推しの子 in SAGA   作:片倉の推しの子Bです

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すみません、惑星ルビコンに派遣されてコーラルを巡る争いに参入していた為、投稿が遅れました。
ですが惑星を燃やし尽くし、コーラルをキめ、コーラル漬けの二ヶ月を過ごした結果、無事トロコンしました。
よってこれからはまた投稿していこうと思います。
もしまだ、興味がある方は引き続き読んで頂けると嬉しいです。










感想に続き待ってますと書いてくれた方、とっても嬉しかったです。


第十話 男達のチェキ会〜フランシュシュを添えて〜 SAGA

俺の名前は星野愛久愛海。

双子な事、名前が長い事からアクアと周りからは呼ばれている。

そんな俺には二つの秘密がある。

一つは前世の記憶を持っている事。雨宮吾郎という医者としての人生を送り、アイドル アイのストーカーに殺された記憶。

もう一つはその後、当時十六歳だったアイが産んだ子供である事。アイはもう亡くなってしまったけれど、この秘密を世間に明かす事はないだろう。

アイが死んだ今、俺の目的はただ一つ。アイを殺した奴に復讐する事、ただそれだけだ。

奴が芸能界にいると判断した俺は役者となり、奴の正体を暴く為、アイと付き合いがあった人物と接触していった。

結果的にだが俺は、芸能界でコネを作りつつ、着々と有名になりつつあった。

 

 

・・・

 

 

「お久しぶりです。鏑木P」

 

「やあアクアくん、よく来てくれたね」

 

俺は今、前にやった恋愛リアリティショー、ドラマの仕事でコネクションを作った、鏑木プロデューサーに呼ばれて以前も利用した高級寿司屋に来ていた。

 

「次の仕事、決まったよ。東京ブレイドの舞台。役はまだ調整中だけど、おそらく刀鬼になるはずだ」

 

「ありがとうございます」

 

東京ブレイド・・・確か原作は漫画だったはず。いわゆる2.5次元の舞台てやつか。

 

「この舞台は劇団ララライがメインでね、そこに外様の役者・・・君のように若い役者を何人か据えて回す形になる。他にも僕が推薦した子を入れる予定だよ」

 

推薦した子・・・。今日甘の時のような棒役者を呼ぶのは避けて欲しいが・・・。今回は劇団ララライとの共同での仕事だ。流石にそれなりの実力者が呼ばれるだろう。

 

「・・・さて、君の要望通り、アイと関わりがあった劇団ララライでの仕事を僕は回してあげたわけだ」

 

「・・・はい」

 

これは何かあるな、ララライの仕事を紹介した事に託けて厄介事を押しつけられるパターンか。

 

「だからと言うわけではないが一つお願いがあってね。君、佐賀旅行に興味は無いかい?」

 

「はい?」

 

佐賀?なんで急にそんな場所が?

 

「ふふふ・・・そこにね、金脈があるのさ。人材という名の金脈がね」

 

そういうと鏑木Pはスマホで動画を再生する。

 

そこに映っていたのは、どこかの駅前でアイドルがライブをしている様子だった。

画質が悪くわかりづらいが、その中で一際目立つ人がいる。

その顔、そのパフォーマンスに見覚えがあった。俺の脳裏に刻まれた、十年前の記憶が蘇る。ステージの上で笑顔を振り撒く彼女に、その映像のアイドルはそっくりだった。

 

「アイ・・・?」

 

「ああ、彼女はアイくんにとても似ている。奇しくも姿だけでなく、アイドルとしての才能もね」

 

確かに他のメンバーに比べて彼女は異様に目を引いた。まるで旧B小町のように、彼女だけがスポットライトを浴び、彼女だけが輝くステージだった。

 

「さて、これだけだと信じ難いだろう?次はこれだ」

 

そういうと今度は別の動画を再生した。

 

「『焼き鳥一番、鳥飯二番、三はサラダで良い健康〜♪』」

 

動画内でさっきライブをしていたアイドル達が、今度は鶏とひよこのような衣装を着て踊っていた。

さっきのは素人が撮った低画質、ブレブレの動画だったが、こっちはプロが撮ったしっかりしたものに見えた。

いや、この撮り方の癖、NGらしき部分も使うやり方・・・間違いない、監督じゃねえか。

なんであのおっさんがこんな動画を撮って・・・。

そんな疑問はすぐにかき消される。見覚えのある紫がかった黒髪の少女。動画にたびたび出てくるその姿はまさしく、当時のアイを彷彿とさせた。

 

曲の最後にドライブイン鳥と大きく表示される。この動画はおそらく、この企業のCMだったんだろう。

 

「どうだい?こっちは画質も綺麗だし、プロが撮ったものだからより彼女達の顔がわかるだろう?」

 

「・・・何が言いたいんですか?」

 

「彼女達はフランシュシュというアイドルグループらしい。そしてアイくんに似ている彼女はフランシュシュ七号という名前らしい」

「フランシュシュ三号、彼女はかつてアイアンフリルのセンターを務め、アイの死後活躍した水野愛に、そしてフランシュシュ四号、彼女は昭和の時代にアイドルブームの火付け役と言われた紺野純子に、フランシュシュ六号、この子は彗星のように現れ全チャンネルのゴールデンタイムで主演を務めた星川リリィに、それぞれ似ていると思わないかい?」

 

雨宮吾郎の知識と星野アクアの記憶を思い返す。確かに紺野純子、水野愛、星川リリィの名前は聞き覚えがあった。顔も朧げだが覚えている。

 

「話題性を得るための作戦の一環でしょう。かつて活躍した芸能人に似ている少女を集めて、芸能界で埋もれないための武器として使い、のし上がる。そういう戦略じゃないですか?」

 

「確かに、そういう面もあるかもしれない。事実、僕は彼女らに大きな期待を寄せている・・・そう、彼女らは将来、うまく使えば巨大な富を生む」

 

「・・・その言い方、あまり好きじゃないですね」

 

「ああ、すまない。同じタレント相手に良い表現じゃなかったね。・・・つまりだね、僕は彼女らとコネクションが持ちたいのさ。ただね、これがなかなかうまくいかなくてね」

 

