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ちなみに今回の話にアイはあまり出ません。すみません。
B小町がフランシュシュとのコラボ動画を撮ってから数日が経った。
東京に戻った私を待っていたのは、静かな怒りを宿したアクアだった。
連絡が取れなかったことや後先考えなかったこと等を長々と説教を受けた後、正座から解放されてその日は泥のように眠りについたっけ・・・。
そしてそんな私は今・・・
何故か東京某所のレッスン室で再び正座させられていた。
・・・
「で、私がいなかった間にそんなことがあったと・・・」
私は今、苺プロの事務所にソファーの前で正座していた。
目の前には芸能界の先輩であり、同じアイドルユニットB小町のセンター、有馬かなが脚を組んで座っている。
「他所の事務所に迷惑かけてコラボ潰しかけて、不良相手に喧嘩売って危うく火事にもなりかねなかった、なんてあんたねぇ・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
「まーまー、ルビーも反省してるようだし穏便に。ね?」
先輩が私のしでかしたことを言うたびに脚を組み替えて怒りの感情表現をする横で、同じくB小町のMEMちょがフォローを入れてくれる。
め、MEMちょぉ・・・。
「甘いわね、MEMちょ!こういう芸能界に憧れて入る奴が何度も炎上記事書かれて消えていくのがこの世界よ!今回のこと、社長とコラボ相手の事務所が上手いこと収めたみたいだけど、本来ならもっとネット的にも物理的にも燃えてたかもしれないの。その重大さをこの子も自覚するべきなのよ!」
「まー、そこに関しては同意するとこもあるけどぉ・・・」
「う、うう・・・面目ない・・・」
うう・・・自分でもやらかしたと思ってるから言い返せない・・・。
「・・・で、ずっと聞きたかったのだけど」
「・・・ん、何?」
「なんでこいつ、ここにいるわけ?」
先輩が指差した先、私が正座している後ろにはそれまで会話に入らず静かにしていた私の双子の兄、アクアがいた。
「今日はB小町のミーティングだったと思うんだけど」
「あーそれは・・・」
「この前の一件でこいつが色んな人に迷惑をかけたからな。二度としないよう、見張っているんだ」
「・・・だそうです」
「いや、『だそうです』っておかしいでしょうが!あんた、なんだかんだでB小町のミーティングにはこれまで一度も顔出してこなかったじゃない!」
苺プロの事務所でミーティングしてるから会うこと自体は珍しいことじゃないけど、だいたいアクアはこういう時、自分から席を外すようにしている。
アクアなりの気遣いなのかなーなんて思ってたけど、今日は最初からソファーに居座っていて離れようとしなかった。
「気にするな、別にミーティングの内容に口出しするつもりはない。事務所の端にいる置物とでも思ってくれ」
「いや、普通に気になるんだけど・・・」
そう。
佐賀から戻ってきて説教を受けてから、アクアは稽古の日以外はほぼずっと私のそばにいるようになった。
今までは監督の家とか仕事相手の人と食べていたごはんもほぼ家で食べるようになったし、下校の時もわざわざ正門前で待ってたりと顔を合わせない時間の方が少ないんじゃないかってくらいだ。
前からシスコンだったのは知ってたけど、最近は更に輪をかけてるような・・・。
「安心しろ、いざという時のために身バレ対策でぴえヨンマスクは持ってきてる」
「どこも安心できないわよ!あんたそれ、まだ持ってたの!?」
「ぴえヨンさんからいろいろ教わったからな。またお前らのダンスレッスンのトレーナーくらいはできるぞ」
「えっ!?あのアクアが手取り足取り・・・?ありかも・・・」
「おーい、かなちゃーん。また乗せられてる、乗せられてるよー」
「はっ!?わ、私はそんな軽い女じゃないんだからね!?」
「ちっ。・・・まあ俺は午前はオフで午後から舞台の稽古だからな。有馬も午後から稽古だし別にここにいてもいいだろ?」
「あ、アクアと一緒に稽古場まで・・・?し、仕方ないわね!どうしても、て言うなら一緒に行ってあげる!」
「おーい、かなちゃーん」
よし、アクアが先輩に捕まってるうちに・・・。
「・・・ルビー、どこに行くんだ?」
ぎくっ。
こっそり外に出ようとした私はアクアに呼び止められた。
「ちょっと飲み物を買いに自販機まで・・・」
「そう言うと思って冷えた飲み物を人数分用意しておいた。冷蔵庫に入ってるから好きなものを選べ」
「えっ、嘘・・・やだ、今日のアクアめっちゃ優しい・・・」
「さんきゅーアクたーん!」
「なっ、先輩だけでなくMEMちょまで!もっとアクアがここにいることに疑問を持って!この前から四六時中付き纏われて困ってるんだよこっちは!このままだと本気でダンスレッスンとかに口出ししてくるよこれ!」
飲み物で餌付けされる先輩とMEMちょに助けを求める。
先輩も(あとMEMちょ)も年頃の女の子!同世代の男性の前で汗だくな姿は見せたくないはず・・・!
だけど無情にも二人の返事は残酷なものだった。
「いやー、別にアクたんならいいんじゃない?普段から事務所で顔合わせること多いし。B小町の動画編集とかもたまに手伝ってくれるし、実質B小町みたいなもんでしょ」
「私は東京ブレイドでアクアと汗だくになって殺陣の練習すること多いし、今更感あるわよね」
「この裏切り者ー!」
ここに私の味方はいないのか・・・っ!
こんな時・・・こんな時にミヤえもんやママがいればきっと私の味方をしてくれるのにー!
「でも東京ブレイド、いったいどうなっちゃうのかしらね・・・」
「・・・そうだな」
先輩とアクアが意味深なことを呟いて静かになる。
「何かあったの?」
「・・・まあ、あんた達ならいいか。今現場で厄介なことが起きてるのよ」
「厄介なこと?」
「この舞台の原作、東京ブレイドが大人気漫画なのは知ってる?」
「知ってるー!私、ツルギちゃん好き!」
「あら、ツルギ役はあたしよ」
「・・・」
「なんだその苦虫を噛み潰したような顔はぁ!はっ倒すぞごらぁ!」
「はぁ・・・話を戻すぞ。元々この舞台、東京ブレイドは脚本ができるまでに原作者と揉めてるんだ」
「・・・原作者のアビ子先生が直してほしいと伝えていた部分が全く脚本家に話が伝わっていなくて、実際に稽古の見学に来た時にそれが発覚。原作者は怒って原作の使用を取り下げる、とまで言ったのよ」
「うわ・・・何それ、最悪じゃん」
「まあいろいろあって原作者と脚本家は和解。協力して脚本を作ったんだがこれがまた大変な脚本でな・・・」
「大変?」
「とことんセリフを削って、役者の演技で魅せる、役者頼りのキラーパス脚本になったのよ」
セリフを削ってその分、役者の演技に頼る脚本・・・。
それは確かに、演技未経験の私でも難易度が高そうだとわかるくらい大変そうだ。
「キャラ一人一人の心情を、感情を、役者一人一人が最低限のセリフと演技で表現する。その為には役者に、それ相応のクオリティが求められる。実力派揃いと言われた劇団ララライの連中やそいつ達と肩を並べられる程の役者じゃないと演じられない鬼脚本。・・・まっ、あたしは当然余裕だけどねー」
一瞬アクアの顔が曇った気がした。
もしかして先輩の言っていた鬼脚本を演じる上で、アクアは悩んでいることがあるのかもしれない。
「でもそんなあたし達の頑張りもなくなるのかもしれないのよねー」
「えっ?」
「何かあったの?」
私たちの疑問に、先輩とアクアの表情が暗くなる。
「実は───」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「「「「「「「「舞台ぃぃぃ?」」」」」」」」
ルビー達とのコラボ動画を撮り終えてから数日。私達はいつものように地下室に集められ、ホワイトボードに書かれた文字を見ていた。
舞台。
シンプルに二文字で書かれたホワイトボードの前で、巽のサングラス越しの瞳がキラリと光る。
「出演予定だった演者が急遽、体調を崩して出られなくなったらしい。そこで、代わりの役者を探していてうちに声が掛かった、ということだ」
「ちょっと待って!私達はアイドルグループでしょ?確かにアイドルが女優を兼ねることはあるけど、私達には役者としての経験はない。なのになんで声が掛かったの?」
「そんなもん簡単じゃい。俺がお前らのSNSアカウントにアイドル兼女優と載せてるからじゃい」
「・・・は?何それ、知らないんだけど」
「ていうか、いつの間に私達のアカウントできたんだろう?」
「ほへー、公式アカウントってことやと?本当にアイドルみたいで嬉しかねー!」
「さくらちゃん、リリィ達はアイドルだよ?」
「これもいんたーねっとの話でしょうか?」
「なんとまあ、摩訶不思議なものでありんすねぇ、いんたーねっとは」
「ちっともわからん!」
「ヴァウ!」
巽に掴みかかろうとする愛ちゃんを脇目に、皆とSNSのアカウントについての意見を言い合う。
ルビー達B小町とのコラボ動画も今度公開されるし、アカウントもできたのならもっとお仕事も増えそうかな?
