事の経緯は数日前。写真集の撮影を半分ほど終えた頃のこと。
寿みなみはスタッフらが先程まで撮りためた写真の確認をしている間、暫しの休息をとっていた。
天気は快晴。ビーチの一角に設営された、パーテーションやパラソルを利用した簡易休憩所は思いの外に快適で、冷たいレモネードが欲しくなる。……流石に撮影中なので自重しなくてはいけないけれど。
『仕上げてきたね〜! 前も良かったけど、より良くなったよ』
『身体もそりゃあ素晴らしいんだけど、表情のバリエーションも増えたねぇ。もっと色々開拓してみよう』
『……成程、男ね。私にはわかるわ。このツヤツヤ具合は80%くらいの確率で男よ』
『えっ! マジで!? ねぇねぇ、みなみちゃん! マジなの? マジで彼氏出来たん?』
『――っ! そこっ! 照れ顔いただきっ!』
『……ぐ、ふ……っ。幸せ……なら、OKです……っ!』
……そんなにウチ、変われたんやろか?
写真集の撮影時にスタッフの面々に言われた言葉を思い返しながら、寿みなみは何の気なしに手鏡で自分の表情を確認する。
いつもの自分……の、筈だ。ただ、いつも以上に気持ちを込めて撮影に臨めているのは事実でもあった。
初めてとなる、写真集の撮影。自分にとっての大きな仕事。そして……。
「(アクア、さん……)」
アクアとは基本的に三、四日に一度は会っていた。ただ眠る為だけの逢瀬になってしまう夜もあったが、充分に幸せを感じられる、優しくて愛おしい時間。
それが今はない。みなみの撮影と、アクアの稽古や映画撮影が重なり、既に一週間以上も二人は顔を合わせていなかった。
会えない辛さ……よりも、アクアの睡眠事情の方がみなみは気がかりなのだが、そこは以前よりも改善したらしく、心配しなくてもいいとは言われている。無茶はしてるんやろなぁと思うけれども、そこは最愛の人を信じることにした。
彼も今頑張っている。ならば自分も全力で仕事をこなそう。そうすれば次に会う時にはきっと笑顔で、楽しいお土産話に花を咲かせられるから。……彼の腕の中でそれが出来れば尚更に良しだ。
「……えへへ」
へにゃりと破顔しながら、みなみは自分の唇を指でなぞる。
辛い。ぎゅってされたい。頭撫でて欲しい。鎖骨辺りに顔を乗せたい。リラックスしてる姿が可愛いので、おっぱい枕してあげたい。予約したいし……されたい。
結局アクアの自宅では無理で、なんやかんやで機会は流れてしまったが……。撮影に行く直前にみなみは膨大なエネルギーを受け取っていた。
互いに寂しくて通話した時に、アクアが初めて自分を名前で呼んでくれたのである。
『頑張れよ。……“みなみ”。俺も頑張るから』
あ、今ウチ無敵かも。
そう思えるだけの破壊力が、そこにはあった。……曰く、みなみからのアクアさん呼びが想像以上に嬉しかったらしい。少し恥ずかしそうにそんな事を言うのは反則過ぎた。
嬉しくて『もっかい。もっかいウチの名前呼んで』とおねだりした結果、その後の会話が暫く『みなみ……』『アクアさん……』と、互いの名前を呼び合うだけになってしまったのはご愛嬌。
そんな訳で、みなみは今、心身共に絶好調だった。
……いつの間にか直ぐ側にマネージャーが近くに寄って来ていて、何故か顔が般若と化していても、笑顔で対応出来るくらいには。
「……あ、マネージャー? どうしたん?」
「……写真のチェック終了。OKが出たから、このまま……グギギ。次の撮影場所に移動よ」
「はぁい。次は、温泉街やね〜」
「そうね。グギ……。浴衣姿がメインになるわ。一部のショットで着崩すか着崩さないかで企画部で取っ組み合いになったアレよ。グギギ」
「……マネージャー、なんで歯軋りしとるの?」
確かマネージャーは浴衣は着崩す賛成派だった筈なので、それに憤っているとは思い難い。
