最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

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映画が終わったら久々に酒を飲もうと決めた斉藤ミヤコ

 星野ルビーは、鼻血が吹き出さないかだけが猛烈に不安だった。

 ミヤコお得意の肉じゃがを堪能し、夜更かしは美容の大敵という育ての親の一声に従い、今は友人であるみなみと入浴中。二度目となる眼福の園の中でルビーの思考を支配していたのは……。

 

「(デッカ! いや、この間は生おっぱい見るのに全力を上げちゃってたから気づかなかったけど……みなみのブラ……デッカ!)」

 

 遠慮なき視線に友人が苦笑いを浮かべているのに気づかぬまま、ルビーはそこでふと、昔の出来事を思い出す。

 

「(ママとも……お風呂入ったなぁ)」

 

 あったかくて、幸せだった記憶。今思い返せば、アレは母親に愛されていなかった故に代替を求めた汚い欲望だったのかもしれないけれど。それでも、あの時間と。ルビーだってアイを愛していたのは本当だったから。

 交代で身体を洗った後に二人で湯船に浸かる。「はふ……」という気の抜けた声が同時に出てしまい、思わずルビーとみなみは一緒に吹き出しそうになった。

 

「映画、順調なん? 疲れてる言うてたけど……無理したらアカンよ?」

「ん、ありがと。役作り以外はねぇ。順調なんだぁ」

 

 映画の内容には触れずに、少しだけ壁に当たっている事実と理由を話す。真剣に聞いてくれているみなみの顔を見ていたら……。ルビーはそこで本当に唐突だが、自らの秘密を語りたくなった。

 

「ねぇ、みなみ。……ある、女の子の話なんだけどさ」

 

 勿論、前世については話す気はない。あくまで、ボツになってしまったテレビの企画にて出会った話ということにする。

 親は子どもを愛するもの。その願いが崩れた話だ。

 

「その子もね。薄々気づいていたの。お母さんに愛されてないんだって。だって結局、最期に会いには来てくれなかったから。それでも、信じたくて待ち続けていた」

「……そのお母さんは、何か言ってたん?」

「わかんない。結局会えなかったから」

「そっかぁ……」

 

 困った顔をさせてしまったと、ルビーは内心でしょんぼりとする。そうだよね。いきなりこんな重たい話されても困るよね。そう思っていると、みなみの手がフニフニとルビーの両頬を包み込み、優しく撫で上げた。

 

「みなみ? えっと……」

「ん〜? ほぐしてるんよ〜。ルビーは優しいなぁ。他の子の事情にもこうして胸痛めて……」

「それは……」

 

 違う。そんな崇高なものなんかじゃないの。そんな声が漏れそうになる。だが、当然言えなかった。

 

「その子が、お母さんに愛されてたかどうかは分からずじまいやったけど……でも。こうしてルビーに、誰かに想われてる。それだけは、幸せなことやなぁって。勿論気休めや綺麗事言われたらそれまでやけども」

「……待って。分からずじまいって? だって明らかに……愛されて、なんか……」

「分らへんやん。色んな親がおるもんやし。本当に仕事が忙しくて、愛すらなかったのかもしれへん。でも……もしかしたら、弱っていく娘を見るのが耐えられなかっただけなのかもしれへん。……まぁ、それでも会いには行かんかいって、話聞いてたウチは思ったけど」

「……」

 

 その発想はなかった。ルビーは少しだけ、胸にあったトゲの一つが抜けていくのを感じる。勿論、瘉えない傷であることには変わりなくても……。

 

「親も、誰もが初めてまみれやからなぁ。ウチのお父さんも、ウチが写真集出す〜言うた時、戸惑ってたわ。めでたいことなんだろうけど、グラビアアイドルの娘を持つ父って事情が特殊すぎて、世のお父さんと情報共有が出来ないというか……こういう時、どんな顔したらいいかわからないんだが? って」

「その女の子のお母さんも、戸惑って……受け入れられなかった……?」

「女の子の事情と比べるのは、ちょっと重みが違うかもしれへんけどね。……親に関しては、不幸やったのかもしれへん。けど……愛されてなかったって決めつけなくてもええんじゃないの? って……だって、ルビーからはこうして、覚えられておるし……それもある意味で愛を与えてるんやないかなぁって……」

 

