推しの子 in SAGA   作:片倉の推しの子Bです

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うおー!推しの子アニメ二期効果か、この小説を読んでくれてる人がすっごい増えてるー!嬉しいー!

せっかくなんで普段しないコメ返しを少し・・・。
(長いので飛ばして結構です)

・ゾンサガからこの小説を読んでくれた人、ありがとー!
推しの子も面白いから是非みてほしい!とりあえずアニメの一話だけでも・・・!!(一時間半あるけどクオリティやばば過ぎて推しの子原作読んでてもアニメからハマるくらい良いので・・・!!)
その後YOASOBIの「アイドル」のMVまで見て脳破壊するまでがベスト!
なんならこの小説もアニメ見てアイ生存ルートを作りたい→転生ネタや過去改変ネタは他の方が書いてる→なら生き返ってアクアやルビーの情緒を滅茶苦茶にしたい!確か見える子ちゃんと混ぜて書いてる人もいたし!そうだ!私はマイフェイバリットゾンビアニメ、ゾンビランドサガと混ぜよう!から描き始めたので・・・

・フランシュシュの生前の活躍について
わかる、わかるよ・・・。私もゾンサガの二次創作見てリリィや愛、純子の生前の評価が反映されてなかったら納得いかない気持ちになる・・・。
ゾンサガ組の全盛期がいつか、この小説ではぼかしてます。○年前に活躍!とかにすると書きづらいので・・・。
十年前くらいにアイドルとして滅茶苦茶活躍してたアイが、推しの子世界じゃ過去の人ーくらいの描写だったのでそれに合わせた感じ。芸能界はすごい人が定期的に出てくるので世代交代が早いのかなーくらいに考えてます。
まあでも確かにリリィはフランシュシュの中でも生前のレコードが別格な感じします・・・。もっとすげえ奴感出しても良かったかも・・・。
い、一応!演劇パートで活躍させますので・・・!乞うご期待!

・毎回コメントくれる方、感想や予想を書いてくれる方ありがとう!
ほんっとうに毎回励みにしてます!時々展開を的中する人がいて、自分の見たかったものが他の人もやっぱり見たかったものなんだなーって思えて嬉しかったり・・・!
あと誤字毎回あってすみません!毎度誤字修正指摘してくれる方もありがとう!一応投稿前にチェックしてるんだけどね・・・。面目ない。


第二十一話 推しの子×星の子×SAGA 中編

 

飛行機に乗って数時間、そこからバスを乗り継いで更に数時間、私が生きていた頃よりも少しばかりビルが増えた景色にも飽きてきた頃、私達は目的地に着いた。

長い時間をかけて、全員分の運賃を巽が小銭で払ってる間にバスから降りる。

 

「・・・ついに辿り着いちまったか」

 

「・・・そやとね」

 

「ヴァァ・・・」

 

バスを降りたサキとさくら、たえがゆっくりと辺りを見渡す。

そして、おもむろに巽から勝手に借りたサングラスをかけると大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

「「フロム佐賀!イントーキョー!イエー!!」」「ヴァゥヴァゥワー!!」

 

 

 

 

「・・・そこの三人、うるさい!」

 

私の怒りの声が聞こえているのかいないのか、三人は辺りを珍しそうに見ながら走り出す。

ああ、もう!サキとたえだけならともかく、なんでさくらまで!

周囲の奇異なものを見る視線に耐えながら、私は三人を追いかけた。

 

「だいたいあんた達、空港着いた時もそれやってたじゃない!なんでまたやるのよ!」

 

「バカやろー、愛!あれはきつくて狭かったトランクから解放された時の叫びたい!今回のは東京に着いた時の感動の叫びやけん!」

 

そう言うと再びさくら達と一緒に辺りを歩き回る。

 

「見てみて、サキちゃん、たえちゃん!あのでっかいドーム!あそこでリリィちゃんが劇をやるのかなぁ?」

 

「うおー、すげえ!アタシらがよくミニライブやるとことはスケールが違うけんなー!」

 

「ヴァヴァウ!」

 

「・・・今のうちにフランシュシュ見参とか書いとくか?アタシらが全国制覇した時に有名な観光地になるかもしれんと!」

 

「ヴァゥヴ!」

 

「さ、流石にそれはまずいんじゃなかと?・・・せめて写真撮って、後でSNSにあげるとかすれば・・・。『大人気アイドルフランシュシュ、東京初来訪時の写真が流出!?』とか将来スクープになったりして・・・なんつって!さくらなんつってー!」

 

「ちょっとあんた達!おのぼりさん全開のトークをやめなさい!」

 

駄目だ、東京に初めて来たばかりの三人は、街の物珍しさに興奮してこちらの声が聞こえていない。

まあしばらくすれば、疲れて大人しくなるか・・・。

私はそう考え、後から降りてきた二人を見る。

 

「す、すみません・・・。ま、まだ足が震えていて、うまく歩けなくて・・・」

 

「ふふ、気にしないでいいでありんす。わっちに捕まりながら歩いてきなんし」

 

純子がゆうぎりに捕まりながらゆっくりと歩いてくる。

結局私たちは、リリィの時と同じようにトランクにそれぞれ押し込まれる形で飛行機に乗った。

正直、扱いには物申したいところではあったけど、今回は私達のわがままが発端ということもあるしそこは言わずに我慢した。

 

だけど、純子だけは違った。

佐賀ロックの後、純子は自身の死因が飛行機事故だと言うことを私達に話してくれた。

だから今回の話が出た時、無理せずに残ることも進めたんだけど・・・

 

『・・・いいえ、私も愛さんのように過去を乗り越えたい。自分の死んだ原因なんかに二度も負けたくないですから』

 

そう言って純子はトランクケースに親指を立てながら入っていった。

そして空港に着いてトランクから解放された後、泡を吹いて失神していた純子を皆で引っ張り出したのだった。

それからまだ震えが止まらないらしく、ゆうぎりの腕に捕まりながら歩いている。

まあ、そう簡単にトラウマって克服できないものよね・・・。

帰りも飛行機に乗ることは今は黙っておこう・・・。

 

そういえばあの三人の後に降りたアイはどこに・・・?

