推しの子 in SAGA   作:片倉の推しの子Bです

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素敵なご友人の皆さん、たくさんの感想、評価ありがとうございます!
次回更新待ってます、のコメントを見てミルクトゥースも喜んでいます・・・。
AC6もラブコメ、推しの子もラブコメ、ジャンルが被ってるから読者層(プレイ層)も被っているんですかね・・・?ゾンサガ?ゾンサガはオールジャンルですから。

さて今回からサガロック編です!
ゾンサガの曲の中で『アツクナレ』が一番好きなくらい印象的な話です。

熱が入って文字数もこれまでより増えてしまってるので、ゆっくり読み進めて頂けれると嬉しいです。



前回のアクアの名前の誤字、めちゃくちゃ恥ずかしかったです。アクア、ごめん・・・。
指摘してくれた方、本当にありがとうございました。


第十一話 だってセンチメンタル SAGA

 

嬉野温泉でルビー達と遭遇した夜。

あの後、不慮の事故でルビー達を気絶させてしまった私達は、ルビーが持っていたルームキーから部屋番号を調べて三人を部屋へと送り届けた。

一応ドアをノックして物音が聞こえたのを確認してから部屋の前を離れたし、すぐにミヤコさんが三人を介抱してくれたはず。

まあ私達は部屋を抜け出したのがバレて巽にめちゃくちゃ怒られたけど・・・。

でも正直私としては温泉も入れたし、ルビーの寝顔もすぐ傍でたっぷり堪能できたから大満足でした!ごめんね、巽!

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

嬉野温泉での営業からしばらく経ったある日、巽から私達は新しい曲の振り入れを指示されていた。

フランシュシュはついに『目覚めRETURNER』以外の新曲を手に入れたのだ。

今度の新曲は愛ちゃんと純子ちゃんのソロパートがある。アイドル経験者の二人だからこそ、多少負担を増やしても大丈夫、て考えなのかな?

ちなみに同じ元アイドルの私のソロはないのか抗議したところ、「お前はまず、周りに合わせることから覚えろ」とのことでバッサリ切られた。ちぇー。

 

今は愛ちゃんの指示のもと、新しいダンスを覚える為に皆で練習をしているところだ。

新曲を通しで流して、最後のポーズを取る。

 

「・・・やっぱりちょっと遅れちゃうな」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「・・・ううん、大丈夫。私がフォローするから」

 

純子ちゃんを励ますように愛ちゃんが声を掛ける。

確かにこの曲、すごい良い曲だけどその分ダンスも歌も『目覚めRETURNER』より難しい。

特にソロがある分、二人は他のメンバーよりも負担が大きかった。

 

「よし、もう一回通しで──」

 

「・・・だーっ!疲れたけん!・・・二人がすげえ気合い入れてるのはわかるやけん。ばってん、根を詰めすぎてもできるものはできんばい!一度休憩挟むのも良かやないか?」

 

サキちゃんがその場に大の字になって倒れ込みながら提案する。二人に直接言っても続けそうだったから、無理矢理休んでもらおうとしてる、てところかな?

それを察したのか、ゆうぎりとさくらちゃん、リリィちゃんも続いてその場に座り込む。私もたえちゃんと一緒に、皆に倣ってその場に座り込んだ。

 

「・・・はぁ、わかったわ。休むのは10分だけだから」

 

「・・・はい、わかりました」

 

愛ちゃんと純子ちゃんも座り込んだところで、サキちゃんが身体を起こす。自然と円を囲みながら私達は向かい合っていた。

 

「・・・しかし、新曲とはなー!やっぱアイドル、て色んな曲歌ってなんぼやしな!アタシも早くカッコいい曲歌いたいわー!」

 

「サキちゃんの持ち曲・・・何だろう、バイクの音に合わせて数を数える曲とか似合いそうな気がするけん」

 

「なんで数取団なんだよ!」

 

「完全に見た目じゃん・・・。あ、リリィはサキちゃんなら魔法少女アニメのオープニングとか似合うと思うな⭐︎」

 

「それはお前が歌いたいだけやろが!」

 

「あ、じゃあヘビーメタルとかどう?サキちゃんならシャウトとか得意そうだし!ステージに立つ時もあえてメイクせずにゾンビフェイスで行けばおっけー!どう?」

 

「・・・やっとわかったけん。お前ら、アタシをおもちゃにして遊んでんな?ぶっコロすぞ!」

 

サキちゃんが立ち上がって私に向かってくる。私はそれを察していち早くゆうぎりの背に隠れた。

 

「あ、てめ!姐さんの背中に隠れるのはずりーぞ!」

 

「ずるくないよー、ゆうぎりと私は同い年で仲良しだからねー?」

 

「ふふっ、そうでありんすな。ところでアイはん、へびーめたる?てのはなんどすか?」

 

「えっとねー、カッコいい格好をして普通の声よりちょっと高い声を出して歌ったりする曲かな?」

 

「なるほどでありんす、でしたらうちらを引っ張ってくれる、りーだーのサキはんにぴったりでありんすな」

 

「ぐっ、純粋な姐さんを盾にしやがって・・・。てめえっ、アイ!覚えてやがれ!」

 

私達が騒いでるのを見て、愛ちゃんと純子ちゃんがふっ、と笑う。

良かったー、少しはリラックスできたかな?

 

「ったく・・・、そういや、アイに聞いてみたかったんけどよー」

 

「ん?なになに?」

 

「お前が唐津駅前のゲリラライブ中にやってたあの、ファンの視線を自分に集めるの、てどうやってるんつか?」

 

皆の視線が私に集まる。

どうやら皆気になってたことみたい。

私としては別に隠してるわけじゃないし・・・巽も皆に色々教えてやれーて言ってたからいっか。

 

「うーんと、前も軽く言ったかもしれないけど、相手の気を引くポーズとか仕草でお客さんの目を引いて、見てもらったタイミングでとびっきりの笑顔を向ける。これだけなんだけど、皆もできるようになりたいなら・・・まずはやっぱり笑顔かな?」

 

「笑顔?」

 

「そ!見せた相手にこの子可愛い、て思わせる笑顔!キメ顔、て言ってもいいかも。アイドルなら当然かもだけど、どんな相手からも、笑顔を作った自分ですら魅力的に思えるくらい完璧なキメ顔を作るの!これをモノにする事からかな?」

 

「自分でもまぶいと思えるくらいの笑顔?てことはアイもその笑顔する時は自分で自分自身の事可愛いー!て思ってるんつか?」

 

「もっちろん!何よりもまず、自分が可愛いと思った笑顔を作れないと周りから可愛い、て思われるわけがないからねー」

 

愛ちゃんや純子ちゃん、リリィちゃん、ゆうぎりは覚えがあるみたいでうんうんと頷いていた。

逆にサキちゃんやさくらちゃんは苦い顔をしている。

まあいきなりこんなこと言われても、納得できないかー。

テレビに出たり、たくさんの人前で何かした経験があるとわかりやすいのかな?

