色々とキャラを絡ませる為に、アイの死んだ年やゾンビーズの死んだ年も一部変えてます。
細かいところ気にしないで読んでくれると嬉しいです。
ルビー、アクア、愛してる。
ああ、・・・やっといえた、この言葉は、嘘じゃない。
身体が熱を失っていくのがわかる。
視界も暗くなっていく。抱きしめているアクアの顔ももう見えない。
アクアの身体の温かさもわからなくなってきた。
きっともう私は死ぬんだろう。
嘘ばかりついてきた人生だったけど最後の最後に嘘じゃない本当の愛を伝える事ができた。
やり残した事がない、といえば嘘になるけど、まあいい人生だったのかな。
ついに何も感じなくなった。真っ暗な視界で目を閉じているのか、開いているのかもわからない。
死ぬ、てどうなるんだろう。
このまま意識が無くなるのを待つのかな────
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・・キャァァァァァッ・・・
人の叫び声。獣の騒ぐ音も聞こえる。
混濁していた意識が少しずつ覚醒していく。身体がまだ思うように動かない。指、瞼と力を入れていく。・・・動く。床の冷たさを感じつつ、少しずつ瞼を開いていく。目に飛び込んで来たのは
目がイっている生気のない顔をした女の人が私に噛みつこうと向かってくる光景だった。
「うわぁっ!?」
思わず腕を前に出して防ごうとする。女の人は容赦なく私の腕に噛み付いた。
「ッッ・・・あれ?痛くない?」
おかしい、どう見ても歯の根元まで刺さっている。なのに、全く痛みがなかった。
ガゥっガゥっ!
しばらく噛んでいた女の人は私が何の反応もしないことに飽きたのか、口を離して走り出した。
良く見るとここはどこかの屋内の一室で、他にも何人か女の人がいた。みんな、さっきまで私に噛みついていた女の人から逃げるように、壁際へと距離を取っている。
よく見るとみんな生気のない、青白い顔色をしていた。頬はこけ、唇は乾燥しきっている。目の周りにある青い隈は死人のそれだ。
近くに鏡があったので覗き込む。私の顔も手も同じく青白かった。これじゃまるでゾンビだ。
そのまま身体をペタペタと触ってみる。服は私が昔着ていた私服みたいだ。ふとお腹の部分に違和感を覚える。服を捲ると、そこには包帯が何重にも巻かれていた。あれ?ここって確か・・・。
考えているとガラッと音がして、ベランダに通じるドアを開けて同じく生気のない顔をした女の子が入ってきた。
部屋にいた私たちを見回すと、ぱぁっと笑顔になり、
「お、おっはようございまーす!!」
大きな声で挨拶された。
・・・うーん。なんだろう、これ。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
挨拶された私たちは何が何だかわからないまま、彼女に連れられて洋館の地下に案内された。
中には牢屋のような鉄格子があり、その前にパイプ椅子が8つ置いてある。
向かいにはホワイトボードがあった。
とりあえず椅子に座る。なんでもこの後誰か来るようで、私たちが目覚めたらここで待つよう言われてたらしい。
待っている間、暇だったのでみんなと自己紹介をすることになった。
「あたしは佐賀で怒羅美ゆうゾクの特攻隊長はってた二階堂 サキじゃあ!夜露死苦ぅ!」
わぁ、ヤンキーだっけ?そういえば施設にいた頃、こんな子もいたなあ。
「あたしは水野 愛。アイアンフリル、てアイドルユニットでセンターをやってた。・・・よろしく」
アイドル!私と同じ名前だしシンパシー感じちゃうかも。
「あ、えと・・・私は紺野 純子、です。私もアイドルやってました・・・。ゆにっと?ていうのは分かりませんが一人で活動してました・・・」
この子もアイドルなんだー。なんていうか制服とか見る限りレトロ?ぽい。
「わっちは花魁、ゆうぎり、と申します。どうぞよしなに」
へー・・・綺麗な人。私と同じ生気のない顔してるけどどこか凛としてる感じ。でも花魁、てなんだろ?