撮影でも際どいシチュエーションの予定が入ってはいるが、それにだって怒るどころか、笑顔でゴーサインを出し、いっそ舐め回すかのようにこちらを見てくるのが彼女である。
どうしたというのだろうか。
「実はみなみに大きな仕事がもう一個入りそうで……絶対に飛びつくべきなんだけど、内容が問題というか……グギギィ……!」
「ふ〜ん。ウチに大きな仕事がもう一個……。……えっ!? も、もう一個!?」
思いがけない話にみなみは瞠目する。写真集自体が大きな仕事なので、これをきっかけに新たな仕事を……。そんなビジョンを立てていた所にそれは喜ばしい話の筈。なのだが、マネージャーはちっとも嬉しそうではない。
宜しくないと判断したものは容赦なく弾く彼女が、このような苦渋に満ちた表情になるのは珍しかった。
「来てるオファーは、映画の役よ」
「めちゃくちゃ凄い話やん! ……いや、待って。でもそれ……どんな映画なん?」
飛び上がって喜びそうになった所で、みなみは感情に急ブレーキをかける。
みなみは基本、グラビアの仕事がメインである。当然映画の出演経験もないし、CM等もない。以前『深掘れ☆ワンチャン』の収録に参加したことはあったが、そちらは炎上によりお蔵入り(マネージャー曰く貸しを作ったので、写真集発売前に回収もとい仕事をもぎ取るらしい)している。
オーディションなんて当然受けてもいないので、映画の方からオファーが来る確率は非常に低い筈なのだ。
にも関わらず、グラビアモデルの自分にオファーが来るということは……自ずと内容は絞られてくる。
「(エキストラで必要? でもそれならマネージャーが怒る理由ないし……ちょっとエッチなの撮られてまう可能性がある? ただ監督は有名な人だから迷っとるん? ……あるいはイメージ崩しかねない役とか……)」
嫌な想像ばかりが膨らんでいき、みなみは青ざめる。
映画の仕事は願ってもないチャンスとはいえども、これは相当な覚悟が……。
「内容は実際にあったドキュメンタリー映画。本読みや衣装合わせまで進んでいて、撮影まで秒読み段階だったんだけど……役の一人が別件で故障したらしいわ。つまりみなみに求められているのは代打よ」
「あ〜……そういう」
「元々台詞も少ない役で、起用されてるタレントも話題性とかはそれほどでもない。正直これなら役そのものカットすれば? って思ったけど……まぁ、監督の方に何らかの思惑が……ハッ!」
そこでふと、マネージャーが何かに気がついたかのようにビクリと身体を震わせた。
一方みなみは思ってたよりも深刻ではなさそう(?)なので一先ずはホッとしていた。
事情を聞く限りでは、オファーを受けたタレントは稽古時間等の関係で、かなり無茶なスケジュールになることだろう。
故に断らなそうな。下手したら数撃ちゃ当たるの要領で声をかけているのかもしれない。つまりかなり安く見られているから、マネージャーは怒ってくれていると見た。
みなみからすれば、映画にチャレンジ出来るだけありがたいので、そこまで気にする必要ないのになと思う。ドキュメンタリーならば変な役もないだろうし。
「ねぇ、マネージャ……」
「まさか……二人の関係を知っている? いや企画を見る限り、“奴”も深く関わっているのは間違いない……! しかも、演者から推薦を受けて……。いや、でもそこまでする? 一緒に共演したくて? どっち? どっちなの? 上と下、どっちが言い出ししたの? 確かに台詞も出番も少ない。女優初挑戦の子もそこそこいる。てか、元の役のナス? トマト? なんちゃらさんもか。……なら最初からみなみ選びなさいよぉ……!」
「あ〜。えっと……」
思考の渦にハマッてしまったマネージャーを見て、みなみは苦笑いしながらも口を閉ざす。こういうときは彼女が判断を下すのを待つ。その際に質問が一、二回は来るだろうから、それに正直に答えるべし。
