魔法科高校の憑き物落とし   作:桜霧島

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小説情報に以下の文を追記しました。
※作者は模範的な社畜のため、更新が不定期になることがあります。

反省して次の横浜編はある程度書き溜めします。



15 役者は揃いぬ

 

▼side:七草真由美

 

 

 手に持っていた御守りがポンと音と煙を立ち上げ、ぬいぐるみのような狐に変化した。可愛い。いや、違う。何なのよコレ。

 

「中禅寺くん、よね……?」

 

『ボクの式神です。名前は無いのでお好きなように呼んでください』

 

 ふよふよと浮く式神の狐は中禅寺くんの声でヒト語を話しだした。

 

「中禅寺君……まさかこの御守り、盗聴機能が付いてるの?」

 

『流石にそこまでストーカー染みたことはしませんよ。ただ、妹さん達にあげたものとは違い、真由美さんのには私の式神を憑けているのです。外敵に加えて貴女の強い情動―――怒りとか悲しみとか、そういうのに反応するようにしています』

 

 それは立派なストーカー行為ではないだろうか。真由美は訝しんだ。

 

「―――どこから聞いていたのよ」

 

『【ぶっ潰しちゃいましょうか】の辺りですかね。五感のうち聴覚しか同調させていませんが、相当お怒りのようで』

 

 割と最初の方からだし。歴とした盗聴だし。その狐の姿で喋るなし。

 

「中禅寺、貴様何処にいる。来れるなら来い」

 

 十文字君が彼を呼ぶ。二人目、かぁ。

 

『もう居ますよ』

 

 ガチャリと音を立てドアが開く。開けたのは勿論彼である。展開が早すぎてコレ、驚きが後で来るやつだわ。

 彼の式神が宙を移動して彼の肩に停まる。

 

「貴様、私用で来られないのでは無かったのか」

 

「ボクだって来るつもりはありませんでしたよ。つい一時間前まで横浜に居ましたし。それに私用ではなく公用です。九島家(妖怪ジジイ)案件です」

 

 態々言い直すあたり、彼は本当に不本意だったのかもしれない。だけどこれはチャンスだ。

 

「―――聞いていたのなら話は早いわ。二人目は、貴方にするわ」

 

「真由美さんのお願いなら叶えて差し上げたい気持ちはあるのですが、何分、未だ依頼を終えていないのですよ。九島の爺様に聞いてみなくては」

 

「その必要はないよ」

 

「九島老師!」

 

 再びドアが開かれる。老紳士面をしたトリックスターが入ってくる。

 もうめちゃくちゃだよぉ……

 

 

 

 

 

 

「なる程。それで真由美は心底疲れているんだな。その場に居なくて良かったよ」

 

 摩利ぃ、と真由美は恨めし気な顔で非難めいた声を出している。

 

「七草、気持ちはわからんでもないがそろそろ切り替えろ。老師の協力もあり俺達の言い分はほぼ全て通ることになっている。後は司波の説得と、三人目の選定だ」

 

「もうあの二人でいいんじゃないかしら! もういいんじゃないかしら!」

 

「どうした急に」

 

「驚きがいま来てるのよ……!!」

 

「真由美は何を言っているんだ……」

 

 止めて、あーちゃん、はんぞーくん。そんな目で私を見ないで。

 

 

 

▼side:司波達也

 

 

 

 新人戦ミラージ・バットをほのか、スバルのワンツーフィニッシュで終えると、俺は首脳陣からミーティングルームに呼び出された。

 

 何と言うか、空気が微妙だ。

 

 新人戦女子の結果を喜ぶ空気、男子モノリス・コードの事故を憂う空気、それから謎の緊張感を孕んだ空気。

 きっと何らかに巻き込まれることは確定なのだろうな、と俺は他人事のような感想を持った。勿論、現実逃避の意味も含まれている。

 

「今日はご苦労様。期待以上の成果を上げてくれて感謝しています」

 

「選手が頑張ってくれましたので」

 