「えっとね!リリィはね!星川 リリィ、ていうの!役者やってたんだー!リリィて呼んでね!」
わ、この子可愛い!歳はルビーとアクアよりも少し大きいくらい?・・・二人とも元気かな・・・。
「ヴォウヴォウ!」
「あ、えっと、こっちの子はたえちゃん、ていうけん。私は源 さくら。よ、よろしくお願いします・・・」
たえちゃん、はさっき私に噛みついた子。さっきから言葉喋れてないけど危ない子なのかな。
こっちのリボンの子はこの部屋まで案内してくれた子だ。この子は・・・何やってる子だったんだろ?
そんなことを思ってると頭に星の飾りをつけた子、リリィちゃんが質問していた。
「さくらちゃんは何をやってたの?」
「あはは・・・それが私、この姿になる前の記憶がなくて・・・」
「あ、リリィ知ってる!きおくそーしつ、てやつだ!」
「うーん、そやね。多分それなんよね・・・。私もどうすればいいかわからんくてどやんすどやんすーて感じやけん・・・」
あ、方言だ。どこの方言だっけ・・・聞いた事あるような・・・。
「ねえ、次はあなたの番よ」
「え?」
さっきまで自己紹介していた子達の視線が全て私を見つめていた。
「ああっ、ごめんごめん」
こほんと咳払いして、みんなと目を合わせる。
「私は星野 アイ。生前は・・・B小町てユニットでアイドルやってました!」
・・・
あれ?無反応?
「へ、へー。でも不思議かねえ!アイドルやった子が三人もおるなんて!」
「あ、しかもアイちゃんと同じ名前で同じくアイドルなんて偶然とは思えんけんね!」
リボンの子、確かいくらちゃん?だっけ?がフォローしてくれた。
「ねー?私もびっくりだよー!なんでこんなところにいるのかわからないけど」
「せっかく同じ名前なんだし仲良くしようね!」
愛ちゃんと握手しようと、手を伸ばす。
「B小町・・・星野アイ・・・」
愛ちゃんはこっちを見ながら何やら呟いていた。声が小さくてよく聞こえないけど、私のことみたい。
「あれ?私のこと知ってる?」
「あ、いえ!・・・ううん、なんでもない」
「?」
煮え切らない返事をして目を逸らされてしまった。
仕方ないので他の子にも聞いてみる。
「ちなみに私の事知ってる人いる?」
皆一様に顔を横に振る。
「そっかー。自分で言うのもなんだけど結構有名だと思ってたんだけどなあ」
ちょっとショック。
「わっちの時代ではあいどる?言いはりますものがなかったどすなあ 」
そういったのはすこし扇情的な着物を着ている花魁の人だ。確か名前は・・・。
「ゆうぎり、さんはいつ生まれなの?」
「文久三年の十月十三日でありんす」
「ぶん・・・?」
駄目だ。知らない元号が出てしまった。昭和くらいまでしかわからない。
「ふふふ、いつの時代に生きようと関係ないでありんす。大切なのはそこでどう生き、どう死んだか、でありんしょう?」
「!・・・そうだよね!別に元号なんて知らなくても問題なし!大切なのはどう生きてどう死んだかー!あはははは!」
「と、ところでゆうぎりさん、すごい大人っぽいけどいくつなの?」
話題を変える作戦。馬鹿と思われるのもなんか嫌だし、とにかくここは私の学力とは関係ない話にすり替えよう。
「わっちどすか?享年でしたら数えで二十だったでありんす」
「てことは・・・満十九歳!?嘘!同い年じゃん!」
とてもじゃないが同い年に見えない。こう色気というか、漂う雰囲気というか・・・。おっぱいも大きいし!
「そん・・・な・・・!!」
ちゃっかり純子ちゃんも両手で口を覆っている。そっか、純子ちゃんも同い年だったかー。わかる。あのわがままボディと醸し出す雰囲気で同い年だった、なんて言われても正直信じられない。
「アイはんも同い年でありんすか?ふふふ。生きた時代は異なれど、今は同じ死人同士、仲良くしてくれると嬉しいんでありんす」
「そ、そうだねー。コッチコソヨロシクー」
・・・
しばらく談笑していると扉を勢いよく開けて変な男の人が入ってきた。
シャツはキチッと着てるのに、スーツを肩から掛け、蝶ネクタイをしている。サングラスを掛けており、目は見えなかった。極めつけには・・・なに?あの胸ポケットから出てるゲソ。
ただ肌色からは生気が満ちているため、あの人はここにいる死人達とは違うのだろう。
「はい、皆さん。目覚めましておはようございま〜す」
彼は堂々と歩いてホワイトボードの前にいきこちらに向き直った。
「俺は謎のアイドルプロデューサー、巽 幸太郎様です」
「これからお前らには、佐賀を救う為にアイドルをやってもらう!」
???いきなり出てきて何を言ってるんだろう?この人?
