推しの子 in SAGA   作:片倉の推しの子Bです

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また間が空いてしまいました・・・。
続きを待ってくれてるコメント大変ありがとうございます。



第十七話 初コラボ企画だよ SAGA

 

・・・

 

 

ぶおぉー!ぶおぉー!

 

いつもの地下室に集められた私達の前で、巽が法螺貝を吹いていた。

 

「・・・」

 

だけど私達の中で特に驚いたり、動揺してる人はいない。

むしろまたか・・・みたいな目がほとんどだ。

まあ毎度毎度呼び出されて奇怪な行動を見せられてたら、飽きが来るよね。

 

「・・・おーはよーござー」

 

巽も私達が何の反応もしないとわかると、何事もなかったかのように法螺貝をしまい、いつものトーンで喋り始めた。

 

「おーはよーござー」

 

「お、おはようございます!」「・・・おはようございます」「おはよー!」

 

「はい改めまして・・・あれから少し日が経ちましたがフランシュシュ、佐賀ロックお疲れ様です」

 

「えへへ・・・」

 

「どうだった?純子、改めて佐賀ロック振り返って」

 

「ま、まあその、可能性みたいなものは少し・・・」

 

「おおっ、そうじゃろそうじゃろ〜!お前ら今、ノリに乗りまくっとるからのー!」

 

純子ちゃんは満更でもない感じで、恥ずかしそうに頬を赤らめている。

佐賀ロックから、純子ちゃんは変わった。

ダンスもキレが良くなったし、フランシュシュの活動に積極的に意見を出すようになった。

チェキイベントについても、愛ちゃんや他のメンバーと話し合ってサイン入りブロマイドを配る事で決着した。

うんうん、ここにはいろいろなアイドルがいるんだし、ファンサの方法もいろいろあってもいいよね。

 

「どうだ?さくら、乗りまくっとるか?ん?」

 

「え?あ、えっと・・・調子に乗ったらいかんって──」

 

「──乗って来んかいっ、こらー!!調子に乗ったら調子に乗って天狗にならんかい!押し寄せるこのビッグウェーブに!!」

 

「ええ・・・」

 

相変わらず、巽はさくらちゃんにしつこく絡みにいっている。

あれ?そういえば巽のいつものこの流れ、さくらちゃんに対してやる事が多いような・・・?

 

「どうだリリィ、お前も乗りまくってその星、でっかくしとるか?」

 

「しないもん!」

 

「えー?なんで?でっかくしないの?なんで?」

 

「いー!」

 

矛先が今度はリリィちゃんに変わる。

対してリリィちゃんは身体をよじらせて、嫌そうにしていた。

・・・側から見れば小さい子にセクハラをかましてる悪い大人にしか見えないなあ。

 

「巽ー、リリィちゃん嫌がってるからやめなよ?」

 

見かねた私が巽とリリィちゃんの間に身体を割り込ませると、巽は真顔になった後

 

「・・・てへぺろ⭐︎」

 

と言ってわざとらしく舌を出した。

そろそろ目潰しくらいは選択肢に入れてもいいかもしれない。

 

「いいか?お前らゾンビィは奇跡だろうがなんだろうがガンガン利用するしかない!ここからは佐賀の子供からお年寄りまで、誰もが知ってる存在を目指す!地域イベント、ミニライブ、ローカル番組、できることは片っ端から何でもやるぞ!

今がお前らの攻め時なんじゃい!ぶおぉー!」

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

それからと言うもの、巽は宣言通り色々な仕事を取ってきた。

イオンモール佐賀大和でのリベンジミニライブ。

嬉野総合運動公園、通称みゆき公園での盆踊り。

ゆるキャラが参加するイベントでのゲスト出演等・・・。

私達はご当地アイドルとして、様々なイベントに参加した。

何だかんだでよく来てくれるファンも固定化されてきて、徐々に私たちの知名度は上がっていった。

毎日レッスンと仕事で、他に何かやる暇もないくらいに忙しかったけど、私達の活動はとっても充実していた。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

「はい、あざーす!」

 

そんなもはや仕事があるのが日常になってきたある日、私達はまた地下室に集められていた。

 

「お、おはようございます!」「おーっす」「おはようでありんす」

 

「フランシュシュさん・・・最近調子がいいみたいじゃないですかー?もしかしてー、佐賀のアイドルブームを切り開いちゃったりとかー、考えてたりするんですかー?・・・のぉアイ?」

 

おっ、今日は私かー。

巽のいつものうざ絡み。

仕事の前にはほぼ毎回、ランダムに誰かに当たるこれももはや、私達の日常の一つだ。

 

「おかげさまでねー。毎日大忙しで、私達も売れてきたんだなーて自覚できるようになってきたねー」

 

「きゃー、クールな対応流石でちゅねー。なら次は、世界を目指して、ワールドデビューと行きまちゅかー」

 

「んー?どゆこと?」

 

「・・・ふっふっふ。はいっ、ドンッ!」

 

巽がホワイトボードを叩くと裏返って文字が書かれた面が現れる。

そこには

 

『フランシュシュ全国デビュー!』

 

と大きく書かれていた。

全国デビュー?

 

「な、な、な・・・まさかついに全国制覇しやんと佐賀を飛び出す時が来たとや!?」

 

「まだ佐賀も制覇してねーよ」

 

サキちゃんが勢いよく席を立って前のめりになるのに対し、リリィちゃんが小声で突っ込む。

まあ確かに。

私達も仕事が増えたとはいえ、まだまだご当地アイドルの範疇だよねー。

 

「も、もしかしてこの前の佐賀ロックを見た海外の偉い人が私達に目をつけて・・・!」

 

「いや違う、調子に乗るな」

 

「な、なんやとー!?幸太郎さんが天狗になれゆーたじゃないですかー!?」

 

「んなもん、その場のノリに決まっとるじゃろがーい!そんなんじゃビッグウェーブに乗れてもすぐ振り落とされてサメの腹の中じゃーい!」

 

また巽が訳わからないことを言い始めた。

 

「いいか!?ゾンビィは決してサメとは相容れない!古来より、同じB級映画的にサメとゾンビィは水と油、塩と砂糖、鰤とハマチ・・・」

 

「最後の方は違うような・・・」

 

「まともに聞いたって無駄よ。どうせいつも通り適当に喋ってるだけでしょ」

 

「つまりぃ!お前達は波に乗るサメではなく、波に抗うゾンビィであれ!と言うことだ!」

 

「めちゃくちゃ言いよるなー」

 

「ぞんびと言うものはわっちの考えが及ばんものなんでありんすなぁ」

 

「巽の言葉はゆぎりんも話半分に聞いた方がいいってリリィは思うな⭐︎」

 

「ヴァウ!」

 

「うーん、で、実際全国デビューってなにするの?テレビCMには出たよね?私達」

 

私が皆の疑問を代表して口に出す。

すると巽はサングラスをくいっと指で押すと、

 

「聞いて驚け・・・なんとぉ!フランシュシュの動画サイトでの全国配信が決まったんじゃい!」

 

自信たっぷりにそう告げた。

 

「え、ええ〜!?」

 

「どうが・・・はいしん?お茶の間でのテレビ番組に出演する・・・ということでしょうか?」

 

「ううん、この場合は私達の動画を撮って・・・それをインターネット上で配信するんだと思う」

 

「わぁ!リリィも昔、よく動画撮ったよー!ドラマに出演するキャストの皆で、簡単な自己紹介をするの!」

 

「私も昔、社長の方針でリスナーの皆の質問に答えるコーナーとかやったなー」

 

「──今の時代、大勢の人の目を惹きたいアイドルにとってSNS上でバズることは必須とも言える。そして、SNS上でバズり易いコンテンツは複数あれど、手っ取り早くインプレッションを稼げるもの・・・それが動画コンテンツだ!」

 

「確かに、動画はバズりやすいけど、それはあくまで知名度がある前提の話。私達みたいなご当地アイドルじゃそんな効果は見込めないわ」

 

「バズるのってそんな大変なの?」

 

「ええ。私達みたいな無名のアイドルじゃ、動画をネットにあげても数百・・・ううん数十再生いけばいいほうだろうし。強いていえば・・・有名な動画配信者とのコネとかあれば話は別だけど・・・」

 

「・・・ふっふっふ、聞いて驚くがいい。既に俺はこの事態を見越して、とある有名動画配信者にコラボの打診をしていた・・・。そして、今日!晴れてコラボ先から正式な了承の返事を貰ったのだ!」

 

「へー、誰とのコラボが決まったの?」

 

「ふっ、いいか・・・?お前ら相手の名前を聞いてビビって腰抜かすなよ・・・?」

 

「・・・前にもあったやけんなこの流れ」

 

「なんかデジャヴー」

 

 

 

 

「相手はお前らもよく知る筋肉系ユーチューバー、ぴえヨンさんじゃーい!」

 

ぴえヨン・・・て確か、ドライブイン鳥のCM撮影した時に一緒に出演してた・・・あのひよこの頭被ってた人?

