推しの子 in SAGA   作:片倉の推しの子Bです

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長くなったのでやっぱり前中後編に分けます。
多分これ以上は分割しないはず・・・。

相変わらず投稿ペースが遅くてすみません。

あと一番星のスピカはとても良かったです。
ゴロさりはいいぞ。



第十四話 だってゾンビメンタル SAGA 中編

 





 

ぴえヨンコーチとの練習の後、洋館に戻ってきた私は皆に気づかれないように門をくぐった。

門番代わりのロメロちゃんが私の足音に気づいたのか、こちらに近寄ってくる。

 

「ロメロちゃん、しーっ・・・」

 

私が口元に指を当てて静かにするよう伝えるとロメロちゃんは理解したのか、か細く鳴くと門に戻っていった。

ロメロちゃんはやっぱり賢いですね。ゾンビに成り立ての頃、吠えられてからまだ少し苦手ですけど・・・。

 

ロメロちゃんを見送った私は、洋館の裏側に回る。そこには普段私達が寝泊まりしている洋館とは別の建物があった。

入口のところには、私が作った侵入防止の為のバリケードやトラテープが張り巡らされている。

私が生きた時代はデモ活動等が活発でしたので、こういった工作は手慣れたものだ。

 

入口から入らず、別館の更に裏手に回ると巧妙に隠された扉があった。

私は手慣れた仕草で扉を開けて、中に入る。

愛さんと喧嘩してからずっと、私はここで寝泊まりしていた。

ゾンビになってからずっと皆さんと同じ部屋に布団を敷いて寝てましたが・・・、一人で寝泊まりするのもゆっくり考え事ができて悪くなかったりします。

 

中に入る。誰もいないのでただいまは言わない。

しかし、誰もいないはずの場所に見慣れた人が立っていた。

夜中なのにサングラス、スーツの上着を肩に羽織り、胸からゲソを生やした人。

フランシュシュのプロデューサー、巽幸太郎さんだ。

 

「今日の秘密の特訓は終わったのか?」

 

「巽さん・・・。はい、ダンスの方はなんとかなりそうです」

 

「そうか。なら俺が毎日メイクしてやった甲斐もあったな」

 

巽さんは私が初めて抜け出した次の日から、理由を聞かずに毎日メイクをしてくれた。

おかげで私はコーチにゾンビだとばれずに今日まで指導を受けることができている。

 

「あいつらとはどうだ?あれから話はしたのか?」

 

「実はまだ・・・」

 

「そうか」

 

それだけいうと巽さんは黙ってしまった。

私も言葉が見つからず、二人の間を沈黙が支配する。

どうしましょう・・・巽さんと二人きりになると毎回緊張して喋ることができません。

でも私もコーチと日々話をして男性に対する苦手も少しは改善してるはず・・・!

ここは私から声をかけて・・・!

 

「あ、あの・・・どうしてここまでしてくれるのですか?私は・・・グループの和を乱しているのに・・・」

 

「今の時代のアイドルを取り巻く環境を知ってどう思った?」

 

巽さんは私の質問に答えずに、質問で返してきた。その意図が読めず、私は疑問符が頭に浮かぶ。巽さんは私が答えるのを待ってるようで私の事をじっと見つめている。

 

「えっと・・・正直驚きました」

 

「だろうな。お前の生きた時代から三十年、時代は大きく様変わりした」

 

「はい・・・。もはや私の憧れたアイドルはいない事に・・・正直落胆しました」

 

ぴえヨンコーチから聞いた話を思い出す。今の時代、私が憧れたアイドルはもう・・・。

 

「確かに、お前の時代にいたようなアイドルはいなくなった。だが変わったものばかりではない。

ファンに夢を与えたり、ダンスで笑顔になってもらいたい・・・。アイドルの本質は今も昔も同じだ。

もしも、アイドルになりたい志が低くなったと想っているのならそれは違う」

「・・・時代が変わり、求められるアイドル像が変わったんだ」

 

「いろんなものが昭和と違うのはわかります・・・。でもやっぱり私にはできないんですッ!」

 

思わず声を荒げる。

もうわかっている事とはいえ、何度も自分の根底にあるアイドルに対する憧れを否定されたくなかった。

 

「ならやらなければいい。ぴえヨンからアドバイスを貰ったのだろう?」

 

「えっ?」

 

も、もしかして秘密の特訓を見られていたのでしょうか?

 

「俺に隠し事など無駄だ。この伝説のアイドルプロデューサー、巽幸太郎に不可能はない。・・・ぴえヨンと話をして、お前は何か希望を見出したはずだ」

 

「・・・今の時代、アイドルはきゃらを作ってパフォーマンスを行なうと聞きました」

 

「ほう、それで?」

 

「私が私らしくあるために、昭和系アイドルというきゃらとして私は活動したい・・・!今の時代に迎合せず、昭和の時代に生まれたアイドルとして!この時代に爪痕を残したいんです!」

 

私は結局、私の知るアイドルとは全く違うこの時代に、昭和のアイドルがまだいることを、まだ終わっていないことを、証明したかったんだ。

私の言葉を聞いた巽プロデューサーの口元がふっ、と一瞬笑った気がした。

だがすぐにいつもの真顔に戻ると口を開いた。

 

「そうだ。愛には愛の、純子には純子の個性がある。お前らはゾンビィだがロボットではない。この時代に昭和アイドルの矜持を持って活動するその姿を、メンバーやファン達にみせてやれ!」

 

「・・・ッ」

 