他のみんなも初耳なのか目にはてなマークが浮かんでいる。
唯一いくらちゃんだけが不安そうな顔をしていた。
謎のアイドルプロデューサー、巽がホワイトボードを叩くとボードがくるりと一回転し、裏面が出てきた。そこには大きく
アイドル最強伝説
と書いてあった。
「お前らの伝説を活かして佐賀を一世風靡させるんじゃぁぁぁぁぁい!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
そこから巽は私たちがもう既に死んでいる事、死んだ後ゾンビになった事、ゾンビは現代社会に行き場所がない事、そんな私達は佐賀を盛り上げる為のアイドルになるのだと語った。
・・・正直訳がわからない。
私がもう既に死んでゾンビになった時点でよくわからないのに、更に佐賀を救う為、アイドルになれという。
極めつけには明日佐賀城でコンサートがあるのでそれに出ろといってきた。
・・・
うーん、情報が多すぎて頭がこんがらがってきた!
とりあえず落ち着いて考えてみよう。
今、目の前ではリボンの子、名前は確か・・・いくらちゃん!がプロデューサーのグラサンの指示のもと、明日のコンサートで踊るダンスの練習をしている。
てかこの人、プロデューサーなのにダンスのレッスンもできるんだ。
さっき通しで踊ってたけどプロのダンサーと遜色ないレベルだし・・・。
まあ、今は考えなくていいか。とりあえずは自分の状況だ。
私はドーム公演の前日、ファンの人に刺されてたぶん死んだ。
ここまではなんとなくわかる。あの時のことはもう意識が朦朧としていて、あまり覚えてないけど、ルビーとアクアに嘘じゃない"愛してる"を言えたことだけは覚えてる。
で、今はこの謎グラサンがいうにはゾンビになって生き返った、てことなのかな。
でも普通に考えてゾンビ、てありえないよね。
実は刺さりどころが良くて生きてた、とか?でもこの肌の色とかメイクじゃないみたいだし。
それにさっきも試してみたけどこの身体、痛覚がないっぽい。身体に穴は空くけど痛みはない。ただ傷はできても時間が経つと治るみたい。最初たえちゃんに噛まれた歯形も消えてたし。
うーんこれは、やっぱり本当にゾンビになったのかな。
ゾンビ。歩く死体。腐っていて新鮮なお肉が好き。人間を襲う。昔出たゾンビ映画で、そんな説明があった気がする。あの時はゾンビから逃げる女の子役だったけど。まさか自分が本物のゾンビになるなんて夢にも思わなかった。
とりあえず目の前のグラサンを襲いたいとは思わないから人間を襲う、みたいなことはなさそう。
・・・
いくらちゃんがグラサンのダンスを見ながら見よう見まねで練習を続けている。
1日練習した程度じゃとてもじゃないがクオリティが低い微妙なものになるだろう。
ましてやアイドル未経験には酷なものだ。このままでは明日のコンサートが大惨事になるのは目に見えていた。
ま、でも私には関係ないか。
他の子もみんなもダンスをせずに思い思いの行動をしている。
結局いくらちゃんだけのダンスレッスンが終わった時、外はもう日が落ちて夜中になっていた。
・・・
「ちょっと!なんでお風呂使っちゃダメなのよ!?」
愛ちゃんがグラサンに食ってかかっていた。
なんでもシャワー浴びたいと言ったらそんなものはないと言われたらしい。
うんうん、さすがに一日一回はシャワーだけでも浴びて汗を流したい。
ゾンビが汗をかくのかわからないけど。
「当たり前じゃい。お前らはゾンビィ。湯船なんぞ入らんでも問題ないじゃろがい!」
「気分の問題よ!こっちはうら若き乙女なのよ!?」
「それ以前にゾンビィじゃろがぁ!そんな暇があるなら少しでも曲聞いてダンスの練習をしてパフォーマンスを磨かんかーい!」
「あーもう!ならせめてシャワーだけでも貸しなさいよ!」
「ちっ仕方ないのぉ」
そう言って彼は洋館の裏に私たちを連れてきた。目の前には庭の草木に水を撒く為のホースが繋がった散水栓がある。
隣にはドラム缶も転がっていた。
「ほれ」
「・・・あんた舐めてんの?」
