魔法科高校の憑き物落とし   作:桜霧島

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※原作の独自解釈が含まれます




6 狂骨の夢

 

「お久しぶりです、九重和尚。」

 

「お祖父様の葬儀以来だから、だいたい一年ぶりかな。元気そうで何よりだよ。一寸(ちょっと)ばかり、手を合わさせておくれ」

 

 禿頭の和尚は遺影が脇に設置された神道式の祭壇に向かって天台式の念仏を唱える。両者ともに、細かいことにはこだわらないようだ。

 

「―――まったく、突然連絡してきたかと思えば『弟子をそっちに行かせるから』なんて、驚くじゃあないですか。司波兄妹がそうなら、そうと先に言ってくれれば良かったものを」

 

「ハハハ! そりゃ仕掛けた甲斐があるってもんさ」

 

 中禅寺夏目は少しばかり不満げな顔を浮かべながら、突然の来客をもてなすべく茶と茶菓子――深雪らが持ってきたゼリーだ――を準備する。

 

「相変わらず如才無いねえ。僕も客人に茶を淹れることがあるのだけど、いつも『不味い』って言われちゃうんだよ」

 

「あまり美味しく作って其の方に長居されるのも困るのでは?」

 

「確かにそうだね!」

 

 九重八雲は快活に笑いながら茶を啜り、ゼリーを口に運ぶ。どうやら共に好みの味だったようで満足げな顔を浮かべる。

 

「―――して、和尚はどのようなご用件でしたでしょうか」

 

 夏目の問いかけに九重八雲は、少しばかり真面目な顔を作り返答する。

 

「ブランシュ・エガリテの襲撃者を捕えた手腕、見事だったそうだね。今回は何を祓ったんだい?」

 

「『狂骨』ですよ。江戸時代に描かれた鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』では、井戸から出て来た白骨の妖怪として解説されていて、世の中に深い恨みがあると言われています」

 

「それが、壬生(なにがし)さんが抱いていたものの本質、ということだね」

 

「先日、見舞いがてら彼女と話をしてきました。彼女は、憎んでいたのです。一科生を、才能のある人を、魔法師というものを。それが夢幻のもので他人によって刷り込まれたものだとしても、彼女にとってはそれが現実で、彼女と世界を阻む高い(井戸)だったのです。本来なら時間を掛けて『呪』をかけるべきところですが―――」

 

「急な話だったので已む無く力尽くで『祓った』か」

 

「その通りです」

 

「『眼』は使ったのかい?」

 

「いえ、使っていません。時間的な余裕もありませんでしたし―――」

 

「達也君や深雪ちゃんも居たから、だね」

 

「ええ」

 

 二人は空になったゼリーの容器を脇に置きながら話を続ける。

 

「しかしまあ、原理を聞いても未だに君ら一族の魔法体系はわからないよ。現代魔法師からしたら、ある意味では脅威じゃないか?」

 

「しかし、やっていることは現代魔法と同じなのです。魔法式をイデアに投影し、エイドスを書き換えて、現実を改変する。現代魔法師が普通にやっているこれを、簡単に言えば、『神様にお願いして現実を変えてもらう』としているだけなのです。ボク達のはただ、『言霊』を介してそれらの工程がすっ飛ばせるというだけで、優秀な魔法師なら誰だってそうなれますよ」

 

「一人で出来ることの幅が違いすぎるけどね。特に君の場合は」

 

「ボクは思うのですが、魔法の根源は唯一つ。『欲望』の力なのです。『そうあれかし』とボクの先祖は願った。別の誰かは、認められない現実を力尽くで書き換えたかった。ただ、それだけのことです」

 

「君の理屈で言うと、魔法師は押し並べて解脱出来ないことになるね。ああ、生臭坊主を自称していてよかったと思うよ」

 

「……話が逸れかけましたが、現代魔法師だって優秀な人は干渉力やサイオン保有量にモノを言わせて何でも出来るじゃあないですか。それと変わりませんよ」

 

「それこそ、君の世代で言えば達也くんや深雪ちゃんくらいのものだよ」

 

 

 

 

「―――だから、同年代で彼らに対抗できる駒が欲しい、と?」

 

 

 

 

「……ふう。まったく、如才無いのもそうだけど、相変わらず可愛げが無いねえ。」

 

「今まで必要がありませんでしたし、恐らく今後も必要無いでしょうよ。それから序でに申し上げると、そのような面倒事は九島の爺様に丸投げしておけばよいのです」

 

「そういうわけにもいかないんだよねえ。優秀な陰陽師なんて限られてるんだから」

 

「優秀な陰陽師は、墓の中にしか存在しませんよ」

 

「言い得て妙だけど、君がいる」

 

「首輪に鈴を付けたいだけなら『吉田家の神童』にでもやらしておけばいいのですよ。竜神を呼び出すほど才能ある野心家なのですから」

 

「あれはもはや神祇魔法でも、ましてや陰陽師でもないだろう―――やれやれ、聞かん坊なのは祖父譲りなのか、父親譲りなのか」

 

 九重八雲は大きくため息をつく。

 

 外は陽が傾きかけ、縁側に長い影を作っている。そちらの方に視線を向けながら夏目は語りだした。

 

「狂骨という妖怪は、二面性を表す妖怪でもあるのです」

 

「ほう」

 

「『恨みを抱えた恐ろしい骸骨』という深刻さを捕えた一面と、『“狂骨”と“(きょう)骨”をかけた石燕のダジャレ』というバカバカしい一面です」

 

 八雲は黙って夏目の話を聞いている。

 

「壬生先輩の例で言えば、彼女は現状を憂いていた。教育リソースの欠如という理由で仕分けられる将来ある学生達。確かにそれらはある意味で深刻な問題でしょう。ですが、そういった思想に染まった切っ掛けは、単なる友人(ライバル)同士の言葉上の勘違いというバカバカしい理由でした」

 

「日本の魔法師界隈もそうだと言うんだね?」

 

「ええ。十師族をはじめとした日本の魔法師界隈は力の安定に心血を注いでいる。それは間違ったことでは無いでしょう。安定を欠けば他国に侵略される、人の生命が失われる、という深刻な側面があります」

 

 夏目は殆ど空になった湯呑に口をつけ、唇を濡らしてから言葉を紡いだ。

 

「ですが、そもそもバカバカしい話なのです」

 

「何がだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間は、そもそも魔法など無くとも豊かに生きていけるのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは―――まさに夢物語だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、そう、私達は皆、狂骨の夢の中で生きているのですよ」

 

 

 

《了》






評価、感想、お気に入り登録、誤字脱字報告頂いた方誠にありがとうございます。
気づいたら赤バー付いてて、しかも日間ランキング(短編6位、総合66位)にも載っていました。

正直、びびってます。

短い間でしたが、お付き合い頂きありがとうございました。
宜しければ評価、感想頂けると嬉しいです。
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