最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

42 / 48
あかね「最近、好きな人に恐竜か猛獣を見るような目で見られる件」

 映画の撮影とともに月日は流れていく。星野アクアは都内某所にあるスタジオの休憩室にて、缶コーヒーを傾けつつ、ぼんやりと天井を眺めていた。

 舌に伝わる無糖の苦さが心地よい。踏ん張りどころで粘りを見せる為にはこれが今の自分には必要不可欠だった。

 特に問題らしい問題も起きず、撮影は順調だ。

 本来の予定ではカミキヒカルとの対峙を視野に入れ、自分の周りを含めた多くの人間を傷つける悲愴の覚悟を持ってこの映画製作に関わるつもりだったが……。それはもうなくなった。

 あるのはただ、先のこと。かつての自分では想像すらしなかった、前に進む為だけにアクアは仕事をこなしていた。

 

「(そういえば……映画前に公開するインタビューが、今日来るんだったか)」

 

 ……何を話そうか?

 ぽっかり空いた時間。映画撮影や、ここに至るまでの出来事をアクアは振り返る。

 ……暇だから若くして没した小説家の手記になぞらえて。

 

 不眠にも負けず。

 疲れにも負けず。

 パニック発作にも、サバイバーズギルトに似た感情にも負けぬ。

 ……勿論、そんな丈夫な身体と精神だったら苦労はしていないのだけれども、戦ってはいた筈だ。

 欲はある。みなみのおっぱ……ではなく。カミキヒカルの死体蹴り……でもない。前者はともかく、後者はもはやそこまで執着するものではなくなってしまった。今ももうちょい苦しめば良かったのに。くらいは思うが、これくらいは許して欲しい。

 怒りもある。アイが生きていたら……と、ふと考えることは現在も度々ある。それ故に当事者らと、何も出来なかった自分に腹が立つが……これはもう一生引きずっていくと決めたことだ。

 だから普段の生活で笑うのはまだ難しいが……いつかきっと、静かにでも自然に笑える日が来ることを期待することにしよう。

 

 そういえば、最近はミヤコさんが雑穀米にハマッている。野菜や調味料に至るまで、何やら高いものを仕入れていた。いい食材はヒアルロン酸並に信頼できるんだとか。よくわからないが、食べるものが美味しいことはいいことだ。

 

 あらゆることを 自分を勘定に入れずに。……これをやると

ルビー、ミヤコさん、みなみ、有馬、MEMちょ、あかね、監督……他、多方面から抗議が来ることがよくわかったのでやらないことにする。身内の涙を見るのはもう御免なのだ。

 故に今回の撮影では見聞を広めることにも力を割いた。

 タレントとしてなら不知火フリル。

 役者としてなら姫川大輝や有馬かな。そして黒川あかねに。

 泥臭い努力の実らせ方はルビーやメルト、MEMちょに。

 共演者達から学べることは予想以上に多かった。……今まで復讐一辺倒で糧にすることを度外視していたからこそ、尚更に。この経験は忘れない。アクアは密かにそう誓っていた。

 

 ある日監督が子役が見つからないと嘆けば、何か妙に雰囲気のある郊外に行って、神様気取りの不気味な子ども(確認したら親も戸籍もあって驚いた)をスカウトしてきてやったりもした。

 

 広告代理店故に映画とも関わりがあってしまう、さりなの母の気配あれば全力で気配を消した(ルビーが妙な反応を見せていたのが気になった)

 

 衣装合わせしたルビーを見て多少トラウマが呼び起こされ、精神的に死にそうに(少々大袈裟だが)なれば、「怖がらなくてもいいよ」とあかねが迫ってくる。

 するとまさかのルビーまでもが、「ママだから私がおっぱい枕する?」と言ってくるわ。フリルもそこに乗っかって「同級生ポジで、ジェネリックみなみ的に……どう?」という訳の分からない悪ノリをみせてきた。

 大丈夫だから席に戻ってくれ。と必死に三人を宥めていたら、MEMちょは再びヴェロキラプトルがどうたらと謎な反応を見せるわで、もう現場は大混乱である。……だから何なんだよヴェロキラプトル。という呟きは誰も拾ってくれなかった。

 

