最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

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ルビー「頭上でキス我慢対決が繰り広げられている件」

 ああ、これが……ここがオギャバブランドを越えた楽園――、真・オギャバブランドランドだったんだ。

 ルビーは全ての疲れやしがらみを捨てて、今はただその心地良さに浸っていた。

 ルビーが選択したのは、後方にアクア。前方にみなみという、彼女の個人的には最強の布陣であった。

 背中にたくましくも広い、安心できる兄の胸板。そこにゆったりと身を預ける。勿論腕枕も忘れずにして貰った。

 そして……正面にはみなみ。彼女にも役得があって欲しい&このままではアクアが眠れない可能性があるので、遠慮なく自分ごとアクアにくっついて頂く。それはもうべったりと。

 結果ルビーの顔には、どたぷ〜ん! と素敵な桃源郷が押し当てられて……柔らかいわ、いい匂いがするわ、暖かいわで、もはや色々な意味で昇天しそうだった。

 

「(てか、何だろ? いつもより甘い香りが濃く感じる? もしかして、お兄ちゃんといるから!? これが……フェロモン!?)」

 

 そんな的外れな事を考えつつ、ルビーは深呼吸を繰り返す。その様子を見ながら、そういえばアイもたまにルビーがオタクとダブるとかで若干引いてたなぁ……なんて懐かしさを噛み締めているアクアがいたりもしたのだが……もう何も怖くないルビーには関係のないことだった。

 

「お兄さん、全部じゃないにしろ、二人分寄りかかってるけど大丈夫なん?」

「大丈夫だ。二人とも軽いからな」

「てか、こんなに可愛いアイドルの妹と同級生グラドル抱っこして寝るとか……知られたら炎上しそうだよね〜」

「怖すぎること言うのやめてくれない?」

 

 それを言ったらこの場でこの状況にいる全員が、色々な方面から嫉妬や怨嗟の声を浴びさせられそうではあるのだが、三人ともそれに関しては全力で蓋をした。気にしては負けなのである。

 

「なんかもう……今なら難しいこと考えずに演技出来そう」

「我が妹ながら単純すぎないか? 大丈夫か?」

「えっ、みなみちゃんの癒しパワーをご存知でない? そんな訳無いでしょ? なんなら世界で一番恩恵受けてるのお兄ちゃんだと思うけど?」

「……兄妹だな。俺達。間違いない」

「でしょ〜?」

「(……背中にお兄さんがいるってのも安らぎになってる思うけど……まぁ、野暮は言わない方がええやろな)」

 

 ルビーは目を閉じる。せっかく三人で寝るのだ。修学旅行的なノリで沢山聞きたいことや話したいことがあった。

 だが……。

 

「(あ、……れ……?)」

 

 ルビーの瞼が重くなる。アルバイター斉藤が苺プロに戻ってから、多少は改善したとはいえ、それまでのハードスケジュールや様々な悩み。短時間の睡眠等。蓄積された疲労は、ルビーが想像している以上に彼女の身体に負担を掛けていた。

 

「ルビー、眠いん?」

「……やだぁ、まだ起きてるぅ……」

「子どもかお前は。……疲れ、たまってたんだろ。今は休め」

「だって、せっかく……三人でぇ……」

「…………別に、これを最後にしなくてもいいだろ。俺も寿も……いつだってお前の近くにいるんだぞ」

 

 少しだけ口ごもりながらも口にしたアクアの言葉が、ルビーの耳に届いた時。彼女は無意識のうちに目頭が熱くなるのを感じた。

 少しだけ息を飲むみなみの気配がする。びっくりしたのは彼女も同じだろう。だが、同時に嬉しくもなった筈だ。

 あのアクアが、次の機会を口にしたことが。ありふれた当たり前のようで、そう簡単なことではない事実だということは、痛いほどに分かっていた。

 

「ホント? いなくならない? また一緒に寝れる?」

「……寿が嫌じゃなかったら」

「ウチが嫌な訳ないやろ〜」

 

 みなみの柔らかい手がルビーの頬を撫でる。同時にアクアが後ろから頭を軽くポン。ポン。と一定のリズムでタッチしていけば……ルビーはもう骨抜きだった。

 何だコイツ等。パパ味とママ味が凄いんだが? 兄と同級生なのに。何でこんな夫婦みたいな雰囲気出しながら、包み込むように甘やかしてくるの? もしかして私……二人の娘だった?