 

「愛ちゃーん、こっちこっち」

 

辺りを見回してた私は呼ばれた方に視線を向ける。

そこには白い帽子を被ったアイがいた。

 

「それ、どうしたの?」

 

「そこに落ちてたから貰ったの」

 

「・・・それは拾ったって言うんじゃないの?」

 

「えー、違うよー。きっと親切な人が誰かが使うだろうからって置いてくれたものだよー」

 

相変わらず調子のいいことを言うアイは、白い帽子を深く被ると私に手を広げた。

 

「じゃーん、これなら私ってわからないでしょ?」

 

「・・・別に今更変装なんてしなくても気づかれないと思うけど」

 

私達が東京で活動していたのは、十年以上前だ。当時、活躍していたアイドルの顔なんて覚えてる人はほんの僅かだろう・・・納得はいかないけど。

 

「・・・本当はさ、ちょっと怖いんだー。昔は外に出る時はこうやって変装しないと、すぐ新聞記者やファンの人に気づかれてたから」

 

帽子を深く被っているから、その下のアイの表情は見えない。

 

「同じアイドルだった愛ちゃんならわかるかもしれないけど、有名人って大変だよね。変装でもしないと外出すらままならないなんて」

 

アイがどういう気持ちで言ったのか、顔が見えないからわからない。

だけど私にも覚えはある。アイの言ったこと。アイアンフリルの人気絶頂期、私も何度も外出には困らされたから。

・・・けどそれだけじゃない気がする。私はアイの手を握ると、帽子のつばを引き上げた。

 

「・・・なら私を頼りなさい。昔がどうだったかなんて知らないけど、今のあなたはフランシュシュ七号。・・・私達はそう簡単に見捨てないわ」

 

すぐ間近に広がる星の瞳にそう言うと、私は再び帽子のつばを下げてアイの顔を見えなくした。

ど、どうしよう、つい勢いで久しぶりに生アイの顔を間近で見ちゃった・・・。見入ってるの気づかなかったわよね・・・?心臓、止まってて良かったー・・・。

 

「・・・がと」

 

「え?」

 

アイが何か呟いた気がしたが、風の音でうまく聞こえなかった。

私がそれを聞き返そうと口を開く。

 

「──ちんちく見つけたけん!」

 

「おっ、どれどれー?」

 

だけど、サキの声で掻き消されてしまった。アイも私の聞き返した声が小さかったのか、気にせずにサキの方へと走っていく。

・・・まあ、別にいいか。

私もアイを追いかけて走り出した。

 

 

 

・・・

 

 

 

サキ達はリリィが出演する劇場の前にいた。

ドームの壁には舞台『東京ブレイド』のポスターが貼っており、そこには舞台に出演する役者の顔が並んでいる。そのうちの一つにリリィの顔が載っていた。

 

「おおー、ちんちくの奴、めっちゃめかしこんでるけんな〜」

 

「リリィちゃん、強そうな顔してるねー」

 

「ヴァ?」

 

「たえちゃん、この子がリリィちゃんだよ?」

 

「ヴァー?」

 

よくわかってないのか、たえがポスターを見ながら小首を傾げている。

今回の舞台に登場するオリジナルキャラクターということもあってどういうキャラなのかはわからないけど、ポスターの中のリリィは悪そうな顔をしていた。

案外渋谷クラスタ、新宿クラスタの両方と争う敵という立ち位置なのかもしれない。

 

「・・・そういえばリリィさん、巽さん無しでメイクは大丈夫だったんでしょうか・・・?」

 

ゆうぎりに連れられて、遅れてやってきた純子がポスターを見ながら不思議そうに呟く。

・・・確かに。私達のゾンビフェイスを隠すためのメイクは普段巽がやっている。

なのに、数日も巽不在の状況でどうしていたんだろうか?

 

「・・・ふむ、でもここに人相書きがあるということは、リリィはんは自分で何とかしたってことでありんしょうなぁ」

 

・・・

考えたって答えは出ない。

私たちは一旦、この話題には触れないことにした。

 

「・・・こいつがブレイドで、あ?このなよっちいのがキザミぃ?イメージと全然違うとね!・・・で、こっちが刀鬼で、こいつが鞘姫。・・・ん?このツルギ役ってもしかして・・・」

 

「あっ、それ、有馬ちゃんやけん。有馬ちゃんも出てたんやったねぇ」

 

「ふーん、あいつも出とるやけんな・・・。あー・・・『お前が最近ここらで暴れているブレイドか、面白い!おい、俺と戦え!』」

 

「おー、東京ブレイドのセリフだー」

 

「キザミやけん!やっぱキザミは線が太い奴じゃなきゃいかんと!」

 

「ヴァヴヴゥゥヴァ・・・」

 

「おっ、たえ!その構えはブレイドけんな!よっしゃっ、かかってこんばい!」

 

「ヴァヴァ!」

 

そう言うとサキとたえが、どこからか拾ってきた木の棒でチャンバラを始める。

東京ブレイドの舞台をやるドームの前で、東京ブレイドのモノマネをする・・・なかなかな羞恥プレイだった。

心なしか先程まであった奇異の視線もより生温かくなった気もする。

 

 

「はぁ・・・あんたた──」

 

「・・・愛さん、ここは私に任せてください」

 

「純子・・・」

 

止めようとした私を純子が制止する。

さっきまでのグロッキーな姿から一転した純子の自信満々な顔・・・何か考えがあるみたいね。

 

「・・・わかったわ。あんたに任せる」

 

私がそう言うと純子は軽く微笑み、二人に割って入った。

 

「何やと・・・!?」

 

「ヴァウ!?」

 

「・・・」

 

 

 

 

「『温いな・・・新宿クラスタの連中は。盟刀を使ってこの程度とは』」

 

 

 

 

 

「・・・ってなんで純子も混ざるのよ!」

 

颯爽とどっかからか拾ってきた棒を構えながら見得を切る純子に対して、私はつい叫んでいた。

 

「おー、東京ブレイドのライバルのセリフだー」

 

「刀鬼やけんね!純子ちゃん、セリフ完璧と〜」

 

いや、止めるための任せてください・・・じゃなかったの!?