 

「な、なるほど。でも自分でも可愛い、て思える笑顔か〜。うーん・・・いざやってみようと思うと難しいけん・・・」

 

さくらちゃんが頭を悩ませながら、いろんな変顔を作っている。

・・・傍から見てる分には面白いけど、そろそろアドバイスを出してあげよう。

このままだとずっと変な顔作ってそうだし。

 

「そうだなー、実際にやってみると・・・」

 

よーし、誰にしようかなー?さくらちゃんには一度やったし・・・よし!

 

「こんな感じ!」

 

私はそれまで黙っていた愛ちゃんの方を振り向くと渾身のキメ顔をした。

突然笑顔を向けられたからか、愛ちゃんが一瞬目を見開く。

 

「・・・ま、まあそこそこといったところね」

 

愛ちゃんは目を逸らしただけであまり変わったようには見えなかった。

あれー?手応えあったと思ったんだけどなー?

周りの皆は何か納得したような、黙ったまま微妙な表情をしている。

何だろう・・・渾身の笑顔を見せたのにこんな微妙な反応されると、私が可哀想な人みたいじゃん!

 

「あー確かに、効果あるみたいやけんな」

 

サキちゃんの申し訳程度のフォローが心に刺さる。

 

「ちょ、ちょっと待って!今のなし!もう一度やり直させて!」

 

「え?」

 

私はそういうと愛ちゃんの傍まで移動する。

そのまま愛ちゃんの顔を両手で挟むように固定した。自然と互いの顔が近くなる。

 

「ち、近・・・」

 

「ちょっとごめんねー。・・・さっきは角度が悪かったかなー?まあでもこれだけ近づけば大丈夫でしょ!じゃあ、いっくよー!」

 

「待っ・・・!」

 

 

・・・

 

 

私の見てる前でアイちゃんが愛ちゃんに、まさに必殺とも言えるアイドルスマイルを何度も浴びせていく。

それもガチ恋距離とも言えるくらいの、互いの吐息が感じられるくらいの近さで、逃げられないよう顔を両手で固定されたうえで、だ。

愛ちゃんが生前のアイちゃんに割と強火の・・・執着とも言える感情を持ってたのはなんとなくこれまでの振る舞いからわかる。

そんな愛ちゃんが、推しとも言えるアイちゃんからあれだけのファンサを受けたらどうなるか。

 

「どう?どう?愛ちゃーん?」

 

「も、もう許し・・・」

 

愛ちゃんは既に限界を超えてるのか、頬を蒸気させて目を回している。頭についている花は満開で、もはや髪なのか花なのかわからないくらいだ。

ていうかやっぱりあの花、愛ちゃんの気持ちに左右して花をつけてるのかな・・・?

 

「ア、アイ!その辺でやめとけ!もうそいつ意識飛んでるけん!」

 

「アイちゃん、流石にそれ以上は愛ちゃんが死んじゃうの通り越して成仏しちゃうよー!」

 

サキちゃんとリリィちゃんが慌ててアイちゃんを愛ちゃんから引き剥がす。

アイちゃんは不思議そうな顔でされるがままにしていた。

どうもアイちゃんは、愛ちゃんがあんな反応をしてる理由に心当たりがないらしい。

元の位置に連れ戻された後も、顔に疑問符を浮かべていた。

ガタリンピックの時に愛ちゃんがアイちゃんのファンだ、て事伝えてたと思うけど・・・。この分だと冗談だと思われたか、アイちゃんが"推し"を前にしたファンの熱量をよくわかってないか・・・うーん、後者のような気がするけん・・・。

 

救助された愛ちゃんがゆうぎりさんに介抱されていく。

その姿を見ていると、不思議と動いていない筈の心臓がドキドキした気がした。

 

・・・あれ?今なにか変な感じがしやったような・・・?

普段気丈な愛ちゃんが弱った姿。それを見た時に感じた今の感覚・・・。

何だろう?もしかして私・・・愛ちゃんの事を知っている?

記憶を失う前に愛ちゃんに会ったことがあるのかな?

 

・・・駄目だ。思い出そうとしてもやっぱり思い出せんけん・・・。

でも記憶を思い出すきっかけにはなるのかも。

今度、空いた時間に愛ちゃんに聞いてみよう。

 

 



・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

夜、私たちはメンバー全員で巽の部屋に来ていた。

巽はお風呂に入っている為、部屋にはいない。

つまり、インターネットチャンスだ。

 

「なんどす?この箱は?」

 

「パソコンていってこれで今どんなアイドルがいるか調べてるの」

 

愛ちゃんがパソコンを操作していて、その画面を皆で後ろから覗いている。

一番時代の古いゆうぎりはパソコンを知らなかったみたいで不思議そうにモニターを見ていた。

ふと思い立ったのか、モニターを持っていた煙管でこづき始める。

 

「また偉いものを作りましたなあ?」

 

「ちょっ、壊れるから!」

 

「あら、御免なんし」

 

こづくのを止めたゆうぎりの隣でさくらちゃんが心配そうにしていた。

 

「幸太郎さん戻って来なさんかな?」

 

「大丈夫、だいたい20分くらいは猶予がある筈」

 

「そうと?」

 

「私、これ三回目だから」

 

「えっ?」

 

「あ、ちなみに私も三回目!」

 

「・・・もー、二人とも危ない橋を渡り過ぎとぅよ・・・」

 

さくらちゃんが、肩を落とす横で愛ちゃんが慣れた手つきでパソコンを操作する。

 

「ねえねえ、リリィたちのホームページもあるのかな?」

 

「・・・あるけど絶対見ない」

 

「ほえ?」

 

「死ぬほどださいから・・・ゾンビでも死ぬほど・・・」

 

愛ちゃんが苦い顔でそう溢す。

あー・・・確かにあのホームページはそう何度もみたいものじゃないかも。自分達のホームページだと思うと尚の事・・・。

リリィちゃん達も察したのか、それ以上は聞こうとしなかった。

その後も愛ちゃんがパソコンを操作しつつ、皆が話を続けていく。

そんな中、私は・・・全く別の事を考えていた。

 

それは・・・『黒川 あかね』について調べること!