 結局、有馬かなが持ち込んだハリセン――最近あかねがあまりにも暴走するので作ったらしい――が火を吹いて、その場はどうにか収まった。

「心配とコントを両立してんじゃないわよぉ!」と突っ込んでいたが、その為にお手製のハリセンを用意するとは……。バラエティ適性が高いとは思っていたが、彼女は一体何処へ向かおうとしているのだろうか。

 アルバイター斉藤が「有馬かなは、今度ドッキリ企画に放り込むぞ。絶対にウケる」と意気込んでいたのでアクアは密かに彼女へ向けて十字をきった。

 ……正直非常に見たいのだが、絶対に怒られるので沈黙することを選んだのである。

 

「(……うん、飽きたな。あとインタビューに答える内容にするにしても、ちょっと微妙だ)」

 

 ものは試しでやってみたが思いの外難しかった。涙は随分と流していないし、オロオロ歩く……こともない。

 ただ、皆に木偶の坊は言われないけれども、おっぱい星人とは言われまくる。何故だ。……いや、理由は分からんでもないけれど。

 

「アクアくん。いる?」

 

 みなみは胸だけじゃないだろ。そう内心で憤慨していた所で、休憩室の扉がノックされる。

 入ってきたのは……。

 

「……ヴェロキラプトルあかねか」

「……ガブガブして、食べちゃうよ?」

「ゴメン冗談だ」

「もぉ〜。MEMもアクアくんも酷いんだから……」

 

 過去最大級に頬を膨らませながら、黒川あかねが手招きする。インタビューの為に、記者がやってきた。そう伝えながらもこちらを気遣うような視線を向けてきた。

 

「大丈夫? 疲れてる?」

「まぁ、多少はな。でもそこまで問題じゃない」

「……今なら誰も見てないよ? おっぱい休憩、いらない?」

「遠慮しとく」

「……(ぷく〜)」

 

 稽古中は何度も助けられた。あかねがいっそ悪ノリにすら見える暴走をしてくれたおかげで……アクアはパニック症の発作を最低限に抑えることが出来たのだ。

 ……倒れてる場合じゃない。倒れたら本当に皆の前であかねの胸に抱かれかねないという、切羽詰まった事情があったからなのではあるが。

 結構な荒療治だったが、効果は覿面だった。

 

「結局一回も甘えてくれないし」

「売れっ子女優に甘えて迷惑かけるわけにはいかないだろ」

「……寿さんには甘えるのに?」

「…………」

「ま、アクアくんに意地悪するのはこれくらいにして。いよいよ本格的に撮影だね……」

「ああ。特にトラブルが無ければ、八月の三週くらいには終わるんじゃないかと思う。公開は冬か、来年の春辺りか」

 

 もしかしたらもっとズレ込むかもしれないが、そこはもう巡り合わせ次第である。

 また、色々と賛否ある内容故に、一部の界隈は荒れることだろう。

 それでも……。

 

「アクアくんは、意気込みとかどう答えるの?」

「――自分の演技で誰かを幸せにしようなんて思わない。感じ方だって皆の自由だ。僕が愛を与えられるかはわからないし、返せる自信もないけれど……それでもいいって人だけ好きになってくれたらいい――とか?」

「突き放しているようで、不器用な男の子感を出してくるのはズルいと思います」

「……じゃあ、演技に関するスタンスも入れとくか」

「あっ、いいかもね! たとえば?」

「そうだな……演じる事は、僕にとっての贖罪と誓いだから……とか?」

 

 何となく、いつかの夜の会話を思い出す。

 今はこれが自分のスタイルだ。アクアは改めて気を引き締める。

 一通りの稽古は終わった。祈願を終えれば、撮影はもう目の前に迫ってきていた。

 

 ※

 