それが最善であることを、みなみはそこそこ長い付き合いの中で学んでいた。
やがて、脳内で色々と取捨選択を終えたらしい彼女は、ゆっくりとみなみに向き直った。
「映画、出たい? スケジュールというか、多分稽古キツイわよ? 下手したら大恥かく可能性もあるけど」
「……ちょっと怖いけど、なかなかない機会やから」
「ん。その意気や良し。役とかスケジュール聞いて、嫌だったら断りなさい。最終的な判断は貴女に任せるわ」
「わかりました。何て映画で、どんな役なん?」
「…………タイトルは十五年の嘘。昔アイドルだった、星野アイの――」
「――っ! 出る! 出たいですっ!」
「チクショォオ! ですよねぇ! そうでしょうねぇ! オラ喜べや星野アクアァ!」
だから煮えきらない態度だったのか。とみなみは納得する。
欠員が出た後はアクアからの推薦だろうか? いや、使えるものは何でも使う彼だが、何となく今回の彼は自分との戦いに集中している節もある。こっちもグラビアの撮影直後だから、そこも気づかってくれそうだ。
だとしたら、良くも悪くも素直なルビーが言い出した……辺りが妥当だろうか。どのみち……。
「(あっ、どないしよ。……ウチ今、めっちゃ嬉しい……!)」
そんな甘い世界でないのは分かってはいるけれど、でも何故だろうか。今は何だか、本当に何でも出来る気がする。
そんなみなみを、マネージャーは眩しげに。そしてどこか寂しそうに見つめていた。
「恋する乙女は無敵……かぁ。……待って。乙女!? まだ乙女、……よね? いや、でもまさか、もう……」
「何想像してんねん! ……まだ、ちゃんと付き合ってへんもん……ぎゅ〜っとかはするけど」
「…………鋼の理性ってレベルじゃねぇぞ……! いや待って。星野アクア、マジで不能なんじゃ……」
「そ、そんなことあらへんもん! ちゃんと反応はしてくれてるもん! ……あっ、いや……ちゃう! ちゃうねん! 今のは……!」
「殺してぇ……星野アクア殴りてぇ……!」
アクアと交流するようになってから恒例(?)になりつつあるマネージャーの百面相を笑って流しながらも、みなみは先の未来に想いを馳せる。
初めての映画出演で大好きな人と共演出来る。その嬉しさもあるが、同時に出番は少なくとも、しっかりやらねばと気合いを入れる。
写真集と相まってこれは自分にとっても大きなチャンスなのだから。
……それはそれとして。
「(演技してるアクアさんを、間近で見られるかも……! そんなの絶対楽しみやん!)」
因みに彼女は知らない。カミキヒカル役ということは、ロマンスに近いシーンや芸能界の闇的な部分も描かれるわけで。
そんな妖しくもアダルトなシーンを他でもなく最初に間近で見て、アクアと共に演じることになるのは……実は姫川愛梨役の不知火フリルだったりする。
仕事だからと至極真面目にやる当人らをよそに、みなみを含んだ関係者全員がもれなく悶え苦しむ阿鼻叫喚な現場が完成するのは……また別のお話である。
※
6月◯日 晴れ
一応女優。理由あって、アイドル。それが私、有馬かなだ。
今年は色々と変わる年になる。そんな予感がした。今から8月の3週……下手すれば終盤までは久々となる映画の撮影。年末には私のアイドル卒業ライブ。様々なものが始まり、終わっていく。だから、ちょっとした備忘録がてらにこれから一年日記をつけてみることにした。
筆と興が乗ったら続けるだろうし、飽きたら多分途中で終わるだろう。毎日続けるかすらわからないのに、ちょっと立派な日記帳を買う自分を笑いそうになるけど……今日の出来事を体験したら、吐き出す場を作りたくなるというものだろう。
取り敢えず……。何でここにいるんだ! バイオレンスわがままボディ・淫乱ピンク同級生グラドル! ――寿みなみ!
