最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

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黒川あかねも結構ムッツリ

 そのニュースは黒川あかねにとっては最悪と言っていい恐怖の具現だった。

 

 カミキヒカル。アクアとルビーの母親であるアイの仇であり……明確な証拠はないが、父親と思われる人物。

 その殺害のニュースが流れた時、あかねが真っ先に浮かべたのはアクアの顔だった。

 何が起きているのか? 彼の関与は? それとも偶然?

 状況からして、圧倒的に後者のほうが可能性は高いが、なんともいえない状況でもあった。ともかく、衝動的にスマートフォンを取り出し、アクアに連絡を入れようとして……あかねの動きは、そこでギシリと停止した。

 明晰かつ有能な彼女の脳細胞は、少し待て。よく考えろと命令を下していた。

 こういう緊急事態の時に求められる要素は複数ある。最適な行動。それは勿論のこと、最悪の事態をある程度は想定して、極力は回避するように行かなければならない。

 

 あかねにとっての最悪の事態とは?

 脳内で幾重ものシミュレートを繰り返し、その状況を弾き出す。

 

 一つは、カミキヒカル殺害の犯人がアクアの場合。

 正直可能性は低いとは思う。機が熟していたならば、彼は己の手を汚すことは厭わないだろうが……。アクアの雰囲気や行動を思えば、彼がカミキヒカルを普通に殺害するつもりはないことは明白だ。

 そんな彼が歩道橋から突き落とす。という形で復讐に幕引きをするだろうか? 

 答えはノー。だが、万が一あかねが知り得ない範囲で急速に状況が変わっていたのだとしたら……。アクアは周りを守る為ならば、自ら殺人犯に身を堕とすことだろう。

 

「(犯人は逃走中……容姿の特徴等の記載はまだなし……)」

 

 状況はグレー。ともかく文書が残る形で連絡するのは危険だ。どんな形でそれが流出するかわからない以上、アクアが犯人なら、彼の足を引っ張ってしまう。

 なので連絡するのは一旦辞めにした。……一方で破局してから、お互いに連絡を取りあっていなかったが故の不安もあったけれども。例えばもしブロック等されていたのが判明したら……ちょっと立ち直れないというか、泣いてしまうかもしれない。徹底したアクアならばありえない話ではなかったからだ。

 

 もう一つの最悪の事態。それは完全な第三者の手でカミキヒカルが殺害されていた場合だ。

 これはすなわち、アクアが立てていた復讐が潰えることを意味している。

 これ自体はいい。アクアが手を汚すことなく、周りを物理的に脅かす存在もいなくなる。一見理想的かつ、これからは幸せな未来を求めていける……ように見えるが違う。

 あかねはカミキヒカルに言いたかった。同情する余地などない相手だから構うものか。

 

 なんでもっと早く死んでくれなかったの!

 

 この一言に尽きた。アクアはもう、動き出していたのだ。大切なものを手放す準備をして。多分色々な証拠を集め。社会的にと物理的に。もしかしたら精神的にも相手を殺す為に。

 だから、私を突き放した。地獄には自分一人でいくと言って。

 だからアイさんの墓を暴いた。多分身を切るような選択だったのだろうけど、あれすらもアイさんに子どもがいる……イコール相手は誰か? というクエスチョンを、世間に投げかける布石だったのだと思う。同時に……もしかしたら、“わざとルビーちゃんに嫌われて決別する為”に。

 他にも見える限りでいくつもの目的が、あの自らによる暴露にはあったのだと思う。

 本当は復讐なんかしたくないくせに、自分の逃げ道を塞いだのだ。

 

 そこまでやって、多分最後には私達の前から消えることまで算段に入れて……。そこで復讐そのものが消失した。これによりアクアがどうなるのか。

 それが黒川あかねにはわからなかった。起こりうるパターンが多すぎて、一つに絞りきれない。プロファイリングによって導き出したアクアは、まるで“いくつかの人格があるか、他の人生を歩んできたかのような”整合性の無さを見せていたのだ。

