恋人同士になり一日目。
ホコホコと湯気を立てるマロウティー。せっかく入れたレモネード入りのそれは、追加された風味を楽しまれることもなく放置されていた。
いずれ冷めるのは必然だろう。だがそのかわり、それが繋ぎ合わせ、最終的に想いを通わせた二人は……。
「みな、み……っ!」
「んっ……、アクア、さぁん……!」
ちょっと冷静になるべきでは? と苦言を呈されそうなくらいには、熱く。激しく。燃えに燃え上っていた。
「(ヤバい……もう、どれくらい経った……? 流石に冷静に……いや、でも……)」
「(止まらへん……離れたら、またしたくなってまうし……でも……)」
別に我慢しなくても、いいか(ええか)。
ほぼ同時にそんな結論を出し、二人は蕩けた視線を絡み合わせた後、再び目を閉じて抱きしめあう。
そこからは……まるで糊づけするかのようなキスを再開した。
優しい、幸福に満ちた初めてのキスの後、お互いに照れてはにかんだのが、もう遠い昔のようだった。
時間にしてはや三時間。飽きもせず。なんなら時折互いに大好きな激しめのハグやボディタッチを交えて、アクアとみなみはソファーの上で求め合う。
理性だとか思考。他にも色々と……凄まじいことになっていた。
チュッチュ。という可愛らしいものから、ジュルル、クチュクチュといった粘膜同士が絡み合うような、いやらしい音。年頃の男女の切羽詰まったような息遣いが、途切れることなく部屋には響く。
何かもう、酸欠にならんばかりの勢いだった。それくらいにアクアもみなみも……お互いの“味見”で忙しかったのである。
「――っ、は」
「あぅ……ふひゃ……」
苦しくなって離れたが、そうなると不思議な切なさで胸が締めつけられる。結果、引き寄せられるかのようにキスをして……もうどうにも止まらなかった。
唇が潤い過ぎている。なんなら吸いつき、舐め合ったせいで若干どころか確実に湯気が出ていた。
動かしすぎた舌もまた同じ。程よい痺れが走っているが、それすら甘い。多少密かに心得があるアクアはともかく、みなみは最初、おずおずと差し出すだけだった。
それだけでも、舌と舌が触れあっただけで身体中に電流が奔ったかのようで、色々と大変なことになったのに……。
そこから集中講義もかくやにアクアから、じっくりずっぷり。ねちっこく快楽を叩き込まれ、もとい教え込まれたみなみは……。
「……アクア、さん……もっと。もっとぉ……」
完全に恋人限定のキス魔へと作り変えられてしまっていた。
頬を染め、可愛らしく唇を突き出すみなみに、アクアは焦らすように啄むようなキスだけをして、そのまま誰にも渡さないと主張するかのように、腕の中へ愛しい女性を囲い込む。
激しいのがお望みだったのか「酷い! いけずや!」とみなみが涙目になる姿にたまらなくながら、アクアは恋人の最高な抱き心地を堪能する。
余裕たっぷりの彼氏……と見せかけて、実はアクアも具体的には伏せるが、大変なことになっていた。それこそ、少しでも気を抜いたら、ただの獣と化して、みなみをめちゃくちゃにしてしまいそうなくらいに。
ファムファタールと呼ぶにふさわしい、本当にとんでもない女である。未だに首筋をカプカプ甘噛みして抗議してくるみなみをもう一度ディープキスで黙らせて、アクアは優しく桃色の髪を指で弄んだ。
ご要望通りにしたのに、腕の中でヒクヒク痙攣する彼女が愛おしくてたまらなかった。
「(…………やばいな。話したいことだっていっぱいあったのに。めっちゃ我慢してたせいか……? なんでこんな全身……口の中まで柔っこいんだこの子は……!)」
「(舌がぁ……こんなの溶けてまうぅ……アカンてぇ。どないしよ? ああ、でも何かもう……ずっとこうしてメチャクチャにして欲しい……)」
よし、一旦落ち着こう。
先に意を決して身体を離したたのはアクアの方だった。そりゃあ、もっとめちゃめちゃキスしたかったが、流石に限度がある。太陽なんてもう傾いて、夕焼けがそらをオレンジに染め上げていた。それが部屋全体をムーディな雰囲気にして……。
「あっ……ぅ。アクアさん、なんでぇ……」
「………………………………マジかよ」
離れたみなみの姿を、より蠱惑的なものに仕立てていく。
涙を滲ませてトロンとした瞳。紅く染まる頬。互いの唇を繋ぐ、ねとついた銀色の橋。半開きになった口からチロリと覗く舌は、まだ物足りないというようにヒクついて……。アクアは思わず天井を仰ぎ見た。
「(馬鹿な男だと笑ってくれ。……恋人がエロすぎる)」