「と、言いますと?」

 

「彼女達、まず誰もSNSをやっていない。誰一人としてだ。徹底的にアイドルにプライバシーの発信を許していない。まるで時代に逆行するようにね」

 

「そして仕事の依頼についても大きく制限している。これを見てくれるかい」

 

鏑木Pが次に見せてくれた画面には『ようこそ、フランシュシュのホームページへ!』と大きく表示されている。

だが正直これは・・・

 

「なんと言いますか・・・デザインが古いといいますか・・・」

 

「だろう?僕も正直懐かしい気分になったよ。君は知らないだろうけど、インターネットといえば昔はこういうホームページが主流でね。最初は時代が戻ったのかと思ったよ」

 

鏑木Pが懐かしむように笑う。

正直俺もこういったページの方が親近感がある。いまだにツイッターとか慣れなくて使ってないし。

 

「ああ、話が逸れたね。普通このホームページを見た人は仕事の依頼をこの事務所にしようとは思わないだろう。だが僕はね、逆にこう考えた。このグループは敢えてこういったデザインのホームページを作る事で世間に注目されないようにしてるんじゃないか、てね」

 

「まさか・・・」

 

「そう、そのまさかだよ。・・・全く、時代に逆行した、過去のデザインを取り入れる事で敷居を高くし、依頼を制限する・・・だがしかし!実際、このホームページは我々を試しているのさ!」

 

「試している・・・ですか?」

 

「ああ、彼等はこのホームページを見てもブラウザバックせずに仕事の依頼をする・・・そんな相手かどうか、自身を安く買い叩かず、相手がビジネスパートナーとして相応しいか見極めようとしている・・・僕にはこの画面がそう語っているように見える」

 

「はぁ・・・」

 

大丈夫か、この人。仕事のし過ぎで頭がおかしくなったんだろうか。実際この人、今ガチへの出演を有馬に斡旋された時も並行して色々なプロジェクトを進めてたみたいだし。

 

「ちなみに鏑木Pは今何徹目ですか?」

 

「? どうしたんだい急に?・・・確かに最近はちょっと忙しくて寝れてなくて三徹目だけど」

 

「・・・」

 

・・・俺の復讐計画でも将来的にお世話になりそうだしここは担いでおくか。

 

「・・・そうですね、全く以てその通りだと思います」

 

「だろう?・・・ただ先日から何度か連絡を取ろうと試みてるんだがね。メールは返ってこないし、電話は繋がらないのさ」

 

お手上げと言わんばかりに首を振りつつ、鏑木Pがため息を吐く。

正直そこまでいくと裏があると言うよりは、

 

「何というか・・・随分杜撰ですね。もしかして鏑木Pの買い被りなのでは?」

 

「そうだね、確かに買い被りかもしれない。でもね、そう思わせたとしても僕は彼女らとのコネクションが欲しいのさ」

 

鏑木Pが不敵に笑う。この人は芸能界の未来も踏まえて行動している。そんな人が喉から手が出る程に欲しがるコネクション。それは素人目ながら興味を持つには十分は情報だ。

 

「そこで、最初の話に戻るんだがね。アクアくん、君にこのアイドルグループの事務所に行って直接交渉をして欲しいのさ」

 

「は?」

 

何を言っているんだこの人は。

 

「連絡が取れないなら、自分の足で取ってくるしかないだろう?ただ見ての通り、僕は今忙しくてね。直接行くのが難しいから、誰か交渉が得意な人にお願いしたいのさ」

 

「俺じゃなくてもっと鏑木Pの信用できる人に依頼すればいいじゃないですか。鏑木P程の立場でしたら動かせる部下もたくさんいるでしょう」

 

「残念ながら人望がなくてね。動かせる人材も皆別の仕事に回っていて、残っていないのさ」

 

「・・・俺よりも交渉の得意な人はいるでしょう。だいたい俺は一応役者ですよ?」

 

「ははは、今時マルチタレントは珍しくないだろう?・・・だいたい君だろ?新生B小町にあの元天才子役、有馬かなくんと大人気ユーチューバーのMEMちょくんを引き入れたのは」

 

「・・・」

 

何でそんな事まで知ってるんだこの人。

 

「お、驚いているね。この世界は情報を手に入れる速さも大事だからね。僕にも色々とコネがあるのさ」

 

・・・誰だ?仮にもアイドルの有馬とMEMちょがそんな簡単に話すとは思えない。男の存在を匂わせるアイドルがどういう風に思われるか、あいつらだってわかってるはずだ。同様の理由でミヤコも外してはいいはずだ。あとは・・・ルビー・・・は、口を滑らせてそうだなあ・・・。

 

「正解はB小町の雑談配信でした。言葉を濁してたけどね、君の立ち位置を知ってる人なら察せられると思うよ」

 

そう言ってB小町の雑談配信のアーカイブを流す。確かに有馬とルビーがぽろっと言いそうになったのをMEMちょが慌ててフォローしているところが、映っていた。

俺は思わず頭を抱えて大きなため息をつく。

ていうかこれはコネとかではなくてただの偶然だろう。

 

「ははは、こういうところにアンテナを張っておくのも大事なのさ。さて、これで君が適役だというのがわかっただろう?」

 

「・・・俺に"貸し"は作っても"借り"は作りたくないんじゃないですか?」

 

「何を言ってるんだい?これは君に対する"貸し"だよ」

 

「何を言って・・・」

 

「だって君の推しだったんだろう?アイくんは。そのアイくんにそっくりなアイドルにタダで会いに行ける、これが貸しじゃなくて何だというんだい?」

 

「・・・アイはもう死んだ。あれはアイじゃない」

 

「そうかい?なら君が証明してくるといい。この画面の中の彼女がアイじゃないと。そのついでに僕の名刺を渡してくれるだけでも御の字さ」

 

言ってることがめちゃくちゃだ。鏑木Pの言ってることは全く筋が通っていない。

だが・・・俺の心は見透かされている。どうしようもなくアイのファンである俺が、彼女の存在を知ったら必ず直接確認しにいくと確信しているからこそ、声を掛けてきたのだ。

この狸め・・・、仕事の疲れで馬鹿なふりをしてしっかり悪知恵は働いているじゃないか。

 

