魔法科高校の憑き物落とし   作:桜霧島

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3 九重寺にて

 

 

 休みの日の早朝。俺達は体術の師匠である九重和尚―――師匠に会うため、九重寺に向かった。

 知り合いの古式魔法師といえばこの人くらいしか心当たりは無かったし、『俗世間のことには関わらない』と言いつつ、かなりの情報通でもある。ただ、割りかし気分屋だし、何らかの話が聞ければ儲け物、という程度ではあるが。

 

 目指す九重寺は小山の上にある。山門を潜ると階段を登るわけだが、やはりというか何というか“いたずら”を仕掛けられてきた。

 

 何とかかんとか襲撃者達をいなし、師匠が居るであろう庫裏(くり)に向かう。果たして目的の人物は縁側に座っていた。

 

「おはよう、達也くん、深雪ちゃん」

 

「おはようございます、師匠」

「おはようございます」

 

「それで、どうしたんだい? 今日は、稽古はなかったと思うんだけど」

 

「今日は師匠にお聞きしたいことがあって訪ねました」

 

「僕が知っていることなら教えられるんだけどねえ」

 

「深雪のクラスメイトについてのことです。中禅寺夏目、という生徒がいるのですが―――」

 

「ああ夏目君かい? 知ってるよ」

 

 満を持して中禅寺夏目のことを九重八雲和尚に訊いたのだが、意外なほどにあっさりと回答があった。

 

「ちなみに、どういったご関係で?」

 

「彼の祖父君と少しばかり縁があってね、良くしてもらったんだよ。彼は元気にしているかい?」

 

「短い時間しか会話してないのですが、ええ、元気だと思いますよ。深雪が同じクラスなのですが、彼はどうにもわからないことが多くて……」

 

「彼はね、『陰陽師』なんだ。それも、歴史ある家のね」

 

 陰陽師―――。遥か昔、平安の時代から1000年以上も活躍する古式魔法師の一族だ。

 

「彼の実家はね、雑司ヶ谷にある『武蔵晴明神社』というところで、その名の通り安倍晴明命を祀っている」

 

「彼は『古本屋』だと言っていましたが?」と深雪が訊ねる。

 

「あの一族は大層偏屈で、『本業は古本屋、副業で拝み屋』といつも言うのだよ。神社の脇に古本屋があってね、普段はそこで生活しているよ。今の時代には珍しい、紙の本しか置いてない。一度行ってみればいいんじゃない? 僕に教えられたと言えば、まあ、悪くはならないんじゃないかな。ちなみに本を買うならべらぼうに高いから気をつけるんだよ」

 

 非常に怪しい。怪しいが、一度行って、本人と話してみるべきだろう。

 

「わかりました、一度行ってみます」

 

「ところで、達也君と深雪ちゃんは『陰陽師』についてどれくらい知ってる?」

 

「歴史の授業で習った程度にしか……」

「俺も同じくです」

 

「うんうん、まあ普通はそうだろうね。僕らは古式魔法師と一括りにされることも多いけど、体系によって全くその在り方が異なるんだ。共通するのはあまり表舞台に立ちたがらないところくらいで、魔法の在り方、使い方は体系によって全く違う。知っての通り僕は『忍者』の家系だから隠密系や体術に特化した魔法体系だけど、彼は『陰陽師』だからね、それこそ『何でも出来る』と思うよ」

 

「それほどですか―――」

 

「だからこそ、時の権力者達は実力のある陰陽師を大事に囲ったのさ。彼の家は都の西北、戌亥の方角を守護している。つまり、徳川家とは縁の深い立ち位置にいる。って言うか、そもそも『中禅寺』なんて名字、数字が入ってないから百家には縁が無さそうではあるけど、徳川家と聞いたら思い当たる節もあるだろう?」

 

「中禅寺と言えば中禅寺湖が思い浮かびますが……日光東照宮―――!」

 

 深雪が息を呑みながら答える。そうか、そういった繋がりなのか。

 

「まあ、そういうことだろうね。ちなみに百家、というか十師族との関係で言えば、『六』と『九』の家と関係が深いよ。だからこそ彼の祖父君に良くしてもらったんだけど、まさか第一高校に入学して、深雪ちゃんのクラスメイトになっているとは思わなかったよ」

 

 なるほど。少なくとも四葉や七草みたいな家と繋がりがなくて安心はした。

 

「師匠、彼のご両親は?」

 

「―――父親の方は3年前に事故で亡くなったと聞いている。詳細はよく知らない」

 

 顔色にシャッターを降ろし、師匠でもある九重和尚は答えた。聞いてはいけない話題だったか。

 

「まあ、機会があれば本人に聞いてみればいいさ」

 

「わかりました。朝早くからすみませんでした。助かります」

 

「いやいや、弟子が困っているなら助けるのは当然のことだよ」

 

 心にもないことを言う師匠に別れを告げ、去ろうとすると、「あ、そうそう」と言いながら俺達を呼び止める。

 

「彼、ああ見えて甘いものが好きだから、何か手土産があると喜ぶと思うよ」

 

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