最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

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父を訪ねて三千ミリ〜有馬かな&MEMちょ編〜

 姫川大輝との食事からしばらく経ち、監督の五反田泰志による脚本は、最終稿が提出された。

 あらゆる立場の人間がチェック及び承認し、キャスティングと撮影スケジュールも確定。

 かくして、映画『15年の嘘』は本格的に制作が始動した。

 尚、配役は一部入れ替わったものもある。

 たとえばアイ役に星野ルビー。旧B小町のメンバーは有馬かな。MEMちょに加えて、黒川あかねが入ることになった。

 他のキャストは想定どおり。 

 後は……諸々が抱える問題やしがらみを乗り越えたり。あるいは折り合いをつけるのみだった。

 例えば星野アクアならば、役者として生きる為の試練があり、その中で避けては通れないものがある。

 他ならぬカミキヒカルについてだ。

 それは自分自身だけで考察して完結するだけなく、共演する者達の……この映画の脚本を読んだ上での見解を知りたかった。

 故に……。

 

「有馬〜。恥を忍んで頼みたいんだが……役作りで相談あるから、飯行かね?」

「――――っ、行く!」

 

 苺プロの事務所に出勤時に捕捉した、一番頼りになる。もとい、多少雑に誘っても問題ない奴に声をかけた。

 そして……。

 

「MEM、そういうことだから、一緒に来て欲しい」

「…………うぇえ!?」

 

 そのまま流れるように、もう一人、一緒にいたB小町メンバー、MEMちょにも声をかける。

 当人は完全な不意打ちを食らったかのような顔をしているが、アクアとしては是か非でも彼女に来てほしかった。

 何故なら……。

 

「ちょ、私にだけじゃないの!?」

「いや、色々あって、これに関しては、出来るだけ多くの人に相談したいんだ」

「わ、私、演技についてアクたんの役に立てる気がしないんだけど……多くの人って言っても人選ミスってない?」

 

 MEMちょの表情から、かなちゃんも二人きりの方が嬉しいんじゃないかなぁ……? なんて空気も感じるが、それは無視する。

 ついでにかなも二人きりと勘違いしていたらしいので、そこも無視。こういうのは反論せず……押し切るのが吉なのである。

 

「ミスってないさ。内容は後から話すけど、こういう時にMEMは頼りになるのは間違いないからな。あと単純に二人ともアイドルだから……ルビーならともかく、同じ事務所とはいえ流石に一人一人と個別で行くのは……リスクが高い。ましてや有馬はこの間引退のお知らせしたばかりだろ」

「くっ……反論しにくいことを……!」

「まぁまぁ、かなちゃんは後で相談料的な感じでまたお食事誘うとか? ……その、後ほどに」

 

 そこで改めてかなの引退を思い出したのか、MEMちょが少しだけ淋しげな顔をしていたのが印象的だった。

 だからだろうか。アクアは今日……取り敢えず肉を奢ることに……。

 

「そうね。名案だわ。けどそれなら、今日は事務所で食事にしましょう。リスク避けるならそれで一番でしょ? 下手したらコイツ、今日はご飯奢ったからそれが相談料って言いそうだわ」

「……別にそこまでみみっちくねぇよ。頼むなら頼むで、こっちが出すから、変なこと考えるなよ」

 

 チャラ理論を少しだけ考えたというのは……勿論内緒である。

 ともかく第一回となる相談会の場所は、苺プロ事務所と相成った。ランチはそれぞれの好きなものを頼み(かなはしっかりと、物凄く高い弁当を注文した)、給湯室で飲み物を用意した三人は、もはや馴染み深い事務所のソファーで向かい合う形で腰掛けた。台本は、自分のと、二人の参考用のコピーを二部持ち込んでいるので、それを必要かもしれないから。と伝えながら彼女達に渡す。

 因みにルビーは現在仕事中。ミヤコもまた、別件で外出している。

 出来れば二人とも話したかったが……。それはまた後日にすることにした。

 

「あ、アクたんだったんだ〜最近事務所にレモネード置いたの。たま~に無性に飲みたくなるんだよね〜」

「……一時期、睡眠や疲れにいいって聞いて買ったんだ。その名残だ」

「お〜結果は?」

「多少は、まぁ。気休めながら回復する。……そんな気がするだけかもだが」

 