巽はどっちかと言うとSNSとか使わずに、足で仕事を取ってくる古いタイプだと思ってたけど、何か心境の変化があったのかもしれない。
「だー!お前らいい加減に愛を止めんかい!・・・とにかく!この舞台に出演して、フランシュシュがアイドルだけでなく、役者としてのお仕事も取れるようにするんじゃい!」
「役者かぁ・・・」
映画やドラマのキャストなら何度もやったけど、舞台は初めてだ。
カメラ越しではなく、実際にお客さんの見てる前で演技をする・・・。
「なんだ、アイドルのお仕事と変わらないね」
「ちっちっち、甘いよ〜アイちゃん」
私の呟きにリリィちゃんがニヤリと笑う。
「舞台のお仕事はアイドルのライブと違って脚本家が作った台本があって、その台本に込められた脚本家の意図を読んで演技するの!悲しいーって気持ちとか嬉しいーって気持ちをお客さんにセリフだけじゃなくて、全身で表現するんだ!」
「おお〜。リリィちゃん、なんか燃えてるね」
「当たり前だよ!舞台のお仕事ってことは演技ができるってことでしょ?リリィ、演技のお仕事大好きだから!」
できればテレビが良かったけど〜。
そう言うがリリィちゃんは満面の笑みだ。
「そういえばリリィちゃんは天才子役って呼ばれとったよね」
「リリィさんの演技・・・是非見てみたいです!」
「このままアイドルを続けていくなら、私達も役者の仕事をやることになるかもしれないし、いい経験になるかも」
「舞台の上で座興・・・となると能や神楽でありんしょうか?舞であればわっちも多少は心得がありんすが・・・」
皆がわいわい騒ぐ中、巽がわざとらしく踵を鳴らした。
「そうだ。お前らはこれからこの輝ける道を踏破し、いずれはブロードウェイにも立つ存在・・・」
「幸太郎さん・・・」
巽の適当な言葉にさくらちゃんが感動して目をうるうるさせているが、他のメンバーは「またこのパターンか」みたいな顔をしていた。
「・・・なわけないじゃろがい!はい、残念でしたー!今回はソロのお仕事ですぅー!お前らみたいなペーペー共がいきなり全員でお仕事貰えるわけないじゃろがい、このすっとこどっこいがー!」
だよねー。
巽が私達を突然持ち上げる時は、だいたい最後に落としてくるからなー。
さくらちゃんが頬を膨らませている中、巽が視線をリリィちゃんに向けた。
「今回の仕事はリリィ、お前を指名じゃい」
「えっ?」
リリィちゃんが驚きで大きく目を開ける。
「・・・い、いいの?リリィがやって・・・」
「当たり前じゃい。指名されたのはお前なんだからお前以外が行ってどうするんじゃい」
「良かったね、リリィちゃん!」
リリィちゃんは我慢できなかったのか、頬を緩ませてえへへーと笑う。
うんうん、リリィちゃんはやっぱり可愛いなー。
「残りのメンバーは引き続き佐賀にて活動を行う。リリィを抜いたフォーメーションもしっかり練習しておけ」
「ん?ちんちくは佐賀の舞台に出るんじゃなかと?」
「いや、今回の仕事は東京だ」
「ふーん・・・て東京やと!?」
東京・・・東京かぁ。
・・・ん?
東京ってことは・・・苺プロがある!
つまり、ルビーとアクアに会いに行ける!?
「巽!リリィちゃん一人だと大変だろうから私が着いていってあげるよー!」
「待ちな!ちんちく一人行かせるなんてリーダーの名が廃るけん、アタシがついて行ってやるとよ!」
「私は東京で活動してたから土地勘もあるしフォローしやすいと思うの!」
思わず一緒に声を上げたサキちゃんと愛ちゃんを見る。
二人とも眼が本気だ・・・っ。
きっと相当な理由があって東京に行きたがってる・・・!
「お前らな・・・。今回の東京遠征はリリィだけじゃい」
「なんでよー!」
「仲間を一人にできんばい!」
「あんた、かわいそうだと思わないの!?」
「・・・がかかるんじゃい」
「えっ?」
「佐賀から東京まで、旅費や滞在費含めてかなりのお金がかかるんじゃーい!」
わー、身も蓋もないなー。
「お前ら全員の旅費や滞在費を考えると東京遠征なんてまだまだ無理じゃぼけー!大人しく佐賀でもっと有名になってがっぽがっぽ稼げる存在になってから文句言ってこんかいこのバカゾンビどもがー!」
ぜえぜえ言いながら巽が肩で息をする。
・・・でも確かに。
まだまだ私達は未熟なアイドルグループだ。
多少売れてきたとはいえ、海を渡って内陸で活動出来るほどの余裕はないんだろう。
「・・・よし、話を戻すぞ。今回、リリィ指名で依頼されたのは子供役のキャスティングだからだ」
「おおー、まさにリリィちゃんにぴったりのお仕事だね!」
「作品名は東京ブレイド。東京を舞台に新宿クラスタと渋谷クラスタの二大勢力がバトルを繰り広げる王道少年マンガだ」
「くらすた?」
「まあチームの別の言い方、みたいなものかな?」
「チームやと!?・・・へへっ、やっぱどの時代もバトルって言ったらチーム同士の喧嘩やけんな!」
「へー、今は漫画も舞台劇にするんですね・・・」
「私が生きてた頃は、マンガやアニメ原作のミュージカルがちょっとずつ増えてきてたかな?」
「今回、先方から役作りの資料としてコミックス版を貰っている。興味があるなら読むといい」
「ふむ・・・これはポンチ絵でありんしょうか?」
「ゆぎりん、これはね?マンガって言うの!」
「ヴァアァウ!」
「あー!たえちゃん食べ物じゃないから食べちゃダメやって!」
「で?ちんちくがやるキャラってどれと?」
皆がそれぞれ手に取ったコミックスの巻頭にあるキャラ紹介を見つつ、耳を傾ける。
巽はそれに対し一拍置いた後、ゆっくりと口を開いた。
「そこには載っとらん」
「??」
「コミックスの範囲じゃなかとですか?」
「小説版があってそっちからゲストで出すとか?」
「いや、違う。───今回、リリィにキャスティングの依頼があったのは、この舞台オリジナルのキャラクターだ」
「「「え、ええええええ!?」」」
さくらちゃんと愛ちゃんが大声を上げる。
あれ?今どこか変なところあったかな?
「そ、それって大丈夫とですか!?」
「オリジナルキャラなんて・・・下手したら炎上するわよ・・・」
「そんなにまずいことなんですか?」
「よくわからんとね・・・ピンと来んと!」
「・・・原作がある以上、各キャラにはファンが一定数いる。観客は自分の推しキャラを目当てに観にくると言っていい。だけど、この舞台オリジナルのキャラには公開されるまでファンなんているわけがない。そして舞台の出来が悪かった場合、得てしてそう言った原作になかった要素は叩かれやすいの」
「下手したらリリィちゃんが嫌な思いをすることになるかも・・・。ど、どやんすー!」
さくらちゃんが取り乱す中、巽が静かにリリィちゃんの方を見る。
「今回の依頼はリリィ、お前を指名だ。アイドルグループフランシュシュとしてではなく、フランシュシュ六号として、この仕事を受けるかお前が判断するがいい」
「・・・」
リリィちゃんは少しの間、迷うように目を伏せる。だけど、すぐに巽の視線を真っ直ぐに受け止めた。
「──もちろんやる!どんな役だって、テレビのお仕事じゃなくたって!またあの舞台に、役者として立てるならリリィは何でもやるよ!」
「・・・よし、お前の覚悟はわかった」
巽はそう言うと、この部屋に入ってきたと同時にホワイトボードの横に置きっぱだったトランクケースを横に倒した。
鍵がロックされてなかったのか、人が入れそうなほどのトランクケースの口が衝撃で開く。
「はい、じゃあ今からこのトランクケースに入ってもらいまーす」
「え?」
「飛行機のチケットを買うよりも、荷物として輸送する・・・少しでも旅費を浮かせるには、これが一番安く済むんじゃい!」
ええ・・・。
流石にこれには皆もドン引きだった。
「絵面が完全に死体を運搬する犯罪者ですね・・・」
「いや、どうみても誘拐犯でしょ・・・」
「わっちの時代でも身売りはもっとマシなカゴでありんしたなぁ」
「わーリリィこれからどこに売られるんだろー」
「ああっ、リリィちゃんが死んだ目に!」
「もう死んでますけどね」
「巽、流石にこれは無いと思うよ?」
「ええい!文句があるなら他にいい案を出してから反論せんかい!このバカゾンビ共が!・・・と・に・か・く!もう既に先方には喜んでお受けしまーすと返している。そして出発はもちろん・・・」
巽は一度そこで言葉を切るといつものように言った。
「今からじゃーい!!!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「うう・・・頭うったぁ・・・」
トランクケース越しに振動が伝わる。
東京に着いたのかな?
何か外の状況がわからないか、耳をすませる。
「・・・おい、荷物は丁寧に扱えよ?最近はちょっとでも傷があるとすぐクレームが来るからな・・・」
「うーす。気をつけまーす」
「ったく・・・。しかしでけーバッグだな、旅行で来た外国人とかか?」
「・・・案外人が入ってたりして?よくあるじゃないっすか、ゾンビパニックものの映画とかで」
「ははは、なら今頃俺たちは噛まれてゾンビになってんな!まあ、その前に今着いた東京行きの便がパンデミックになってるだろうけどなー」
「っすよねー」
ピンポイントな話題に思わず声が出ないよう口元に手をやる。
き、気づかれてない、よね・・・?