 

この前一人でパソコンを使った時に、アクアが今ガチで作った彼女の名前が『黒川 あかね』である事を突き止めた。

でもこの子がどういう子かまでは時間がなくて調べられなかった。

どうしよう。もしこの子がとっても美人さんで・・・アクアがゾッコンだったら・・・。

アクアが知らないアイドルを応援する姿をイメージする。

・・・

だ、駄目だ・・・!泣いちゃいそう・・・!私こんなに嫉妬深かったっけ!?

いや、でもアクアがルビーを応援する姿をイメージする分には何も感じなかったし・・・むしろ私もアクアの隣で応援したいし・・・。

うん!大丈夫!私は何も間違ってない!

きっと生き返ってルビーに会えて嬉しかったから、アクアにも普段以上に会いたくなっちゃってるだけのはず!たぶん!

 

とにかく、何とかしてこの黒川あかねがどういう子なのか調べないと・・・!

流石に皆の前で調べる訳にはいかないし、やっぱり今度巽がお風呂に入ってる時が狙い目かな?

 

 

「あ、それ、愛ちゃんがおったグループよね?」

 

そんな事を考えていたら、さくらちゃんの声で我に返った。

 

パソコンの画面を見てみると、佐賀ロックフェスティバル出演一覧と書かれたページが開かれている。

 

「え?どこどこ?」

 

「これ!アイアンフリル!佐賀ロックに来るんだー・・・」

 

「おお!すげえやないか!おまえんとこ!」

 

アイアンフリル・・・そう言えば私がB小町で活動してた時もそんなグループがいたような・・・?

そっか、B小町と一緒で愛ちゃんがいたグループも活動を続けてるんだ。

 

「そういや、この前会ったアイが元いたグループ・・・B小町やったっけ?あいつらは出ないけんな?」

 

「うーん・・・出演一番には載ってないみたい。まああの子達のメインの活動場所は東京みたいだし、こっちには他の仕事がある時だけ来る、とかなんじゃない?」

 

「そっかー、せっかくお友達になれたんだし、また会えればよかったやけんど・・・」

 

皆の視線が私に集中する。

 

「・・・まあルビー達と絶対に会えなくなった訳じゃないからね。それにこの佐賀ロックてイベント、結構参加申請自体はギリギリまで受付けてるみたいだから、もしかしたら飛び入りで参加、なんてこともあるだし!」

 

「・・・ま、確かにそういうこともあるかもしれないけんな!」

 

「だね!」

 

「リリィもそう思う!」

 

皆とワイワイしながら、考える。

ルビーと共演、いつか同じステージに立つこともできるかもしれない。私とルビーがステージに立って、アクアが観客席から私達を応援する。そんな夢のステージが実現したら・・・もうあれだね。テンション上がりすぎて無敵のアイドルになれちゃうかも。

 

ふふっ、アイドルとしての楽しみがまた増えちゃったなー!

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

日々新曲の練習を続けてた私達はある日、巽から次の仕事のミーティングがあるって事で、いつもの地下室に集められていた。

 

椅子に座って待っていると、巽がいつものように遅れて部屋に入ってくる。

 

「よし!今日も全員集まっとるな!・・・まずは先日の嬉野温泉での営業、ご苦労だった」

「だがしかし!貴様らにも見せた通り、佐賀の情報誌、サガジンではフランシュシュの活躍は一切書かれておらず、あったのは深夜にホテルを徘徊する幽霊の噂のみ・・・これがどういうことかわかるか?さくら?」

 

「え、ええっと・・・あっ!わ、私達、お化け屋敷のスタッフもできる、てアピールできるとか!?」

 

「ちっがーう!!騒がれるのならゾンビとしてではなく、アイドルとして騒がれんかいという事じゃーい!!」

 

「え、ええ・・・」

 

「次、勝手な行動をしたら坊主。お前らもじゃい!サキ!アイ!純子!」

 

「けっ」「はーい」「はい・・・」

 

あちゃー、流石にやりすぎたかー。まあ確かに勝手に温泉入りに行ってゾンビバレしそうになってたら怒るかー。

・・・でも成長したルビーの寝顔可愛かったなー!私の遺伝子持ってるとはいえ、可愛い過ぎでは・・・??スマホ持ってたら写真撮って壁紙確定だったね、あれは、うんうん。

 

「反省してるように見えん顔じゃが・・・まあいい。喜べお前ら!次の仕事が決まった!」

 

「おお・・・やっとか!」

 

「今回は遅かったやけんね」

 

「・・・ぬわぁにがやっとか!、遅かったやけんね、じゃあい!お前らがずーっとここに閉じ籠っている間俺がずーっと、汗水垂らして取ってきた仕事じゃい!もっとありがたがらんかい!」

 

巽が大声を上げながらサキちゃんとさくらちゃんに詰め寄る。

うーん、これについては巽に同情しちゃうかなー。

 

「・・・まあこれに関してはアンタに同情する」

 

「ですね・・・。まだ無名の私達に短期間で何度もお仕事を取ってこれたのが奇跡みたいなものですし」

 

「テレビのお仕事って、取ってくるの大変だったと思うからそこは評価してあげた方がいいんじゃないかな?」

 

「そうじゃろそうじゃろ!よし、お前らはもっと俺に感謝しろ!」

 

巽は機嫌を直したようでサングラス越しでもわかる笑顔を浮かべている。

意外と褒められると乗せられやすいのかな?今後も巽にお願いをする事があるかもしれないし覚えておこうっと。

 

「さて、お仕事の前に・・・今日はお前らに嬉しいニュースがありまーす!」

「なんとお前らに・・・フランシュシュにファンができました!」

 

「ファン、て・・・イオンモールでのライブで何人か私達目当てのお客さんはいたと思うんやけんど・・・」

 

「あれは正確にはアイが呼んだファンじゃろがい!俺が言ったのは『フランシュシュ』のファンじゃい!」

 

巽の指摘にさくらちゃんが言葉に詰まる。

 

「話は最後まで聞くがいい・・・。では改めて・・・ドラ鳥のCMがネットに上がってちょーっと、だけ話題になってまーす」

 

「やっぱりドラ鳥すげえやん!」

 

「まあ確かに人目には触れたからね」

 

「という訳でお前らには今日、早速、ファンの皆と交流してもらおうと思いまーす」

 

「また今日かよ・・・」

 

「相変わらず急だねー」

 

「さっきホームページに告知しておきました」

 

「あの、交流というと?」

 

「まず手始めに、チェキ会からじゃい!」

 

巽がホワイトボードをくるりと裏返すとチェキ会と書かれた面が出て来た。

チェキ会かー、懐かしいなー。地下アイドル時代にファンの人とたくさん撮ったっけ。

 