「ただし、今それを個人でやるのは難しい。・・・ましてゾンビであるお前には頼れるものがない。その尖った個性をカバーするゾンビの仲間が必要だ」

「覚えておけ。フランシュシュは時代を超えて互いの想いを支え合うために存在する。心を開けば必ずあいつらはお前を助けにきてくれる。その時お前があいつらにしてやれることを考えろ」

 

互いの想いを支え合う仲間。私にとってそれはステージの上に立つ私をサポートしてくれる方達だった。でも今は、一緒にステージに立って、一緒にアイドルとして戦う人達がいる。

 

「明日の天気予報は晴れ後曇り、ところにより雷雨」

 

「へ?」

 

「佐賀ロックのステージは荒れる。・・・水野愛は野外ステージの落雷で死んだ」

 

「!!」

 

「・・・不安と戦っているのはお前だけじゃない。アイドルならばステージの上に立て、紺野純子!」

 

巽さんのサングラスの裏の瞳がキラリと光った気がした。

 

「覚悟が決まったらその箱を開けろ」

 

巽さんが指差した先には朝にはなかった箱が置いてあった。

 

「・・・それとドアはお前が直しておけ」

 

そういうと巽さんは私が塞いでおいた筈のドアから出て行った。

・・・あれ?あそこは私がバリケードで補強したはずの・・・。いつの間に壊されて・・・。えっ、この粉砕されたドア、もしかして私が直さないといけないのでしょうか・・・?えー・・・。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

佐賀ロック当日、私は西ノ浜海水浴場に来ていた。

ぴえヨンコーチから呼び出しを受けたからだ。

 

「明日は本番だね。当日は早く集まってストレッチしてから万全の状態で向かおうか」

 

そう言われたのが昨日の練習終わり。

最後まで私の身を案じてくれる事に、コーチにはいくら感謝してもし足りない。

ただいくら待ってもコーチは現れなかった。

・・・どうしましょう。このままだと私達の出番までに佐賀ロックの会場に着けなくなってしまいます。

コーチにはダンスレッスンをしてくれた恩もありますし、可能な限り待とうとは思ってましたが・・・。

もうこの時間だとストレッチの時間もそう取れない。

私は諦めてフランシュシュの皆さんと合流しようと砂浜に背を向ける。

 

「あれ?あんた、最近よくここでひよこの被り物被った人と何かやってた人?」

 

いざ走り出そうとした時に、急に知らないおじさんに話しかけられた。

 

「ひっ、・・・は、はい、そうですが・・・」

 

「ちょっと前にそのひよこ頭の人から、君が来たらこれ渡して欲しいて言われて受け取ったんだけど・・・」

 

そう言って、何やら封がされた便箋を渡された。表には『フランシュシュ四号へ』と書いてある。

これ・・・もしかしてコーチから?

私はおじさんにお礼を言うと、その便箋を開けた。

 

 

 

『やあ、突然いなくなってごめんネ。実は急遽仕事で呼び出されてネ、東京に帰らなくちゃならなくなったんだ。でも安心して欲しい、キミのダンスは前と比べて段違いに上手くなった。ボクが保証する。だからあとはキミの心次第だ。願わくばキミと、再び仕事で共演できる事を祈ってるヨ   コーチより』

 

 

 

私は最後まで読み終わると、その手紙を丁寧に便箋に戻した。便箋を大切に懐にしまう。しまった便箋から暖かいものを感じた気がした。

そうだったんですね・・・コーチ。あなたの想い、受け取りました・・・!

海を見る。太陽の光を反射した水平線はキラキラと輝いていて、とても綺麗だった。

どうか、海の向こうで見守っていてくださいコーチ・・・!

私はもう一度、フランシュシュのアイドルとして、ステージに立ちます。そしてまたいつか、あなたと共演を・・・。

私は練習の間、ずっと見てきた海に向かって最後に頭を下げると、フランシュシュの皆さんのいる洋館へと走り出した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

「やっぱり純子ちゃん、もう来んとかな・・・」

 

「そろそろ出ないと間に合わなくなっちゃうよー・・・」

 

もう出発しないと佐賀ロックの出番に間に合わなくなる。時間ギリギリまで待っても、純子ちゃんは出てこなかった。

幸太郎さんが時計をチラッと見る。

 

「・・・」

 

時刻を見て諦めたのか、無言で車のエンジンをかけ始めた。

 

「時間だ、乗れ」

 

「で、でも・・・」

 

「乗れ」

 

有無を言わさない一言。私達は目を見合わせると黙って車に乗り込んだ。

全員乗り込んだのを確認した幸太郎さんが車を発車させる。

私は窓から別館を見るが入口のドアが開く気配は相変わらずなかった。

 

「・・・」

 

運転席を見ると幸太郎さんがサングラス越しに私と同じく別館を見てる事に気がついた。

そっか、幸太郎さんもやっぱり純子ちゃんが出てくる事、期待してたんだ・・・。

 

車がゆっくりとスピードを上げ、洋館から離れていく。

洋館の姿が完全に車の背後に回ったところで・・・

 

「──待ってください!私も行きま──ぐえっ」

 

急に車の前に飛び出した純子ちゃんが幸太郎さんの運転してた車に撥ねられた。

 

えっ?・・・ええええええ!!?!?!?な、なんで洋館の方からじゃなくて前から!?ていうか今轢いて・・・!!?

 

車に勢いよくぶつかった衝撃で純子ちゃんが宙に浮かぶ。

そのまま数メートル先で勢いよく地面に叩きつけられた。

突然の出来事に何が起こったかわからず、皆無言になる。

だけど私は今の一連の流れにどこか既視感を覚えていた。

・・・あれ?今の、どこかで見たような・・・?

