魔法科高校の憑き物落とし   作:桜霧島

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コロナに罹ったのでこの次の投稿は暫くお休みします。


11 筥の事

 

 

2095年8月9日

 

 

 真夏の日差しが強く照らす横浜グランドホテル前。数名の男女と一人の高校生が車両の中で会話していた。

 

「普通、こういうのは夜にすると思うんですけど?」

 

「夜だと一箇所に集まっていない可能性があるじゃない」

 

 夏目は軽く非難の眼差しを同行している独立魔装大隊の隊員―――藤林響子に向けるが一蹴され、嘆息する。確かに賭事を行う以上、競技時間に合わせて参集するのは、さもありなん。

 一方で、世闇に紛れてやった方が楽な仕事であるし、日中だと一般市民の目に触れてはいけない、巻き込んではいけないという、難易度が上がる仕様である。

 しかし夏目はそこまで気にする様子はなく、響子と会話を続ける。

 

「しかしながら、九島閣下の気まぐれぶりにも困ったものです。国際犯罪シンジケートの処分をボクみたいな一介の高校生にさせようというのですから。リスクも高いし」

 

「そうね。でも、そのリスクを補えるほどのメリットがあるのでしょう」

 

「どこの、誰に?」

 

「さあ? おじい―――九島閣下じゃない? 少なくとも、私じゃないわ。あなたかしら?」

 

「ボクにだって無いですよ」

 

 響子はその美しい黒の髪をかきあげながら夏目に返答するが、実のところ彼女はこの少年への依頼には懐疑的であった。

 彼女は夏目の実力を見たことは無かったし、彼が数字持ち(ナンバーズ)数字落ち(エクストラ)といった情報もない。

 様々な噂が耳には入るものの、電子の妖精は0と1の世界から遠い存在を観測することはない。

 或いは、同年代の高校生としての比較対象が規格外(司波兄妹)であったことが一番の原因でもあろう。

 

 

 

 時刻は14時。新人戦男子モノリス・コード予選第2試合が始まった時刻である。

 

「―――じゃあ、ちゃっちゃか始めますか」

 

 夏目は車のドアを開け、誰にともなく呟くと、小声で短い祝詞を奏上し、黒に包まれた和装の懐からCADを取り出し発動させる。

 

 

 

「『神隠し』」

 

 

 

 瞬間、独立魔装大隊の認識から彼が消えた。透明化や認識阻害ではなく、文字通りその場から消えたのだ。

 

「えぇっ!? 消えた!? 誰か! 分析出来た人はいる!?」

 

 狂乱混じりに響子は周囲の隊員に問い質すが、彼らも突然の消失に戸惑いを隠せない。瞬間移動は2095年現在において未だ“疑似”を除いて達成されていない技術だ。

 

 響子は一瞬だけ九島家の秘技『仮装行列(パレード)』の行使を疑った。だが仮装行列は、厳密には姿をくらませると言うよりは認識をずらすという魔法であり、九島家でもない彼が使うことは出来ないと判断する。

 ならば恐らく疑似瞬間移動と認識阻害を合わせることでその場からあたかも消失したように見せたのかもしれない、と考えた。

 

 ―――だが、それは誤りである。文字通り、彼の存在は消えたのである。

 

 

 

 

 横浜グランドホテルの最上階、その一つ上の本来なら存在しないフロア。そこに【無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)】東日本総支部はあった。残念ながら、あるいは彼らにとっては少しばかりの幸運として首魁たる孫公明ことリチャード=孫はそこに居なかったが、主要メンバーはそろっている。

 

 彼らは自分たちが仕掛けた罠――第一高校、モノリスコードメンバーへの攻撃――が上手く発動したことに心から安堵し、これから先の(もう)けについて皮算用を始めたところであった。

 

 

 

 ―――扉の外では、首と胴の離れた死体がいくつか転がっていることも知らずに。

 

 

 

 初めに異変に気づいたのは入口に近い席に座っていた男であった。その部屋では監視カメラを通じ扉の外を映すことができるが、外から殺気、或いは血の匂いを微かに感じたのだ。

 

「―――ん? おい、外の様子がおかしくないか」

 

「何だ急に。何も映っていないぞ」

 

「違う、何故何も映っていないんだ―――!」

 

 

 

 

 

「来たれ、『百鬼夜行』」

 

 

 

 

 

 何処からともなく聞こえてくる若き声と共に、百鬼の宴が始まる。

 

「なっ!? 外が、部屋が黒く!」

「通信も通じないぞ! 映像は!」

「賊は何処だ!? ジェネレーター!」

 

「刈れ、『鎌鼬』」

 

「うぐぅっ」

「…………」

「ヒィッ!?」

 

 フィンガースナップの「パチン」という音が鳴るたび、一つ、また一つ、不可視の刃によりジェネレーターと構成員の首が落ちる。姿の見えない殺戮者の襲撃にメンバーの一人が恐慌状態に陥り、扉のあった方角に向かって走り出し、拳で扉のあった辺りを殴りつけるが、扉の感触は無い。

 

「ドアは!出口は何処だ!」

 

 

 

「どうしたんだ、そんなに慌てて。外に出たいのかね? 手伝ってやってもいいぞ。 ―――但し、真っ二つだがな」

 

 パチンという音とともに、男の首が落ちる。

 

 

 

「貴様!このガキィッ!何処の廻しもんだ!」

 

 ようやく姿を表した夏目へ銃撃を仕掛けるが、弾は貫通し、ダメージを与えた気配もない。

 

 

 

「出でよ『狂骨』」

 

 

 

 黒の帳に覆われた部屋の中心に深淵へと誘う大穴が開く。

 

 

 

「さぁ、これにて御仕舞としよう」

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 残ったメンバーが最期に見たのは、深淵から出てくる骸骨と、死神のように薄く笑みを浮かべた夏目であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤林少尉、終わりましたので回収をお願いします」

 

『了解。状況は?』

 

「一名を遺して全員始末。情報を抜けるかは軍次第ですね」

 

『わかったわ。それから―――富士演習場のほうで残念ながら取りこぼしが出たわ』

 

「と言うと?」

 

『……第一高校の生徒に被害が出てしまったわ』

 

「はあ……。どうやらボクは軍のことをまだ過信していたようだ。富士演習場は、さぞ厳重な体制が引かれていたのでしょうね」

 

『……面目もない。貴方から“電子金蚕”のことを聞いていながら不覚を取ったわ。()()()()()()()()()()()()()進めることが出来ていたのに』

 

「そうですか―――では行きましょうか」

 

『え、どこに? 依頼された無頭龍の壊滅は終わったのでしょう?』

 

「ボクが受けた依頼は無頭龍の壊滅ではく憑物落としなのです。取りこぼしがあったのだとしたら、決まってるじゃないですか―――さぁ、ヘリに乗り換えますよ」

 

『まさか……』

 

 

 

 

 

「さぁ、柵からケモノを解き放ちに行くのです」

 






戦闘シーンを生まれて初めて書いた童貞なので、優しく見守ってあげてくだせえ
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