 一番考えうるのは目の前でアイが殺害された事による弊害。パニック症に加えて……精神の分裂が起きていた可能性があるが、確証は得られず。

 結果、このような事態が起きた時にアクアが取る行動が何もわからない……という恐怖だけが残ってしまった。

 

 会いに行かないと。

 あかねは決意した。もう関わるなと言われたけど、自分は了承なんてしていないから。だが……。

 

 間が悪いというべきか。あかねは仕事に追われていた。少なくともその日にすぐ駆けつけるのは不可能で、次の日もほとんど時間なし。三日目の夜ならばワンチャンスあり。そんな具合だった。

 だからあかねは頑張った。それはもう頑張った。

 関係者は語る。その日のあかねは鬼気迫るというか……天才が神域に至るかのごとく。

 とんでもない数の一発OKを出すばかりか、周りのポテンシャルまで引き上げるような演技を見せ……。本来三日分は必要と言われた撮影を一日半で終了させてしまったのである。

 収録後、背中で語るような堂々たる現場の退場ぶりに、周りからは自然に拍手が上がったとか。

 なお共演していた年配の大御所女優は「ありゃ、間違いなく男絡みだね」と笑い、その場にいた若い俳優らが揃って肩を落としたらしいが……それはまた別のお話だ。

 

 ともかく、あかねはアクアの通う学校にやってきた。自宅に誰もおらず、事務所に連絡すると今日は出席日数のために登校しているという話を聞いたからだ。

 途中で有馬かなに出会い、少しだけレスバトルが始まりかけたが、あかねはそれどころではなかった。本当はもう少しだけお話したかったけど。

 あと、かなは何故かこちらを、可哀想な人を見るような目で見てきたが……多分、破局したのに未練がましく学校にまで会いにきたことに思うところがあるのだろう。他にも妙に胸元に無遠慮な視線を向けられたが……本当になんだったのだろうか? まぁ、今はもうどうでもよかった。

 

 一目会い、どういう状況なのか聞きたかった。

 アクアが復讐という業を背負っていると知る人は少ない。だからこそ……もしボロボロだったら支えてあげたかった。

 

 そして待ちわびた再会は果たされる。果たされはしたのだが……。

 

「そう、だな。何処か適当に話せるとこがあればいいが……」

 

 校門の近くにてアクアに助け起こされながら、あかねは立ち上がる。

 そこで初めて、最初からアクアしか見ていなかったあかねは、傍に見知らぬ女の子が佇んでいることに気がついた。

 

「(誰だろ? どこかで見たことあるような、ないような……というか……)」

 

 ピンク系の髪が特徴的な、可愛らしい子。そして……一応駄目だと分かっている。分かってはいても……目がそこに吸い寄せられてしまう。

 

「(なんか、凄い。凄くこう……凄い)」

 

 思わず自分のを確認しないよう腐心しながら、あかねは会釈する。すると、女の子も慌てたように挨拶を返してくれた。

 そのまま三人の間に沈黙が流れる。会話の切り口を、誰もが探していた。

 

「えっと……」

「つ、積もる話もあるやろ? えっと、お兄さんが説明して……あげんと」

「あ、ああ。そう、だな。そうなんだが……」

「……お兄さん?」

「……いや。なんでも無い。また何処かの機会で話そう」

「えっ? あっ……うん。……そうや、ね」

 

 戸惑う様子で、視線を交わしながら話すアクアと女の子。もしかしなくても会話の腰を折ってしまっていたことにあかねは今更気がついた。

 悪いことしちゃったな。そう思いつつも、何故か譲る気にはなれなかった。

 行かないで。そんな空気を何となく女の子から感じ取り。あかねはぐっと心を鬼にする。

 ダメ。今だけはダメ。そんな気配が伝わったのか、女の子は再びペコリとこちらにお辞儀すると、パタパタと走り去ってしまった。

 

「……取り敢えず、何か食べながら話すか?」

「ごめんね。ワガママかもだけど……二人きりになれるとこがいいな」

 

 女の子の後ろ姿が見えなくなるまで、アクアはずっと見送っていた。その様子に少しだけ胸がざわめくのを感じながら、あかねはおずおずと希望を口にする。

 