って、そんなこと考えてる場合じゃなかと!?

 

「じ、純子ちゃん!!」

 

幸太郎さんが止めた車から飛び出して純子ちゃんの元に行こうとする。

 

「手を出すな!」

 

だけど幸太郎さんの一言に、皆その場で立ち止まった。

思わず私は幸太郎さんに食い下がる。

 

「何でですか!?」

 

「立て、純子!お前はこんなところで負ける女じゃない!」

 

「てめえが撥ね飛ばしたんとやろが!」

 

サキちゃんのツッコミを尻目に、皆の視線が純子ちゃんに集まる。

地面に倒れている純子ちゃんはゆっくりと、だが着実に立ち上がっていく。

 

「私は・・・、私は・・・ッ!」

 

「純子ちゃん・・・」

 

完全に両足で立ち上がった純子ちゃんは私達を真っ直ぐに見据えると宣言した。

 

 

 

 

「私も行きます!だって・・・アイドルだから!私は昭和のアイドル紺野純子です!」

 

 

 

そこにはいつものおどおどした感じはなく、一人の昭和のアイドルが立っていた。

その言葉を皮切りに皆が純子ちゃんの元に駆け寄る。

 

「純子ちゃん!」「よしっ!よしっ!」「待ってたよー!」「あいっ」「ヴァゥア!」

 

 

やった!純子ちゃんが戻ってきてくれた!これでフランシュシュがまた全員揃ったけん!

やっぱり私はこのメンバーでアイドルをやりたい。このメンバーで佐賀ロックでライブをするんだ!

 

 

 

・・・

 

 

 

「いいの?あんたはあっちに行かなくて」

 

純子を囲んで喜んでいるさくら達を見ながら、私は車の座席に座っているアイに話しかけた。

 

「あはは、今回はいいかなー?」

 

アイはこちらを見ずに、窓からさくら達の様子を見ながら答える。

私はそれに気にせずに会話を続けた。

 

「結局、あんたの言った通り、純子は戻ってきたわね」

 

「でしょー?純子ちゃんも筋金入りのアイドルだからねー。目の前にステージに立てるチャンスがあったら逃げ出さないって思ってたんだー」

 

相変わらず呑気に笑う横顔を盗み見る。

私が原因とはいえ、純子が抜けていたらフランシュシュには亀裂が入ってたはずだ。

アイドルユニットがメンバー間の仲が理由で解散するなんてザラな事。事実、アイがいたB小町はメンバー間の入替は多い方だった。アイはこのユニットにそこまで思い入れはないんじゃないか、そんな事を考えた事もある。

けど・・・

 

「・・・」

 

その横顔には明らかに安堵が溢れていた。

純子が戻ってきた事でほっとしたような、いつもとは違う微かな笑顔だった。

アイはアイドルらしく完璧な笑顔をよくする。テレビに出た時も周囲が笑えば誰よりも嬉しそうに笑い、どのカメラもその魅力を捉えようとつい追ってしまっていた。

そんな彼女からは想像できないような笑みは、彼女の本心のように見えた。

 

「あんたって、意外と不器用よね」

 

「え?なんで?」

 

「・・・なんでもない。忘れて」

 

「???」

 

アイはこっちを見て不思議そうな顔をしている。

そこにはいつものアイがいた。

私は昨日のアイの言葉を思い出しつつ、もう少しだけあの笑顔の事は黙っていよう(独り占めしよう)と決めた。

いつも彼女に振り回されてるのだ。少しくらい・・・役得があってもいいでしょ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

佐賀ミュージックフェスティバル。

毎年佐賀市で開催されているロックを中心とした音楽イベントだ。

長いので佐賀の人には佐賀ロックと呼ばれていて、近年はロックバンドだけでなく、インディーズのバンドや地下アイドルが参加する事もある。

観光客がこのイベント目当てで来る事もあり、佐賀で最も注目されるイベントだと語るものも多い。

 

「いやぁ、ついに今年もこのイベントが来たけんね」

 

「フランシュシュがこの舞台に立つなんて、感慨深かね」

 

観客席にいた恰幅が良い男と、痩せぎすで背の高い男が楽しそうに喋っている。見た目は完全にデスメタルバンドのファンだが、彼等は今日フランシュシュ目当てで来た最古参とも呼べるファンだ。

 

「しかし、ちょっと気合入れすぎたけんな?フランシュシュの出番は最後の方なのにこんな早くに場所取りせんでも」

 

「こんなにでかいステージ、きっとあの子らにとっても初めてやけん。俺らみたいな馴染みある顔が見えとった方が少しは緊張せんですむけえな」

 

「それもそうやけんな。よし、今日も精一杯応援するばい!」

 

「おお!・・・しかし、今日はやけに人が多い気がするけんな。明らかにロックバンド目当てじゃないけ奴もちらほらおるし。他に有名なグループでも来とるんか・・・?」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「なに?東京からアイドルが来てる?」

 

「ええ、どうやらがばい有名なグループが来てるみたいとです」

 

少し後ろ側の席でカメラを持った男が二人、ステージを見ながら話している。

片方の男の首からは運営関係者の証である名札が下げられており、時折ステージに出る参加者を撮っていた。

佐賀で刊行している雑誌、サガジンの編集者である彼等は、佐賀ロックの記事を書く為にここまで来ていた。

 

「それはあいつの妹の・・・」

 

