魔法科高校の憑き物落とし   作:桜霧島

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8 全国魔法科高校親善魔法競技大会の事

 

 

どうしてこうなった―――

 

 

 

 眼前には冷気が滲み出している―――いや、撒き散らしている深雪と、まるで親戚全部が死に絶えでもしたかのような仏頂面をした中禅寺が座っている。

 

 深雪には劣るものの美形の顔なのに――いや、流石に女子と比べると怒られるか――そういった印象を残さないのは、確信を持ってこの目付きと表情のせいだと思う。

 

「―――もう一度言います。来たる九校戦、貴方には新人戦メンバーとして参加して頂きたいのです。これは、私個人からのお願いではなく、生徒会、風紀会、部活連からの要請として受け取ってください」

 

「お断りします」

 

「……理由を聞かせてください」

 

「家業の関係で、夏休みは忙しいから」

 

「期末試験で実技3位、理論3位、総合2位の貴方が出ないで誰が出るのですか!?」

 

「さあ?」

 

 あっけらかんと返答する中禅寺のせいで、部屋の気温が更に2℃ほど下がった。

 

 21世紀初頭の温暖化時代から少しばかりの寒冷化時代を経て、今は季節相応に太陽が振る舞う時代だ。この部屋を一歩出れば、季節相応、7月初旬の気温が出迎えてくれるだろうことを期待して、俺は口を挟むことにした。

 

「深雪、中禅寺の意志は固いようだし、これ以上は平行線をたどるしかないだろう。一度戻って、七草会長や十文字会頭に相談してはどうだろうか」

 

「―――そのようですね。お兄様、それではお暇しましょう」

 

「ああ。悪いな、中禅寺。時間をもらって」

 

「まったくだよ」

 

 俺と深雪は交渉のため使用していた空き教室から出た後、生徒会室へ交渉の経緯を報告しに向かった。

 

 生徒会室の中に入ると、七草会長を含めた三巨頭が顔を並べており、脇に中条書記(あーちゃん)市原会計(りんちゃん)が控えている。他のメンバーはそれぞれの学年の候補者のところへ行っているのかもしれない。

 

 七草会長は俺と深雪の顔を見るとその結果を問い質した。

 

「深雪さん、達也くん、一年生の方はどうだった? 内諾は取れそうかしら?」

 

「……一名を除いて、皆さん承諾頂けました」

 

「誰が辞退したの?」

 

「1-A、中禅寺夏目君です」

 

「えぇっ!? 理由は!?」 

 

「表向きには『夏休みの間は家業が忙しいから』だと言っていました」

 

「……裏の理由は何かしら?」

 

「……推測ですが、おそらく面倒臭いと感じているのかも、と」

 

「ちなみに彼の家業って……」

 

「寂れた古本屋です。副業で神主をやっているそうですが」

 

 能面のような顔をした深雪がそう報告すると、あからさまに落胆した顔で七草会長は嘆息した。

 

 深雪の報告にいちいち棘があるのは本人は気づいてないものの、周りの人間は表情と体感温度でわかっているだろう。

 

「彼は、優秀なのよね?」

 

「ええ、授業では女子の新人戦候補者である北山さんや光井さんと遜色無く、彼女らと比べると少しばかり魔法構築速度に劣りますが、魔法式の規模、干渉力は二人を上回るでしょう―――しかも得意と思われる古式魔法抜きで。その結果の、期末テスト総合2位です」

 

「えぇ……普通に男子のエース級じゃない……。十文字君、摩利、何とかならない?」

 

「俺達も説得に乗り出してみるが、如何せん本人にやる気がないことにはな」

 

「真由美がビキニでも着て色仕掛けすればいいんじゃないか?」

 

「摩利のは却下。でも、うーん……。壬生沙耶香さんやブランシュの工作員を無傷で捕縛した古式魔法の手腕といい、実力には申し分ないと思うし、このまま不参加はねぇ……」

 

 七草会長は頬に手を当てながら思案している。

 

「あの……」

 

「深雪さん、どうしたの?」

 

「それなのですが、中禅寺君は『西の方の知り合いが良い本を手に入れたらしいから、明日から一週間ほど学校を休むよ』と言っていました。恐らく、少なくとも関東には居ないかと……」

 

 自由か、あいつは。

 

 ちなみにそれを言ったときの中禅寺は、死神がウキウキとスキップするように邪悪な表情だったらしい。

 

 だが、一方で中禅寺の気持ちもわかるのだ。もし俺が九校戦のメンバーに放り込まれたら、深雪のガーディアンという職務を放棄するばかりか、分解や再生を使わなければ勝てない場面もあろう。そうなれば俺達ばかりでなく、周囲の人間も巻き込んで危険な目にあわせてしまう。

 

 自身を含めたステークホルダーに相応のメリットを示してもらわなければ出れるものも出れない、そのような状況にあるのかもしれない。

 

 裏に居る者に出場を止められているか、或いは深雪が言うように、単に本を読む時間が少なくなるから、という理由かもしれない。

 

「摩利、風紀委員に誘わなくてよかったんじゃない?」

 

「―――そうだな。少なくとも私には御し得ん」

 

「七草、渡辺。ギリギリまで待ちたい気持ちもわかるが、参加するかどうかも不透明な奴を当てにすることもできん。何より、今日明日にでも決断しないと発足式や合同練習に間に合わん。彼には後日改めて補欠―――或いは技術スタッフとして打診してはどうか」

 

「仕方無いけど、十文字君の言う通りね。じゃあ残りのメンバーが確定次第、そのようにしましょう。深雪さん、お疲れ様でした」

 

「ありがとうございます。ですが、お役に立てず申し訳ありません」

 

 『自営業』か―――。果たして古本屋の店主としての業なのか、陰陽師としての業なのか。推察するに、恐らく収入的には『副業』の神主、というか陰陽師の方が儲かってそうな気がする。

 

 しかし四葉の関係者以外で、あそこまで深雪と相性の悪い人間も初めて見たな。

 

 俺達に対する隔意は感じるが、害意は感じない。果して彼は俺達の敵となるのか味方となるのか。

 全ては神のみぞ知るところだろう。

 

 

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