 

「・・・しかし、純子はん。脚はもう大丈夫でありんしょうか?」

 

「・・・ふふ、実はさっきのセリフとポーズで脚が限界を迎えました。私はもう動けません・・・」

 

「見ろっさくら!純子の足、ぷるっぷるやぞ!ぷるっぷる!」

 

「あーっ、サキちゃん足をつんつんするのはダメやってー!」

 

ぎゃあぎゃあ騒ぐ連中を尻目に、私はため息をついた。

普段は止める側の純子まで・・・。

恐るべし東京マジック。いや、恐るべし東京ブレイドだろうか。

だけどそれもしょうがない。

正直、私達は東京ブレイドにはまっていた。

何せ久しぶりに読んだ漫画だ。しかも、累計五千万部売れてる大人気作。面白くないわけがない。

それにゾンビになってから娯楽になかなか触れてこなかった私達は、皆この東京ブレイドの大ファンになっていた。

今日だって名目上はリリィの応援という建前だが、東京ブレイドの舞台を見たいというのも本音だ。

 

「あっ」

 

「やべっ」

 

チャンバラで使っていた棒が私の目の前に落ちてきた。

どうやらサキは、キザミが漫画で見せた剣を空中に投げて落ちてきたのを掴むシーンをやろうとして、失敗したらしい。

私が棒を持つとサキがやっちまった、って顔で後ずさる。

私はそんなサキ達を見ながら、ゆっくりと棒を両手で持った。

 

 

 

 

 

「・・・『ならば、致し方なし。戦うのは本意ではありませんが・・・刀を抜きましょう。合戦です』」

 

 

 

 

 

「「「「・・・」」」」

 

「・・・なによ。何か言いなさいよ」

 

私が頬を染めながら言うと、サキとアイがニヤニヤと笑い出した。

 

「なんだぁ?愛も混ざりたかったとね?素直にいえば良かったい〜」

 

「お姫様を選ぶあたり、愛ちゃんって結構ピュアだよね〜」

 

「・・・あんた達、喧嘩なら買うわよ」

 

ちょうどいい、今なら手元に武器もある。

調子に乗ってるこいつらに、物理的にお灸を据えるのもたまにはいいだろう。

私は棒を構えると、東京ブレイドで読んだシーンを思い出しながら剣を持って二人を追いかけ始めた。

 

 

 

・・・

 

 

 

「・・・何を騒いどるんじゃいお前ら」

 

愛ちゃんに追いかけられながらわちゃわちゃやってると、チケットを買いに行っていた巽が戻ってきた。

 

「あっ、巽、おかえりー」

 

「こらっ、待ちなさい!」

 

愛ちゃんの木の棒をひらりと避けつつ、巽を労う。

 

「・・・まあいいわい。・・・ごほんっ、はーい!お前らにー良い報告と悪い報告がありまーす!どっちから聞きたいー?」

 

また巽が変なことを言い始めたなー。

 

「いつものでしょうか・・・?」

 

「でしょうね・・・」

 

「でも誰かが聞かないと話進まなそうだよ?」

 

「で、ありんすなぁ」

 

「・・・よし。さくら、お前聞いてこい」

 

「ええっ、なんで私がしよんと・・・?」

 

「あいつの悪ノリに真面目に付き合えるのがさくらくらいやけんな」

 

「だねー」「ですね」「ヴァウ」

 

「・・・はぁ、わかったけん。・・・わ、わー、幸太郎さん、良い報告って何ですかー?」

 

「聞きたいかー?ええー、聞きたいのんかー?ふっふっふっ、それは・・・」

 

「それは・・・?」

 

「そ・れ・はぁー・・・」

 

巽がたっぷりと溜める。

溜め続ける。

・・・十秒貯めたところでサキちゃんが巽の胸ぐらを掴んだ。

 

「いいからはよいいりゃんせ!」

 

「・・・良い報告、それはチケットが無事買えたことじゃーい!」

 

おおー。

 

「舞台の公演初日ってどこも予約でいっぱいだと思ってたけど、よく買えたねー」

 

「ふふん、当日キャンセル枠をお前ら全員の名前で応募した俺の機転に感謝するがいい・・・」

 

「で、悪い報告は何なのよ?」

 

「・・・取れたチケットは一枚だけです」

 

「は?」

 

ええー。

皆の顔が喜びから一転、落胆へと変わる。

 

「うっさいんじゃい!お前らのわがままを聞いて東京まで来て、チケットが買えただけでも感謝せんかい!」

 

「・・・まあしょうがないか。じゃあ誰が入る?」

 

「・・・何を勘違いしている。このチケットは俺が使うに決まってるだろう」

 

「はぁ?」「なんやと!?」

 

「まあ待て、ちゃんとお前らも観れる方法は考えている」

 

詰め寄る私達に対して、巽が落ち着けと言わんばかりに大袈裟に手を広げる。

うわー、腹立つなー。

 

「まずお前らの首を外します。そしてその首を持ってきた覗き穴を開けたバッグに詰め込みます。あとはそのバッグを客席に持ち込み、俺は客席から、お前らはバッグから覗き見ます。・・・ふっ、我ながら完璧な計画、まさにパーフェクツプラン。蜀に諸葛亮孔明あれば佐賀に巽幸太郎ありと後年まで語られ・・・」

 

最後まで言い切るまでにサキちゃんと愛ちゃんに殴られていた。

 

「アホか!なんでそんな観づらいやり方しなきゃいかんと!」

 

「だいたいナチュラルに首を外します、じゃないでしょ!あんた、最近私たちの扱い雑過ぎ!」

 

「そういえば昔、首を詰めた箱を背負う妖の噂が花魁の間で流行ってたでありんすなぁ・・・。あれも演劇が見たくてやってたんでありんしょうか」

 

「ていうかこれ、もしかして最初からチケットは一枚しか買うつもりなかったりする?」

 

「巽さんだとあり得るのが怖いですね・・・」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「おや、あの子達は・・・」

 

 

 

 

・・・

 

「──君達、こんなところで何を騒いでいるんだい?」

 

私達が巽と言い争っていると、急に背後から声をかけられた。

声がした方を振り向くとそこには、どことなく見覚えのある男の人が立っていた。

 

「君は・・・」

 

私と視線があったその人が驚きの声を漏らす。

やばっ、見覚えあると思ったけどやっぱり昔の知り合いだったみたい。

慌てて帽子を深く被るとその人も、何か言いかけた口を噤んだ。

 

「あ、あなたは!鏑木プロデューサーですか!?」

 

声をかけてきた相手に気づいた巽が、愛ちゃん達を引き剥がしてこちらにやってくる。

その名前を聞いて思い出した。

鏑木プロデューサー。

昔、私が芸能界に入ったばかりの頃、いろいろとお世話になった人だ。

当たり前だけど私の記憶よりも白髪や皺が増えて、くたびれてるように見える。

 

「おや、もしかして君達、佐賀のアイドルグループ、フランシュシュかい?」

 

「あ?誰やけん、このおっさ──」

 

「──いやー!すみませんっ、うちのアイドルが口の聞き方を知らなくて!二号くん?この方は東京のテレビ局のプロデューサー様だからねー!はははー!」

 