「アクアくんの妹さんじゃなかです。なんでもアイアンフリルいう今一番ノっとるアイドルとか」

 

「ふーん、知らん名前やけんな」

 

「大古場さん・・・、若者の流行は追えんと一気に置いてかれてしまうとよ」

 

「けっ、俺は昔気質の佐賀が好きだからいいんだよ」

 

そう言った大古場の頭の中では最近追いかけている佐賀のアイドルの顔が浮かんでいた。

彼女らにとって、これだけ大きなステージでのライブは初めてのはずだ。かかるプレッシャーも相当大きいはず。加えて東京から来たという有名なアイドル。

 

「ちっ、予報通り、雲行きも怪しくなってきやがった・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや、犬走。佐賀ロックの運営から渡された名札はどうした?」

 

「あー・・・実はアクアくんから控え室にいる妹さんに忘れ物を届けに行きたいから貸して欲しい、てさっき言われて・・・」

 

「それで貸したってのか?お前なあ・・・あの名札がねえと撮影は禁止なんだぞ?何しにきたんだよお前」

 

「いや、そこはもうしょうがないと割り切って七号ちゃんの応援するんで!大古場さんに撮影は任せまーす!」

 

「よし、運営に突き出してやる。ここにチケット買わずにタダ見しようとしてる奴がいるけえな!」

 

「じょ、冗談ですって、大古場さん・・・。すぐアクアくんも戻ってきますって!」

 

「お前・・・あいつを相手によくそんな事言えるけえな・・・。今のところあいつがすぐ来るって言ってすぐ来た事あったか?」

 

「・・・お、俺は信じとりますけえの!・・・あ、アクアくーん、早く帰ってきとってー!」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「これが佐賀ロックか。聞いてたより、大きなイベントなんだな」

 

「うへえ、これ見てくださいよ店長。今日の出演者一覧、ゴリゴリのロックバンドばっか。ああ、MEMちょ達、大丈夫かなー・・・」

 

「まあ元々、ロックバンドのイベントだったらしいからな。それが大きくなっていって、ロックバンド以外も出演するようになったらしい」

 

タオルを頭に巻いた男と糸目の小太りの男、そしてメガネをかけた男が観客席で話している。

全員一様に背中に『B小町しか勝たん!』と書かれた法被を羽織っており、手にはそれぞれルビー、かな、MEMちょの顔写真が貼られた団扇を持っていた。

 

「ああ、ここではルビちゃん達は完全にアウェイだ。だがここで観客の心を掴めばルビちゃん達、新B小町の活動もし易くなる。勝負どころ、てやつだ」

 

「うう・・・俺、今から緊張してきました」

 

「こういうアウェイの場所では俺たちみたいなファンの声援が大事になる、て店長が言うからわざわざ俺達全員で休みとって佐賀まで来たんだろ?今から緊張してどうすんだよ」

 

「そうだ、今から緊張する事はない。だが、今回のライブはかなり苦しいものになるだろうな。まさかあのアイアンフリルと同じイベントとは・・・」

 

「アイアンフリル・・・今絶好調のアイドルユニット。その名前には『アイドルだけど譲れない鋼鉄の意思を身に纏い歌い続ける』という熱い想いが込められている。特にセンターの詩織ちゃんは『鋼鉄の巨人』の異名を持ち、アイアンフリルを引っ張っている綺羅星のような存在だ」

 

「先輩・・・急にどうしたんですか。なんかバトル漫画によくいるデータキャラみたいになってますよ」

 

「アイアンフリルが凄いのは認める。けどなあ・・・やっぱりアイには一歩及ばないって感じがするんだよなあ。あの一番星のような輝きが・・・」

 

「店長〜またその話ですか?もう聞き飽きましたよ!」

 

「店長の目の前でアイドルを褒めるとすぐアイの話をするからな」

 

「いや、すまんすまん。つい口が勝手にな。・・・今日の俺はルビちゃん推しでここまで来たんだから切り替えないとな」

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

「「「ありがとうございましたー!」」」

 

三人で一斉に頭を下げてステージから捌ける。

私達がステージから見えなくなるまで、会場からは拍手と声援が鳴り響いていた。

 

ステージ脇の控え室まで戻ってきた私達は、一斉に顔を見合わせる。

 

 

「今日のライブ、かなり良かったよね!?」

 

「うん!お客さんの反応も上々だったし、明らかに私達の事、知らない人にもウケてたよー!」

 

「だよね、だよね!いやー、このまま全国に私達の名を轟かせちゃいますかー!」

 

「調子に乗らない。アイドルユニットの参加が珍しいから持て囃されただけかもしれないでしょ」

 

「またまたー。私、先輩がちゃっかり会場にファンサでウインクしてたの見たんだからー」

 

「ぐっ!?あれは『かなちゃんカワイイー!天才子役ー!』て言われたからよ!『元』がつかないのはかなり貴重な機会だったからつい嬉しくてやっちゃったっていうか・・・!!」

 

今日、私達B小町は先日タイアップした久中製薬の招待で佐賀ロックに出演していた。

まだまだ新米アイドルの私達にとって、佐賀は完全にアウェーだ。ましてや佐賀ロックに参加するのはほとんどロックバンドということもあって、お客さんもパンクでロックな見た目の人が多かった。

どうみてもアイドルに全く興味の無い人達の前でライブするのは・・・結構勇気いるかも・・・なんて思ってたのが十分程前。

結果的には佐賀での初ライブは十分成功と言える出来だった。

 

正直佐賀に行くのは怖かった。

この前の久中製薬との顔合わせのお仕事、そこでの数日間の記憶が私達にはない。

どうして覚えてないのか、あれからしばらく経っても未だにわからない。

でもライブができると聞いた時、私の中で不安よりも期待の方が勝っていた。

だから先輩とMEMちょ、ミヤコさん達を説得してここまで来た。

・・・ジャパンアイドルフェスでライブをしたら、私達のチャンネルの参加者はグッと増えた。

今回の佐賀ロックもお客さんの反応は良かったし、きっとB小町のファンになってくれる人も増えるはず・・・!