しばらくすると声が遠ざかっていき、何やら運ばれてるような振動だけが伝わるようになる。
やがて浮遊感と共にトランクケースの向きが変わり、キャスターが地面を擦る音が聞こえるようになった。
「・・・さんですね?お届け物です。こちらにサインお願いします。・・・はい、ありがとうございます。こちらに運んでおきますねー」
『それと今回、俺は同行しない。こっちでフランシュシュの面倒を見なければならないからな。東京に行くのはお前だけだ』
『代わりに協力者を一人用意した。お前を入れたトランクはそいつ宛に送っておく。東京に着いたらそいつを頼れ』
『そいつは今回、お前も参加する東京ブレイドの共演者でもある。せいぜいうまくやるといい』
『そいつの名前は──』
「ありがとうございましたー!」
宅配員らしき声が遠くなっていき、トランクが横になった。
ガチャガチャという音と共にトランクがゆっくりと開く。
久しぶりの光に目を細めながら開けると、蜂蜜色の髪と
「お前は・・・」
「・・・あなたが協力者さん?」
綺麗・・・。
童話の中にいるような王子様みたい。
目の前の男の子はリリィの顔を見て驚きの声をあげるがすぐに無表情になった。
・・・いや、よく見ると眉間に皺がよってるから呆れてるのかも?
「・・・協力者とは何のことだ?」
「あれ?違うの?巽から聞いてない?」
男の子は巽の名前を聞くと、思い当たることがあったのか、大きくため息をついた。
「・・・いや、なんとなくわかった。・・・くそっ、あとは任せたって連絡があったのはこういうことか・・・!」
どうやら巽は、だいぶ適当にリリィのことを伝えてたみたい。
男の子は怒りを滲ませながら思い出すかのように声を震わせていた。
「えっと・・・」
「・・・アクアだ。星野アクア、星野ルビーの双子の兄だ」
「アクアくん!リ・・・六号はね?フランシュシュ六号だよ!六号って呼んで?」
「ああ」
ルビーちゃんのお兄ちゃん・・・ってことはアクアくんもアイちゃんの・・・?
確かに、言われてみるとルビーちゃんと髪の色も同じだし顔立ちも似てる気がする。
「アクアくんは巽のお友達なの?」
「・・・断じて違う。あれとは良くて仕事仲間みたいなものだ」
心底嫌そうに呟く。
巽って仕事先では結構外面いい筈だけど、アクアくんには隠してないのかな?
「・・・こっちに来たのはお前一人か?」
「うん、出演するのは六号だけだからーって」
「そうか・・・じゃあお前が舞台『東京ブレイド』の代役か・・・もう台本は読んだか?」
「うん、まだ台詞を全部は覚えられてないけど、一通りは読んだよ!」
アクアくんの表情が一瞬柔らかくなる。
その顔は役者として、同じ舞台に立つ仲間を見る眼だった。
「俺も『東京ブレイド』に『刀鬼』役で出演する。何か舞台の内容で気になることがあれば聞いてくれ」
「・・・ありがとう!」
アクアくん・・・最初はちょっと気難しそうって思ったけど、実は優しい人なのかも。
「ただいまー!・・・あれ?アクアー、もう帰ってるのー?」
「・・しまった、もうこんな時間か」
部屋の外から女の子の声が聞こえてきて、ドタドタと床を走る音が聞こえてくる。
あれ?今の声、もしかして・・・ルビーちゃん?
結局ルビーちゃんとはあの後、ちゃんと話せないまま佐賀では別れてしまった。
本当はリリィのせいでルビーちゃんを怒らせてしまったし謝りたいと思ってた。
良かった。ここにルビーちゃんがいるなら、今度こそごめんなさいを言おう。
「・・・とりあえずそこのベッドに隠れてくれ・・・!この状況を見られるのはまずい・・・!!」
そう言って指差した先には簡素なベッドがあった。
よく見ると、アクアくんの部屋はものが少なく、全体的に殺風景だった。
・・・むぅ、せっかくキラキラしてるのにお部屋はカワイくない・・・。
リリィがルビーちゃんと知り合いなこと、アクアくんは聞いてないのかな?
ならここにいることが知られるのはアクアくんにとって良くないのかも・・・。
とりあえずアクアくんの指示に従ってベッドに潜り込む。同時に扉が勢いよく開く音がした。
「あれ?今誰かと話してなかった?」
「いや、していないぞ。前も言ったが部屋に入る時はノックをしろ、家の中で走るな、帰ったらまず手を洗え。それから・・・」
「わかってますよーだ。・・・ん?そのトランクどうしたの?」
「ああ・・・これは、監督の荷物だ。次の撮影で使うらしくてな、俺が預かっているんだ」
「へー、そうなんだー」
「・・・俺はこのあと、少し出てくる。飯はこっちで食べるからすぐに戻ってくる、と伝えといてくれ」
「ミヤコさんにだよね?はーい、いってらっしゃーい」
扉が閉まる音と同時にルビーちゃんの声が遠ざかっていく。
完全に聞こえなくなったタイミングでアクアくんが声をかけてきた。
「よし、というわけで出るぞ。ここじゃ落ち着いて話せないからな」
・・・・・・
・・・
「で、なんで俺んとこ来るんだよ・・・」
アクアくんに連れられてきた先は、別の家だった。
アクアくんは勝手知ったると言わんばかりに中に入ると、やがて一つの部屋で立ち止まる。
軽くノックをして反応がないことを確認すると躊躇いなく開けた。
そこにいたのは・・・ボサボサの髪の毛、伸ばしっぱなしの髭、そして気怠そうな目のおじさんだった。
ていうかこの人・・・
「可愛くない鳥のCM撮ってたおじさん!」
「あ?お前確か・・・アイ似のアイドルがいたグループのがきんちょじゃねーか」
「がきんちょじゃないもん!フランシュシュ六号だもん!」
むー!
確かにリリィは永遠の十二歳だけど、がきんちょ呼びはカワイくない!
「ははは、悪いな。・・・で、なんで早熟とお前がセットでいるんだよ?」
「フランシュシュの自称プロデューサーに東京での世話を頼まれた」
「へー。お前、あいつと知り合いだったのか」
「不本意だがな」
心底嫌そうに眉間に皺を寄せながら溢す。
本当に嫌いなんだろうなー。巽、空気読めないとこあるしなー。
「で、なんだってそのガキ・・・子供を俺んところに連れてきたんだ?」
「ああ、頼みがあってな。──しばらくの間、こいつを泊めてやってくれ」
「・・・え?」「・・・あ?」
思わずおじさんと一緒に間抜けな声をあげる。
あれ?なんでそうなったの!?
「ちょっと待て!何でそうなる!?」
おじさんがリリィの代わりにアクアくんを問いただす。
「仕方ないだろ。うちには泊められないし、俺の知り合いでこういうこと頼めそうなのがあんたしかいなかったんだ」
「こんな時に頼られても嬉しくねえよ!だいたいなんでお前の家じゃダメなんだよ!」
「いや、いきなり小さな子供を連れ帰ったら犯罪を疑われるだろ・・・」
「なんで当然だろ・・・?みたいな顔でそんなことが言えるんだよ!俺だってかーちゃんになんて言って許可とんだよ!ただでさえ普段から『泰志はいつになったら孫の顔を見せてくれるのかねー』なんて嫌味言われてんだぞ!」
「いい加減に子供部屋おじさんを卒業して、所帯を持つなり一人暮らしすればいいんじゃないのか?」
「うるせえよ!前も言ったろうが!実家住みの方が映画監督はいろいろ楽なの!そういう職業なの!」
冷静なアクアくんに対しておじさんがギャーギャーと騒いでいる。
これじゃあどっちが大人かわからないなぁ・・・。
ここには巽も皆もいない。
そしてその環境を選んだのはリリィ自身だ。
アクアくんのお家は興味あったけど、このまま断られちゃったら今夜の寝る場所も見つけられない。
せっかくアクアくんが手伝ってくれてるんだ。
リリィも頑張らないと・・・!
「さっきから泰志っ、あんた、うるさいんだよ!近所迷惑を考えな!」
「げぇっ、かーちゃん!?」
急に扉を開けて知らない人が入ってきた。
エプロンを着てお玉を持った姿・・・おじさんがかーちゃんって呼んでたし、この人がおじさんのマミーなのかな?
おじさんのマミーはおじさんを一喝すると、ゆっくりと周囲を見回す。
アクアくんを見て柔和な笑みを浮かべ、次にリリィを見て・・・烈火の若く険しい顔を浮かべた。
「泰志・・・あんた、ついに犯罪に手を・・・ッ」
「ちげーから!ぜってえ勘違いしてっから!・・・おい、早熟!お前からも早く説明して誤解を解け!」
「お邪魔してます。・・・実はこの子は最近上京して、俺と同じ事務所に所属したばかりの子役なんですが身寄りがなくて・・・。そしたら世話になってる監督が『水臭えな・・・何年お前の面倒を見てると思ってるんだ?こんな時くらい俺を頼れよ・・・(キリッ)』って言ってくれて・・・」
「早熟!てめえ何勝手なことを・・・!」
「そんな・・・泰志、あんたって子は・・・っ」
「かーちゃん!?」
おじさんのマミーが目をうるうるさせてアクアくんの言葉に頷いている。
これは・・・あと一押しかも?よーし・・・!