揉み手をしながら巽が私達に軽く説明する。

遮られたサキちゃんは不服そうだったが、鏑木Pが仕事上の相手だとは認識したらしく、それ以上は何も言わなかった。

 

「初めまして、鏑木です。そういえばこの舞台には君たちのメンバーも出演してたね。君たちも観に来たのかい?」

 

「そ、そうなんですけど実は──」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「──なるほどね。舞台を観に来たけどチケットが一枚しか買えなかった、と」

 

さくらちゃんが事情を説明すると、鏑木Pが少し考える素振りを見せる。

 

「・・・うん、わかった。少し待っててね」

 

そう言うと鏑木Pがどこかに電話をし始めた。

 

「・・・ああ、関係者席に・・・そうそう、そこ。確か余ってたとこがあったよね?あそこ使ってもいいかい?・・・うん、うん、・・・ありがとう、今度またメシでも奢るよ、じゃあね。・・・待たせたね、君たちの分の席が取れたよ」

 

「え、ええー!?」

 

「ほ、本当やと!?・・・ですか?!」

 

「こういう舞台では芸能関係者が招かれる席がいくつかあってね、余ってる席を譲って貰ったよ。これで君たち全員が観れる筈だ」

 

「ありがとうございます!」

 

「なに、困ったときはお互い様さ」

 

柔和に笑いながら軽くウインクする。

そうだった。思い出した。

この人は昔から、困ったことがあると親身に相談に乗ってくれたっけ。

私の知る他の大人と同様に打算はあったのかもしれないけど、清々しい嘘をつくから私は嫌いじゃなかったな。

 

「あ、グラサンは先に取ったチケットの席な」

 

「えっ」

 

「まあ、仕方ないわよね。せっかく買ったチケットだし、使わないとチケット代が無駄になるし」

 

「えっ」

 

「幸太郎さん、あとで感想会しよんと!」

 

「えっ」

 

「あとでねー、巽ー」

 

「私・・・こんな大きな演劇って初めてです!」

 

巽を置いて鏑木Pにぞろぞろと着いていく。

 

「いいのかい?席は彼の分も用意したけど」

 

「お気になさらないでありんす。男には言い出したら引けぬ時もあるというもの、幸太郎はんの強がりを見て見ぬ振りするのも時には大事なんでありんす」

 

「ヴァーヴ」

 

「・・・えっ?」

 

後には先ほど買ったチケットを握った巽だけがその場に残される。

巽はしばらくの間呆然とした後、ずっとぬいぐるみのふりをしていたロメロを抱えた。

 

「・・・ロ、ロメロー?俺たちは二人で観ようなー?」

 

「あうー?」

 

ロメロに話しかけながらとぼとぼと歩き出す。

ぬいぐるみと話しながら劇場に向かう様は、見る人に居た堪れなさを感じさせる。

まあ自業自得ではあるけど、あとで感想会する時は優しくしてあげよっかな。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「今のは・・・」

 

ぬいぐるみを大事そうに抱えたサングラスの男が視界の端をよぎる。

そういえば最近、ファンの間で劇中に登場するキャラのぬいぐるみと写真を撮るのが流行ってるとか。

女性がよくSNSにあげてるのを見るが、男性ファンの間でも流行ってるのだろうか。

そんなことを思いつつ、舞台『東京ブレイド』の脚本家、GOAは歩き出した。

いろいろとあったが、何とか無事公演することができて良かった。

周囲の楽しみにしてる観客の顔を眺めつつ、入口へと向かっていると見知った二人の女性を見つけた。

 

 

 

「──少なくともここに、今回の舞台を楽しみにしてる人が三人はいる、それだけで嬉しくないですか?」

 

「GOAさん」

 

今日甘の作者、吉祥寺先生と東京ブレイドの作者、アビ子先生だ。

二人の話に加わると、アビ子先生の様子がおかしいことに気づいた。

 

「おや?アビ子先生はどうされたのですか?」

 

「あー・・・実は先程、東京ブレイドのごっこ遊びをしてる子を見かけまして」

 

「あ、あんな可愛い子も私の漫画のファン・・・へへ」

 

「意外ですね・・・東京ブレイドは女性ファンの方が多い印象でしたけど・・・」

 

「基本この子、人付き合いが苦手なのでファンの方との握手会とか断っちゃうんで・・・。実際にこれだけたくさんのファンを見て嬉しくなっちゃったんだと思います」

 

にやにや笑うアビ子先生を見ながら、吉祥寺先生がその心情を解説する。

その間には長い年月で培われた信頼が感じられた。

 

「今日の舞台・・・無事成功するといいですね」

 

「ええ・・・私達はやれることをやりました。後は、キャストの皆さんを信じましょう」

 

 

 

・・・

 

 

 

「うーん・・・」

 

「あら、どうしたの?パンフレットとにらめっこしちゃって」

 

舞台のパンフレットを眺めていた私に、ミヤコさんが声をかけてきた。

今日はアクアと先輩が出演する舞台『東京ブレイド』の初日だ。

アクアの妹、そして先輩と同じ事務所所属ということもあって私とミヤコさんは招待されて関係者席に座っていた。

 

「この舞台オリジナルのキャラ・・・どっかで見たことある気がする・・・」

 

「ああ、そういえば急遽キャストの子が変わったって聞いたわね。・・・もしかしてこの子、フランシュシュの最年少の子じゃない?」

 

「だよね?アクア達が言ってた代役ってこの子だったんだ」

 

アクアが言うには正体は先輩と同じ元天才子役らしい。

だから今回の代役として呼ばれたのかな?私は活躍をあまり知らないけど、あの子役時代の栄光に絶対の自信を持つ先輩が、昔意識してた相手って前に言ってたし、実はとてもすごい子なのかもしれない。

 

ふと気づいた。

・・・先輩は今、どんな気持ちなんだろう。

昔、共演した天才子役と全く同じ顔、同じ姿をした子に、十何年も経って再会して。しかも同じ舞台に立つことになって。

動揺する筈だ、混乱した筈だ。

だって私がそうだったから。

昔憧れたアイドルに、愛してくれた母親に、全く同じ姿をした死んだはずのアイ(フランシュシュ七号)に再会して、私はいろいろと葛藤や苦悩があったから。

 

「先輩・・・」

 

私は心の中で先輩にがんばれと呟く。

同じB小町の仲間として、友人として。

有馬かなを案じながら舞台の幕が上がるのを待った。

 

 