「・・・わかりました。会いに行ってきます。ただ名刺を渡すのは"貸し"ですからね」

 

「ああ、それでいいよ。僕としてはそれで充分リターンが見込めるからね」

 

「具体的にはどういう段取りで行くんですか?」

 

「それはね・・・」

 

 

 

・・・

 

 

鏑木Pと食事を済ませた俺は家に帰ってきた。時刻は夕刻を回ったあたり。この時間はまだルビー達が食事の準備をしてる頃だろう。一応ミヤコには鏑木Pに呼ばれて食事をしてくる為、夕飯はいらないと伝えたが・・・。

そっと扉を開け、玄関に入る。別に悪いことをしてる訳ではないが、なんとなく足音を消して歩く。

 

「おかえり、お兄ちゃん」

 

しかし、案の定すぐ見つかってしまった。声の主を見るとミヤコと料理を作っていたのか、エプロンをしたルビーが腕を組んで立っていた。

 

「外食とは良いご身分ですねえ・・・!」

 

「・・・仕方ないだろ。次の仕事の打ち合わせも兼ねた会食だったんだから」

 

「わかってる!わかってるけど・・・毎週日曜日は皆で夕飯を食べよう、て決めてるじゃん!」

 

ルビーはこういった家族の行事に拘る節がある。生まれ変わる前に家族に対して何か思うところがあったのだろうか。

・・・やめよう。俺もルビーも前世のことについては互いに触れないようにしている。これまで通り、ルビーから話すまでは聞かないようにしよう。

 

「・・・わかった。次から気をつける。これでいいだろ?」

 

「むぅ・・・適当な返事・・・。次はないからね!」

 

そういうとルビーはリビングへと引っ込もうとする。俺はそんなルビーを引き留めた。

 

「待て、ルビー。佐賀に行った時のことは思い出したか?」

 

「うっ・・・、実はまだ・・・」

 

「・・・前も言ったがやはり病院で一度頭を診てもらっ──」

 

「もう!アクアは心配し過ぎ!だいたいそれを言うなら──!」

 

ルビーが言葉を途中で切る。

 

「・・・何でもない!」

 

そのまま下を向くと、踵を返してリビングへと戻ってしまった。

 

??

ルビーが何を言おうとしたのかわからなかったが、やはり心配だ。

聞けば有馬もMEMちょも同じく佐賀での事を覚えてないと言う。同行したミヤコは頑なに詳細を喋ろうとしないし、何かがあったに違いない。

 

「だがまあ、好都合か」

 

佐賀から目を離してくれるならちょうどいい。

あの偽物の存在は俺とルビーには猛毒だ。必ず見つけて俺の中の疑念を否定する。だって、アイが生きているかも、なんてそんな甘い希望はあの日、アイを見殺しにした俺が抱いて良い訳がないんだから。

 

 

・・・・・・

 

 

 

翌日、学校から帰った俺はその足で監督の家を訪ねていた。

理由はもちろん、監督が撮ったあのCMについて聞く為だ。

監督のかーちゃん(監督の言い方が感染った)に事前に監督が帰ってきてる事は確認済み。

俺は慣れた手つきでインターフォンを鳴らした。

 

 

「あら、アクアくん。いらっしゃい、泰志なら自分の部屋よ。帰ってきてからずっと何やらやってたけど、今は落ち着いたらしくて寝てるから起こしちゃっていいわよ」

 

相変わらず無慈悲な監督のかーちゃんに感謝しつつ、家にあがる。

そのまま一直線に監督の部屋を開けると、いつものように監督が本を開いたまま顔に被せて椅子の背にもたれかかって寝ていた。

 

「おい、起きろ」

 

「zzz・・・」

 

よっぽど疲れているのか起きる気配がない。

 

「監督、起きろっ!」

 

強めに肩を揺する。だがまだ目を覚ます気配がない。

仕方ない、あの手を使うか。

 

「おい、起きろ!万年ノミネート止まりの監督!」

 

「誰が一生ノミネート止まりだ!」

 

怒号と共に監督が飛び起きる。

しばらく周りをキョロキョロしていたが、傍に俺がいることに気がつくとゆっくりと立ち上がった。

 

「ああー・・・?なんで早熟がうちにいるんだ?俺いつの間に呼んだっけ?」

 

「もう夕方だぞ、いい加減に目を覚ませ。今日は別に呼ばれて来た訳じゃない」

 

監督は眠そうにタバコに火をつけるとゆっくりと吸い出した。

俺は窓を開けると、いつも作業をする椅子に腰掛ける。

 

「聞きたいことがある。この前あんたが撮ったCMについてだ」

 

監督が窓から顔を出しながら煙を吐く。

こっちの話を聴く気がないのか、黙って背を向けたままだ。

俺は構わず話を続ける。

 

「あんたが撮ったCM、フランシュシュとか言うアイドルが出てたはずだ。・・・なぜ黙っていた?」

 

アイ似のアイドルがいた事、わざわざ口に出さなくてもこの男ならわかるはずだ。

 

「そりゃあ守秘義務、てやつだ。キャストの素性はCMが公開されるまで伏せる。お前も知ってるだろ?」

 

「そんな言い訳を聞きたい訳じゃない。・・・俺を憐れんだのか?」

 

監督に非難を込めて睨みつける。背中越しにそれを感じたのか、監督は吸っていたタバコを灰皿に押して火を消すと俺に向き直った。

 

「ちげえよ、そんな考えでお前に伝えなかった訳じゃない。・・・はあ、こうなると思ったから黙ってたってのに」

「確かに俺はアイに似たアイドルと佐賀で会った。だがあいつは・・・別もんだ。アイじゃない。アイはもう十年前に亡くなっている」

 

 

心臓の音が大きくなる。アイが死んだ時の事を思い出して、俺の中にいる雨宮吾郎が俺を糾弾する。お前がもっと気をつけていれば、お前がドアチェーンをしっかりつけていれば、お前が先に扉を開けていれば。糾弾する言葉はナイフになり、容赦なく俺の心を抉っていく。思わず嘔吐しそうになるのを我慢しながら監督の言う言葉を待つ。

