最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

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乳を求めて三千世界〜inオギャバブランド〜

 映画『十五年の嘘』が始動して、早くも半月。星野ルビーは大いに悩んでいた。

 アイ役をやるなら私だと主張こそしたが、自分は案外、母であるアイをほとんど知らないという事実に。

 だが、その悩み自体はそこまで深刻なものではなかった。知らないならば知ればいいの精神で、ルビーは五反田監督をはじめとした、アイを知る人物や、役者としての先達らに話を聞いて回ったのだ。

 今まで、知れる立場にいたのに知ろうとしなかったのは、夢が壊れる事を危惧していたからなのか。

 自分のことながら、分からない。それでも、母を訪ねる小さな冒険は楽しかった。

 顔色を悪くしながら、出会う人々に人たらしやらおっぱい星人と励まされる(?)兄ほどの刺激はないけれども。

 案外ママも悩んでいたんだなぁ。だとか、それはそれとしてやっぱり……絶対、ママって男運悪いよね? なんてことを考えながらも、ルビーは慣れない役作りに励んでいて……今、壁に直面していた。

 

「(母親に関する……感情……違う。理解が、上手くいかない!)」

 

 だって親って、心の奥底で子どもを愛するものでしょう? 

 ……それは、ある意味でルビーの願いに近いものだった。ただ、彼女自身は知る由もないのだが、少しだけ幸いだったのは、その考えをルビーが盲信していないことだった。

 兄であるアクアに倣った、アイに対する理解の探索。その為の大人や自分よりも人生経験を積んだ先達らとの対話は、親の在り方にも様々な形がある。……という知見を、ほんの僅かながら彼女にもたらしていた。

 復讐による視野狭窄もなく、アクアとの和解を経て多少柔軟になりつつあったルビーは、どことなく冷静に。子を愛さない親もいるのかもしれない。心の何処かで、そんな結論も出そうとしていた。

 

「(授業……これ集中無理だぁ……考えること多すぎぃ……)」

 

 時刻は朝の8時。クラスメイト達に挨拶しながら、ルビーは自分の席につく。学校への出席日数がギリギリなので、今日は登校しなければならない。まぁ、お昼の直前には例によって早退するのだけれど。

 連日のハードスケジュールは、彼女の体力と思考力をガリガリと削り取っていた。

 でも、倒れてはいられない。アクアもまた、連日の稽古で頑張っている。

 明らかに顔色を悪くしながら。フラつきながら頑張っていた。

 何故かそれを見た黒川あかねが両手を広げてアクアに迫り、アクアはぷるぷるしながらも必死に手を前に出し、「大丈夫だ。まだ大丈夫だから」と、彼女を制していたのが面白……もとい、印象的だったけれども。

 尚、その場に居合わせた有馬かなは、スリッパであかねの頭をパコーン! としばき倒し、それを見た不知火フリルは腹を抱えて笑い転げていた。

 そこから女優二人によるキャットファイト……もといレスバが始まりかけたので姫川大輝とメルトが二人の仲裁に入り、MEMちょは「ヴェロキラプトルだ……! ヴェロキラプトルとオーウェンがいた……!」というよく分からない反応を示していた。

 振り返ってみると、なんて素晴らしく、楽しい現場であろうか。五反田監督は天井を仰ぎながら現実逃避していたけども。

 

「(まぁ、でも……前よりは私もお稽古参加出来てるんだよね。スケジュールも何かユルく? なったし)」

 

 それもこれも、最近入ったアルバイター。もとい、斉藤元社長のおかげだろう。

 カミキヒカルがいないので、なんやかんやで斉藤も釣人から脱却せざるを得なくなり……。それについてアレコレ考えていた所で、とある店にて斉藤ミヤコと再会したのだという。

 ビンタにひっかき。マウントポジションからレバーに三発。そのまま金的が踏み抜かれそうになった所で必死に謝り、その場で土下座して許しを請うたらしい。

 ……まぁ、骨を折られなかっただけありがたく思うべきだとルビーは思う。

 色々なものが、いい方向へ進んでいる。ルビーはそう感じていた。ただ……。

 