 

・・・

 

 

 

「さて、早熟は大丈夫かね」

 

関係者席の一角に座る五反田泰志は舞台の幕を眺めながら、昨日までずっと感情演技の特訓にかかりっきりだった少年を思い浮かべていた。

アクアの彼女、黒川あかねの協力もあってやれることはやったと言える。あとは本番であの衝動を抑えつつ、演技ができるか、だ。

・・・でもまあ、何とかするんだろ?お前も一端の役者なんだから。

 

そしてもう一人、アクアの特訓に付き合い、数日前から家に転がり込んできた少女の顔を思い出す。

聞けばあの子供は舞台演技については最初、素人同然だったらしい。

だが感情演技についてアクアにアドバイスする様は、演技に対する理解の高さと熱意が感じられた。

俺の家に来たときに見せた泣き演技もそうだ。

目薬を使ったようには見えなかった。正真正銘、自身の感情をコントロールする術を理解している演技だった。

本来、子役は事務所に所属していないと仕事を受けられない。

そして事務所に所属する以上、ある程度の演技指導を受けてからドラマや舞台に出される。たいていは舞台演技から学ぶのが基本だ。

例外があるとすればアクアのように、現場でキャスティングの裁量権を持つ奴に気に入られ、直接オファーを受けてその作品に出演することくらい。

 

「どこぞの大物監督の秘蔵っ子か?それともどっか潰れた劇団の流れ者か・・・」

 

だが、どちらにしろ面白い。

初めてアクアを見た時と同じく、映像を撮ることを生業とする人間としての勘がそう言っている。

 

『──いつか、お前らの映像を撮ってやるよ』

 

前にアイ似のアイドルに言ったときは冗談混じりだったが・・・。

今の俺は、本気であのアイドル達に興味を持ち始めている。

今回の舞台でフランシュシュ六号が見せてくれるであろう光景に期待しつつ、五反田泰志は楽しそうに口元を歪めた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

『じゃあ僕は挨拶回りがあるからここで失礼するよ。・・・ああ、そうそう。途中で外に出ちゃうと再入場はできないから気をつけてね』

 

そう言うと鏑木さんは姿を消してしまった。

どうやらかなり忙しい人らしい。

そんな中で、私達のためにわざわざ席を用意してくれたのだから感謝しかない。

 

「おおー、客席も舞台も丸わかりやけん!」

 

鏑木さんに案内された席は一番後ろだった。

ちょうど舞台も観客も見渡せる席。

芸能関係者は両方が見れるように、後ろの席で観ることが多いらしい。

 

「さーてと・・・」

 

私は席に座ると持ってきたバッグからいろいろと荷物を取り出す。

 

「何か持ってきたんですか?」

 

「ふっふっふ・・・リリィちゃんを応援するための秘密兵器を持ってきたけん・・・!」

 

私はそう言うとバッグから取り出したタオルとうちわを見せた。

 

「おー、うちわにちんちくの名前が書いてあると!」

 

「てぬぐいにも、リリィはんの名前が縫い込まれてるでありんすね」

 

「ゆうぎりさん、これはタオルと・・・。やっぱり応援するならこうゆうグッズがないといかんとね!」

 

「夜中に何か作ってると思ったら・・・。っていうかさくら、あんたもしかして記憶が戻ったの?」

 

「いやー、実は完全に思い出した訳じゃなくて・・・。ただリリィちゃんの応援しようってなった時に、急にこれの作り方を思い出したけん。で、居ても立っても居られなくて作ってみたとよ」

 

本当はこれの作り方を思い出した時に、愛ちゃんがライブしてるとこも思い出したけど・・・まだ全部を思い出した訳じゃないし、これは言わなくてもいいよね。

 

「はいっ、皆の分もあるとよ!今日はこれ持ってリリィちゃんのこと、応援しようね!」

 

「・・・へっ、気合い入ってきたとね!」

 

「私、応援されたことはあったけど、こういうの持って応援する側になるのは初めてかも・・・」

 

「あっ、愛ちゃん!タオルはもっと上に掲げると!本当は後ろの席の人に配慮しないといかんけど、今日は一番後ろの席だし、遠慮せんでええからね!」

 

「わ、わかったわ」

 

「ふふっ、今日のさくらはんは気合いが違うでありんすなぁ」

 

「もしかしたら記憶を無くす前のさくらさんは、よくこうやって誰かを応援してたのかもしれないですね」

 

「ううー・・・本当はサイリウムも欲しかったけど、流石に劇を見る時に使うのはマナー違反やけん・・・」

 

正直今、私はわくわくしている。

アイドルとしてライブをする時とは別の感覚。

きっと私は、誰かを応援することが好きだったんだ。

昔の私のことを思い出せたことに喜びつつ、全員分の装備を用意する。

 

「・・・ん?アイちゃんはどこ行ったと?」

 

「そういえばいないけんな」

 

「嘘?私、客席に入るまでは見たわよ?」

 

「どこかで迷ってしまったのでしょうか?」

 

ええー!?もしかして入る時にはぐれたと!?

間違ってここから出ちゃったら再入場はできないって言っとったし・・・。

 

「わ、私、探してくると!」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

演劇をやる劇場は、場所にもよるけどアイドルがライブをやるステージとして使われることもある。

そして、そういった建物はだいたい中は似たような造りになっているものだ。

私は昔の記憶を頼りに、歩を進める。

やがて関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板と、赤いカラーコーンで封鎖された場所に辿り着いた。

そこを私は気にせずにくぐりぬける。

しばらく歩くと、スタッフと思われる人たちがバタバタと走り回っている姿が見えるようになってきた。

白い帽子を被り、悠々と歩く私を呼び止める人はいない。

時折、チラッと見てくる人はいるけど、誰も彼もが忙しいのか、見るだけで声をかけてくる人はいなかった。

たぶん出演する役者か、その関係者くらいに思われてるんだろう。

・・・案外堂々としていると、バレにくいものだよねー。

しばらく進むと控え室と書かれた扉が見えた。

私はそこに向かってまっすぐ進むと、その扉の取手に手を掛ける。

 

 

 

「ん?あんた、そこは控え室だろ。関係者か?」

 

 

 

ちぇっ、止められちゃった。

声の主を見ると、赤い髪の男の人が立っていた。

動きやすくアレンジされた着物を着ていて、端正な顔立ちをしている。

薄らとメイクも施されているが、そのきりりとした目元や鼻筋から元々の顔も整っているであろうことが察せられた。

私は慌てずにあらかじめ、バレた時の為に考えていた理由を口にする。

 