戦慄し、固まるアクア。すると隙ありとばかりにみなみは再びアクアにくっついて……。
「待て。待てみなみ。ちょっと落ち着け」
「もっかいちゅー……したいねん」
「……わかった。もう一回だけな」
「……ウチとするの、嫌なん?」
「そんな訳無いだろ。ちょっと止まらなくなりそうで、流石にみなみに引かれそうで……」
「足りへんもん。ずっとしたかったから……全然足りへんもん。寧ろアクアさんの方こそ、ウチに引かないで……」
「そんなこと言うと本当に止まらなくなるぞ」
無意識で低い声が出てしまう。
危険だ。そう頭ではわかっていてもアクアは言葉を紡いでいく。
腕の中のみなみが、ピクンと感電したように身を跳ね上げる。その震えは恐怖によるものではなく。愛する男に蹂躙されることへの悦びからくるものだった。
「セ、セーブしてたん? ア、アレで?」
震え声で慄きながらも、みなみはますますその豊満な身体を押し付け、擦り寄せてくる。
今日のみなみの服がトップスにワンピースという形で本当によかったとアクアは思った。ボタン付きのブラウスだとか、いわゆる脱がせやすいものだったら……自分の手が悪さをしない自信がなかった。
今ですら素敵な楽園の果実に手を伸ばしたいわ。彼女の柔肌や魅力的なかつ女性的なボディラインを指がなぞりたがっているのに。
ハグで多少誤魔化し、解消していなければ危なかった。
「あんまり、がっつくのもな。怖がらせたくないというか。みっともないとこ見せるのは……」
「言うてウチ、キスだけで腰砕けにされてんやけど。今だってあんま力入らへんのに」
「……そんなこと言うと、もっと色んなとこにしたくなるんだけど?」
「へぁ!? い、色んな……とこ……?」
なお、おっぱい枕で散々癒やされていたことは、みっともないに入らないらしい。所詮星野アクアも雄であった。
もっとも、色んなこと。でムッツリを発揮するみなみもまた、大好きな人の前では雌に過ぎなかった。
「…………」
「…………」
視線を交わす。落ち着こうとは何だったのか。
ゴクリとお互いの喉が鳴る。
「お腹、……空いてないか?」
「減ってない……あっ、せやけど今から作ったら、丁度ええやろか? 泊まって、いく……やろ?」
「いい……のか?」
「いけず。せっかく恋人になれたのに……帰っちゃアカン。行ったら嫌やぁ……」
繋ぎ止めようとしているのか、くっついたまま、みなみはアクアの顎に吸いついた。
可愛らしいチュ。という音と一緒に少しだけ今更ながら恥ずかしそうな笑顔が花開いて……。
アクアはそれだけでもう、骨抜きだった。
「じゃあ泊まる。明日の予定は?」
「予備日中は、何にも。アクアさんは?」
「俺は……そうだな。何日かだけ、ぶらりと一人旅でも行くかって、漠然と考えてた。まぁ、予定は未定だけど」
「……アカン。行ったら嫌やぁ……」
「……それ言うと俺が何でも言うこと聞くと思ったら大間違いだからな? てか、わざとだな?」
「あはは。バレてもうた」
ペロッと可愛らしく舌を出すみなみの額をつつけば、みなみは少しだけ身体を離して、両手を広げた。
アクアは首を傾げつつも、半ば条件反射でみなみの柔らかくてフワフワな乳房に顔を埋めた。
「――はっ! ち、違う待て。何でそうなる!」
「はぁい、ぎゅ〜。離さへんでぇ。……ね、アクアさん。本当にお疲れ様」
優しくアクアの後頭部を撫でながら、みなみはそう囁く。二人きりで言う機会がなかったからというのもあるが、みなみはこの言葉だけは絶対に伝えたいと思っていた。
「やっぱりアクアさん凄いわぁって。何度も惚れ直したんやで? 役者やってるアクアさん……めっちゃカッコ良かった」
「…………っ」
「よかった。復讐なんて選ばないですんで、ホンマによかったぁ……。ウチ、これからもアクアさんと一緒にいてええんやろ? 傷はまだ癒えへんかもしれへんけど……前に進むお手伝い、してもええ?」
「……ああ、当たり前だ。君が……俺の幸せなんだ。ずっと君と一緒に歩き続けていたいんだ」
誓いを立てるかのように、アクアはいつかのように、みなみの髪を一房束ね、そこへキスを落とす。それを受けたみなみは嬉しそうにアクアに頬ずりし……。
「アクアさん、ちゅーして」
「聖母みたいだったのに、いきなり可愛くなるのやめろ。……いや、いつも可愛いけど」
「またスケコマシなこと言う〜。……それにやられてまうのがウチやけどぉ」