「あの、さくらさんチェキ会というのは?」

 

「ああ、えっと、まず・・・チェキというのはカメラなんやけどデジカメと違って・・・」

 

「でじかめ?」

 

「なんていえばいいとかな・・・あ、その場で写真が出てくると!」

 

「ああ!ポラロイドですね!」

 

「??ぽら・・・?」

 

「つまりポラロイドで、ブロマイドを撮ると!」

 

「う〜ん?なんかそんな難しい感じじゃないと思う・・・」

 

純子ちゃんはチェキ会がどういうものかわかってないみたい。

そっかー、純子ちゃんがいた時代はチェキとかなかったんだっけ。

 

「似たようなもんよ」

 

「まあ写真を撮る、て意味ではそうかも?」

 

「え?そうと?」

 

「その前にミニライブと物販をやって、て感じかな」

 

「物販か・・・。あの物置いっぱいのTシャツ少しでも売れればいいんだけど・・・」

 

「リリィ、あのダサいデザインじゃ正直一着だって売れない、て思うな。今からでも路線変更した方がいいと思う」

 

「ふっ、好きに言うがいい。次の物販であのTシャツは売れる・・・。お前らに吠え面を書かせてやろう・・・!」

 

「無理だと思う」

 

「ゆうぎりはどう?大丈夫?わかった?」

 

「わっちはもう、何を考えても仕方ないでありんすからなあ。あるがままを受け入れるようにしてるでありんす」

 

「よし、チェキ会は14時からだ!お前ら気合い入れてチェキチェキしてこい!」

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

巽が言った新しいお仕事、チェキ会を行う会場に着く。

今日の会場はGEILていうライブハウスだ。

これまでライブをやってきたスーパーや旅館に比べると閉鎖空間な分、音が篭りやすく、観客にもダイレクトで歌の良し悪しが伝わり易い。

加えてライブハウスはスーパーとかと比べると、普通の人は足が伸びにくい。告知がギリギリだったこともあり、正直会場が半分埋まれば良い方・・・そんなふうに思っていた。

 

だけど・・・。

 

実際に会場に着いて驚いた。

ホールには人、人、人。満員、てわけじゃないけど、当日告知にしては観客が大勢いた。

中には私達の前にやったライブのファンが惰性で残っていたり、私達の次のライブ待ちの人が場所取りがてら、並んでいる人もいる。

でもその人達を除いても、私達のファンと思われる人が大勢来ていた。その証拠にどこで購入したのか、フランシュシュの文字が入ったタオルを持った人や、自作のものと思われるフランシュシュの法被を着ている人も見える。

 

「わあ・・・」

 

「・・・ほんとに来てくれた!私達にファンができたんだ!」

 

「おお!族やってた頃の集会より、人数集まっとるやけん!」

 

「いや集会、て・・・。でもこれだけたくさんの人がリリィ達のライブを楽しみにしてくれてた、て思うと嬉しいね!」

 

「ええ、わっちらも期待に応えた舞を見せてやりんといけないでありんすな」

 

皆の会話を聞きながら私は考える。

実は今回のライブで心に決めてる事があるのだ。

それはこれまでやってきたパフォーマンスをしない事だ。

今まではいかに自分に視線を集めて、ファンを魅了するか考えてやってきた。

でもフランシュシュの皆と練習してきて気づいた。私が本当に皆と肩を並べてアイドルをやっていくには新しい、全く別のパフォーマンスを見つける必要がある。

だから今回、あえて普段とは違うパフォーマンスをする。

まだ手探りの状態だし、今日せっかく私目当てで来てくれたファンには申し訳ないけど・・・。

これは私が必ず越えなきゃいけない壁だ。

なりふり構ってなんかいられない・・・!

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

〜♪

 

最後の曲、『目覚めRETURNER 』を歌い終わる。

途端に会場から割れんばかりの拍手と歓声が鳴り響いた。

 

私達もそれに手を振って応える。

 

「以上!あたしたちフランシュシュでした!」

 

「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」

 

「ヴァイヴァウア!」

 

一列に並んで礼をする。

それに合わせて再びたくさんの拍手が鳴り響いた。

 

「ええっと、今日はフランシュシュのチェキ会てことで!その、こんなふうに私たちのこと見に来てくれた人がいて・・・その・・・以上です!」

 

サキちゃんが涙ぐみながら締めの言葉を口にする。さくらちゃんも涙を浮かべていた。

・・・そっか、皆にとって、フランシュシュとしてファンの前でライブをしたのはこれが初めてなんだ。

きっと初めてアイドルとして、ファンの前に立ったサキちゃんやさくらちゃんは特に胸がいっぱいなんだろうな。

私も初ライブをやった時もこんなだったのかな?

・・・うーん、駄目だ。佐藤社長・・・あの時はマネージャーだっけ?が変な顔で泣いてたからそれしか思いだせない・・・。

えーい、佐藤社長めー!私の初ライブの気持ちを勝手に塗り替えるなー!

 

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

「えーでは、ただ今からフランシュシュオリジナルTシャツとタオルを販売します。ご購入頂いた方にはチェキ会の参加チケットをお渡しします」

 

ライブが終わった後、物販とチェキ会が始まった。

ステージの端に長テーブルが置いてあり、その上には今回販売するグッズが並べてあった。

あれ?Tシャツ以外にタオルも置いてある・・・。

 

「いつの間にタオル作っとったちゃろ・・・」

 

「ていうかなんなのこのデザイン」

 

「犬っぽいマスコット・・・ロメロかな?」

 

物販は順調に売れていった。

・・・タオルの方だけ。

Tシャツは売れずに山のように在庫が残っていた。

タオルが売れるたびに巽の顔がだんだんと青ざめていく。

 

「Tシャツとタオル、両方四着ずつ、良かかな?」

 

そう言ってきたのは市民館でのライブからほぼ毎回来てくれてるパンク風の太ってる男の人だった。

 

「あ、はい!四着ずつですね?いつもありがとうございます!」

 

「ぜーんぜん良かよ!最高のライブを見せてもらったけんね!あとでチェキ会も並ぶけん、頑張ってな!」

 

そう言って親指を立ててサムズアップすると、列を離れていった。

 

「あの人も毎回来てくれて・・・私達の、フランシュシュのファンになってくれたやけんね」

 

「しかもチェキチケット全員分、てめっちゃ気合入っとるけんな!」

 

「ああやって応援してくれる人達の為にも、私達も頑張らないとね」

 

 

・・・

 

 

 

 

「それでは引き続き、チェキ会に移らせていただきます」

 

私達が一列に並ぶと、その前にチェキチケットを買った人達が列をなしていく。

最後尾の人は私達の名前が書かれた札を持ってここが誰の列か、わかるようにしていた。

 

えーと、私の列は・・・わっ、めっちゃ長い!