「(駄目だ……疲れてる。これくらいママならこなしていたって思ったけど……疲れるものは疲れるもん)」

 

 切実に、ルビーは癒やしが欲しかった。すると……。

 

「ルビー、おはよ〜」

 

 間延びした、不思議と癒やされる声が耳に届く。視線を向けると、丁度寿みなみがルビーの隣の席に腰をおろそうとしていた。

 

「あっ、おはよ〜みなみ。ギリギリだったねぇ〜」

「えっ? あ、あはは……実は、二度寝してもうたねん。危なかったわぁ〜」

 

 ふわりと香るみなみの匂いの中に、覚えがあるものが混じっているのに気づく。爽やかな花に似たそれは……兄であるアクアのもの。多分ルビーにしか見抜けないものだった。

 

「(おお、昨夜はお楽しみ。……ギリギリまで、一緒に寝てたのかなぁ……? う〜ん。何と言いますか……)」

 

 ふわぁ……と、可愛らしい欠伸を漏らしながら、みなみはぐっと伸びをする。それだけで、身体のごく一部が……。たわわで素敵な二房の果実が、ぷるんと揺れる。

 クラスの男子はおろか、一部の女子すらそこに目が釘付けになっているのだが……当の本人は気づいてなさそうだった。

 

「……ズルい」

「へ?」

「ズルい。ズルい。私だってみなみのおっぱい枕で寝たいし、オギャりたいっ! 癒しと質がいい睡眠をプリーズ!」

「ル、ルビー?」

 

 な、何を言うてはるの!? とアタフタするみなみに、ルビーはずずいっと顔を近づけた。

 

「というわけで、みなみ。今夜は暇?」

「え、えっと……ジム行くくらいやなぁ。今日は負荷軽めで」

「……今更だけど、やっぱ努力してるんだねぇ」

「普段はここまでやらへんよ? 軽く気をつける程度やけど……今はちょっと、お仕事控えとるから」

 

 少しだけ恥ずかしそうに。だが、どことなく誇らしげにみなみはそう言った。

 最近ますます綺麗に……それから色っぽくなったなぁ。なんてルビーは内心で感嘆の声を上げる。

 理由は仕事だけではないと確信が持てるのが、嬉しくて……やっぱりまだ、ほんの僅かながら複雑だった。

 

「……何かあったん? ウチはルビーならいつでも大歓迎やで?」

「……正直に言うとね。死ぬほど疲れてる」

「あ~。ただでさえ普段忙しそうやのに、映画……主演やもんなぁ。お兄さんですら大変そうやったし。……いや、アレはまた別の理由もあるんやろうけど」

「うん。お兄ちゃんは今まさに修羅場だからね。色んな意味で。だからみなみには本当に感謝してる。してるんだけど……それはそれとして、私も癒やされたいの」

 

 ぐっとルビーが親指を立てると、みなみは「あはは……」と、困ったような笑みを浮かべる。

 そのままみなみは両肘を机に立てて、手のひらで両頬を支えながら、考えるような素振りを見せて……やがて、うん。と小さく頷いた。

 余談だが、その際に机の上にデン! と、爆弾低気圧が二個発生……もとい乗せられていたりもしたのだが……。無意識らしかった。ルビーはありがたく、現れたオギャバブランド(真)に心の中で手を合わせた。

 

「ん。ええよ〜。ルビーもウチのおっぱい好きやもんね。じゃあ今日は一緒に寝よか〜」

「っ、スゥ〜…………マジかよぉ……」

「……? ルビー?」

「……なんでもないよ。ただお兄ちゃんスゲェって再認識しただけ……映画終わる頃には悟り開いてるかも」

 

 しっかり返事(自分の見立てならほぼOKの)するのは撮影等が終わってから……的なことは聞き出していたが……。そんな相手と何度も同衾して、兄はこの子に手を出していないらしい。

 こんなに。こんなにも凄い……そりゃあもう色々と凄い子に!

