▼side:七草真由美
はあ。
こうやって見合いモドキをさせられるのも、もう何度目だろうか。多分、まだ片手か、それを少し超えるくらいで数えられるほどだと思う。
まあ、慣れっこになりつつあるわね。
着替えはどうしようか。この後みんなと合流することを考えれば制服でもいいと思うけど、まぁ、プライベートだしそれなりの私服にしてみようかな。
ああ、この間買った薄黄色のワンピースがいい。あれは涼しいし可愛い。いつも翻弄されっぱなしの達也君や深雪さんも出し抜けるだろう。
今年は私の最後の九校戦。三連覇のかかった大事な年。
終ぞあの狸親父は私の成績なぞ見ることも無かったけど、私がどれだけ大事に、大事な仲間と今日からの――今日は移動日だけど――九校戦に向けて準備をしてきたかを知らないのだろう。
よしんば知っていたのであれば、まさかこんな日に見合いの予定を入れるなんて非人道的なことはしない―――いや、あの狸親父ならするか。
私もこの家に生まれた女として、そういうことが必要なのはわかっている。妹も含めてそれなりに裕福な暮らしをさせてもらっているし、摩利や十文字君達のような学友にも恵まれて、環境には文句がない。
だけど「自由には義務がつきもの」と言わんばかりに私の気持ちを一欠片も酌まず、ただ宛てがい、子を成し、娘を家と家を繋ぐだけの存在にするのが正しいとは思えない。思いたくない。しかも
はあ。
溜め息ばかり出る。
結婚って何だっけ。
人を好きになるってなんだっけ。
そりゃあドキドキさせてくれる殿方が毎度毎度、見合いのたびにやってくれば、私だってどこかのタイミングでコロっと靡いたかもしれない。
だけど毎度毎度来るのは、私の肩書にしか目がいかないような、表面的な容姿にしか目がいかないような、そんな男子ばかり。
いや、ちょっと傲慢な言い方になったけど、18年も女として生きてれば自分の容姿レベルなんてわかるし、男子のアチラコチラに行く視線の行き先だって意識する。
今まで出会った人の中には私の境遇に心から共感してくれる人だって居たんだろうけど、そんな人は
子供の頃に読んだ絵本の白馬の王子は、いつか現れてこの権力という魍魎の
私が、ただの真由美として生きていける場所はあるのだろうか。
「―――おい、準備はできたか」
私の名前は『おい』じゃないわよ、この狸。
「出来ていますわ。で、今日の『ご挨拶』のお相手は何処のどなたでしょう?」
「今日は九島閣下からのご紹介の、実力ある魔法師の方だ。くれぐれも失礼の無いようにな」
九島閣下―――今日は随分と大物の名前が出てきた。この男が若い頃師事したという、未だに魔法師の間では「老師」「トリックスター」等と呼ばれる生ける伝説の一人。国防軍顧問として軍にも強い影響がある。
……ふうん。今回は九島との縁を繋ぎ、軍にも影響力を持ちたい、といったところかしらね。
七草家の取り得る生き残り戦略を考えれば有効だと思う。但し、私のやる気が無いことを除けば。
「お父様も入られるのですか」
「いや、俺は既に挨拶を済ませているから、お前だけで行け。別用がある。名倉を控えさせておくから、何かあれば声をかけろ」
「わかりました」
さーて、ここからはRTAの時間だ。
可能な限り早く終わらせてみんなと合流しなくてはならない。
だけど相手に嫌な思いをさせず、何らの言質も取らせず、この場限りの関係、或いはパーティーなどで出会ったときだけの関係。
ガチャ
そこを目標に―――
そこを―――
あれ、この人、どこかで見たような―――
「お初にお目にかかります、七草
そう、学校で最近見た顔だ。
「中禅寺夏目です。本日はお時間を頂きありがとうございます」
あらどうも、ご丁寧に―――
ん?
―――お前かぁぁぁぁ!!