「実は舞台を観にきたんですけど、トイレを探してたら迷っちゃってー。あっ、もしかして!あなたは東京ブレイドの・・・ブレイドさん?」

 

「そうだけど」

 

「すっごーい!私、東京ブレイドのファンなんです!特にブレイドがお気に入りでー」

 

現実離れしたその衣装と、前に読んだ漫画の記憶から、私はこの人がこの舞台の主役だと判断した。

怪しまれないようファンを装って眼を輝かせる。

えーい、駄目押しで帽子も取っちゃえ。

 

「へぇ・・・そうだったんだ」

 

私の素顔を見たブレイドが、私のことを自分のファンだと信じて気を良くする。

こういう時はこの顔に感謝しちゃうよねー。

 

「こっちは舞台関係者以外立ち入り禁止だよ。表に看板なかった?」

 

「あー、あったかもしれないです。ごめんなさいっ、気づかなくて!実は私、よくおっちょこちょいって人に言われて・・・」

 

「・・・まあいいよ。役者の中にはギリギリまで集中したい人とかもいるから、あんま控え室には近づかないようにな」

 

「はーい。本当にすみませんでした!」

 

頭を下げて来た道を引き返そうとする。

とりあえず、別のルートでいけないか探してみよう。よくよく考えれば控え室にはいない気がするし。

 

「・・・なあ、あんた。以前俺と会ったことがあるか?」

 

引き返そうとした私を、ブレイドが呼び止める。

振り向くと、彼は私の眼をまっすぐ見てきた。

 

「・・・いや、邪な思いで呼び止めた訳じゃないんだ。ただなんとなく気になって・・・」

 

そう言うブレイドは自分でもどうして呼び止めたのか、わからないような口振りだった。

彼の視線を受けながら、一方で私も妙な既視感を覚えていた。

彼に面識はない・・・はず。

会ってたとしても彼の見た目から小さい子供の頃だろうし、それなら尚更覚えてるとは思えない。

でも確かに、私も彼にどことなく見覚えがある気がした。

 

「・・・さあ?舞台の上から見かけた、とかじゃないですかー?」

 

ここは適当に煙に巻いて逃げよう。

あんまりのんびりもしてられないし。

 

私はそう言うと、今度は振り返らずに走った。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「あ、戻って来た。あんたねえ、もうすぐ開演なんだから誰にも言わずに抜け出すのはやめなさいよ」

 

「わりぃ、メガネ取りに行ってた」

 

ツルギの姿になった有馬に苦言を言われる。

この一ヶ月で何度もやったやり取りだ。

俺はどうも、いわゆるマイペースと呼ばれるやつらしい。

大抵の共演相手は俺の経歴を知ってるから何も言って来ないが、有馬は臆せずに言ってくる。

ララライ以外だとこういう奴は滅多にいないから、結構こいつとのやり取りは楽でいい。

 

「聞いてくれよ有馬、さっきそこですげえ美人に会ったぞ」

 

「はぁ・・・開演前にナンパ?やめてよね、公演前に舞台を炎上させようとするの」

 

「ちげーよ。偶然迷って困ってた相手に声かけたら綺麗な女の子だったんだよ」

 

「やだやだ、男ってどうしてこう女に運命的なものを求めるのかしらねー」

 

「それは女もだろ・・・。でも不思議なことに、綺麗だとは思ったけど妙な既視感を感じてよ。誰かに似てると思ったんだが・・・あれだ、今思えばあの子、星野に似てると思ったんだわ」

 

「星野って、アクアに?・・・あんた、もしかしてそっちのケがあるんじゃ・・・」

 

「断じて違う。俺は可愛い女の子が好きだ」

 

「・・・そこまで断言されると、信じざるをえないわね・・・。あっ、もしかして。その子、アクアの双子の妹じゃない?」

 

「何?あいつ、妹がいるのか」

 

「ええ、私と同じアイドルグループ、B小町のメンバーの星野ルビー。私とアクアが出演するから、あの子も観に来てるはずよ」

 

「なるほど。確かに、妹と言われると納得するな」

 

「・・・アクア、超がつくほどのシスコンだからルビーに粉かけるのはやめた方がいいわよ」

 

「・・・マジか」

 

「ええ・・・妹のために自分の志望校のレベルを落とすくらいだし・・・まず間違いなくあんたが口説こうとしたら邪魔してくるでしょうね・・・」

 

双子の妹、か。

しかし、確かに似てた気がするが双子ってほど似てはいなかったような・・・。

まあ今はいいか。

そろそろ本番が始まる。

俺は頭の中で役者になるためのスイッチを切り替えた。

 

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

ブレイドを撒いて、しばらく歩くと何やら話し声が聞こえてきた。

誰かが誰かに怒鳴る声。昔、聞き慣れてしまった嫌な音。

もうすぐこの舞台は公演が始まるはず。

舞台もテレビの仕事と同じだ。演者のコンディションを乱さないためにスタッフも細心の注意を払って行動する。

例え誰かがミスをして、怒ったのだとしても、周りに聞こえるほどの怒鳴り声なんてもっての他だ。

仮にもここにいる人達は皆、プロのはず。

そんな簡単なやっちゃいけないこと(タブー)をするとも思えない。

 

興味を持った私は、声のする方へと足を進めた。

 

 

 

・・・

 

 

 

私が近づく間も怒鳴り声は鳴り止まない。

やがて声の発生源と思われる一室の近くまで来ると、その扉が勢いよく開いた。

 

「す、すみませんでした・・・っ、ら、ライトくん!ほら行きましょう!」

 

「な!?マネージャー!手を離せ!俺はまだあいつに・・・!」

 

「し、失礼します!こ、この件はまた後ほどー!」

 

私の目の前を小さな男の子を担いだ大人が勢いよく通り過ぎていく。

あっという間にその背中が見えなくなると、今度は空いたドアから見慣れた顔が飛び出した。

 

「・・・ッ!」

 

リリィちゃんは、そのまま私の顔も見ずに先程走り去った男の子達と逆方向へと走っていく。

一瞬見えたその顔には、涙が目尻に溜まっていた。

 

「リリィちゃん・・・?」

 

どうしたんだろう?

