魔法科高校の憑き物落とし   作:桜霧島

4 / 16
4 京極堂へ

 

「ごめんなさい、あのときのことはよく覚えてないの。」

 

 俺は壬生先輩のお見舞いに来ている。彼の家に行く前に、ある程度情報収集をしなければならないと思ったからだ。

 立ち入りが許可されるようになった病室には、俺と深雪の他に渡辺先輩も来ていた。

 

 壬生先輩は渡辺先輩との間の誤解も解けたことで、まるで()()()()()()()()()()()()朗らかな笑みを浮かべている。

 

「いえ、先輩が元気になられたことが何よりです。それに、俺は先輩を運んだだけですよ。お気になさらず」

 

「ありがとう。お医者さんの話では後遺症も無いだろうということだし、貴方と、あの―――中禅寺君だったかな? 彼には感謝しているわ」

 

「司波がそんな殊勝な奴だとは知らなかったな。あと、中禅寺にそれほどの実力があるとは、つくづく風紀委員に迎えることが出来なかったのが悔やまれる。今からでも森崎と代わってくれないだろうか」

 

 森崎に対して酷い言いようだが、入学早々に騒ぎを起こしたあいつにも問題はあるだろう。

 

「渡辺先輩は中禅寺のことを知っているのですか?」

 

「今年の風紀委員の教員推薦枠、候補は2人居たと担当教員から聞いている。中禅寺と森崎だ。入試で総合3位の実力者である中禅寺に声を掛けたが、取り付く島もないということで次点の森崎になったようだ。おそらく、その事は真由美も知っているはずだぞ? まあ、今は君に夢中のようだから忘れているかもしれないが」

 

 (からか)うような笑みを浮かべ、こちらを見遣る。七草先輩も悪い人ではないのだが……。

 心なしか深雪から感じる冷たい空気が強くなった気がする。壬生先輩のところへ行くと聞いてから冷たい感じはあったが、このままでは風邪を引きかねない。

 

「―――あまり病室に長居するわけにはいきません。ここらで俺達は失礼します」

 

「ふふっ。ええ、また学校でお会いしましょう」

 

 逃げるような形で病室を後にする。いや、これは逃げではない。戦略的後退だ。むしろ中禅寺の情報を得ただけ前進とも言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、週末を迎えた。

 

 俺と深雪はキャビネットに乗って武蔵晴明神社を目指す。外を流れる青葉の輝きが、春から梅雨に向けて移りゆく季節を主張している。

 

 師匠からもらった地図を確認すると、このどこまでもだらだらといい加減な傾斜で続いている坂道を登り詰めたところが、目指す『京極堂』である。

  坂の途中に樹木など日除けになる類のものは何ひとつとしてない。ただただ白茶けた油土塀らしきものが延延と続いている。この土塀の向こうは何なのだろうか。

 この辺りの建物は都心といえども20世紀の香りを色濃く残す、下町のような雰囲気を出している。師匠の庫裏も似たような雰囲気のため、案外同じ様な時期に建てられて移設されたものかもしれない。

 

 誰が書いたのか手書きで書かれた『京極堂』という看板を見つけると、中を覗き込む。どうやら店員のようなものは居ないようだ。

 中はぐちゃぐちゃと本が並べられたり積まれていたりしているが、奥の小上がりに目的の人物はまるで親でも死んだかのような仏頂面で座っていた。

 

「邪魔をする」

 

 声を掛け中に入ったが、ちらりとも此方を見ない。手元に置かれた画集のようなものをペラリペラリと捲る音だけが小さな店構えの中に響いている。

 今日は藍の着流しに髪を降ろしているので、黙っていると本当に女子のようだ。和服を常に着ていると撫で肩になるというのは本当なのだな、と俺は場違いな感想を持った。

 

「こんにちは、中禅寺君」

 

 後ろに控えていた深雪が再び声を掛けると、ようやく目的の人物は視線を上げた。

 

「何故キミたちがいるんだ」

 

「あら、高校生がクラスメイトのお宅に伺うのは普通の出来事だと思いますが」

 