 実際、メンタル的には少しだけ回復するのは事実だったりする。甘くも酸っぱい味と、身体全体に沁みる温かさには何度も助けられてもいた。……これで本当にぐっすり眠ることが出来たなら、一番よかったのだけれども。

 

「……ねぇ。アンタ、今も寿みなみの部屋に通ってるの?」

「……さて、相談したいことについてだが」

「露骨に話逸らしてんじゃないわよぉ!」

「かなちゃん、ステイ、ステイ! 落ちついて! 何かアイドルがしちゃいけない顔してるよぅ!」

 

 本当にMEMちょがいてくれてよかったとしみじみ思う。

 いつかの牛鍋屋のように延々と弄られ、罵倒され続けるのは御免だった。

 

「悪いな、実はこの後に、メルトとも同じ内容で約束があるんだ。だからあんま関係ない話は……時間が余ったらな」

「ハッ、内容が終わったら終わったで、約束があるからって切り上げるつもりでしょうが。そうは行かないわ。メルトとの約束の時間も教えなさい」

「……14時半」

「私もメルトの連絡先、知ってるけど?」

「……チッ、16時半だ」

「2時間もサバ読んでんじゃないわよぉ! まぁ、そこは本当そうね。この倍くらいだったら流石に怒ってたわ」

「ごふぅ!」

 

 三倍。サバ読み。という単語が、特に理由のない言葉の暴力と化してMEMちょを襲っていたが、そこは二人ともスルーした。

 

「台本は……二人とも届いてるよな? 読んだか?」

「う、うん! 届いたし、その日に一応、一気読みしたよ! 映画出演は初めてだから、結構緊張してる〜」

「読んだわ。当然でしょ。…………ああ、役作りで相談って、そういうこと」

 

 仕事に真摯で真面目な二人らしい反応にアクアは一先ず胸を撫で下ろす。

 

「見たなら分かるだろうが……この話はアイの……俺やルビーの母親のドキュメンタリーだ。彼女がいかにしてアイドルに至ったか。いかにして……殺されて。その裏で何があったのか……それを明らかにしながらも、彼女が目指したもの。欲したものが何だったのかを伝える……そういうものだ」

 

 語るまでもなくアクアの本来あった目的が消失した為、当初に想定していた内容からはだいぶ改変されているのだが……それは一先ず伏せておく。

 MEMちょはあっ、そんな感じなんだね〜といった顔で。かなはアクアの方を黙って見つめていた。

 

「で、ご存知の通り俺は犯人役だ。これは、同時に、俺達の父親を演じるってことになる。色々と複雑ではあるんだが……同時に周りから見たらこの犯人役がどう映るのか。それが気になってな。出来れば率直な意見を聞かせて欲しい」

 

 難しく考える必要はない。一言でもいい。

 アクアがそう締めくくると、かなとMEMちょは顔を見合わせる。

 その後、MEMちょは言葉を探しているのか「う〜ん」と首を捻りながら必死に考え込み始めた。

 一方かなは……。

 

「私は……正直この父親に共感出来るものが何もなかったわ。サイコパスがたまたまアイと一時的な恋……そんなロマンチックなやつじゃないか。……ごめん、あーくんには嫌な言い方になるけど、一夜を共にして、ラッキーくらいにしか思ってなかったんじゃないか。そんな感想しか抱けなかった」

 

 バツが悪そうにかなはそう言い放つ。アクアは小さく頷いた。実際にその可能性もあり得る線ではあるからだ。

 

「というか……そんなことに目を向けるより、少し心配にもなったわ。アンタも、ルビーも……その、大丈夫なの? これ……私がアンタ達の立場だったら……この役をやるなら、極限まで追い詰めて欲しい。そう思うんだと思う。犯人役に共感は出来なくても……アンタ達二人については、思うこといっぱいあるから……でも」

 

 言葉を詰まらせるかな。実話を元にしたドキュメンタリーということは、彼女は自分やルビーの過去をほぼ正確に把握したということだろう。

 その上で、彼女はこちらを気遣いつつも、役を演じることを止めるのも違うと思ってくれている。

 面倒見がよくて、優しい奴なのだ。……ただ間が悪かったり、言葉選びがちょっとアレなだけで。

 