 確かな救いはそこにあった。

 持論に少し自信がないのか、両人差し指をツンツン合わせながら、みなみの声が尻すぼみになっていく。

 

「……愛を受けるって、なんだろ?」

「えっ? ……えっと……自分が誰かに貰ったとしたら、それを本物って確信出来たら受けたって事にならへん……かなぁ? 逆なら簡単なんやけどね。大事な人に、ぎゅーん! って行くだけで。せやから、案外受け入れる方がムズいんやなぁって……」

「……ソースはお兄ちゃん?」

「……うっ!」

 

 グサッという音が聞こえた気がして、ルビーは少しだけ面白かった。我が兄よ。やはり面倒くさいな。こんなに可愛い子を待たせて、悩ませるとは何て奴。

 

「そっか……愛、かぁ」

 

 思い浮かぶのは……ただ一人。眼鏡をかけた、不器用で回りくどくて優しい人。

 今はもういない。けど確かに“さりな”はその人から愛を受けていて。ルビーはそれを覚えている。

 彼が離さず持っていたキーホルダーを思い出す。さりなは間違いなく、雨宮吾郎から愛を受けていた。それは揺らがぬ真実で……。

 

「そっか……あの役……ママも、愛を探して……色々頑張って……ああ、だったら……」

 

 のぼせたのか、汗が出てきた。頬を伝い、湯船に落ちるそれをぼんやり眺めながら、ルビーは破顔する。

 今なら、ちょっと行けるかもしれない。少なくとも、今までよりはいい感じに演じられるかも。そんな確信があった。

 

「……ルビー、おいで」

「……鼻水出てきた」

「かまへんよ」

「……ん」

 

 ぎゅーっと、柔らかな胸に抱きしめられる。天国やぁ……! と普段なら叫びそうだが……今は、今だけは、この優しいぬくもりにただ浸りたかった。

 

「肉じゃが、美味しかったなぁ……」

「……うん」

「ミヤコさん、社長や思ったら、マネージャーになったんやね。嬉しいって」

「……うん」

「色んな親がいる言うたけど……冷静に考えたら、あの人もめっちゃ凄いわぁ」

「……うん、そうだね。そうなんだよ」

 

 愛も夢も、いっぱいあった。ルビーは今更ながら実感する。

 それは、何よりも焦がれていたものであり、今ルビーがアイドルを続けている理由でもあった。

 

「お兄ちゃん、肉じゃがも好きだけどね、カレーとかトマトパスタも好きなんだよ。あとハンバーグとか。……今気づいたけど、意外と子ども舌?」

「あはは、可愛くてええやん。……練習しとくわ」

「えへへ……うん! 後で、一緒に作ろうね。私とみなみが作ったら、絶対お兄ちゃんイチコロだよ!」

 

 優しい未来を想像しながら、ルビーは目を閉じた。

 数分後、本当にのぼせて鼻血が出たのは……ご愛嬌である。

 

 ※

 

 星野アクアは、出来ることなら、この場から逃げ出したかった。理由は単純。目の前にいるミヤコが……とても不満そうな顔でこちらを睨んでいたからだ。

 

「…………ごめん、ミヤコさん」

「……それは何に対して?」

「……えっと」

「忠告よ。つまんない男になりたくなかったら、理由も分からないまま雑に謝るのはやめておきなさい。分からないならまずそのことを先に伝えるの……まぁ伝えて怒りが再燃することもあるけど」

 

 どうしようもねぇじゃん。とは言わない。……斉藤壱護も、つまんない男ムーブしたのだろうか? なんてことを一瞬考えたが、すぐに忘れることにする。

 今はただ、彼女に謝るべき要因が、彼女が思い浮かべる数と一致……ないし越えていることを願うばかりだった。

 

「理由は……思い当たるのがいくつか。けど、当たってる保証はないから」

「……いいわ。言ってみなさい」

 

 ちなみにルビーとみなみは仲良く入浴中なので、アクアの弁護人はいない。ついでにみなみ本人が、お兄さん関係なら何でも聞いてください! と、ミヤコに伝えた結果、質問には本当に何でも答える羽目になった。

 勿論、回答拒否の権利もアクアには残されているが……。出来れば全部話して欲しい。と、ミヤコがアクアに懇願した。

 結果、逃げたくても逃げられないまま、リビングで二人だけの家族会議が始まっていた。

 