嬉しいけどこれだけ多いと後に並んだ人を待たせちゃうなー。・・・よーし、こう言う時は地下アイドル時代に磨いたトークスキルでパッパとやっちゃおう!

 

「今日は来てくれてありがとうー!ライブどうだった?・・・ふふん!そうでしょ、そうでしょ?あ、じゃあ早速チェキ撮るからねー、ポーズは・・・定番のあれにしちゃう?ほら、手でハートを作るやつ!え?恥ずかしい?こういうのは恥ずかしい!て思ったら負けなんだよ!よーし、いっくよー?」

 

 

 

・・・

 

 

 

「ありがとう七号ちゃん!私、絶対また来るから!」

 

「こっちこそありがとねー!次も待ってるよー!」

 

ふー・・・。結構撮ったけどまだまだ並んでるなー。でも久しぶりのチェキ会だからか、ついつい私が一方的に喋りすぎちゃってる気がする。

・・・よし、次の人は私が話を聴く側に回ってみよう。で、相手の話に合わせて私も話をする、これで行こうっと!

 

「お待たせー!ごめんね!待たせちゃったとこ申し訳ないんだけど一応制限時間とかもあるから、まずはちゃっちゃとチェキってこうか!あ、でも安心して?私、決められた時間内でも君のこと、たっくさん楽しませて・・・」

 

そこまで言った私は、自分の目を疑った。

見覚えのある蜂蜜色の髪、整った顔だち、右の青い瞳に特徴的な星を一つ宿した男の子。

すぐに頭の中で一つの名前が思い浮かぶ。

考えるよりも先に私はその名前を口に出していた。

 

「・・・アクア?」

 

私の呟きを聞いた目の前の男の子──アクアが両目を大きく開く。

そこで私は自分の失言に気がついた。

 

や、やっば〜!つい口に出しちゃった!

でも仕方ないって!心の準備もできてないのにいきなりアクアが出てきたらこうなっちゃうって!

でも、やば〜!生アクアめっちゃイケメン!

事務所の宣材写真でどんな姿に成長してるかわかってたけど、いざ本物を見ると・・・うん、やっぱりうちの子かっこいいかも!流石私の息子!

・・・て、そうだった!とにかくなんとか誤魔化さないと!

 

 

 

「・・・何故俺の名前がわかった?」

 

アクアが私を睨みながら問いかける。

うう・・・不用意にアクアの名前を言っちゃったから完全に怪しまれてる・・・。

 

「ええっと・・・そう!ネットで見たの!」

 

「ネット?」

 

「そう!・・・今ガチ!私、あの番組のファンなんだー!」

 

よし、嘘は言ってない!

アクアは顎に手を置いて何か考えてる。アクアは私と違って頭良かったからなあ・・・。うう・・・考えてる顔も似合う・・・。

 

「あのー・・・七号ちゃーん、そろそろチェキ撮ってもよかと?」

 

それまで黙っていたさくらちゃんがカメラを掲げながら聞いてきた。

しまった!さくらちゃんがいた事忘れてた!

 

「あ、うん!待たせてごめんね、一号ちゃん!アクア、ポーズは指ハートでいい?こう、顎に指を置く感じ」

 

「あ、ああ・・・。いや、ポーズは片思いハートで頼む。俺が片思い側で」

 

「ええー!?そんな遠慮しなくていいよー!ほら、二人でハート作ろ!ハート!」

 

あ、また名前呼んじゃった。

まあでも一度呼んでるし、別にいいよね?

 

「はーい、じゃあ近寄ってー」

 

さくらちゃんがカメラを構える。

それに合わせてアクアに近寄る。

やばい・・・アクア背高っ!ルビーより少し高いくらいかな?線は細いけどがっしりしてるし、やっぱり男の子だな〜。そうだ、こっそりハグしちゃダメかな?事故に見せかければ一回くらい大丈夫だよね?・・・よし!

 

「はいチー──」

 

 

 

 

「無理です!こんなことできません!」

 

 

 

 

さくらちゃんがシャッターを切る直前、急に会場内に声が響き渡る。

今の声は・・・純子ちゃんだ。

 

声のした方を見ると何やら愛ちゃんと純子ちゃんがもめてるみたい。

 

「ステージの上からファンを魅了するのがアイドルです!これのどこにアイドルがあるんですか!!?」

 

そういうと純子ちゃんは楽屋の方に引っ込んでしまった。

 

「ちょっと!待ちなさいよ!」

 

愛ちゃんもそう言うと純子ちゃんを追いかけていなくなる。

会場内にざわざわとどよめきが広がっていった。

 

それを見た巽がわなわなと震えると、がっくりと肩を落とす。

その後、楽屋に向かうと会場内にアナウンスが響き渡った。

 

「えー、お越し頂いた皆様、誠に申し訳ございません。演者の一人が体調不良の為、少し早いですが本日のチェキ会はこれで終了とさせて頂きます。お渡ししたチェキ会の参加チケットですが、有効期限などはない為、そのままお持ち帰り頂き、次回ご利用ください。繰り返します。お越し頂いた──」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

突然、アイ似の子とは別のアイドルの声が聞こえたかと思うと、今度はチェキ会終了のアナウンスが流れた。

いったい何が起こっているんだ・・・。

目の前のアイ似の子が初対面のはずの俺の事を名前で呼んだ。

本人は今ガチを見ていたから知っている、と言っている・・・。彼女の顔からは嘘を言っている様には見えない。だが・・・正直話が出来過ぎている気がしてならない。

アイは嘘をつくのが得意だった。この偽物も得意な可能性は否めない。それに俺は彼女が本気で嘘をついたら、それを見破れる自信がない。数年一緒に暮らしても、彼女の事を何一つわかってやれなかったのが俺だ。彼女の言葉を全て疑っていくくらいじゃないと、彼女の本心は聞き出せない、そんな気がした。

・・・駄目だ、また目の前の少女をアイと同一に見てしまってる。ステージの上の彼女は、アイと全く別物に感じた。だが今目の前にいる少女は、違うと言い切れなかった。笑う時の口角の高さ、声、俺の名前を呼ぶ時のトーン、全てが自分の記憶と一致する気がする。

なんにせよ、情報が足りない。せっかく接触できたんだ、ここで逃すわけにはいかない。

 

「わわっ、三号ちゃんと四号ちゃん、どうしたんだろう・・・。七号ちゃん、早く行こう!」

 

「あ、うん」

 

「待ってくれ!」

 

他のメンバーに手を引かれて彼女がその場を離れようとする。

俺は思わず大声を出して、呼び止めていた。

 

「え?アクア?」

 

「すまない!だがもう少し時間をくれ!君に聞きたいことがあるんだ!」

 

「え?え?」

 

彼女の手を引いていた子が足を止めて、不思議そうに俺と彼女を見る。

俺はその機会を逃すまいと彼女に手を伸ばした。

 

 

 

「待ちんしゃい」

 

 

 

だが掴む直前で、俺の腕を別の太い腕が掴んだ。

掴んだ腕の主を見ると、先ほどチェキ会に並んでいたパンクロックファッションの太っている男だった。

 

「おまん、ここらで見ない顔やな。フランシュシュのライブは初めてけ?」

 

「何を・・・」

 

「アイドルのファンならなあ・・・、彼女らの嫌がる事はしなさんな!」

 

腕を掴む手に力が入る。こいつ・・・なんて握力だ・・・!