「……まぁ、苦戦はしてる。ルビーもな。けど……ちゃんと乗り越えるって約束したから」

「アクたんが約束? ……誰に?」

 

 MEMちょが少しだけハラハラした様子で問いかけてくる。多分自分とかなの微妙な空気を察知したのだろう。

 だからアクアははっきりと、ここで二人にも宣言しなくてはいけなかった。

 

「勿論、ルビーとか……。他ならぬ、俺自身の魂に」

 

 かつては演じることは復讐だった。けど今は違うから。

 そうアクアは締めくくり……。

 

「前にも言ったけど、やっぱアンタさぁ……中二病? まだ卒業出来てなかったの? その、生い立ちよりそっちの方が痛々しいわ。心配だわ」

「……さっき心配してくれてありがとう、有馬。って言いかけた俺の純情を返しやがれ」

「え〜っ? 純情? 誰が? 見えないわ〜。私の目の前にはおっぱい星人しか………っ!? ね、ねぇ……これも遺伝じゃないわよね?」

「止めろ、姫川さんと似たような推測をするな」

「役者二人がこの結論……ねぇ、あかねには聞いたの? あの子もそんな結論に達したなら……これリーチどころか、ビンゴじゃない?」

「ハハッ、穴まみれだなぁ、お前の頭。当たらねぇビンゴシートみてぇだ」

「役者ならエンタメ性も大事でしょ? いい感じにリーチしまくり、最後にトリプルビンゴ。最高の褒め言葉を貰ったってことでいいかしら?」

「お前なんなの。レスバで世界取れんじゃねーの?」

 

 ガクリと肩を落としながら、アクアは笑う。

 大丈夫ではないが、大丈夫だと。とても情けない限りではあるが、今は足掻いているのだと。そう伝えるつもりが、自分の苦悩や葛藤が退けられて、気がつけば明るい気持ちにさせられている。

 太陽か何かかと思ったが、考えてみればそんな演技が持ち味の奴だった。

 

「(これだよな。……流石は有馬だよ)」

 

 結構な天才役者二人をして女たらし認定されそうなカミキヒカルを内心で指差して笑いながら、アクアは少しだけ心が軽くなるようだった。

 

「……MEMは、どうだろう? 本当に些細なことでもいいんだ」

 

 約束の下りで何故か青ざめたかと思えば、かなとのやり取りを「うんうん」と満足気に腕組みしながら頷いているMEMちょに目を向ける。

 するとMEMちょは頬を掻きながら困ったような顔になった。

 

「う〜ん。そうだなぁ。私もコイツ酷い奴だぁって思いながら……アクたんとルビー心配だなぁ。的な考えになっちゃうかも。ほら、私って……母子家庭だったから、なおさら……ね」

 

 その発言を聞いた瞬間に、アクアは顔に極力出さないようにしつつ、内心では頭を抱えていた。

 

「(俺は……大馬鹿者だっ……!)」

 

 今更ながら、アクアはMEMちょの生い立ちを思い出して……盛大に反省したという。

 

 ※

 

 ああ、そんな顔しないでぇ……。必死に隠してはいるが、明らかにやってしまった。という表情になったアクアに、MEMちょは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 そもそも自分は物心ついた時から父はおらず、どんな人物だったかも定かではない。母は一時期倒れたりはしたものの、今は元気に健在だ。

 こういうものは比べるものではないと分かってはいるけれど、アクアやルビーが置かれていた状況はもっと深刻なものに見える。

 だからここでこんな反応をしてくれる彼は、本当に優しいんだなぁと感じる。役の為とはいえ母の仇である男についての考察も進める辺り相当なものだ。

 普通ならば恨み一辺倒になってもおかしくない筈なのに。

 ……考えてみれば、かなをその優しさ(笑)で突き放していた前科もあるのだ。人は理屈じゃない。それを体現したような男こそ、星野アクアであった。

 

「(前に進む為……かぁ。なら喜んで協力してあげたいんだけど……私じゃ力にはなれないよねぇ)」

 

 演技について理解が深い訳では無い。バズらせのプロと自負しているが、残念ながらこの場で役に立つスキルではなさそうだ。

 

「父親としての自覚があったか……怪しいなぁって。結局一度も顔を合わせることなかったんだよね。台本の中にある人間性も、思考回路が特殊すぎて……全然想像つかない。ただ……」

 

 過去の自分をMEMちょは振り返る。日々が目まぐるしくて、いつしか考えた事はあっても、どうにもならないこととして棄て去った疑問を思い出した。

 私のお父さんは……私を……。

 

「この人はアクたんとルビーを、どう思っていたんだろう?