あーそういえば、年収一億って言ってたもんねー。

 

「あー?あのコッコさんのパクリつか?」

 

サキちゃんがあからさまに嫌そうな顔をする。

そういえばサキちゃんは、同じく撮影で一緒になったドライブイン鳥のマスコットキャラクター、コッコくんのファンなんだっけ。

コッコくんも対抗意識バリバリだったし、サキちゃんもぴえヨンには思うところがあるみたい。

 

「・・・サキさん、今のは聞き捨てなりません」

 

意外にもサキちゃんの悪態に反応した人がいた。

純子ちゃんだ。

 

「コー・・・ぴえヨンさんは、同じ芸能界で活動をする先輩として、とても尊敬に値する方です!いくらサキさんとはいえ、頭ごなしに悪く言われるのは我慢なりません!」

 

「お、おお・・・。そんなにあのひよこ頭のこと、気に入ってたとや・・・なんかすまん」

 

サキちゃんも純子ちゃんが声を荒げたのが意外だったのか、あっさり引き下がった。

純子ちゃんも声を荒げたことに後から気づき、顔を真っ赤にしながら椅子に座り直す。

 

「い、いえ、私の方こそすみません・・・。つい大声で・・・」

 

純子ちゃん、ドライブイン鳥のCM撮影した時は、ぴえヨンのこと苦手そうに見えたけど・・・。

何か印象が変わるようなことでもあったのかな?

 

そんなことを考えてると巽がわざとらしく咳払いした。

 

「あー、あー・・・よし、話を続けるぞ。とにかく、そのぴえヨン・・・正確にはぴえヨンチャンネルと我がフランシュシュのコラボが決まった。ぴえヨンといえば、西にコッコくんいれば、東にぴえヨンありと言われるほど有名な存在・・・、お前達も気が引けるのはわかる」

 

「確かに・・・よく考えてみればドラ鳥の時もコッコさんに気合いで負けとらんかったしな・・・!!」

 

「いやまずコッコくんって佐賀にあるチェーン店のマスコットだよね!?登録者数数百万人のユーチューバーと肩を並べる程じゃなかと!?」

 

「馬鹿野郎!佐賀での知名度ならコッコさんも負けてねえばい!ぶっコロすぞ!」

 

「いや、それ実質負けてるじゃん」

 

「だがしかぁし!お前達もまた、いずれは佐賀を、世界を背負って立つアイドルになる存在!ならばこのコラボも運命だったと言うことだ!」

 

「運命っていうか偶然CMで共演したから取れた仕事だよねこれ?」

 

「アイはん、男というものは常に運命という言葉を好むのでありなんし。無論、恋に限っては女も好むものになるのでありんすが」

 

「こ、恋・・・」

 

「純子・・・あんた、その耐性の無さで良くアイドルやれたわね・・・」

 

「zzz・・・」

 

「だあああああ!もうっ!お前ら俺の話をちゃんと聞かんかい!」

 

巽の大声で私達の視線が再び巽に集まる。

 

「いいか!?これを機にフランシュシュはリアルでの活動だけでなく、動画配信やSNSにも本格的に手を広げていく。今回のコラボ配信はその第一歩だ!各自しっかりぴえヨンからノウハウを学んでくるように!」

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

翌日、私達はとある会議室に来ていた。

巽が言うには今度のお仕事相手の一人がこの建物のオーナーらしく、事前にコラボ相手との打ち合わせをしたいと伝えたらここを使っていいと言われたらしい。

 

私達がここに到着してもうじき一時間は経つ。

それというのもコラボ相手のぴえヨンから車が渋滞に捕まった為、予定の時間に遅れると連絡があったからだ。

 

「ぴえヨンさん、久しぶりやけんね〜。ドライブイン鳥のCM撮ってから結構経ったし、私達もアイドルとして成長したからきっとびっくりするとよ!」

 

「はいっ、私も楽しみです。個人的には改めてお礼も申し上げたかったですし・・・」

 

「ん?純子ちゃん、ぴえヨンと何かあったの?」

 

「えっと・・・実は以前お仕事についてアドバイスを受けた事がありまして・・・」

 

「そうなの?」

 

だからこの前のサキちゃんの言葉に反応してたんだ。

でもアドバイスかー。タイミング的には佐賀ロックの時かな?あれから純子ちゃん、明らかに変わったし。

 

「ええ、だから結構楽しみなんです、今回のこらぼ企画」

 

そんな話をしていると廊下を走る音が聞こえた。足音は私達のいる部屋の扉の前まで来るとぴたりと止まる。

ついで扉がノックされた。

 

「どうやら来たようだな。よしっ、お前達、気合い入れて挨拶をするんだぞ!・・・はーい、今開けますねー!」

 

巽がスキップしながら扉を開ける。

すると元気よく女の子が飛び込んできた。

 

 

 

「失礼します!苺プロから来ました!星野ルビー、十六歳です!本日はよろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

「・・・ルビー?」

 

 

・・・

 

 

 

 

な、な、な、なんでルビーがここに!?

あれ?コラボ相手はぴえヨンじゃなかったっけ!?

 

「あ?誰かと思えばガタリンピックの時の東京もんじゃねーか」

 

「本当だ!わー、ルビーちゃん久しぶりー!」

 

「えへへ、久しぶりだね、一号ちゃん!他の皆さんも!」

 

さくらちゃんと楽しそうに喋るルビーを見ながら、巽の方を見る。

もしかしてまた巽が呼んで・・・?

けど当の巽も大きく口を開けてあからさまに驚いたポーズで固まっていた。

あっ、これ絶対巽も知らないやつだー。

 

遅れてまた廊下を走る音が聞こえてきた。

今度は二人分。

 

「ちょっとルビーっ、足速いって〜!」

 

「あ、あなた達走ると相手方に失礼でしょうが・・・!」

 

遅れて扉を開けて入ってきたのは、ルビーと同じB小町のメンバー、金髪ショートに悪魔っぽい角つきのカチューシャをつけてる子、確か名前は・・・

 

「あっ!MEMちょもミヤコさんも遅いよ〜!」

 

「ひぃ、ひぃ、こ、この歳で全力ダッシュは足腰に・・・いやっ、私は高校生!こ、この程度よゆーだけどぉ!」

 

そうだ、MEMちょだった。

で、もう一人は・・・

 

「あなたがっ、勝手にっ、走り出すのがっ・・・、悪い、んでしょうがっ・・・!」

 

流れるような淡い色合いの髪を長く伸ばしている美人。

私が生きていた頃、苺プロで私のマネージャーをしていて、佐藤社長の奥さんでもあるミヤコさんだ。

それにしても・・・私がいた頃は二十代後半とかだったから今は三十代後半とか?なのにぱっと見、あまり外見変わってるように見えないし。

・・・嬉野温泉の時はルビーばかり見てて気づかなかったけど、ミヤコさんって実はかなりの美魔女?

 

遅れて入ってきたミヤコさんは室内を見回すと、ばっちりと私と目が合う。

けどミヤコさんは一瞬、暗い顔をしたかと思うとすぐに私から視線を外した。

ん?今避けられたような・・・?