 脳がわかりやすくバグった所で、ルビーはいよいよ微睡みに沈んでいく。

 

「ねぇ、みなみ、お兄ちゃん……」

「ん〜?」

「……どうした?」

 

 それでもこれだけは伝えたかった。自分が眠れば、友達以上恋人未満(限りなく内定に近いとはいえ)な男女が二人きり。間にいる自分がわりとお邪魔虫なのは分かっている。でも、今だけ。今だけは……甘えさせて欲しい。寂しいけれど、いつかこれも出来なくなる事は分かっているから。

 

「ちょっとだけ、抜け出したりしてイチャイチャ、してきてもいいから。ちゃんと、戻ってきてね……」

 

 一人にしないで。と口にしかけて止める。その瞬間に、ルビーは二人からぎゅ〜っ。と強く抱きしめられた。

 爽やかな香りのお花畑で、焼き菓子を広げてピクニック。……そんな幻風景をルビーは確かに見た。

 彼女は妹で親友だから耐えられた。フリルだったら耐えられずに爆散していたことだろう。……こんな状況に彼女がありつける日が来るかどうかはともかくとして。

 

「大丈夫だから。俺がシスコンなのは周知の事実だろ? もう決めたんだ。お前が嫌だって言っても、傍にいるぞ」

「ウチも……ずっとルビーの友達やで? 絶対一人にはせえへんよ」

「……うん。うん……!」

 

 今までにない安心感の中で最後に聞いたのは……二人に挟まれたままで囁かれる「おやすみ」という優しい響きだった。

 後日、この添い寝の内容を聞いたフリルがまたしても涙を流しながらハンカチを噛むことになるのだが……それはまた、いずれ語られることだろう。

 

 

 ※

 

「やっぱり疲れてたんやなぁ……」

「そう、だな」

 

 スヤスヤと、可愛らしい寝息を胸元に感じながらみなみが微笑めば、彼女のすぐ前でアクアも安心したようにホッと一息をついた。

 根掘り葉掘り色々聞かれずに済んで安心する反面、最近は特にルビーが忙しくてロクに話せていなかったので、ちょっぴり残念という気持ちがある。

 だが、それでもみなみの心は、温かいラテを飲んだ後のような安らぎに満ちていた。

 

「……ねぇ、お兄さん」

「なんだ?」

「……いつも、そばにいてくれるん? ルビーと一緒に」

「………ああ。そうしたいって、思ってる」

「そういうことって、勘違いしてまうよ?」

「していて、いい。もうすぐ撮影が始まるから。……それが終わったら……少しだけ君の時間が欲しい」

「少しで……ええの?」

「……勘違いするぞ?」

「勘違いも何も、ウチはちゃんとお兄さんに言っとるもん」

「わりとマジでスマン。――あっ、えっと。待たせたり。何かキープみたいなことを……」

 

 謝った後にミヤコの言葉を思い出したのか、慌てて理由を述べてくる。そんなとこも可愛いと思うのは惚れた弱みというべきか。みなみにはわからなかった。ただ……。

 

「…………」

「…………」

 

 心地よい無言の時間が愛おしかった。ルビーの希望で小さな電球を灯した薄暗い部屋の中で、みなみとアクアは見つめ合う。

 二人でルビーを抱きしめている関係上、絶妙な距離が出来てしまっている。触れ合う面積は圧倒的に少なく。互いへのボディタッチも最低限。だが、これすらも二人はスパイスに変えていた。

 

「……ルビーも寝たから、電気消すぞ」

「……っ! うん。……お兄さん、眠れそう?」

「まぁ、大丈夫だろう。今も少しずつ、睡眠時間は伸ばせてる。聞いていたとは思うが、一人でも一日二時間は寝れるようになったんだ」

「進歩しとるけど、まだ解決したとは言えへんよぉ、それ」

 

