もう一人の星の子は呪いを受ける   作:亥露

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炸裂、ヲタ芸

 その日から私はアイやミヤコさんに付いている呪霊を片っ端から食べていった。味は個体で異なっており、然しどれも美味とは言えなかった。私が呪霊を食べると、二人は何かと良い顔をした。だから今日も呪霊を食べ続ける。

 その結果私が扱える術式が日に日に増え、何やら無双状態に入ってしまった。

 

 然し今日はアイが少し元気がないようだ。

 

 「今月の給料2●万……」

 

 アイは給料明細を見ながら呟く。あぁ、確かに月収2●万は少ない方だわな。前世私も出来高払いだったから気持ちは痛い程分かる。子育てをしながらだから尚の事だ。いくらベビーシッターが居るからっておむつやらミルクやらはアイから出しているのだ。高い訳がない。

 

 世間とは世知辛いものさね。

 

 「ねぇうちの事務所給料渋いよー……。こないだ出したシングルオリコン3位とかだったよねー。中抜きエグすぎない?」

 「製造から流通までやってる大手とは違ってウチはただの弱小芸プロ。利益が薄いのは承知の上でしょ。今更どうしたの?」

 

 全く持ってその通りだ。矢張り大人が絡むとあれそれ天引きされてしまう。矢張り芸能界というのは難しい問題なんだな。

 

 「世の中結局お金だって気付いたの」

 「嫌な事に気づいちゃったね……」

 「アイドルはやってて楽しいし、私一人なら今のままでも別に良かったんだけどさ、だけどこの子達を良い学校に入れたり、習い事させたり。色んな選択肢をあげるには私がもっと売れてもっとバシバシ稼がなきゃ駄目なんだよね」

 

 ——今のままじゃこの子達を幸せに出来ない。

 

 そう言ったアイの顔は少し寂しそうだった。

 私も思う。今のままでも良いと。然しアイは納得はしないだろう。私達がどれだけ現状に満足していようが、アイには〝母親〟という責任が今以上に求められる。そうなれば金の問題はずっと纏わりつくのだろう。

 本当に世知辛い。

 

 「CMとか映画の仕事来ないか。はぁ〜。」

 「それも大手が……いやまずその高いアイスをやめなさい。」

 

 アイは母親としては多分駄目な分類に入るのだろう。アクアとルビーをしょっちゅう間違えるし、今だってお金の話をしながらバカ高いアイスを食べてるし。まぁ仕方は無い。彼女はまだ16歳。まだ遊びたい盛りの子供だ。そんな彼女に完璧な母親をやれと言うのは酷だろう。彼女は彼女なりに精一杯母親をやろうと陰ながら奮闘している。

 

 私達さえ愛してくれればそれで良いのだから。それ以外は求めない。

 

 「はぁ……。レッスン行ってきまー。良い子にお留守番しててね」

 

 アイは気持ちが軽くなる事も無くレッスンに行ってしまった。私達はそれを見送ったが、私達の心もまた少しだけ不安に染められていた。

 

 「ねぇ、アイドルって月収100万くらい稼ぐものじゃないの?」

 「んなワケないだろ」

 「んなワケないの!?」

 

 ルビーの言葉にアクアは答える。まぁ普通に生きてたらそんな事分かるわけないわな。私も最近まで芸能界は100万迄はいかないまでも時給が良いものだと思ってたし。無理もない。

 

 「歌唱印税テレビ出演料もメンバーと山分け……ライブは物販が売れなきゃ余裕で赤字。そして衣装代は天引き……月100万はマジで一握り」

 「遠征費用とかもあるしね。それを考えたら逆に20万は多い方だねぇ」

 

 アクアと私の言葉にルビーは不機嫌を隠す素振りも見せず怒り出した。

 

 「何それ!頑張ってる人にお金が行き届かないなんて世も末ね!!」

 

 まぁ言いたい事は分かる。頑張ってる人には報われてほしい。それが大好きな人なら尚更だ。私だってそうだ。正直言って仕舞えばアイの努力に見合った報酬が出ないのは腹正しい。

