推しの子 in SAGA   作:片倉の推しの子Bです

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長いので後半を分けます。

フランシュシュ要素は今回(ほぼ)ありません。
あと今回三人称視点が多めです。

関係ないけどあの「アクタージュ」の作画担当していた宇佐崎しろ先生の新作、「魔男のイチ」の連載が今週発売の週刊少年ジャンプで始まりました!
アクタージュはめっちゃ面白い漫画だったので楽しみです!
皆さんも是非読んでみてください!


第二十二話 推しの子×星の子×SAGA 後編①

 



 

演劇の世界に入って何十年も経つ。

最初は一役者だった俺も、気がつけば周りを指導する立場になった。

それだけ演技の世界に関わってくると、自然と周りの人間のクセがわかるようになる。

とりわけ、芸能界で日々競っている連中のクセは強い。

アイドルも役者も、己の存在を主張するが如く演技に、パフォーマンスに、そいつ特有のクセが出る。

 

だからすぐに気がついた。

目の前にいるこの女が、かつてワークショップに招いた少女と同じ存在だと。

常に人前で演技を崩さず、自身の本性を周囲に隠していた死んだはずの人間が、いま俺の目の前に立っているのだと。

 

 

・・・

 

「・・・おい、俺はまだ昨日の酒が抜けてねえのか?死んだはずの女が目の前で喋ってやがる」

 

「さっすが、金田一さん。やっぱり私の正体にすぐ気がついた」

 

目の前の女は、いや・・・アイは俺の疑問を当然のごとく肯定した。

信じたくはない。だが俺の中の、役者としてのカンが告げている。

この女が本物であると。

 

「すごいねー、最後に会ったのって私がアイドルとして人気になる前だし・・・誰?って言われたらショックで泣いちゃうとこだったよ」

 

「嘘つけ。お前、昔から何があっても笑ってたじゃねえか。演技を習いに来た相手に対して、ずっと仮面を被りながら接するなんて、おちょくられてるのかと思ってたぜ」

 

「そうだっけ?忘れちゃったよ」

 

朧げだった記憶が呼び起こされていく。

当時と比べて少し大人びたか・・・?

まああれからテレビで見たことは何度かあっても、直接会うことはしなかったし当然か。

 

「で、一体何の用だよ?お盆にゃ少し早いだろ?」

 

「どうやってーは聞かないんだ?」

 

芸能界(ここ)じゃあ摩訶不思議なことがよく起きるもんでな、こんだけ長くいると大抵のことじゃ驚かん」

 

「ふーん、つまんないのー」

 

まあでもらしいっちゃらしいかー。

たいして気にしていないのか、アイが会話を続ける。

 

「じゃあ挨拶はこの辺にしてー。・・・もちろん、私が聞きたいのは彼のこと」

 

彼。

その言葉が誰を指すか、俺は気づいていた。

いや、こいつが化けて出てまで聞くことなんて、あいつのことしかないとわかっていた。

 

「──カミキヒカルについて、いろいろと聞かせてよ?」

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

「──あ!アイちゃんいたぁ!」

 

劇が始まるまでもう時間もない。

アイちゃんを探して来た道を戻っていると、素知らぬ顔で歩いている姿を見つけた。

あれ?アイちゃんが出てきた方って確か立ち入り禁止の看板があったような・・・?

 

「あ、やっほー、さくらちゃん。どうしたの?迷子?」

 

「迷子じゃないとよ、もう!アイちゃんがおらんとから探しに来たけん」

 

「あはは、ごめんごめん。トイレ探してたら迷っちゃって」

 

「一度建物から出ると再入場はできないってあのおじさんが言ってたけん。知らずに出ちゃったかと心配したんとよ」

 

「そっか、なら早めに戻らないとだね。よーし、もうすぐ劇も始まっちゃうしちゃっちゃといこっか!」

 

アイちゃんは何事もなかったように笑顔を見せる。

気のせいだったのかな・・・?

 

「あ、ちょっと待っとってアイちゃん!」

 

「なに?」

 

走り出そうとしたアイちゃんの手を握る。

 

「よし、これでもう迷子にならんとね。アイちゃんも手を離したらいかんとよ?」

 

「・・・ふふ、はーい。さくらママー」

 

「もー、それやめとってー!」

 

何故か上機嫌のアイちゃんの手を引っ張りつつ、みんなのもとへと歩き出した。

 

・・・

 

「おやぁ?まだこんなところにいていいのかい?」

 

「・・・鏑木か」

 

控え室の一角に座っていた金田一敏郎は、入ってきた鏑木勝也を見て、大きな息を吐く。

 

「珍しいね、いつもはもっと近くで見るじゃないか」

 

「・・・別に、モニター越しでも変わらん」

 

金田一はあまり話したくないのか、鏑木を冷たくあしらおうとする。

その態度が逆に鏑木の興味を引いた。

 

「ふーん、・・・もしかして、観客の中に昔の女でも見つけたかい?」

 

「・・・その方がマシだったがな」

 

金田一はそれだけ言うと、完全に鏑木に背を向けてしまった。

冗談のつもりで言ったのだが、どうやら彼の地雷を踏んだらしい。

 

「今の俺は機嫌が良くない。悪いが話ならまたあとにしてくれ」

 

「・・・やれやれ、そうみたいだね。今回は出直すことにするよ」

 

そう言うと控え室をあとにする。

何年経っても自分の演出した舞台が始まる前はナイーブになるらしい。

次の仕事について話したかったんだけどねえ・・・。

 

スマホを開き、次の企画のためにまとめた資料を見る。

そこにはフランシュシュにいる、アイそっくりの少女の写真が載っていた。

 

 

・・・

 

 

 

───かつて大きな戦があった。

名だたる強者たちが己の信念と野望を胸に争い続けたがその戦いに勝者はなく、世界の命運を決める二十一の刀が極東の地に散らばった───

 

──この物語はある男が一振りの刀を手にすることから始まる──

 

 

 

・・・

 

 

ナレーションと共に舞台の幕が上がる。

舞台上で巨大なスクリーンを後ろに、メインキャストの紹介が始まった。

 

ブレイド達新宿クラスタ、刀鬼達渋谷クラスタのメンバーが原作のシーンと同じ決めポーズを取るのに合わせて、スクリーンに原作の絵が表示される。

壮大なサウンド、美麗な背景、加えて舞台の上には荘厳な装飾。

これらの舞台装置が彼らの姿を華やかに彩る。

映像と舞台、まさにその二つが合わさった体感型アトラクション。

 

最後に『東京ブレイド』の題字がスクリーンいっぱいに表示され、オープニングが終わる。

 

この舞台はまず、ブレイド達新宿クラスタのメンバーが集う場面から始まる。

 

 

 

 

 

ブレイド「──おーい、誰もいねーのか?・・・ん?刀?」

 

旅をしていた主人公、ブレイドは水を分けてもらいに立ち寄った村で一本の抜き身の刀に出会う。

 

不思議なことに、その刀は輝きを発しており、見るからに異質なものとわかった。

 

???「──おいっ、何者だ?貴様」

 

刀に近づいたブレイドの元に、別の声が降り注ぐ。

見上げればそこには、同じように両手に異質な刀を持つ女。

二振りのその刀は、脇差のような刃渡りなのに斧のような刀幅をもっていた。

 

ブレイド「──まずは自分が名乗れよな」

 

丸腰にも関わらず、ブレイドは不敵に問い返す。

女は獰猛な笑みを見せた。

 

???「ふん、うちは剣主の一人、ツルギ様だ。・・・その盟刀を捨てて逃げるか、私と戦うか選びな!」

 

刀を捨て逃げ出すか、刀を手に戦うか。

返答次第では切ると言わんばかりのツルギの殺気に対し、ブレイドは刀を一瞥すると迷わず手を伸ばした。

 

ブレイド「──こいつは俺の刀だ」

 

ツルギ「はっ!バカな奴!地獄で後悔しな!」

 

 

ワイヤーを介して(ワイヤーアクションで)、重力の縛りから解放されたツルギが空から舞い降り、ブレイドに切り掛かる。

ブレイドもまた、引き抜いた刀で迎撃した。

 

ブレイド「盟刀ってなんなんだよ!」

 

ツルギ「貴様、何も知らないのか?はっ、冥土の土産に教えてやる!・・・盟刀はただの刀ではない。手にした持ち主にはさまざまな力が与えられ、すべての盟刀から最強と認められたものは、国家を手にする、國取りの力を手にすることができる!」

 

ツルギのセリフに合わせてスクリーンに【國取り】と表示される。

 

ブレイド「この日本を盗める程の力、ね・・・。いいじゃん」

 

ブレイドが一際大きな一撃を放ち、ツルギは距離を取らされる。

 

ブレイド「──王様になってみたかったんだよね、俺!」

 

ブレイドは刀の切先をツルギに向けると、大きく振りかぶった。

 

ブレイド「俺が最強になってこの国の王になる!」

 

ツルギ「っっ!ふっざけるなぁー!」

 

ブレイドとツルギの盟刀がぶつかりあい、決着がついた。

立っていたのはブレイド。尻餅をついたツルギに向かって悠々と近づいていく。

 

