバスローブ姿だったのだから。
……大事な事だからもう一度言うが、バスローブ姿である。
コンビニダッシュして見つからず、そのまま書店までランニングしたのは言うまでもなかった。
目に良いくせに運動までさせてくれるとは、罪な男である。あと、線が細いと思っていたら、意外とがっしりしているのが分かり、興奮する女性ファンが、これまたSNSにて続出していた。……一部に男性が混じっていた気もしたが、それもまたいいねとフリルは笑顔になった。
あと、何でアクアくんはSNSやらないの! と怒りをあらわにしている同志がいたことも朗報だった。また次に会ったら、催促してみることにしよう。
因みにアクアとみなみ、二人の雑誌を並べて飲むミルクティーは格別だったと報告しておく。大人だったら何らかのお酒にするのかもしれないが、そこは将来の楽しみとした。
この二人が先日学校をサボり、ベッドで身体を重ね合わせてたのか……(一部語弊あり)と考えると、滾り過ぎて狼になりそうだった。遠吠えしたい。
尚、その後のラインにて、みなみは既に買っていたという事実が明るみに出て、もっと汚い雄叫びを上げてしまったのは……フリルだけの秘密である。
「(あー、軽率に私の前で抱きあってくれないかなぁ、あの二人。供給プリーズ。どこまでいったの? 意外にまだプラトニックな気もするんだよねぇ…………さて。現実逃避はこれぐらいにして。……どうしようかなぁ? コレ)」
不知火フリルは内心焦っていた。
ヤバいな。ちょっとやり過ぎたかも。そんな一言を口にしてしまいそうだった。
なんてことはない。少しだけからかうつもりだったし、そもそも十秒足らずで「まぁ、ベッドで赤ちゃん抱っこしてるシーンって意味だけどね〜」と、おちゃらけるつもりだったのである。
言葉をつまらせて、現在真実を言うに言えなくなっているのは、ひとえにあかねが見せた迫力にフリルがドン引き……もとい気圧されかけたからである。
「(恋する乙女は無敵……っていうけど、う〜ん。迫力あったなぁ)」
現在、いくつものお題を出し、フリルは適当に(勿論ちゃんと充分なクオリティは維持してる)。ルビーとあかねは怖いくらい真剣に演技をこなしていた。
あかねは当然として、目を見張るべきものはルビーだ。課題をこなしていく度に、ドンドン精度が上がっていき、その上達スピードを持ってあかねに食い下がっている。
元々存在感が凄い子ではあった。そんな評価を踏まえた上で光るものがあるというべきか、持ってるなぁ。と、フリルは思わずにはいられなかった。
「(……ルビーにアイをやって欲しい。これは私の気持ち。だから何処かでまぁ、黒川さんに引いてもらえたら嬉しいけど……ムズそうだ)」
最近自分は余計なことばかりしちゃってる気がするなぁ。としみじみ感じる。もっとも、改める気は微塵もないのが、不知火フリルという少女ではあるのだが。
悪気はないし、人生は楽しんだもん勝ちだとフリルは考えている。多分あかねには嫌われてしまうかもしれないが、そこは何とか……そう、国民的な愛されキャラになってどうにかすることにしよう。
「(問題はタイミングだよね。どうにかして黒川さんの精細さを削ぐ。……となればまぁ……よし)」
嫌な奴と思われても……自分で撒いてしまった種だし、自分で摘もう。見た所、ただベッドシーンに釣られたというだけでは無さそうだし。フリルはそう結論付け、密かに深呼吸を入れて気合いを入れる。
「(……うん、でも寧ろちょっと楽しみになってきたな。どんな反応するんだろ? ドッキリの仕掛け人になった気分。今度マネージャーにそんな仕事ないか打診してみようかな」
尚、それはそれとして、彼女は誰よりも自由で、マイペースではあるのだけど。
※
「(気まずい……なんてレベルじゃないよぉ……!)」