……書いたらちょっとスッキリした。やっぱり日記って選択肢は悪くなかったわね。我ながら性格は悪いけど、それはもはや今更だ。
ママドルは冤罪だったけど、実際はどうなのやら。隙あらばまた異名に取付けてやろう。
てか、役としてはあまり出番がない人だったとはいえ、いきなり退場者が出るとはね。祈願の前でよかったと思うべきかしら?
あと、すまし顔してるけど内心は絶対ウキウキなあーくんの背中は蹴っ飛ばしておいた。ザマァ。
6月✕日
欠員一人の為に本読みをもう一回やる時間はないとのこと。可哀想だけどそれも仕方ない。
でもただでさえ突貫な稽古もあるのに、色々な共有が最低限というのもアレなので、ルビーの提案で集まれるメンツだけでやってみない? という話が出た。
日を跨いだ二回目で出てくる意見などもあるだろうし、連携は大事だ。台本の再確認や、寿みなみを見る場としては悪くないだろう。
一部オンラインとはいえ、何か普通に人が集まったのには驚いた。
アクア、ルビー、MEMちょ、あかね、フリル、メルト、姫川さん、五反田監督。あとツクヨミ(芸名らしい)って子役。
こうしてみると、私視点では共演経験や関わりがある面子が多いんだ。まぁ、それはあーくんらにも言えることだけど。
ところで、あの場では誰も突っ込まなかったから、私が言ってもいいだろうか?
寿みなみ、お前標準語しゃべれるんかい!
そもそも関西出身じゃなかったんかいっ! エセだったんかいぃ!! キャラ濃いなオイ!
新鮮〜。じゃないわよルビー! あとアクア! お前もそれちょっと思ってたな!? 顔に出てんのよぉ!
あかねぇ! 「私もエセ関西弁話してみるべき……?」って小声で呟いてたの、私は聞き逃さなかったわよ! 何処行こうとしてんのよアンタは! 戻ってきなさい!
それに……! それに……!
何かアクアと寿みなみが知らない間に下の名前で呼び合うようになってたんですが。
前は確かお兄さん呼びだったわよね? それが今や「アクアさん♡」ときた。
……いや、何があった!!
7月◯日
まぁ、わかってたけど、流石ねぇ五反田監督。
あのルビーによるアイ役登場のワンシーンだけに13テイク。でもそれだけやる価値はあった。足りないものや必要なピースをかき集めるのが本当に上手い。
ルビー自身も(本人に言ったら調子に乗るから言わないけど)どんどん良くなってる。
寿みなみの起用だって、多分ルビーの推薦という他にも、思惑があったのだろう。……そもそもキャスト変更が予定外だったというのはさておき、想像できるのはアクアのブースト役だろうか。
マネージャー斉藤ミヤコ役の台詞は多少削れたが、その分アクアの演技は更に磨きがかかるだろう。
アレはもはや水を得た魚。いや、おっぱいを得た星野アクアだ。目に見えて元気になりましたからねぇ! ケッ!
兎に角、星野アイを撮る以上、マネージャーよりも犯人役にしてアイのお相手役――カミキヒカルの方が重要なのは疑いようもない。
二人の解像度が上がるならば、役者未経験というのを差し引いても彼女を取り入れたことはプラスになったことだろう。
何か写真集も出すらしいから話題性もあるときた。本当にいいタイミングなのがちょっと腹立つ。
でも柄にもなく、パワーアップしたアクアやルビーとの撮影がちょっと楽しみになっている自分がいた。明日も頑張るとしますか。
追記。あかねが演技で私をイビるの、めっちゃ楽しそうな件。性格の悪さが滲み出てるわねぇ。ウケる。
7月✕日
まず、ちょっと前から思った一言。……現場に同じ香り漂わせて出てくるんじゃねぇえ!!
新手の匂わせかこの野郎! ちょっと二人共ツヤツヤしてるし!