ツルギ「──や、やめてけれー!」

 

先程までの威勢はどこへやら、ツルギが降参と言わんばかりに両手を上げた。

 

ツルギ「お、おら!まだ死にたくねえだー!」

 

ブレイド「・・・なら、俺の方が強いと認めるか?」

 

ツルギ「認めるだ!あんたの方が強いだ!」

 

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

ブレイドは、降したツルギを伴い、旅を続ける。

 

ブレイド「この先に新宿があるのか?」

 

ツルギ「ああ、地下ダンジョンはまさに群雄割拠。その中でも頭ひとつ抜けてるキザミを倒せば新宿はお前のものだ」

 

ブレイド「ふーん・・・お前も王になりたかったんじゃないのか?」

 

ツルギ「・・・仕方ない。剣主同士の決闘で敗れたものは命を差し出すか、相手の配下になるしかないんだ」

 

ツルギ「それに、あんたが王様になったさいにゃあたしを大臣にしてくれりゃあいい!したら、このツルギが王道を切り開いてやるさ!」

 

 

 

・・・

 

 

 

ブレイド達は新宿ダンジョンにいる盟刀の持ち主、キザミを倒すために、新宿へと向かった。

 

ブレイド「はあああ!」

 

キザミの手下達「「きゃあああ!」」

 

ブレイドの一撃が、新宿を根城にしているキザミの手下をまとめて斬り伏せる。

 

ブレイド「終わりだ!」

 

???「──お前がな!」

 

ブレイドがトドメを刺そうと刀を振り上げたところで、スクリーンに雷のエフェクトが走る。

次の瞬間、ブレイド達の前に一人の男が立っていた。

 

キザミの手下「「キザミ!」」

 

キザミ「よくもやってくれたな・・・お前はこのキザミ様が相手してやるよ!」

 

ブレイド「はっ・・・望むところだ!」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

新たに現れた新宿ダンジョンの猛者、キザミ。

キザミとの激闘に勝利したのはブレイドだった。

 

 

 

ツルギ「やったー!ブレイドー、お前やっぱ強いなー!」

 

キザミ「・・・くそっ、あんたら強いな」

 

ブレイド「こんなところで躓いてたら王になんてなれるわけねえだろ?」

 

ブレイドのあっけらかんとした態度に、キザミの張り詰めていた殺気が緩む。

 

キザミ「クッ、ククク・・・。なあ、俺たちもあんたの仲間にしてくれよ」

 

自らの刀をブレイドに預けるように掲げる。

 

キザミ「お前が王になった時、俺のポジションは将軍な!」

 

 

 

・・・

 

 

 

キザミも降し、仲間を増やしたブレイド達。

彼らは新宿を拠点に一大勢力を築いていく。

 

 

 

キザミ「──俺らは好き好んで地下にいたんじゃない。渋谷の鬼どもに追いやられたんだ」

 

キザミの瞳には渋谷での出来事を思い出したのか、怒りが宿っていた。

 

キザミ「奴らはその辺の鬼族とは訳が違う・・・!」

 

ブレイド「・・・次の目的が決まったな」

 

ブレイドはいつものようにあっけらかんとした表情でキザミに言う。

 

ブレイド「──次は渋谷の鬼退治だ」

 

キザミ「ブレイド・・・」

 

ブレイド達の次の目的地が決まる。

しかし、それは長く続く國取りの大戦の前触れでしかなかった・・・。

 

第一幕 完。

 

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

第一幕が終わったことを知らせると舞台の幕が一時的に降りていく。

第二幕が始まる前のインターバルだ。

 

「──すっごかああああ!」

 

「さ、サキちゃん!静かにせんといかんとよ!」

 

同じく叫ぼうとしていたたえちゃんの口を塞ぎつつ、私はサキちゃんを注意する。

この様子だと劇中に騒がなかっただけいい方だったのかも・・・。

 

「ふむふむ・・・どうやら舞台のセットの移動などもあるので定期的にインターバルを挟むみたいですね」

 

「ええ、インターバルの間は小声なら感想とか喋ってもいいみたい」

 

「これが都の舞台なんでありんすね。実に華やかでありんす」

 

「すごい・・・あんなに大きなスクリーンに映像が・・・。あの空を飛んでいたのはどうやっているのでしょうか?」

 

「たぶん、ワイヤーアクションね。ワイヤーで宙吊りになることで浮いてるように見せるのよ。漫画のアクロバティックな動きを再現するために」

 

「ブレイドの人、演技上手だったねー。有馬ちゃんも上手くてびっくりしちゃったよー」

 

「ちんちくと同じ天才子役って言ってたけんな!ツルギ役があいつって知った時は不安やっとけど、舞台の上じゃ別人みたいやったなー!」

 

「そういえば、まだリリィはんはでないんでありんすな」

 

「まだブレイド達、新宿クラスタ結成のシーンだし、オリジナルキャラの出番は先なのかも」

 

「次は渋谷クラスタが出るみたいですし、その次の幕とかですかね?」

 

「あっ、もうそろそろ第二幕が始まるみたい!」

 

舞台の幕が再び上がっていく。

第二幕の始まりだ。

 

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

 

舞台の中央に一本の刀がある。

古く、錆びれたその刀は、数多の死体が重なるその上に、燦然と刺さっていた。

やがて、スクリーンに背景が流れていく。

ある時は大雨、ある時は焦がすような夕焼け、またある時は凍えるような大雪。

四季折々を超える中で、ただ一つ、変わらないものがある。

それは、戦の音だった。

金属が打ち合う音、武士の怒号、弱者の悲鳴。それらが引き起こす熱は、美しい背景とコントラストして一つの芸術のように思えた。

 

 

 

──その刀はずっとそこに、あった。

数多の戦場、数多の時代を超えたその刀は、いつしか妖気を帯びるようになった───

 

 

 

ナレーションの言葉と共に、一瞬の暗転。

次に観客が目にしたのは、刀のそばに佇む一人の少女。

巫女のような服に身を包み、その顔は少女が持つ扇に隠されてわからない。

 

少女「──戦国の世から幾星霜。現世もまた憎しみが溢れておるわ」

 

見た目から想像できる珠のような声。しかし、その節々にはどこか濁ったものを感じさせる。何よりその声色には微塵も幼さを感じさせない。

むしろその逆、顔を隠し世を憂う姿から発せられる達観した物言いは、聞くものに声の主を老成した翁かと思わせる。

幼子の姿に漂う老成した雰囲気、その不気味さが底しれぬ恐怖を見るものに感じさせる。

 

少女「その中心には常に、あの忌々しい盟刀・・・。國取りなどと甘言に踊らされ、愚かにも争っておる──!」

 

少女は踊るように舞台の上を移動する。着ている巫女服の袖がふわりと舞う姿は、神楽を奉納してるかのようだった。

その間、顔を隠す扇は外れない。

見るものの腹の底に響くその声の主は、まだ面相を明かさない。

 

少女「いくら時が経とうと、争いは終わらぬ──ならば、天に代わって誰かが誅さねばなるまいて」

 

舞台の中央に戻ってきた少女が、刺さっている刀に手を伸ばし観客に向かって宣言する。

同時に顔を隠していた扇がパチンと音を立てて閉じる。その音を合図と言わんばかりに、スクリーンいっぱいに炎が舞った。

 

 

少女「欲深い盟刀使い共よぉ!震えるがいい!今ここに、怨嗟の炎が蘇ったぞぉ!────この、ムラクモがなぁ!」

 

初めて観客の方をまっすぐ見た少女が、己が顔貌を晒す。

その明かされた幼い顔立ちに、観客はほっとする。

ああ、よかった。もしかして本当に爺の顔をしているのでは?と一瞬でも疑ったことを、恥じるものもいる。

だが同時に気づく。

そう思わされたのは、この少女の演技によるものだと。

たった数分のセリフと演技だけで、そこにいるのは少女ではなく、はるか昔から蘇った爺だと信じ込まされた。

この役者は只者じゃない。

フランシュシュ六号はあっという間に、観客の心を掴んでいた。

 

 

 

・・・

 

 

 

うまいな。

五反田泰志は六号の演技に感心していた。

顔を隠して登場させ、観客に役への興味を持たせる、これはララライの演出の手腕だろう。

聞けば六号の演じる役は、この舞台が初出のキャラだと言う。

おそらく設定の掘り下げも踏まえて、既存のファンでも受け入れやすいように、独白のシーンを追加したのだろう。

台詞をギリギリまで削ってほぼ役者の演技で構成した台本でよくやるもんだ・・・。

 

だが注目するのはその演技、六号は舞台を移動して台詞を言う間、徹底して子供らしさを消していた。

いや、むしろその逆か。

見た目は子供なのに、その動き、セリフの言い方全てがまるで長年生きた老人のように演じていた。

そのギャップが、観客に不気味さを感じさせる。

ヒール役としては一級品の演出だ。

元々のキャラ設定が尖っているのもあるのだろうが、それを現実に出力する演技のクオリティ・・・こりゃあ早熟もうかうかしてたら食われちまうぞ・・・。

 

さて、次は新宿クラスタと渋谷クラスタとの対決のシーンもある。

早熟のお手並み拝見といこうか。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「きゃーっ、リリィちゃん可愛かねぇ!」

 

「ヴァー」

 

さくらちゃんとたえちゃんが声のボリュームを下げつつ、持ってきたタオルとうちわをブンブン振る。

それぞれにはリリィちゃんの可愛いイラストと、リリィちゃんしか勝たん!と切り抜いた文字が貼ってあった。

さくらちゃん、生き生きしてるなー(ゾンビだけど)

やっぱり昔からよく誰かの応援してたのかも?