笑い合ってから、愛しげに見つめ合い、二人は唇を結んで優しい温もりを共有する。顔の角度を変え、甘くてとろけるような時間に耽溺する二人は、せっかく起き上がったというのにまたソファーに身を沈めて……。
再び、みだらな口づけの音がその場を支配し始める。
結局、そのまま盛り上がった結果、二人がキッチンに立ったのはそこから更に三十分後。
星野アクアと寿みなみは一日目にして、バカップルへの道を爆走していくのであった。
※
一日目、夜会話
「ねぇ、鎖骨のとこに跡……つけてみてもええ?」
「ああ、いいよ。……………あのさ」
「……ウチ、この一週間と前後は、撮影の予定ないねん」
「…………」
「だから、ええですよ〜。アクアさんの好きなとこにつけて? ……ウチの身体、どこが好き?」
「(この子はなんでこう……いや、半分は意図的なのがまた……同じとこにしておくか)」
「(あっ、一瞬やけど視線が……。やっぱおっぱい好きなんやなぁ。………………アクアさんなら、ええんやけどなぁ)」
※
恋人同士になり二日目。
以前にも語った話ではあるが、都会における野鳥の勢力図は、ここ数年で激変したらしい。
雀が極端に減り、反対にカラスや鳩。場所によってはムクドリが増えたのだとか。なので、少し前の漫画等で見られた表現――、カーテンから漏れる陽光と雀の囀りでゆっくりと起きる爽やかな朝……それ自体が貴重なものになってしまったという。
そんな中でアクアとみなみもまた例に漏れず、気が抜けるようなカラスの鳴き声と、“真っ暗だった筈の部屋がぼんやりと明るくなり始めている”のに気がついて……。お互い我に返ったのである。
「…………………なぁ、みなみ」
「…………………アクアさん、なんも言わんといて」
ベッドの上で抱きしめあったまま気まずい沈黙を経て、アクアとみなみは同時に目をそらす。
しっとり湿った口元や肌。乱れに乱れたシーツ。はだけたパジャマ。キスマークまみれの首や鎖骨まわり。端から見れば完全に事後の様子そのものだが……。
「いや、現実を見よう。俺も驚いてる。みなみにもだが、主には自分自身に」
「な、なしてぇ!? なしてウチにも!?」
「いやだって……! 普通はどっちかが辟易するだろが! なんでキスとハグやじゃれ合いで……朝になるんだ……? マジか……」
「そ、そんな……絶望せんでも……」
神は死んだとばかりに頭を抱えるアクアに、みなみは唇を尖らせる。時間を忘れるくらい幸せだったのに。彼は違ったのだろうか? そんなみなみの表情を察したのか、アクアは苦笑いしながら「嫌だったわけじゃないよ」と弁明した。
「……なぁ。昨日を取り敢えず、振り返ってみていいか?」
「えっ? 昨晩は……いっぱいちゅーして……いっぱいぎゅーしたり、触ってもろて……」
「まぁ、料理中も隙あらばくっついてた気がするが……」
「シチューやったからなぁ」
「キッチンタイマーの偉大さがよくわかったよ」
「焦げなくてホンマによかったわぁ」
鍋の中で具材が柔らかくなっていくすぐ横で、二人は互いに蕩け合っていた。もはやどっちが煮込まれていたのかわからない状態だった。
「で、お風呂入って……その後は……」
「…………はぅ」
何かを思い出したのか、みなみはにやけながらアクアの胸板に顔を埋めた。じゃれつく姿に再びアクアの中で火がつきそうになっていたのだが、そんなことみなみには知ったことではなかった。
「正直反則過ぎたんだよ」
「アクアさんがそれ言うん?」
「お互い様、なのかはわからんが、少なくとも昨晩に関してはみなみが悪い」
見慣れたシンプルなパジャマなら……ある意味で冷静になれたかもしれない。一周回ってそういうのが一番エロくなる可能性があるのだが、それは今置いておく。
いつかのパーカーとキャミソールなら大変なことになっていた。
だが、昨日のみなみは恋人としての初めての夜ということで……今まで隠していた、ガーリーなネグリジェ風のパジャマを引っ張り出してきたのである。
「……どうやった?」
「眼福すぎた」
「――っ! えへへ……やったぁ〜」
その上で「今夜はいっぱい可愛がってな〜」なんて殺し文句を叩きつけられたら……。いつでも眠れる体勢。時間はたっぷりある。テレビや映画を観たり、のんびりお話する等、選択肢はいくらでもあったのだ。
だが、恋人になりたて。以前は誤魔化していた直接的なスキンシップが解禁された後となっては、若い二人に我慢は不可能だった。
もはや説明の必要はなく。もつれるようにベッドに潜り込んだ二人はたっぷりと。心ゆくまで大好きな人を堪能して……今に到る。