あかねは白目剥くわ、フリルはサッカー選手みたいにスライディングガッツポーズしていた。カオスか。
7月□日
すげぇな。みたのりお氏。何でも出来るのね。
それと、アクアとルビーが本格的に関わるシーンが増えてくる。……やっぱ背徳感ヤバくて無理。
でもMEMちょはめっちゃ絵になると大絶賛。で、フリルがそんなMEMちょをみて嬉しそうときた。
なんなのこの現場。あかね然り厄介ファンしかいないの? 怖いんだけど。
あと、ヴェロキラプトルコント(私が勝手に命名)がちょくちょく挟まれるので、もれなくハリセンを叩き込んでおく。
真面目にやれやお前ら。いや、真面目だからそうなるのか。良くわからない。
因みに寿みなみはヴェロキラプトル化しなかった。ただ、心配そうにアクアを見守って「無理したらアカンよ。キツかったら言ってな」とだけ。
……言ったらどうなるの? おっぱい休憩入るの? もうここまで来たらその様子を見てみたい気もしてきた。
勿論その後に全力でアクアを弄り倒してから物理的に踏んづけてやるし、首から下げる看板もつけてやろう。
『私は撮影の合間に同級生のおっぱいに顔を埋めて深呼吸し、癒されていた変態です』
的なやつをね。
7月△日
私は激怒した。必ずやアクアの首にかける看板を作ることを決意した。
いや、おっぱい枕(アホ過ぎる名称だと本当に思う)やったのは撮影中にじゃなくて、ルビー曰く自宅でらしいけど。
何でも朝起きたらルビーが締め出され、アクアがそんな状態になってたらしい。
「お兄ちゃん、きっと独占したかったんだね。卑しん坊めっ」じゃねぇのよ。てか、さり気なく三人で寝たとか。寿みなみ通い妻化してる疑惑。という爆弾を立て続けに落とされたんだが?
もれなく共演者全員にアクアがシスコンかつおっぱい星人であることが広まった瞬間だった。
……いや、わりと元からだったわね。
因みにあかねはまた白目を剥いていた。もうそろそろ黒目が戻らなくなりそうね。
それはそれで面白そうだけど。
7月♡日
不知火フリルゥウ!!
7月♡日(追記)
取り乱した。お風呂の浴槽で潜ったのは小学生の時以来だ。
冷静になろう。クールになれ。
いや、良かった。実際二人の……アクアとフリルの演技は物凄く良かった。魅入っちゃったから。
アクアも上手かったが、それ以上に怖いのは不知火フリルだった。国民的美少女マルチタレントという肩書きは伊達ではないということだろう。普段は何かアレだからギャップが凄い。故に……。
脳を焼かれたというか、ダメージを受けた面々が多かった。なんやかんやで、同年代のそういうシーン(本作ではガッツリやるわけではなく、匂わせ程度だったけど事前と事後シーンはあった)は刺激が強いというか。
まぁ、寿みなみがダメージを受けてるのを見た時はちょっとだけスカッとしたのは私だけの秘密だ。
8月◯日
二人して欠伸は新手の匂わせ。夕べはフリルとのシーンをスパイスに夜ふかしですかぁ? もう二人から同じ香りがしても誰も何の反応もしなくなってしまった。慣れって怖い。
取り敢えずムカついたのであーくんの脛を蹴ることにした。何、お前最近突っ込みアグレッシブすぎ? 誰のせいだと思ってるのよ。
本日はルビーとのシーン。
何だろう。フリルのと違って、不思議な絶望感はないのだけれど……。ただ、何か深くて昏い大きな穴を覗き込んでいるかのような。見てはいけないものを見ているような……。
上手い言葉が出てこない。ただ、フリルとのシーン以上に見る人に傷を残しそうなのは確かだった。
楽しみだけど、怖い。そんな感想がもれた。
やっぱいい脚本って怨念が宿るのよね。アクアの顔色の悪さが逆に活きる日が来るとは思わなかった。
8月✕日
宮崎に移動して撮影。メルトがめちゃくちゃダメ出しをくらっていた。
……ルビーに。
いや、何でだ。何でアンタはその産婦人科の先生役にそんな強火燃やしてるの? アンタまで厄介オタクだったの?
