私が彼の姿を初めて見たのは入学式の日―――2095年4月3日のことでした。
新入生総代の挨拶を終え、席に戻ろうとした時、今ではかけがえのない友人である光井ほのかと北山雫、その二人の向こう側に、まるで親しい友人の葬式に行ってきたばかりかのような仏頂面で、長いだけで取り分け聞くべきところもない校長や来賓の話を聞いている―――いや、聞いていないかもしれない―――彼の姿を見つけました。
前の方に座っているということは、いわゆる一科生、『
しかしあのような区別、いえ、差別の仕方は気に入りません。お兄様のような実力者が正当に評価されないばかりか『
黒髪、黒目で鋭い目つき。やや長いセミロングの髪は、飾り紐でポニーテールのように纏められている。
端正で中性的な顔立ちは、男子の制服を着ていなければ女子と間違えていたかもしれません。
そんな彼は、席に戻ってきた私の方をチラリと一瞥すると、『興味がない』と言わんばかりに直ぐ舞台の方へ視線を戻してしまいました。
私は生まれてこの方、比較的他人の目を引く容姿をしていることに多少の自覚はありますが、ジロジロと見られるのではない新しい反応が、少しばかり印象的に残りました。
もっとも、その後IDカードを受け取り、クラスが1-Aであることを確認すると直ぐにお兄様と合流したので、彼のことを次に認識するのは、翌4月4日、同じクラスであることが判明した時のことでした。
翌日登校すると、まずはほのかと雫から声をかけられ、続いてその他クラスメイトから声をかけられました。正直に言いますと、ほのかと雫以外はあまり心に響かない―――というよりは、何か
そんな中、シラバスを参照して履修登録をしようとしていると、少し離れた席で視線ポインタや脳波アシストを用いた操作ではなく、キーボード操作で手早く入力している人物を発見しました。
「珍しいな」と思うとともに驚き、よくよく見てみますと、それが昨日の仏頂面の彼であったことで二重に驚きました。
昨今ではキーボード操作は前時代的で、複雑な操作には向いていないと断じられる風潮がありますが、私はその道のプロたる
そんな風に考えながら彼を見ていると、確かにキーボード操作は『かっこつけ』でやっている風ではなく慣れた様子が見て取れましたが、お兄様と比べると七割程度の速さであることで、お兄様の技能の高さを改めて認識しました。流石、お兄様です。
彼の実技の成績は、十分に優秀と言えるでしょう。私を除けば、雫、ほのか、そして彼が1-Aの中でもトップクラスです。但し、私は彼が現代魔法を使っているところしか見たことは無く、その際のCADも特別なものではないように見受けられ―――いえ、図書館で使用していたものとは少し違っていたような……。すみません、少し曖昧です。
兎も角、彼についてはそれほど多くを知っている訳では無いのです。
序でに言えば、私生活もどこで何をしているのか知りません。彼は授業が終わるとさっさと帰ってしまいますしね……。
「―――なるほど」
俺は深雪から例の彼について話を聞いたが、判断できるところまでには至らなかった。幸いなことに深雪を害するような、或いは深雪に迎合して取り入ろうというような言動はない。序でに言えば、同じ風紀委員となってしまった森崎のように、二科生を見下すような雰囲気もない。
だが、謎は深まるばかりだ。何故、現代魔法の優等生が古式魔法を使っているのか。
そしてあの古式魔法は何か。そしてその魔法で壬生先輩に何をしたのか。
そして何よりも重要なのが―――どうやって、精霊の眼を誤魔化したのか。
「深雪は、彼が図書館で使用していたあの魔法は何だと思う?」
「申し訳ありません。祝詞を媒介とした古式魔法―――としか推測できません」
「いや、実は俺も深雪と同程度にしかわからないんだ。ただ、白い靄のようなものに最後に使った魔法、アレは『分解』のプロセスに似ているようにも見えた。だが一番の問題は、精霊の眼を以てしても解析出来なかったということだ。もし仮に、深雪にあの魔法が向けられたら―――」
「お兄様のご心配はごもっともですが、現時点ではわからないことが多すぎるように思います。」
「同感だ。やはり、あの人のところへ行って聞くしか無いな」
行けるとこまで書いてみます。
なお、一話あたりの文字量が少ないのは意図的です。