それこそ、アイドルのライブに参加してたりして。

 

 

「いやー、すごいねー。・・・うんっ、すっごく気持ち悪かった!」

 

「あんた、それ絶対リリィの前でいうんじゃないわよ・・・」

 

「普段のリリィさんと声も違った気がしますね・・・」

 

「あの感じ、前もどこかで聞いたようなー・・・あっ、わかった!ガタリンピックの時のアイちゃんの声と!」

 

「あー、あの泥水がぶ飲みした時と?」

 

「サキちゃんー?その言い方だと私が普段から泥水飲んでるみたいじゃないー?」

 

「役作りでありんしょうが自ら泥水を飲むなんて、リリィはんの芸者心は本物でありんすなぁ」

 

「リリィさんの演技に対するプロ意識・・・じゃんるは違えど、とても共感がもてます・・・!」

 

純子ちゃんは何やらうんうんと頷いている。

リリィちゃんの演技に対する姿勢に、何かシンパシーでも感じたのかな?

私はサキちゃんの手を掴みつつ、冷静にそう分析した。

 

「・・・あんた達、そろそろインターバルが終わるからじゃれあうのはそこまでにして」

 

愛ちゃんにたしなめられ、私は渋々手を離す。

舞台を見れば、幕がちょうど開き始めたとこだった。

 

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

物語は進んでいく。

キザミと(もんめ)の戦いから始まり、新宿クラスタと渋谷クラスタは全面戦争へと入る。

 

 

キザミ「くっ・・・!!」

 

匁「さて、これで・・・」

 

地に足をつけたキザミに対して、渋谷クラスタの剣主、匁は手傷を負ってるものの余裕があった。

トドメを刺そうと近づく匁の前に、二つの影が割って入る。

 

ツルギ「そこまでよ!よくも私の身内を痛めつけてくれたわね!一兆倍にして返してあげる!」

 

ツルギとブレイド、ツルギの仲間である彼らが現れたことで匁は自身の不利を悟り、撤退した。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

撤退した匁は、同じ渋谷クラスタの仲間にブレイド達が来ることを報告する。

 

???「・・・新宿クラスタ、厄介な奴らみたいだな」

 

匁「何も考えてないバカの集まりですよ。全員倒せばそれで良いと考えている。・・・どうします?あいつら攻めてきますよ、刀鬼」

 

刀鬼「・・・俺は姫の懐刀だ。持ち主の指示に従うだけ」

 

匁「君に意見を求めたのが間違いでしたね。少しは人間味というものを持ったらどうですか・・・」

 

匁「では『鞘姫』・・・、決断を」

 

鞘姫は長考の末、ブレイド達、新宿クラスタと戦うことを決心する。

 

鞘姫「・・・刀を抜けば、血が流れる」

 

鞘姫「ですが、戦わねば守れないものもあるでしょう。───ならば刀を抜きましょう。合戦です」

 

鞘姫の号令に、渋谷クラスタに属する鬼たちが鬨の声をあげた。

 

 

 

・・・

 

 

 

私の人生でターニングポイントがあるとするならば、それは二回ある。

 

一回目は、アクアと出会った時。

初めて同年代の役者に演技で負かされた。

監督からはこの業界での生き方を教わった。

泣くほど悔しかったけど、あの映画に出演してなければ、もっと私は腐っていただろう。

 

そして二回目は、私が本物の天才に会った時だ。

 

アクアとの共演からしばらく経っても、私の天下は続いていた。

だけど、とある現場のオーディションで私は出会った。

 

『あなたが有馬かなちゃん?うわー、本物だー!』

 

──本物の天才に。

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

『・・・あんた、誰?』

 

『リリィだよ!星川リリィ!トゥインクルでマジカルな魔法少女!』

 

なんだこいつ。

頭に大きな星の髪飾りをつけて、アニメに出てくる魔法少女みたいなポーズして・・・。

まあ私達くらいの年齢ならまだ卒業してないくらいの趣味といえるだろう。

だけど、曲がりなりにも芸能界にずっといた私にはだいぶ昔に通った過去だった。

 

『・・・は?何それ。ここは遊び場じゃないのよ。ごっこ遊びがしたいのなら家に帰りなさい』

 

子供は嫌いだ。

自分の感情で現場を乱すし、周りに自分勝手に迷惑をかけるし。

ここにはカメラもないし、大人もいない。

私はさっさと嫌われて追い払おうとした。

 

『ちがうよー!リリィは遊びに来たんじゃないもん!リリィも役者として、ここにオーディションを受けに来たんだよ!』

 

『・・・あんた、馬鹿じゃないの?あんたみたいな頭お花畑のガキが受かるわけないでしょ』

 

『むー、それはやってみなきゃわからないでしょー!』

 

頬を膨らませて抗議してくる。

その子供っぽさがまた私を苛立たせた。

むかつく。

むかつくむかつくむかつく!

こういう奴が子供っぽさを振り翳して、現場を掻き乱すんだ。

 

 

『・・・なら教えてあげる。このオーディションは形だけのものなのよ!私を起用するための嘘っぱちなの!』

 

『そうなの?』

 

『当たり前でしょ?皆、天才子役の有馬かなを起用した方が世間に受けるとわかってる!視聴率も取れるし、知名度もあがる!無名のあんたが何をやっても無駄なのよ!』

 

私の言葉に目の前のガキが沈黙する。

ここまでいえばこいつも諦めるだろう。

いや、泣き出すかもしれない。それでもし大人が来ても問題ない。いくらでも言い訳なんて思いつくし、私の演技力ならそれを信じさせるなんて造作もない。

・・・だけど目の前のこいつは、むしろ目をキラキラと輝かせて私に言った。

 

『──じゃあリリィがこのオーディションに受かったら、お友達になってよ!』

 

ああ、こいつは本当に馬鹿なんだと思った。

もしくは見た目通り、世間を知らないガキなんだろう。

さっき私が言ったじゃない。あなたが受かることは万に一つもありえないって。

・・・残念だったわね、ここは大人のビジネスの場よ。ただ夢を語るだけじゃここにはいられない。

 

『あっそ。いいわよ。・・・あんたが受かったらね』

 

どうせ叶わないことだと思って、私はその提案を受け入れた。

こいつと会うのもこれで終わり。

これでこのうざったい顔を見なくて済む。

私はそう信じて疑わなかった。

 

 

 

・・・

 

 

 

結果的に、そのオーディションは私が受かった。

病気に苦しむ子供の役。十秒で泣ける天才子役の私に相応しい役だ。

これで、あの星飾りとの縁も消えて終わり。

 

・・・そのはずだったのに。

何故かあいつは、私が受かった病気に苦しむ子供・・・の友人役として受かっていた。

 

本来この友人なんて役は台本には存在しない。

なんでも風の噂では、このドラマの監督が急遽追加したらしい。

その経緯は不明だが、どこかの広告会社の圧力だとか監督のゴリ押しで決まったとか悪い噂ばかりが耳に入ってきた。

 

まるでアクアと初めて会った時のようなシチュエーション。

・・・ううん、偶然に決まってる。

どうせオーディションであいつが泣き喚いたとか、審査した人に気に入られたとか運が良かっただけだ。

その時はそれくらいにしか思わなかった。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

収録初日、私は早速あいつに出会った。

 

『オーディションぶりだね!かなちゃん!』

 

『・・・わぁ、そうだね!リリィちゃん!』

 

この前、私がとった態度なんてなかったみたいにあいつは接してきた。

収録現場にはカメラマンやメイク、監督などたくさんのスタッフがいる。

この前みたいな頭ごなしなことは言えない。

私は営業用の笑顔で星飾りと話す。

 

『ね?言った通りだったでしょ?リリィ、オーディションに受かったよ?』

 

『・・・うん!すごいね、リリィちゃんは!私もリリィちゃんと同じ現場でお仕事ができて嬉しいよー!』

 

『えへへー!これからよろしくね、かなちゃん!』

 

何がよろしく、だ。

運で掴んだ役のくせに。ここの監督は演技にうるさい人だ。どうせすぐこいつの化けの皮は剥がれる。

 

 

 

・・・

 

 

 

『私・・・アンナのこと、助けたいの!』

 

『・・・いいの、私はどうせもう長くない。それよりも・・・』

 

意外にもこいつの演技は悪くなかった。

泣き演技も下手じゃない。自然と涙を流せている。

とは言っても私ほどじゃない。事実、メイクやカメラマン達現場スタッフは私の方が上手いとほめてくれた。

ただ・・・唯一、監督だけは何も言わなかった。

 

 

 