 

「純子・・・あんたどうしたの?」

 

一方で、私の隣にいた純子ちゃんがその場に膝を着いて項垂れていた。

急に膝を着いた純子ちゃんに驚いて、愛ちゃんが心配そうに声を掛けている。

 

「いえ・・・、何でもないんです。・・・期待していた私が悪いんです・・・」

 

「そ、そう?具合が悪いなら早めに言いなさいよ?」

 

見た限り、MEMちょとミヤコさん以外に後から人が来るようには見えない。

どうやら純子ちゃんのお目当ての人は来なかったみたい。

 

「あなたがフランシュシュのマネージャーさん、で合ってますでしょうか?弊社のルビーが大変失礼しました・・・」

 

ミヤコさんが巽に向かって頭を下げる。

そこでやっと固まっていた巽の意識が戻ってきた。

 

「・・・はっ!?・・・いえこちらこそ、ご挨拶が遅れました。私はフランシュシュのプロデューサー、巽幸太郎といいます」

 

「・・・プロデューサー? いえ、ご丁寧にどうも。私は苺プロの斉藤ミヤコと申します」

 

二人が名刺交換しつつ、挨拶をする。

おおー、巽のこういう姿を見るのは新鮮かも。

 

「・・・改めて、今回は弊社にコラボの打診をして頂き、ありがとうございます。今回のコラボがお互いのアイドルのスキルアップに繋がるよう、私も精一杯サポートさせて頂きます。短い間ですがどうぞ宜しくお願いします」

 

「は、はは・・・いえ、こちらこそB小町の皆さんから学ばせて頂きますね」

 

引き攣った笑いをしながら巽がミヤコさんと話を進めていく。

表面上は取り繕ってるように見えるけど・・・私には挙動不審にしか見えない。

やっぱり巽も知らなかったっぽいな、これ。

 

そんな事を思っていると、ミヤコさんの後ろからこっちの様子を見ていたルビーと視線が合った。

ルビーは私を見ると、声を出さずに口元を動かす。

 

き ちゃ っ た ♡

 

・・・きゃ、きゃ、きゃわ〜!!

いたずらがバレたみたいな、小悪魔めいた笑顔を向けるルビー、きゃわ・・・。

うう・・・私の子供可愛すぎ・・・。

もうっ、最高のサプライズだよっ、ルビー!

ぴえヨンを期待していた皆には申し訳ないけど、今日は思いっきりルビーと話しちゃおう!

この後のお仕事に、私は期待で胸を膨らませながらルビーの元へと駆け寄った。

 

・・・

 

 

私の名前は黒川あかね。

劇団ララライに所属する役者だ。

今は2.5次元の舞台、『東京ブレイド』に『鞘姫』という役を演じる事が決まった為、その練習をしているところだ。

そして、私の目の前で一緒に練習しているのは星野アクアくん。

同じく『東京ブレイド』に『刀鬼』役として出演することになった役者であり、『今からガチ恋始めます』という恋愛リアリティショーから付き合いだした私の彼氏だ。

アクアくんの演じる『刀鬼』と私の演じる『鞘姫』は互いにパートナーと言っていい間柄だ。

だからこそ、今回のキャスティングで彼氏彼女の関係である私達が選ばれたのかもしれない。

私が小休憩がてら、水分補給をしながら練習しているアクアくんを眺めていると、スマホの着信音が鳴り出した。

基本的に練習中、スマホの電源は落とすように言われている。

ただ役者の中には他にも掛け持ちのお仕事をしていて、そちらから急な連絡があることもある為、一部の人は事前に許可を貰って稽古場に持ち込んでいた。

着信音の出所はちょうど、私がいた近く。

アクアくんのバッグからだった。

元々、練習の邪魔に極力ならないよう、音は小さめに設定してあるのもあって、ここから少し離れたアクアくんが着信音に気づいた様子は見えない。

多分お仕事に関する連絡だろうし、アクアくんも気づかなかったら困るよね・・・。

私は練習の邪魔をしたくない気持ちもあったけど、アクアくんに知らせることにした。

バッグからアクアくんのスマホを取り出す。

コールは鳴り続けており、スマホの画面には相手の名前が表示されていた。

 

・・・お喋りクソグラサン・・・?

珍しいな、と思う。

アクアくんは正直・・・友達が少ない。

元がだいぶ暗めの性格だから、と言うのもあるけど本人が人を避けてるのもある気がする。

現にこの稽古場でもララライ組や鏑木組で仲良しグループができてる中、アクアくんは孤立していた。

本人はあまり気にしてなさそうだけど・・・。

そんなアクアくんがこんなストレートな悪口・・・良く言えば砕けた表示名にしてる人は見たことがない。

なんせ、彼女である私ですら『黒川あかね』で登録してるくらいだし・・・。

思い出したらちょっとムカムカしてきた。

とはいえ、今は電話が鳴ってることをアクアくんに知らせてあげないと。

 

「アクアくん、電話鳴ってるよー!」

 

私が呼ぶとアクアくんが汗をタオルで拭きながらこちらに向かってくる。

その姿にドキッとしながら、私はスマホを渡した。

アクアくんはスマホの表示名を見るとあからさまにため息をつく。

 

「ありがとう。・・・ちょっと休憩がてら電話掛けてくる」

 

合同練習の時までには戻ってくる、そう言うとアクアくんはスマホを持って、外に繋がる扉から出ていった。

その横顔にはどこか、普段の彼からはあまり見ない、楽しそうな口元が見えて・・・。

その顔に再び胸の中でモヤモヤした気持ちが湧いてくる。

モヤモヤは形になって顔に現れた。

ぷくーっと頬を膨らませながらアクアくんの方を見るも、アクアくんは既にいなかった。

 

「はぁ・・・私、何やってるんだろう」

 

私、アクアくんの彼女なんだけどな。

口には出さないけど、心の中でつぶやく。

アクアくんが恋愛対象として私のことを見ていないことは知っている。

そして私の中でも、アクアくんには命を助けて貰ったこともあって、この感情が恋心なのかまだ確証はない。けど・・・

 

「彼女といる時よりも楽しそうにされると、私も傷つくんだよ?」

 

 

・・・

 

 

外に出た俺は、人気のないところまで来ると耳から離した状態でコール音が鳴り続けているスマホの応答ボタンを押した。

 

「はい、もしも──」

 

「聞いとる話と全然違うじゃろがこのすっとこどっこいがー!!!」

 

距離を離してもキーンとハウリングするくらいの音量で声が響き渡る。

どうして俺に電話をする奴は毎回俺の鼓膜を壊しに来るんだ。

ここ最近、電話の第一声をまともな音量で話しかけられた記憶がないぞ・・・。

とはいえ、この騒音は予想していた事態だ。

 

「・・・何の話だ?」

 

「はー?未だにしらばっくれるつもりですかー?最初はぴえヨンとコラボする、そう言う話だったじゃろがい!」

 

「そうだな。そこは素直に申し訳なかったと思ってる。ただ俺の名誉の為に言うが声を掛けなかった訳じゃない。ぴえヨンの方から断ってきたんだよ」

 

「・・・どういうことじゃい」

 

「さあな。なんでも『まだボクは彼等の前に立てるほど自分を鍛えられてない。決着はまたいずれつけよう、遠い佐賀のフレンズ達・・・!!』だ、そうだ」

 

「くっ、訳がわからん!だが流石コッコくんのライバル、一筋縄じゃいかない・・・か!」

 

訳がわからんのはお前だ。

口には出さないが心の中で呟く。

 

「・・・それに俺はあんたを騙したつもりはない。ちゃんとオーダー通りの人選はしている」

 

「どう見ても妹の為に、私欲に塗れた人選をしたようにしか見えんのだが」

 

「そっちじゃない。・・・いるだろう、B小町には。十秒で泣ける元天才子役でもない、最高のアイドルの遺伝子を受け継いだ妹でもない・・・もう一人、セルフプロデュースだけでユーチューブチャンネル登録者数37万人、ティックトックフォロワー数638kの大人気インフルエンサーが」

 

 

・・・

 

 

ミヤコさんと巽が今回のコラボの詳細について、互いに擦り合わせがあるとかで席を外す。

残った私達は、久しぶりに会ったルビー達との会話に花を咲かせていた。

 

「嬉野温泉以来かしら?こうやって会うのは」

 

「おお、あん時はまさか久中製薬のタイアップ相手がお前らだと思わなかったけんな!」

 

「と、思うじゃん?実は佐賀ロックに私達B小町も出演してたから現地でフランシュシュのライブを私達は見てたんだー!」

 

「ええー!?そうだったとー!?」

 

「私達は到着が遅れたので、アイアンフリルのコンサートしか見れませんでしたから・・・」

 

「てか今日はあの赤いのはおらんけんな、確か・・・じゅう・・・」

 

「重曹を舐める天才子役!」

 

「そうそれやけん!」

 

「違うからね?!十秒で泣ける天才子役だよ?!・・・かなちゃんいないとこでいじるのはやめてあげなってー」

 

「はっ!?しまった!つい条件反射で」

 

「あん?違うのけ?」

 

「サ・・・二号ちゃん、流石にその二つ名だとかなちゃんがゾンビと同じ怪物になってしまうとよ・・・」

 

「実は今回、かなちゃんは別のお仕事でスケジュールが空けられなくて・・・」

 

「なので代わりにこんなのを用意しました!」

 