 

「あいつはアイに似た、ただの別人。それが何の因果かアイドルをやってる。それだけだ。俺がこう言ったところでお前は納得しないだろ。だから言わなかったんだよ・・・おいっ、早熟!大丈夫か!?顔が真っ白だぞ!」

 

監督の言葉で意識を取り戻す。いつのまにかかいた冷や汗で服はびしょびしょだった。

 

「たくっ!こうなると思ったから言いたくなかったんだよ!・・・落ち着いて深呼吸しろ。横になるか?」

 

「いや・・・大丈夫だ」

 

肩を貸そうとする監督を制止して、深呼吸を繰り返しながら椅子に体重を預けて深くもたれかかる。

しばらくそうしていると呼吸が落ち着いてきた。

気分も快調という訳ではないが、だいぶ落ち着いた。

 

「アイの話をするだけでフラフラになるお前に聞かせたくない俺の気持ちも察しろ。お前、早熟のくせにそういう後先考えないところは年相応だよな」

 

「うるさい・・・」

 

監督は椅子に座り直すと俺に向かい直った。

 

「で?誰から聞いたんだ?」

 

「・・・」

 

「まあ、おおよそ予想はつくけどな。どうせあの拝金主義の野郎・・・鏑木だろ?」

 

「・・・なんで」

 

「鏑木ならクオリティの高いアイ似のアイドルなんてものを見つけたら、真っ先にコネクションを結ぼうとする。貸しを作る形でな。で、お前の事だ、アイについて調べる為に鏑木にも近づいたんだろ?今日甘の時、やたらと鏑木の名前に反応してたしな」

 

驚いた。この男とは長い付き合いだが、ここまで洞察力が良いとは思ってなかった。そもそも鏑木Pと知り合いだったというのも初耳だ。

 

「フランシュシュの奴等、俺から見ても画面映えするやつばかりだった。ありゃあ将来化ける。そんな奴に早いうちから貸しを作る為にお前は利用されたって訳だ」

 

「・・・俺からしてもリターンはある。仕事の一環で佐賀に行けるから旅費等の各種経費はあっち持ち出し、向こうでの自由時間も確保している。会いに行くなら格好の機会だ」

 

「はいはい、そうかい。まあ知ったらどうせお前は意地でも行くだろうしな。もう止めたりしねえよ。ところでお前の妹と・・・社長にはもう伝えてるのか?」

 

「ああ、仕事の一環で佐賀に行くと伝えてる」

 

「そうか、ならもう俺からはなんもねえな」

 

そういうと監督は机に向き直ってパソコンで仕事を始めた。

もう話は終わったということだろう。

俺も偽物のアイについて、監督の所感を聞けたからもう用はない。そう思い、部屋を出ようとしたところで監督に呼び止められた。

 

「おい、早熟。今日は平日だから家で飯食わなくてもいいんだろ?どうせもうすぐかーちゃんが飯ができた、て部屋に来るだろうしお前も食ってけ」

 

「・・・いい加減にいい歳なんだし親元から離れた方がいいんじゃないか?」

 

「うるせえ!何度言おうが俺みたいなクリエイターは都心に近い実家がある、てだけでメリットになるの!いいから食ってけ!今のうちに精あるもの食って少しでも体力温存しとけっつーの!」

 

「泰志!アクアくん!ご飯できたよ!今日も食べてくだろ!?」

 

「なんでそんなタイミングよく来れるんだよっ、かーちゃん!」

 

監督とかーちゃんのいつものやりとりを聞きつつ、俺は顔を綻ばせる。

なんだかんだでこのやり取りも見慣れたものだ。

俺はその喧騒を聞きつつ、監督の家のリビングへと向かった。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「ここか・・・」

 

飛行機に乗って佐賀空港に着いた俺は、タクシーを使ってとある建物の前に来ていた。

今回俺はとある雑誌に載せるモデルの仕事で佐賀に来ている。

なんでも鏑木Pが昔世話をした人がその雑誌を刊行している会社に勤めており、以前からいろいろと面倒を見てあげてたらしい。

その伝手で佐賀での仕事を回してもらい、例のアイドルグループとのコネを俺に作らせる為にこの話を持ちかけたのだ。

 

入り口にある自動ドアを開け、中に入って受付の人に自己紹介をして、鏑木Pに聞いた名前を伝える。

 

「すみません。苺プロから来ました、アクアと申します。本日犬走さんにアポを取ってまして」

 

営業スマイルを浮かべながら用件を伝える。

受付のお姉さんは俺の顔を見ると頬を僅かに赤らめながら、取り次いでくれた。

 

「い、苺プロのアクアさんですね?犬走を呼びますので、そちらのソファーにてしばらくお待ちください!」

 

受付のお姉さんが裏に引っ込むと、入れ替わるように若い男がすぐに現れた。

 

「ああ!よく来てくれたばい!」

 

慌ててきたのか肩で息をしながら傍まで来た若い男は、一度深呼吸をするとこちらに向き直った。

 

「初めまして、アクアくん、でよかかね?サガジン編集部の犬走です。今日は遠いところからわざわざありがとうです」

 

「こちらこそ初めまして。苺プロのアクアです。本日はよろしくお願いします」

 

犬走さんと軽く挨拶をする。

表向きはこの犬走さんが勤める佐賀県にある地方誌、『サガジン』に載せる写真のモデルの仕事で俺は佐賀まで来ていた。

最近は技術の進歩もあり、編集ソフトを使えばわざわざ現地に行かなくてもその場所で撮ったと思わせる写真は作れる。

ただ今回、先方の要望もあって佐賀にある雄大な自然をバックに撮った写真を雑誌に載せたいので現地に来れる人という条件でモデルを募っていた為、なかなか集まらなかったらしい。

希望する容姿についても細かく指定があり、その相談を受けた鏑木Pが目をつけて、俺に仕事を回したわけだ。

俺は仕事の名目で佐賀に来れて、サガジンの人は望み通りのモデルを用意できる。まさにWin-Winだ。

 