ママの・・・アイのようなアイドルになる為に、私は目の前のチャンスを必ずものにして見せるんだ!

 

 



「見つけた。あなた達がB小町ね」

 

急に名前を呼ばれた私達が振り向くとそこには一人の女の子がいた。

派手な衣装を着てるし、この人も出演者かな?

・・・ん!?ていうかこの人もしかして・・・!

 

「ア、アイアンフリルの詩織ちゃん!?うわー!!本物だー!可愛いー!」

 

「えっ!?ホントだー!生しおりんだー!」

 

「あら、私の事、知ってるの?」

 

アイアンフリルのセンター!今最も世間で注目されてるアイドル!

私の推しではないけれど、テレビやネットでもよく見かける有名人!

まさか東京から遠く離れた佐賀で会えるなんて!

MEMちょと一緒に興奮していると先輩が後ろからこっそり声を掛けてきた。

 

「いや、誰よ・・・」

 

 

先輩がぼそっと呟く。私とMEMちょは同時に振り返って先輩の方を見た。

 

「ええ〜!先輩しおりんのこと知らないの!?」

 

「アイアンフリルの現センター、この前発売した新アルバムもオリコンチャートで上位を取った、まさに今アイドル界で最も有名なアイドルだよ〜」

 

「いや、私はあんたら程アイドルオタクじゃないし・・・」

 

 

しおりんは私達の反応を見ると懐から何かを取り出し、そこにマジックで何か書き始めた。

そして書き終わったものを見て満足げな顔をすると、私たちに手渡してきた。

 

「ならこれはサービスよ。受け取りなさい」

 

手渡されたものを見てみる。

それはしおりんのサインが入ったアイアンフリルの最新アルバムだった。

さ、流石、大人気アイドル・・・!サインを書いて手渡すまでの流れが自然過ぎて普通に受け取ってしまった・・・!

 

「改めて初めまして!私はアイアンフリルの詩織よ!」

 

「は、初めまして!B小町の星野ルビーです!」

 

「・・・有馬かなです。初めましてこんにちわ」

 

「あはは・・・MEMちょでーす!」

 

「ええ!存じてるわ!十秒で泣ける元天才子役!有馬かな!」

 

「元は余計よ!元は!」

 

「そして、登録者三十七万人の大人気動画配信者、MEMちょ!」

 

「おおー、私、しおりんに認知されてる〜!ありがてぇ、ありがてえよお〜!」

 

「そして!・・・」

 

私をみたしおりんがそこで言葉を区切る。

そのままフリーズしたかのように動きが止まった。

あ、あれ?私は・・・?

しばらくの間私達の間に沈黙が訪れる。

 

「・・・ジャパンアイドルフェスに颯爽と現れた彗星、星野ルビー!」

 

たっぷり数十秒経った後、ようやく先を告げた。

・・・この人、絶対私の事知らなくて誤魔化したー!

 

「まあ当然の反応よね。私達、まだ今日でライブ二回目だし」

 

「そうだよ〜、ルビーは芸歴もアイドルが初なんだからしょうがないって」

 

「キニシテナイヨ、ホントダヨ」

 

落ち込む私に先輩とMEMちょの励ましが別の意味で刺さった。

うう・・・、フリルちゃんの時と同じ事を言われてしまった・・・。ミヤエもーん!私も早くもっとアイドルとしての実績が欲しいよー!

 

「こほんっ、気を取り直して・・・。あなた達!アイアンフリルに入りなさい!」

 

「えっ、ええ〜!!!!?!?!」

 

アイアンフリルへの勧誘!?なんで!?

 

「いや、いきなりきて何言ってるのあんた?」

 

「あなた達は優秀よ、才能がある!アイアンフリルでもやっていけるわ!」

 

「あ?何こいつ、私の言葉聞こえてないの?」

 

「我が強いタイプだね〜」

 

 

先輩とMEMちょの言葉も気にせず、目を輝かせて話を続ける。

 

「あなた達が入れば、アイアンフリルはより一層高みへいける!もちろん、あなた達自身のキャリアにもなる!まさしくwin-winの関係、て訳なのよ!」

 

「・・・はあ、だいたいわたし達がこの場でどうこう言おうが事務所の移動なんてそんな簡単にできる訳ないでしょうが」

 

「あら?そうとは限らないわよ」

 

「うわっ、急に反応するんじゃないわよ!」

 

しおりんが身体ごと話の矛先を先輩の方に向けた。

 

「私達の事務所は、アイアンフリルを要する大手の芸能事務所。業界内でもそれなりの発言権を持ってるわ!だから貴方達が一言、『素敵!私もアイアンフリルに入れて!』と言ってくれればすぐに移籍させてあげるわ!」

 

「誰が言うか、そんな事!」

 

先輩がヒートアップしていくがしおりんは全く気にしていない。

この二人、もしかして相性が悪いのかも・・・。

 