ルビーがそう言って部屋の外に出ると細長い箱を持ってきた。蓋を開けて中から出てきたものをテキパキと組み立てていく。

 

「じゃーん!名付けて『等身大有馬かなモバイルパネル!』これがあればいつでもどこでも先輩がついてくる!急な配信でも一安心の一品だよ!」

 

そう言って組み上がったのはアイドル衣装を着た有馬かなちゃんのパネルだった。

 

「ぎゃははははははははは!」

 

サキちゃんがそれを見て腹を抱えて笑いだす。

よっぽどツボに入ったらしく、薄らと涙まで浮かべていた。

 

「更にボイス付きです」

 

『スケコマシ三太夫が・・・』

 

「ひーっ、ひーっ、ど、どこで言ったんけっ、そ、その台詞っ、ぎゃははははっ!」

 

サキちゃんはもはや立っていられなくなったのか、床に突っ伏しながら笑い続けていた。

サキちゃんって一度ツボに入ると止まらなくなるからしばらくはこのままかなー。

 

「あー、それ持ってきてたんだルビー」

 

「前に一度配信で使ったら視聴者から大ウケしたんだよねー」

 

「や、やべぇ・・・死ぬ、こんなん腹がち、ちぎれるっ」

 

『とりあえず、カメラ止めろや』

 

「・・・まあ、後でアーカイブを見たかなちゃんがガチギレしてあやうくB小町が解散しかけたけど」

 

「いや、でもあの配信以降、先輩のファンがぐっと増えたんだから絶対もっとやったほうがいいって!」

 

「ひっ、ひひっ、そ、そやけんっ、がばい増えそうけんっ、もっとやった方がっ、ふっ、ふふっ・・・」

 

「二号ちゃん壊れちゃったー」

 

「これはしばらくこのままだねー」

 

まだ地面に突っ伏して笑い転げてるサキちゃんをリリィちゃんとつんつん突きつつ、反応を楽しんでいると隣にルビーがやってきた。

 

「久しぶりっ、七号!」

 

ルビーの天使のような笑顔に心の中で歓喜の声を上げつつも、表面上は笑顔を浮かべるに留める。

ママと呼んで貰えないのは少し悲しいけど、ルビーが私が本物のアイだと知っていることは秘密にしないといけないから我慢しないと。

 

「久しぶりだねー、まさかルビーとこんなに早く再会できるなんて思わなかったよー」

 

「えへへ・・・アクアが今回の仕事を持ってきてくれたの。先輩が別のお仕事でしばらくいないから、私達もチャンネルの配信活動しか予定なかったしどうかって」

 

「おおー、流石アクア。優しいお兄ちゃんで感心感心」

 

「えー、ただ妹離れできてないだけだよ。・・・それより聞いて!私達、あれから何回かミニライブとか握手会もやったんだー!」

 

「おおー、ルビーはすごいねー」

 

「えへー」

 

はっ!?ルビーが自然に頭を下げてきたからついルビーの頭を撫でちゃった・・・!

慌てて撫でた手を引っ込める。

 

「あっ・・・」

 

ル、ルビー、そ、その悲しそうな顔はやめてー!

 

「・・・えーと、もっと撫でて欲しいなーって。・・・ダメ?」

 

・・・上目遣いのルビー、きゃわ・・・。

ま、まあ仲良い友達同士なら頭撫でるくらい普通・・・だよね?私、生前は友達いなかったから知らないけど!

欲望に負けてルビーの頭なでなでを再開する。

髪の毛もスベスベだし、丁寧にケアしてきたんだろうなー。

そういえば私達、ゾンビになってからずっと水道で水浴びだったし、髪のケアとかしばらくしてない・・・。

私達の仕事も増えてきたし、皆と協力して一度本気で洋館にゾンビ用のお風呂作るのを巽に交渉するのもありかも。

 

「あれ?いつの間に二人ともそんなに仲良くなったの?」

 

ルビーを撫でていると、ルビーのメンバーの子が不思議そうに声をかけてきた。

えーと、この子は・・・そうだ、MEMちょだった。

 

「何か共通点とかあったっけ?」

 

「えーと・・・」

 

「そりゃああるでしょー?」

 

ルビーが何て答えようか迷っていたところに私が口を挟む。

私達の共通点?そんなのもちろん──

 

「私は美少女で可愛いし、ルビーも美少女で可愛い。ほら、共通点☆」

 

ルビーと顔を並べてキメ顔をする。

間違ったことは言ってないよねー?

ルビーは若干恥ずかしそうにしていたが、美少女と言われたのが嬉しかったのか、はにかむように笑顔になった。

うんうん、やっぱり私の娘は可愛いなあ!

 

「・・・は、はわわー!び、美少女同士の百合カプめっちゃ絵になる!あ、あのー、宜しければインスタ用の写真撮ってもいいですか?あ、私は写らないので!二人を撮れれば良いんで!」

 

「いいよー、今なら目線もあげちゃう☆」

 

「しゃあ!美少女二人のイチャイチャサムネイルゲット!この写真は万バズも狙えるのでは・・・ふふふ」

 

「あっ、MEMちょ!私にも後で撮った写真送って!」

 

「オッケー、ロインのグループチャットに貼っとくよー」

 

MEMちょとルビーが楽しそうにスマホを突き合わせて話している。

良かった。ルビーには友達がちゃんといるみたい。

赤髪の子とも親しそうにしてたし、案外私に似ずコミュ力が高いのかもしれない。

でもアクアは私似かな?この前、チラッと見えたスマホの連絡先がお仕事関係ばかりだったし。

 

「あれー?よく見るとこの写真・・・」

 

MEMちょが撮った写真と私たちを見比べている。

 

「どしたの?」

 

「なんか、七号さんとルビーって顔似てる気がする。ほら、こうして並べるとそっくりじゃない?」

 

写真とルビーの顔を見比べながら怪しむMEMちょ。

おおー、やっぱり隣に並ぶとわかっちゃうかー。

ルビーのルックスは髪色以外、私の遺伝子強めだしなー。仕方ない仕方ない。

 

「そ、そんなことっ、なかとよ!?き、き、きっと偶然やけんね!?ね、ねー?三号ちゃんー?」

 

「え、ええ!世界には同じ顔の人が三・・・いや十人はいるって言うし、たまたま似てるだけでしょ?」

 

さくらちゃんと愛ちゃんが慌ててフォローに入ってくる。

今更だけど、私がルビーにゾンビだってばらしていることを巽は皆に伝えてないみたい。

まあ、伝えても混乱させるだけかもしれないから黙ってるのが正解なのかもだけど・・・。

正直あまり皆に隠し事をするのはしたくないなーって気持ちもある。

・・・いずれ自分の口から伝えないとね。

 

「はっ!?わかった!もしかして二人は・・・」

 

MEMちょの言葉に私の思考が現実に戻ってくる。

その瞳はキラリと光っていた。

あれ?もしかしてバレた?

 

「実は生き別れの姉妹だった・・・!とか!」

 

「・・・」「・・・」

 

思わずルビーと顔を合わせる。

ある意味ニアピン賞かなー、惜しい。

 

「そ、そそ、そそ、そんなこ、ここ、ことないとよ!?!?」

 

「で、でで、ですよね!?し、姉妹なんてそんな訳ななないじゃないですか!?!?」

 

一方でさくらちゃん達は面白い程に慌てていた。

あー・・・そういえばまだ皆にルビーとの関係を姉妹と誤解されたままだったっけ。

 

「えー、私は七号と姉妹でもいいなーって思うなー」

 

ルビーはそう言うと、私の右腕に抱きつく。

 

「実は私、お姉ちゃんがいるのって憧れてたんだよね!七号お姉ちゃーん!」

 

右腕に感じるルビーの暖かさ。三人で住んでた頃は二人とも手を上げないと私の手に触れられないくらい小さかったのに。

・・・ルビーとアクアと会うとどうしても二人の成長に感動して言葉数が減っちゃうなあー、えへへー。

・・・おっと、ルビーとこのままじゃれあってるのも良いけど、これ以上私の後ろにいる皆が慌ててるのを見るのも忍びないし、そろそろ口出ししよっか。

 

「ふふっ、ありがとルビー。でもそれは私じゃなくて、将来アクアに相手ができた時にその人に言ってあげてね」

 

耳元でルビーにだけ聞こえるくらいの声で伝えると納得したのか、渋々と言った感じで離れた。

 

「・・・ちぇー、なら仕方ないかー。お兄ちゃんの甲斐性に期待だね」

 

ルビーが私から離れるとさくらちゃん達も安心したのか、ほっとしていた。

 

・・・それにやっぱり、私としてはお姉ちゃんよりもママって呼ばれた方が嬉しいしね。

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

ルビーちゃんがアイちゃんから距離を取る。

ほっ、どうやらゾンビってバレずに済みそうけん・・・。

アイちゃんはアイドルやってる時はかっこいいけど、普段は結構抜けてるところがあるから、私がしっかりフォローしやんとね!