 

「一号ちゃん、七号ちゃん、今のうちに行ってけんな。ここは俺等がおさめるけん。ライブハウスに迷惑はかけんようにするから、ごめんなあ」

 

太ってる男とは別の、長身の痩せている男が現れ、俺の前に立ち塞がる。こいつもパンクロックファッション・・・、俺の腕を掴んでいる男の仲間か・・・!

 

「あ、あの!暴力は良くないと言いますか・・・!」

 

「一号ちゃんは優しかね〜。安心するとよ、俺等も暴力は嫌いやけん。一号ちゃん達が行ったらすぐ手を離すけんよ」

 

「わ、わかりました。絶対暴力駄目ですからね!・・・七号ちゃん、いこ!」

 

「う、うん」

 

そのまま二人が離れていく。

くっ、これじゃ追えないか。

 

「さて、お兄さんはちょっとあっちで俺等と話でもするけんね」

 

太っている男が俺の腕を離さずに、外に出る扉を指でさす。

どちらにしろ、掴まれたままじゃ何もできない。

数発殴られるのは覚悟しておくか・・・。

 

俺は降参して、彼等と一緒に外に出た。

 

 

 

・・・

 

 

 

外に出た俺は、そのままライブハウスの裏に長身の男と太ってる男に挟まれる形で連れ込まれた。

周りに人気はなく、薄暗い雰囲気が漂っている。

 

「さて、ここらならいいけんな」

 

そう言うと太ってる男が俺の腕を離す。幸い、跡にはなっていないみたいだ。

・・・さて、どうしようか。雨宮吾郎の時も不良に絡まれた経験はない。正直暴力には縁遠い人生を送ってきた。喧嘩になったら体格的にも勝てるとは思えない。

有金出せば手を引いてくれるか?最悪、怪我を負うにしても服で隠れる位置ならルビー達をごまかせる。殴られるならうまくやらなくては・・・。

 

「君、いくつけんな?」

 

「え?」

 

「歳や歳。歳いくつ?て聞いてるとよ」

 

「16・・・ですが」

 

「はー、若いけんね。ならあまりアイドルのイベントに行った事なかったのかもしれんけど、ああいうのは駄目とよ」

 

「そうやけんな。俺等はあくまで彼女等を応援する立場、アイドルとファン、線引きはしっかりせないけないとよ」

 

「俺等のマナーが悪いと彼女等の評判も悪くなるけんな」

 

「推し活は他人に迷惑にならん程度にする、これは当然の事やけん」

 

こ、こいつら・・・すごいまともだ・・・!!

見た目に反してファンの鑑か、てくらい弁えたファンだ・・・。

さっきまでの剣幕はどこへ行ったのか、優しげな笑顔で俺を嗜めるように二人とも喋っている。

グッズを大量に購入してたし、相当入れ込んでる厄介ファンかと思ったが・・・どうやら杞憂だったらしい。

 

「・・・すみませんでした。彼女が・・・七号さんが昔推していたアイドルにそっくりだったので気が動転してしまいまして・・・」

 

「ああ、そうだったとね。確かに七号の事、そう言う人多いやけんな」

 

「確か、亡くなったアイドルの・・・アイ、やったっけ?」

 

「ええ、アイです。十年前に亡くなったアイドルです」

 

「そっか・・・。確かに俺等も推しが亡くなったら、て思うと身震いするけんな、気持ちはわかるけん」

 

「気を病まずにな。彼女等を応援する事は俺等も大歓迎やけん、今日の事で嫌な思いをしたかもしれないやけどまた参加してくれな」

 

「ええ、また機会があえば是非」

 

そう言うと俺は彼等と別れた。

人は見かけによらない、改めて思い知った気分だ。

スマホを見ると知らない番号から何度も着信が来ていた。

折り返し掛けてみると数コールも鳴らずに相手が出る。

 

「あ、アクアくん!?やっと繋がった!今どこにいるとね!?」

 

「すみません、ライブハウスの裏口です。ちょっと外の空気を吸ってました」

 

「もう〜驚かさないでくれとよ。僕はまた倒れたんじゃないかと心配で心配で・・・」

 

「ご心配おかけしました。すぐ合流します」

 

通話を切ると俺は別のアプリを起動させる。

それが正常に稼働しているのを確認した俺は、スマホをポケットにしまい、犬走さん達との合流場所へと向かった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

チェキ会が終わった後、洋館に帰ってきた私達はいつもの地下室に集められていた。

横に並べられた椅子に座った私達は、さっきから誰も一言も発していない。

理由はわかっている。愛ちゃんと純子ちゃんの間の空気が明らかにピリピリしているからだ。

聞いた話だとさっきのチェキ会で、純子ちゃんがチェキを撮るのを拒否したらしい。こんなのアイドルの仕事じゃない、とお客さんの前で言って楽屋に引っ込んだとか。

 

「なんじゃい!今日のザマは!」

 

巽が地下室に勢いよく入ってきて、大声を上げる。

 

「俺がお前らにどれくらい失望したかわかるか?例えていうならな、あれだ!」

 

そこまで言うと私達を見渡す。

 

「・・・・・・・・・・・・こんぼけー!!」

 

 

そういうと巽は部屋を出て行った。滞在時間四十八秒。時間にして一分にも満たない。良い例えが思いつかなかったんだねー。

部屋がシーンと静まり返る。

静寂を破ったのは愛ちゃんだった。

 

「・・・自分が何をやったか、純子が一番わかってるはずよ、仕事の放棄はあんた一人の問題じゃない」

 

「あれが仕事だっていうんですか?」

 

「立派なね」

 

「・・・あんなハレンチな行為、わたしはしたくないです」

 