・・・

 

 

 

『あっ、かなちゃん!』

 

『・・・げっ』

 

あのドラマの収録が終わった後、再び私はあいつとオーディション会場で出会った。

またしても同じ役。今回は、運営側に事前に私が受かる話はついていない。

だけどどうせ私が勝つ。それくらい、有馬かなのネームバリューは強い。

 

『今日のオーディションは合同オーディションだってー』

 

『あんた・・・普通に話しかけてくるのね・・・。ふんっ、知ってるわよ。数人毎に台本に沿った演技をして、審査員に見てもらう形式。・・・せいぜい私と同じ組でやることにならないよう祈ることね!』

 

『うんっ、また一緒に演技ができるといいね!』

 

『・・・話聞いてた?』

 

 

 

・・・

 

 

 

『──私、わたし・・・皆とまた家族になりたい!もう一度皆で暮らしたいよ!』

 

『・・・はい、そこまでです。では次の方お願いします』

 

演技を終えた私は台本を閉じて元いた立ち位置に戻る。

二つ隣を見れば、あの何も考えてなさそうな能天気な顔がこちらに対して小さく手を振っている。

・・・随分余裕ね、この私と同じ組になった以上、あなたが受かることは万に一つもありえないのに。

事実、私の次の子は先程の私の演技を見て萎縮してしまっている。

演技もセリフも緊張でカチカチになり、まともにできていない。

でもそれも仕方がないことだ。この有馬かなの次に演技しなきゃならないなんて、罰ゲームみたいなものだもの。

・・・いや、一人いたっけ。私の後にやっても全く緊張しないどころか、私の想像を超えた演技をした奴。あれから見ないけど、あいつもまだどこかで演技をやって──

 

『──はい、そこまでです。では次の方、お願いします』

 

『はい!』

 

自信に溢れた返事に、私の意識が戻ってくる。

見れば次はあいつの出番だった。

台本を開き、一歩前に出たあいつはゆっくりと口を開く。

 

『───』

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・結果から言ってしまえば、私は負けた。

いや、正確にはまだオーディション結果は出ていない。ただ、あいつの演技を見て、私は内心負けたと認めてしまった。

声の張り方、表現、全てが私のやった演技を超えていた。

アクアの時に続いて、二度目の敗北。

二度目だったからこそ、その場で泣くことはしなかった。だけど、我慢できたのはそれだけで私は逃げるように呼んだ帰りのタクシーの中でわんわん泣いた。

あのドラマから短時間で成長した?・・・ううん、違う。今わかった。あくまであのドラマにおいて、あいつは主役()の友人役でしかない。だからあえて、自分は前に出ず、私を前に出す演技をしたんだ。そしてそれに気づいたのは、あの場では監督だけだった。だから何も言わなかった。勝ったと思っていたのは、優れていると思っていたのは、全部私の思い違いだったんだ・・・!

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

あいつはオーディションに受かり、私は落ちた。

そこからもあいつの快進撃は続いた。

演技力に加えて生来のルックスの良さ。加えて現場スタッフへの対応も完璧だった。

驕らず、周りを気遣い、共演者からの印象も良く、監督やプロデューサーなどキャスティングの決定権を持つ者へのアプローチも忘れない。

キャラ付けもあの年齢の子供だからこそ、個性として受け入れられた。

ドラマ、映画の主役。バラエティ番組への出演。挙げ句の果てには、全チャンネルゴールデンタイムで主演を務めるなんて、私ができなかった偉業まで。

たった数ヶ月で、私が何年もかけて築いてきた天才子役の座はあいつのものになっていた。

 

どんどん有名になっていくあいつに対して、私はどんどん仕事がなくなっていく。

天才子役は、より才能のある天才子役が現れたらその価値が無くなる。

芸能界の当然の摂理。私の番がついに来た、それだけだったのだ。

 

だけど・・・

 

『大丈夫、大丈夫よ・・・かな。今はあの子が台頭してるけど、あの子はじき消える。なんでかって?だってあの子はもう十二歳。もう少ししたら子役でいられなくなるの。そうすればまたあなたの時代が来る・・・それまで耐えるのよ、かな』

 

いつものようにパパと喧嘩したママは、私に縋るように抱きしめる。

その瞳にはどんよりとした暗闇が漂っていたけど、私は見なかったふりをして抱きしめ返した。

芸能界において子役の消費期限は短い。

遅咲きの天才子役にはこの世界にいられる時間がもうなかったのだ。

そういった意味では、まだ幼い私の方にアドバンテージがあった。

 

大人達も皆わかっていたのだろう。

あいつの残りわずかなこの世界での寿命を、こぞって奪って甘い汁を啜ろうとしていたのが今ならわかる。

大人達の思惑もあって、あいつはこの世界で天才子役としてトップに立ち続けた。

 

だけどその魔法ももうじき解ける。

そうすればまた、世間は新しい天才子役を欲するようになる。

その席に一番近いのは私だ。また私が天才子役に戻れば、ママはきっと笑顔になってくれる。私を必要としてくれる。

このまま何もせず、私は待っていればいい。

 

 

 

・・・ほんとうに、それでいいの?

 

 

 

・・・

 

 

 

ある時、急に私に仕事がきた。

内容はバラエティ番組への出演。急遽、参加予定だったゲストが来られなくなり、その代打で私にオファーが来たのだ。

私は喜んで引き受けた。

この頃、有馬かなの仕事は全盛期と比較すると大幅に減っていた。びっしり入っていたスケジュール帳は空欄だらけ。ママもパパが別の女の人と会っていたことを知って憔悴しきっていた。

そんな中でのテレビ出演の仕事。私は当然引き受けた。

これでママが喜んでくれる!皆にまた、必要として貰える!

それからも私宛の仕事はひっきりなしに来た。ドラマ、映画の出演にバラエティ番組のゲスト、まるであいつと出会う前の、昔の有馬かなに戻ったみたいだった。

仕事が貰えるのは嬉しい。私がまた有名になれば、パパも帰ってきて家族一緒に戻れるかもしれない。

その時の私は、そんな馬鹿みたいな夢に期待して、どうして仕事が増えたのか、・・・どうして私よりも人気のあるあいつが現場にいないのか、その理由に目を向けようとしなかった。

 

 

その理由は、すぐにわかった。

テレビのニュースで流れたからだ。天才子役、星川リリィの訃報。死因は覚えてない。私にとっては、星川リリィが死んだ、その事実だけが全てだったから。

私の仕事が急に増えたのもあいつが死んだから、その事実に気付かされた時、私の心にぽっかりと大きな穴が開いた気がした。

あいつは彗星のように現れて、流れ星のように一瞬で消えていく。

・・・ああ、私は結局、あいつに一度も勝てなかったのね。

 

お仕事が貰えたのはそんなに続かなかった。

理由は簡単、今度は私の消費期限がきたからだ。

一度落ち目になった有馬かなに、芸能界は厳しかった。

私は役者以外のお仕事も積極的に受けて、苦手な食べ物をモチーフにした歌も歌った。

それは結果的に大ヒットしたけど、以降は続かなかった。

ママは離婚届にサインして、パパは新しい奥さんと家を出て行った。

私の子役の時間は終わったけど、中途半端に残った役者への未練がこの世界に留まらせた。

 

細々と役者の稽古をして、深夜放送してる誰も見ていないドラマの端役をやって、みっともなくこの世界にしがみつく毎日。

月日の経過は、世間からあいつの名前を忘れ去り、私自身も懐かしく思う程度のカサブタになった。

 

──なのに。

 

ルビーのわがままで行った佐賀でのお仕事。

そこで出会った変なご当地アイドルグループ。

 

そして、昔のあいつにそっくりな元子役を名乗るアイドル。

 

なんの因果か、一緒の舞台に立つことになって、その演技には、どことなくあいつに似たものを感じさせて。

 

久しぶりに思い出した。私の全盛期において、勝てなかったライバル。

 

死人が生き返ることなんてありえない。

これは私の勝手な自己満足だってこともわかってる。

でも、そんなのどうだっていい。

恨むならその容姿を恨みなさい。

私はこの舞台で再び、有馬かなの価値を証明する。

立ち塞がるなら、アクアだろうと黒川あかねだろうと、天才子役だろうと関係ない。

私の全てをかけて、あなたたちを倒す!

