魔法科高校の憑き物落とし   作:桜霧島

14 / 16

七草先輩のヒモになりたい



14 好事、魔多し

 

▼side:司波達也

 

 

 

 ―――(もや)がかかっている。

 

 俺は新人戦ミラージ・バットの予選が終わると、決勝までの間で少し仮眠を取ることにした。

 眠気が来るまでの間、目を閉じながら今までの九校戦を振り返ってみるが、今ひとつしっくりと来ない感覚がどうしても抜けない。

 

 確かに不思議な違和感は感じていた。「何が?」と言われると言葉にしづらいのだが、そもそもの発端は九校戦会場への移動日、七草会長が遅れてきた時からだったように思う。

 

 炎天下の中待つこと2時間程度、七草会長は黄色いワンピーススタイルで暑さのせいではなく仄かに頬を赤らめてやってきたが、皆は気にしていないようだったので俺も特段そのことには触れなかった。

 

 それから高速道路での自爆テロ未遂。さすがにこれは見逃せないと思い、九校戦―――いや、懇親会が始まってからは深雪やクラスメイト達を中心に警戒をしていた。

 しかしながら流石に国防陸軍の敷地内で荒事を起こすことは憚られたのか、その後は特に何事もなく、第一高校は九校戦で躍進を続けた。

 三巨頭を中心に着実にポイントを稼ぎ、ミラージ・バット、モノリス・コードを残しながらも総合優勝はほぼ目の前。新人戦の方も自らアシストする女子たちが八面六臂の大活躍。青い顔をした男子たちを尻目に、女子や先輩方ら新人戦優勝に向けて盛り上がっている。エリカやレオ、柴田さんも二科生としてありがちな劣等感を抱かず、楽しそうに見られているようだ。

 

 先輩方といえば、特に三年生は集大成の場を最大限に楽しみ、結果を出し、喜びを分かち合っている。

 

 美しい水飛沫が上がる度に選手の笑顔が溢れ、

 

 的が割れる度に応援団の歓びの溜め息が漏れ、

 

 コートにボールが弾む度に相手高校の絶望の表情が一段と深くなり、

 

 俺は先輩や友人たち、それから大切な妹が舞台の上で煌くさまを特等席で見ることが出来た。

 

 

 

 ―――不思議だ。

 

 

 

 深雪や一高の皆が活躍することは素直にうれしい。だが、仮に俺がテロ未遂を起こした不逞の輩であったなら、目的は何であれ、失敗を失敗のままにしておいて、これしきで終える筈がない。二の矢三の矢を準備しておくだろう。

 

 もし一校の誰か特定の生徒が標的であったのなら種目別競技なんて格好の舞台だし、大会の運営委員や他の高校の――或いは一校の――生徒に内通者なり協力者を作っておけば、会場の中でだってある程度の自由は確保出来るだろう。

 

 それに、八雲師匠や叔母上からも、九校戦にあたり特に注意喚起などはされなかった。入学前のあのことも含め、深雪のガーディアンとしてこういう所では俺に対し何かしら情報の提供があったものだ。

 

 

 

 ―――不思議だ。

 

 

 

 誰かにお膳立てさせられているかのように、一校は快進撃を続けている。

 確かに新人戦男子は苦戦しているが、それだって森崎はスピード・シューティングで3位という好成績を残しているし、他だって組み合わせが少し違っていれば入賞は出来ていただろう。

 

 それに―――中禅寺が居ないのだ。彼は深雪曰く『サイオン量と干渉力に優れた』魔法師だ。彼が居ればアイス・ピラーズ・ブレイクやクラウド・ボールなんかで良いところまでいっただろう。術式展開力の差など使用する術式やCAD次第でどうとでもなる。

 モノリス・コードに出たっていいだろう。個人的にはあの一条の跡取り息子とどちらが上か気になるところだ。競技では一条が勝つ気がするが、『何でもあり(バーリ・トゥード)』ではどうなるか分からない。