 前を行くアクアの三歩後ろで、黒川あかねはその背中を眩しげに見つめていた。

 大きく見えるのは実際に身長が少し伸びたというのもあるが……確実に、彼が殻を破ろうとしているからだろう。

 稽古中は確かに不調そうな様子があったが、その長さと深さは次第に薄れていっていたように思える。

 今までは、演技を楽しめなかった彼。それでも心の何処かでは、楽しみたい。役者の世界を歩んでみたいという気持ちが僅かにあったのだろう。

 そんな純粋な気持ちが、ずっと復讐心や罪悪感等で塗りつぶされてしまっていた。

 だが、今のアクアにはそれがない。乗り越えて、前に進もうとしている。

 ……その為のエネルギーの発生源については、ちょっと複雑だけれども。

 やはり思った通り、アクアならば大丈夫だ。……大丈夫過ぎて、稽古中に甘やかすことが出来なかったのだけが心残りではあるけれど。

 ……でも仮にも一度は恋人だった女の子を恐竜で喩えるのはどうかと思う。絶対に許さない。許すまじMEMちょ。

 そんな他愛もないことを考えつつも、あかねはもう一つの仕事に思考を割く。

 インタビューはどう答えたものか。一応ほぼ全員が答えることになるらしいので、解答を用意しておく必要がある。

 映画のこと……。

 

「(役どころとはいえ、かなちゃんをイビったり、ボディタッチ出来るのはすっごくたっのしー! ……これは流石にやめておこうかな。それこそ炎上しちゃう)」

 

 とはいえ、アクアやルビーに比べたらこの映画への想いや熱はちょっと控えめだろうし、他に何を言えばいいだろうか。

 そんなことを考えていると、前を歩いていたアクアがふと立ち止まる。危うくぶつかりかけてあかねが慌てて自身に急ブレーキをかけると、アクアはその場でゆっくりとこちらへ向き直った。

 

「アクアくん? ……どうしたの?」

 

 蒼い綺麗な瞳があかねを映す。吸い込まれそうなそれに見つめられると、ついドギマギしてしまう。当人がいつになく真剣な表情をしているので、尚更に。

 

「ずっと……もっと早く言わなきゃいけないことがあったんだ」

「……私に?」

「ああ、あかねに伝えたいことがある」

「…………」

 

 心臓が早鐘を刻む。絶対に自分が想像している内容ではないと分かってはいても、この前フリはズルいと思うのだ。

 やはり天性の女タラシか。許すまじ星野アクア。

 

「前も言ったけど、俺は、ずっと救われてきた。君は俺を救えなかったと嘆いていた時もあったけど……そんな事は絶対にない。間違いなく、あかねがいなかったら……俺は今ここにいなかったよ」

「……っ」

 

 カチリ。カチリと、あかねの中で硬質な音が響く。

 

「君はこの映画の稽古が始まってから、全力で俺を何度も救おうとしてくれた。……明るい方へと連れて行ってくれようとしてくれたのが、どんなにありがたかったか……多分あかねが想像している以上に、俺は君に助けられていたんだ。だから……」

 

 不思議な幻像を見た。傷だらけの手が割れたマグカップの破片を集めて、くっつけて。いびつな鉢が出来上がる。そこには綺麗な青い蕾が花開いて……

 

「きっとやり遂げて見せる。これも、俺の“誓い”にしたいから……。あかね、俺をたくさん助けてくれて、ありがとう」

 

 温かい飲み物を入れることはもうかなわない。けれどそれは、花を咲かせる器にはなれたのだ。

 それが……あかねには嬉しかった。

 

「……ズルいよ。もぅ……」

 

 視界が少しだけ滲んだのがわかる。もしかしたら、迷惑になってないかな。

 重いし、お節介な女だって思われて嫌われたりしたら……。そんな悪い想像をしてしまったことが何度もあった。

 それでもあかねが止まらなかったのは、純粋に顔色を悪くするアクアが心配だったから。彼の力になりたかったからだった。……多少下心があったのは置いておく。

 目尻を拭いながら、精一杯の笑顔を見せる。泣いたら、またアクアを困らせるかもしれないから。

 

「私は助けたいから助けたの。這い上がったのはアクアくんだよ。……ドン引き、しなかった?」

「……………ああ」

「(…………ん?)」

 

 花瓶の花が、何故か申し訳無さそうにシュンと萎れた。そんな気がした。

 ……そのなんとも言えぬアクアの反応を見た瞬間。あかねの涙はたちまち引っ込んで。

 ぷくっ。と彼女の頬が、可愛らしく膨らんだ。

 

「……ねぇ今、ちょっと間がなかった?」

「……そ、そんなこと、ねぇよ」

 

 あ、気まずい時の顔だ。

 具体的には……いつぞやに浮気したらコロスと意気込んだ時に見せた反応にとてもよく似ていた。

 

「私の目を見て。アクアくん」

「………………」

「………………」

「また歯型つけていい?」

「違う。違うんだよあかね。必死だっただけなんだ。少し怖えとかこれっぽっちも……」

「むぅ〜!」

 

 ペチペチペチと、あかねの駄々っ子パンチが炸裂する。

 何て酷くて、イジワルな男だろうか。最近ちょっと扱いが悪い気がするのは、決して気の所為ではあるまい。

 寿みなみには絶対こんな扱い方しないくせに!