「もちろん光井さんも里美さんも他のみんなもそれぞれに頑張ってくれた結果です。でも、達也くんの貢献がとても大きいのは、ここにいる全員が認めているわ」

 

「……ありがとうございます」

 

 感謝している、というのは本音だろう。だがあくまでこれは前置きだ。七草会長、十文字会頭、それぞれ別の感情が見え隠れする。

 七草会長は二呼吸ほどの間を取ると、意を決したかのように話しだした。十文字会頭はそれを咎めるような―――いや、気遣うような視線を送っている。

 

「モノリス・コードをこのまま棄権しても新人戦の準優勝は確保出来ています。本選も順調、このままいけば総合優勝も間違いないでしょう。ですが―――」

 

 七草会長はちらりと俺とその周り、それから首脳陣の顔を見渡して続けた。

 

「ここまで来たら、新人戦も優勝したいと思うの。三高のモノリス・コードに一条将輝くんと吉祥寺真紅郎くんが出ているのは知ってる?」

 

「はい」

 

「あの二人がチームを組んで、トーナメントを取りこぼす可能性は低いわ。モノリス・コードをこのまま棄権すると、新人戦優勝はほぼ不可能です」

 

 やはりというか、途中から予想した通りだった。

 こう見えて、というと怒られるかもしれないが、七草会長は責任感の強い女性であり、それ以上に負けず嫌いだと俺はみている。相手に舐められることを嫌うと言っても良いかもしれない。

 

「だから達也くん……森崎くんたちの代わりに、モノリス・コードに出てもらえませんか」

 

 俺は即答を避けるため、念の為と前置きしながら交代選手を出すイレギュラーな対応について問題がないかを問い質した。

 彼女としては勇気の要る決断だっただろう。一つ間違えば九校戦運営側を敵に回しかねないし、一校内部でも亀裂が入ったかもしれない。

 しかし首脳陣が止めないということは、彼ら彼女らもこの決断を支持しているのだ。七草会長の人徳もさることながら、みな勝ちたいという気持ちは一つなのだ。

 だが、それでも俺は抵抗してしまう。

 

「……何故自分に白羽の矢が立ったのでしょう?」

 

「達也くんが最も代役に相応しいと思ったからだけど……」

 

「実技の成績は兎も角、実践の腕なら君は多分、一年生男子でナンバーワンだと思うぞ」

 

 渡辺摩利風紀委員長が七草会長の援護射撃をする。

 

「しかし、自分は選手ではありません。代役を立てるなら、1競技にしか出場していない選手が何人も残っているはずですが。それに、一科生のプライドはこの際考慮に入れないにしても、代わりの『選手』がいるのに『スタッフ』から代役を選ぶのは、後々精神的な(しこり)を残すのではないかと思われますが」

 

「甘えるな、司波」

 

 十文字会頭のずっしりとした言葉が俺の詭弁を遮る。やはり彼らだって愚かではない。その程度のことは考えた上で打診している。つまり『責任は俺たちが取るから』と言外に言っているのだ。

 これには俺も口を閉ざさざるを得ない。あまり目立つことは家庭の事情もあり好ましくないし、俺が競技に出ている間、深雪のガーディアンとしての役目を放棄することになる。役目の方は精霊の眼がある限り何とかなるが、このような事故が起こった以上、あまり離れる時間を作るのもリスキーだ。

 

「―――お前は既に、代表チームの一員だ。選手であるとかスタッフであるとかに関わりなく、お前は一年生二百名の中から選ばれた二十一名の内の一人。そして、今回の非常事態に際し、チームリーダーである七草はお前を代役として選んだ。チームの一員である以上、その務めを受諾した以上、メンバーとしての義務を果たせ」

 

「しかし……」

 

「逃げるな、司波。例え補欠であろうとも、選ばれた以上、その務めを果たせ」

 

 重い言葉だ。俺のペラッペラの詭弁など吹き飛んでしまった。此処まで場を整えられて『ノー』と言える人間など中禅寺くらいだろう。アイツなら言える。多分、間違いなく。

 だが俺だって一介の高校生だ。ここまで煽られて、否、頼られて奮起しない筈もない。

 