もうすぐ本番が始まる時間だけど・・・。

そんなことを考えていると部屋から更に別の人が飛び出した。

 

「──もう、金ちゃんも止めてよ!・・・あ、君!今衣装を着た女の子が出てきたでしょ?どっちに走って行ったか分かるかい!?」

 

「──あっちに走って行きましたよー」

 

「ありがとう!」

 

私が、リリィちゃんが走って行った方向とは別の方向を指差すと、髪を白と黒の半分に分けたおじさんは走って行った。

 

・・・リリィちゃん、泣いていたな。

私は一瞬、扉が開いている部屋をちらっと見る。

だけどすぐに視線を外して、リリィちゃんの走り去った方へと走り出した。

 

 

 

・・・

 

 

 

追いかけるとリリィちゃんはあっさり見つかった。

人気のない階段の踊り場で蹲るリリィちゃんに近づく。

 

「・・・ごめんなさい。すぐに戻るからちょっと待って・・・」

 

こちらを見ずに鼻をすすりながら私を突き放す。

リリィちゃんは明るい子だ。

フランシュシュの中で一番小さいけど、いつもキラキラと笑顔が輝いてる子だ。

そんなリリィちゃんが泣いているのは、とても悲しかった。

私はリリィちゃんの隣に来るとその場に座り込む。そして落ち着かせるようにゆっくりと話しかけた。

 

「リリィちゃん」

 

私がリリィちゃんのことを呼ぶとびくっと反応する。そして恐る恐るとばかりに顔を上げると、私の姿を見て目をまんまるにした。

 

「・・・アイちゃん?」

 

「そうだよー」

 

私は努めて普段の笑顔を作ってリリィちゃんに笑いかける。

リリィちゃんは信じられないものをみたような顔で私に問いかけた。

 

「・・・なんでアイちゃんがここに?佐賀にいるんじゃ・・・?」

 

「私だけじゃなくて皆もいるよ。今は客席で舞台が始まるのを待ってる。・・・大変だったよー、皆で巽を説得するの。何とか本番だけの日だけってことで、こっちまで来る許可を貰ったの⭐︎」

 

我ながら頑張ったなー。サキちゃんと愛ちゃんが暴力に頼ろうとするのを抑えたり、純子ちゃんの飛行機トラウマ問題の解決法を皆で話し合ったり、さくらちゃんが飛行機の中で無くした小指を皆で探したり、一緒に飛行機で運搬されてた食べ物をたえちゃんが食べちゃったり・・・色々あったっけ。

 

これまであったことをリリィちゃんにかいつまんで話していく。

私の話を聞いていたリリィちゃんは、久しぶりに皆のことを聞いたからか、少しずつ顔色が明るくなっていた。

 

「──こんなものかなー、私達の方は。・・・じゃあはいっ、次はリリィちゃんの番!リリィちゃんに何があったか教えて?」

 

私の言葉にリリィちゃんの顔がまた暗くなる。だけど今度はゆっくりと口を開いて話し始めた。

 

「・・・実はね、さっきリリィが演じることになった役を、本来演じるはずだった子が来たの」

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

『ふざけんな!何で舞台に上がるのが俺じゃなくてそいつなんだ!』

 

 

『どうせあのオヤジが言ったんだろ!俺じゃできないって!だから代役なんて見つけてきやがって!』

 

 

『この舞台は俺がブロードウェイに行くための第一歩なんだ!それを邪魔するなら──!』

 

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

「何でもその子は自分が舞台から降ろされたことを知らされてなかったんだって。だから自分を今日の舞台に出せって」

 

それは無茶だ。

だってもうパンフレットにリリィちゃんの写真も載ってるし、メディアへの告知だってしてるだろう。

今から役者を変更するなんて、どう考えても無理だし、言ってることもその子のわがままでしかない。

だけどそんなこと、生前天才子役と呼ばれていたリリィちゃんなら当然わかるはず。

 

「もちろん、リリィは無理だよって言おうしたよ?でも気づいちゃったんだ」

 

「気づいたって・・・何に?」

 

「・・・」

 

リリィちゃんはそこで一度、言葉を切ると自分の手を見た。

じっくりと眺めた後、私に視線を戻す。

 

「・・・リリィ達はゾンビで、本来ならもうこの世にいないこと」

 

 

 

「もしかしたらこの舞台には本当ならあの子が立ってるはずで、リリィ達がそんな未来を変えてしまったんじゃないかって。・・・そう思うと、とっても怖くなったの」

「・・・リリィも子役だった頃はね?いろんな子と競い合ったよ。子役は他の役者と比べると出演できる枠が少ないし周りの子は皆ライバルだった。オーディションで仲良くなった子が落ちて、二度と見なくなるなんて当たり前。今回みたいなことも何回もあった」

「・・・だけど、リリィはゾンビなんてズルをしてここにいる。あの子の未来を奪ってこの舞台に立とうしている。・・・それは、本当はとっても悪いことなんじゃないかって」

 

ゾンビになってアイドル活動をすることで、きっと私たちはたくさんの人の運命を、人生を変えてる。

それがリリィちゃんはきっと、怖くなったんだ。

 

「・・・アイちゃん、リリィ達はここにいていいのかな?本当にこのままキラキラしていいのかな・・・?」

 

「・・・確かに、私たちが活動を続けることで今後も割を喰う人は出るかもね」

 

テレビ番組の出演枠も、オリコンのランキング上位も、映画やドラマのキャストも。

どれも一握りの存在しか選ばれない椅子取りゲームだ。

選ばれなかった人は常にいて、その人達の芸能界での未来は遠ざかっていく。

 

「けどさ?そんなの、この世界だと当たり前なことじゃない?」

 

「・・・でもリリィ達はゾンビだから・・・」

 

「私はゾンビがズルいとは思わないなー。だって結局芸能界(この世界)、スターだとかトップとか呼ばれる存在になれるのは一握りでしょ?ゾンビも普通の人も関係なくない?」

 

「それは・・・アイちゃんが一度、トップアイドルになったから言えるんだよ・・・」

 

「うーん、でもさ?私達、皆・・・じゃないけど愛ちゃんも純子ちゃんも、リリィちゃんだって、一度は伝説のーなんてすごい存在になったのに、今は日本の端っこのご当地アイドルでしかないじゃない?」

 

「それは・・・そうだけど・・・」

 

リリィちゃんは納得がいっていないみたいだ。

私からすれば、ゾンビだろうと普通の人だろうとこの世界じゃそう変わらないものに今は思える。

そりゃあ最初はゾンビがアイドル?なんて思ったけど、実際にやってみたら結局人間の頃とそんなに変わらなかったし。

そもそもアイドルも役者も嘘に嘘を重ねて作る偶像だ。

偶像なんだから、それを作るのが人かゾンビかなんてたいしたことじゃないように思えてしまう。

でもそう言ってもリリィちゃんはたぶん納得しないよね・・・。

なら──

 