でもやっぱりルビーちゃんとアイちゃんは姉妹やけんし、二人で話したいこともあるとよね・・・。

けどガタリンピックの時は泥だらけだったからともかく、嬉野温泉の時はすっぴん(ゾンビ顔)見られてるし本当のアイちゃん=ゾンビって疑われるかもしれんけん・・・。

うう・・・ゾンビバレとアイちゃんの幸せ、どっちを取ればいいとー!?

 

「どやんすー・・・、どやんすー・・・」

 

「どうしたの、一号ちゃん?」

 

「へっ!?な、何でもないとよ?」

 

不思議そうな顔をするアイちゃんに笑顔でごまかす。

と、とにかくゾンビバレしそうになったらこれまで通りフォローする。一旦はこれでなんとかするけん!

 

 

「そういえば、ルビーちゃんは動画の配信活動をやってるとよね?」

 

「うん!B小町チャンネル!」

 

「実は私達も今回のコラボを機に配信活動始めるんだけど、何かチャンネル登録数を増やすコツとかないかな?」

 

「・・・手っ取り早く増やすなら、既に有名なユーチューバーとのコラボかな?単純に視聴者の母数が多くなる分、興味を持ってくれる人も増えるから」

 

「有名なユーチューバーでかつ、私達の知り合い・・・となると」

 

「やはりぴえヨンさん、でしたか・・・」

 

純子ちゃんの呟きに皆の顔が暗くなる。

元々今回のコラボ相手はぴえヨンさんのはずだったはず。

どうしてルビーちゃん達に変わったのかはわからないけど、年収一億って言ってたぴえヨンさんの方がすごいんだろう。

前に事務所の先輩だとも言ってたし。

 

「ん?一号ちゃん達も配信活動始めるの?」

 

「うん。・・・まあまだ動画は一個も撮ってないけど」

 

「そもそも私達ってユーチューブやツイッターのアカウントとかあるのかしら・・・」

 

「でもあのホームページに動画のリンクが貼ってあっても誰も見ないって思うな」

 

「なになにー?動画配信の話?」

 

「あっ、そだ。MEMちょは有名な動画配信者だし、話を聞いてみるのがいいんじゃない?」

 

配信活動の先行きを考えて暗くなっていると、話を聞いていたのかMEMちょが加わってきた。

 

「ふむふむ・・・登録者数の増やし方ね・・・」

 

私達が事情を話すと、MEMちょは顎に手を置いて考える仕草をする。

 

「えっと・・・MEMちゃんは詳しいと?」

 

「ふっふっふ・・・自分で言うのもなんだけど、こう見えてセルフプロデュースだけで自分のチャンネルは運営してきたし、バズらせのプロを名乗れるくらいにはこの道に精通してるからね〜。どの時間に、どのタグをつけて投稿するといいかーとか誰よりも詳しい自信あるよ〜」

 

自信たっぷりなその表情からは嘘をついてるようには見えない。

凄いなぁ。私達とそんなに変わらないように見えるのに、そんなに配信活動に詳しいなんて・・・!

もしかしたら、タメになるアドバイスとか貰えるかもしれない。

 

「な、ならコツとかアドバイスを貰えると・・・」

 

「うーん、別に良いんだけど〜・・・」

 

「だけど?」

 

「まさか、タダで・・・なーんて言わないよねー?」

 

MEMちゃんの視線が鋭くなる。

ど、どうしよう、私達お金とか持ってないし、何か要求されても払えないけん・・・。

慌てていると、MEMちゃんがニヤリと笑った。

 

「教えてあげる代わりに、私のお願いを一個聞いて欲しいなー」

 

「お願い?」

 

「えっとね・・・、そのー、正直失礼な事かもしれないんだけど・・・」

 

さっきまでと打って変わって言いづらそうに目線を逸らす。

言いたいけど、本当に言い出していいのか迷っている、そんな感じだ。

 

「実はー・・・、三号ちゃんと七号ちゃんにお願いがあって・・・」

 

「私?」「何?」

 

名前を呼ばれた二人がMEMちゃんに近づく。

するとMEMちゃんはよりいっそう、悩んだ顔を浮かべる。

だが意を決したのか、深呼吸をすると二人に対して頭を下げた。

 

「・・・二人にそれぞれ、アイアンフリルとB小町の曲を歌って欲しいの!」

 

「え?」「は?」

 

「えっ、ええええええええ!?!?」

 

思わず二人よりも大きな声が出ちゃったと!?

で、でも今MEMちゃんが言ったグループ名って・・・。

 

「そ、その・・・、私、実はアイドルに憧れたのってアイアンフリルの水野愛とB小町のアイのファンだったからってのがあって・・・。もちろん、二人からしたら昔のアイドルに似てるって言われても困ると思うんだけど、せっかくだしカバーでいいから聴いてみたいなって・・・」

 

MEMちゃんが凄い勢いで捲し立てる。

どうやら二人が本物の水野愛とアイとは気づいていないみたい。

だけどこの熱量は・・・もしかして二人はMEMちゃんにとって推し、だったのかも。

 

「あ、もちろん動画化とかはしないから!ただ私が見てみたいだけだから!・・・どう?」

 

拝むように私達を見つめるMEMちゃん。

これじゃあどっちがお願いしてるのかわからんと・・・。

正直右も左もわからない私達にとって、MEMちゃんのアドバイスは喉から手が出る程欲しい。

けど愛ちゃん達のファンなら昔歌っていた曲を聴いて本物の愛ちゃん達だって気づくかも・・・。

そこからなし崩し的にゾンビだってバレて・・・。

う、ううん、いくら何でもそう上手くはいかんと!

それに愛ちゃん達の意志を聞かんことには決められなかね!

 

「うん、いいよー」

 

「・・・ってそんな簡単に決めていいと!?」

 

アイちゃんの二つ返事に思わず聞き返す。

本人はえっなにが?て感じの顔をしていた。

 

「だって歌うだけでいいんでしょ?あ、どうせならダンスのフリもつけよっか?」

 

「是非お願いしますっ!」

 

「オッケー☆」

 

ああ・・・。歌に加えてダンスまで・・・。

これじゃあ気づかれちゃうのも時間の問題やけん・・・。

 

「大丈夫、私がフォローするから」

 

愛ちゃんがこっそり私に耳打ちしてきた。

 

「多少歌とダンスが似ていても本人とは思われないと思う。アイと水野愛(私達)が死んでいるのは知れ渡ってるんだし。目の前で手足が取れたりしない限りはゾンビだなんてバレないでしょ」

 

「・・・そっか、そうだよね。私が気にしすぎてるだけかも。ありがとう、愛ちゃん」

 

愛ちゃんの言う通りだ。

普通の人はゾンビが存在するなんて思わないし考えもしない。

もしアイちゃん達が完璧に歌っても、似てる人が完コピしてるくらいにしか思われないはずだ。

うう・・・ちょっと私がゾンビバレを気にしすぎてるだけかもしれん・・・。

流石愛ちゃん、頼りになるなあ・・・。

 

「め、MEMちょ・・・。そのライブ、私も観に行っても・・・」

 

「ん?もちろんいいよー。せっかくだしかなちゃんも誘って皆でいこーよ!」

 

「あ、ありがとう・・・!!わ、私、MEMちょをB小町に誘って良かった・・・っっ!」

 

「えっ、ここでそれを言われても複雑なんだけど・・・」

 

 

 

 

 

 

「・・・アイのB小町の歌とダンスがまた見れるなんて・・・。何曲歌ってくれるのかしら?もし曲数が少ないのならやっぱり鉄板だけどサインはBは当然として、STAR☆T☆RAIN、それにHEART's♡KISSも捨てがたい・・・。むしろ私の曲数減らしてもらってその分アイに割り振ってもらうのも・・・」

 

・・・。

やっぱり愛ちゃんはいつも通りかも・・・。

うう・・・不安になってきたけん・・・。

どやんすー、どやんすー・・・。

 

 

・・・

 

 

 

「話はまとまったようだな」

 