「いいよ、おじさん・・・。会ったばかりのおじさんに迷惑を掛ける訳には行かないから・・・。六号は・・・自分で何とかするから・・・っ」
「・・・他人のために、自分を犠牲に・・・!な、なんていい子なんだい・・・っ」
「なっ!?こ、こいつ、いつの間に泣いて・・・!?」
健気な子を装うために涙を拭う。
リリィは役者だ。泣こうと思えばいつだって、どこだって、涙を流せる。
子役の頃はよくドラマや映画で泣く演技をしてたからねー。
「おばさんもごめんね・・・?六号が無理言っちゃったせいだから・・・、おじさんのことは怒らないであげて・・・」
「こ、こんな時に泰志のことまで気遣って・・・っ」
おばさんは我慢ができなくなったのか、リリィのことを力いっぱい抱きしめた。
「あんたはもううちの子よぉ!いつまでだって居てくれていいんだからね!」
「なっ、おい!かーちゃん!?」
「あんたは黙ってな!アクアくんはあんたの弟子なんだろ!?わがままをたまには聞いてあげたっていいじゃないか!それにこんなに小さい子が頼ってきてるのにあんた見捨てるのかい!?」
「いや、でもなぁ・・・?」
その後もおじさんとおばさんが話し続けてたけど、おじさんは終始劣勢だった。
これなら、何とか今晩は屋根があるとこで寝れそうかな?
「・・・まあ、何とかなりそうだな」
「うん、アクアくんありがとう!」
「たいしたことはしていない。・・・稽古は明日からだ。朝九時に迎えに行くから準備して待っていてくれ」
「はーい!」
アクアくんを見送ってから振り返ると、しょぼんとしているおじさんとニッコニコのおばさんが並んでいた。
「六号ちゃんでいいのよね?話ついたから安心して!もう自分の家だと思ってくつろいでいいから!」
「わぁ・・・ありがとう、おばさん!」
「・・・まっ、もう何も言わないけどよ。仕事の邪魔だけはすんなよ?」
「うん、わかった!」
知らない土地、知らない人。
皆がいなくて本当は心細いし不安だけど、大好きなお芝居のお仕事だし、何よりもこれは皆の、フランシュシュの今後にも関わる大事なお仕事だ。
巽が言ってた。
今回のお仕事は、今後フランシュシュが佐賀を飛び出して内陸でも活動するための第一歩にするんだって。
皆にはいつも助けてもらってるし、今回はリリィが頑張らないと!
・・・・・・
・・・
巽幸太郎から届いた荷物を監督に預けた翌日、俺は監督の家を朝早くに訪ねていた。
朝早い時間のため、普段は押さないインターフォンを鳴らす。
『はーい!五反田でーす!』
「俺だ、アクアだ。もう行けそうか?」
『アクアくん?うん、行けるよ!すぐ出まーす!』
バタバタという音と共に、フランシュシュ六号・・・星川リリィが飛び出す。
「お待たせー!」
「よし、行くか」
「うん!」
見た感じ元気そうだ。
昨日は半ば押しつける形で監督に任せてしまったが・・・心配は杞憂だったらしい。
「・・・六号ちゃん!お弁当忘れてるわよ!」
「えっ?・・・本当だっ、ありがとうおばさん!」
家から出てきた監督のかーちゃんが、キャラクターの描かれたランチョンマットで包んだお弁当を星川リリィに手渡す。
「あっ、良かったらアクアくんのも詰めてこようか?」
「いえ、おかまいなく。昨日の夕飯の残りを詰めたものがあるので」
「あらそうなの?女子力高い男の子はモテるわよ〜」
「どうですかね・・・。お気持ちだけ頂きます。・・・監督はまだ寝てますか?」
「泰志?泰志なら・・・」
監督のかーちゃんが答える前に車のクラクションが鳴った。
何事かと思い振り返るとそこには・・・
普段は車庫に眠っている筈の、ワンボックスの運転席の窓から監督が手を振っていた。
「よぉ、早熟。稽古場まで送ってやるよ」
「・・・なんで普段はガソリン代がもったいないからって乗りたがらない車に乗ってるんだ?」
「・・・なに、たまには乗ってやらねえと俺の腕もこいつも錆びちまうからな」
キザったらしく髪をかきあげて言い放つ。
どうしたんだ・・・こいつ。
そもそも普段は昼まで寝てるのもざらなのに、今日は朝から起きてるうえに、外出しない限りは伸ばしっぱなしの無精髭も整えている。
何というか・・・妙に気合が入ってるように見える。
「わぁー・・・それが昨日、泰志くんが言ってた車?かっこいいー!」
「だろー?普段はあんま見せないんだけどよ。六号が見たいっていうから特別になー?」
だらしなく口元を緩ませながら十歳くらいの子供にでれでれする四十代のおっさん・・・だいぶ絵柄がきついな・・・。
それにしても昨日と星川リリィに対する態度が全然違う・・・。
一体何があったんだ・・・。
「聞いてよアクアくん!もう泰志ったら昨日、六号ちゃんと意気投合しちゃってね?遅くまで二人で映画観て盛り上がってたのよー」
「そうだったんですね・・・」
この場合このおっさんがちょろいのか、星川リリィがうまく取り入ったのか・・・。
とはいえ、一晩であの強面の監督に気に入られるのはすごいな。
「しかしこの車は・・・」
酒で潰れた監督を介抱した時に聞いたことがある。
何でも監督は、これでも昔は結婚願望や自分の子供に憧れている時期があったらしい。
その時に購入したものの一つがこのワンボックスで、いつか家族を連れて旅行に行くのが夢だったとか。
結婚した時の夢を叶える為に買った車に、なし崩し的に居候になった子供を乗せる・・・。
なんというかこう、子供がいない大人が子育て願望を叶えようとしてるみたいであれだな・・・。
「おーい、早熟。何だー、その目はー?何か言いたいことがありそうだなぁ?」
「いや、別に。何もないですよ五反田さん」
「呼び方ぁ!めちゃくちゃ引いてるじゃねーか!・・・いいだろぉ!?俺だってたまにはガキにいい格好してえんだよ!独身の大人にはこういう時があんの!これが普通なの!」
喚いてる監督の隣の助手席に無言で座る。
星川リリィは自然と後ろの席に座った。
「じゃあおばさん!行ってきまーす!」
「ええ、気をつけていってらっしゃい!アクアくんもねー!」
「・・・はい、行ってきます」
・・・
稽古場についた俺たちは監督の車から降りると建物の中に入る。
監督が最後まで名残惜しそうに手を振っているのは正直なかなか見ててきつかった・・・。
「・・・今日の稽古はキャストも演出家も全員が揃ってる日だ。お前の出番は少ないとはいえ、気になることがあれば聞いてくれ」
「うん」
「よし、行くぞ」
稽古場につながる扉を開けると既に全員が揃っていた。
発声練習をするもの、台本を読むもの、他の演者と意見を出し合うもの・・・まだ朝早いというのに彼等に流れる空気はピリピリしていた。
・・・まあ無理もないか。
今この舞台は中止になるかどうかの瀬戸際にいる。そんな中でモチベーションを保って全員が集まってるなんて、つくづく役者というものは酔狂な奴らばかりだ。
俺たちに気づいた全員が手を止めて、その視線がいっせいにこちらへと注がれる。
・・・いや、正確には俺の隣にいた星川リリィへと。
「やあやあ、よく来てくれたねー!アクアくんも迎えに行ってくれてありがとう!」
場の空気を無視するかのように一人の男が声をかけてきた。
髪を白と黒に半分ずつ染めており、サングラスをして指抜きグローブをしているこの男は雷田澄彰。
舞台『東京ブレイド』のプロデューサーだ。
・・・そしておそらくこの男が、鏑木Pを通して俺にフランシュシュへの渡りを依頼した奴のはず。
その証拠に、ここにいる他の人は星川リリィを見て何で来たのかわからずに呆然としている。メルトに至っては頭の上にはてなマークまで浮かんでいるしな。
「おっと、自己紹介が遅れたね。僕は雷田。この舞台のプロデューサーさ。・・・そして聞いてくれ皆!彼女こそ、大空ライトくんの代役として呼んだフランシュシュ六号ちゃんだ!」
雷田Pの言葉に一瞬稽古場にいた全員が静まりかえる。
だがすぐにざわざわと騒ぎ出した。
その内容は主に戸惑いと、代役として紹介された星川リリィへの疑念。
・・・まあ当然の反応だな。
元々、この『ムラクモ』というキャラクターは大空ライト、という子役が担当する筈だった。
だが公演間近を控えたこの時期に大空ライトが体調を崩し、初回公演に出られないと打診があったらしい。
そもそもこの『ムラクモ』は原作に登場しないオリジナルキャラクターで、この舞台の出資者のわがままで急遽捩じ込まれた・・・というのが真相だ。
ただでさえ、舞台用に書き下ろされた脚本を見て原作の使用を取り下げかけてたのに加えて、このオリキャラの存在は原作者、鮫島アビ子先生の怒りを買いに買った。
だが結果的には脚本家のGOAさんと和解し、役者の演技に頼った台本に落ち着いた。
このオリキャラにもアビ子先生自ら設定を追加し、描き下ろしのキャラ絵まで用意された。