「いやー、さすが都会のモデルさん!かっこよかかねぇ!鏑木さんからとっておきの子、送るよー、ていっとったけど予想以上にかっこよくてびっくりしたとね!」

 

「そんな・・・お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます」

 

どんな紹介しているんだあの人は。

まあでも第一印象が良い分には問題はない。撮影の仕事はちゃっちゃと終わらせて、自由時間を作りたいところだ。

 

「あ、しまった・・・!お客さんに何も出してなかったとね!すぐお茶を用意するけん、少しまっとってな!」

 

「いえ、お構いなく」

 

「まあまあそういわんと!佐賀の美味しいお茶があるけん!せっかく来てくれたんやし是非飲んでってな!」

 

そういうと犬走さんが戻っていく。

慌ただしい人だ、そんなことを思っていると犬走さんが向かった先から大声が聞こえてきた。

 

「げぇっ!?大古場さん!?何でここにいるんですか!?」

 

「俺が自分が勤める会社にいちゃいけねえのか?」

 

どうやら犬走さんが他の社員と話してるようだ。

それにしても待合室のすぐ隣で大声で話すなんて非常識だな。

 

 

「きょ、今日は非番だったはずじゃ・・・」

 

「ちょっと忘れ物があって取りに来たけんね。・・・おいっ、犬走!てめえっ、ありゃあ誰だ?さっき他のやつに聞いた限りじゃてめえが呼んだモデル、て話じゃねえか?俺はそんなこと、一言も聞いてねえぞ?」

 

「あ、あれぇ?伝えたと思ったやけんどなぁ・・・?」

 

「・・・俺がサガジンにチャラチャラした奴の写真を載せるのを嫌いなこと知ってるよな?サガジンは佐賀の情報誌だ。載せるのは佐賀であったニュースだけだ。間違っても都会の雑誌のモデルの写真を載せる場じゃなか」

 

「・・・で、でも実際サガジンの売り上げは落ちていってます!このままだと廃刊になるかもしれんとですよ!?どこかで軌道修正せんと・・・!」

 

「なら俺たちが面白い記事を書けば良か。面白い特ダネを見つけりゃ良か。そうすりゃ売り上げは伸びるとね」

 

「・・・いやだからその考えは古いんですって!いつその面白い記事ができるんですか!?この前作った嬉野温泉の心霊記事で売り上げがどれくらい伸びたっていうんですか!?」

 

「てめえ!生意気いいやがって!」

 

・・・何やらヒートアップしている。

しかも話を聞いてる限り、どうやら俺を呼んだのは犬走さんの独断らしい。流石に社会人になって報連相できないのはどうなんだ・・・。

とはいえ、ここでこのまま帰されても意味がない。ここは口を挟むべきだろう。

 

「・・・すみません、よろしいですか?」

 

「ああ?なにとね?」

 

先程大古場と呼ばれた男がこちらに顔を出す。

 

「聞き耳を立てた訳ではないのですが、話が聞こえてしまいまして」

 

「おう、そうか。ならわかったやろ。早く東京に帰れ」

 

しっしっ、と俺を追い出すように手を振る。

こいつ、わざと俺に話を聞かせる為に大声で話をしてたな・・・。

 

「・・・そちらにも事情があるようですが、そう言われてこちらもおめおめと帰れませんよ」

 

「ああ?お前は犬走に呼ばれてここに来たんやろ?だがこいつの上司である俺は許可を出してなかった。悲しい行き違い、て奴だ。帰りの旅費は出してやるけん、すぐに・・・」

 

「既に弊社と御社で契約は成り立っている、てことだよ。あんたらがここまで来れるモデル、という条件で募集を掛けて、うちはその要望に応えた人員を用意した。それに断るにしても、ここまで来る前にするべきだろ。いざ現地に来て実は頼んでなかった、なんて虫が良すぎる」

 

大古場が黙って俺を睨みつける。俺はその視線を正面から受け止めた。確かにこいつは強面だが、医者の頃、流産を告げた時の夫婦の顔に比べれば大したものじゃない。

しばらく時間が経つと大古場が口を開いた。

 

「・・・お前、名前は?」

 

「・・・アクア。苺プロのアクアだ」

 

「苺プロ?・・・そうか」

 

大古場はなにやら納得したかのように頷くと、俺から視線を逸らして告げた。

 

「わかった。今回は確かにうちの不手際だ。お前の意見が正しい」

 

意外にもあっさりと大古場は折れた。

 

「ただ撮影の時はこっちの指示に従ってもらう。わかったな?」

 

「ああ。だが撮った写真は一度うちの社長にも目を通させてもらう。うちの事務所からNGが出る可能性もあることは留意してほしい」

 

「わかったわかった、勝手にしろ」

 

大古場はそういうと再び奥に引っ込んだ。

入れ替わりで犬走さんが出てくる。

 

「あ、アクアくん!ありがとうばい〜!あの石頭の大古場さんを説得できるなんて〜!」

 

「誰が石頭だ!」

 

「げえっ!すんません!」

 

「犬走さん、この件は鏑木Pにも報告させて頂きます」

 

「ええ!?あ、アクアくん、それはまずいばい!僕本当にあの人には頭が上がらないやから・・・っ!ど、どうかそれだけはご勘弁を〜!」

 

犬走さんが大古場と俺の前で右往左往しながら涙目になっている。

まあ、元はと言えばこの人の報連相不足が原因だし。これくらいのバチは与えてもいいだろう。

 

 

・・・

 

 

しばらくの間、犬走さんをからかった俺は改めてソファーで出されたお茶を飲んでいた。

疲れた様子の犬走さんが、よろよろと仕事机らしきところに座る。

 

「ふー・・・少し休憩休憩」

 

誰に聞かせるわけもなく独り言を呟くと、そのまま何事かキーボードを打ち込んでパソコンを操作しだした。

しばらく無言でパソコンを見つめていた犬走さんは急に立ち上がると、奥に引っ込んでいた大古場に声を掛けた。

 

「大古場さん、大古場さん!大変ばい!あの子達、急遽ミニライブをやるってブログで告知してるばい!」

 

「なにぃ!?」

 