 アクアの前世は、もしや苦行僧や修験者か何かだったのだろうか? それならば納得出来るのだが。

 

「じゃあ、今夜はウチの家に……」

「あっ、待って。みなみには色々と助けられちゃってるから……やっぱり役得も必要だと思うんだ」

「……役得?」

「うん。という訳で。ウチにみなみをご招待〜」

 

 何はともあれ、お泊りは決定。いっぱい癒してもらうのは確定だが、与えてもらうだけは駄目だとルビーは思っていた。

 故に。嬉しいんやけど、それが役得なん? と首を傾げるこの子におもてなしの品。もとい内容を告げる。それは……。

 

「鈍いなぁみなみ。ウチに来るってことは……お兄ちゃんもいるよ?」

「――っ!」

「……来るでしょ? 来たいでしょ?」

「……い、いく。……いきたい……」

 

 恥ずかしそうにモジモジしながらも、みなみはコクンと頷いた。

 因みに、その姿を見たルビーが「えっ、こんな可愛い子と私、義理の姉妹になれるの?」と戦慄したり。

 後から来たフリルが「どうじでだよぉ! どうじでごんな日にっ! 私は今夜地方で泊りがげの収録なのおぉ!」と血涙を流しながら仕事へ行く光景が見られたりもしたのだが……それはまた別のお話である。

 

 ※

 

 斉藤ミヤコは、不思議な感情に浸りきっていた。

 きっかけは『十五年の嘘』だ。この事務所にとって大きな存在であり、今もなお影響が残り続けているといっていい者。星野アイの生涯を題材にしたドキュメンタリー映画。その企画が始動して以来、ただでさえ多忙だった苺プロダクションは、激動のスケジュールに翻弄され続けていた。

 それがある程度収束を見せたのは、斉藤壱護が戻ってきてからだった。

 しばらく職場から離れ、しみったれたオッサンアングラーと化していたとは思えぬ目利きの冴えや立ち回り。衰えやブランクなど感じさせない手腕は、いつかにミヤコに夢を見せた頃と同じもので……。

 少しだけ懐かしくて泣きそうになるのと同時に、ミヤコはこれで息子と娘をしっかり見ていてあげられるようになったことを、壱護の毛髪を数本腹いせに引き抜きながら喜んだ。

 しっかりと目を向けなければいけないことは沢山ある。

 ハードスケジュールの最中で役作りに励み、おそらくイメージしづらいのであろう母親に対する感情や接し方に苦しむルビーのこと。

 本当の母親じゃない自分がどこまで助けになれるかは分からないが、今ならば忙しさに阻まれることなく、ようやくルビーとじっくり会話が出来ると思う。それが、現金だが嬉しくてたまらない。

 もう一つはアクアのこと。仏頂面ながら賢い息子は、時折こちらが驚く程に達観しており、大人顔負けの判断が下せる少年だった。

 だからこそ、目を向けてあげることが出来なかったことが悔やまれる。アクアならば大丈夫だろう。なんやかんやでこなしてしまうだろう。……そんな信頼の皮を被った、親としての甘えがあったのだ。

 忘れがちだが、双子なのである。いくらルビーの方が十割増しで子どもっぽくても、アクアもまだルビーと同じ高校生だった。

 少しだけ顔色が悪くなっていた時も。妙に外泊が増えていた時も。ミヤコは深くまで踏み込むことが出来ていなかったのである。

 犯人役をやるとは、ともすればルビー以上に彼の心身には負担がかかっている筈なのに。

 だからこそ、壱護に「マズイのはアクアの方だ」と言われ、そこで彼が背負い続け、そのまま殉じようとしていた復讐についてを知らされた時……ミヤコは心がしめつけられるような気持ちを味わった。

 絶対に本人は嫌がるだろうが、出来るなら思いっきり胸に抱きしめてあげたかったし、叱りたかった。

 気持ちはわからないでもないが、貴方が死ぬこと自体が色々な人の顔を曇らせることをわかってほしい。

 自分だってアイに続いてその忘れ形見にまで先立たれたら……きっと立ち直れないだろう。アクアもルビーも、自分にとってかけがえのない存在なのだ。

 

「(とにかく、今やるべきは二人のケアと……現状の再確認。今更と思われても。向こうはそう感じていなくても……私は母親なんだから……!)」

 

 さぁルビー! 悩みがあるなら、いっそ全部話しなさい! 伊達に何年も港区の女していないんだからね!