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

ツルギ「刀を抜きなさい!」

 

鞘姫「・・・あなたにはこれで十分です」

 

ツルギ「舐めて・・・くれて!」

 

渋谷クラスタの根城、キザミと匁、ブレイドと刀鬼が対決する中、ツルギははぐれてしまい、城の最奥へと辿り着く。

そこにいたのは鬼の姫、鞘姫。

彼女が渋谷クラスタのボスと気づいたツルギは戦いを挑む。

 

二人の戦いが熱を帯びる中、突如地響きが鳴り、城の天井が崩れた。

 

鞘姫「何事です!?」ツルギ「何よこれ!?」

 

斬り結んでいた二人が互いに距離をとる。

崩壊した天井があった空に、一人の子供が浮いていた。

 

ムラクモ「見つけたぞぉ、盟刀使い共ぉ!」

 

巫女服に身を包んだ子供が左手に持った扇を振るうと、辺り一面が火の海に包まれた。

 

ツルギ「くっ!こいつ!」

 

鞘姫「・・・ッッ!」

 

ムラクモ「さぁ!戦おうではないかぁ!盟刀使いぃ!」

 

扇から放たれた炎が、鞘姫とツルギの間を切り裂いた。

あっという間に炎の影に隠れて互いの姿は見えなくなる。

 

ツルギ「あの炎・・・渋谷クラスタの姫も狙っているのか・・・?」

 

ツルギが空に立つムラクモに視線を向ける。

 

ツルギ「──なら、まずはお前から斬ってやる!」

 

ムラクモ「ほぉ?ワシは二人がかりでも構わんが。──まあよい!気骨のある奴は好物よぉ!ワシの血肉も踊っておるわぁ!」

 

盟刀を構えたツルギが、空から見下ろすムラクモへと斬りかかった。

 

 

・・・

 

 

空にいる六号目掛けて地を蹴り出す。

それを合図にワイヤーが巻き取られ、私の身体が宙に浮く。

ここからは空中戦。ワイヤーアクションを利用した高速戦闘を表現する殺陣。

私と六号が空を蹴るたびに、ワイヤーで引っ張られながら派手なエフェクトと共に斬り結ぶ。

互いのワイヤーが絡まることはない。綿密な計算のうえに配置され、安全テストも何度もされているから。

とはいえ、ワイヤーアクションはそもそも体力の消費が激しいのだ。

宙吊りの間、バランスを保つために全身に力を入れる必要がある。

少しでも力を抜けばあっという間にバランスを崩して逆さ吊りだ。

だから普通、浮いてる間の演技は最低限になる。

 

──なのにこいつは・・・っっ!

 

滑らかな重心移動、重力を感じさせないその動きは本当に空を飛んでいるかのよう。

互いにワイヤーで引っ張られてるだけのはずなのに、六号だけがワイヤーの存在を感じさせない。

近くにいる私ですら、そうなのだ。

離れている観客からはまさに、魔法のように見えているに違いない。

 

つまるところ、演技力とは説得力だ。

上手い演技は、時に見るものの常識を捻じ曲げ、魔法を現実だと錯覚させる。

六号の演技はその領域に達している。

 

加えてこの熱気・・・!

激しい運動による体温の上昇だけじゃない。あいつが放つ炎は、光と熱による演出だけでなく、本物の炎のような圧迫感を持っている・・・!

本来、炎を操ることなんて人間にはできない。

道具を使えばできるのかもしれないが、あいつが持っているのはただの小道具である扇と刀だけ。

なのにあいつの炎にはリアリティがある。直撃すれば本当に焼け死ぬのではないか、そんなイメージがどうやっても拭えない。

・・・そう思わせるのは、ひとえにあいつの演技が異質に感じるから。

炎を意のままに操って当然、空を思うままに飛んで当たり前、・・・常識があればあり得ないと踏み止まる一線を、あいつは容易く飛び越える。

その純粋さ、異常さが周りに伝播し、対峙する相手に現実と非現実の境界を曖昧にさせるのだ。

 

ありえない、これは演劇だ・・・そう一蹴してしまえばいいと脳内で冷静に告げる私を、あいつと直接対峙している私が頑なに否定する。

恐怖のあまり、大振りに炎を回避する。観客からすればわざとらしい演技に見えるかもしれない。

だがそれが何度も続けば、疑問を持つようになる。疑問は疑念に、疑念は疑惑に、やがては私と同じくあいつの演技に魅入られる。

その炎の熱を感じ、本物と誤認し、いつその炎が自分に向けられるのか、恐怖に苛まれるようになる。

いやだ、燃やされたくない、死にたくない──!

もはや観客は舞台を観に来た傍観者ではなく、炎を操る悪魔の前で、焼かれるまでの順番を怯えて待つ憐れな子羊に過ぎなかった。

 

恐怖と高揚によるアドレナリンが脳内に溢れるのを自覚しつつ、観客の期待を込めた視線を背中に受けるのを感じる。

今、あの恐怖の元凶と戦っている彼女が勝てば、自分たちは解放される。

一縷の望みを託すかのように、私に助けを求める人達の視線が増え熱を帯びていく。

暑い、暑い、暑い・・・ッッ!

 

全方位から浴びせられる熱に、セリフを絞る喉が焼けそうになる。

ああ・・・このまま膝をついてしまおうか。

 

本来ここは、ムラクモの強さを際立たせる場面。

私はただ、その力に圧倒されるだけでいい。

 

ムラクモを輝かせるスポットライトに徹する。

それが私のこの場での役目。

 

楽しそうに空を舞い、剣を振るう六号の視線が私を貫く。

その眼が、かつての私を思い出させた。

 

 

 

 

 

・・・ほんとうに、それでいいの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──いいわけ・・・っっ、ないじゃないっっっ!!!

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

ツルギ「っっ、はああああああ!!」

 

防戦一方だったツルギが、盟刀を逆手に持ち替える。

そのまま、空を舞うと回転しながらムラクモに斬りつけた。

 

ツルギ「ブレイドの右腕であるこのツルギ様を舐めるな!お前なんぞ、けちょんけちょんにして三枚おろしにしてやる!」

 

 

 

・・・

 

 

 

有馬が見せた派手な動きに、観客の意識がそちらを向く。

・・・珍しいな。

有馬は受けが上手い役者だ。

作品の質を上げることを第一とし、その為に自身は黒子のように存在感を消し、舞台装置に徹することも辞さない。ディレクション側としてはこれほど使いやすい役者もいない。

 

だがそんな有馬が、自分から存在を主張し始めた。

普段の有馬なら、絶対にしない演技。

この舞台は大人気漫画が原作かつ、姫川が出ることもあって業界内での注目度は高い。

俺のような作品のキャスティングに口出しできるポジションの人間もたくさん見ている。

下手な行動に出れば、お前の信用を失うぞ・・・有馬。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

空から斬りかかるムラクモの猛攻に対して、ツルギは防戦一方だが時折、隙をついて一太刀入れようと鋭い斬撃を放つ。

それらは惜しくも避けられるか防がれているが、ツルギは攻撃する手を緩めない。

劣勢に見えるツルギ、だが舞台にいる観客はその姿を見て、先程まで感じていた恐怖が薄れていくのがわかった。

 

「・・・頑張れ」

 

ツルギを斬るために四方八方から飛びかかるムラクモに対し、ツルギは苦悶の表情を浮かべながらも耐える。

どれだけ傷つこうと、ツルギは反撃をやめない。

その姿はまるで、何かを護る為に命を賭けて戦う戦士の様。

戦いの最中、ちらりとツルギが観客席を見た。

観客と目が合うその一瞬、ツルギは安心させるように笑みを見せた。

観客は気づく。彼女が護っているのは背中にいるわたしたち。

今彼女は、わたしたちを目の前の恐怖から全力で護ってくれている。

その事実を認識した観客達は、知らず知らずのうちに拳を握っていた。

 

「・・・頑張れ!」

 

思わず声を振り絞るものもいる。祈るように手を組むものもいる。

目の前で炎の脅威と戦う彼女は、観客達の想いを背負って戦う彼女は、今、この舞台にいる全てを味方につけてムラクモと対峙していた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

あんたが圧倒的な演技力で恐怖を演出するなら、私はここにいる全てを味方にしてあんたに抗う。

悪く思わないでよね、これも立派な役者の技術。

天才子役でいられた時間が終わった後も、私は演技を磨き続けた。

それはみっともなくこの世界にしがみつづける為の手段の一つに過ぎなかったのかもしれないけど、私は間違ってたとは思わない。

だってこうして、曲がりなりにもあんたと渡り合えてる。

本物の天才子役に、抗えている!

悪いけどまだまだ付き合ってもらうわよ!あたしが感じた屈辱は!後悔は!まだまだこんなもんじゃないんだから!!