「ああ!?お前らがどうしてもシャワー浴びたいいいよるからこっちは親切でここまで案内したんじゃろがい!」
「あたしはシャワー、ていったのよ!これはただの水撒き用のホースとドラム缶でしょ!」
「お前らゾンビィにはこれで十分なんじゃい!だいたいまだなにもやっとらんのにタダでお湯に浸かりたいなんて贅沢通るわけがないやろがこのバカゾンビィ!」
一息で言い切った後、グラサンは洋館に戻ってしまった。
バルブを回すと水がホースから出てきた。手にかけるとかろうじて冷たいというのは感じられたが、寒いと思う程冷たさは感じなかった。
「・・・とりあえず1人ずつ交代で水浴びしよっか」
・・・・・・・・・
水浴びを終えた私達はグラサンに教えられた寝室で布団を並べたり、髪をすく等してそれぞれが時間を過ごしている。
冷静に考えると私、別にここにいなきゃいけない、てわけじゃないんだよね。
ゾンビになっちゃった訳だけど、グラサンの言いなりになるのも癪だし。
それに東京にいけば知り合いに会えるかもしれない。
私が死んでどれくらい経ったのかわからないけど、もしかしたら・・・ルビーとアクアにも会えるかもしれない。
うん、やっぱりここを出よう。
うまく電車に乗れたら東京まで行けるかも。そうと決まれば・・・。
私は意を決して部屋を抜け出した。
・・・
玄関前にはゾンビ犬がいて、出られそうになかった。
玄関で靴だけ取って庭から外に出る。
しばらくするといくらちゃんの声が聞こえてきた。
「愛ちゃーん!アイちゃんもいますかー?どこいったとよー?・・・て二人ともあいちゃん、だから何て呼べばいいんとよ・・・?片方は名字?でもそれだとなんか差をつけてるみたいで嫌かね・・・どやんす」
どうやら私以外にも抜け出した人がいるようだ。
声をかけられても面倒なので、背を低くして草木の影に隠れながら洋館を囲っている柵まで向かう。
柵の前まで出たところで同じ考えだったのか、愛ちゃんと純子ちゃんとかち合わせた。
「「「ぎゃああああああああああっ!!?!?」」」
突然のゾンビ顔にびっくりして思わず叫んでしまった。
声を聞きつけて、いくらちゃんがやってくる。
「あ、愛ちゃん!、もう一人のアイちゃんもいるけんね!あれ?・・・純子ちゃんはどうしたとよ?」
「出ていくに決まってんでしょ」
「出ていくんです」
「出ていこうかなー、て」
愛ちゃん、純子ちゃんと声が重なる。
「さ、三人とも危ないけん、うち、本当に銃で撃たれたんよ!?」
「はあっ?脅そうとしたってそうはいかないんだから」
「そーそー、この日本で刺されることはあっても銃で撃たれることなんてそうそうないって!」
三人から怪訝な顔をされる。あれ?小粋なジョークで空気を和ませようと思ったのに。
「・・・ちなみに言いづらかったら言わなくていいんやけど、アイちゃんはもしかして刺されて・・・」
私を見ながらいくらちゃんが言い辛そうに聞いてくる。
「そ!私、ドームライブの前日にファンの人に刺されて死んじゃったんだよねー、ほら見てよこのお腹!包帯ぐるぐる!」
何事もないように笑いながら包帯が巻かれたお腹を見せる。
純子ちゃんといくらちゃんは気まずそうに私のお腹を見ていた。
「うわぁ痛そうやねぇ・・・」
「ファンの人に刺される、なんてことあるんですね・・・。私の生きた時代ではあまりなかったので・・・」
「いやーでもいい教訓になったよー。みんなもドアチェーンは掛けておいた方がいいよ?あれ使ってれば私死ななかったかもだし!」
「もう死んでますけどね・・・」
「あはは・・・」
よし、あまり湿っぽい話にはならなかった。私から話したことだけど、湿っぽい空気て苦手なんだよねー。
「あ、別に気にしなくていいよ?死んじゃったことは悲しかったけど、それなりに満足して死んだから」
「・・・何それ。ドームまであと一歩、てとこまで行けたんでしょ?なのに前日に殺されたのに満足してた、て」
黙っていた愛ちゃんが急に口を挟んできた。
「わけわかんない・・・!あんたにとってドームでのライブ、てのはそんなものなの?普通、そこまで行けたのに死んじゃったら後悔するものでしょ!」