 先だって、一条と吉祥寺から宣戦布告のようなものを受けたが、俺に挑む前に中禅寺にでも挑んで見ればいいのだ。確かに彼らは実戦経験済(プルーフ・コンバット)ではあるが、古式魔法を相手に何処迄自らの実力を出せるか見ものだ。

 

 彼の家で見せられた振動系冷却魔法は見事だった。俺達の手の中にあるゼリーだけを短時間で正確に冷やすことは、本人の魔法技能はもとよりCADの性能を最大限に熟知し、性能を引き出すべく行使し、いつ使用されてもいいように手入れされているからだ。九島家が手入れしているのだろうか。

 

 

 

 ―――不思議だ。

 

 

 

 そう言えば暫く、大会が始まって以降は魔装大隊のメンバーもあまり見掛けなくなっている。確かに彼らの根拠地は茨城で少々距離があるものの、最初の方で風間少佐と藤林少尉が『別件で忙しい』ところ態々時間をとって激励のため会いに来てくれたのだが、それ以降は見掛けていない。

 

 あまり表情を変えない少佐が少し疲労した様子を出していた。珍しいことだろう。独立魔装大隊はその名の通り、一般的な指揮命令系統から独立している。とすれば、少佐以下大隊メンバーは何かしらの有事に携わっているということだ。春の一件の追加調査でもしているのだろうか。或いは大亜か、ソビエトか、USNAか。

 

 そのような違和感が靄のように俺を包むと、俺はヒュプノスの御手に包まれるまで様々な考えを巡らせるのであった。

 

 

 

 

 

▼side:七草真由美

 

 

 

 十文字君から「大会本部まで来てくれ」と連絡があったのは事故が起こってから一時間程した頃だった。

 

 新人戦モノリス・コード第2試合、選択されたのは市街地フィールド。第一高校のメンバーは廃ビルに配置されたが、開始とほぼ同時に魔法式が展開され、刹那、殺傷性ランク『A』となる《破城槌》が発動された。

 

 結論から言えば第四高校は失格、森崎君をはじめとしたメンバーは重症であるものの、一命は取り留めた。

 北山さんが言うように実行したのは第四高校かもしれないけれど、何かが可怪しい。彼らはそもそもそこまで第一高校に危害を加える動機がないのだ。下手を打てば殺人者となるリスクを負ってまで、高々予選の一試合を勝ちにいくなどデメリットしか存在しない。

 とすれば、消去法的に第三者が故意に第四高校のCADに細工をした可能性が浮かび上がってくる。だが、今の情報では『誰が』『何のために』というところが判然としない。

 

 それでも我が校が失格にさせられるのは筋違いだと考えたから大会本部との交渉を十文字君に任せたのだけど、十師族という身分とあの威圧感を以てすれば、少なくとも代理を立てることくらいは通せるだろう。

 

 そんな風に考えていた折に呼び出されたので、私は司波君に一年生女子のケアを依頼し、十文字君のもとへ駆けつけた。

 

「どうかした、十文字君?」

 

「来たか、七草。場所を移そう。一校の天幕でも話しづらいからな」

 

 十文字君の案内で拝借したと思われる空き会議室に入っていくと、彼は徐に口を開いた。

 

「結論から言おう。第四高校は失格、第一高校は明日以降の新人戦モノリス・コードの試合について、代理を立てることを認められた」

 

「変ね……。第四高校のせいだと決まったわけでもないのに、まるで意図的にそう解決を望んでいるかのような……」

 

「実際、大会運営委員は話し合いが出来て、出来ていないようなものだ。機能不全というやつだな。女子のアイス・ピラーズ・ブレイクで同率1位を提案してきた時のような楽をしたいという姿勢と、責任逃れと、スケジュールの辻褄合わせと、まあ見苦しいものだった。序でに言えば、俺達に対する謝罪も無かった」

 

「―――ねぇ、十文字君」

 

「七草、解っているからみなまで言うな」

 

「ぶっ潰しちゃいましょうか、この際」

 