 誰にも邪魔されたくない。他の視線なんていらない。

 そこまでは口にしないが、そう考えてはいる。するとアクアはしばらく考えてから、わかったと頷いた。

 

 連れてこられたのは、都内のネットカフェ。その完全個室だった。所謂カップルシートである。あかねの希望通り人目がなく。手頃かつ密談をするにはうってつけの場所だった。

 

 やがて、アクアの口から語られたのは、カミキヒカルのこと。突然の報道はやはりアクアに衝撃を与えていたようだった。

 

「よかったん……だよね?」

「……ああ。色々と複雑だし、正直最後の最期まで色んな意味でこっちに害悪を撒き散らしてくれはしたが……よかったんだ。そう、思えるようになった」

「そっか……」

 

 あかねはその言葉を聞いてひとまず安心する。

 なら、もう何も心配はいらないんだよね? 嫌だった復讐に囚われることもなくて。幸せに……。そう口にしようとした所で、あかねはアクアの表情に気がついた。

 痛みを堪えるような。まるで自分の罪に向き合うような顔で、彼はあかねを見つめていた。

 

「……正直、あかねにはあわせる顔がなかった」

「……え?」

「あんな別れ方をして、一人で行くとか言っておいてこのザマだからな」

「それは、アクアくんが悪いわけじゃ……!」

「いや、悪いだろ。やってたことは最低で……」

「でも! それは全部私を……他の人を守る為だったでしょ!」

「それでもだ。愛想を尽かされても仕方がない。いや……正直俺なんか忘れてさっさと幸せになってくれたらって思ってた。――だからこうして会いに来て、心配される資格なんて、俺には――」

「バカッ!」

 

 身体が震えるのが分かる。何で。どうしてそんなこというの?

 あかねの中で燃え上がるような激情が鎌首をもたげた。

 もういい知らない。あかねは全ての我慢を取り払い、勢いのままにアクアをその場で押し倒した。

 

「あ、あかね!?」

「アクアくんの、バカッ! 私、わかるんだからね! アクアくんが全部背負い込んだことも! 復讐が完了したら、いなくなっちゃうつもりだったのも!」

「そ、それは……」

「だから、こんな形で復讐が終わった時、凄く怖かったの。何も言わないで、遠くにいっちゃうかもって。全部が、どうでもよくなっちゃうかもって……!」

 

 眼前にあるアクアの顔が悲哀でどんどん酷いものになっていく。図星だったのだろう。もしかしたら一歩間違えると本当にそうなっていたのかもしれない。どんな形であれ、踏みとどまってくれてよかったと思う。

 

「アクア、くん……っ、アクアくぅん……」

 

 無意識だった。涙に濡れた瞳のまま、あかねはアクアに顔を近づける。

 ずっとこうしたかった。なんなら、この個室に入った瞬間に奪って欲しかったし、奪いたかった。

 

「アクアくん、私――――んっ!?」

 

 あかねの目が見開かれる。その柔らかな唇は……アクアの掌で塞がれていた。

 

 ※

 

 やってしまった。アクアは己の酷さを再認識する。

 どうしてかと聞かれたら、身体がそう動いてしまったからとしかいえなかった。冷や汗が吹き出す身体の上で……あかねの身体はアクアと同じように震えていた。

 

「…………っ」

 

 あかねの瞳から悲しみが溢れ出す。どうして? と、訴えてくるような視線から、アクアは目をそらす。

 

「ごめん、ね。そうだよね。嫌だったよね……。だって私は、もうアクアくんの……」

「――っ、違うんだ。嫌だった訳じゃない。本当だ」

「無理して嘘なんかつかなくても……」

「嘘じゃない!」

「……じゃあなんで」

 

 アクアの身体に全てを預けて、あかねはその胸に顔を埋めてくる。花のような爽やかで可憐な香りがアクアの情緒をかき乱す。この感情は……ある意味で恐怖だった。

 

「あかねを穢せない。そう、思ってしまうんだ」

 

 だから、包み隠さぬ本心を告げる。

 嫌いな訳じゃない。そんな筈無いのだ。自ら手放した時ですら、筆舌に尽くしがたい苦しみがあったのだから。

 