 

 「おいマネージャー!どうしてウチのアイに仕事が来ない!」

 「このクソ運営!もっと営業かけろ!!」

 「そんな事言われても……」

 

 アクアとルビーは痺れを切らしたのか、到頭ミヤコさんにまで八つ当たりをした。

 

 「コラコラ二人とも落ち着けー。ミヤコさんに言ってもしょうがないだろ。グループアイドルはソロより難しいんだから」

 

 私は二人を嗜める。全く、これじゃどちらが長子か分からしない。なんか段々二人が悟に見えてきたな。

 

 「ダイヤの言う通りです。アイドルグループって結局数十人が束になって、たった一人の芸能人と仕事を奪い合う業態なワケですよ……セット売りでやっと仕事が取れる現状で、単体で勝負ってなるとやっぱ壁は厚いですよ」

 

 うんうんと頷く。それに確かB小町は弱小事務所の中高生モデルの寄せ集めだった筈だ。そんなグループに割り振られる仕事なんてたかが知れてる。一アイファンとしては憤りを感じるが、これが現実なのだ。

 

 「個人の仕事がしたくてアイドルを卒業したものの一人じゃ仕事が取れず六本木の高級飲食店でバイトしてたり、港区女子になってギャラ飲みで食い繋ぐ元アイドルも無茶苦茶居るじゃないですかぁ」

 「知らないけど……」

 「東京って怖い街だな」

 「あー居るぅ」

 

 そういや前世の任務でちょこちょこそう言う人居たな。で、大体呪われてるっていう。何度かライブハウスにも行ったなぁ。溜まりやすいんだよな、ああいう所。

 

 「アイが凄いのは私も認めてる。でもそれは『アイドルという分野』に限った話。芸能界ってのは『一人で戦える何か』がないとやっていけない所なの。儲かる仕事って『B小町の誰かじゃ無くて、『アイ』にお願いしたい仕事の事だから、アイドルとして優等生なだけじゃ駄目なのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 「販促イベント!」

 「ミニライブ!」

 「抽選でしか当たらないやつぅ!」

 「フゥゥゥ!!」

 「うるせぇ!」

 

 私とルビーは交互にそう叫び手を合わせた。

 ウヒョー!ライブ!ライブ!アイのライブ!前世任務ばかりで見れなかったライブが!今!まさに!目の前に!ちょっと呪霊邪魔だけど!マジで多いな!

 

 私達が居るのはライブハウス。ミヤコさんにどうしてもって言って連れてきてもらってのだ。

 

 「いいですか……どうしてもって連れてきましたが、こんなの社長にバレたら怒られるの私なんですからね……推さない駆けない喋らない!おしゃぶり付けて大人しくしてて下さいね!」

 「任せろい。潜伏は得意だ」

 「アンタが一番不安なんですよ」

 

 なんだと。そりゃアイに似ての美少女だから目立ってしまうのも仕方が無いがそんな事言ってしまったらお前、悲しいだろうが。

 私達はミヤコさんの手で強制的におしゃぶりを付けられた。うーん成る程、此れがおしゃぶり、中々悪くない。

 

 「そうだぞダイヤ。目立つ事だけは絶対に駄目だからな」

 「ダイヤは騒がしいからなぁ」

 「一寸待って。何で私だけに集中砲火してんの?酷くない?可笑しくない?」

 

 三人は口を揃えて私に注意をする。何故だ。私は然程五月蝿くした覚えはないぞ。

 

 「言うとくけどアンタも五月蝿いからね、ルビー」

 「え!?絶対嘘だ!!」

 「嘘じゃねえよバーカ」

 「はぁ!?馬鹿って言った!?」

 「お前ら二人とも五月蝿ぇよ……ったく。俺達はスタッフの子供として此処に居る設定。アイとの関係性を匂わせる様な事は絶対するなよ……」

 