 

 

 

・・・

 

 

 

「・・・そうだったね。有馬かなは目を焼く程に眩い太陽のような、周りを惹きつけるスター性を持っていた」

 

鏑木勝也は、舞台の上で輝き始めた有馬かなを見て自身の認識を改めていた。

ムラクモの猛攻に必死に耐えてるように見せて、しっかり舞台の中央に陣取っているところや、空を飛び回るムラクモに対して、地に足をつけて対比構図を作るところはベテランの役者としての経験が出ている。

観客に視線を向けて、演技に引き込み味方にするとこなんて昔の彼女を知ってる人からしたら信じられないくらいだ。

 

「そして今の彼女は、役者としての長い経験で得た新たな武器も携えている。・・・今まで便利な役者だから使っていたけど・・・枯れてなかったのか、わからないものだね」

 

有馬かな、彼女はこの舞台で化けた。

間違いなく、今後芸能界で羽ばたく人物の一人になるだろう。

 

 

 

・・・

 

 

 

何度目かの鍔迫り合い。

だが拮抗は崩れた。

ムラクモの攻撃を防ぎ損ねたツルギが大きく吹き飛ばされる。

なんとか地面に刀を刺しながら、苦悶の表情を浮かべて立ち上がる。

 

ムラクモ「なかなか楽しかったぞぉ、二刀使いぃ!だがここらで終いにしようではないかぁ!」

 

ツルギ「くそっ、こうなったら!」

 

トドメを刺そうと斬りかかったムラクモに対して、ツルギが刀を天へと掲げる。

同時にツルギの盟刀が輝き出した。

光は一瞬で辺り一面を包み込み───

 

 

次の瞬間、ツルギの姿が消えていた。

ムラクモが辺りを見回すがどこにも見当たらない。

 

ムラクモ「ぬぅ、目眩しとは小賢しい真似を・・・。まあよい、あの二刀使いの力は知れた。次の盟刀使いを探しつつ、ゆるりと追うとするかのぉ!」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

舞台が変わり、炎の中を走るツルギが現れる。

 

ツルギ「なんとか逃げることができたが、あのまま戦っていたら危なかった・・・。今はとにかく、ブレイド達にあいつの存在を伝えないと・・・!」

 

ツルギが走り抜けようとすると目の前に人影が現れた。

 

ツルギ「お前は──!」

 

鞘姫「──逃げおおせたのですね」

 

炎の中をゆっくりと鞘姫が歩いてくる。

その両手には、彼女の盟刀が握られていた。

 

ツルギ「あたしを囮にして逃げたくせによくいう!」

 

鞘姫「・・・何とでもお言いなさい」

 

鞘姫が突如斬りかかる。

ツルギはとっさにその刀を自らの盟刀で受け止めた。

 

ツルギ「何のつもりだ!」

 

鞘姫「・・・ここは渋谷、私たち鬼が治める街」

 

ツルギ「支配、の間違いじゃないのか?」

 

鞘姫「・・・私は渋谷の長として、あなた達侵略者を斬らねばなりません」

 

ツルギ「バカなことを・・・っ!あいつの強さはお前も見ただろう!もはや新宿、渋谷で争ってる場合じゃない!」

 

鞘姫「それはそちらの理屈です。私からすればどちらも敵に変わりありません」

 

鞘姫「あなたは新宿の頭領の右腕なのでしょう?あなたを人質にすれば、無駄な戦いをせずに争いを収められるしれない」

 

ツルギ「勝手なことを・・・!」

 

鞘姫「──お覚悟を」

 

 

・・・

 

 

 

──ねぇ、かなちゃん。

さっきの六号ちゃんとの大立ち回り、すごかったよ。

天才子役有馬かなが、まだ死んでないってわかって、とっても嬉しかった。

・・・だけどかなちゃん、一つだけどうしても許せないことがあるの。

それは───

 

 

 

・・・

 

 

 

重い。

黒川あかねの振るう刀、その一振り一振りが。

 

全く、何がそんなに気に入らないのかしらね・・・!

長く役者をやっていれば、相手の演技を見れば何を言いたいか、伝えたいのかがわかるようになる。

今の黒川あかねからは、抑えきれない程の怒りが伝わってきた。

その怒りが演技に乗り、刀を伝って私に流れてくる。

まったく、こっちはあいつとの殺陣でヘトヘトだってのに・・・!

 

 

 

・・・

 

 

 

──どうしてどうしてどうして!

どうして全力を出すのがあの子を相手になの!

 

私、初めてかなちゃんに会って、拒絶されてから人の心を知るためにいっぱい調べたんだよ?

 

かなちゃんが昔、自分と同じ天才子役に出会って自信を無くしたこと。

その子が亡くなって、演技への情熱を失ってたこと。

だんだん仕事が減っていって、不安になったこと。

全部、ぜんぶ知ってる。

・・・だけど、六号(あの子)は違う。

かなちゃんが勝てなくて、想い焦がれた星川リリィじゃない。

星川リリィはもう亡くなっている。

だから、かなちゃんが見据える相手はあの子じゃない。

 

 

──私だ。

有馬かなに憧れて役者になって、有馬かなに近づきたくて芸能界に入った。

そして今、有馬かなを越えようと迫っている私だ!

 

私を見ろ。私から目を離すな。

 

──私もちょっとだけできるようになったんだよ?周りを食べちゃうような演技。

 

 

 

いつまでも私のことを見ないなら──

 

 

 

 

──あなたのことも食べちゃうよ?

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

鞘姫の白刃がきらめく。

先程のダメージもあるのか、ツルギは防戦一方だ。

周囲を炎に囲まれる中、冷静に刀を振る鞘姫は普段の温厚な姿とのギャップも相まって迫力があった。

 

しかし、不思議と観客席に恐怖を感じたものは少なかった。

何故なら鞘姫の刀の一振り一振りに込められた感情が、そこからでも感じられたから。

冷静な表情からは考えられない程の熱い想いが、刀を振るう姿を通して伝わったから。

 

先程までの恐怖の元凶が消え、観客は再びこの舞台を楽しむ余裕ができている。

今この舞台で、誰よりも鞘姫が、いや、黒川あかねが目立っている。

 

周りの役者を喰らい、自身の演技の糧として、誰よりも黒川あかねが輝いている。

 

それに対して、その刀を受ける有馬かなは───

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

鞘姫「!?」

 

鞘姫の想いのこもった一振りを、ツルギが己の盟刀で力強く振り払った。

鞘姫が、一歩下がって体勢を立て直す。

 

ツルギ「・・・黙って聞いていれば、好き勝手なことを言って・・・」

 

ツルギ「やっとわかった・・・渋谷のリーダー、鞘姫!あんたみたいな頭でっかちは、結局言葉で言っても無駄ってことよね!なら、この刀でわからせてあげるわ!」

 

ツルギは二刀を構えると、今度は自分から鞘姫に斬りかかった。

 

ツルギ「でりゃあああ!」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

全く、あんたもしつこいわね・・・!

この舞台で共演すると決まってからずっと、あんたの想いには気づいていたわよ・・・っ!

稽古の時も、リハの時も、あんたの刀には私への怒りの感情が乗っていた。

執念のような、執着のような・・・。

どんな理由かは知らないけど、私への想いだけは演技から滲み出ていた。

同年代だし、あんたも子供の頃から役者だったみたいだし、もしかして子役の頃の私にやりたかった役をオーディションで取られたりした?

 

だとしたらおあいにくさま。

私の全盛期に役者に憧れた自分を恨みなさい。

私は謝らないわよ?

 

だって──現天才役者のあなたに、私だって思うところはあるんだから!

劇団ララライの若きエース。

子役なんて狭い世界じゃない、この才能溢れるもっと広い世界で天才と呼ばれる同年代のあなたを、私が意識しないわけないでしょうが!

 

今日の私は、あいつのせいでちょっと気が立ってんのよ・・・!

舞台の上であたしに喧嘩を売るっていうなら、喜んで買ってやる・・・!

ただし、今の私はあんたの知る普段の私と思ったら大間違い。

真正面からあんたのこと、喰らってやるわ・・・!!

 

 

 

 

・・・

 

 

 

マジでどうしたんだ?有馬のやつは・・・。

ここも本来は圧倒的に受けの演技をするべき場面のはず。

前に出た黒川に対して、有馬が一歩引くことで黒川の存在感を増す。

この場ではそう言った演技が役者に求められる。

なのにまた、有馬も前に出る演技をしている。

これでは、舞台がめちゃくちゃになる。

表現者として、やっちゃいけないことをどうして──

 

ツルギが激しい動きで鞘姫に斬りかかる。

鞘姫もまた、正面から迎え撃つ。

 

互いの全力を、互いに全力で受けている。

もはやどちらが目立つかなど関係ない。

有馬と黒川、それぞれが太陽のように輝き、この舞台の上で一番を奪い合っている。

 

 

その後先など考えない激しい斬り合いは、まるで星のように、二人を輝かせていた。

 

 

 

・・・

 

 

 

かなちゃんかなちゃんかなちゃん・・・!!

すごい!すごい!すごいよ!

私が見たかったのは、私が勝ちたかったのはこういうかなちゃんだよ!

いくら待ち望んだことだろう!

どれだけ待ち焦がれたことだろう!