ただの連合ファンクラブかこの現場は。
ほらアクアも、果ては監督まで戸惑ってるじゃない。
何ならメルトが殺されるシーンでボロボロ泣くし。マジでどうした? メルトもめっちゃ困った顔してた。
尚、ルビーはその後に寿みなみのおっぱいハグで嘘みたいに回復した模様。何を言ったのかは知らないが、寿みなみはカウンセラーの素質でもあるのではないだろうか?
余談だが、メルトの奴、演技また上手くなったわね。今も鍛錬は続けてるんだとか。……やるじゃん。
8月△日
ツクヨミって子。なかなか出来るわね。子役当時の私には負けるけど。
天才子役はね〜。そうそう現れないのよね〜。かーっ、つれーわ。昔の私凄すぎ。
あと寿みなみのミヤコさん役、何かアドバイス? らしきものを貰ったのか、確実に良くなってる。あくまで前に比べたら。だけどね!
生粋の配信者でもあったMEMちょもそうだったけど、グラドルやってるだけはあり、カメラを向けられたり、多くの視線を受けることには慣れてるらしい。コレは地味なようで強い武器だと思う。まぁ、役者としてはまだまだだけどねぇ!
それから、ツクヨミは公衆の面前で寿みなみのおっぱいに遠慮なく顔をムギュムギュさせているのがよく見られた。
「役柄上、私から見たら彼女はベビーシッターにして、ほぼ育ての親だからね。ママに甘えるのは、当然の権利でしょ?」とのこと。
おかげで一部の男性スタッフからめちゃくちゃ羨ましそうな視線を集めていたのが印象的だった。……おっぱい強くね?
それを見たアクアが無表情でツクヨミにアイアンクローをかました挙げ句に幼女と取っ組み合いを繰り広げるわ、ルビーがいつになく辛辣に毒を吐くわ……。
何かアンタ達、その子に風当たり強くない? そんなに寿みなみのおっぱい取られたくないの? 世も末だわ。
最終的には謎の母性を発揮した寿みなみが「アクアさん! ルビー! 子ども相手やで!」と一喝し、ツクヨミの勝利でその場は収まった。
結果的にそのママ味がよりミヤコさんの解像度を上げることになるのだが、それはまぁいいだろう。
8月□日
ツクヨミの定位置が寿みなみのお膝の上になった。背もたれもとい枕にフカフカの天然クッションが二つも完備されていて、幼女はご満悦な様子。
そのせいかアクアは不機嫌そうだ。……今からでも子役に志願すればいいんじゃないの? 合法的に甘えられるわよ? てか思考が子ども過ぎてウケるんだけど。と助言してやる。
「お前マジで的確にエグってくるよな。掘削機の生まれ変わりかよ。手のひら返しもエグそうだ」
と皮肉を言ってきたので、適当に返してやったら撃沈した。ハイ雑魚乙。
「レスバつっよ……」という誰かの呟きが聞こえてきたが……。まぁ私、役者で天才なので。
撮影も終盤だ。長いようで短くて、騒がしくも退屈しない現場ともお別れか……。
追記。「厳しい父と優しい母……あれ、擬似的な夫婦では?」じゃねぇんだわ不知火フリル。てかアンタ出番終わったのに何でいるのよ。
あかねもツクヨミ懐柔しようとしてんじゃないわよ。魂胆見え見えなのよ。でも結局座り心地で拒否られてるのは笑ったわ。
コメディエンヌの才能あるかもねアンタ。「かなちゃん、ブーメランって知ってる?」ですって? 黙りなさい。
8月☆日
昨日、無事にクランプアップだった。
爪痕を残せるいい映画になったと思う。今日は事務所にてB小町だけで祝杯をあげた。コーラで乾杯ってやつだ。ご丁寧にポップコーンまであったのは笑ってしまった。アクアも来ないかな。と期待してたが、アイツは外出中とのこと。
何処に行ったのか聞いてみたら、なんとまぁ、寿みなみのとこらしい。
……寿みなみのとこらしい。
「今夜は……いや、下手したら予備日で休暇になった一週間、全部帰ってこなかったりして〜」
なんてルビーはケラケラ呑気に笑っていた。
は? 死ね。
8月♡日
マジで一週間帰って来なかったらしい。
ナニがあった!! ナニしてたんでしょうねぇ!!