黒川あかねは、内心泣きそうだった。
つい取り乱してフリルの個人間オーディションに乗ったまではいい。
演技をぶつけ合い、星野アイ役を決めるものだったというのが判明したのも、予定調和だった。
アイの役について、ルビーがより情熱を燃やすのもまた、わかりきっていた。自分が同じ立場なら、例えば先輩である姫川が相手だったとしても、自分は挑んでいただろう。
ただ……。
「(罪悪感が……凄い。仮にも一度は妹と呼んだ関係。母親を亡くして、恩師の死体まで見ている子から、母親役を自分の方が理解してる何て言えるほど、メンタル太くないのに……! その兄とのベッドシーンにホイホイ釣られた役者の面汚し! 譲りたい……冷静になればなるほどに、さっきまでの私、ちょっと取り乱してた……! なのに!)」
こんなメンタルでは、普段のあかねならば間違いなく精細さを欠いていただろう。だが悲しいかな。好きな人とのベッドシーンがつい頭にチラついて、気がつくと本気を出して、終わった後に顔に出さずにヘコむ。という酷い負の連鎖が発生していた。
「(分かってるの。あの時の幸せは戻って来ないんだって、本当は分かってるけど……嘘でもアクアくんに、抱きしめて貰えるかもって……邪な気持ちが芽生えて……ダメなの)」
故にあかねは願っていた。ルビーちゃん、どうか私を超えて……!
――完全に優しい魔王みたいな言い草である。何なら涙目で頑張るルビーの姿が更にあかねの心を痛めつけていたりするのだが……。それに気づくものは、この場にはいなかった。
「もう、一回……! あかねちゃん、フリルちゃん! もう一回……!」
「……頑張るね。ルビーちゃん」
「今、頑張らないと、絶対後悔するから……! ママの意志を伝えるのは、私、だもん……私であるべきだ! お兄ちゃんもその為に、今もゲロまみれで足掻いてるんだから……!」
「(……ゲロ、まみれ? ……泥の間違い? 泥臭くって言いたいの、かな?)」
「(イケメンってゲロ吐いても栄えるって本当なのかな? ちょっと見たいかも。……てか、何故にゲロ? アクアさん、演技一つにそこまで自分を追い詰めてるの?)」
不思議な誤解や勘違いが重なる中で、個人間オーディションは既に三時間以上が経過していた。
疲れこそ誰一人見せないが、いよいよもって場は迷走もとい堂々巡りに入りつつある。
「よし、今だね。二人とも。ちょっと長丁場になったから、ここで珍しいというか、息抜きの演技でもしてみない?」
フリルの提案にあかねは眉を潜めた。何か企んでいる? また場を引っ掻き回すことでも言う気だろうか?
キョトンとして首を可愛らしく傾げるルビーの横で、あかねは警戒を強める。快楽主義に見えて、意味のないことをフリルはあまりしない。あかねはそう分析していた。だからこの提案もまた、何か思惑が……。
「という訳で次のお題は――何かに癒やされるアクアさんね」
「……フリルさん、疲れてる? 頭がおかしくなったの?」
「真面目だよ〜。共通の知人を共通のお題で演じる。面白くて、でも難しいと思わない?」
「そ、それは……」
「わかった! やろう!」
「ルビーちゃん!?」
驚愕するあかねをよそにルビーはやる気だった。あかねが見せた僅かな動揺。長年見てきた兄がお題。畳み掛けるなら今だと、彼女の中で何かが叫んでいるが故の行動だった。
「じゃあ、一番! 不知火フリル。おっぱ……人を駄目にする柔らかさに屈するアクアさん、やるよ」
いつの間にか、部屋の片隅からクッションを引っ張ってきたフリルは、表情と全身の弛緩具合で癒やされを演じてみせた。ただ、骨抜きになっているという事実は合格なのだが、アクア本人には見えず。そこが減点対象となった。
ちょっと前にニュースで話題になった馬と枕メーカーのCMに引っ張られたのがいけなかったね。と、フリルはわざとらしく舌を出した。