様々な奇跡が起こってなんとかここまで漕ぎつけた舞台『東京ブレイド』、だが初公演まであと僅かしかない中での代役ということもあって演者の不安は大きくなっていた。
「・・・静かにしろ。この件は俺も聞いてる話だ」
周囲を一喝するかのように、劇団ララライの代表兼東京ブレイドの演出家でもある金田一敏郎が口を挟む。
有無を言わさぬその一言に、ざわついていた連中が静かになる。
完全に沈黙したタイミングで、金田一が星川リリィに向かって声をかけた。
「俺がこの舞台の演出家の金田一だ。早速だが台本は持ってるか?」
「う、うん、持ってるよ」
「なら、123ページを開け。姫川!有馬!お前らもだ。殺陣(たて)はなし、新宿クラスタVS『ムラクモ』の1シーンの読み合わせをする」
雷田Pが軽く紹介したとはいえ、星川リリィにとってはここは完全にアウェーのはず。
誰がどの役かだって把握できてないだろう。
その状況でのいきなりの読み合わせ。
誰が見たって無茶振りだ。
・・・だがこいつは、あの『星川リリィ』、ここは、口を挟まずに様子を見るとしよう。
・・・
「よし、そこまでだ!」
金田一が指定したパートが終わる。
終わりの合図を聞いた三人が、演技を解いて息をつく。
「・・・」
演技が終わっても、誰も何も言わない。
全員が無言の中、ゆっくりと金田一が口を開いた。
「姫川、有馬、お前らから見て今の演技はどう思った?」
珍しいな。
金田一は普段、芝居を他の役者に評価させない。
そんな金田一が姫川と有馬に感想を求めた。
何か意図があるに違いない。
・・・ララライの看板役者である姫川、元天才子役の有馬。どちらもベテラン役者である二人からの星川リリィの評価は・・・。
「なんていうか・・・微妙ね」
「ああ・・・微妙だな」
「ええー!?」
有馬と姫川の率直な評価に、星川リリィが思わず素っ頓狂な声を上げた。
「演技に感情は乗っている。その年齢でできるのはすごいが出力のし方が変な感じだ」
「ええ、やり方は知っているのにそれをうまく表現できてないってところかしら」
ララライ組も同じ評価らしく、あかねも含めて頷いてる奴が何人か見えた。
「・・・お前、芸歴は何年だ?」
姫川と有馬の意見を聞いた金田一が星川リリィに尋ねる。
その言葉には、この舞台に立たせるかどうか、返答次第では帰らせるといわんばかりの迫力があった。
その気迫を感じ取ったのか、星川リリィも緊張した面持ちで答える。
「えっと・・・一年・・・かな?」
「・・・そうか」
金田一はそれだけ言うと雷田Pに向き直った。
「雷田、『ムラクモ』の代役はこいつで決まりだ」
その言葉に他の役者がざわめき出す中、雷田Pがほっと胸を撫で下ろす。
「・・・よしっ、じゃあ金ちゃんのOKも出たことだし、改めてよろしくね、フランシュシュ六号ちゃん!」
・・・
同じ舞台に立つ以上、役者間の信頼は大切だ。
金田一と雷田Pも同じことを考えていたのだろう。
稽古が始まる前に、改めて星川リリィの自己紹介を軽く挟むことになった。
「初めまして、フランシュシュ六号です!よろしくお願いします!」
軽く拍手の音が鳴る。
金田一が認めた以上、共演に文句はないがまだ困惑してるって感じか。
「初めまして、私は鞘姫役の黒川あかねだよ。六号ちゃんはどこの事務所所属なの?」
「あかねちゃん・・・?もしかして劇団紫陽花の?」
「あれ?よく知ってるね。それ、昔所属してた劇団だよ。私がインタビュー受けた時の記事でも読んでくれたのかな?」
「あっ・・・、う、うん!じ、実はそうなんだー。あ、あとっ、六号はアイドルをやってて・・・」
「えっ?じゃあ演技は独学?」
「確か昔、どっかの事務所で子役やってたとか言ってなかったかしら?」
「そうっ、そうなの!」
「へー・・・。かなちゃんとアクアくんは六号ちゃんと知り合いなの?」
「あたしは前にアイドルの仕事で一緒になったことがあるわね」
「俺はそのアイドルグループのプロデューサーと以前会ったことがあるくらいだ。六号と話したのも昨日が初めてだしな」
続けてララライのメンバー、鴨志田、メルトが自己紹介を続けていく。
星川リリィは忘れないように、一人一人の顔を見て名前を復唱していた。
「ごめんね、一気に名前言っちゃって・・・覚えるの大変でしょ?」
「ううん!人の名前と顔、覚えるの得意だから!」
「・・・ふむ、その星飾りに髪型・・・」
「あっ、だよね!・・・もしかして六号ちゃんって星川リリィ」
「えっ!?」
何?いくら見た目が似ているとはいえ、星川リリィは既に故人。
まさかそんなに早く正体に気づいた奴が──
「──のファン?髪型も同じだし結構ガチめ?・・・でもよく知ってるねー、あの子が活躍してた時期って私が十代の頃だからだいぶ前だよ?」
「あ、あはは・・・。ろ、六号のマミーがファンだったから、六号も好きだったんだー」
「ああーなるほど。てかマミーてお母さんのこと?可愛いー!」
ララライのメンバーにもみくちゃにされる星川リリィ。
どうやら正体に気づいたわけではないらしい。
・・・なんで俺がアイでもないゾンビの正体バレに気を遣わなきゃならないんだ。巽幸太郎め、次会ったら許さん。
しかし、他のキャストとは仲良くやれそうだな。
昨日少し話した感じでは問題なさそうではあったが、俺の中で天才子役だとどうしても昔の有馬が思い起こされるからな・・・。
「な、なによ?あたしの顔に何かついてるわけ?」
「いや、人はやっぱり変わるんだなって」
「・・・何か含みのある言い方ね・・・」
「・・・よし、自己紹介はこんなもんだろう。あとは練習の合間に各自で六号をフォローしてやれ。稽古に入るぞ」
金田一の号令に各々が返事をして立ち上がる。
本番まで残り数日、この僅かな時間で星川リリィは演技を仕上げなければならない。
・・・
やはりと言うべきか、稽古は星川リリィが出るシーンを重点的に行われた。
「・・・ちがうっ、そこはテンポを優先しろ」
演出家の金田一は優秀だ。
脚本の意図をしっかりと把握してキャストへ落とし込んでくる。
「次は星野とあかね、鴨志田とのシーンをやる、各自準備しろ」
「「「はいっ」」」
「・・・は、はいっ」
・・・こうして共演するとわかることがある。
確かに、星川リリィからは演技経験者特有の慣れを感じる。
俺が今、苦戦している感情演技もこいつはわかってやっている。
だが、それが舞台上でうまく表現できていない・・・ように見える。
だから違和感を感じさせる。
「・・・ダメだな。もう一度だ」
「はっ、はい!よろしくお願いします!」
・・・
「よしっ、休憩だ。俺はタバコ吸ってくるからお前らも体と喉を休ませとけ」
「おっ、僕も付き合うよ〜金ちゃん」
演出家とプロデューサーが席を外し、一時的に稽古場の空気が和らぐ。
誰だって指示を出す人間がいない間は気を抜きたがるものだ。
普段は金田一が共演者同士は互いの演技に口を出さないよう言っている為、その金田一がいない場では互いの演技にダメ出しする時間となっていた。
「メルト。あんた、また台本のままのセリフになってたわよ。もっと感情をセリフの端まで乗せなさい」
「ぐっ・・・。わ、わかってるよ。ただどうもキザミの役がまだ完全に理解できてなくて・・・」
「役作りは演技の基本。あんた、本番でも同じこと言うつもり?」
「・・・いや、そんなこと言うつもりはねえよ。本番までには必ずキザミのこと、理解してやるさ!」
各自が互いの演技を評価する中、星川リリィは台本を見ながら、先程の演技を再現していた。
「うーん・・・」
だがその表情は暗く、まだ掴み兼ねてるみたいだった。
「六号ちゃん、良い子だね」
「・・・あかねか」
「金田一さんの指導に弱音も言わずに向き合ってる。金田一さん、結構厳しいこと言うから辞めちゃう子もいるんだけど、あの子はへこたれてないみたい」
「ああ・・・。どうやら演技に対する熱意はあるみたいだな」
俺は演技への熱意はないが、目的があってこの舞台に役者として参加している。だから金田一の厳しいしごきにも耐えられる。
だがあいつは・・・おそらく演技が心から好きなんだろう。
あかねや有馬、姫川達に通じる情熱が感じられた。
「──六号、おっさんの言うことは話半分に聞いておけ」
「大輝くん・・・」
姫川が悩んでいる星川リリィに声をかけた。
その目は普段の無気力な感じではなく、真剣に見える。
「あのおっさんの演技指導はだいたい正しいが、時に役者の成長の為に本質を言わないことがある。今回がまさにそれだ」
「・・・そうなの?」
「ああ。俺や有馬が感じた違和感を、あのおっさんが感じない訳がない。・・・ありゃあ知ってて黙ってるんだよ」
「げっ、そうだったの?性格悪いわねー」
姫川と星川リリィの会話に有馬が口を挟む。
どうやら有馬なりに星川リリィのことを気にはしていたらしい。