9月◯日
野郎ヤリきった顔しやがって……
あかねとまさかの二人焼き肉に行った。
楽しかった。認めたくはないけど。
成人したら一緒に飲もうとか言われたけど、それやったら私達いよいよアカン気がするのは気のせいだろうか。
10月◯日
寿みなみが何かゲーム配信を始めた件。
わりと得意らしい。将来的に写真集も出るから、ストリーマー的なやつで客層を広げてく試みなのだろう。
冷やかしで視聴に行く。数分に一回は「デッ……」というコメントが流れていた。結局おっぱいかよ!
取り敢えずゲーム画面に負けないくらい本人が映る部分が大きかった。コメントで指摘したら、周りから「馬鹿野郎それがいいんだろ!」なんて言葉が飛んできたので、ここはそういう世界なのだろう。
ルビーにアクアのパソコンの経歴を見るようにメッセージを送っておいた。どーせ見てるんでしょうよ!
追記。まさか兄妹で視聴してるとは思わなかったやん。
11月◯日
卒業ライブが近いわね。としみじみしてたら、アルバイター斉藤さんからアイドル辞めないでと言われる。
バラエティ路線、他にも色々やれる。引退詐欺的なのでなんやかんやで情に脆い有馬かなを演出しないか?
というか、何でも出来て助かってるから、このまま色んなことやろう! 天才女優なお前なら、アイドルも仮面の一つに出来る筈だ。
……あのね。私は女優一本で行きたいんです! と言ってやった。
三人全員が映画も出れちゃうアイドルグループってだけでもう強烈な個性? 言ってろ。私は絶対に卒業するんだから!
12月◯日
映画公開。あと、どうでもいいが寿みなみの写真集も発売してるらしい。どっちも好評だとか。
そして“卒業予定”だったライブツアーだが……。何で私はいつもこう――、ゴリ押しに弱いのでしょうか?
いや、まぁその影響で? ツアーのラスト超盛り上がるわ、いつもより沢山ある白いサイリウムは綺麗だったけども。……悪くなかったけども。
追記 15年の嘘の役者陣がサイリウム振ってるのが複数バズっていた。
星野アクア、不知火フリル、姫川大輝、みたのりお氏がキレッキレ過ぎる件。お前らもこっち側か。
寿みなみちゃん。サイリウムと一緒におっぱいも振ってしまう。眼福過ぎ。写真集買います。
一人だけワンテンポ遅れるメルトきゅん面白すぎ顔がいい。
白サイリウムと有馬かなグッズで完全武装した黒川あかねさんがこちらです。
……楽しそうだなぁ! アンタら!
※
某月某日
待って。待って。
メイキング映像撮り溜めてたなんて聞いてない!
円盤化に伴い特典映像にする?
バカなの? シリアスな内容全部吹っ飛ぶわよ!?
わかってるの?
数週間後。何かバズって、トレンドが面白いことになったらしい。
もう知らね。
寿みなみ☆3
タレント力:B バラエティ力:B ネット・SNS:A 話題性:B 役者:D 楽曲:C
せっかくなので勝手に作ってみた↑ ネット・SNSは自宅コス写真などをあげてるっぽいので。楽曲Cなのは中の人がYouTubeにて動画出してたので。CDとかが出てたり、ライブしたことがある訳ではないっぽいのでCとしました。(私のリサーチ不足だったらすいません)出てたらBにしてた。
一応今はデアリングタクトの中の人にもなってますが、この時点ではまだ出てないので……