「誰もがそこまで行けるわけじゃない!本当にたった一部の、一握りの人達しか行けないのに!なんでそんなあっさりと!」
そこまでいった愛ちゃんがはっとした顔をする。
「・・・ごめん、なんでもない」
気まずそうに俯く愛ちゃん。もしかして彼女は生前の私のことを───。
「とにかく!私はここから出ていくから!」
そういうと愛ちゃんは柵に手をかける。
「・・・はっ!だ、だからダメやって!」
いくらちゃんが慌てて後ろから愛ちゃんの服を引っ張る。
「わわっ、ちょっ!」
バランスを崩してしまい、倒れそうになるのを柵を掴む手に力を入れて支えようする。すると急に愛ちゃんの手が根本から取れた。
「えっ?」
支えを失った愛ちゃんの身体が背中から地面に落ちる。
「ぐえっ!」
愛ちゃんを引っ張ったいくらちゃんもバランスを崩し、私にぶつかった。
その拍子に愛ちゃんの目玉が取れ宙に浮いた。
同時にいくらちゃんがぶつかった衝撃で私の頭も首から取れた。
飛んでった目玉がくるりと回転して、純子ちゃんと目が合う。同時に私の頭は勢いよく飛んでいき、純子ちゃんの手の中に収まっていた。
「ぎょぁああああああああああっ!?」
純子ちゃんの叫び声が夜空にこだました。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
なんとか洋館を抜け出してきた私たちは、標識を頼りに駅までの道を歩いていた。今は寿商店街を進んでいる。
深夜の為か店は全て閉まっており、人っこ一人いない。
結局、愛ちゃん、純子ちゃんに加えていくらちゃんもついてきていた。
「いやーゾンビの身体て意外と脆いんだねー。首とか手とか特に取れやすいのかも?」
「まあ私たちもう死んでますからね・・・」
「愛ちゃんごめんて、みんなも危ないから帰ろう?」
「ていうかこれ、どこに向かおうとしてるんですか?」
「「東京」」
「ええっ?無理だよ、お金ないし!見つかったら頭ぱっかーんてやられるよ!?」
「脅かさないでください!」
「もしかしたらパンチでぐしゃーん!かも?」
「まっさかー!そんな強い人いないってー!」
「ねぇ・・・愛ちゃん帰ろう?」
「・・・あんた、本気でゾンビがアイドルやれると思ってんの?」
「え?」
「なんであっさりこの状況受け入れてるわけ?ホイホイ乗せられてバカじゃないの?」
「・・・確かにそうね、私何も考えておらんのかもしれん」
「けどこの前、みんなとライブした時、不思議な気持ちになったっちゃ。心が揺さぶられるような、すごい幸せな気持ち」
「ゾンビになる前の記憶はないけど、私、それをどっかで感じたことがあったような気がして、その気持ちをまた感じたくて、何なのか確かめたくて、またステージに立ちたいな、て。そう思って!」
いくらちゃんがそこまで言ったところで、急に車が商店街の入り口に止まり、中から三人の男が出てきた。
「YO、YO、YO、、、」
「チェックチェックチェック…チェックチェックワントゥー YO!」
「Micチェック… YO!見てん。
こやんか時間に女いんぞ。どやんかもんか声かけてみてん。」
「ざけんなお前いつもそうやん。そやんかとばっか俺にやらせんな。」
「YO! YO! YO! だったら俺がいってやるけん。
こいつじゃ絶対しくじるけん。」
車からはヒップホップ調の曲が流れており、男達は手をマイク代わりにボイパをしながらこちらに近づいてくる。
???正直訳がわからない。
いくらちゃん達と思わず顔を合わせる。
「ど、どやんす?なんか怖そうな人達が来ちゃったっ」
「ラッパー?なにっ?」
「こんな真夜中にラッパーがいるの?佐賀、て不思議だねー」
ラッパー達はゆっくりと、ラップを続けながら歩いてくる。
「チェックチェック…チェックチェックワントゥー Ah Ha Ah Ha
YO YO Ah Ha Say What Yeh Yeh」
「YO、YO、YO、、、」
「カラオケ行かないカラオケ。この時間からもOKってとこあるけん。
お金なかったらおごるけん OK?」