「家の場所を教えてない時のそれは、ストーカーと言うんだぜ、司波さん」

 

 そう言いながら湯呑の茶を一啜(ひとすす)りする。

 

「今日は生徒会役員としてブランシュ事件解決の尽力のお礼に、後は壬生先輩からの御礼も預かっています」

 

 そう言いながら、深雪は抱えていた季節のゼリー詰め合わせを彼に渡す。

 

「やれやれ、そんなものを貰うためにやったわけじゃないんだがね。まあ、お茶でも出すから上がりたまえ」

 

 これは確信に近いのだが、深雪が居なければ、或いは手土産が無ければ、無視に近いまま帰ることになっただろう。まあ、深雪が選んだ手土産を突き返すようなら、いくら強い情動が出せない俺と言えど、冷静さを欠いてしまうかもしれない。

 

 俺達を奥の八畳ほどの畳敷きの居間に通すと、中禅寺はペリペリと綺麗に包装を開け、お茶を淹れる準備をしだす。1ダースの種類の中からひょいとミカン味のものを取り出すと、「ほら、キミたちも選べ」と残りの11個を差し出したので、俺達はそれぞれ選んで中禅寺がお茶を淹れるのを待つ。

 

「あ、ゼリーが冷えてないわ」

 

「そんなもの、自分で冷やせばいいじゃないか」

 

 深雪が思い出したかのように言うと、彼はそう言いながら懐からCADを取り出し、凍らない程度に俺たちの分までゼリーを冷やす。

 俺は出された茶の毒見がてら口をつけ、一呼吸置いてから話し出す。

 

「中禅寺は器用なんだな」

 

 俺は世間話をしながら中禅寺の魔法を解析する。CADも起動式も、一般的な現代魔法のものだ。念の為、精霊の眼でも確認するが、目の前の彼も含めて通常通り認識出来ている。

 

「何を言う。これくらい司波さん――紛らわしいから深雪さんと達也でいいか?――彼女だって出来るだろう。授業を見てないキミは知らんが」

 

「ああ、俺には出来ないな。中禅寺は振動系が得意なのか?」

 

「人並みだよ。―――お、美味いな」

 

 ミカンゼリーをパクつきながら、当たり障りない返答をする中禅寺。どうやら夏目と呼ぶ許可はくれないようだ。

 

「口にあって良かったです。中禅寺君は風紀委員に推薦されたと聞きましたが、そうだったのですか?」

 

「ああ、入学した翌日だったか翌々日だったか、誘われたよ。そんな面倒なことをしていると本を読む時間もなくなってしまうからね、丁重にお断りしたよ。ところで、この場所のことは誰に聞いたんだ?」

 

「私達の体術の師匠でもある九重八雲和尚からです」

 

「あの人はまったく―――口が軽いのか重いのか。小さい頃だけど、あの御仁は爺さんのところへしばしば来ていたんだ。あの頃から胡散臭さは変わらないね」

 

 顔を顰めながらぼやいている内容は大いに賛同できるところだ。

 

「ふふっ。今度会ったら伝えておきますよ。失礼ですが、お祖父様はもしかすると其処の遺影の―――」

 

「ああ、昨年亡くなってね。ボクが魔法科高校に入ることになったのも、爺さんの遺言のせいさ。ちなみに、爺さんの遺影の隣のは父親だ。3年前に亡くなっている」

 

「それは、その、お気の毒に……」

 

「まあ、ボク一人が食うには困らない資産はあるし、この古書店も赤字ではないからね。付け加えると、物心ついたときから母親はいないから、家事の類だって手慣れたもんさ。―――とまあ、ボクが風紀委員を断った理由もわかってくれるだろう?」

 

「ええ、謎のクラスメイトのことに誰よりも詳しくなった気がしますわ」

 

「見た目に拠らず非道いことを言う人だなあ。」

 

 深雪と中禅寺は何処にでもあるクラスメイトの会話のように和気あいあいとしているが、次に中禅寺が放った一言に場は凍りついた。

 

 

 

 

 

「ところでキミたちは『四』と『八』、どちらの関係者なのかな?」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。