「かなちゃん」
「あんたにかなちゃんなんて呼ばれる筋合いは・・・まあいっか。要するにあの演出家は、この時間がない時に教育者ぶってるってこと?随分勝手だこと」
「まああのおっさん、だいぶ好き嫌い激しいからな。気に入った人間にはとことん甘いし、とことん厳しくもなる」
「・・・まっ、気持ちはわからなくもないけど」
「・・・?どういうことだ?」
「──つまり、金田一さんは六号ちゃんに期待しているんだよ」
今度はメルトとあかねが会話に入っていく。
気がつけば、自然と六号を中心にメインキャストの大半が集まっていた。
・・・何故か俺も含めて。
あかねめ、無理矢理引っ張っていきやがって・・・。
「金田一さん、目をかけてる人には期待も込めて特に厳しくするからね。・・・まあそのせいで劇団ララライは少数精鋭になっちゃったけど」
「おっさん、マジで容赦ないからな。俺なんて何度か蹴られたし」
「あれは顔合わせで寝てた姫川さんが悪い気がするけど・・・」
姫川とあかねが懐かしむように金田一の話をする。
・・・この流れは予想していなかったが、金田一の過去が辿れるのならアリだな。金田一はアイ殺しの候補の一人だ。実行犯でなくとも、関わりがある可能性がある。ここは少しでも会話を長引かせて情報を・・・。
「な、なぁ、アクア・・・?俺、金田一さんに厳しくされた覚えないんだけど・・・」
「・・・あまり期待されてないんじゃないか?」
「ぐっ!・・・予想してたとはいえ、実際に口にされると来るものがあるな・・・」
「まあ出演作が今日あまだけじゃな・・・」
「ぐはっ!」
しまった、メルトのくだらない話に突っ込んでたら聞き逃した。
話は金田一のことから星川リリィの演技に変わっていた。
「六号、あんたは演技に感情を乗せたりするのは意識してやってるでしょ?けれどそれが共演者(私達)には伝わってるけど観客には伝わっていない。だから違和感が出てるのよ」
「とは言っても演技が小さくなってる訳じゃない。むしろちょうどいいくらいに見える」
「間の取り方とか、役者同士の立ち位置とかの細かいところもちゃんとできてるよね。なんで違和感を感じるんだろう?」
・・・星川リリィ。
かつて、一世を風靡した天才子役。
その天才が感情を乗せる演技、なんて役者にとって初歩的な技術を知らずに演技をしているとは思えない。
事実、同業の有馬達には伝わっている。
・・・かつて、星川リリィはテレビでの仕事に執着していたという。
その活躍は、ついには全チャンネルのゴールデンタイムで主演を務めたという快挙まで至っている。
なら考え得る彼女の欠点は・・・。
「六号、前に舞台演技は久しぶりだって言ってたな?それまでは何をやっていたんだ?」
「えっと・・・アイドルのお仕事でダンスとか歌、かな?」
「ならその前は?」
「えっ?」
「アイドルになる前だ。子役だったんだろ?」
「て、テレビのCMとか、かな?・・・地方のだけど」
「マジか・・・」
「はーっ、子役ってのはいいわねー、ちょーっと可愛いだけでCMの仕事がもらえてー、・・・まぁー?私の子役の頃ほどじゃないですけどーっ?」
「大人気ないよ、かなちゃん・・・」
「・・・で、一体何が言いたいんだ?星野?」
全員の視線を浴びつつ、俺は自分の考えを述べる。
「・・・ただ単に、六号は舞台演技とカメラ演技の使い分けができていなかったってことだ」
「・・・確かに。カメラ演技と舞台演技の切り替えは経験の浅い役者が躓きやすい要素の一つよ。だけどそれならあたしと姫川が気づくでしょ」
「ちょっと、なんで私が入ってないの!?」
「あーはいはい、天才役者、劇団ララライのエースの黒川あかね様も気づくわよー、・・・はい、これでいい?」
「言い方が納得いかない!」
頬を膨らませるあかねの怒りを有馬が適当にいなしていく。
相変わらずこいつらは相性が悪いな・・・。
「やめとけ、あかね。前も言ったが根が真面目なお前じゃ有馬に口喧嘩で勝てない。──話を戻すぞ。六号はさっきの芝居でカメラ演技をやっていた。だが普通のカメラ演技じゃない。アイドルとしての経験を活かしたカメラ演技だ」
「・・・どういうことよ?」
「──昔、俺が知っているアイドルが言っていた。映画やドラマはカメラに向かって自分を可愛く見せればよくて、ライブはお客さん全員に可愛く見せなければならないから大変だ、と」
「・・・何それ、そいつの言ってること無茶苦茶ね」
「そうだな、俺もそう思う。──役者になってからは特にな。・・・とにかく、六号も同じだ。複数のカメラに向かってやる演技を舞台の上でやっている。だから違和感を感じさせる」
「でもおかしいよ、アクアくん。それならかなちゃんが言うように私達が気づくはず。なのに違和感を感じるだけだった」
「ああ、六号がやっている演技はただのカメラ演技じゃない。限りなく舞台演技に近いカメラ演技だ」
「・・・なるほどな」
「・・・な、なあどういうことなんだよ?」
姫川とメルトが対照的な言葉を口にする。
・・・勘弁してくれ。俺だって理解はしても納得できてないんだ。
俺はメルトに伝わりやすいように、自分でも納得しやすいように言葉を選んでいく。
「六号はしばらく役者の仕事から離れてアイドルをずっとやってきた。そしてそれ以前の役者の仕事はカメラ演技のものばかりだったんだろう。だから久しぶりの舞台の仕事で、咄嗟に自身の中にあるアイドルの経験を利用した舞台演技をやった」
映画やドラマはカメラを通して観る人にキャラクターの感情を伝える。
それに対して舞台はカメラ越しではなく、観る人に直接キャラクターの感情を伝えなきゃならない。
フィルターが一枚挟まるだけで、観る人の感じ方は大きく変わる。
テレビでの活動が多かった星川リリィには、フィルターがない状態の演技経験が不足していたのだ。
「アイドルはステージの上からファンを魅了するのが仕事。役者に近い仕事だ。事実、アイドルと女優を兼ねるやつは多い。有馬のようにな」
「ぐはっ、・・・ちょっと!急にこっちを刺してくるのはやめてよ!」
「俺は事実を言ったまでだ。・・・演劇には脚本があり、そこに登場する架空の人物がいる。アイドルがアイドルとしての自分を演じるのに対し、役者はその人物を演じ、相手に伝わるように出力しなければならない」
ステージの上でファンを相手にライブをすることは、舞台の上で観客相手に演技をすることに近しい。
だからアイドルとしての経験をもとにして、自身の知るカメラ演技を混ぜて、今回の舞台での演技を組み立てた。
おそらく観客を複数のカメラと見立てて、自身はカメラ演技をする・・・そういったところか。
元々器用なやつだったんだろう。そのクオリティは高く、舞台演技と言って遜色ない程のものができた。
だがどこまでいってもカメラ演技と舞台演技は別物、演技に詳しい奴には違和感が残る。
「有馬がアイドルをやりながらも舞台演技ができるのは役者としてのキャリアが長いからだ。それに対して六号はキャリアが浅く、役者としてはブランクがあった。・・・こんなところか」
「そっか・・・。六号、久しぶりに演技のお仕事ができるからってはしゃいじゃってたのかも・・・」
星川リリィは俺の説明にしっくりきたのか、全員に向かって頭を下げた。
「ごめんなさい。六号のせいで皆に迷惑をかけて・・・」
「そんなっ、・・・顔を上げて、六号ちゃん!この役は他の役と比べても難しいし、いきなり代役として入ったんだから仕方が──」
「──甘いわよ、黒川あかね」
励まそうとしたあかねの言葉を有馬が途中で止める。
「私達は役者。子供だろうと大人だろうと、舞台の上では全員がプロ。舞台を見に来た観客の前でできなかった、なんて弱音を吐くのは許されない」
「かなちゃんっ、そんな言い方!」
・・・有馬の言うことは正しい。
この舞台は多くの大人の思惑や金が動いた上で成り立っている。
利益が生まれる以上、そこに立つやつには相応の責任がある。
・・・同じ元子役として、有馬には思うところがあるのかもしれない。
「──だからあんたがやるべきことは、まずあたし達を頼ることだったのよ」
「・・・えっ?」
星川リリィの驚きの言葉に対し、有馬は当然とばかりに言い放った。
「幸いにもここにはあたし含めて演技に詳しいやつが揃ってる。舞台演技について学ぶなら、絶好の場だわ」
「い、いいの・・・?」
「いい舞台にしたいってのはここにいる全員が同じ。あんたも同じ想いなら、手を貸すのは当然。そうでしょ?」
有馬の言葉に、星川リリィの顔がぱあっと明るくなる。
有馬かなは演技に対し、人一倍プロ意識が高く、人一倍責任感も強い。
いい作品を作るためなら、自分の評価が下がることも厭わないし、周りを引っ張っていくカリスマもある。
・・・だからこそ、いい作品のために自分を殺すところが欠点ではあるが。