「チェックチェック…チェックチェックワントゥー Ah Ha Ah Ha
Ah Ha Say What」
「YO、YO、YO、、、」
「チキチキ Ah チキチキ Ah、、、、」
私達はラッパー達と視線を合わせずに、逃げるように反対方向に向かって歩いていく。
しかし、ラッパー達もゆっくりとだが謎のラップを続けながら私達を追い詰めるように近づいてきた。
「・・・来てます、来てます、来てます!」
「どやんす、どやんす、どやんすー!」
しばらくすると私達は行き止まりに突き当たった。
少しでも距離を取ろうとみんなで集まって身体を縮こませる。
・・・うーん。あまり悪目立ちはしたくないんだけど仕方ないか。さすがに年下?のこの子達にこれ以上怖い思いさせるのも嫌だし、あのラッパー達には丁寧に話をして帰ってもらおう。
私が振り返って男達に声を掛けようとした時、商店街の別の入口からラッパー達とは別の男が現れた。
「待て待てお前らダメじゃない?そんなん見逃せないじゃない?」
警察の服を着ているからおそらくパトロール中の警官かな。あまりパッとしない顔だけど。
てかなんだろう・・・。佐賀の人達てラップしないと会話できないのかな?
とにかく今は助かった。
ラッパーがまだ何もしてないと警官に詰め寄っている。
それを見た愛ちゃんが飛び出した。
「警察・・・?助けてください!」
「駄目!愛ちゃん!」
いくらちゃんが止めようとする。ただ声をかけるのが遅かったのか、愛ちゃんはちょうど街灯の下で立ち止まった。
街灯の下、明るい光の中にいる私たちを見て、警官とラッパーの目が見開いていく。
次の瞬間、皆一様に叫んでいた。
「ぎゃあああああ」
「む、無理無理!これは無理って!」
まるでバケモノでも見たかのように後ずさっていく。
警官に至っては腰を抜かしていた。
あーそっか、私達ゾンビだっけ。街灯とかなければ暗くてわからないかもだけど、明るい場所だとこういう反応されるのかー。
確かに私も初めて皆の顔を見た時、悲鳴を上げたけど、実際にこうやって普通の人に怖がられると傷つくなー。
そんなことを思っているとパンッという音が鳴り、私達のすぐ隣にあった窓ガラスが割れた。
音の出所を見ると警官が銃を構えている。
銃口からは撃ったばかりだからか、煙が出ていな。
それを見て、先程グラサンが私たちに見せたスカッとするゾンビ映画シーンまとめの映像が脳裏に浮かぶ。
「「「「ぎゃあああああああああああ!!」」」」
「「「「ぎゃあああああああああああ!!」」」」
私達も警官もラッパーも皆一斉に悲鳴を上げる。
私達は警官が急に撃ってきた事態に、ラッパー達は私達の顔を見て。それぞれパニックに陥っていた。
パンッ!
警官が二度目の発砲。それは街灯にあたり、周囲が真っ暗になった。
同時にパニック状態のラッパーが泣き叫びながら警官に抱きつく。
私達はその隙にその場を逃げ出した。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
結局私達は洋館に戻ってきた。
私達の顔は明るいところだとゾンビにしか見えない。
今回は銃で撃たれただけだけど、私達のことが明るみに出たらどうなるのだろうか。
国の偉い人にバレたら捕まってけんきゅうーきかん?に回されるかも。
何よりも東京に行けたとして、ルビーとアクアに会えてもあんな風に怖がられるかもと思うと・・・怖くなった。
実質私達にはあの洋館に戻るしか選択肢はなかったのだ。
とはいえ、そもそもこの顔でどうやってアイドル活動するんだ、て話だけど・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
翌日コンサートに参加する為、佐賀城にやってきた私達。
鯱の門、ふれあいコンサートと書かれた看板の隣にその日出し物をするグループ名が載っていた。
その一番下に急遽ねじ込まれたのか、手書きでデス娘ふれあいライブ、と書いた紙が貼ってある。
え、もしかしてこのデス娘が私達のユニット名・・・?