「……カウンセリング、誤魔化してゴメン」

「ゴメンで済ませられる問題じゃないけど……気づけなかった私も悪いわねコレは」

「そんなことは……勝手に俺がやったことだし」

「それでもよ。貴方の親として。所属タレントを守るという意味でも……私は貴方の演技を見抜くべきだった。……情けないわ」

 

 やめてくれ。凄く……刺さるし、心が痛い。アクアは内心で半泣きで頭を抱え込んでいた。

 復讐を悪いものだったと認識した今、ミヤコの悲しげな表情は……物凄くくるものがあった。

 

「不眠も……黙っててゴメン」

「……ずっとだったの?」

「いや、違う。時々夢に見て魘されることはあったが……深刻じゃなかったんだ。睡眠の質は酷いものだったみたいだけど。……その、これには凄まじく複雑で特殊な事情が……あって」

「……聞かせて」

「………ッ、スゥ〜」

「お願い。私にも、背負わせて。貴方が苦しんでいた時に何も出来なかった駄目な母親だけど……せめて聞きたいの。聞いて……恥として胸に刻ませて」

「あっ、いや……その、不眠に関しては本当に。深刻だけど、ちょっと情けないというか……あとミヤコさんが駄目な母親なんてのはあり得ないし……」

「気休めは止めて。詳しく聞かせて」

「(……マジか。これも詳しく説明するのか……よりにもよって育ての親に)」

 

 アクアは味のある顔のまま天井を見上げる。話せば長くなる。内容的に重いものなのだが、絡んでくる一部の要素が喜劇めいているという、今思い返してもどう反応したらいいのかわからなくなりそうなエピソードである。

 

「その。アイの仇が死んで。俺も混乱してたんだろうな。色々と、投げ出した後で。復讐が終わったら消えようとしてたのに……ああなって」

「…………っ」

 

 ミヤコの手が無言で伸びてきて、アクアの両頬を摘んで引っ張り上げる。無言のまま訴えるような潤んだ視線がアクアに叩きつけられた。

 

「……ゴメン」

「……何がよ?」

「やけっぱちになって。残された人のこと、考えてなかった」

「……二度と。二度とそんなことしないで」

 

 私より先に死なないで。ポツリとそう言って項垂れるミヤコに、アクアは静かに「わかった」とだけ頷いた。

 

「で、雨にうたれながら……このまま凍えるのも悪くないって当時は。当時だよ。そんな悲しそうな顔しないでくれ。そう思ってたんだ。そしたら……寿に拾われた」

「肉じゃがご馳走だけじゃ足りなかったわ。高級菓子折りとコスメセットも贈るべきね」

「金は俺が出す」

「私と。半々にしましょ」

 

 そんな会話を交わしながら、アクアは起きたことをありのままに話す。一部の恥ずかしい話(おっぱい枕など)は流石に伏せた。それがなくても起きた話は伝わるはずという判断だった。

 往生際の悪さだけは何一つ成長していない。それもまた星野アクアだった。

 

「つまり、アレね。寿さんと一緒に寝たら心地よすぎて予想以上に熟睡しちゃって……身体が忘れられなくなったと」

「……改めて言われると、とんでもねぇ話だな」

「本当ね。ちゃんとマスコミ対策はしてる?」

「一応、同時にマンション出たり入ったりはしてない。学校も一緒に行ったこともない。連れだって歩いたことも……いや。一番最初の頃に一回だけ」

「下世話な話だから、嫌だったら答えなくていいわ。お付き合いは?」

「……今は、してない」

「今後は?」

「………えっ、と……」

「……まぁ、いいわ。その辺は自由だし。貴方なら心配はしてないけど、避妊はしっかりね」

「……ん?」

「……え?」

 

 その瞬間、不思議な沈黙が流れ、アクアとミヤコは見つめ合う。

 やがて、ミヤコの目がみるみるうちに釣り上がり始めた。

 

「アンタ……ねぇ! ちょっとそこに正座しなさい!」

「ま、待て! 待ってくれ! 違う! 何か誤解してる!」

「何がよ! 避妊にとぼけ顔なんて……! つけないのは相手を危険に晒すと同義! 挨拶が出来ない男……! 名刺が無い営業サラリーマン以下よ! そんな無責任な男に育てた覚えは……!」