有馬は星川リリィの顔を見て気恥ずかしそうに目を逸らした後、悪そうな笑顔を浮かべた。
「・・・そ、れ、に。あの演出の仏頂面、ちょうど明かしてやりたかったのよね〜」
「き、金田一さんは仏頂面じゃないよ!・・・意地悪なところはあるけど・・・」
「いや、あのおっさんはいつも偉そうだろ」
「姫川さんっ!」
「・・・ほらメルト!あんたも貴重な後輩に偉そうに振る舞う機会よ」
「お、俺もやるのかよ?」
「当然。他人の演技を見て学ぶのも大事だけど、他人に演技を教えて学ぶのも大事。勉強と一緒よ。・・・アクア、あんたも言い出しっぺなんだから逃げんじゃないわよ」
「・・・わかってる」
まあ俺が何か教えられることはないと思うが。
有馬にこれ以上噛みつかれても面倒だしここは従っておくか。
「わ、私も手伝う!」
「・・・そろそろおっさんも戻ってくるだろうからちゃっちゃとやろう」
「皆・・・ありがとう!」
ララライの二人も乗り気だ。
このメンバーなら、星川リリィの舞台演技も大丈夫だろう。
星川リリィに対して有馬達がアドバイスするのを見ながら俺は考える。
実際、舞台『東京ブレイド』初公演までの時間は少ない。
せめて今日中に金田一を唸らせるくらいはできないときついだろう。
・・・いや、俺も人のことは言えないか。
ラストシーンで使う感情演技。
アイの死、その時の感情を使うことがあのシーンでのベスト。
なのに、未だ自分のPTSDを抑えることはできていない。
俺は焦りを覚えつつも、星川リリィの演技の観察を始めた。
・・・
『・・・!!』
「──そこまでだ!」
鞘姫と刀鬼、そしてムラクモとの共演シーンが終わる。
しばらくの間、誰も声を出せなかった。一緒に演じていたはずの俺とあかねですら。
それほどまでに、先ほどと比べて星川リリィの演技のクオリティは格段に上がっていた。
舞台演技について、まだ姫川や有馬からさわりを聞いただけだ。
たったそれだけで、自身の演技の足りないところを理解し、改善した。
天才──まさに、そう呼ぶことしかできない程の才能。
甘く見ていた。サポートしてやろう、くらいの考えはぬるかった。
こいつは、怪物だ。
扱いを一歩間違えば周りを喰いつくす。俺やメルトだけじゃない。下手すれば有馬や黒川だって喰われるだろう。それ程までに、星川リリィの底知れなさは感じられた。
「・・・俺は普段、役者同士で演技に関する意見の交換をさせない。脚本と演出家の頭の中にあるイメージと役者の演技のズレをなくしてスムーズに進行する為だ」
金田一が重い口を開いた。
その言葉で思考の海から意識を呼び戻す。
金田一が順番に俺たちの方へと視線を向ける。
姫川達はささっと視線を逸らしていたが、メルトはがっつり目があってあたふたしていた。
「だがきっとそれだけじゃできなかっただろう。・・・俺のイメージを超える、なんてことはな」
「それって・・・」
星川リリィの呟きに対して、金田一がふっと笑う。
「・・・ああ、今の演技は良かった。本番までに仕上げろ」
星川リリィがぱぁっと笑う。
こいつは今日、何かを掴んだ。
おそらく明日にはこいつの演技はもっと成長する。
他のメンバーの演技を見て学び、より高みへと進化する。
星川リリィの生前の芸歴は異様に短い。
元々芸能界は才能がものをいう世界だ。
持って生まれた容姿、家柄、コネ、それらが有る無しではスタートラインが大きく違う。
中でも子役はその最たるもので、技術は二の次で容姿がほぼ全てのシビアな世界だ。
そんな世界で、数多にいる他の子役を押し退け、大人も唸らせる演技の才能を持ち、僅かな期間で全チャンネルのゴールデンタイムで主演を務めた天才。
アイが天才的なアイドルなら、こいつは役者の世界のアイだ。
俺は目の前にいる圧倒的な存在に戦慄していた。
・・・
「へー、六号ちゃんは監督さんの家に寝泊まりしてるんだー」
「うん!泰志くんも泰志くんのかーちゃんもとっても優しいんだー!」
稽古が終わり、監督の家への帰り道を歩く。
行きと違うのは、あかねも一緒なことだ。
「あかねちゃんもお家がこっちなの?」
「ううん、違うよ。私は──」
「──俺の練習に付き合って貰ってるんだ」
この舞台のラスト、倒れる鞘姫を刀鬼が助け起こすシーン。刀鬼はもう助からないと思っていた鞘姫が目を覚ましたのを見て、慟哭をあげる。その感情表現が上手くできず、俺は連日、あかねにも協力して貰って監督のもとで特訓を受けていた。
「あのラストシーンはこの舞台の、そして刀鬼と鞘姫の最大の見せ場でもある。中途半端な演技は許されない。だから──」
「感情演技をマスターするためにも監督さんのお家で毎日特訓しているの」
あかねが俺の言葉を引き継ぐ。
あかねは劇団ララライのエースと呼ばれてるだけあって演技に関する知識が深く、感情演技の経験も多い。実際、感情演技を学ぶ上でとても頼りになっていた。
『──姫川、有馬ペアに勝ちたい。もし負けたら私は死んじゃうかも』
あかねの言葉が脳裏によぎる。
この舞台の成功は、俺にとってこの世界での評価を得る為のもの。あとは金田一、姫川との関係を作るためのもの。
だが──。
それだけではないかもしれない。
あかねの言葉を聞いてから、今の俺には確かに、あの二人に勝ちたいという思いがあった。
・・・そして、もう一つ。
「ね?邪魔しないから六号も見ていい?」
「私は構わないけど・・・」
ちらっとあかねがこちらを見る。
星川リリィは感情演技について、おそらく俺よりも理解が深い。
今日一日で舞台演技もほぼマスターし、自分の演じる役についても他の演者に聞いたり金田一の指導で完成しつつある。
俺にとって演技は、あくまでアイを殺した犯人に近づくための手段に過ぎない。
・・・この天才に見せることで感情演技を学べるのなら、安いものだ。
「・・・ああ、見てもらって構わない。どうせ行き先は同じだしな」
最初から決めていたことだ。
俺はアイを殺した男に近づくためには手段を選ばない。
例えアイがゾンビとして蘇ろうとその罪は消えない。
必ず辿り着いて、俺の手で・・・。
そのためならば、アイの友人だろうと天才子役だろうと、全て利用してやる。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「いやー、良かったよ。なんとかここまで漕ぎ着けられてさー!」
居酒屋で金田一敏郎こと金ちゃんと盃を交わす。
今日は舞台『東京ブレイド』初公演の前日だ。
稽古も一通り終わり、役者には明日に備えて早めの帰宅を指示している。
僕は前祝いと願掛けも兼ねて、金ちゃんを誘って居酒屋に来ていた。
「おう、お疲れ」
「もう聞いてよ、金ちゃん!今回の舞台、本当にいろいろとあってさー!」
黙々と酒を飲む金ちゃんに対して、僕は大変さをアピールするようにオーバーに手を広げる。
思えば最初からツイてなかった。
それはスポンサーのわがままから始まった。
出資するから子役である『大空ライト』をこの舞台に出して欲しい。
この業界、どこにでもこういう輩はいる。そういう奴を避けるのも僕の仕事だ。
だけど今回の舞台はあの『東京ブレイド』ということもあって、出資したいと言うスポンサーは多かった。
ちょうど他の仕事も重なっていた僕は、忙しさからチェックが漏れてしまい、気がついたらスポンサーのリストにこの厄介なとこの名前が入っていたのだ。
これが最初の不幸。
次の不幸は脚本だ。
原作者にチェックはお願いしていたけど、行き違いがあって原作者の要望がこっちに降りていなかった。
結果怒らせてしまい、危うくこの舞台の上演すらできなくなるところだった。
この時点で正直僕のキャパはいっぱいいっぱいだった。
だけど、これで終わらなかった。
何とか脚本家のGOAくんと原作者のアビ子先生、そしてアビ子先生の担当と僕を交えてクラウド上で脚本を共有しつつ、リアルタイムで修正していく、そういう形で脚本を再構成する形で決着した、そう思っていたのに・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・
『──ありあり!わかってるじゃないですか!」
『あはは!ならこれもどうですか?』
『いいですねー!私じゃこの発想は出ませんでした!』
目の前でGOAくんとアビ子先生が楽しそうに脚本を上げていく。
このやり方は賭けだった。脚本家と原作者が直接話して作る都合上、大揉めするか仲良くなるかのどちらかになると踏んでいたからだ。
結果は大成功。二人は先日までの険悪な空気はどこに行ったのやら、ノリノリで脚本を書いていく。
・・・むしろ、ノリ過ぎてめちゃくちゃ尖った内容になっているのに途中から気づいていたけど、ここで口を挟んでアビ子先生の機嫌を削ぐのだけはしたくなかった。