酷すぎる。まず間違いなくアイドルグループのユニット名としてつけるものじゃない・・・。
私の中でグラサンの評価がガクッと下がった。
・・・
実際、どうやって人前に出るのか気になっていたが、どうやらこのグラサンがメイクをするらしい。
駐車場に停められたバンの中で、私達はメイクをされていた。
「おお・・・!」
私は手鏡で自分の顔を見る。
そこには生前の、ゾンビになる前の私がいた。
しかもライブなどする時の化粧をした私だ。
「すごい!こんなのプロのメイク級だよ!」
「当たり前じゃい!こちとらハリウッド仕込みなんじゃい!」
みんなも顔や体にあった傷跡や包帯は消え、生気が宿った肌色をしている。
確かに多芸な男だと思っていたがここまでだとは思っていなかった。
「えっと・・・巽、だっけ?本当何者なの?」
「ふん!俺はこの佐賀を救う伝説のアイドルプロデューサー、巽幸太郎様だ!この名前、その腐った頭に刻みつけて二度と忘れるな・・・だーはっはっは!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
待合室と書かれた大座敷に案内された私達は隅で準備していた。
といってもラフなTシャツにスカートを合わせただけの、簡単な衣装を着て呼ばれるのを待つだけだったが。
「み、みんな!ゾンビバレしないようにね」
どうやらいくらちゃんは先日銃で撃たれたのが恐ろしかったらしく、ゾンビバレしないか不安なようだ。
「いやーこれはゾンビてばれないやろ!むしろあたし史上一番まぶいわー!」
一方ヤンキーぽい見た目のサキちゃんは全く気にせずに手鏡でずっと自分の顔を見ている。
まあ、確かにプロのメイクさんが施すメイクて本当に魔法みたいだから、普段芸能界にいない子には新鮮なのかも。
しばらくいくらちゃんとサキちゃんがじゃれていると、係員が現れて私達の出番だと伝えてきた。
「グリーンフェイスさん、出番です」
てか、ユニット名変わってるし・・・。
流されるまま、舞台に出る。
観客はまばらで地元に住むお爺さんやお婆さんが座っている憩いの場、みたいな感じだった。
明らかにアイドルグループが歌って踊る場所ではない。
いや、よく見るとロック風な見た目の細い人と太い人も見える。
「は、はじめまして!私達グリーン娘です!・・・いやグリーンフェイスです!」
その後、いくらちゃんが順番に私達を紹介していく。
私達はアイドルグループとして活動していく上で、違う名前を名乗るらしい。芸名みたいなものかな。
たえちゃんが零号、いくらちゃんが一号、サキちゃんが二号、愛ちゃんが三号、純子ちゃんが四号、ゆうぎりさんが五号、リリィちゃんが六号で私が七号だ。
ちなみに私達が着ているTシャツにはそれぞれの数字が載っており、死ぬほどダサいデザインをしている。
「私達は佐賀の活性化を目指すアイドルグループです!歌も踊りもまだまだですけど、一生懸命頑張りました!・・・が、がんばるぞ!おー!」
いくらちゃんの掛け声で、曲が流れる。
ただ私含めて他のメンバーは誰も踊り始めない。ゆうぎりさんはよくわからない舞を始めた。
うーん、控えめに言って地獄だね☆
そして、歌の入りのタイミングでたえちゃんが急に飛び出した。最前に座っていたお爺ちゃんの持っているゲソが食べたいらしい。
「た、たえちゃん!?」
いくらちゃんがあわてて腕を取って押さえようとするも腕がすっぽ抜けてしまった。
バランスを崩したたえちゃんが地面に転んだ拍子に今度は頭がすっぽ抜ける。
あちゃあー、これはゾンビバレ隠せないかも。
頭は宙を舞ってゲソを食べていたお爺ちゃんのところに落ちた。
「・・・食べるかい?」
そのままお爺ちゃんから貰ったゲソを食べ始めるたえちゃん。
いくらちゃんは慌てて頭を取り返すと、身体に戻そうとする。しかし身体の方は勝手に走り出してしまっていた。
「サキちゃん!ちょっとお願い!」
「おっとっと・・・」
頭をサキちゃんにパスして身体を取り押さえようとするいくらちゃん。程なくしてたえちゃんの身体を捕まえたいくらちゃんは
「はい、手品でーす!あ、アンデットパワーでーす!」
といいながらサキちゃんからたえちゃんの頭を取って身体に取り付けた。
しかしすぐにサキちゃんが頭を取って観客に見せびらかすように掲げる。
どうやら観客のお爺ちゃん達はこの一連の流れが芸だと思ってるらしい。
サキちゃんが頭を掲げると一層拍手が巻き起こった。
「駄目だってば!」「いや、これはあたしんだ!」
たえちゃんの頭がついたり外れたりする。その度に観客は沸き、拍手が巻き起こる。
何度目かの応酬の後、ついにいくらちゃんが切れた。
「だからゾンビ隠せやぁぁぁぁぁぁ!!」
マイクがハウリングし、観客が一斉に静かになる。
「全然ゾンビ隠す気ないやん!どこに首が取れる人間がおると!?頭腐ってんのかバカゾンビィィ!!」
「てめ上等だこら!いい度胸だ!マジで宝当神社までぶっとばす!」
何故かラップが始まった。
メロディに合わせて後ろで巽がボイパを始める。照明もいい感じの夕日のような光が舞台を照らしていた。
というかやっぱり佐賀の人てラップでないと喋れないのかな?