MEMちょから聞いた配信活動に関するコツやアドバイスをメモにまとめていると、別の部屋で打ち合わせをしていた巽とミヤコさんが戻ってきた。

うーん、ミヤコさんからは相変わらず、警戒されてる感じがするなー。

 

「こちらもまとまったわ。皆、聴いてちょうだい」

 

フランシュシュとB小町のコラボ企画の内容はこうだ。

私達フランシュシュはミニライブや握手会といった、いつも通りのお仕事をこなす。

B小町は今回、そのレポーターとして同行し、私達にインタビュー形式で質問しながら掘り下げていく。

私達のことを紹介しながら、B小町の二人はいろんなリアクションをして視聴者にアピールする。

B小町はどちらかが必ず画面に映るし、フランシュシュのアピールもできるからこういう構成にするみたい。

一応カメラNGのところは映さないみたいだし、私達は普通にお仕事をこなしつつ、ルビー達の質問に時折答えればいいってことかな?結構楽しそうかも。

 

「本当ならあなた達にもライブをやらせてあげたかったのだけど、まだ経験も少ないし、メンバーがいない場合の振りの練習も不十分だから今回は見送ることにしたわ。ごめんなさいね」

 

「まあそこは仕方ないですよねー。今回のお仕事も急なやつでしたから」

 

「全然オッケー!むしろ佐賀まで連れてきてくれたし、ありがとうミヤコさん!」

 

「あなた達は、一応未成年なんだから、大人が同伴するのは当たり前。別に感謝なんかしなくていいの。それより、フランシュシュさんはライブ経験も豊富なアイドルなんだから、しっかり勉強してきなさい。いいわね?」

 

「はーい」

 

「あのー・・・一応って言葉が引っかかるんですが・・・」

 

「はっ、そうだった!MEMちょは高校生って設定だったもんね!忘れるとこだった!」

 

「ちょっとー!?知らない人の前で設定って単語は出さないでー!?」

 

ルビー達が楽しそうに話す。

その姿からはミヤコさんとMEMちょへの信頼が見て取れた。

 

・・・?

なんだろう?今何か胸の奥がちくっとしたような?

おかしいな。ゾンビになってから疲労と痛みには無縁の身体だったのに。

 

 

「よし、今日はこれで解散とする。全員撤収の準備をしろ。・・・では、斉藤さん、しばらくの間、至らない点もあると思いますがよろしくお願いします」

 

「とんでもありませんわ。こちらこそ他のアイドルの現場を近くで見る貴重な機会でもありますし、B小町の勉強にもなります。せっかくコラボするのですから、互いのスキルアップに繋がる、いい企画にしましょう」

 

「そう言って頂けると大変ありがたいです。・・・それでは、私達はこれで」

 

巽の指示で会議室からぞろぞろと出ていく。

 

「待って!七号!」

 

私が最後に出ようとしたところで、ルビーに呼び止められた。

 

「どうしたの?ルビー?」

 

「あっ・・・えっと、・・・」

 

なんだろう?何か伝え忘れたとかかな?

 

「・・・ううん、なんでもない。明日からしばらくの間、宜しくね!」

 

ルビーはそれだけ言うと、どこかぎこちない笑顔で別れを告げた。

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

フランシュシュと別れた私達は、ミヤコさんの運転する車で今夜泊まるホテルに着いていた。

ミヤコさんがチェックインする間、MEMちょと一緒にロビーでキャリーケースに体重を預けながら一息つく。

 

「ふー、疲れたー」

 

私の隣でMEMちょが自動販売機で買った飲み物を呷る。

 

「ねぇ、なんでMEMちょはフランシュシュの人達にあんなに丁寧に教えたの?」

 

「んー?」

 

MEMちょは私の疑問に対して、顔だけこちらに向ける。

 

「確かにMEMちょは優しいけど、今日は特に親切だったかなって思ったから」

 

「まあちゃんと対価をもらう約束をしたからねー。この業界で信用を失うのは一瞬だけど、信用を得るのは大変だから」

 

「そこは私も話に乗っかったから何も言えないけど・・・。でもMEMちょにとって、今日話してた内容って結構ガチなやつだったじゃん?」

 

「・・・そだねー、正直私もちょっと喋り過ぎたかなーとは思ってるよー」

 

自分の商売道具なのにね、なんてMEMちょが笑いながら告げる。

MEMちょはインフルエンサーとしてとても有名だ。

そんな彼女の動画配信やSNSでの活動においてのアドバイスは、正直同業者からしたら喉から手が出る程の、それこそお金を払ってでも知りたがる人が出るくらい高価な筈だ。

たぶんMEMちょ自身、その価値には気づいている。

その上で、今日フランシュシュに話していたのは紛れもない本物の、彼女等のためを想ってのアドバイスだったと私は感じていた。

 

「私さ、挑戦する人、夢を追う人が好きなんだ」

 

MEMちょが天井を眺めながら何かを思い出すかのように告げた。

 

「私自身が年齢のせいでアイドルの夢を一度諦めて、それでも諦めきれずにこの世界にしがみつこうといろいろなことに挑戦してきたからかなー?・・・なんか、ああやって本気で夢に向かって挑戦しようとしてる人を見るとさ?頑張ってーって、応援したくなるんだよね」

 

確かに。

MEMちょの言う通り、フランシュシュの人達は皆本気でアイドル活動に取り組んでいるように見えた。

ジャパンアイドルフェスを終えて、私達もミニライブや握手会をするようになって気づいたことがある。

心の底からアイドルが好きで、夢に向かって踊ったり歌っているアイドルは少ない。

皆どこか、心の中でどこか冷めている、そんな印象だった。

この業界、右を見ても左を見ても自分より可愛い子や綺麗な子はたくさんいる。

そんな中でアイドル活動をするのは、誰にだって大きなプレッシャーになる。

年齢の問題だってある。

十代の頃からアイドル活動していても、結局芽が出ずに引退する人だっている。

MEMちょみたいになりたくても家庭の事情でアイドルになれなかった人もいる。

そんな世界で、ずっと前を向ける人はとても少ない。

そう言う意味で、メンバー全員が夢を追っているフランシュシュは輝いて見えた。

 

「・・・まあでも、本当はもう一個理由があるけど」

 

「もう一個?」

 

さっきまでの真面目そうな顔から一転、MEMちょが目を輝かせた。

 

「・・・正直フランシュシュは顔が良い子が多いから推せる!」

 

「・・・へ?」

 

「いやだって、私だって子供の頃はアイ推しだったんだよ!?本人の前じゃ言えなかったけど、本当にそっくりなんだもん!別人だとはわかっていてもついつい重ねちゃうよー!ルビーもアイ推しなんだしそう思わない?」

 

まあ七号はアイ本人なんだけど・・・。

 

「それに水野愛ちゃんのそっくりさんに星川リリィちゃんのそっくりさんだよ!?他の子も個性がそれぞれあって良いし、あーもう箱推しになっちゃうかも!」

 

たぶんママが本物だから、あの水野愛ちゃんも星川リリィも本物なんだろうけど・・・。

もしかしたら一号ちゃんや他の子も元は有名人だったりするのかな?

 

でもそっか。よく考えたらアイがまたアイドル活動を始めるんだ。

せんせーが聞いたら喜ぶだろうな。私が布教したおかげで、せんせーも私と同じくらいアイを推していたし。

 

・・・そうだ。せんせーならアイが、いや正確にはアイにそっくりなアイドルがいると知ったら、まず間違いなく会いにくる。

 

「・・・ねえ、MEMちょ」

 

「んー?何ー?」

 

「例えばだけど、フランシュシュの存在を旧B小町やアイアンフリルのファンが知ったらどう思うんだろう?」

 

「まあ複雑な感じだよねー。だってもう会えない推しと同じ顔が、違うグループでデビューしてるんだから。かくいう私も──」

 

 

MEMちょの言う通りだ。

アイと水野愛のファンからはきっと快く思われない。

けど、例え関係がなくても、やっと吹っ切れたと思っていたかつての推しと同じ顔がアイドルをやっていたら、きっと、どうしたって気になってしまう。

一度は目にしたいと興味を持ってしまうはずだ。

今ならわかる。

きっとアクアも、どこかで知ったんだ。アイとそっくりのアイドルがいる事を。

だからアクアはここに来た。東京から遠く離れたこの佐賀に。居ても立っても居られなくなって。

アイには昔からそういう魅力があった。

きっとアイのファンなら誰もが、彼女の存在を知ったら無視できなくなる。誰もが一度はその顔を、その姿を画面越しに、もしくは自分の目で、確かめたくなる。

・・・いや、流石に東京から佐賀まで来る程、度が過ぎてるファンは私とアクアくらいかもしれないけど。

・・・ううん、きっとせんせーもそうだ。一度は自分の目で見て、確かめずにはいられない。せんせーはそういう人だった。

 