「……どっちも冷静になれなかった辺り……この先が怖いな」
「なして〜?」
「……歯止めが効かなくなりそうで」
「………別にええやん」
「みなみ!?」
「……親戚の話やけど、その子のお父さんとお母さん高校から大恋愛の末に結婚したらしいんやけど、今も昔も呆れるくらいラブラブなんやて。実際めっちゃ仲良さそうやったなぁ」
せやから、イチャイチャしすぎてもええやろ? 誰かに迷惑かけたわけでもあらへんし。
そう言ってみなみはぎゅむぎゅむと、アクアにますます身体をくっつける。これくらい遠慮なくグイグイ行った方が、かえって幸せに萎縮しがち。もといあまり慣れてなさそうなアクアにとってはいいのかもしれない。そんな気持ちからくる行動だった。
実際クリティカルだった。おっぱいとか関係なく(多少)
「……君に予約されて、なんやかんやで半年近くこうして過ごして。恋人になれた訳だけど……多分反動が来てるんだ」
「反動?」
「めちゃくちゃ甘やかしたいし、何かもうベタ惚れになる未来が見える」
「キュンキュンさせるのやめてくれへん? めっちゃカッコイイ声でめっちゃ可愛いこと言うて……ウチが死にそうになるんやけど」
「……君まで死んだら……俺はもう無理だぞ。そんな事になったら……」
「……はい、ぎゅ〜」
身体をずらし、ちょっと暗くなりかけた彼をおっぱいでリセットする。「ウチはどこも行かへんよ」と囁きもそえて。
クリティカルを通り越して、即死……ならぬ即オチ攻撃だった。
結局おっぱいでの癒やしが鉄板であった。みなみは板どころかフワフワなマシュマロメロンであるのだが、細かいことは頭がパブロフの犬……もとい平和になったアクアには関係のないことだった。
「……こうやって解決する辺り、俺は案外単純なのかもしれん」
「アクアさん、おっぱい星人やもんなぁ」
「……君にだけだよ」
ありがとう。と、静かに顔を離し、二人は微笑みながら甘く見つめ合い……。顔を引きつらせた。
「無限ループの怖さがイマイチわからなかったんだ。……今、実感してるけど」
「……でも、しかたないやん……こんなの……」
むちゅ。なんて音がしそうなくらい。……実際にしていたのかもしれないが、ともかく朝だと認識してから最初のキスをする。おはようと言いたいが寝ていない。そして……。
「……さ、流石に寝るか」
「せ、せやね。寝たほうがいいわぁ」
「…………」
「…………」
おやすみのそれは、無言で触れ合うだけ。
だが、昨晩は散々に……いっそ口と愛撫によるセックスと言っても過言ではない程に激しく熱を交わした二人には、少し物足りない。
「寝れなくなる! このままだと寝不足になるから……」
「せ、せや! せやな……」
「ああ、だから……」
「うん、だからぁ……」
もう一回、だけ。
……結局、最後の一回がとてつもなく長く、はしたないベーゼになるのにはそれほど時間が掛からなかった。
ひょっとしてあんたら、コントやってるの? と、有馬かながいたら目や握り拳から血を流して突っ込んでいたことだろう。
そもそも三時間プラス料理中もイチャついていたのに、この現状である。みなみのマネージャーの顔が困惑する猫のようになる案件であった。
予備日はあと5日。二人がどうなってしまうのかは……もう誰にもわからなかった。
因みに、起きた後も結局ベタベタ口も身体もくっつけていたのは……もはや説明不要だろう。
※
二日目、夜会話
「君はアレか。俺を毎晩誘惑しないといけない義務でもあるのか?」
「えっ、このパジャマ……そんな好きやない?」
「……………………好きだけども。寒くないか?」
「あはは……。何かアクアさんって、時々心配の仕方がおじさんみたいやなぁ」
「おじ……」
「オフショルダーのレース生地。攻めすぎやろか思ったけど……せっかくやから、ね?」
「………(最高すぎる)」
「………(あっ、目線がまた……。よし)」
「? みなみ?」
「ねぇ、アクアさん……昨日も今日もいっぱい可愛がってくれたけど、何か我慢してへん?」
「……してねぇよ」
「ホンマにぃ?」
「して、ねぇよ?(その格好で前屈みはやめろぉ!)」
「……ええんやで?」
「……何がだよ」
「おっぱい。その……触っ、て?」
「………――――っ」
三日目へ続く
因みに推しの子チャンネルでハロウィンの動画が出た時
アクア「せっかくだからめちゃくちゃ(血を)吸って帰るか」
それおっぱいや母にゅ……いえ、冗談です。そんな幻覚が見えた作者です。