「まぁ、お兄ちゃんがみなみのおっぱ……じゃなくて、柔らか〜いもので癒やされてるのは間違いないんだけど、ちょっと分かりにくかったね」
真面目に評価するルビー。この時点であかねは、「あっ、気づいてないのこの子だけだ」と察した。
そもそもアクアの演技というのが、親密さが三者三様であるこの場において評価がブレる曖昧な題材であり、精巧な審査など出来るものではない。
つまるところ、これは息抜きを隠れ蓑にし、あかねに標的を絞った精神攻撃なのだ。
タチ悪すぎない? フリルさん! と、あかねは切実に叫びたかった。
そして……。
「じゃあ、二番、星野ルビー! 書店でみなみ……コホン! 最近推し始めたグラドルが載った雑誌を見つけたお兄ちゃんをやるよ!」
無意識の攻撃こそ、とんでもない威力を出すのだとあかねは知ることになる。
題材と、本人が宣言したシチュエーションは最悪な極みだったのに……彼女の演技は完璧だった。
ふとした表情と仕草。妹というだけあって、本当にそこにアクアがいるようだった。何より……書店。
それは、いつかにあかねとのデートで行った場所。後に知ることになった、そこでみなみがグラビアを飾るミドジャンを探すアクアの姿を嫌でもあかねに思い出させて……。
癒やされた表情のアクアを見たあかねは、思わず頬をぷくーっ。と膨らませてしまう。
「おっほ」とフリルが変な声を上げているのが聞こえたが、今はどうでも良かった。
「え、見た光景だったりする?」
「うん。実はつい昨日に、一緒に本屋行ったんだ〜。大きい本屋で、中で一時的に別行動してたの。だからお兄ちゃんは密かに雑誌買ったの、私にバレてないと思ってるんだよ〜」
「何なの? アクアさん萌えキャラ目指してるの?」
「ね〜。兄が同級生グラドルに夢中なのは妹として複雑だけど、みなみを見つけた時の顔は不覚にも可愛いって思っちゃった。ズルい奴だよね〜」
「Oh……Yes」
買ったんだ。また買ったんだ。そんなに……そんなに君の心を占めるものなの? そりゃあ隙間なく埋めれそうなくらいおっきいけども!
ズルい。ズルいよ。そんなリラックスした。誰かの活躍を素直に喜ぶ顔なんて、見せてくれたことなかったのに……!
あかねは密かに激怒した。必ずや、あの鈍感スケコマシなおっぱい星人のほっぺを、ビリビリ引っ張ってやろうと決意した。
その怒りは八つ当たりの如く。あかねは自分のお題を口にして……。
「三番、黒川あかね。焼き菓子の匂いについ振り向いちゃうアクアくんをやる、よ……」
結果、盛大に自爆した。
ルビーと同じく、再現は完璧だった。ただ、シチュエーションがデートしていた他の女性の前でやらかした挙げ句、しまった! という顔をするアクアまでやってしまい……。
「すっごい生で見たい現場だけど……あの、癒やされてなくない?」
「あかねちゃん、迷惑かけてゴメンね。お兄ちゃんは今度足ツボマットの上に正座させとくから」
という何とも言えないコメントと共に、あかねは今回のお題にて初の最下位を経験した。
流石に落ち込んだ。すると……。
「それと黒川さん。言うに言えなかったから、今言うんだけど……ベッドシーンね。アレ嘘なんだ」
あかねは再び激怒した。何だこの国民的小娘! チョップしてやろうか! そう叫びそうになりながら、あかねはプルプル震えつつ、涙目でまた頬を膨らます。
「なんで?」
「えっ、と……」
「な・ん・で?」
「……ごめんなさい、冗談だったんです。あの、共演NGにされても文句は言えないけど……ゆ、許して?」
「あっ、そう」
共演NG、ねぇ……。そう静かに呟きながら、あかねはにっこりと笑みを見せる。
「やれるもんならやってみてよ、不知火フリル……!」
絶対してやるもんか! 寧ろ積極的に共演しろ! 喰い尽くしてやるんだから!