ならママの側にいれば、せんせーにも自ずと会えるはずだ。

 

正直、ママを利用しているみたいで気は引ける。

けれど・・・私はせんせーにどうしてもまた会いたい。

自分の足で立って、夢だったアイドルになって、十六歳になった姿を見せたい。

またせんせーの推しになって、二人で好きなアイドルの話をしたい。

そしてあの約束を───。

 

 

 

 

ふと、私の中で良くない考えが思い浮かんだ。

 

もう会えないと思っていたママに再会できたことで、私の中で燻っていたもう一つの想いに火がついた気がしていた。

奇跡が起きて、私は転生した。

奇跡が起きて、ママが生き返った。

二回も奇跡が起きたんだから、あと一度くらい起きるかもしれない。

 

 

「もし・・・七号達が自分からアイや水野愛に似てる事を前面に押し出してアイドルをやったらどうなるかな?」

 

「そりゃあ・・・注目されるだろうねー。ただでさえ顔が似てるのに、あのクオリティのダンスと歌ができるならメディア受けも良さそうだし。・・・けど同時に炎上もしそう。やっぱり故人を蔑ろにするなーって言う人は一定層いるからねー」

 

・・・ママが、フランシュシュがもっと有名になれば、今もどこかにいるせんせーの耳にも入るかもしれない。

このままフランシュシュとお仕事をする機会が増えれば、せんせーと再会できる可能性も高くなる。

本当は私自身が有名になって、せんせーに見つけて貰いたかったけど・・・。

さりながルビーに転生してるなんて、せんせーはわからないだろうからそこは仕方ない。

 

「そっか・・・。まあでも七号達はそういうことはやらないよね。やるなら最初からそういう路線で売り出してるだろうし」

 

「だねー。何となくだけど、あの子達は自分達の力でアイドルとして頑張ってるって感じかな。あー・・・やっぱりそーいうとこも推せるなぁ・・・」

 

そう、ママ達は真っ当にアイドルをやって有名になろうとしている。

今まさに私が、ママに憧れてアイドルをやってるように。

 

・・・けれど私は、どうしてもせんせーに会いたい。

私達が出会ったあの病院にはもういなかった。

ある日突然いなくなったらしい。

・・・せんせーは結構モテてたから、他の女の子にうつつを抜かしてどこかに行ってしまったのかもしれない。

だけど、あの時、あの場所で、一番私に寄り添ってくれて、一番私を励ましてくれたのはせんせーだ。

必ずせんせーは、私とせんせーを繋いでくれたアイを見逃さない。

 

「・・・今回のコラボ配信、フランシュシュの良いところが動画を見てくれる人達にちゃんと伝わればいいね」

 

「・・・その為にも、私達もしっかりサポートしないとだねー」

 

フランシュシュをもっと有名にする。

それがせんせーに会うための近道だ。

その為には、もっともっとたくさんの人に知ってもらう必要がある。

 

私のやることは決まった。

これはママに対する、裏切りになるかもしれない。

アクアからも軽蔑されるかもしれない。お前は、俺と同じだと信じてたのに、と・・・二度と口も聞いて貰えないかもしれない。

だけど・・・。

 

 

せんせー、今どこにいるの?

早く会いたいよ。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 





佐賀の街の一角、人が寄り付きそうにない日陰にこのバーはある。

『BarNewJofuku』

そのカウンター席で俺は一人、杯を傾けていた。

 

「どうなんだ調子は」

 

俺の前でガラスを磨いていたバーのマスターがカウンター越しに声を掛けてくる。

現在、このバーには俺とマスターしかいない。

必然的に今の問いかけは俺に向けたものだろう。

本日は華の金曜日。平日働いている会社員が明日を気にせずに飲める解放日だ。

事実ここに来るまでに、様々な居酒屋で酒を飲む人を見た。

だが、このバーには未だに俺以外の客がいるのをみたことがない。

お前の方こそ経営は大丈夫なのか、と思わず言いたくなるがぐっと我慢する。

 

「いや、ぼちぼちです」

 

グラスの中の酒をちびちびと飲みつつ、そっけなく答える。

マスターとは旧知の仲だ。

この程度の対応はいつもの事なので互いに気にしない。

 

「・・・計画の話を聞いた時は正直頭腐ってやがると思ったが。あー・・・なんていったか、元祖ゾンビ村肥前夢街道プロジェクトだったか」

 

「ゾンビーランドサガプロジェクトです」

 

「あー、それな。・・・大慈悲を起こし人のためになること、か」

 

「山本常朝、葉隠。・・・そんな大層なものじゃありません」

 

「ゆうぎりに手を出すんじゃねーぞ。あいつにはどでけえ借りがある」

 

「ははは、いつの話ですか」

 

「・・・あの頃は随分と面白え時代だった」

 

「昔が良かったって大人、カッコ悪いですよ」

 

「けっ、お前が言うか」

 

どこかでカラスの鳴き声が聞こえる。

飲んでいたグラスの酒が半分に差し掛かる頃、滅多に鳴らない来客を知らせるドアベルの音が鳴った。

このバーに来客が来ることなんてあるのか。

そんなことを思いつつ、扉を見るとそこにはおよそバーに似つかわしくない、少女が立っていた。

 

「まだ空いているかしら」

 

歳は十歳くらいだろうか。

年齢にそぐわない、大人びた声でそれだけ言うと返事を待たずに店に入ってくる。

 

「おいおい、嬢ちゃん。ここはバーだぜ?お嬢ちゃんみたいな子が来るとこじゃねえよ。それともパパかママとはぐれちまったのかい?」

 

マスターは久しぶりの来客に一瞬目を輝かせたが、その姿を見ていつものやる気のないテンションに戻っていた。

それでも、目の前の少女に対して優しげに声をかけるあたり一欠片の人間性は持ってるように見える。ゾンビのくせに。

 

「おや、この店は見た目で客か判断するんだ?だとしたら入る店を間違えたね」

 

マスターの言葉にたじろぐことなく言い返す。

この年齢で一回り以上大きな大人に対して、堂々とした態度を取れる子供はそうそういない。

それこそ、普段から仕事で大人の相手をしている子役くらいだろう。

事実、少女は端正な顔立ちをしており、将来はアイドルや女優になっていても不思議ではない容姿だった。

本当にどこかの事務所に所属する子役なのかもしれない。

少女の物言いに思わず言葉を失ったマスターを横目に、少女はまっすぐ俺のそばまで来ると、隣の椅子に座ろうとした。

だが、このバーは元々大人が利用するのを想定して作られた場所だ。

当然、そこにある椅子も座高が高く、少女の身長では手を伸ばして座面にやっと届くくらいだった。

 

「・・・」

 

少女の視線が俺に向けられる。

その瞳には明らかに、私を持ち上げろと言った意味が込められていた。

 

「・・・何故俺がやらなければならないんだ?」

 

「別に何も言っていないとも。ただ君はここで困っている子供を見逃す程、薄情な存在じゃないって信じているだけさ」

 

尚も見るのをやめない少女に、俺はため息をつくと席を立って少女を持ち上げ、座らせてやった。

 

「ああ、ありがとう。君が優しいおじさんで助かったよ」

 

「お兄さんだ」

 

少女はわざとらしくお礼を言うと、物珍しそうにカウンターを見回す。

そしてメニュー表を見つけると興味深そうに眺め始めた。

その姿からは年相応の子供っぽさが感じられる。

 

「マスター、ミルクが欲しいな」

 

俺の知る限り、あのメニュー表にミルクなんて項目はなかったはずだ。

 

「・・・ここは酒を」

 

「ここは酒を飲むところだ、飲むつもりがないならとっとと家に帰れ、なんてつまらないことは言わないよね」

 

「・・・」

 

マスターが完敗だと言わんばかりに両手をひらひらと振ると俺に向かって目配せをする。

明らかに面倒なのを押しつけるつもりだ。

俺はそれに対して、否定の意味のアイコンタクトを送るがマスターは無視して奥へと引っ込んでしまった。

マスターめ、逃げたな・・・。

 

「さて、人払いは済んだし本題といこうか。実は君に聞きたいことがあったんだ」

 

少女はメニュー表に目を滑らせながら、こちらを見ずに話し続ける。

 