『いやー、いい舞台になりそうです!GOAさんって本当は凄腕なんですかー?』
『実はそうなんですよー、これでも売れっ子脚本家ですからねー、まあ先生ほど売れてはないですけどー』
『『あははははは』』
上機嫌の二人に対して、僕だけが青ざめていくのにきっと気づいてないんだろうなーなんて思いつつ、こんな役者頼みのキラーパス脚本で大丈夫か頭が痛くなってきた頃、アビ子先生が思い出したかのように手を叩いた。
『あっ、そうでした!今回の舞台オリジナルキャラクターについて、言いたいことがあるんでした!』
その一言で、楽しそうだった会議が一瞬でお通夜のようになる。
先程まであれほど楽しそうだったGOAくんも、僕ほどじゃないけど困り顔だったアビ子先生の担当編集も、一瞬で顔色が悪くなった。
もちろん僕もだ。この舞台の当初からある最大の不安要素、脚本の件で有耶無耶になっていたがオリジナルキャラクターを出すことについてアビ子先生からは何のリアクションもなかったのだ。
そして今、その最大の爆弾にアビ子先生が触れていた。
『ど、ど、どこか不都合な点がありましたか?アビ子先生』
思わず声が上擦る。
次のアビ子先生の言葉次第でこの舞台の全てが決まる。なんなら僕のこの業界での命も終わる可能性がある。
そんな僕の質問に対して、アビ子先生はなんて事もないかのように一つのテキストデータをチャット上にあげた。
『へ?』
何が起こったか、一瞬わからなかったがとりあえずそのテキストデータを開く。
そこには膨大な文章がずらっと載っていた。
そしてその一番上に、『ムラクモ 設定資料』と書いてあった。
こ、これってもしかして・・・。
『あ、あのー先生。これって、もしかして・・・』
『はい、今回の舞台オリジナルキャラクターであるムラクモの設定です』
嫌な予感が当たった。当たってしまった。
『せ、先生!も、もしかして昨日締め切りを一日延ばして欲しいって言ったのはこれを作ってたからですか!?』
『はい。私の東京ブレイドの世界に登場させる子なら、その設定も私が作るべきだと思っていたので』
アビ子先生の担当編集が悲鳴のような声を上げる。どうやら彼も昨晩、地獄を見たらしい。
『すごいな・・・文字だけで70KBはあるぞ・・・』
『うちの子なので。惰性や片手間で作りたくなかったんです。あ・・・こっちはこの子のイラストです』
『アビ子先生の描き下ろしイラスト!?う、うわー・・・』
GOAくんが映像越しにわかるくらい眼を輝かせてる・・・。GOAくん、実は本誌で一話から追ってる程のガチの東京ブレイドファンだからなぁ・・・。
『原作最新話の内容に添いつつ、ここで登場しても無理のないキャラに仕上げました。もちろん、先行して出すことになるので、後ほど原作の方でもこの子の設定を活かした話を・・・』
『う、うわぁ!あ、アビ子先生!それ以降はネタバレになるので!』
だ、駄目だ・・・。GOAくんが完全にただのファンになってる・・・。
ここは残っているアビ子先生の担当編集と協力して何とかして先生を止めて──
『い、いや後々原作に登場させるなら原作ファン向けの宣伝にもなるし、むしろここまでやる気の先生を止めるよりもいいのでは・・・?』
担当編集さーん!口に出ちゃってますよー!
ま、まずい・・・!ただでさえ原作にいないオリジナルキャラクターなのに更に尖った設定まで追加されたら演者側がパンクする!
ましてや大空ライトくんは演技経験もそんなにないほぼ新人って聞いてるし、そんなキャラクターを演じられるわけがない!
も、もしアビ子先生が、自分が丹精込めて書き上げたキャラクターがぺーぺーの新人の棒演技で台無しにされたと感じたら・・・。
こ、今度こそこの舞台、いや僕の芸能界での人生はおしまいだー!
『あ、アビ子先生!素敵なイラストと設定ありがとうございます!た、ただこのままだと少々演者の負担が大きいかもしれなくてですね・・・!』
『本当ですか?でも、先ほどまで書いていた脚本も元は各キャラこれくらいの設定があって、それを演者さんに演じてもらうつもりですけど・・・』
『そ、そうかもしれませんけど今回が初出のキャラの設定が濃すぎると、演者の練習期間の確保やファンの方にも受け入れ辛くなるんじゃ・・・』
『? 劇団の方は皆さん優秀だってあなたもあれだけ言ってたじゃないですか。それに私の漫画じゃこれくらいの情報量は大したものじゃないですよ』
こ、これは駄目だ。もうこのキャラで行くって先生の眼に書いてあるもの・・・。
GOAくんも完全にファンモードだし、担当編集さんも何度も頷いちゃってるし。
ああ・・・アクアくんごめんよ・・・。
僕は結局、この舞台を何とかできないかもしれないよ・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・
「──なんてことがあってさー!上がってきた最終稿の脚本見て度肝抜かれたからね僕ぁ!」
役者頼りのキラーパス脚本に加え、原作者監修のオリキャラ、更にそのオリキャラに演技経験も少ない子役の起用と不安要素だらけだった。
正直に言うと、今回の大空ライトくんの降板も本当の理由は体調どうこうではなく、演じるのが難しすぎて逃げたんじゃないかと思っている。
だけどそれもしょうがない。
この役は明らかに大人でも演じるのが難しいし、それを舞台の上で大勢の人の前に見せるのは子供には酷だろう。
「でも良かったよ・・・。六号ちゃんが金ちゃんのお眼鏡にかなって」
ずっと黙っている金ちゃんに向かって話し続ける。
今はとりあえず、この舞台の企画からあったもやもやを誰かに言いたかった。
「正直、内心ビクビクしてたんだよー?スポンサーのわがままで無理矢理捩じ込んだ子役が出られなくなって、更に急遽、どこの誰ともわからない子をその代役として使うなんて」
「・・・別に。俺としては、誰が来ようと使わない、なんて選択肢はなかっただけだ」
酒を煽りながらほんのりと顔が赤くなった金田一が重い口を開く。
「鏑木が仲介する、と聞いた時点である程度信頼はしていた。あいつは他所に人をやる時は固い人選をするからな。・・・まあ正直、舞台経験どころか芸歴すらあやふやな奴が来るとは思わなかったが」
「へー、なのに受け入れてくれたんだー。つまり、何か他にも理由があるとみたね、僕は」
「・・・なに、前も言ったが今回の企画を受けたのは劇団に刺激が欲しかったってのが一つだ。それは有馬や星野、鴨志田、鳴嶋のおかげで叶っていた」
酒を呷って喉を潤した金ちゃんが続ける。
「だが、六号の演技を見てすぐにわかった。こいつは欠けてる人間だってな」
「欠けてる?」
「ああ、まともな人間と比べてどこか欠落している、何かが足りないと思わせる奴だ。・・・欠けてる奴は良い。欠けてる部分を求めるように技術を吸収していく。姫川がまさにそうだった」
「ふーん、たくさんの役者を見てきた金ちゃんの役者論ってやつかなぁ?姫川ちゃんと六号ちゃんに共通点ねぇ・・・。全然正反対のタイプに見えるけど」
「あとは・・・星野もそうだな。あいつも欠けてる側の人間だ。・・・まあ欠けてないから役者に向かないって訳でもない。事実、あかねみたいな例外もいるしな」
「確かに、黒川ちゃんはすごいよねー。あの劇団ララライの面子の中で、天才だなんて呼ばれてる訳だし」
「それに有馬、あいつも役者として優秀だ。元天才子役の名は伊達じゃない。・・・姫川や黒川にもいい刺激になってるみたいだしな」
そこまで言った金田一がふらつく。
彼のそばにあった一升瓶は空になっていた。
「ちょっと金ちゃ〜ん。もう顔真っ赤じゃんかー。お酒弱いのにいつもペース早すぎなんだって」
「うるさいっ、せっかく俺の劇団に良い風が入ってきたんだ、今日くらい飲ませろ」
「明日は本番だよー?飲むならセーブしなよってば」
「・・・いいかぁ?まだまだこの舞台は荒れるぞぉ?若い奴はすぐに成長する。初日に見せた六号の演技、ありゃあ良かった。あんな演技見せられたら、役者なら誰だって考えちまう」
「考えるって・・・何をさ?」
「──あいつとどう戦うかを、だよ」
今回から東京ブレイド編です。
今回の話はリリィちゃんを活躍させたくて書きました。
フランシュシュで推しの子側、特にアクアパートの話に関わらせることができるキャラって結構限られるんですよね。その点リリィちゃんは元天才子役、今はアイドル、役者としてのポテンシャルが高い、と推しの子キャラと絡ませやすくて助かります。監督以外にも鴨志田、メルトと絡む話書いたけど納得いかずに没に・・・。
次は東京ブレイド本番です。
アニメもそろそろ本番ですし、放映中に後編を間に合わせたいところ。
引き続き書いていきますので感想、高評価、恥ずかしながら誤字指摘などあればたくさんくれると嬉しいです!