「いい?私達はまず、いかにファンに知ってもらえるか、身近な存在になれるかが大切なの」

 

「それです、昨日もデビューから一年だと自慢してましたが、ファンに媚びさえすれば実力が伴わなくてもいいと思ってるんですか?」

 

「はぁ?誰がそんなこと言った?喧嘩売ってんの?」

 

「そのへんにしとけよー」

 

「ファンの方との関係性を考えるべきといってるんです!」

 

「それがわかってないのはあんたでしょ!」

 

「ど、どやんすー!どやんすー!」

 

「おお、出たねー、さくらちゃんのどやんす」

 

「わたしと水野さんたちとではファンに支えられてるの意味が全く違うんです!アイドルはファンの善意に頼ってやるものではありません!」

 

「何時代遅れのプライドひけらかしてんのよ!」

 

「時代遅れはお互い様でしょう!」

 

「もうやめて!」

 

リリィちゃんの叫び声でまた部屋が静まり返る。

 

 

「・・・これから本当にアイドルやってくならあんたのその考えは邪魔になる」

 

「・・・ッ!」

 

愛ちゃんの言葉を聞いた純子ちゃんは、勢いよく立ち上がるとそのまま地下室を出て行った。

 

「・・・ちょっと言い過ぎじゃねえか?」

 

「・・・」

 

サキちゃんが嗜める様に愛ちゃんに声を掛ける。

けどそれには答えずに、愛ちゃんも部屋を出て行ってしまった。

 

「おい愛!・・・あのヤロー、シカトこきやがった」

 

「もうっ、アイちゃんも止めるの手伝ってよー!」

 

「えー、多分私が何言っても拗れてたと思うよ?自分で言うのもなんだけど私、喧嘩の原因に油を注ぐのは得意だけど逆は死ぬ程向いてなかったから」

 

「・・・確かにお前はトラブルを作る側やけんな。黙っといて正解かもしれん」

 

B小町の頃もこういうメンバー間の言い争い、しょっちゅう見たっけ。まあだいたい私が原因だったけど。

 

「とにかく、二人を追いかけるしかなかと!アイちゃんも手伝って!」

 

「はーい」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

さくらちゃんを追って玄関を出る。

下駄箱に愛ちゃんの靴は残っていた。ここまで遭遇しなかったから、多分ベランダあたりに残ってるんだろう。愛ちゃんはサキちゃん達に任せよう。

さて、純子ちゃんはどこに行ったんだろう?さくらちゃんは海の方を探してみる、て言ってたから私は違うところを探してみようかな。

今はお仕事が終わった後だから、普通の人間のように見えるメイクはそのままだ。これなら外に出ても周りから不審に思われる事はないだろう。

 

私は門を出ると海とは逆方向に向かって走り出そうとする。

 

 

 

 

 

だがその前に電柱の影から飛び出した人に腕を掴まれ、電柱の影に引き摺り込まれた。

 

 

 

 

 

「へ?」

 

「・・・」

 

思わず私の腕を掴んだ相手の顔を見る。そこには私がさっきまでライブハウスで話していた、私の最愛の人の一人が立っていた。

 

「・・・アクア?」

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

「すみません、車止めてもらえませんか?」

 

「アクアくんどうしたと?」

 

俺の言葉に車を運転していた犬走さんがその場で路駐する。

今俺たちはライブハウスから犬走さん達の勤める会社に車で向かっていた。

俺が荷物をその会社に置いてライブハウスに来たので、宿に向かう前に回収する為だ。

 

「ちょっとさっきのライブハウスに忘れ物をしてしまったみたいでして」

 

「何やってんだお前」

 

「すぐにUターンするとよ」

 

「いえ、二人に悪いので俺だけここで降ろしてください。すぐに回収して戻りますので」

 

「でも大丈夫とよ?さっきまで気分が悪かったんばい?」

 

「大丈夫です。さっきも言いましたけど、ちょっと人混みに酔ってしまっただけなので」

 

そう言うと俺は車から降りた。

 

「すみません、後で荷物だけ取りに伺います」

 

「・・・わかったばい。何かあったらすぐ呼んでな?」

 

犬走さん達の車が発進する。俺はそれを見送ってからスマホを取り出した。

今俺のスマホの画面にはこの周辺のマップが表示されており、その中のある一点が点滅していた。

 

「よし、ここから近いな」

 

俺はマップ上の光っている場所に向かって歩き出した。

 

 

・・・

 

 

マップを頼りに進むと老朽化した洋館にたどり着いた。

ところどころが錆びついており、人が住んでるようには見えない。

 

「本当にここか・・・?」

 

スマホの画面を見る。マップ上の点滅している位置は間違いなくこの洋館を指していた。

 

洋館の周囲をぐるりと回ってみると車庫が見つかった。そこには先程のライブハウスで見た黒いハイエースが納められていた。

 

「ビンゴ・・・!」

 

ナンバープレートも見て同じ車輌と確認を取る。

見たところ入口らしきところは一つだけ、正面の門だけだ。

 

俺は洋館の傍にあった電柱に隠れると、その門を監視することにした。

さっきのアイ似の少女は間違いなくここにいる。後は彼女が出てくるまで待つだけだ。

 

 

 

・・・

 

 

しばらくすると、さっきチェキ会で叫んでいた少女が飛び出してきた。そのまま海に向かって走っていく。あっという間に姿は見えなくなった。

その後すぐに、別の少女が飛び出した。あの子は確か・・・、アイとのチェキを撮ろうとしてくれた子か。

その子は少し迷った後に海側に向かって走り出した。すぐに姿が見えなくなる。

どうやら最初に飛び出した少女を探しているようだ。

それから少しして、再び門の中から誰か出てきた。

 

 

「・・・ッ!」

 

 

そこには彼女がいた。俺が探していた相手、アイによく似たフランシュシュのアイドル、七号だ。

七号は、彼女の前に出てきた二人の少女とは逆にこちらに向かって歩いてきた。

俺は電柱に隠れつつ、彼女の様子を盗み見る。

こちらに気づいた様子はない。俺は彼女が目の前を通り過ぎるタイミングで彼女の腕を掴んだ。

 

「へ?」

 

驚いた彼女が電柱に隠れていた俺の方を見る。

俺の顔を見た彼女は、目をパチパチさせると呟いた。

 

「・・・アクア?」

 

「・・・待ち伏せの様な真似をしてすまない、どうしても君と話がしたくてここまで来たんだ」

 