 ちょっぴり誇らしげに言うアクアの言葉に喜べばいいのか、慄くべきかわからなかったが、みなみは取り敢えず苦笑いしつつアクアに顔を近づけていく。

 部屋が真っ暗になる。相手の顔は見えなくて。その瞬間に不可抗力は発生した。

 

「寿……」

「お兄さん……」

 

 いつもと違う距離感の中で、大好きな声が耳をくすぐる。それに本能的な幸福を覚えながら、みなみはピタリとアクアの頬に顔をくっつけた。

 唇が当たってしまうが、暗いから仕方がない。

 ルビーとみなみの二人分の枕になっていた腕が動き、みなみの頭が優しく撫でられる。そっと指がみなみの耳たぶを弄び、アクアもまた顔を動かして、みなみの額に顔をくっつけた。

 くすぐったい。でもこれはただの寝返りだろう。ちょっと唇が当たっただけ。だからみなみがアクアの鎖骨に顔を擦り付けたのは……寝惚けているということにした。そのままちょっとだけ顔を上げて、ハーモニカを奏でるがごとく彼の喉笛を刺激すれば、アクアの身体がブルリと震えた。

 彼の指がお返しとばかりにみなみの首筋をくすぐって……。そのままアクアは耳元に顔を近づけて蠱惑的に囁いた。

 

「悪戯っ子だな。寿は……」

「……っ、ぁ……お兄さん、だって……」

「たまたまだ。真っ暗で見えないからな」

「ウチも……何も見えへんなぁ……」

 

 偶然という屁理屈で武装されたじゃれ合いは暫く続く。

 どちらかの指が下唇を愛撫すれば、焦らすような動きに抗議するかのようにもう片方がそれを甘噛みする。

 いつもよりは控えめで、乱れてはいない呼吸。ただ、込められた熱は相当なものだった。

 これはマズイのでは? 間にルビーいるのに。となったのは……。かすめるようなキスまではいかないスキンシップのなかで……いよいよ我慢が効かなくなりそうになった直前のことだった。

 

「……なぁ、寿」

「ん〜」

 

 これはいけない。少し冷静になろう。そう伝え合った二人は、今は火照り出した互いの身体を鎮めるように、額をくっつけて目を閉じていた。これはこれで、そのまま顔を動かしたら一番ヤバい事になるのだが……ちょっとしたスリルで脳がおかしくなっていた二人はついぞ気づかなかった。

 

「ありがとな」

「……えっ、どないしたん? 急に?」

 

 思いがけないタイミングでのお礼を言われ、みなみは額を離しつつ、アクアの顔を見ようとする。真っ暗だった。

 だが、それでも……アクアが真っ直ぐこちらを見て言ってくれているのだけは、何となくわかった。

 

「言いたくなったんだ。ルビーと俺を両方癒やしてくれた。助けてくれた。ミヤコさん、嬉しそうだった。……ああ、そうだな。何度でも。これから何度でも、君にお礼を言いたいんだ」

 

 想いを溢れ出させるようにアクアは語る。離れた額がまたくっついて、アクアは愛しげにみなみに擦り寄った。

 

「(アカン……お兄さん、真面目に言ってくれてるとこ申し訳ないんやけど……スリスリしてくるお兄さんめっちゃ可愛えぇ……)」

 

 尚、みなみはキュンキュンして死にそうになっていたが、そんな事は知る由もなく、アクアは言葉を紡いでいく。

 

「カミキヒカルも……ちゃんと演じられそうなんだ。何回か吐きそうになったり、崩れ落ちそうになったけど……それでも前に行きたいって思えたのは、君のおかげなんだ」

「お兄さん……」

「君の姿が浮かぶから……俺は頑張れてる。自分を前より好きになれて……他の誰かを頼れるようになり始めてる」

「……素敵やん」

「だから、ありがとう。映画終わる前に、これだけは言いたかったんだ。……俺は君に会えてよかった」

「――っ! ……お兄さん……ズルいっ!」

 

 たまらずみなみはアクアに腕を回し、力いっぱいハグをする。アクアもそれに応えるようにみなみを引き寄せて……二人の顔が近づいた拍子に、鼻先が触れ合った。

 

「……っ」

「ぁ……」

 