「憧れの女の子の魂を腐った肉体に閉じ込めてお人形遊びをするのはどんな気持ちなのかな?」

 

「・・・」

 

普通の人が聞けば意図がわからない言葉。

だが、その内容は俺から冷静さを奪うのに時間は掛からなかった。

この少女はフランシュシュのメンバーがゾンビであること、そして俺とさくらの関係をぴたりと言い当てた。

思わず視線が泳ぐ。泳ぎまくる。だが幸いかな、巽幸太郎はいかなる時もサングラスを外さない。

アイドルとのスキンシップ(物理)で外れることはあっても、風呂場で頭を洗うからだとか夜は前が見えなくなるだとかそんな理由で外すことはない。

だからこの動揺は目の前の少女にバレていないはずだ。

 

「流石だね。この程度の揺さぶりじゃ動じないか」

 

目の前の少女はつまらなさそうにメニューを閉じる。

やはり、俺の演技は完璧だ。

 

「・・・目的はなんだ?」

 

「なに、いい加減に返してもらおうと思ってね」

 

少女はゆっくりとこちらに身体を向けると、俺のサングラス越しの視線に対して、真正面からつぶやいた。

 

「君が盗んだ星野アイの魂をだよ」

 

・・・

 

「彼女の命は、本来あのドーム公演の日に終わっていた。その魂は崩れて、星と海に還る・・・それで星野アイの物語はおしまいのはずだった」

 

隠すことはもうやめたと言わんばかりに、淡々と言葉を紡いでいく。

その姿からはほんの少し前まであった子供らしさは一切感じられない。

 

「なのに君はあろうことか、その魂が崩れる前に拾いあげた挙句、ゾンビとして蘇らせた。そして同じく蘇らせたゾンビと共にアイドルグループを結成した。この佐賀を蘇らせるために」

 

お前はやってはならないことをしたのだと言わんばかりに、俺の罪状をつらつらと並べていく。

神秘的な雰囲気を醸しながら呟く様は、まるで罪人を裁く神様だと言わんばかりだ。

 

「まさしく神様への冒涜だよね。自然の摂理を何だと思っているの?」

 

いや、実際神様だったらしい。

 

「でも、私は神様と同じで優しいからね。君にチャンスをあげるよ。なに、簡単さ。星野アイの魂だけを返してくれればいい。そうすれば君達の運命を本来あるべき正しいものに導いてあげる。フランシュシュは今の勢いのまま佐賀で成功し、いずれは世界にだって翔けるだろう。君たちは本来の目的を叶えることができるのさ」

 

「──ちなみに、その神様の言葉に従わなかったらどうなるんだ?」

 

俺の言葉に対し、一瞬きょとんとする。

だがすぐに、楽しそうな笑みを浮かべると当然と言わんばかりに言葉を述べた。

 

「古今東西、神様に逆らう人間の末路は決まっているだろう?──ある日突然、バチが当たっても知らないよ?」

 

目の前の存在に対し、思考する。

この少女は明らかに普通じゃない。

ゾンビの秘密を知っていること、俺とさくらの生前の関係を知っていること、何故か星野アイにだけ執着していること。

その全てがこの少女の特異性を物語っている。

 

本当にこの少女は神様なのかもしれない。

俺は知らぬ間に神様の尾を踏んでいたのかもしれない。

今ここで、その言葉に従えば──少なくともフランシュシュは解散せず、佐賀を蘇らせる為の活動は続けられるのかもしれない。

 

 

 

『──巽!』『おいグラサン』『巽ー』『巽はん』『巽さん』『ヴァヴァヴィ』

 

『──巽。私、ここでなら本当のアイドルの夢、叶えられるかも』

 

『──幸太郎さんっ、私達はやっぱり、この八人でフランシュシュなんだなって!』

 

 

 

「・・・ふんっ、確かに。俺の究極の目的である佐賀を盛り上げ、佐賀を救うこと、それが叶うのならばアイを犠牲にするのは理に適ったことなのかもしれない」

 

「そうだとも。人間は損得を重視するものだろう?神様と敵対するなんて愚かな真似はしない方がいい」

 

あからさまに自分の思い通りにことが運ばれている様に満足している顔。

その顔を見て、俺は自分の決意をいっそう固くする。

 

「──だがしかぁし!それでは!常識に囚われたっ、普通の人間の考えに過ぎん!」

 

「──は?」

 

先程までと違い、大口を開けてポカンとする自称神を見て心の中でニヤリと笑う。

なんだ、案外人間らしさが滲み出てるじゃないか。

 

「正しい運命に導く?目的を叶えてあげる?随分と上から目線で結構なことだ!だが忘れたのか?フランシュシュは一度死んだ奴らが集まってできたアイドルグループだ!神様に見放されて死んだあいつらが、今更神様の施しなんぞ欲しがるものか!」

 

あいつらの顔を思い出す。

自分の死に負けず、アイドル活動を続けるあいつらを。

ここで神様なんぞに屈するのは、フランシュシュをプロデューサーとして、決してあってはならないことだ。

 

「そしてこの俺はっ、そんなフランシュシュを支える伝説のプロデューサーっ、巽!幸太郎様じゃい!例え神だろうと悪魔だろうと!俺を!フランシュシュを!縛りつけることなんてできないんじゃああああああい!!」

 

思わず椅子から立ち上がり、自称神を見下ろす。

この不気味な存在相手に、気押されない為にやったことだが案外別の効果があったらしい。

目の前の神様からは、先程までしていた笑みは完全に消え、顔を真っ赤にして必死に怒りを抑えているように見えた。

俺は勝利を確信し、更に追撃をかけようとしたところで

 

「おいっ、てめぇ!俺の店で何騒いでやがる!」

 

ジョッキにミルクをなみなみと注いだマスターが、ジョッキをカウンターに大きな音を立てて置いた。

その拍子にジョッキの三分の一くらいのミルクがカウンターに溢れたが、マスターは気にしてないようだった。

 

「・・・どうやら交渉は決裂のようだね」

 

突然の乱入に興を削がれたのか、自称神が視線を切る。

俺も肩でしていた息を戻しつつ、席へと座り直した。

自称神が目の前のジョッキを手に取る。

少女の手に不釣り合いな程大きいジョッキは、片手で持つには重かったらしく、両手で挟むように持ち直すとごきゅっごきゅっと大きな音を立てながら飲み始めた。

 

瞬く間にジャッキの中身が少女の喉を通っていく。

そのまま一息に飲み干すと空になったジョッキをカウンターに戻した。

 

「ごちそうさま。・・・この物語は彼等のものだ。決して、既に退場しているはずだった彼女のものではない。・・・ましてや、君たちのものでもない」

 

椅子から飛び降りた自称神は、衣服の乱れを正すと俺たちに背を向けて歩き出した。

 

最後に扉の前でこちらを振り返る。

 

「これは最後の警告だ。星野アイの魂を返さないと言うのなら、君たちは──後悔する事になるだろう」

 

「・・・口に牛乳の白髭がついてるぞ」

 

扉を勢いよく叩きつける音が、店内に響き渡った。

 

 

「・・・おめえよぉ、あんなちっちぇえガキ相手に、大人気なかったんじゃねぇのか?」

 

「・・・ただ大人の怖さを教えてあげただけですよ。ああいう手合いはしっかり言ってあげないと」

 

「・・・そうかい。ところであの嬢ちゃんのミルク代、お前のツケに追加な」

 

「待ってください。なんで俺が払わなきゃならないんですか」

 

「おめーが呼び込んだ客だろ?」

 

「知りませんよ。むしろ疫病神を追い払ったのですからこれまでのツケを帳消しにしてもらっても・・・」

 

「調子に乗んな」

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 




個人的にルビーは子役に対して変わらず辛口だといいなーって思ってます。
あとMEMちょはたぶんフランシュシュ好きだと思う。

原作推しの子が佳境に入り、ツクヨミの謎やカミキやらアイの過去がだんだんと明かされていって・・・。
この推しの子inSAGAもだいぶキャラ設定に矛盾が出たりすると思いますが、こまけえことはいいんだよ論で見て頂けると助かります。

引き続き書いていきます。
何とかペースは上げたいと思っていますが・・・。書きたいものが増えたり、ここ納得いかなくて書き直したりが多くて・・・。
ただ投稿は続けるので、気長に更新タイミングで一話から読み直して頂けると嬉しいです。まだ十七話しかないからすぐ読めるよ!(一話あたりの文字数に目を逸らしながら)

皆さんのたくさんのコメント、高評価、あと誤字訂正お待ちしております!
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