「ストップ! ストップミヤコさん! 違う! 分かってるよ! 寿は俺にとっては恩人で、とても大切な人なんだ! 彼女を危険な目にあわせるなんて、俺は絶対にしない!」

「それだけ大事なら――!」

「だから、その……、……ないんだよ」

「……ん? 何よ、はっきり言いなさい」

 

 ボソボソと何かを語るアクアに、ミヤコは噛みつくように問いかける。拷問かよと思いつつも、アクアは消え入りそうな声で答えた。

 

「だから、その……無いんだよ。肉体関係は」

「………………へ?」

 

 ミヤコはポカンとした顔のまま。やがて少しだけ考えるような素振りを見せる。

 

「一緒に……寝てるのよね? 二人きりで。定期的に」

「……ああ」

「成る程。向こうが断ってるのね。まぁ、身持ちが固いのはいいことね」

「いや、断られた訳じゃないけど……その、流石に付き合ってないし」

 

 宇宙を知った猫のような顔で、ミヤコはアクアを凝視した。

 

「あの。もしかしてアンタ、トラウマ的なので……だ、男性的な衝動が……」

「いや、なんでだよ」

「だ、だってあんな……あんな……あの、色々凄い子を何回も腕に抱いて……何もないって……それもう不の……」

「ある。ちゃんとその……ある。あるんだよ。なんなら毎回無意識半分。意図的に半分誘惑してくるから……わりと、そろそろヤバい」

「安心すべきなのかしら? コレ?」

「……俺に聞かないでくれ」

 

 ウッソでしょアンタ。という顔をするミヤコにアクアは肩を竦めながら答える。ようやく空気が軽くなり、少しだけホッとしながら。「大事にしたいんだ」とだけ答えた。

 

「プラトニックなのね。なんだか、うん。ちょっと嬉しいわ。アクアは顔が物凄くいいから……いや、大丈夫だとは思ってたわよ? でも変な女性に捕まらないか気がかりで……。今ガチのあかねと破局した後、少し心配だったし」

「……俺を何だと思ってるんだよ。とにかく、避妊も何も、そういう事は一切してないから、何の心配も……」

「えっ、でもお兄ちゃん、おっぱい枕はしてるでしょ?」

「…………」

「…………おっぱい……何? なんて?」

「お兄ちゃん、いつもみなみのおっぱい枕で寝てるらしいよ。羨ましいこと山の如しだよね」

 

 いつの間にか、可愛らしいパジャマにナイトキャップ姿のルビーが戻ってきていた。少し後にはみなみも来ていて……顔を赤らめながら俯いていた。

 ミヤコはその様子を眺め。少しだけみなみの一部分を横目に……ジトッとした視線をアクアへ向けた。

 

「まぁ、そうよね。男の子だものね。アクアも」

「……弁明の機会を求める。てかルビー、寿。いつからいた?」

「ミヤコさんにみなみのおっぱ……添い寝最高〜! ってお兄ちゃんが説明してた辺りから」

「そんな言い方はしてねぇ」

「えっ、最高じゃないの? 嘘でしょお兄ちゃん。贅沢すぎない?」

「…………最高だけれども」

 

 死んだ魚のような目で……。それこそ『深掘れ☆ワンチャン!!』にルビーがサプライズで登場し、そのままリポーターに就任された時のような顔でアクアは悪あがきする。

 ルビーが必死に笑いを堪えているのが地味にムカついた。今度その柔らかなほっぺをフニフニするか、軽めにチョップをくれてやろうと決意した。

 だが、誤解を解く時間は与えられず。ミヤコは皆まで言うなといった雰囲気で首を横に振る。

 悲しいかな。ミヤコの中でアクアはおっぱい星人という評価は不動のものとなったらしい。

 

「いいの。いいのよ。アイも悩んでたの。アクアがおっぱい飲んでくれない〜って。哺乳瓶でしか飲まない〜って具合にね。きっと今……反動が来てるのね」

「なぁ、待ってくれ。結論が極端過ぎるだろ」

「お、お兄ちゃん! まさか……! さ、流石にまだみなみは出ないと思うの。……そ、その。母乳」

「お前は俺を変態にしたいのか? そうなんだな?」

「……お、お兄さん。ウチは、お兄さんが望むなら……で、でも流石に今ママにされちゃうと……困るねん」

「寿ぃ!? いや、待て! お前ら楽しんでるだろ! そうだな!?」

「諦めなさいアクア。男女比1:3よ。大抵の家庭では男の子が勝てる道理はないわ」

「斉藤元社長が加わっても2だもんね〜」

「アレは0.1よ。発言権は勿論、この家に居場所は無いわね」

「可哀想すぎるだろ。いや、自業自得だけども」

 