「カミキヒカルが死んだ時、これからどうするか考えて、真っ先に浮かんできたのがあかねだった。今なら、もう一度あかねとやり直せるんじゃないか。そう思った」

「――っ! 出来るよ! 私は――」

「でもダメなんだ。どうしてもダメだ。酷いことしておいてって感情だけじゃない。俺が……俺自身の心が分からない。多分まだ、自分を赦せてないんだよ」

「……そんな」

 

 服の襟元が握りしめられる。ちょっとだけ、胸に爪を立てられていたが、それは気にしなかった。何ならビンタくらいは食らわされてもいいかもしれない。

 アクアは今、それくらいに本気で自分がわからなくなっていた。

 だから皮肉にもあかねとの再会がより自分の罪を浮き彫りにして……実は密かに作ってしまっていた、あかねにした仕打ち。という小さなトラウマを刺激してしまっていたことを、アクアは気づけない。

 

「ルビーにも、まだちゃんと謝れていない。アイの墓を暴いたことは許されることじゃない。だから俺はこれから一生かけてでも、償っていかなきゃいけない」

「……私に構ってる場合じゃないってことだね」

「い、いやそこまでは言ってない……」

「言ってるようなものでしょ」

「違……」

「違わないっ」

「…………」

 

 部屋に静寂が満ちていく。

 感じるのは互いの体温と、規則的な心臓の音だけだった。

 

「思えば、ずっとそうだったね」

「……何がだ?」

「アクアくんは……私に全然甘えてくれないの」

「そんなことないだろ。俺は……迷ってたよ。復讐を捨ててもいいんじゃないかって。あかねは気づいてないかもしれないけど、俺はずっと支えられていた」

「……本当に?」

「本当だ」

 

 静かにあかねが顔を上げる。その顔をアクアは今度こそ正面から見つめた。

 

「幸せになるのが……怖いんだね。アクアくんは」

「……そうだな。そうなのかもしれない。いや、実際そうだったんだ。でも今は……さっきも言っただろ? 復讐がなくなってよかったって」

「うん。そういえばそこは、意外だったかな。正直パニックになっててもおかしくないって思ってたから」

「……今すぐ自分を許せなくてもいい。復讐がなくなって、今はまだ戸惑ってるだろうから、もう少しだけお休みしてから……贖罪の道を歩んで行く。そう考えることにしたんだ」

「……そっか。むぅー」

「あ、あかね?」

 

 ぷくー。と、久々に見るあかねの不機嫌な顔。それを見て、何か失言してしまっただろうかと焦るアクアだったが、すぐにそれはあかねの笑顔で払拭された。

 

「私、もしかしなくても、余計なことしちゃったんだなって。ちょっとずつ自力で立ち上がろうとしてたアクアくんの邪魔になっちゃってた」

 

 ごめんね。と言いながら、あかねは静かにアクアから身を離した。

 寂しそうに笑う彼女を見て、アクアの胸がチクリと痛む。また泣かせて、酷いことをしてしまったと自責の念にかられながらも、これだけは伝えたかったことをあかねに告げる。

 

「あかね。結局事が動いてから、まだ一日だ。これから多分俺は……苦しむし、後悔もいっぱいするだろう。いっぱい迷うけど……お前が心配してくれたのが。俺を想ってくれたのが、嬉しかった。だから……」

「急にいなくなったりしない?」

「しない」

「早まらない? 自分を大事にしてくれる?」

「ぜ、善処する」

「むぅ……幸せになってくれる?」

「――っ」

 

 約束すると言い切れない。まだそれは受け止めきれていないから。するとあかねはうんと小さく頷いて俺の隣に擦りよってくる。

 

「よかった。俺は幸せになるつもりはないとか、ここで言ってたら……嫌がるアクアくんに無理矢理ちゅーしてたよ」

「……言うべきだったか」

「……付き合ってた頃みたいに舌もねじ込んじゃうけど、いいの?」

「ごめん、今のはほら、軽いジョーク……いやスマン。本当にスマン」

 

