最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

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寿みなみは多少自覚する

「(どうしてもうたんやろか……ウチ)」

 

 放課後にアクアやあかねと別れた後、寿みなみは衝動的に街に出ていた。特に目的はない。仕事の予定もないので、本当にただブラブラしていただけだ。

 ウインドウショッピングで掘り出し物でも見つけたら購入に踏み切ろうか。とでも思っていたが、結局大したものは見つからず。

 駅前でナンパされて、あしらうのに時間がかかってしまったり。

 甘いものでも食べようかと迷うが、今週末は撮影だったので手は出せない。

 ならばと書店に足をのばしてみたが……何をトチ狂ったか『親友の兄弟・姉妹のオトし方』なんて胡散臭い本を、気がついたら手にしてしまう始末。――流石に買いはしなかった――

 散々やわ。

 その夜。そんな理由でみなみはしょんぼりとしながら、とぼとぼと帰路についていた。

 どうしてこんなに落ち込んで、まるで気を紛らわすかのようにして無駄な時間を過ごしていたのか。原因として思い当たるものがない訳ではないのだが……。

 

 まず浮かんでくるのは、今朝の出来事だ。男性の匂いをしっかりと嗅いだことなど無いのだが、それでも不思議と嫌な感じはしなかった。寧ろ本当に男の子なのか疑わしくなるくらいに爽やかな花とシトラス系の香りがみなみを包み込んでくれた。

 

「(腕だけやのうて、身体の線が細い思うたけど……抱かれてみたら意外と筋肉あって、カタくて。鎖骨のラインめっちゃ綺麗やし、なんか安心出来て……)」

 

 そこまで考えて、みなみは慌て頭を振る。が、それでもブレずに浮かんで来てしまうアクアの顔に「うぐぅ……」と、乙女らしからぬ唸り声が漏れてしまう。

 

「(なんでや。いや、おかしいやろ! まともに話したの昨日が初めてやで!? ……そう考えたら、なんかおかしいなぁウチら! 何お泊まりして、一緒に寝てんねん!)」 

 

 自分で所業を思い出し、自分でツッコミを入れるという器用なことをしながらも、みなみは絶えず「出てこんといてよぉー」と、脳内に無限に湧いてくるアクアの大群を追い出していた。

 

 もう一つは、放課後の一幕。

 

 分からないが、嫌な気分になったのだ。元カノさん。黒川あかねを自然に受け止めて見せたアクアの姿が。

 酷いことをしてしまったという罪悪感があると、肩を落としていた。だから自分とは関係ない所で、幸せになって欲しいとまで言っていたけれど……。間違いなくアクアはあかねに対して心の何処かに未練を残している。みなみにはそう見えてしまった。

 

「(そらそうやなぁ……あんな美人の彼女、復讐の為に手放したなんて。その復讐ないなったら……より戻したくもなるわなぁ……)」

 

 次に思い出すのはアクアに抱きしめられていたあかねの顔だった。

 女優の涙。それだけでもとんでもない威力を含んでいるというのに……。アクアに触れた瞬間のあかねから……みなみは色香というか、抑えきれない“女”を感じていた。

 

「(炎上に自殺未遂……両方から救ってくれた相手やもん。しかも破局の内容まで聞いたら……忘れられなくなるやつやん。しかもお兄さん、見た目が凄い綺麗やし……。黒川さん、他の男とか無理になるやろ)」

 

 いがらっぽいものが、スンとみなみの胸を通過する。嫉妬ではない筈。ただ、何だかモヤモヤする。

 あの後、二人はどうしたのだろうか。オシャレなカフェやレストランで食事したか。あるいは、二人きりになれる場所に……。

 ふと、ルビーと一緒に、東京ブレイドの舞台稽古に見学へ行こうとした時のことを思い出す。

 あの時、アクアとあかねは稽古終わりに夜遅くまで一緒に過ごしていたという。……自分でも呑気に『見かけによらず、あっちは元気なんやなぁ……』なんて言っていたのだ。

 

 二人になったら、もっとしっかりと……恋人の抱擁を交わしたのだろうか?

 

「(ウチのこと抱いた腕で、次の日は別の女の子を?)」

 

 キスもしたのだろうか? 今ガチみたいな、ロマンチックな雰囲気で? あるいは、大人の……激しくて情熱的な――。

 

「(……嫌や)」

 

 それ以上のことは? 東京ブレイドの時点でそっちの意味でも仲良しだった二人が……万が一焼け木杭に火がついて、どうようもなく燃え上がってしまったら?