大古場が再び奥から勢いよく出てくる。

 

「いつからだ!?」

 

「この後、14:00からみたいです!場所は駅前中央のGEILSていうライブハウスっす!」

 

「ちっ、ここからなら車でギリギリ、てとこか・・・!!いくぞ、犬走!」

 

「はいっ!」

 

二人が慌ただしく外出する準備をし始める。

俺はついていけずにぽかんとするばかりだった。このまま放置されても困るので忙しそうな二人に声を掛ける。

 

「あの・・・」

 

「ああ!?てめえの撮影は後日だ!今日はオフ、てことで解散だ!・・・悪りぃがこっちは急いでんだ!質問は後日聞く!」

 

「ごめんっ、アクアくん!ちょっと僕ら取材が入ってしまったばい!今日のところは宿でゆっくりしとうとよ!あ、領収書はウチ宛で切っといてけんな!」

 

二人はこっちの意を返さずにコートとカメラ、車のキーを取ると出て行こうとする。

・・・こっちとしても自由な時間が増えるのはありがたい。ここは乗っておくとしよう。

 

「わかりました。じゃあ本日はこれで・・・」

 

失礼します、と言おうとしたところで俺は犬走さんの発した単語に思わず耳を疑った。

 

「ついてますね!大古場さん!フランシュシュのゲリラライブに参加できるなんて!」

 

「おお、お前のサボり癖もたまには役に立つけんな」

 

「ひっでぇっすよ!大古場さん!」

 

今なんて言った?

フランシュシュ・・・それは鏑木Pから聞いた偽物のアイが所属するユニットの名前だ。

そこにこれから取材しに行くと言う。

千載一遇のチャンスだ。思わず心の中でほくそ笑んだ俺は忙しそうにしている二人に再び声を掛けた。

 

「すみません、俺もついて行っていいですか?」

 

「ああ?なんやけん急に」

 

怪訝そうな顔をする二人に、はっきりと伝える。

 

「俺もそのライブ会場に連れて行ってほしいんです。・・・実はそのフランシュシュ、てアイドルに興味がありまして」

 

「おお!いつのまにかフランシュシュも有名になっとったんやねえ!これは僕たちの活動のおかげやないですか、大古場さん!」

 

「ばぁか!まだ記事にしてねえだろうが。おいお前、何でお前みたいな東京のモデルが佐賀のご当地アイドルなんかに興味を持ってんだ?」

 

大古場の視線が怪しむかのように俺を貫く。俺は先程同様、真正面から受けながら平然と答えた。

 

「妹がアイドルをやっているんです。まだ新米のアイドルですけど、俺と違ってしっかり夢を追っていて・・・。そんな妹の力になりたいので、俺もアイドルについて勉強している最中なんです」

 

「アクアくん・・・君ってやつは・・・!妹想いの優しいお兄ちゃんやねぇ!・・・大古場さん!連れてってやりましょうよ!」

 

「はぁ・・・相変わらずお前は・・・。まあいい。だが取材の邪魔はするんじゃねえぞ?少しでも俺が邪魔だと思ったら即叩き返すからな!」

 

大古場がそう吐き捨てると踵を返して出ていく。

二人の了承を得た俺は掛けておいたコートを着て、二人について行った。

 

 

 

・・・

 

 

 

車に乗って数十分。目的地であるライブハウスにつく。

中に入ると満員、とまでは言わないがご当地アイドルにしては十分多いくらいの人数が集まっていた。

 

「おお!ゲリラライブとはいえ、結構集まっとりますねぇ!」

 

「ああ、平日にこの人数なら十分凄いけんな」

 

二人について行って真ん中くらいの位置で止まる。ちょうどステージを見渡せるいい場所だ。どうやらここで観るらしい。

 

「アクアくん、パンフレット貰ってきたとよ。良かったら見るけん」

 

「ありがとうございます」

 

犬走さんが持ってきたパンフレットを見る。簡素なデザインのその紙にはフランシュシュのメンバーについて、簡単な自己紹介と写真が載っていた。

 

「僕のおすすめはねー?何と言っても七号ちゃん!もーステージの上で歌い踊る姿がめっちゃ可愛いんやよ!」

 

犬走さんが指差した子を見る。それは奇しくも俺がここまできた目的の子だった。

フランシュシュ七号、見れば見るほど生前のアイに似ている・・・。

 

「何と言ってもファンサービスが凄いんよ!どんなにステージの上で踊っても、ずっと目線が合ってるかのような印象を与えてきて─」

 

知っている。

俺もテレビの画面を観て何度も感じた感覚だ。

アイのパフォーマンスには昔から不思議なくらい、視線を吸い寄せられる。そして自然とアイと目線が合うのだ。まるで見つめあってるかのような感覚。自分だけを見てくれているかのような優越感を与えるその瞳は、ガチ恋勢を量産するのは容易だった。

かく言う俺も当時は──

 

──せんせ!

 

はっ、いかんいかん!思わず変なことを考えるとこだった。とっさに脳内でさりなちゃんの笑顔を思い出さなければロリコンの誹りを受けるとこだった。

・・・いや、さりなちゃんの笑顔で正気を取り戻すのは結局ロリコンなのでは・・・?

・・・

深く考えないようにしよう。

 

 

そんなバカなことを考えていると音楽が流れ出した。それは鏑木Pに見せてもらった動画でも流れていた曲だ。

同時にステージに照明が灯り、煌びやかなアイドル達が現れる。

そのうちの一人、金髪のアイドルが持っていたメガホンに向かって喋り出した。

 

「おぅ!てめえら!今日はあたしらフランシュシュのライブに来てくれてありがとうな!急な告知でも来てくれた、てめえらの期待に応える最高の時間にしてやるんで夜露死苦ぅ!」

 

「「「おおお!!!」」」

 

アイドルの拡声器越しの声に負けないくらいの声でファンが応える。

それは彼女らがファンの心をしっかりと捉えている証のように見えた。

 

「じゃあまずは一曲目!『目覚め!RETURNER!』」

 

〜♪

 

『目覚め RETURNER 願えばいいんだ 奇跡〜♪』

 

 

 

・・・

 

 