 それを私はどうしても考えちゃうな」

 

 少しだけ、アクアの目が見開かれるのをMEMちょは見た。

 ただでさえ大変そうなのに、考えることを増やしてゴメンとは思う。けど、最初にアイを殺す犯人役ならば……それもまた考えなければいけないこと。そう思うから。

 ただ……それでもMEMちょは期待してしまうのだ。かつてあかねを救うために奔走するアクアをこの場で一番近くで見てきたのは自分だから。

 B小町の初ライブの時然り、クールぶったこの男が内に実は熱いものを秘めているのを知っているから。

 きっと乗り越えられると、信じてる。これは多分……かなやあかね、ルビーも……きっと寿みなみも同じなのではないだろうか。

 

「……ありがとう、二人とも」

「……フン、まぁ感謝しなさいな。この貸しはデカいわよ」

「てか、アクたんから感謝の言葉とか、珍し過ぎない!? 明日は嵐かな!?」

 

 失礼だな。と笑うアクア。何というか、年上目線なのが自分でも悲しくなるが、最近はいい顔をするようになったと思う。

 願わくば、このままで。ただ、その場合、一体誰が彼にこんな顔をさせるようになったかが問題になってくるわけで……。

 

「あかねは……後で話すの? 誰かとセットで?」

「色々と考察は得意そうだから、出来れば最初に話したかったんだけど、予定が合うのが明日だったんだ」

「ちょい待てや! じゃあ何よ? あかねとは二人きりで話す気!?」

「……? アイドルじゃないから問題なくない?」

「ふんぐぅ……!」

「……何だよ」

「黙れスケコマシおっぱい星人が」

「理不尽すぎるなオイ」

 

 アクアとかなの微笑ましい(?)やり取りを眺めながら、MEMちょは何とも言えない味がある顔になった。

 あかねやかなを応援したい気持ちはある。あるのだが……それはそれとして、最近は二人ともガードが甘いというか……。

 これは勘なのだが、わりと今、物凄い勢いで追い込みをかけられているような気がするのだ。いや寧ろ……既に差し切られて何馬身も差を付けられている可能性がある。MEMちょはそう睨んでいた。

 

「(うん。よし。シリアス終わりぃ! 正直ね。あの、犯人役について協力したい気持ちもありますが、それ以上に気になることがありましてぇ!)」

 

 具体的には、アクアの約束について。ルビー“とか”……とかって何!? さり気なく流してたけど、ルビー以外にも約束した人がいるの?

 

「よし、時間余ったわね。さぁ教えなさい。アンタ寿みなみのとこに行ってるの?」

「……極力頼り過ぎないようにはしてるよ」

「犯人役より、そっちが深刻じゃないの? 寧ろそっち治しなさいよ」

「将来的にはそうするようにはしたいさ。ただ、今は時間と余裕がない」

「……ぐぐぅ……」

 

 凄い不満そう! 今だけアイドルの肩書捨てれないかな? って顔してる! したいんだね。アクたんに添い寝……そりゃしたいよねぇ……。

 MEMちょは複雑だった。

 

「てか、本格的に俳優になるなら、気をつけなさいよ? スキャンダルとかさぁ」

「大丈夫だ。基本時間差でマンションは出入りしてる」

「入口のインターフォンまでつけられたらヤバいでしょうが」

「流石にそこまで来るやつはいない。一応合鍵は受けとったから、変に聞き耳立てられはしないさ。でも、そうだな。入る時には気をつけるよ」

「…………ッ、スゥ〜」

「(かなちゃん顔! 顔がぁ……! てかアクたんもなんなの!? え、付き合ってる? もう差しでも追い込みでもなく、まさかの大逃げなの!?)」

 

 思っていた以上の進展具合にMEMちょは冷や汗をかく。

 取り敢えず、映画のキャストにみなみがいなかったことに、胸を撫で下ろしていた。これで万が一共演したら……よく分からないが、色々と大惨事が起きる気がしてならない。

 