 やんややんやと、会話が飛び交う。

 結局、その後もガールズトークにアクアが肩身の狭い思いをしたり。

 色々とみなみが質問責めされ、やっぱりアクアの立つ瀬がなくなったり。

 ちょっとだけ真面目に映画の役作りについてを家族で議論したりとしながら、夜は更けていく。

 時にふざけながら。大切なことに関しては真剣に向き合う……。暖かな家族の一コマが、そこには確かに存在していたという。

 

 ※

 

 寿みなみは、謎の緊張感を覚えていた。

 一つは今いるのが好きな人……星野アクアの部屋だということ。

 もう一つは……。

 

「……なぁ、本当にここで寝る気なのか?」

「学校サボり。私の心は複雑になって、お兄ちゃんは埋め合わせ」

「…………あの時のアレか。待て、まさかこの為に……!?」

「正解〜。という訳で。私の癒しの為に宜しく〜」

 

 まさかの親友も含めた三人川の字で寝ることになりそうなことだった。

 因みに、ルビーは最初「ミヤコさんも来る〜?」なんてことまで言っていたことを追記しておく。

「いや、流石にベッドに入り切らないわよ」と、当人は言っていたけれども。もしも彼女まで加わることになっていたら更に大変なことになっていたかもしれない。

 ただ、おやすみの挨拶の間際に二人を宜しくね。と言ってくれたのが、家族の一員として認めてもらえたような気がしてみなみは嬉しかった。

 

「(まぁ、ルビーも疲れて、悩んでたみたいやし……少しでも助けになれるなら……)」

 

 そんなことを思いながら、みなみはさり気なく、アクアの部屋をそっと見渡した。

 生活に必要最低限なものが置かれた、殺風景と言ってもいい内装。本棚にはアクアが過去に関わった仕事関連のものに加えて、医療関係のものだろうか。見るからに難しそうな書籍が並べられていた。そして……。

 

「(あっ、ウチがグラビアの……。嬉しい。チェックしてくれとるんやな)」

 

 機能面が良さげなデスクの上。少し目線を動かせば見える場所に自分が表紙を飾る雑誌が置かれているのを見て、みなみは頬が緩みそうになるのを必死に堪えていた。

 その様子に気づいたアクアが少しだけ気恥ずかし気に目線を逸したのを見てしまい、ますます堪らなくなる。

 尚、雑誌が机の上にあるのは、何らかの作業の合間に少しの癒やしが欲しかったからという理由があったりするのだが、それはアクアだけの秘密である。

 因みに、逆にアクアがグラビアを務めた雑誌をみなみも持っていたりするのだが……。それはアクアがやってくる時以外、そっと枕元に置かれていたりするのは、乙女の秘密である。

 

「ヘイ、そこ〜。雑誌をダシにしてイチャイチャしな〜い」

「してねぇよ」

「せ、せや! してへんよぉ」

「すいません、モジモジしながら言っても説得力無いんですがねぇ! あと私今悩んでるの。みなみを前にか。後にかで!」

 

 そんな映画のタイトルみたいな……なんてことは言わずに、みなみはルビーに手を引かれるまま、アクアのベッドに腰掛ける。

 

「取り敢えずお兄ちゃん。私が真ん中ね。それは譲らぬ」

「……まぁ、好きにすれば?」

「お兄ちゃんもみなみのおっぱい枕するなら、みなみが真ん中なんだけど……そうすると多分、朝になったら私が仲間外れで、二人で抱きしめ合ってそうだから却下ね」

「さ、流石にそんなことには……ならへんやろ?」

「本当に? 普段ぎゅぎゅ〜ってして寝てるんでしょ? 本当にそうならないって自信持てる?」

「………………」

「………………」

「無言でイチャイチャしやがってぇ……とにかくそんな感じね! よぉし! 寝よう!」

 

 そっとみなみは、アクアの方を見る。アクアは肩を竦めながら、「まぁ付き合ってやってくれ」なんて顔をしていたが……みなみが懸念するのは、別のことだった。

 

「(お兄さん、寝れるんかな……?)」

 

 それだけが、少し心配だった。

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