フランシュシュの曲を聴きながら俺は冷静に偽物のアイこと、フランシュシュ七号を観察していた。

 

・・・確かに、アイのパフォーマンスに良く似ている。ダンスのキレや歌い方、そのどれもが当時のアイを彷彿とさせた。

だが・・・。

 

「違う・・・」

 

思わず口から溢れる否定の言葉。

彼女は確かにアイに似ているが、アイと決定的に違うところがある。

それはスター性とも呼べる輝きだ。

 

彼女にはアイと違い、思わず吸い寄せられる光がない。

アイは一度ステージの上に立てば、自分以外を路傍の石にしてしまう、そんな魔性の魅力があった。

彼女だけが輝き、彼女だけが星になるそんな絶対的なカリスマ性、それが目の前の彼女からは感じられない。

それは彼女がアイとは別の存在であると断言させられる証左だった。

 

時間の無駄だったか・・・。いや、結果的にアイではないとわかったのだから無駄ではなかったか。

落胆している自分に嫌気が差す。これでは本当にアイが生きているんじゃないかと期待していたみたいじゃないか。そんな馬鹿な考え、あの時アイを目の前でむざむざ殺された自分に許されるわけがなく───。

そこまで考えた俺は急激な吐き気に襲われた。同時にフラッシュバックするあの日の光景。

 

─まずい!

これは意識を失う前兆だ。メソッド演技をしようとすると起こる心的外傷。こんなところで倒れでもしたら大古場達はおろか、ルビーやミヤコにも心配を掛けさせるかもしれない。

 

よろよろと歩きながら外に出ようとする。俺の顔色に気づいたのか、大古場が声を掛けてきた。

 

「おい、大丈夫か!?顔色真っ白だぞ!」

 

「・・・すみません・・・少し、酔ったみたいでして・・・」

 

「ちっ!世話かけさせやがって。おい、犬走!俺はこいつに外の空気吸わせに行ってくる。お前は今のうちに今日書く記事の見出しを考えとけ!」

 

「は、はい!わかりました!」

 

 

 

・・・

 

 

大古場に肩を貸されて何とか外に出る。

新鮮な空気で深呼吸をするといくらか気分が和らいだ。

 

「すみません、俺のせいで途中で出てしまって・・・」

 

「ふんっ、気にすんなけん。ちょうどタバコ休憩がしたかったところやしな」

 

そういうと大古場は胸ポケットからタバコを取り出すと、そのうちの一本に火をつけた。

煙を吸って口から吐いていく。

 

「それと敬語やめろ」

 

「え?」

 

「事務所にいた時は敬語じゃなかっただろうが。俺はガキに舐められるのはむかつくが、俺が認めた奴に敬語使われる方がもっとむかつくんだよ」

 

無茶苦茶な理屈だ。・・・ただ落ち込んでる俺を元気づけようとしてるように見える。

俺はその気遣いに感謝しつつ、応えることにした。

 

「わかった、今後は公的な場以外ではあんた相手に敬語は使わない」

 

「ふん!・・・で、何か参考になったのか?」

 

「え?」

 

「え?じゃねえよ。お前が言ったんだろうが。妹のアイドル活動の参考になるんじゃないか、て」

 

そういえばそんな理由づけで着いてきたんだった。

 

「そう、だな・・・。彼女らは・・・俺が思ってたアイドルとは違っていた」

 

「へぇ・・・どう違ったんだ?」

 

「俺が知っているアイドルは・・・一つの星をどれだけ輝かせられるか、というものだった」

 

アイという一番星を輝かせるアイドルユニット。それがB小町だった。

 

「だが彼女らは・・・それとは違った。まるで全員で一斉に輝こうとする方法を模索して、その結果、中途半端な燻んだ輝きしか出せない・・・そんな感覚だった。あれは・・・俺が求めたものではなかった」

 

自分の中で当てはまる感覚を少しずつ言語化していく。

結局俺は、自分の中のアイを求めてここまで来たようなものだ。鏑木Pに見せてもらった動画で見た彼女は幻想だった。それでこの話は終わりなのだ。

 

「そうか・・・。けど俺は燻んだ輝きも別に悪いとは思わんけどな」

 

「・・・」

 

「燻んだ輝きを持った子らが少しずつ努力して本来の輝きを取り戻していく。俺みたいな生粋の佐賀人はなあ、そういう泥臭さを求めてるのよ」

 

「結局のところ俺があの子らを追ってるのもそういうところが気に入ってるから、てとこもあるけんな。この燻ってる佐賀に大きな変化をもたらすのは案外ああいう・・・」

 

そんな話をしていると俺たちが出てきた扉越しに拍手の音が聞こえてきた。どうやらライブは終わってしまったらしい。

 

「しまった・・・話し込んでたら終わってしまったみたいやけん。まあこの後、物販とチェキ会もやるみたいやからそれだけでもどうやけん?」

 

「・・・そうだな。だいぶ体調も戻ったし、せっかく来たんだからせめて彼女らの活動に協力するか」

 

別に彼女らの事が嫌いなわけではない。

むしろ勝手に期待して、勝手に落胆してるのだから彼女らにとってはいい迷惑だろう。

だからせめて、罪滅ぼしというわけではないが彼女らの為になることをしてあげたくなった。

どうせもう会うこともない。なら最後にグッズの一つでも買って彼女らの活動に貢献する、この時はそんな程度にしか考えていなかった。

 

 

・・・

 

 

会場に戻るとちょうどチェキ会の列がたくさんできていた。

各アイドル毎に並んでる人数にばらつきはあるものの、全く列がない子はいない。

むしろ箱推し、というのだろうか同じ奴が複数回違う列に並んでいるのも見える。

チェキだって決して安い値段ではないだろうに・・・。このフランシュシュというアイドルグループの持つ地力の高さが垣間見えた。

・・・ていうかあのパンクロック風のファンはやばいな。あの見た目でアイドルに会いに来るのもやばいが、チェキを撮った後の次のアイドルの列へと並ぶ無駄のない滑らかな動き、恐らく全メンバーのチェキを集める猛者・・・。古参の箱推しと見た・・・!