 

「(そんなん、嫌や……!)」

 

 目元に、涙が滲んでいるのに気がついたみなみは愕然とする。こんな熱情を自分が持っていたなんて、つい最近までは想像もつかなかった。

 

「……アカンわぁ。だって、たった一日やで? 抱っこされて、お話しただけやのに。惚れっぽいにしても……もうちょっと何か、あるやろ」

 

 ふと、スマートフォンが振動しているのに気づく。連絡相手は……マネージャーだった。内容は週末のグラビア撮影についての詳細だ。

 何か質問は? 困ったことはありませんか? そんな内容の文面をみなみはぼんやりと見つめていた。

 

「…………好きな。いや、まだや。まだわからんわ。ちょっと気になる人が出来ました。なんて言ったら、どんな反応するんやろなぁ」

 

 見てみたい気もする。泣き笑いを浮かべながら、みなみは『了解。問題なし』とレスポンスを返す。

 彼女ともそこそこの付き合いだ。自分にとっては世話焼き心配性なお姉さんみたいな存在で……。だからこそ、まだ心配はかけたくなかった。あと間違いなく気の迷いよ! と怒られそうだし。

 過去に酷い男とばかり付き合っていたらしいマネージャーは、日頃から男は狼よ! イケメンには裏があると思え! 一年ROMれ? なんてよく分からない警告をしてきたり、みなみや事務所の女の子に近づく男性を、片っ端から追い払おうとする女傑だ。

 アクアは間違いなく、彼女の中で最上級の警戒対象になるに違いない。

 

「(まだ秘密や。ウチだけの……秘密)」

 

 連絡を終えたスマートフォンを持ちながら、みなみはぼんやりと画面を見る。

 そういえば……お兄さん、別れ際に何か言いかけとったなぁ? 何やったんやろ? 

 気にはなるが、今更ながら結局連絡先を交換していなかったことに気づく。次こそは絶対に教え合おう。みなみはそう決意した。

 

 そうしているうちに、みなみはつい昨日にアクアと遭遇した公園付近までやってきた。

 最寄り駅から自宅へ向かう途中にあるここが、自分にとって思い出の場所になるなんて思わなかったので、つい視線を向けてしまう。

 公園のベンチには誰かが座っているようだった。仄かに灯る街灯が、その下にいる人物を照らしていた。

 

「(せやせや。あんな感じで、落ち込んだ様子で。キラキラした金色の髪がくすんで……見え、て……)」

 

 みなみはいつかのようにその場に立ち止まる。

 ぐしぐしと目を擦り、しっかりとその場所でうなだれている人物を観察する。

 小柄な体躯。長くて綺麗な……お兄さんと同じ色の髪の毛。可愛いお人形さんみたいな……いや、そんな表現だけでは足りない。初めて会った時もめっちゃ美人おるやんと思ったものだが……ここ数年で、より美しさに磨きがかかったように思える。

 

「え、えぇ〜……」

 

 流石のみなみも、まさかの状況に顔を引きつらせた。

 そこにいた人物は、あまりにも見覚えがありすぎたからだ。

 星野ルビー。みなみを悩ませるアクアの妹であり、彼女自身にとっても親友である少女だった。

 

「えっと……ルビー?」

 

 兎に角。明らかに気落ちした友達をスルーはしたくなかったので話しかけてみることにしたのだが……。

 顔を上げたルビーの表情を見た瞬間、みなみの身体はビクリと身震いした。

 

「……みなみ」

 

 それは、B小町が……もといルビーが売れだすきっかけになった、かのMVで見せた表情によく似ていた。

 何かを訴えかけるような……紅玉の瞳にちらつく、黒い凶星。いつからかそれはルビーと共にあり、妖しい魅力と、親しい一部の人間には微かな不安をもたらしていた。

 

「(……でも、なんやろ? 何かいつもと違うような……)」

 

 喩えるなら迷い子か。あるいは癇癪を起こした後に泣きつかれた幼女のような。

 いつも自信と良くも悪くもエネルギーに満ちていた目に、危うさと不安感が混在していた。

 

「ルビー……」

 

 何があったん?

 こんなとこ夜に一人でおったら、危ないで?

 ……お兄さんは?

 そんな言葉が喉から出かかり、みなみはそれらを必死に押し留めた。何が起きていたかをみなみはもう知っている。

 ……ルビーはどうなのだろうか?

 彼女はぼんやりと、ベンチに座ったまま、みなみを見つめたまま、ゆっくりと形のいい唇を動かした。

 

「わかんなく、なっちゃったの」

 

 それだけを呟いた。

 何を!? と聞きはしない。ただ、ルビーが迷って苦しんでるのは分かったから。

 

「……大丈夫? 何ならウチの部屋、来る?」

 

 ルビーはしばらく考えてから、綺麗な顔をくしゃくしゃに歪めて、コクンと頷いた。

 今は寄り添おう。それが友達として出来ることだから。ふらつく彼女の手を引いて、みなみはルビーと共に歩き出した。

 

 

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