 彼は額に手を当て「止めたのにこいつ言いやがった」と言うような顔をしている。忍耐強い彼なら現状から最善手を打つように実行するだけだろう。だけど、私はこのまま彼らの言いなりになるような安い女ではない。

 彼らにとって少々授業料は高くつくだろうが、あんな、あんな無惨な怪我を負うことになった彼らの分まで私が怒ることは、間違っているだろうか。

 誰が、何のためにあんなことをしたのかは解らない―――でもそれはそれ。森崎君達の努力も、他の皆の努力も守らなくてはならない。私は生徒会長なのだから。

 

「で、どうするんだ。具体的に」

 

「十文字君、大会運営委員は『第一高校の生徒』が代理になることを認めたのよね」

 

「そうだな」

 

 こういう時、逆に聞き役に徹してくれる彼が心強い。

 

「つまり第一高校の他の競技に出ているメンバーでなくても良いと理解しても?」

 

「問題無いだろうな。代理を立てる時点で既に例外的措置だ」

 

「―――司波君を推薦するわ」

 

「だが奴は二科生でエンジニアだ。他の者が納得するだろうか」

 

 彼のこの言葉は文字通りの意味では無い。私の考えを整理するため、想定問答を投げかけてきてくれているのだ。有難い。

 私はどちらかと言えば考え出すと思考に囚われる傾向にあることを彼は理解している。だからこそ敢て反対意見を私にぶつけることで、ロジックを整理してくれるのだ。

 

「納得させるわ。彼の対人技能は私たちが能く知っている。はんぞー君や摩利も大きくは反対しないでしょう。エンジニアについても問題無いわ。既に新人戦女子は今晩のミラージ・バット決勝を残すのみ。深雪さんの本選だって、今まで他の人に割いていた時間を使えるようになるのだから、大きくは変わらないわ」

 

 そう言うと、十文字君は巌のような巨体を少し揺らして同意を示した。

 

「十文字君はわかっていたんでしょう? 私がこういうことを言い出すのは」

 

「ああ。だが最終決定者は七草だ。俺達の代表はお前なんだ。だからお前の口から出るまではと考えていた」

 

「ありがと♪ ―――だから、私も覚悟を決めるわ」

 

「だが、残りの二人はどうするんだ。実際、司波の技量は確かだろうが、モノリス・コードはチーム戦だ。足手纏いを入れるくらいなら居ないほうがマシということにもなりかねん」

 

「そこよねぇ……」

 

 私は頬に手を当て考え込む。

 

「そう言えば一年の二科生が応援に来ていたな」

 

「彼らを巻き込むテもあるわね。彼らに実力と同意があれば、だけど」

 

「この際、実力は二の次だろう。正直に言うと、服部に勝てる一年生が一条以外に居るとは思えん。連携を重視するのであれば司波に選ばせてはどうか」

 

「―――そうね、その通りね。ありがとう、十文字君。お陰でやるべきことがハッキリしたわ。摩利とはんぞー君には私から伝えておくわ」

 

「頼むぞ」

 

「―――でもねぇ、中禅寺君が来てくれていたら()()()助かったのになぁ」

 

 私は懐から出発前に預かった御守りを取り出して睨みつけた。

 

 まったく、あの子は私の不意ばかり突いてくる。泉美と香澄と打ち解けてくれたのは助かったけど、其れ以外は――其のこともだけど――終始彼のペースで事が進んでしまった。話が上手いのでついつい私も狸親父の愚痴を溢してしまったものだけど、私に猫を被らせない手腕は天然なのか計算なのか最後まで解らなかった。

 

「もう少し素直で可愛ければ、本当に可愛いのに―――」

 

『誰が可愛くないですって?』

 

「ひゃあっ!!」

 

 驚いて変な声が出た。御守りが喋った!?

 

「中禅寺君!? どうして……っというか、何処から!?」

 

 

 

 

 

『この世には不思議なことなど何一つ無いのですよ、真由美さん』

 

 






ハナから無頭龍の計画は車両事故で大量死傷者を出すことありきのポンコツですよねぇ
今日び新入社員だってもうちよいマシなイベント計画出してくるぞ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。