「・・・勘違いしないで欲しいのだけど、私は誰彼構わず声をかける訳じゃないわ!ちゃんと私が一緒にアイドル活動したいと思った相手だけ!あなた達とならば、きっと高みに進める・・・そう感じたからこその提案よ!」

 

私たちをまっすぐ見つめるその眼からは、とても真剣なものを感じた。

 

「ふん、事務所の力を使えば私たちの意見なんて聞かなくても引き抜けるんでしょ?随分と回りくどい手口を使うのね」

 

「当たり前でしょ?無理矢理移籍させても続ける事なんてできないわ。アイドルはそんなに甘くない。自分の意志でチャンスを掴んだものだけが高みに行けるのよ!」

 

しおりんは先輩の嫌味を意に介さず、まっすぐ言葉を返す。

 

 

「芸能界にいる以上、私はあなた達を対等な相手としてみるわ。私はあくまで手を差し出すだけ・・・。この手を取るかどうかはあなた達自身の意志で決めるべきなのよ」

 

しおりんの言葉には誠実さがあった。決して嘘ではない、心から私達に期待してくれてるからこの手を差し出してくれてるんだ。

先輩もMEMちょも私を見ている。

二人は私の返事を待ってくれてるみたい。

 

「・・・」

 

私は二人に視線を返した後、答えを言おうと口を開いた。

 

「すみませーん。アイアンフリルの皆さん、そろそろ出番ですので、準備お願いしまーす!」

 

私が言う前に、控え室の扉が開きスタッフの人が現れる。

どうやら、私達の次にやっていたバンドの演奏が終わったみたい。アイアンフリルの出番は次のようだ。

 

「あら?もうそんな時間?仕方ないわね。あなた達!今日のアイアンフリルのライブを見ていきなさい!そして見た上で、先程の答えをちょうだい!」

 

しおりんは最後に私の目を見る。

 

「良い返事を期待するわ!」

 

そういうとスカートを翻して、去っていった。

 

 

 

「あいつ、言いたいことだけ言って帰ったわね・・・」

 

「嵐のような人だったねぇ〜」

 

疲れたー、と先輩とMEMちょがため息をつく。

 

「ルビー、あまりしおりんの言った事気にしなくていいと思うよ?社長はルビーの親なわけだし・・・」

 

「あ、うん。私も別に移籍するつもりはないよ?ミヤコさんもいるし、苺プロのアイドル部門が復活した今、アイみたいなアイドルを目指すならB小町以外考えられないし!ただしおりんのテレビとのギャップに驚いちゃって」

 

「ああ・・・確かに。しおりんてテレビや配信だとしっかりしているイメージあるよね〜」

 

「そうそう、だから今日のしおりんは強引だったからびっくりしちゃった」

 

「ふーん。案外さっきのが本性なんじゃない?テレビの前では猫被ってるのなんて、別に芸能界じゃ珍しい事じゃないでしょ」

 

「あ、確かに!先輩もそうだしね!」

 

「あ?三枚に卸すぞコラ・・・」

 

先輩を揶揄いながら、私は考えていた。

最後、しおりんは明らかに私を見ていた。

何か私に言いたいことがあったのかな?

 

 

 

 

「で、この後どうする?」

 

「え?アイアンフリルのライブ見ないの?」

 

「どうせ移籍しないのなら別に見なくてもいいでしょ。あたし、もうクタクタなんだけど」

 

「まあまあ、アイアンフリルのライブチケットて結構レアなんだよ?それに他のロックバンドの演奏を生で聴く機会なんて今の私達にはそうそうないんだし」

 

「そうだよ!せっかくだし最後まで見ていこうよー!」

 

「はぁ・・・わかったわよ。・・・それにしてもアイツはどこいったのよ?私達のライブ中、客席にもいなかったわよね」

 

「お兄ちゃん?今日佐賀ロックには来るって言ってたけど」

 

「アクたんの事だし、後ろの方で腕組んで見てたんじゃない?後方待機彼氏面・・・的な!」

 

「あははー、それ似合うー!やってそうー!」

 

「ま、どっちにしろあとで問い詰めてやるわ。見てなかったらただじゃおかないんだから・・・!」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「珍しいじゃん、詩織があんなに入れ込むなんて」

 

「あら?そんなに入れ込んでるように見えたかしら?」

 

ルビー達の元から離れ、ステージ脇で待機していたアイアンフリルの詩織の元にショートヘアの小柄な子が話しかけてきた。

詩織と同じアイアンフリルのメンバー、ユイだ。

 

「入れ込んでるでしょ?わざわざ新人アイドルに挨拶に行くなんて、普段ならしないじゃない。よっぽどさっきのライブに光るものがあったのかしら?」

 

「・・・ふんっ、そんなんじゃないわ。ただあの子達がB小町を名乗る以上、アイアンフリルのセンターである私が挨拶しに行くのは当然でしょ」

 

「確かにアイアンフリルとB小町は昔からいろいろと比べられてたけどさー。あの子達は一度解散した後、リニューアルしたB小町でしょ?もしかしたら昔の事なんて知らないんじゃないー?」

 

「それならそれで構わない。この後の私達のライブであの子達に実力差を見せつけてやるだけよ」

 

「はいはい。で、目ぼしい子はいたのー?」

 

「・・・これは私の勘だけどあの星野ルビー、て子はアイドルとして特別な何かを感じる。それが一体なんなのか、まだわからないけど・・・」

 

「出た出た、詩織の勘。いい加減にその直感で行動するの辞めた方がいいと思うよ?」

 

「うっさい、さっさと準備するわよ!」

 

