魔法科高校の憑き物落とし   作:桜霧島

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すみません、シンフォギアに浮気してました。
テンションが高くて楽しかったです。温度差で風邪引きそう。



16 古式魔法師たち

 

▼side:吉田幹比古

 

 

「よ、吉田幹比古くんはどちらでしょう?」

 

 宿舎でエリカ、レオ、柴田さんと九校戦―――特にあの事故について話していると、生徒会の中条先輩から恐る恐る声をかけられた。

 

「あ、はい、僕が吉田です」

「あ、あの、恐縮なのですが、十文字会頭がお呼びです。し、至急、だ、第一高校の天幕までお越しください!」

 

 (つっか)えつつも一気に言うと、彼女は小動物のようにトコトコ駆けていった。

 

「……ミキ、何をやらかしたの」

「幹比古だ。……てんで見当が付かない」

「よ、吉田くん……」

 

 柴田さんが青い顔をして此方を見ている。よしてくれ、僕はそんな大それたことを出来る人間じゃない。

 

「まぁ、行ってみるしかねぇんじゃねえか? 心当たりがないなら悩んでも仕方ねえ」

「はっ! それを世間一般では行き当たりばったりって言うのよ。ま、アンタらしい単純な発想ね」

「何だとぉ!」

 

 エリカとレオが何か言い合っているが、中条先輩が居なくなってしまったことで(はな)から断るという選択肢は無くなっている。せめて僕の返答を聞いてから居なくなって欲しかった。

 

「―――行ってくるよ」

 

 溜息をつきつつ、この場を後にする。心配そうな顔で見送る柴田さんだけが唯一の救いだ。

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、救いの女神の祈りも圧倒的な権力の前では役に立たなかった。

 十文字会頭らの圧力の前に僕は象の前の蟻のようなもので、あれこれと考えることすらできず、唯一許された動作は首を縦にふることのみであった。

 

 部屋に戻ってきて達也と話し合うが、不安しか無い。そわそわと視線を彷徨わせる。

 

「ミキ、チョッとは落ち着いたら?」

「僕の名前は幹比古だ」

 

 どっかりとベッドに腰を落ち着けると、達也に向かって話しかける。

 

「CADはおろか、僕は着るものも用意してないよ?」

「安心しろ、俺もだ」

「いや、それ、不安にしかならないんだけど」

 

 達也はツッコませることで和ませようとしているのだろうか。

 

「まぁ、そこについては心配の必要はない。中条先輩に頼んであるからな。CADも1時間でバッチリ仕上げてやる」

 

 他人のCADを一時間で……まぁ、達也なら何でもありか。

 

「けど、夏目と組むのか……」

「何か不安材料でもあるのか?」

「そりゃあね。夏目は―――」

 

 そう言いかけた時、扉が開いて夏目が姿を現した。いつもの制服とは違う、彼の『正装』だ。黒の着流し、下駄に赤い鼻緒、黒の手甲。憑き物落とし―――やったんだろうな。

 

「すまない、少し遅くなった」

「中禅寺―――!」

 

 達也の表情がピクリと動く。この二人、底のしれなさで言えばいい勝負だ。

 

「お、ミキ、情けない顔を晒してどうしたんだ?」

「情けなくない! それから―――」

「キミの名前が『幹比古』だっていうのは知っているよ」

「なら、ちゃんと呼んでくれ!」

 

 やれやれ、みたいな顔して肩をすくめるんじゃない。こっちだって必死なんだ。

 

「―――ッ!? ……へぇ、あんたが噂の中禅寺夏目くんね」

 

 エリカは一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに平常の不貞不貞しい顔に戻した。夏目に何か感じるものでもあったのだろうか。

 彼は今日も今日とて葬式を2、3件()()()してきた坊主の様な顔をしているが、基本的にはこれがニュートラルポジションだ。初めての人が見ると驚くというより怪訝な顔をするのだけど……。

 

「初めまして、かな。千葉エリカさん」

「そうね。昔からミキに色々と話を聞いていたから初めてな気はあまりしないけど。私のことはエリカでいいわよ」

「まぁ、ボクも似たようなものだけどね。ボクも夏目でいいよ」

 

 苦笑しながらエリカと会話する夏目は一同を見回すと言葉を紡いだ。

 