俺は彼女を怖がらせないよう、慎重に言葉を選びながら目的を伝える。

彼女はまだ目をパチパチとさせていて、目の前の光景が信じられないようだった。

・・・くそっ、またアイを思い出させる仕草を・・・。

駄目だ・・・認めよう。俺は彼女をアイだと認識している。いや、そうであってほしいと思ってしまっている。死んだはずのアイが生き返って目の前にいる、そんなありえないことを願っている。

・・・だがそれは"逃げ"だ。彼女を見殺しにした俺が、彼女の復讐から目を逸らそうとしている見苦しい幻想だ。心底自分が嫌になる。だってそれはこの期に及んでまだ俺が、自分の手を汚す事を躊躇っていることに他ならないのだから。

 

・・・先程から彼女の返答がない。やはり待ち伏せしたのは失敗だったか。・・・それも当然か。傍からみれば完全にストーカーだ。今日初めて会った相手が急に家まで押し寄せてきたら誰だって引く。むしろ恐怖を覚える筈だ。今だって実は怯えるあまり、声も出せないのかもしれない。

・・・彼女を怖がらせる為に、追ってきたわけじゃない。さっきまでの怒りが消え、罪悪感が膨らんでいく。咄嗟に彼女に謝ろうと口を開いた。だが俺が喋る前に、彼女がもう一方の手を俺の顔に伸ばしてきた。

 

「大丈夫?顔色悪いよ?」

 

頬に手を当てて心配そうに俺の顔を覗いてくる。彼女の掌はとても冷たかった。さっきまで氷を握っていたんじゃないかと思えるくらい冷たい。だが、俺を心配してくれてるのは確かだった。

 

「・・・いや、大丈夫だ」

 

「そ?良かった」

 

俺が返事をすると安心したのか、手が離れていく。頬を伝っていた冷たさがなくなり、つい名残惜しくなってその手を見てしまう。

・・・落ち着け。ここに来た目的を思い出せ。

 

「君に聞きたい事がある。君は・・・」

 

「あー、ごめん!私、実は急いでるの!この話はまた今度で─!」

 

七号が思い出したかのようにあたふたし出す。だが俺が手を掴んでいる為、逃げられない。

 

「少しでいい!話を聞いてくれ!」

 

「ホントは聞いてあげたいんだけど、私も人を追ってて───危ないっ!アクア!」

 

ドンッと胸を押される。思ったよりも勢いがあったのか、掴んでいた彼女の手を思わず離す。

 

その数秒後、俺がいた場所に物凄いスピードでトラックが突っ込んできた。

 

 

 

 

 

「・・・は?」

 

 

 

 

 

何が起きた?・・・俺がさっきまでいた場所にトラックが突っ込んできた。

どうして俺は免れた?・・・さっきまで話していた彼女が俺を突き飛ばしたからだ。

彼女はどこにいた?・・・俺を突き飛ばしたせいで彼女はバランスを欠いて、俺がさっきまでいた位置にいた。

彼女はどうなった?・・・俺の、・・・俺の目の前で彼女は・・・

 

 

 

トラックと衝突した。

 

 

 

時間が引き延ばされる感覚。彼女が轢かれてからまだ実際は一秒と経っていない。人は信じがたい事が起きた時、それを受け入れる事を先延ばしにする為に時間感覚を曖昧にすると言う。

俺は今まさにそれを身をもって体験していた。

永遠とも思える一秒。俺はトラックに轢かれて宙を舞う彼女を幻視した。

彼女の、アイと同じ、星の瞳が、空から、俺を見下ろしていた。

 

 

 

遅れてトラックのブレーキの音が聞こえてきた。時間が動き始めたことを自覚する。

トラックの運転手が中から出てくる。運転手はこっちを見た後、慌てて運転席に戻り、エンジンを掛けると逃げるように走り出した。

 

待てよ・・・。お前、アイを殺しておいて俺の前から逃げられると思っているのか・・・?

 

怒りで頭の中がぐちゃぐちゃになる。憎しみで腹わたが煮えくりかえる。走り去るトラックに追いつけるわけがないと頭で理解しつつも、身体は走り出そうと大きく息を吐く。

 

だが、その前に、

 

視界の端に轢かれた彼女を捕らえた。いっぱいに開かれた両の瞳には、さっきまで煌めいていた彼女を彼女たらしめている星がなかった。

脳内に、封印していた彼女の最初の終わりが映し出される。

幼いアクアを抱きしめて、少しずつ冷たくなっていくアイ。耳を当てた胸から聞こえる心音が、だんだんと小さくなっていくアイ。流れ出た血が床を濡らし、徐々に血溜まりを大きくしていくアイ。そして

 

 

 

それを前にして何もできず、無力に打ちひしがれながらアイを見る"雨宮吾郎"()

 

 

 

強烈な吐き気を覚えて、その場に胃の中のものをぶちまける。

もうトラックの事は頭になかった。あるのは自分への怒りと憎しみだけ。

誰が彼女を殺した?・・・俺だ。俺が彼女を追いかけなければ。俺が彼女にアイを重ねなければ。俺が呼び止めなければ。俺が。俺が。俺が。

 

よろよろと足を動かし、倒れているアイに近づく。

・・・まだ助かるかもしれない。もしかしたら当たりどころが良くて生きているかもしれない。そうだ、救急車を呼ぼう。いやまずは蘇生措置だ。・・・あれ?どっちが先だっけ?

・・・まあいいや、俺は医者だ。俺がアイを助ければいいんだ。何のために産婦人科になったんだ。アイの子供を取り上げるためだろう。

・・・あれ?おかしいな。何かがおかしい気がする。そうだ、とにかく彼女の傍へ行くんだ。

・・・胸に耳を当てる。心音、無し。手首に指を当てる。脈拍、無し。

 

 

 

「あ、ああ、あああああああああああああ!!!!」

 

 

どこから声が出てるのかわからない。喉に焼けるような熱を感じる。呼吸の仕方が思い出せない。視界の端から徐々に暗くなっていく。もう自分が何をしているのかわからない。ふと感じた浮遊感を最後に、プツンと電源が切れた音がした。

 

 

 




あ゛あ゛〜アクアきゅんの心情書くの捗るう゛う゛〜
いくら噛んでも味が出るキャラクター性・・・赤坂先生と横槍先生は天才ですね。
本来のプロットだとアイが轢かれるシーンはありませんでした。
ただふと、アクアの前でアイが轢かれたらアクアはどう思うだろう?そう考えた次第です。ここでオリチャーをひとつまみ。
この部分だけニ時間くらいですらすら書けました。他の部分は一週間弱。

相変わらず方言は適当なので、ここはつっこまないで貰えると助かります。多分関西弁とかも混じってます。

今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。
感想、高評価、誤字報告、トロコンの報告等お待ちしています!

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