そう言うと詩織達がステージへと向かう。

そこには先程までのふざけていた彼女らの面影はなく、二人のアイドルがいた。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「だーっ、結局時間ギリギリの到着になったじゃろがい!」

 

「お前が純子轢いたせいでもあるやろが!」

 

「急に飛び出したのが悪いんですぅ!ゾンビに道路交通法は適用されないんですぅ!」

 

「グラサンてめえ!こういう時だけ調子の良いこと言いよってからに・・・!!」

 

そんなやり取りをしている間に私達を乗せたバンが駐車場に着いた。

到着と同時に巽が運転席から飛び出す。

 

「おいっ、お前ら!俺は受付に行ってくる!そこのケースに今日の衣装が入っているから先に控え室で着替えて来んかーい!」

 

巽はそう言うと、返事も聞かずに走っていった。

 

「あのヤロー・・・逃げやがった。・・・衣装てこれつか?」

 

「あ、はい。巽さんが以前そのケースに入ってると言ってました」

 

サキちゃんが手にしたケースは同じものが他に7つあった。これって・・・

 

「このケース・・・私達と同じ数だけ用意されてる・・・」

 

「最初から私達がまた仲間に戻れるとわかってたのでしょうか・・・」

 

「・・・つまりあいつには、この結果はお見通しだったってわけね」

 

私達の衣装はちゃんと人数分用意されていた。ケースには名前も入っていて、開けてみると中には新品の衣装が綺麗に折り畳まれていた。

広げてみるとそれぞれで衣装のサイズも違うみたいで、私達一人一人に合わせて用意したのがわかった。

・・・巽はきっと、私達がまた八人に戻れるって信じていたんだろうな。ほんと、素直じゃないんだから。

 

「あれ?もしかして巽が逃げたの、照れ隠しだったり?」

 

「ふふっ、男というのは女の前でいつの世もカッコつけるのが常でありんすね」

 

「ヴァウ?」

 

「リリィ知ってる!ツンデレってやつでしょ?」

 

「へっ、粋な事してくれるじゃねーかグラサンのやつ・・・おっしゃあー!とっとと着替えようぜー!」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

スタッフの人に教えてもらった控え室に入る。

どうやら他の参加者はちょうど出払ってるみたい。

私達は持ってきたケースに入っている衣装に袖を通すと、姿見の前に立った。

 

「おおっ・・・ばり決まっとるやんかー!」

 

「見てみてー!リリィ、お姫様みたい!」

 

「これが今の時代のお座敷での着物でありんすか。随分丈が短いでありんすなあ」

 

白い半袖のシャツに赤いチェック柄の上着、スカートの先には細かなフリルもついている。

首元のリボンは一人一人違う色になっていて私のは水色だった。私の生前の衣装に寄せてくれたのかな?

 

「うん、動きやすい。これなら今日のダンスも問題ないかな」

 

「この衣装・・・可愛いですね。それに細かな部分もフリルが拵えていてこだわりが感じられます」

 

「この靴も初めて履いた靴なのにすごいピッタリ!ピカピカに磨いてあるし、とっても可愛い!」

 

姿見の前で一回転すると、スカートがふわりと浮き上がる。

うんうん、やっぱりアイドルはこういうキラキラした衣装だよね!

 

「・・・これ全部幸太郎さんが作ってくれたんだよね。曲だけじゃなくて、衣装も・・・」

 

さくらちゃんの言葉に、はしゃいでいた皆が一斉に静まる。

 

「そういえば私が夜レッスンしてる時も、あいつの部屋、遅い時間まで電気が点いてた。今思うと、夜更かしして衣装を作っていたのかも」

 

「いつもサングラスをしてるの不思議だったけど、もしかして目のクマを隠すためだったりするのかな?」

 

 

そっか・・・。これまでも巽が曲を作っていたり、仕事を取ってきたりしてきてくれたのは知ってたけど、私達が知らないところでもっとフォローしてくれてるのかも。

 

「・・・私は幸太郎さんの期待に応えたい。ステージの上で立派なパフォーマンスを見せて、恩返しがしたい!」

 

さくらちゃんの言葉に皆が頷く。

ま、実際、住むところとかごはんも用意してもらってるしね。

フランシュシュ初の野外ステージ、いっちょ頑張っちゃいますかー!

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「よし、着替えは済んでいるな」

 

巽が少し遅れて合流する。

私達はもう全員着替え終えて、いつでもステージに出られる状態だ。

 

「このあとは、スタッフに呼ばれるまで待機だ。まだしばらく出番は先だから、今のうちに他の参加者のステージを見ておけ」

「だがその前に・・・」

 

巽がちょいちょいと私達を手招く。

 

「・・・今日お前らは初めて大舞台に立つ。やがてステージが始まれば俺はもう何もしてやれん。・・・今のお前らの顔をよーく見せてくれ」

 

巽・・・。全く普段はふざけてる癖に、カッコつける時はしっかりカッコつけるんだから。

私達は顔を見合わせると一斉に巽のそばに集まった。それを見た巽が微笑む・・・と同時に懐からいきなりスプレーを取り出して私達に向けて噴射し始めた。

 

「うぇーい!」

 

「!?げほっ、ごほっ!」

 

ちょっと!何これ!?

