魔法科高校の憑き物落とし   作:桜霧島

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狂骨の夢
1 達也と夏目


 

▼狂骨

 

狂骨は井中の白骨なり

 

世の諺に 甚しき事をきやうこつといふも

 

このうらみのはなはなだしきよりいふならん

 

鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』

 

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 ―――バァン!

 

 音を立てて俺達が図書館の扉を開くと、そこには男子生徒が一人と、簀巻きにされた男が数名、そして同じく簀巻きにされた壬生紗耶香先輩が転がっていた。

 

 ……なぜここに男子生徒がいる?

 

 

 

 

 

 

 『学内の差別撤廃を目指す有志同盟』との公開討論会の最中、ブランシュ、エガリテの工作員が公開討論会場をはじめとして魔法科高校を襲ってきた。

 俺はそれらが囮と判断し、本命の一つであるとおぼしき図書館へ深雪を連れて駆け込んできたわけだ。

 ほとんどの生徒は公開討論会に居たはずだし、七草先輩をはじめとした俺達以外の生徒会、風紀委員の皆は討論会場あるいは実技棟、研究棟を襲撃してきたブランシュたちの対処を行っている。

 

 そして俺と深雪にとっては肝心なことだが、精霊の眼(エレメンタル・サイト)でも図書室に下手人一味以外の存在は確認できなかった。

 だからこそ壬生先輩を操る者達と戦闘が始まると思い深雪ともどもCADの準備も万端でいたのだが―――実際には既に捕り物は終わってしまっており、そこには簀巻きにされた壬生先輩を含む犯人一味と、魔法科高校の制服ではない謎の男子生徒が突っ立って居るのみであった。

 

 赤襦袢に黒の着流し、黒の足袋に赤い鼻緒、やや長い髪の毛は飾りの付いたヘアゴムの様なものでポニーテールのように後ろで纏められている。

 

「中禅寺、くん?」

 

 深雪が正体不明の彼の名を不安げに呟く。

 

「深雪、知っているのか?」

 

「えぇ、恐らく1−Aのクラスメイトである中禅寺夏目君です。最も、私も殆どお話したことはありませんが……。一体どうしてここに?」

 

 

 

 

 

 

 

「この世にはね、不思議なことなど何一つ無いのですよ、司波深雪さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言うと彼は荘厳で、かつ流麗に、祝詞のようなものを唱えだした。俺は万が一を考えて深雪を守るように一歩前へ出る。

 

「古式魔法……? でも貴方は……」

 

「深雪、下がっていろ」

 

 

 

「掛けまくも(かしこ)き 伊邪那岐大神(いざなぎのおおかみ) 筑紫の日向(ひむか)の橘の小戸(おど)阿波岐原(あわぎはら)に 禊ぎ祓へ給ひし時に ()()せる祓戸(はらえど)大神等(おおかみたち) 諸々の禍事(まがごと) 罪 穢 有らむをば 祓へ給ひ清め給へと (もう)すことを聞こし召せと (かしこ)(かしこ)みも(もう)す」

 

 

 

 祝詞を唱え終えると辺りは水を打ったかのような静けさとなり、彼が何やら手印を結ぶと、壬生先輩から髑髏のような形をした薄く白い(もや)が立ち上った。

 

「ふむ。まあ、これは『狂骨』だな」

 

 彼は何やら呟いている。狂骨?

 

「この程度なら、後を引くこともあるまい」

 

 そう言うと懐からCADを取り出し発動させる。壬生先輩から出てきた髑髏のような形をした煙は光の粒子となり、空へ立ち上るかのように消えていった。

 

 アレは何だ……? サイオン、いや、プシオンか……? そしてあの術式は何だ……? 

 

 いくら古式とは言え、俺が読み解けないモノが眼の前にあった。

 しかも術式、本人ともに精霊の眼でも解析は不能。排除すべき者なのだろうか。正直、四葉や十師族からの刺客だと言われても納得のいくような雰囲気を持つ少年だ。

 

「綺麗……」

 

「深雪、彼は古式魔法師なのか?」

 

「いえ、私も初めて見ました。授業では普通に現代魔法を使っていたかと思うのですが」

 

「おい、司波達也といったか」

 

 彼に呼ばれる。

 

「なんだ?」

 

「なんだもかんだも無いだろう。早く壬生先輩を保健室に連れて行きたまえ。あと司波深雪さん、一応は拘束してあるが、この襲撃者達を凍らせるなりして戦闘不能にしてくれないか?」

 

 それはそうだ。俺達は手早く分担して七草先輩と渡辺先輩に連絡のうえ犯人たちを拘束し、図書館を去る準備をする。

 

「中禅寺、といったか。その魔法はいったい……?」

 

「あのねえ、キミ、魔法師に固有魔法やそういったことを聞くのはマナー違反だと、今日び小学生でも知っているよ」

 

「すまない」

 

「中禅寺くん、ちなみにご実家は……?」

 

「兄が兄なら妹もか。―――ウチはただの古本屋だよ。さっき壬生先輩にかけたのは、治癒魔法のようなモノだ。どうやら軽い洗脳、暗示にかかっていたようだったからね。もちろん、記憶障害なども起こっていないと保証するよ。さあ、もういいだろう? 早く出て行きたまえ」

 

「お前はどうするんだ?」

 

「もちろん、図書館に来たのだから、本でも読むとするよ。じゃあね」

 

 彼はそう言うと俺達に背を向け、図書館の奥へ消えていった。風紀委員としては、このような状況であるのだから直ちに帰宅させるべきかとも考えたが、それよりも壬生先輩とブランシュの一味を処理することを優先する。

 

 そしてこれが後に長い付き合いとなる、俺達と中禅寺夏目―――後に『古本屋(セカンド・ハンド)』と呼ばれる同級生との出会いであった。

 

 

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