「1-A、中禅寺夏目だ。此度、生徒会からの要請でモノリス・コードに出場することになった。よろしく頼む」

「おう! 俺は西条レオンハルトだ。レオとでも呼んでくれ」

「柴田美月です。よ、よろしくお願いします……」

 

 初めまして組が挨拶を交わす。こういうところではコミュ力を惜しまないんだよなあ、夏目は。(京極堂)では客とさえコミュニケーションをとらないくせに。

 挨拶を済ませると彼は僕の隣に腰掛けた。

 

「俺はいいよな? ―――さて、メンバーが揃ったところで作戦会議をしたい。実のところ、あまり自信は無いんだ」

 

 達也がそう切り出すと、夏目を除き、僕を含めみな意外そうな顔をする。

 

「何せ急な話なんで、作戦らしい作戦も立てられない。練習する時間なんてあるはずもないから、ぶっつけ本番で行くしかない。大雑把な段取りをつけて後は出たとこ勝負なんて、力尽くと変わらない。俺にとっては、不本意な条件ばかりだよ」

 

 達也の口から零れたものは弱音というより愚痴だった。

 

「『彼を知り己を知れば百戦危うからず』―――つまり『彼を知らず己も知らざれば戦う毎に必ず危うし』というところだね」

「そうだ。ちなみに幹比古と中禅寺はルールについてどれくらい知っているんだ?」

「僕はまぁ、毎年観てるし大丈夫だよ。夏目はどうせルールブックくらい読みこんだんだろう?」

「その通りだが『どうせ』とは何だ。僕から言わせれば、この場に居ながら読んでいないほうが可笑しいと思うがね」

 

 その言葉を聞いてエリカ、レオ、柴田さんがギクリという顔をしているが、見なかったことにする。彼女らはそもそも観客なので読んでなかったとしても批難される筋合いは無いと思うのだけど。

 

「―――まぁ、詰まる所『缶蹴り』みたいなものだ。違うのは標的を蹴飛ばすと痛いくらいだな。後はチーム戦でやる以上、役割分担が必要になるというところか」

 

 身も蓋もない解釈を夏目が述べると、達也は特にツッコミを入れること無く話を進めた。

 

「その通りだ、話が早くて助かる。まずフォーメーションだがオフェンス、遊撃、ディフェンスに分かれることが一般的だ」

「フォーメーションか。達也の体術と度胸があればオフェンスが合うと思うけどね」

「そうだな。俺も最初はそう考えていたが、幹比古と中禅寺の希望も聞いておこうと思ってな」

 

 確かに古式魔法というのは基本的にはユーティリティ、つまり遊撃に一番向いている魔法だと言える。僕が使える魔法で言えば、『雷童子』で相手を攻撃したり、『地鳴り』や『地割れ』で敵を足止めすることも出来る。工夫して結界を張ればディフェンスも出来るだろう。

 夏目は夏目で現代魔法も人並み以上に使えるから、僕が作戦を立てる立場でも彼の意向は確認せざるを得なかっただろう。

 

「定石通り、ボクがディフェンス、ミキが遊撃、キミがオフェンスでいいのではないか? この競技はその名の通り最終的にコードを入力する必要がある。それが一番早いのは多分キミなんだし、足も多分キミが一番速いだろう」

「―――そうか、わかった。ならその方針で行こう」

 

 夏目が方針を述べると達也は特に異議を申し立てることもなく、承認した。

 

「達也くんにしては()()()()作戦会議ね。自信がないと言っていたのもブラフなのかしら?」

「そんなことはない。例えばの話だが、レオがメンバーだったらもう少し状況は簡単だった」

 

 エリカが口を挟むと、達也の発言にレオが「俺は単純ってことかぁ!?」と反駁の声を上げている。

 

「そうじゃない。レオは近接戦闘の特化型だ。だからその場合は幹比古を遊撃にして俺がオフェンス、レオをディフェンスにすれば問題ないだろう。役割を明確にすることでレオの力を十二分に引き出せるからだ。だが中禅寺と幹比古は基本的にはオールラウンダー。誰をどこに配置するかで戦略の立て方が大きく異なってくる」

「戦略? 悪巧みの間違いじゃなくって?」

「酷いな、その言われようは」 

 

 エリカは場の空気を和らげようとしたのか、敢えて偽悪的な表現を使い達也に向かって誂うような笑みを浮かべた。達也もエリカの意図に気付いたのか、肩と表情を心持ち緩めると、作戦の続きを語り出す。