「・・・ならこう考えない?リリィちゃんがもっともっと有名になって、その子が言ってたことを見返してやればいいの」

 

「え?」

 

私の言ったことがわからなかったのか、リリィちゃんが聞き返す。

 

「佐賀だけじゃない。東京でも・・・ううん、日本一有名になって、テレビをつけても街を歩いても私たちが身近に感じられる存在になって、その子に言ってやろうよ。・・・どうだっ、私の方がすごかったでしょ!ってさ」

 

私たちがゾンビだということは変えられない事実だ。

それがどうしても引っかかると言うなら、ゾンビだろうと人間だろうと関係ないとこで証明すればいい。

結局のところ、この世界は最終的には実力がものを言う世界だ。

コネで仕事をもらっても、本人が努力しないんじゃいずれは干される。

だから、結果で示せばいい。

星川リリィは己の実力でこの舞台に立ち、フランシュシュも己の実力でトップに立ったと世界に認めさせればいい。

うん、その方がシンプルでいいよね。

いろいろ考えるのも疲れちゃうし。

 

 

「・・・そこは世界で一番、じゃないの?」

 

「それは無理!私、海外ロケNGだから!」

 

私が自信満々に否定すると、リリィちゃんは一瞬驚いた後、くすくすと笑い出した。

 

「・・・なにそれ、変なのー」

 

「リリィちゃんも大人になればわかるよー。英語とか学校で習ってもちんぷんかんぷんになるから」

 

私もつられて笑い出す。

・・・やっといつもの私達に戻った気がした。

 

「・・・たぶんね、リリィは大人にならないよ。アイちゃんもこの先、姿は変わらないと思う」

 

「えっ、なんで?」

 

「気づいたんだけど、リリィ達、髪や爪が伸びたりしてないの。ゾンビって姿はずっと変わらないんだよ、きっと」

 

「へー、そうなんだー」

 

じゃあいずれは、ルビーやアクアに見た目も追い抜かれたり?

・・・まあ背はすでに抜かれてるし今更かー。

 

「・・・うんっ、決めた!リリィ、フランシュシュの皆と一緒にアイドル頑張る!で、もっともっと有名になって、テレビにもどっかんどっかん出て、リリィ達がすごいんだって、世界中の皆に認めさせるの!」

 

「・・・なら、まずはこの舞台を観に来た人からだね!」

 

「うん!」

 

リリィちゃんはそう言うと、元気よく立ち上がる。

その顔にもう迷いや不安はなかった。

 

「リリィ、もう行かなきゃ!・・・アイちゃん、ありがとう!観客席から観てて!リリィがこの舞台で誰よりもすごいってとこ、見せつけるから!」

 

「・・・うん!爪痕、残しちゃえ!」

 

私が両手を広げて獣が襲いかかるようなポーズを取ると、リリィちゃんも笑顔で同じポーズを返した。

うん、今のリリィちゃんなら、きっと大丈夫。この舞台で誰よりも輝くことができる。

元気に走っていくリリィちゃんを見ながら、私は確信した。

 

「・・・さて、と」

 

私はリリィちゃんを見送った後、来た道を戻っていく。

リリィちゃんは直接舞台の方に向かった。

さっきみた案内図だと、この踊り場を通らないと舞台の方には行けない。

私とリリィちゃんが話してる間、誰も通らなかった。

・・・つまり、あの人はまださっきの部屋にいるはずだ。

 

 

 

・・・

 

 

なんとなく、先ほどのブレイドのことを思い出す。

そうだ、あの人に感じた既視感。

あの人からは何故か、『彼』のことを思い起こされた。

どうしてそう思ったかはわからない。

でも、この舞台の主人公を演じるくらいだからきっと演技も上手いんだろう。

奇しくも、『彼』も演技は上手かったし。

きっとそれだけだ。

 

 

私が先程リリィちゃんが飛び出した部屋まで戻ると中から人の気配がした。

私は音を立てずにその部屋を覗き込む。

・・・いたいた。

目当ての人物を見つけた私は、なんてこともないようにその人に声をかけた。

 

「──すみませーん、金田一さんですよね?」

 

「・・・誰だお前。ここは、関係、者、いがい立ち入り・・・」

 

私の顔を見た金田一さんが、声を無くす。

私は人の名前と顔を覚えるのが苦手だ。

でも昔から、一部の相手はすぐ覚えられる。

その相手はたいてい、私が才能あるなーって感じた人だけ。

この人に初めて会ったのは、アイドルになって割とすぐだったから、相当昔になる。

だけど私はこの顔と名前を今までに一度も忘れていない。

鏑木プロデューサーから紹介されたワークショップで会った人。

 

──私が演技の基礎を教わり、『彼』と私を繋いだ人──

 

「・・・おい、俺はまだ昨日の酒が抜けてねえのか?どう考えても、死んだはずの女が目の前で喋ってやがる」

 

「さっすが、金田一さん。考えてた通り、やっぱり私の正体にすぐ気がついた」

 

私は入ってきたドアを閉め、内側から施錠する。

東京に行けるとわかった時、この舞台に劇団ララライが関わってると知った時、私の頭の中ではこの構図ができていた。

 

 

ああ、やっと進められる。

『彼』に繋がる大事な手がかり。

私の大切なものを守る為の復讐の道を。




今回は短めです。
本当は前回にくっつけるつもりだったとこを、膨らませて足した感じ。

東京に来たらフランシュシュ組ははっちゃけそう。
いや、ゾンサガで東京に実際に行く話はないので完全に想像ですけど。
まあこの小説のほとんどが幻覚なので今更とも言えますけど!
劇場版で佐賀を飛び出すことを信じて・・・!

サキはキザミ、純子は刀鬼、愛は鞘姫が東京ブレイドでは好きそうーと思ってます。ごっこ遊びとかやってそうだといいなー。

金田一とアイの絡みってどうなんですかね?原作だと皆無だったので・・・。ただアイと彼を繋げたのは鏑木Pであり、劇団ララライ・・・となると、ララライ結成時からいる金田一は重要人物・・・ということで。

引き続き書いていきます!
アニメ見てテンション上がって更新ペース少し上がるかも・・・!
いつも読んでいただいてありがとうございます!
感想、高評価、あと誤字訂正なんでもアクション待ってますので、よろしくお願いします!
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