 アクア! アンタも全部話しなさい! 復讐についてはお説教よ! あと、何か最近女の匂いがします。女の嗅覚は鋭いの。可能な限り詳しく話しなさい!

 

 そんな気持ちで今日は帰宅したのだ。今日はアクアもルビーも時間がある日。自分もスケジュールは開けてあるから、親子三人で……沢山語ろう。そう思ってたら……。

 

「あっ、ミヤコさ〜ん。こちら、同じクラスで友達の寿みなみちゃん。今夜泊まるんだ〜」

「ど、どうも〜。えっと、キャノンファイア所属の寿みなみいいます。ルビーとはお友達で……」

「ほら、前にB小町にどう? って話した、可愛くて胸バカでかい子!」

「ルビー!? 待って! どんな紹介してたん?」

「あ、あとね。みなみはお兄ちゃんの……」

「わーっ! わーっ!」

 

 何か帰宅したらルビーが友達を連れてきていて、目の前で漫才が始まった。

 キャノンファイアの所属なだけあり、容姿、スタイル共に凄まじいレベルの高さ。あと、勝手な芸能プロダクションの経営者目線ながら、声がいい。これだけでも食べていけそうだ。

 だが、それ以上にミヤコの関心を引いたのは……。

 最近アクアから漂うお菓子みたいな香りが目の前からしていたことだった。

 

「(こ、この子だわ……! 今ナチュラルにルビーが暴露しかけてた内容はともかく。間違いなく、アクアと関わりがあるのは確定。……若手俳優とグラドルの熱愛がまさかウチの事務所に舞い込んでくる日が来るとは……)」

 

 まぁ、いつかみたいに不倫に近い疑惑のレッテルが所属タレントに貼られないだけマシだけども。

 そんなことを思いながら、ミヤコは表面上はにこやかに「いらっしゃい。寿さん」と挨拶する。あくまでプライベートなのだ。違う事務所が〜などと騒ぎたてるつもりはない。事務所と自宅が完全に一体化している我が家がちょっと特殊なのである。

 息子がハニートラップの類にかかるとは思えないが、それでも、まだ本質が見えない内は冷静に……。

 

「ただいま。――誰か来てんの? 玄関に靴……が……」

 

 続くようにして帰宅してきたアクアが、リビングに入るなり足を止める。今まで見たことがない反応だった。

 

「おかえり〜お兄ちゃん! えへへ〜びっくりしたでしょ?」

「お、おう」

「あはは……今朝ぶりやねぇ、お兄さん」 

 

 斉藤ミヤコは波乱とまではいかないが、人生においてそれなりに、数多くの人間関係が織りなす営みを目の当たりにしてきた。

 そこには男女の惚れた腫れたも当然含まれる。

 故に、息子とその同級生グラドルが甘くも熱い切なげな視線を交わしているのも、当然ミヤコにはしっかりと見えていた。

 それこそ、この場に自分やルビーがいなかったら……。

 

「(てか、その今朝ぶりってのは絶対学校じゃないわよね!? アクアは昨日、謎の外泊……完全にクロじゃないの!)」

 

 未来の嫁候補なの!? 赤飯炊くべきだった!? という謎の早とちりを頭で思い浮かべてしまうミヤコもまた、結構疲れていたのかもしれない。故に……。

 

「てか、寿。どうしたんだ急に?」

「う、うん。ウチはルビーに呼ばれて……」

 

 二人の視線がルビーに向けられる。するとルビーはフフンと胸をはり……。

 

「前も言ったでしょ? みなみをお家に招きたいって。だから来てもらいました! というわけで、お兄ちゃん! みなみ! 今日は一緒に寝ようね!」

 

 ……んん?