「―――わかりました。義務を果たします」

 

 会長と委員長の顔が漸く緩んだ。だが、一人選んで御仕舞ということではあるまい。

 

「それで、俺以外のメンバーは誰なんでしょうか」

 

 そう問いかけると、あからさまに七草会長は緩んだ顔を固まらせ、俺から目を逸らした。十文字会頭が「七草」と声を掛けると、観念したように返答した。

 

「二人目は、中禅寺君になります」

 

「はぁ?」

 

 思わず変な声が出てしまった。何を言われたのか咄嗟に理解出来なかった。

 

「アイツが此処にきているのですか」

 

「さっき来たのよ。実力は申し分ないだろうし、達也くんなら合わせられるでしょう?」

 

「それは、まあ、そうかもしれませんが、アイツは納得したのですか」

 

「九島老師がね―――」

 

 七草会長によれば、中禅寺は事故が起こった後、会長と会頭の前に突如現れたらしい。その後、会長がメンバー入りを打診すると中禅寺も受け入れ、九島老師の執り成しで運営委員にも了承が取れたそうだ。

 そう言えば九島家と彼には縁があるとか言っていたな。色々な意味で厄介な男だ。

 

 ちなみに七草会長は説明している間、手をぷるぷると震えさせていた。本意なのか不本意なのかはわからなかったが、少なくとも俺がこの天幕に入ってきたときのビミョーな雰囲気の正体がわかった。みんな、知ってたんだな。

 

 七草会長は先ほどまでの真剣な表情を解き、髪の毛をくるくるといじりながら半ば投げ遣りな様子で話を続ける。

 

「それで、まあ、その、私たちも考えたのだけど三人目は達也くんの希望に任せるわ。彼もそう言ってたし」

 

「難しいオーダーですね……」

 

 少し悩む。二人とも俺が選べと言うなら幹比古とレオだ。一科生は実力を知らないから論外、実力を知る二人なら試合になるだろう。

 幹比古は遊撃手として、レオはディフェンスとして適任だと思う。実力も俺が見るCADを使えば二人とも新人戦のレベルなら全く問題無い。

 

 だが中禅寺が入っているとなると話は別だ。特にレオはアイツのことを一ミリも知らないだろう。成績上位者だから名前は知っているかもしれないが、古式への知識は皆無だ。いや、レオなら名前すら知らないかもしれない。

 ならば幹比古をディフェンスに回すか、いっその事全員遊撃手にして敵を無力化するのも手かもしれない。

 いずれにしても俺とアイツの間を取り持てるのは幹比古しかいないな。

 

「1-E、吉田幹比古でお願いします」

 

「良いだろう。中条」

 

「は、はいっ!」

 

「吉田幹比古をここに呼んでくれ。確か応援メンバーとは別口で、このホテルに泊まっていたはずだ」

 

 豪放で大胆だが繊細。よくこんな細部まで知っているものだと感心する。エリカや美月、レオに幹比古は正規メンバーでも応援メンバーでも無く他の生徒に比べて目立っているから、知られていても可怪しくは無いのかもしれない。

 

「……達也くん、一応、人選の理由を聞いても構わないかね?」

 

 委員長に聞かれたので俺は先ほど脳内で会議した内容を彼女らに伝える。

 

「―――加えて、一科生の中禅寺が居るなら他のメンバーの溜飲を多少下げられる可能性があります」

 

「確かに。わかりました」

 

「ところで、中禅寺は何処に?」

 

「九島老師と共に運営本部に居るはずよ」

 

「アイツは何故来たのでしょう?」

 

 七草会長はまた微妙な表情を顔に浮かべた。

 

「―――本人に聞いてください。この場では言えない話もあるでしょう」

 

 その後、呼び出された幹比古は、まるで妖怪に囲まれてしまったかのように怯えていたが無理からぬことだし、その事は本人の名誉のためにも皆には黙っておいた。

 

 






これで夏目くんへのバレンタインチョコが例のアレになることが確定しましたね…
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