さらにゆうぎりさんが、持っていた三味線を弾き出して合いの手を入れてくる。リリィちゃんも前に出て拍手でそれをフォローし始めた。
リリィちゃんの拍手に合わせて観客も拍手をし始める。
あれ・・・この感覚。これは私がステージで感じた感覚に似てる気がする・・・。
観客との一体感がそこにはあった。
ラップをしていた二人はさらにヒートアップしていく。
「あたしらもう終わってんだよ!もう何も変わりゃしねえ!」
「まだ終わっちゃいねえだろ! むしろ始まったばっかだろ!
前に進むしかねえ! じゃなきゃ生きる屍!
まだ動くギリギリ、考えれる限り、逃げずにやれよ!
ぶっこんでこいよ特攻隊長!」
そのままの勢いでこっちに向かってくる。
まだ歌ってもいない、踊ってもいない、何もしていない私達の元へ。
「おいそこでつったってるてめえらもだYO!
できっこないとか言ってんじゃねえよ!
最高の才能持ってるくせして何もしねえで諦めちゃただの敗北。
出来ない理由考えんじゃねえ! 出来る方法見つけようZE!
ボロボロのゾンビが本気でやんなら、心はまだまだ腐りゃしねえ!」
言いたい放題言うなあ・・・。
確かにゾンビがどうやってアイドル活動するんだーて思ってたけど。
いざこうやって言葉にされると心にぐさりと響くものがあった。
最後にいくらちゃんは観客に向き直ると、勢いのままに観客にも説教を始めた。
「じいちゃんばあちゃんてめぇらもだYO!
ぼんやり老後なんて考えんな! 縁側?一服?落ち着いてんな!
高齢化?そうですか。なら今こそシルバーの意地見せる番。
老害なんて言わせねえYO! 生涯現役大往生!
BANG!」
そう言うといくらちゃんはマイクを地面に叩きつけた。
一瞬の静寂。しかし、すぐにそれは歓喜の声と拍手へと変わり、私たちを包み込んだ。
それはまさにゾンビでも、観客を沸かすことができるんだぞ、と私達に叩きつけるみたいだった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
あの後、洋館に戻ってきた私達は水浴びをして布団に潜った。
残念ながらあのメイクは水を浴びるとすぐに落ちてしまった。なので今はみんないつものゾンビフェイスだ。
帰ってきた後、いくらちゃんとサキちゃんは仲良くなったみたいで楽しそうに喋っていた。
どうやらサキちゃんもアイドル活動を続けていくらしい。
私は・・・どうなんだろう。
アイドル活動自体は嫌いじゃない。なんだなんだで7年近くやってきたのもあって楽しいとは思えていた。
でも、それは誰かを愛したい、って気持ちがあったから続けられた事でもある。
ルビーとアクアに愛を伝えられた今、アイドル活動を続けることに意味を見出せるのだろうか。
「・・・とりあえず私もラップできるようになろう」
佐賀じゃラップで想いを伝え合うみたいだし。
そんなことを考えつつ、私は目を閉じた。
序盤はアイとフランシュシュの話。
徐々に推しの子サイドのキャラも増やしていきます。
皆さんの感想、お待ちしております。