 

「―――話を元に戻すが、中禅寺にはディフェンス、つまり敵を自軍のモノリスに近づけないこと、モノリスが割られた場合は開かないようにくっつけておくこと、或いは敵のオフェンスの無力化を頼みたい」

「ああ」

 

 まるで明日の朝食のメニューを聞いたかのように安請け合いする夏目は、果たして達也の話を聞いていたのだろうか。

 

「幹比古は俺と中禅寺の側面支援が役目だ。古式魔法の隠密性を活かして、敵に気取られること無く敵を無力化する。これをやって欲しい」

「わかった。けど、なかなか難しいオーダーだね」

「それについては俺に少し考えがある。―――二人のどちらかは感覚共有を使えるか?」

 

 僕と夏目は顔を見合わせる。出来なくはないが、あまり大っぴらにやるのもどうかと思う。

 

「出来なくはないけど、僕は五感の内、一度に二つ―――視覚と聴覚だけだよ。夏目は?」

「やろうと思えば、五感全部。だがCADを介してだと難しいな。あまり映像に映る範囲で呪符や手印は使いたくない」

 

 そうなのだ。先ほど達也が言った隠密性にも関わるが、基本的に古式魔法師の技は門外不出だ。そしてその多くは呪符や独自の祝詞(のりと)――呪文とも言う――を介した発動になる。このプロセスこそ古式の家が隠したい本尊だ。逆にCADを介した発動ならば現代魔法でも同じことが出来るので、現象自体は一部を除いてあまり秘匿されていなかったりする。

 

「視覚と聴覚だけで十分だ。後はCADだが……俺が幹比古のCADを調整するとして、中禅寺はどうするんだ」

「自分でやる」

「大丈夫なのか? 中条先輩か他の誰かに頼んだほうが」

「気にするな。なんとか出来るよ」

 

 夏目は事も無げに言い切った。頭が良いのは昔から知っているけど、CADの手入れとなると話は別―――いや、そもそも夏目は普段からどうしている? 普通の学生なら外の専門店を使うし、十師族とかの名家ならお抱えの魔工技師を使うだろう。

 でも普通ではないこの男は……

 

「ミキが何を考えているのかはだいたい想像がつくが、ボクは今回、少なくとも予選くらいでは古式を使わないよ。だから基本的には使い慣れた振動系魔法で対処するし、メンテナンスも慣れているから大丈夫だ」

「そうなの? ……っていうか『予選くらいでは』ってことは決勝だと?」

「まぁ、ちょっとだけ秘密を使うかもしれんな」

 

 禍々しい笑みを口の端に浮かべる彼を見て、僕は対戦校の無事を少しだけ祈った。

 





【閑話】IF:夏目がカボチャのエナドリ煮込みだったら

「そんな自信が持てないミキにいいものを持ってきたんだ」

 夏目はそう言うと、どこからか取り出した鞄の中から缶ジュースを3本取り出す。『破城槌』を抱えた黒いミノタウロスが缶の側面に描かれている。なんと不謹慎な。

 みんなが首をかしげながら夏目の方を見ると「差し入れのエナジードリンクだ」と言いながら自分で一つ持って行く。僕と達也で一本ずつ飲めということだろうか。
 RIOT(暴徒の) BLOOD()……聞いたことがないメーカーのエナドリにおっかなびっくりしていると、夏目が煽るように言ってきた。

「なんでもそのメーカーのキャッチコピーは『この飲料に世界を変える力はないが、その手助けをすることは出来る……一歩踏み出せない貴方にこそ、届けたい』だそうだ。ミキにぴったりだろう? 別の方がいいか?」

 そんなことを言いながら鞄から別のデザインの缶を取り出すと僕に手渡してきた。同じく破城槌を抱えたジャックオーランタンのデザインだ。

 ライオットブラッド・リボルブランタン……
 リボルブ(回転式) ランタン(電灯)……

 走馬灯じゃないか! なんてネーミングのモノを作ってるんだ。

「試合の前に飲むことをお勧めするよ。今日はもう寝た方が良い」

 ・・・試合終了後・・・

「ミキ……」
「―――忘れてくれ。少なくとも僕はもう忘れた」
「いつものツッコミもねぇとは、こりゃ重症だな……」



破城槌で思い出してしまったんですごめんなさい
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