何が起きているのかわからずオロオロするルビーをよそに、ポカポカパンチをフリルにかましながら、あかねは静かに肩の荷を降ろした。
最終的に、身内に絞った演技ならば素晴らしいものを魅せてくれたという名目で個人間オーディションはルビーの通過で全員が合意する。という形で終演したのであった。
※
「取り敢えずね。オーディションに大人を挟む理由がよくわかったよ! 本当に!」
『そりゃそうでしょうよ。じゃなきゃなあなあになって、馬鹿みたいに時間がかかるに決まってるもの。……まぁ、たまに出来レースがあるからやってらんないけどね〜』
「……地味にトラウマ穿り返すのやめてくれない?」
帰宅後、あかねは最近よく話す相手……有馬かなと電話にて情報交換をしていた。
アクアが映画を撮ること。そして多分……俳優として立ち上ろうとしているのかもしれないこと。それを聞いたかなは、電話先でも嬉しそうな声色をしていた。素直に可愛らしくて、あかねはため息が出そうになると共に、ライバルの強大さにムムッと顔をしかめた。
もっとも、寿みなみの雑誌をアクアが購入したことを暴露した時は、その可愛らしさを投げ捨てていてちょっと面白かったけれども。
『あの淫乱ピンク巨乳ママドルめ……てか何よこのドレス……! フルーツならメロン入れなさいよ! ああ、しまった。ニ個ついてたわ! 最高級品のデッカイのがねぇ! ケッ!』
はしたないよかなちゃん。とは言わなかった。こうしてかなが一緒にアクアに怒るのが、少しだけ楽しく思えてしまってる自分も確かに存在していたのだから。
アクアに負けないくらいかなが好き。は、紛うことなく本心だったのだ。
「でも、ちょっと心配だな」
『何がよ』
「アクアくん。大丈夫なのかなって。だってアイを語る映画なら……東京ブレイドの比じゃないくらい、アクアくんのトラウマが刺激されそうで……」
『……ねぇ、今気づいたんだけど、あの時倒れたのって、そういうこと? 考えてみたら、鞘姫のシーンとか、アイツ……』
「うん。だから……気になるの。主演は譲るけど、何かしらの役は貰えるように立ち回りたいなって。アクアくん、どうやって乗り越えるのかわからないけど……協力、したいし」
あと、アクアくんの企画ならかなちゃんも関わると思うから、かなちゃんも気にしてあげて。
あかねはそう伝えながら、部屋の窓から外を見る。
ルビーが言っていたことを思い出す。ゲロまみれ。というのも、案外本当のことかもしれない。
だったら……。
「相談とか来たら……今度はちゃんと支えてあげたいの」
『……そ。まぁ、頑張りなさい。相談が来たら……だけどね』
「……どういう意味?」
ムムッと、またあかねの顔が険しくなる。すると、そんな様子を見透かしたように、電話口の向こうでかながせせら笑うのが聞こえた。
『今までのパターンを思い出してみなさいよ。そういう時にアイツが相談に来たこと……ある?』
あかねは数十秒考えて。ショボンと肩を落とした。
「……ないなぁ」
悲しいくらいに、その予感は的中しそう。
少なくとも、この時点であかねやかなはそう思っていた。
※
都内の某所にて、二人は対峙していた。
どことなく浮き世離れした雰囲気を身に纏う二人だった。片や見た目華やかな、金髪の男。もう片方は眼鏡をかけた、立ち振る舞いが妙に洗練されている青年。
星野アクアと姫川大輝。
父親を同じくする異母兄弟は……真剣な顔で向き合っていた。
「で、何だったか。この店の女の子の連絡先だったか?」
「そうじゃねぇよ。茶化すな。……相談したい、ことがあるんだ」
聞いてくれるだろ? 兄さん?
と、アクアがわざとらしく言えば、姫川はぐぇえ……と吐き気をこらえるようなリアクションをしながらも、少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべた。
「いいぜ。ただ、兄さん呼びはもう止めろ。きしょいから」