 だから今は……この幸せに迷う情けない姿で勘弁してくれ。

 そう言って弱々しくため息をつくアクアに、あかねは優しく「いいよ」と囁いた。

 

 ※

 

 早まっちゃったんだ。

 あかねはそう自覚した。アクアの復讐がなくなって、自分は彼を心配しながらも、心の何処かで自分のことを考えていたのだ。

 苦しんでいるとわかっていたのに。今なら幸せだった日々に戻れるかもしれないと勝手に突っ走ってこのザマだ。アクアを蔑ろにして、こんな無理矢理迫るような真似をしてしまった。

 今は時間が必要なんだ。アクアは幸せになることを何とか頑張ろうとしてくれている。それを認められる時……ようやく誰かを愛せるんだと思う。

 その時に隣を歩いているのが自分なのか、有馬かななのかはわからないけど。あるいはどっちも選ばれなかったりもありえる訳で……。

 ふと脳裏に校門で会った桃色の少女の姿が浮かんできた。

 

「ねぇアクアくん、そういえば今日一緒にいた女の子は……どういう関係なの?」

「え? ああ、寿さんか。彼女は……彼女、は……」

 

 あ、どう説明すべきだ? って顔に書いてる。そうあかねは直感した。

 同時に友達っていえばいいのに言わないのが、何だか怪しいなぁ。と内心で笑ってもいた。案外アクアは陰の者だから、友達だとは簡単に言わないのも知っていた。何よりも……。

 

「(普段はルビーちゃんと一緒で、お母さんはアイさん。可愛い子のハードルは高いから、容姿ではそうそうオトされたりしない……よね? 私、にもちょっとは好きがあれば嬉しいな。その上でアクアくんの中でかなちゃんを超える人がそうそう現れるとは思えないし……)」

 

 某重曹を舐める元天才子役と同じ思考があかねの中には根付いてしまっていた。負けるとしたら有馬かなだろうと。

 この時、あかねはちょっとアクアをからかうつもりだった。彼は難攻不落だから、多少は大胆なことを言ってもいいし、やってやろう。散々弄んでくれた仕返しだ。そんなことを考えていた。

 

 後にあかねはこう語っている。

 もっと踏み込むべきだった。そうしたらこの場でアクアくん押し倒して、色々と既成事実を作ってたのに、と。早まっちゃったとか全くなかった。もう一気に弱ってるとこを攻め落とすべきだった。大胆さが足りなかった……と。 

 

「私とあの子……抱き心地がよかったのはどっちなの?」

「――は!? いや、あかね!? 寿さんとはそんな関係じゃねぇよ!」

 

 いっそ不自然なくらい狼狽えるアクアにゴメンね、冗談だよ。と種明かしすればアクアは呆れたように肩を竦めた。

 

「なんだろうな。昔より厄介になったな。あかねは」

「ちょっと酷いなぁアクアくん。どうしてそんなこと言うの?」

「いや、そんな生々しいネタ言うタイプじゃなかったろ」

「……アクアくんのエッチ」

「おい」

 

 顔を引きつらせるアクアに、あかねは「くらえ〜!」と言いながらますます身を寄せる。

 大胆に腕を胸元に引き寄せて、脚を絡めて。耳元に唇を寄せた。

 

「前も言ったけど、私はアクアくんとならキスもHも嫌じゃないんだよ? 昔よりもっと凄いことだって……受け入れちゃう」

「……俺が言うなって話だけど、お前も自分は大切にしてくれよ。頼むから」

「……アクアくんにだけだもん」

 

 その手で私を汚して欲しい。愛して、奪って、壊してくれたって構わないから。

 そっと彼の首筋に顔を埋める。久々に味わう彼の匂いの中に、甘い焼き菓子みたいな香りが微かに混じっていた。何処かで食べたりしたのだろうか。ちゃっかりしてるなぁ。

 

「……クレープ食べたいな」

「ああ、じゃあ泣かせちまったお詫びに奢るよ」

「やった~」

 

 ……その芳香が最大の敵の影とは最後まで気づかないまま、あかねはアクアと共に外へ駆り出した。

 

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