「(あわわ……ダークホースどころか、主役級だったなんて……あかねぇ、かなちゃん……)」

 

 因みに、このダークホースが少し変則的な形で映画に関わってくる事になろうとは……MEMちょは勿論、この場にいた三人は知るよしもなかったのである。

 

 ※

 

 寿みなみは上機嫌だった。

 ついに始まった、マネージャーと事務所専属トレーナーが組んだ、厳しいカロリー管理とボディメイクスケジュール。

 過去一凄まじいそれに目の光を失いそうになったりもしたが、今日の彼女は輝いていた。

 理由は至って単純。今日は……アクアが泊まりにくる日だからだ。

 色んな我慢もしてるが、それと同時に自分を磨いている実感はある。だからこそ、それを見て触れて感じてもらえるのは嬉しいし、何よりもみなみ自身が充電を……アクアを欲していた。

 うまい具合に本来なら多少のストレスになりかねない現状をみなみはアクアとの逢瀬で上手にエネルギーに変えていたのである。

 密かに事情を知るマネージャーは、釈然としない顔ながらも、効果が覿面な様子を見て嬉しそうにもしていた。……それを塗りつぶすばかりに悔しげな顔で、こちらを見てもいるのだが。

「なんでやねん」と言えば『可愛い顔とそのえちえちボディから幸せオーラがダダ漏れなのよぉ! 来るんでしょ! アイツ今夜来るのね!』と騒いでいた。

 少し恥ずかしいが、笑って頷いたら、ハンカチを噛んでいた。ちょっと可愛いと思ったのは、みなみだけの秘密だ。

 ガチャリと、カードキーが回る音がする。マンションにもう着くとラインに連絡が来てから、チェーンロックは外していた。

 その瞬間、みなみは羽の如く軽やかな足取りで玄関へ向かう。アクアがちょうど後ろ手にドアの鍵を締めるのを視界に入れながら、みなみは彼のそばへかけよった。

 

「おかえりなさい。お兄さん」

「…………ああ、ただいま。寿」

 

 一時的な、羽休めの宿。それでもここが彼の帰る場所の一つになっていたらいいなと、このやり取りをするたびに思う。

 視線を合わせる。互いに欲するものはわかっていた。

 どちらからともなく身体を引き寄せ合い、二人は大好きな感触や匂いを共有する。

 

「お兄さん、明日は?」

「朝から、行かないと」

「んっ……ウチもや……お風呂沸かしといたで?」

「ああ、もう少ししたら、いただくよ」

「せやな。ウチも……もうちょっとだけ、ぎゅ~して欲しい……」

 

 ぐしぐしと胸板に顔をこすりつけながら、みなみはアクアに身体を委ねる。

 ……アクアは、気づいてくれるだろうか?

 

「少し痩せた……とは違うな? 何だろう、上手く言えないが悪い意味ではないんだけど」

「……えへへ、気づいてくれたの嬉しいんやけど、ちょっと恥ずかしいなぁ。ボディメイクの結果、少しずつ身体に出とるってことやねん」

「ああ、更に綺麗になったってことか」

 

 サラッと言うのが本当にズルいとみなみは思った。

 あと、離れたくない欲がドンドン出てきてもいる。今日は何してたん? とか、話したいことはいっぱいあるし、その一方でアクアを休ませてあげたくもある。ひたすらに時間が足りなかった。

 

「そろそろ風呂、いただくよ」

「ん。ええですよ〜」

「…………」

「…………」

「いや離せよ」

「お兄さんこそ」

 

 そんな事言われても、離れがたいんだから仕方がない。戯れているとも言うけれど。

 

「……もう少しだけな」

「せやな。そしたら離してな〜」

「(……ダメそうだ)」

「(あっ、これ結局くっついたままなやつや)」

 

 ただ、それが嫌な気もしないのが、この二人の恐ろしいところである。

 結局、そこから例によって激しいハグが始まって玄関の温度と湿度を上げたりしつつ。

 最終的に「じゃあ、一緒にお風呂……入る?」というみなみの殺し文句が決まり、勝敗は決したとだけ追記しておく。

 続く2ラウンド(プラトニック)がベッドの中で始まったりもしたのだが……。それはもう、二人だけの時間である。

 取り敢えず。甘くも激しい、熱帯夜だったらしい。

 

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