 ミヤコは天を仰いだ。どうやら疲れてるらしい。星野アイも大概だったが、ルビーも時々ぶっ飛んだことを言うのだ。この辺は血のなせる業に違いない。

 横を見る。アクアもまた、聞き間違いだよなという顔をしていたし、寿みなみも聞いてないし、予想外だという顔をしていた。

 ルビー以外はびっくりしているこの現状。ミヤコは静かに深呼吸した。

 

「ルビー? もっかい言ってくれる?」

「ワタシ、ツカレテル。スゴク」

「急にカタコトになるな」

「癒やしが欲しいし、友達とも語り合いたいから、みなみを呼びました」

「う、うん。そんな話やったなぁ」

「で、せっかくみなみが来るなら、まぁお兄ちゃんも一緒に寝ればいいじゃんって」

「なんでだ!(なんでや!)」

 

 ほぼ同時に二人が突っ込みを入れる。

 もはやここまで来たら、ミヤコは成り行きを見守るのみだった。現実逃避ともいう。

 

「えっ、だってみなみ。お兄ちゃんがいたら嬉しいでしょ?」

「えっと……そ、それは……まぁ……」

 

 モジモジしながらも、みなみはアクアに目線を向けてはすぐ逸す。あからさまに嬉しいのは丸わかりだった。

 

「お兄ちゃんだって、みなみがいたらよく眠れるでしょ?」

「い、いや……もう昨日……」

「……お兄ちゃん、みなみ無しでの平均睡眠時間を答えよ」

「…………多少は寝てる」

「答えよ。さもないとまた足ツボマットに正座だよ」

「いち……いや、二時間」

「……………これでも前より伸びたの、進歩って言うべき?」

「かもな」

 

 下手すれば本日一番な衝撃の事実にミヤコは思わずアクアの方に詰め寄りかける。

 当の本人はそんなミヤコの姿を捉えたのか、バツが悪そうに目を泳がせていた。

 それと、昨日寝たという事実をポロッと漏らすあたり我が息子(義理)ながら語るに落ちたというべきか。いや……それほどまでにリラックス出来るようになったのか。

 

「(……ああ、そんな変化すら私は見つけれなかった。そこに至るまでにきっと苦しんでいたことすらも。駄目な母親だわ……)」

 

 息子が娘が何を考えているのか。奥底なんかわからない。わかってはいたけれどその事実は重く……。

 

「あと、お兄ちゃんはみなみのおっぱい大好きだから、喜ぶかなって」

 

 おも……く……?

 

「おい、ちょっと待て。待て」

「え? 嫌いなの? みなみのおっぱい」

「判断が極端過ぎる」

「…………」

「…………」 

「……別に、そこだけ……好きな訳じゃねぇ……」

 

 どうしよう。少しだけそっぽを向きながらそう答える息子が凄く可愛いんだが? 

 さっきまでの気落ちが嘘のように、ミヤコはおっぱい……ではなく胸がいっぱいになる。

 それは久しく感じなかった、暖かくも穏やかな時間だった。思えばアクアもルビーも、少し前まではナイフを向け合うかのごとくピリピリしていたのだから。

 後悔もあるが……この時間を幸福だと思う方が、母親としては健全だろうか。子ども達が自力で何か悪いものを打破したのだったら尚更に。ならば今自分がやるべきことは……。

 

「はい。取り敢えず気になる話。積もる話はたくさんあるけど……今は夕食にしましょう。私も二人のマネージャーとして本格始動したばかりだし……語り合いたいことは沢山あるの」

 

 パンパンと手を叩いてその場を一旦区切り、ミヤコは台所へと向かっていく。

 そんなに得意とまではいかない、ごく普通な家庭料理しか出来ないけれど、今は自分が作りたかった。

 

「ミヤコさ〜ん、今日は何〜?」

「特に決めてないわね。まぁ食材は切らしてないから何だって……そうね。せっかくのめったに来ないお客さんだし……。寿さん、何かリクエストとかある?」

「へっ!? ウ、ウチですか!?」

 

 流石に無茶振り過ぎたかしら? と、口にしてからミヤコは後悔するが、多分アクア辺りがきっとフォローしてくれることだろう。……ああ、こういうとこも甘えなんだなぁ。

 複雑さを隠しながら、ミヤコはみなみの答えを待つ。すると彼女はルビーとアクアを交互に見て。

 

「えっと、それじゃあ……ルビーとお兄さんが、好きなもの……とかどうでしょう?」

 

 未来の嫁(暫定)も言う事が可愛かった。

 リクエストにOKよ。とミヤコは鮮やかにウインクし、そのまま冷蔵庫を物色するのだった。

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