 少し顎を上げればもう重なりそうな距離。みなみは高鳴る心臓を抑えながらも……少しだけ、誘うように顔を動かした。

 二人の鼻が近づいては離れる。つつき合ったかと思えば、重なり合い。やがて擦り合わせるように二人は好きな匂いとぬくもりを交換し合う。

 俗にいうノーズキス。鼻先だけの交接なのに、それは火傷しそうな程に熱く。焦れに焦れた二人の胸の中を焼き焦がした。

 

「お兄さん……ウチ……もぉアカン」

「……っ、何が……?」

「いけず。わかってるくせにぃ……。予約。またしたら、ダメ?」

 

 実はアクアが眠っている時に、こっそりほっぺたや額……唇以外の所に時々しているソレ。起きているアクアにはいつかの告白の時以外にはしていない、特別な行為だった。

 因みに何度かされている時にアクアが密かに起きていた。という事実もあったりするのだが……アクアが自分の理性を抑える為にそっと胸の内にしまっていたが為に、大惨事には至っていなかった。ムッツリ野郎ここに極まれりである。

 尚、お互いに気づいてしまっていたらいよいよ歯止めが効かなくなって大変なことになっていたかもしれないが……あくまでifの話である。

 

「ウチ、もう撮影始まるねん。お兄さんも撮影本格的になるんやったら……多分、今ほど会えなくなってまうやろ……?」

「――っ」

 

 あっ、今めっちゃ寂しそうな顔してくれとる。

 何となくそう察して、みなみは嬉しくなった。そうなれば甘えるような声は更に糖度を増して……蜂蜜のような粘り気まで帯びてくる。

 ダメだと頭では思っていても、もうどうしようもなかった。

 

「寂しいし、心配やねん。だから……勇気とか、充電したくて……もし、出来るなら。お兄さんの充電になったらなぁって」

「…………寿。俺は……」

「大事にしてくれとるの、分かるねん。でもね……お兄さんいけずなんやもん。ウチの心毎回かき乱して。ウチ、お兄さんの足枷にだけはなりたくなかったし、ちゃんと……気持ちの整理がつくまで、待ち、たくて……」

 

 言葉を重ねていくうちに声が震え始める。己の意志の弱さを自覚して。

 嬉しくて暴走した。そう気づいた時には遅く。だが、そんなみなみの心境を察したのか、アクアはみなみの目元を優しく指で拭ってくれた。

 

「……そんな顔しないでくれ」

「真っ暗やん」

「何となく、わかるんだよ。……ごめんな。君の涙と比べたら、俺の変な誓約なんてぶん投げるべきだった」

「……そんなこと」

「ある。君が泣いたり、悲しんだりしたら、俺も辛いんだ」

「……女タラシな台詞やわぁ」

「タラシこみたい人、一人しかいないけどな」

「マジモンやわぁ……それにときめいちゃうウチもウチやけど」

 

 見えないことをいいことに、だらしなくニヘ〜っと笑いながら、みなみはアクアに頬ずりする。

 あまり優しくしないで欲しかった。こうして甘えたくなってしまうので。

 

「……タラシこみたい人、おるん?」

「ああ、いるよ」

「どんな人〜?」

「優しくて。ほわほわしてるようで芯が強くて。俺や俺の大切な存在を何度も助けて包み込んでくれた。しかも可愛くて綺麗なんだ。とんでもなく素敵な女性だよ」

「……ウチも、タラシこまれたい人おるねん。優しくて……優し過ぎて苦しんじゃう不器用な人やけど。誰よりも人に寄り添える人。しかもめっちゃ格好良くて……見惚れちゃうくらい綺麗な男の人」

 

 褒めすぎだ。お兄さんこそ。

 そんな言葉を交わしながら、二人は再び鼻先でのキスを交わす。一回。二回。三回と数を重ねて。やがて互いに欲するものを明確に自覚する。

 

「……ちゃんと、映画が終わってから伝えるけど。君が素敵過ぎて不安なんだ。勇気も、充電したい。だから……」

 

 少し遅くなったけど俺にも、予約させて欲しい。

 その言葉を聞いた時、みなみは歓喜で全身が震えると共に、お腹の奥がジュンと疼くのを感じた。

 