真正面からスプレーをかけられて思わず咳き込む。巽はそんな私達を気にせずにかけ続けた。

 

「ゾンビ用の超強力防水スプレーじゃい!これで雨が降っても大じょーぶ!そこにまだまだあるから各自よーくスプレーしとけ!」

 

「ゾンビ用・・・?」

 

「ていうか靴用て書いてあるじゃん!これただの靴用の防水スプレーでしょー!」

 

やっぱり巽は巽だった。

せっかく見直しかけたのにー。ま、こういうとこも巽らしいか。

巽は再び私達からの評価を下げつつ、スプレーを振り撒いていた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「あ、いたいた。フランシュシュのマネージャーさーん、ステージの注意事項について確認したい事があるのでこちらに来て頂けませんか?」

 

私達が残ったスプレーを掛け合っていると、佐賀ロックのスタッフさんが声を掛けてきた。

どうやら巽を呼んでいるらしい。

 

「巽ー、呼ばれてるよー?」

 

「む、先程聞いた気がするが・・・。わかった、すぐに行く。お前達、しっかりスプレーしとけよ」

 

「すみません、すぐに済ませますので・・・。こっちです」

 

巽が部屋から出ていく。

スプレーは一通り掛け終わった。

私達の出番はまだしばらく先だ。

このままここにいてもいいけど、せっかくメイクもしてもらったし、外の空気でも吸ってこようかな?

そんなことを思っていると、先に控え室の外に出ていたサキちゃんが駆け込んできた。

 

「愛!この後、アイアンフリルのステージだってよ!」

 

アイアンフリルって・・・確か愛ちゃんが昔所属していたアイドルユニット!

 

「そういえば佐賀ロックに出るって、ネットに書いてあったけん・・・」

 

「アイアンフリル・・・今の時代のアイドルグループですか・・・」

 

「ね、皆。せっかくだし、敵情視察と行かない?」

 

「わっちも賛成でありんす。まだわっちは他のあいどるのらいぶを見た事がないでありんすし」

 

「リリィも行くー!」

 

「ヴァウァゥ!」

 

控え室を出てステージの方を見る。

うーん・・・ここからだとステージまで距離があるから上手く見えないなぁ。

それに客席の前の方、明らかに人がたくさん集中している。皆お揃いの法被を着て、サイリウムを持ってアイアンフリルを応援していた。

 

「おお・・・なんか前の方に気合入った奴らがおるけん・・・!同じ特攻服・・・て事はアイツら、どっかのチームけ!?」

 

「いや、ちげーよ」

 

リリィちゃんが呆れた声でサキちゃんにツッコんでいる。

 

「サキちゃん、あれはファンだよ」

 

「ファン?」

 

「うん、ファンの人が集まって、同じ服を着て応援するけん。ああすれば応援してるアイドルに自分をアピールできるけんね」

 

「あの警察が持ってそうな誘導灯もか?」

 

「あれはサイリウム。推し・・・えっと自分の好きなアイドルと同じ色のを振ってあなたのファンですよー、てアピールするけん」

 

「へー、今の時代の特攻服や誘導灯にはそういう意味もあるけんなー。まっ、気合い入れるために着るって意味では同じやけんな」

 

「うーん・・・なんか微妙にあってない気がする・・・」

 

よくわかってないサキちゃんにさくらちゃんが頭を悩ませながら説明していた。

私が生きてた頃も、推しの名前が入った法被着てサイリウムを振ってるファンの人はたくさんいたなー。

 

「あそこに立っていたんですね」

 

「ええ」

 

少し離れた場所で、愛ちゃんと純子ちゃんがアイアンフリルのステージを見ながら話していた。

 

「愛さん・・・」

 

「大丈夫。私がフォローする」

 

愛ちゃんは明るく振る舞ってるように見せてるけど、手の震えは隠せてなかった。

 

「結局新曲のダンスパート、合わせでの練習は数回しかできなかった。本番は私がリードするから純子はついてきて」

 

「・・・わかりました」

 

「大丈夫、絶対上手くいく。・・・一緒に頑張ろう」

 

愛ちゃんはそう言うと控え室に戻っていった。

愛ちゃんがいなくなったのを見計らって純子ちゃんのそばにいく。

 

「本番、大丈夫そう?」

 

「アイさん・・・。はい、ダンスの振りや歌詞は問題ないです。ただ愛さんも言ってましたけど合わせがあまりできなかったので・・・」

 

「オッケー、そこは私の方でもフォローできるようにするね」

 

「はい、お願いします」

 

歌割りやダンスのパートについて、簡単に擦り合わせる。

一応私も、練習の時純子ちゃんのパートを代わりにやってたからフォローはできそうだ。

となると問題は・・・

 

「ねえ、純子ちゃん」

 

「何でしょうか?」

 

「お願いがあるんだけど・・・」

 

 

 

・・・

 

 

 

「あ、ここです。この部屋です」

 

呼んだ男を部屋に入れ、俺も中に入って鍵を閉める。

これでしばらくは誰の邪魔も入らない。

やはり犬林さんから名札を借りてスタッフのふりをしたのは正解だった。おかげで怪しまれずに控え室ではりこむこともできたしな。

 

 

「すみません、手狭な部屋で。変更点自体は大したものじゃないんですが、守秘義務もあるので他の方に聞かれるわけにもいかないので・・・」

 

「いえ、お構いなく」

 

 

「ありがとうございます。では手短に」

 

 

 

 

「───お前が巽幸太郎だな?」

 

 

 

俺は目の前にいるアイをゾンビにした男の名前を告げた。

 




B小町とフランシュシュのファンは出したかったから満足。

次からライブシーン。年内にはゾンビメンタルサガ編は終わる・・・はず。

引き続き書いていきますので、是非高評価、感想等よろしくお願いします!

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