 

「おーい!大古場さん!アクアくん!こっちばーい!」

 

バカな事を考えていた俺は、聞き覚えのある声で正気を取り戻した。

名前を呼ばれた方を見るとチェキ券を持った犬走さんが立っていた。

 

「アクアくん、もう体調は大丈夫とよ?」

 

「ええ、おかげさまで。ご迷惑お掛けしました」

 

「気にせんでよか。まあいきなりのこの人混みは酔っても仕方がなかよなー。むしろ気を使えずに申し訳ないばい」

 

「いえ、もう体調も問題ないので犬走さんの方こそ気にしないでください。・・・そのチェキ券はどこで?」

 

「ん?アクアくんもチェキ撮るとよ?なら僕のやつあげるけんね」

 

「いえ、お気持ちはありがたいのですが・・・せっかくなので彼女達にお金を落としたいんです。せっかくのライブも途中までしか観れなかったので、せめてものお詫びも兼ねて」

 

「そっか・・・ならあっちでフランシュシュのオリジナルTシャツとタオルを販売してるけん。どっちか買うとチェキ券が貰えるけん、買ってくるとよか」

 

「ありがとうございます。早速購入してきます」

 

犬走さんが指差した方へと向かう。そこではサングラスを掛け、胸からゲソを生やしたスーツ姿の男が売り子をしていた。

・・・なんでゲソ?

 

「はい♪どちらになさいますか?」

 

サングラスの男から、明らかに営業用の声で話掛けられる。少し胡散臭い気がするが、俺は構わず購入する事にした。

 

「このタオルを一つ買いたい」

 

「お買い上げありがとうございます♪ちなみに今ならオリジナルTシャツも販売してますがご一緒にいかがでしょうか?♪」

 

「・・・いや、結構です」

 

「そう言わずに♪お兄さん、カッコいいですからきっとこのTシャツも着こなしちゃいますよ♪」

 

「・・・いや、間に合ってます」

 

「何と今なら一枚買うともう一枚ついてくる!さらにチェキ券も倍!」

 

「・・・いや、おかまいなく」

 

何だこの露骨な押し売りは・・・。普通ここまで断ってるのに食い下がってくるか?それとも俺は押しに弱そうに見えるのか?

・・・馬鹿にされちゃ困る。こう見えて俺は実際は40年は生きている。そんな簡単に買わされる程お人好しじゃ──

 

「こちらの品、二つ買えばペアルック等もできますよ♪例えば・・・双子ペアルックなんかにもオススメ⭐︎」

 

「買います」

 

 

・・・

 

 

「おう、戻ってきたな。・・・どした?」

 

「いや、俺てそんなに押し売りに弱そうに見えるかな・・・」

 

「・・・何があったか知らねえが。まあそうだな、なんだかんだで頼み込んだら借金の連帯保証人になってくれそうな感じはするけんな」

 

「・・・もう少し人に厳しく生きていこうと思う」

 

「・・・まあ頑張るけんね」

 

・・・気を取り直して。せっかくチェキ券を三枚も買ったんだ。せっかくなら推しに全ツッパしたいところ・・・だが俺の目的はこのグループにお金を落とす事。既に目的は達成したと言える。

・・・

未練がましいようであれだがせっかくだ。当初の予定通り、彼女に会いに行くとしよう。

 

「お、お前も七号が推しやけんな。犬走も先に並んでるけん、ゆっくり並んでくると良か」

 

大古場に言われて列の最後尾に並ぶ。フランシュシュ七号の列は他のどのメンバーよりも長かった。間違いなく彼女がこのユニットで一番人気があるんだろう。そんなところはアイと同じで少し嫌な気分になった。

はぁ・・・。アイを重ねて勝手に期待して、勝手に落胆して、また、勝手に嫌な気分になる。なんだか自分勝手過ぎて自己嫌悪になりそうだ。

そんな事を思ってると列はどんどん進んでいく。

どうやら彼女も大行列のチェキ会の対応に慣れているらしく、列の捌け方が異常だ。

ついさっき並んでいた犬走さんが、笑顔で列を通り過ぎて行くのが見えた。

物凄いスピードで捌けていくが、通り過ぎていく人達は誰一人として笑顔だった。限られた時間での彼女の対応が良いのだろう。誰一人として、スタッフに引き剥がされるような事もなく、満足した顔で列の後ろに戻っていく。

何人かはまた並んでる姿も見えた。その伝説的とも言えるカリスマ性に、また心の中で蓋をした筈の彼女への期待が高まっていくのを感じる。

・・・本当に嫌になるな、全く。

 

「今日はチェキ会にも並んでくれてありがとう!またライブを観に来てくれるの待ってるからねー!・・・え?絶対来る?・・・言ったなーこのこの!よし、顔と名前、覚えたからねー!次来なかったらゾンビみたいに噛んでやるから!え?ご褒美?じゃあ噛んでやらない!・・・あははー!またねー!」

 

俺の前にいた奴が満足気な顔で出ていく。

──そして、俺はこの後

 

「お待たせー!ごめんねー、待たせちゃったとこ、申し訳ないんだけど一応制限時間とかあるからちゃっちゃとチェキってこうか!あ、でも安心して?私、決められた時間内でも君のこと、たっくさん楽しませて・・・」

 

──この佐賀まで来たことを

 

「・・・アクア?」

 

──心の底から後悔するのだ。

 

 

 

 

 




フランシュシュ×推しの子なのにフランシュシュほぼ出ないじゃんと思ってる方、久しぶりの投稿なのにほぼ男しかおらんやんと思ってる方、アクアも鏑木Pも監督も大古場も犬走もキャラ違うじゃんと思ってる方、そもそも大古場と犬走て誰だよ!て思ってる方、ごめん、コーラル決めたら筆が止まらなかったんです・・・。
ちなみに筆者はハッピーエンド派です。
原作でアクアがどうなろうと絶対に幸せにしてやるからな・・・覚悟しとけよ・・・!

ここまで後書を読んで頂きありがとうございます。
改めて投稿が遅くなってしまいましたが、引き続き書いていきます。
今回も感想、高評価、誤字報告、ご意見お待ちしております。
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