「うん、……して。いっぱい、して欲しいの。お兄……、――アクア、さんっ!」

 

 何度も夢みていたその名前を呼ぶ。

 口にしただけで幸福な気持ちになるそれは、甘いお菓子のようだった。

 

 ※

 

 アクアさん。

 みなみの可愛らしい唇がその言葉を紡いだ時、星野アクアは思わず天を仰いだ。

 マジヤバイ。どれくらいヤバいかというと……いつかに同じような独白をした時の数倍ヤバい。

 つまりマジヤバイの極みだった。

 既に思考は熱したキャンディの如く溶け落ちて。一先ずアクアは今、煩悩が暴走し過ぎぬよう医学用語を脳内で復唱しながら歩いていた。

 片手で、みなみの手を引きながら。

 予約するのはいい。問題は間違いなく一回じゃ済まなそうなのが目に見えていたこと。それを流石に妹の頭上でする訳にも行かず。

 

「喉、乾かないか?」

「眠れへん理由、それかもしれへんなぁ……」

 

 なんて茶番を挟んで、今二人はリビングへ移動していた。

 

「(よく考えなくても……)」

「(ウチら、キスする為に今、移動してるんやなぁ)」

 

 当たり前の事実確認。だがそこには得も知れぬ背徳感と一緒に、確かに耽美な誘惑や興奮が、二人の中に存在していた。

 知らず知らずのうちに手を強く握り合いながら連れ立って暗い廊下を進む。

 リビングに入る扉の前にたどり着いた時、二人は無意識でゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

「(俺は耐えられるだろうか……? わりと切実に)」

「(何処にしてくれるんやろ? ……もしかして、唇も!? ウ、ウチのカサカサしとらんやろか? だ、大丈夫やとは思うけど……!)」

「(自信がなくなってきた。自分に手錠かけてぇ……じゃないと揉んだり触ったり……イヤ、駄目だろ大馬鹿者がぁ! 流石にヤバいだろ!)」

「(腰砕けになってもうたら……どないしよ。変な声……でちゃったら……だってぎゅ〜するだけで、大変やったのに……)」

 

 謎の葛藤が二人の中では渦巻いた。

 それでも、欲望……もとい沈黙には耐えられず。静かにアクアは扉を開けて、みなみがそれに続く。すると……。

 

「…………え?」

「…………あ」

「…………っ!?」

 

 まず目に入ったのは、キッチンを照らすぼんやりとした灯りだった。

 廊下までは届かない、微妙な光量。故に二人は……そこに先客がいることに気がつけなかった。

 まさかパジャマ姿の斉藤ミヤコが、ホコホコと湯気を立てるマグカップを手にホットミルクを楽しんでいたとは思わなかったのだ。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 気まずい沈黙がその場に流れる。

 ミヤコの視線はアクアとみなみに。最後は繋がれた手に注がれて……。やがて彼女はフッと、したり顔で肩を竦めた。

 

「少しだけ待って頂戴。これ飲んだらお邪魔虫は退散するわ。その後に存分に盛り上がりなさいな」

「待て! 違う! 水だ! 喉乾いたから!」

「水飲んで、それで終わりになるの? 私がいなかったら二人きりなのに? 別に隠さなくても、素直にルビーが寝入ったから、イチャイチャしに来た……でいいじゃないの」

「いや、言えるか!」

「あ、言えるかってことは、イチャイチャしに来たのは間違いないのね」

「――うぐっ!?」

 

 語るに落ちるとはまさにこのこと。

 結局この後めちゃくちゃ水を飲み、逃げるように部屋にとんぼ返りした二人であった。

 また、色々と空気やら雰囲気が吹っ飛ばされた結果、結局予約は延期と相成ったそうな。

 尚、翌朝ニタニタしたルビーに「予約ってなぁに〜?」と爆弾を叩き落されることになるのだが……当然二人は知る由もなかった。




オマケ:それぞれの一言

ルビー「そりゃ挟まれた状態であんなハグしたら流石に起きますって。ブラックコーヒーは苦手だけど、あの時は飲めそうだったなぁ」
ミヤコ「タイミング悪すぎたわね。もう少し後に飲みに来るべきだったわ」
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