 なんなら昔やってくれたみたいに、お姫様でも扱うかのような気遣いを見せるくせに!

 

「酷いよぉ! 内心ではめんどくさくて恐ろしい女だって思ってたの!?」

「ち、違う! 感謝してるんだ! それは間違いない! ただ君の……その、好意に甘えすぎるのも……」

「寿さんには甘えるくせにっ!」

「い、いや……それは違……」

「甘! える! くせにっ! ……まさかこの期に及んで否定するの? もうネタは揃いすぎてるけど?」

「…………“みなみ”は、いいんだよ」

「……何か開き直られたら怒りが込み上げてきたんだけど、どうすればいいと思う?」

「そんな男忘れちまえよ。お前にはもっと……」

「あっ、そういうのいいから。残念ながら、私の男性観はアクアくんのせいでズタボロなの」

 

 責任とって。そう言ってじっとりした視線を投げつければ、アクアは困ったように頬を掻いていた。

 

「どうしろと」

「……何でもしてくれる?」

「何でもは無理だ。ただ高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変かつ前向きに検討はする」

「言い方が詐欺師か駄目な政治家っぽいんだけど……まぁ、いいや。……撮影、無理しすぎないでね」

 

 稽古とは違う場もまたアクアの心身を削り取りかねない。そんな心配もある。他にも……。

 

「ルビーちゃんが言ってたけど、寿さんは今、撮影なんだよね? 入れ違いで私達が宮崎での撮影。本当に大丈夫?」

「大丈夫だ、問題ない。少しずつだけど、眠れる時間は伸びてきてるんだ」

「……本当に大丈夫?」

「確かにトータルすると二、三時間と少しだけど、魘されることは少なくなってきてる」

「……本当に大丈夫?」

「……何故、お前は両手を広げて俺に迫ってくる」

「どうして君はライオンか何かに出会ったみたいに後退りするの?」

「いや、ライオンってより、恐りゅ……」

「アクアくん?」

 

 そう、ある意味でこれはチャンスだった。

 寿みなみは不在。アクアの消耗は蓄積されていく。こうやってハードルを下げに下げまくって一気に

 弱みにつけ入るなど卑怯者だと言うことなかれ。恋する乙女にとって、戦争など勝てば官軍。負ければ賊軍なのだ。

 二人だけでする、カバディのような何かが始まる。不思議な攻防は、どことなくふざけてじゃれ合うような気安さが垣間見えていて。

 無意識に二人の口角は上がっていた。お互いにそれは気づいてはいるけれども。今更それをわざわざ口に出して語る必要は無かった。

 

「(うん、駄目そうなら支えよう。君が立ち上がって進めるなら……私も前に行けるから)」

「(なんだろう。前よりなんだか……仲良くなれた気がする)」

 

 平和で、微笑ましい光景だ。

 ……ただ呑気なアクアはともかくとして。あかねはそれにまだ気づけなかった。

 撮影に参加する面々の話題に時々上がる、件の二人。その関係性の変化を明確に匂わせる……その一言を。

 それに彼女が気づく日は近い。具体的には――。

 

 ※

 

 祈願も馬鹿に出来たものではないと、有馬かなは知っている。

 長年辛酸を舐めながら、耐えがたきを耐えた時期。何らかのドラマやCM。映画や楽曲等に関わらせて貰う際に「どうかこの作品が売れますように。そして役者として頑張れる日がまた来ますように」そう祈らなかった事は一度もない。