その瞳が、その一挙手一投足が、私の心を掴んで離さない。

ああ、このままずっと、二人で演じていられたら、なんて──

 

 

 

・・・

 

 

 

ムラクモ「──見つけたぞぉ!二刀使いぃ!」

 

ツルギと鞘姫のの戦いの最中、突如炎の壁を突き破り、ムラクモが現れた。

その勢いのまま、左手に持った扇を振るうと、放たれた炎がツルギと鞘姫に襲いかかる。

 

ツルギ「っっ!!」

 

鞘姫「──えっ?」

 

先に気づいたツルギが、咄嗟に鞘姫ごと炎の射線上から逃れるように自身の身体を押し込んだ。

二人はもつれるように炎を回避する。

 

鞘姫「あなた・・・何故?」

 

ツルギ「・・・うるさいっ、身体が勝手に動いてしまっただけだ」

 

ムラクモ「ふははっ!よく今のを避けたものよぉ!だが次は避けることができるかのぉ!」

 

???「──おい、ガキ。俺の仲間に何してやがる!!!」

 

ムラクモが現れた場所とは別の炎の壁を突き破り、赤髪の剣士と青髪の鬼が現れる。

 

ムラクモ「ほぉ?ワシの炎を破るか!」

 

ツルギ「ブレイド!」鞘姫「刀鬼!」

 

ブレイドと刀鬼はそれぞれの仲間を見つけると瞬時に、二人を庇うようにムラクモへと立ちはだかった。

 

ブレイド「悪りぃな、こいつと斬り合いながら探していたら見つけるのに時間がかかっちまった!」

 

ツルギ「斬り合いながらって・・・相変わらずめちゃくちゃだなーお前!」

 

刀鬼「姫・・・お手間を煩わしてしまい、申し訳ございません」

 

鞘姫「いえ・・・心配をおかけしました」

 

刀鬼「・・・すぐさまこの刀鬼が、不埒な侵入者どもを斬り伏せます。あの童も姫の敵で宜しいか?」

 

鞘姫「・・・はい。──刀鬼、まずはあの童から先に。斬るまでは、一旦新宿のもの共は捨て置いて構いません」

 

刀鬼「──承知しました」

 

刀鬼がムラクモへと刀の切先を向ける。

 

ツルギ「お前・・・」

 

鞘姫「・・・」

 

鞘姫は何も言わずに、刀鬼の横に立った。

 

ブレイド「なんだ、俺は別に三人まとめてでも構わなかったんだけどな」

 

ツルギ「馬鹿ブレイド!余計なことは言うな!あいつは強い、ここは協力するべきだ!」

 

ブレイド「──へいへい。じゃあまずは、あの空から見下ろしてるガキから斬るとするかね!」

 

四人の剣主が、盟刀を構えてムラクモに立ちはだかる。

四体一。圧倒的人数差。

それでもなお、ムラクモは不敵に笑うことをやめなかった。

 

ムラクモ「──くくく、盟刀使いが四人も集まるとは!これは探す手間が省けたと言うもの!まっこと、ワシは幸運よなぁ!」

 

ブレイド「おい、ガキ!お前は一体なにもんだ!」

 

ムラクモ「応とも!ワシの名はムラクモ!過去の戦乱の世から蘇りし、貴様ら盟刀使いの宿敵たる怨霊よぉ!さあさあいざ尋常に、死合おうぞぉ!」

 

ブレイド「何言ってるかわかんねえよ!」

 

ブレイド達は示し合わせたかのように一斉に斬り掛かった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

──まったく。

誰も彼もが、やれ黒川だ、やれ有馬だと囃し立てている。

 

星野との殺陣。

ありゃあ悪くなかった。感情こそ演技に乗ってなかったが、俺の演技に呑まれなかったし常に冷静に捌いてみせた。まあ、及第点ってところだな。

そういった意味では、黒川と有馬の演技は良かった。互いの感情がぶつかりあう感覚。

カメラを通さない分、舞台を見てる観客にはダイレクトに伝わる。

それがわかっているこそ、二人は本気でぶつかっていた。

六号も良い。あいつはカメラ・・・いや、観客の視線をよくわかっている。

どうすれば観客の視線を誘導できるか、どうすれば興味を引くかを理解している。

 

 

けど、忘れるなよ?

この舞台の主役は、この物語の中心に立っているのは───

 

 

 

 

 

 

 

──俺だぜ?

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

ブレイド「はああああ!!」

 

ムラクモ「ぬぅ!?」

 

ブレイドの一撃を刀で受けたムラクモが吹き飛ばされる。

だがすぐに空中で受け身を取り、体勢を立て直す。そこに追撃をかけようと刀鬼が斬りかかるが、扇から放たれた炎がそれを阻んだ。

 

ブレイド「どうした、鬼。さっきより勢いが落ちてるぜ?」

 

刀鬼「・・・先程破った炎の壁より、奴の扇から直接放たれる炎の方が密度が濃い。無駄に飛び込んだところで傷を増やすだけだ」

 

ブレイド「そうかい!ならこれでどうだ!」

 

ブレイドが力を込めると盟刀が輝き始める。

 

ブレイド「くらいやがれ!」

 

盟刀から放たれた雷がムラクモへと襲いかかる。

だがムラクモはそれを右手に持った刀で難なく払ってみせた。

 

ブレイド「おい!どういうことだ!俺の盟刀の力があいつに効いてねえぞ!?」

 

ツルギ「あいつの刀は盟刀の力を無効化するんだ!まずはあの刀を何とかしないとダメだ!」

 

ブレイド「おい、そういうのは先に言えよな!・・・うおっと、危なっ!」

 

ムラクモ「くははは!よく喋る舌よなぁ!まずはお前から焼き尽くそうかのぉ!」

 

 

 

・・・

 

 

 

満を持してのブレイドの登場は、観客の表情を一変させた。

ムラクモに対して再び恐怖を覚える中、自分たちを護るために全力で戦ったツルギ、そしてその仲間であるブレイドが揃ったことは観客に安心感をもたらした。

加えて、今回は渋谷クラスタの鬼達も味方している。鞘姫の活躍もあり、これまでブレイド達の敵だった渋谷クラスタにも好意的な感情を向けることができた。

強力な敵に対して、かつての敵同士が手を組むシチュエーションも相まり、観客のボルテージは最高潮に上がっていた。

 

そして何よりも、姫川大輝という役者の存在が大きい。

劇団ララライの看板役者、帝国演劇賞最優秀男優賞受賞、月9主演俳優経験もあり、数々の賞を受賞している著名人。

テレビでよく見る顔が現れたことで、観客の中の不安や恐怖が薄れていく。

姫川大輝が来た。主人公のブレイドが来た。これでやっと、あの恐ろしい子供の恐怖から解放してくれる。

観客の期待を今度はブレイドが一心に背負う。

だがツルギの時とは違い、守ってくれるのではなく倒してくれるだろうという心強さを感じていた。

 

ブレイドが刀を振るのに合わせて、観客の表情が変わる。

姫川大輝はあらゆる演技に感情を乗せる。

彼が余裕そうな表情を見せれば、観客も安心し、彼が苦境に立たされれば、観客も苦しそうにする。

加えて、演技に対する知識も深い。

時に歌舞伎の見得を切るように、大きく足を踏み鳴らし自身の存在をアピールする。

時に観客に語りかけるようにセリフを言い、観客を安心させる。

己がこの舞台の主人公、この世界の中心にいるのは当然だと主張するかのように振る舞う。

そんな圧倒的な姿が観客に期待を持たせる。

ブレイドこそが、ムラクモを打倒しうる力を持っているのだと観客も信じるようになる。

だからブレイドの姿に、一喜一憂する。

観客の想いを背負って戦うその姿はまさしく、この舞台の主人公と言えるだろう。

 

 

 

・・・

 

 

 

四人の役者が、己こそが一番だと主張せんが如く大立ち回りを演じる。

それを見た鏑木勝也は認識を改めていた。

有馬かなは、かつてのようなスター性はないと思っていた。

黒川あかねは、普通の役者からは考えられないような異質な魅力がある。

星野アクアは・・・まだ特別な何かは見せてないが、何かあるんだろう?このまま終わるとは思えないね。

若い子が、自身の価値を証明しようと躍起になる。その想いが結果的にこの世界を回し、スターと呼ばれる一握りの存在を作っていく。

今回、彼らに進化を促したのはやはり・・・

 

「フランシュシュ六号、かな。僕の眼に狂いはなかったねえ、これは」

 

フランシュシュ、やはり彼女たちには光るものがある。

彼女が本当にあの星川リリィと同じ、スター性と呼ばれるものがあるのなら、この世界は彼女を見逃さない。

今日この舞台に立ったことは間違いなく、彼女の芸能界での躍進に繋がる。

 

「そしてその架け橋を作った僕は、両方から見返りを得る。この世界での評価とフランシュシュくん達への貸し、その二つをね」

 

さて、また忙しくなりそうだ。

鏑木勝也はこの舞台の先を想像して、静かに笑った。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

ツルギ「だ、駄目だ・・・。何度やってもあいつの炎に阻まれる。あれをなんとかしないとあいつに刀が届かない!」

 

ブレイド「わかってるっての、そんなことは!」

 

刀鬼「・・・」

 

鞘姫「刀鬼・・・」

 

刀鬼「・・・鞘姫、俺の背中から離れないでください」

 

刀鬼もまた、炎に阻まれて近づけずにいた。

周囲を取り囲む炎によってブレイド達の体力も奪われていく。

やがて、四人とも膝をついてしまう。

 

ツルギ「くっ・・・」

 

鞘姫「このまま、では・・・」

 

刀鬼「ちぃっ・・・」

 

ムラクモ「よく耐えた!よくもったぞ!盟刀使い共ぉ!・・・だがここまでよ!我が怨恨の炎にて、終止符を打とうぞ!」

 

 

 

 

 

ブレイド「・・・まだだ。まだ終わってねえ!」

 

 

ブレイドが刀を支えにして、よろよろと立ち上がる。

 

ツルギ「ブレイド・・・」

 

ブレイド「俺は諦めねえ!國なんてでっかい宝を前にして、びびって逃げ出すなんざできるかってんだ!」

 