 アクアはそう言って私達を注意した。今迄の数ヶ月、初めてアクアの長男らしい姿を見たかもしれない。

 まぁ確かに此処でバレたら即ジ・エンド。さよならバイバイホームランだ。そんなヘマはしない。多分。

 

 「言われなくても分かってるよ。見たでしょ、ママが落ち込んでる所……これでも私はママが心配で此処に居るの。遊びに来た訳じゃないのは分かって」

 

 そう言いルビーは俯く。

 

 やべぇなーんも考えて無かった。私アイのライブ見る為だけに来ちゃったよ。どうしよう、私もなんか気の利いた台詞を言わなくちゃ。えーとえーと……。

 

 「無理して言わなくて良いぞ。お前がなんも考えてない事くらいこの場に居る全員分かってるから」

 

 ハハァ、殺すぞクソガキィ。

 

 然し本当の事だから何も言えないんだよなぁ。アイの事は大好きだが、大好きだからこそ私はアイに何も言えない。自分の言葉が逆に傷つけたらどうしようって。だから取り止めのない会話しか出来ないし、それしかするつもりもない。

 唯一出来るのは、本人にバレずアイに憑いている呪いを人知れず喰う事だけだ。

 本当に冷たい女だ。私は。

 

 「あ、始まった」

 

 電子音と共にアイの声が響く。

 

 

 『貴方のアイドルー。サインはB!チュッ』

 

 

 初めて生で見るアイは、キラキラ輝いていて、他のメンバーなど目に入らない程に綺麗だった。まるで一番星の様に、照らしている。

 不思議なものだ。さっきまで鬱々とした気持ちだったのだが、アイの詩を聴くと嘘の様に全てが如何でも良くなる。

 アイだ。アイが居る。目の前でアイが踊っている。あぁ、なんて綺麗なんだろう。少し離れた所からでも分かるアイの美しさ。余所見瞬きすら一瞬たりとも許さず、私の意識は全部アイに奪われていた。

 身体が勝手に動く。私の意思とは関係なしに。

 そして——

 

 

 「バブバブバブバブバブバブ!!!」

 

 

 私達三つ子はヲタ芸を打っていた。

 

 「なんだあの赤ん坊!ヲタ芸打ってるぞ!!」

 「乳児とは思えないキレだ!!」

 

 私達の姿を見て他の同士達は次々と驚いていた。

 

 「何が心配して来たですか!!誰よりもエンジョイしてるじゃないですか!!」

 「つい本能で——!」

 

 私達三人は我に帰っても尚ヲタ芸を辞める気配もなく、永遠とペンライトを三つ並んだベビーカーの上で振り回していた。流石にアイは此方に気付いた様で、目を見開いている。しまった、バレたか。

 然しアイの顔はみるみる綻んでいき、今迄に見た事がない程の笑顔を浮かべていた。

 

 それからというもの、アイは本調子を戻した様で、二曲目、三曲目といつも通りに、然しいつもより軽やかに舞台で舞っていた。私達はそれに合わせてペンライトを振る。ミヤコさんはもう諦めた様で、死んだ顔で舞台を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 『バブバブバブバブバブ!!!』

 「21万リツイート、転載動画も既に200万再生……赤ちゃんコンテンツはバズり易いとは言え……此れは流石に……」

 

 帰宅した私達は、先程のライブを数多のSNSを確認していた。案の定大々的に話題に上がり、5ちゃん、Twitter、YouTubeなどで話題沸騰している。いやー、意図せずアイを話題にさせちまった。

 ミヤコさんは社長に別室へ連れて行かれ、説教を受けている。あはは、申し訳ない。

 

 そんな中でアイはとある呟きに興味を示した。

 

 

 

 『此れだよ!!!!!此れ!!!!!!!!!』

 

 

 

 その呟きを見てアイは何やら企んだ様子でニヤリと笑った。

 

 「成る程……此れが()()のね、覚えちゃったぞ〜」

 

 あぁ、そういう顔も堪らなく愛おしい。

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