 神に祈ったとしても、上手くいかない時もあることはわかっている。

 けれども、適当に。は少々乱暴だが、想いを乗せずに祈った時は……大抵は鳴かず飛ばずになる場合が圧倒的に多い。

 要するに、真剣に祈れたということは、役も悔いなく演じれている証明であり、逆に粗雑になるということは、身を入れた演技が出来なかったということだ。

 だから有馬かなは、願掛けをおざなりにはしない。

 ……勿論、たまに「ふざけんな神、テメェこの野郎」と罵りたくなることはある。

 ピーマン体操とかいう黒歴史なのに何か売れてしまった楽曲のせいで、大嫌いなピーマンを人前で食べまくる羽目になった時はまさにそうだった。

 結局神様は気まぐれで。心が温まったり、熱くなるストーリーが好きな癖に、反面、残酷で救いようのない展開だってたまらなく好きなのだろう。変態に違いない。

 故に、この『15年の嘘』の撮影における神様の采配はいかなるものになるだろうか。そんなことをのんびりと考えていたのだが……。

 かなは今、猛烈な勢いでそんな呑気なことを考えていた自分を張り倒したかった。

 祈願の場にて、キャストの面々が全員集合している所に……。

 何か見覚えはあるが、この映画には関わらない筈だった人物がいた。

 

「え〜。とまと・ジャン氏が別件の仕事先にて、右足を故障。急遽斉藤ミヤコ役に代役を立てなければいけなくなった。幸い台詞自体は少ない方だから、突貫稽古になるが、ルビー経由の紹介で、頼みを聞いてくれた。よろしく頼む」

 

 五反田監督が少しだけ肩を竦めながら、傍らにいる女性を紹介する。

 よく手入れされた桃色の髪。ピンクパールの優しげな瞳。写真集の撮影の為か、前以上に整え、磨き抜かれた肌と完璧なプロポーション。

 

「ど、どうも〜。ウチ、寿みなみいいます。グラビアモデルやってます〜」

 

 恥ずかしげに微笑みながら、ペコリとお辞儀をする、寿みなみがそこにいた。

 いや、なんでよ! と叫ばなかった自分をかなは盛大に褒めてやりたかった。

 

「向こうのマネージャーが深掘れの一件と今回ので貸し二つとか言ってたが……まぁそれは知らんから、その辺は鏑木Pか苺プロにお任せする。他の面子に比べて現場に不慣れだろうから……まぁ、ルビーやアクア辺りが、サポートしてやれ」

「オッケー」

「わかった」

 

 ルビーは笑顔でパチパチと拍手していた。

 アクアもまた、すまし顔で(絶対に内心はウキウキだろ貴様……! と、かなは思った)右に習っている。

 概ね他共演者も好意的。

 不知火フリルに至っては両手を振り上げて「推しカプと最推しのいる現場……!」と喜びを噛み締めながら、無駄に壮大なガッツポーズをしていた。

 一方で、動揺していたのは約三名。奇しくもB小町役の面々だった。

 MEMちょはオロオロしている。最近はツッコミ役に疲れてフリルの傍で自己肯定感を高めまくっていたようだが、この惨状を見て現実に引き戻されたらしい。

「コーラとポップコーン、買ってこようかな……」そんな呟きが耳に入ってきた。

 

 黒川あかねは白目を剥いて沈黙していた。最近妙に暴走していたが、どうなることやら。

 役に支障が出ない程度に自滅しろ〜と念じていたかなとしては、願ってもない形になったのだが……。問題は、かなもまた、この状況は面白くないということ。これに尽きた。

 取り敢えず……。

 

「(神様テメェ、余計なことしやがってぇえ……!)」

 

 今は罵るべき。これが間違いなく正しいことだけは分かる。何故かアクアが拾ってきた子役が「クチュン!」と可愛らしいクシャミをしたのを横目に、かなは苦々しげな顔で拍手する。

 過去一でめんどくさ……もとい、大変かつ騒がしい現場になることだろう。そんな予感がしていた。そもそも稽古の時点で色々と問題があったのだから。

 

「(現場でイチャついてみなさい……! 即成敗してくれるわ……!)」

 

 最近作ったら、妙に愛着が湧き始めたハリセン(折りたたみ式)をポケットの中で握りしめながら、かなは一人決意を固めるのであった。




最近Xで本作タイトルで検索したら、アクみなでルビーをサンドしてる、素敵なファンアートを見つけました。他にも2枚くらい描いてもらってました。ありがたや……
密かにニヤニヤしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。