ツルギ「でも、このままじゃ勝てねぇだ!」

 

ツルギの言葉に、悔しそうに顔を歪める。

自分の力不足に、無力さに打ちひしがれるブレイド。

しかし、その手に持った刀が突如輝き出した。

 

ブレイド「なんだ・・・、盟刀が勝手に・・・?」

 

ムラクモ「この光・・・よもや貴様の盟刀は・・・っ!」

 

初めてムラクモから笑みが消える。

憎々しげにブレイドの持つ盟刀に視線を向けると、口の端を大きく吊り上げた。

 

ムラクモ「・・・もはや、遊びは終いよぉ!諸共に燃え尽きるが良いわぁ!」

 

ムラクモが高く飛ぶと、扇を天に掲げる。

その先に炎が集まっていき、巨大な炎の球を作り上げた。

それに対し、ブレイドはゆっくりと光輝く盟刀をムラクモに向かって構える。

 

ブレイド「・・・おい、ツルギ。諦めるにはまだ早いみたいだぜ」

 

ツルギ「ブレイド・・・」

 

ブレイド「俺があの火の玉を何とかする。その隙にお前があいつを斬れ」

 

ブレイド「・・・頼んだぜ、未来の大臣」

 

ツルギ「・・・!! ああ!このツルギ様に任せとけ!」

 

ツルギはブレイドの言葉に対して親指を立てると空に浮かぶムラクモを見た。

 

鞘姫「・・・刀鬼、命令です。彼女と共に、あの童を」

 

刀鬼「・・・しかし、それでは鞘姫が・・・」

 

鞘姫「・・・この機会を逃してはなりません。今ここで討たねば、あれは更なる不幸をもたらす・・・それだけは決して許してはならないのです・・・!!」

 

刀鬼「・・・承知した。この命、鞘姫のために・・・」

 

刀鬼もまた、鞘姫の元を離れ、ムラクモに刀を構える。

 

刀鬼「女、手助けは不要だ。戦いは男に任せ、足手纏いはそこで見ていろ」

 

ツルギ「舐めるな!お前の方こそあの女を庇ってボロボロだろうが!あたしの足を引っ張ったら承知しないからな!」

 

 

 

 

ムラクモ「堕ちませい!我が怨嗟の炎塊よ!傲慢なる盟刀使い共を焼き尽くせぇ!」

 

ムラクモから放たれる炎の玉に対して、ブレイドの刀がより激しく輝いた。

 

ブレイド「いっけええええ!!」

 

刀と炎が触れた瞬間、更に大きな光と共に炎の玉をブレイドが斬り裂いた。

 

ムラクモ「なぁんとぉ!?」

 

斬り裂いた炎の玉の影から、ツルギと刀鬼が飛び出す。

次の瞬間、ブレイドの斬った炎の玉が爆発した。

爆風と同時に加速したツルギと刀鬼がムラクモに迫る。

 

ツルギ「はぁぁぁぁぁ!」

 

刀鬼「せぇぇぇぇぇい!」

 

ムラクモ「ぬぅぅぅぅ!」

 

ツルギ「っっ!・・・させるかぁぁ!!」

 

咄嗟に刀で防ごうとするが、ツルギがそれを察知していち早く己の盟刀で絡め取った。ならばとムラクモは扇から炎を放とうとするももう遅い。

 

刀鬼「これで・・・終わりだ・・・!」

 

懐に飛び込んだ刀鬼の刀がムラクモの身体を貫いた。

 

 

 

 

・・・

 

 

「見事・・・!実に天晴れじゃあ・・・!!」

 

 

ああ・・・すごいなぁ。

 

炎の中から迫るアクアくんとかなちゃんを見ながらリリィは思った。

 

かなちゃんもあかねちゃんも子役の頃とは演技が段違いに上手くなっていた。

大輝くんは、リリィの知らない大人の役者としての貫禄を感じさせた。

アクアくんは、常に舞台を俯瞰して周りに光が当たるようにスポットライトに徹していた。

皆、みんな、とっても素敵な演技だった。

叶うならまだまだリリィも舞台の上に立っていたい。皆と一緒に演技をやっていたい。

ここで退場するのではなく、最後の最後まで役者でいたい。

 

だけど、これでリリィの出番はおしまい。

刀鬼とツルギに斬られたムラクモは、最後は背景のセットの裏に落ちて、倒した証に炎のエフェクトを流して終わり。

 

ムラクモは最後のセリフを言い終えた。

星川リリィの、伝説の復活公演は幕を閉じる。

 

退き際は弁えてたつもりだった。

だけどちょっぴり、心の中で諦めきれない自分がいた。

──だからリリィは間違えた。

 

落ちる間際、油断して力を抜いてしまった。

ワイヤーで吊られている間は、バランスを保つために全身に力を入れる必要がある。

ゾンビになってから力が強くなったおかげで特に気にせずにやっていたけど、最後の最後に失敗した。

くるりと天地がひっくり返る。このままだと頭から地面に激突する。

リリィはゾンビだから死にはしないけど、周りに心配をかけてしまうかもしれない。

 

そんな私にかなちゃんが手を伸ばした。

リリィの身体は既に背景のセットの裏に隠れていたし、かなちゃんは咄嗟に背を向けていたから手を伸ばした姿は観客席からは見えないはず。

かなちゃんの手がリリィの足を掴む。

何とか頭から落ちるのは避けることができた。

舞台の進行にも影響を出さずに事故も防げた。

ただ一つ、問題だったのは───

 

 

 

 

 

 

 

───その衝撃で、リリィの首が取れたことだった。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

刀鬼と一緒にムラクモにトドメを刺す。

これでムラクモの出番は終わり、舞台から退場する。

 

あー、つっかれたー。

まだ舞台が終わってないなんて信じられないくらいだわー。

ここまでで一生分の汗をかいた気がする。

心臓だって死ぬほどばくばく鳴ったし、喉だってカラカラだ。

早く帰ってベッドの上で足を伸ばしたい。ゴロゴロしたい。今日くらいは、ダラダラしても許されるはずだ。

・・・なーんて、自分を甘やかすのは後回し。

舞台の最後まで演じきってこその役者。

さあ、あと一踏ん張り、頑張って────

 

目の前で堕ちていく六号が急にバランスを崩す。

頭を下にして堕ちていく。おかしい、確かリハでは安全のために姿勢はそのままで降ろすはず。

アドリブ?いや、もう身体はセットに隠れてる!

観客に見えない位置でアドリブをやる意味なんてない!

 

事故だ!

 

このままだと頭から地面に激突する。

ワイヤーを操作する裏方は気づいていない。

気づいたアクアも手を伸ばす。けど六号の手を掴もうとして空振った。

私は咄嗟に手を伸ばし、六号の足首を何とか掴むことができた。

 

・・・全く、最後の最後に迷惑をかけるんじゃないわよ!

 

 

 

 

 

───ぼとっ。

 

 

 

 

 

視界の下で、何かが地面に落ちた音がした。

 

 

 

 

もしかして六号が?

だが自身の手には確かに足首を掴んだ感触がある。

まさか隣にいるはずのアクアが?

だが隣を見れば、アクアが私と同じくワイヤーで吊られている。

 

「・・・有馬!見るな!」

 

アクアは必死に何か言っていた。

見るな?一体何を見るなって言うのよ・・・。

ってかあんた、マイクがついてるんだからそんな大声を出したら観客に聞こえるわよ?

まあ、こいつのことだからオフにしてから言ってるんでしょうけど。

 

ていうか、なんかおかしいわね。

周りの時間がゆっくり流れているような・・・いや、思考が加速しているような感覚。

私はふと、先程の音が何だったのか気になった。

視線をゆっくりと下に動かしていく。

 

セットの裏は照明の影になるため、足元にあるわずかな誘導灯しか明かりはない。

それでも、それが何か、私の眼にははっきりと見えた。見えてしまった。

 

それはボーリング大の何か、暗がりの中、その上についた球状の二つの何かがぐるりと動き、私の方へと向く。

それは最初、地上に咲く花のようで・・・。

赤い瞳が煌々と輝き、視線が交差する。

その凄惨な光景に、恐怖と共に脳内で、無くしていたはずの記憶がフラッシュバックする。

 

 

 

 

 

 

あれは確か、佐賀に行った時に泊まった温泉旅館の───

 

 

 

 

 

 

朧げな記憶を最後に、私の意識はぷつんとブラックアウトした。

 

 




ワイヤーアクションの設定とかは想像で書いてるので、実際は違うかもです。
原作と違って有馬かなが最初から本気出して黒川あかねと演技したらどうなるか、姫川大輝は何を考えながら演技やってたか、この辺は気になってたので自分なりに書いてみました。
あとアニメの東京ブレイド、アニオリによる補完がすごいので原作勢にも新鮮に感じられてよか・・・。

あとこの小説と全く関係ありませんがアクタージュが好きです。(大事なことなのでry)

結局更新ペースが遅くてすみません。
引き続き書いていきますので、読んで頂けると幸いです。
高評価、感想、誤字訂正あれば書いてもらえると大変喜びます!
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