ところでフランシュシュ久しぶりの新曲が二年ぶりに出ましたね!
すきっちゃん!からチュッ・・・好きだ。
このまま、映画の新情報も来て欲しいところ・・・!
ところでまた一月一日にドンキが推しの子福袋をやるそうです。
新年はドンキで推し活推し活!
「ぬうううう!!!なんじゃこりゃあああああ!!!!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「さて、先日ついにフランシュシュ初のチャンネルを開設し、動画投稿が始まりました」
珍しく静かに入ってきた巽がサングラスをくいっと鳴らす。
廃病院の地下にある霊安室には、私達フランシュシュが全員揃っていた。
「この前B小町のMEMちゃんに教えてもらいながら撮ったやつやけんね!」
「確か内容は・・・」
「メンバーの簡単な自己紹介と、曲に合わせてライブシーンを繋げたもの。最初だからシンプルにしようって話だったはず」
フランシュシュ初の動画企画。
愛ちゃんの言う通り、メンバー紹介がメインの簡単なもの、だったんだけど・・・。
「まあ実際はさくらちゃんの首が取れたり、たえちゃんの首が反対を向いてたりとスプラッタ要素多めだったよねー」
「お前も腕取れてやっとが!しかもくっつけた手が愛のと間違えとったから、変な動きでカメラぶっ壊しとったやろが!」
「あの動きはまっこと、奇怪でありんしたなぁ」
「ま、まあ、あれは仕方ないんじゃない?私も腕が違ったの気づかなかったし」
「愛!おめーはぜってえ気づいとったやろが!」
「あはは・・・、でもあの時、純子ちゃんが任せてくださいー、言ってカメラをあっという間に直したのはすごかったけん」
「実は最近DIYにハマってまして・・・。洋館の離れに似たようなカメラがあったので、引きこもってた時、手慰みにバラしたり、組み立てたりしてたおかげでなんとかなりました」
「それで何とかなるものなんだ・・・。ていうか意外と図太いわねあんた・・・」
「むー、サキちゃんだって撮影中にぶっ殺すぞー言い過ぎて一人だけ撮り直しだったよねー?」
「あれも別の意味ですごかったわね・・・。なんで注意されても四回もリテイクになったのよ・・・」
「最後はサキちゃん、ぶっこ・・・から先に不自然な編集が何度も入ってたもんね・・・」
「せからしか!あれはあたしにとって気合い入れる為の言葉と!我慢なんてできなか!」
「開き直りはリーダーとしてどーかと思うけどなー?」
「よーし、表出ろ。今度こそマジでシメる!」
「──お前らぁ!いい加減に俺の話を聞かんかい!・・・うぉっほん!──そうだ。B小町とのコラボ動画から始まり、入念な準備を重ねた」
急に神妙な面持ちで巽が感慨深そうに語り始めた。
「アカウントを作り、ライブでの告知他数々の困難、問題を乗り越え、ついに──始動した一大プロジェクトじゃい」
嘘か本当か、涙を啜る音まで聞こえてくる。
・・・動画をわちゃわちゃしながら撮っていた私達としては温度差で風邪を引きそうだけど。
「そして!その!フランシュシュ初のチャンネルがこちらです!はいドン!」
そう言うと同時にどこからか取り出したノートパソコンの画面をこちらに向ける。
そこにはフランシュシュチャンネルと表示された動画サイトの画面が映っていた。
再生リストには先日撮った自己紹介や曲紹介の動画のサムネイルが並んでいる。
「おおー!マジでうちらの動画が載ってるじゃねーか!」
「わぁ・・・!こんな風に見えるんですね!」
「・・・ちっがーう!!そんなとこはどうでもええんじゃい!再生数を見るがいい!!」
「さいせいすう?」
「その動画が何回再生されたかを表示する数だね」
「えーと、82、77、・・・どれも二桁くらいですね」
「おおー!八十人も見てくれてると!学校の一クラスよりも多いけん!嬉しかねー!」
「・・・なーにを浮かれてるんじゃバカゾンビぃー!」
ノートパソコンをそっと机に置くと巽がホワイトボードに何か書き始めた。
「フランシュシュ初の動画企画、その第一歩がこんなんで良いわけないじゃろがい!」
「・・・さくら、再生数二桁は私達みたいな固定ファンがある程度いるアイドルだと少ない方なの」
「事前にルビー達とのコラボ動画で告知したり、SNSにも載せてこれはやばいねー」
動画企画・・・私達フランシュシュは佐賀限定にはなるけど、それなりに固定ファンはいる。
ミニライブや握手会には顔馴染みもいるし、チケットだって(小さいハコなら)売り切って利益が出るくらいには稼げるようになった。
巽が真面目にSNSやチャンネルの告知をしているのなら、この再生数はおかしい。
何か原因がありそうだけど・・・。
巽がホワイトボードから振り返ると、そこには『推せ推せ!フランシュシュチャンネル登録者数増加作戦!』と書かれていた。
「・・・そういうことだ。この問題は可及的速やかに解決しなければならない。・・・と言うわけでお前ら!今後、仕事先でも宣伝して再生数を稼ぎ、チャンネル登録者を積極的に増やしていけ!このチャンネルを新たなフランシュシュ伝説の第一歩にするんじゃーい!!!!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
俺の名は巽幸太郎。
佐賀で活動するアイドルグループ、フランシュシュの伝説のプロデューサーだ。
この巽幸太郎にはたくさんの秘密がある。
素顔、経歴、胸のゲソ・・・。
全てがミステリアスであるこの男には、誰にも教えていない秘密がある。
それは・・・。
「──ふっ、今日はここにするか」
俺は一軒の銭湯の前でほくそ笑む。
そう、何を隠そう俺には銭湯巡りという趣味があるのだ。
アイドルプロデューサーという仕事は、激務の連続だ。
取引先との交渉、営業、アイドルのコンディション管理、ホームページ、SNS運営、作曲、作詞、衣装作り・・・寝る間も惜しんでアイドル達のために働いている。
故に疲労は常に付きまとう。そんな俺が銭湯巡りという趣味に行きついたのは必然と言えるだろう。
既に佐賀の秘湯は回り尽くした。
せっかくの東京遠征、都会ならばではの秘湯を探してみねば損というもの・・・!
木造の扉をガラリと開ける。
中には眠そうに船を漕ぐ婆さんの番台が一人、婆さんを挟んで男湯、女湯の暖簾がおりている。
俺はそれを見て、心の中の秘湯チェックリストに○をつける。
やはり当たりだ。
スパだの食事処だの
おまけに今は朝の5時。他の利用客もいない。気に入った銭湯を独り占めできるのは、秘湯巡りが趣味の人間にとって、最高の贅沢と言えるだろう。
靴を脱ぎ、机に肘をついて寝ている婆さんの前に、チャリンと利用料を置く。
そして俺は悠々と男湯の暖簾をくぐった。
・・・
私の名前は不知火フリル。
今をときめく大女優だ。
月9のドラマで主演を果たして大ヒット。
歌も踊りも演技もできるマルチタレント。
世間では美少女と聞いて最初に誰を浮かべるか、アンケートを取ったら真っ先に名前が上がるのは不知火フリル、なんて呼ばれるほどのトップスターだ。
かくいう私も、自身の美貌や演技には自信がある。
それに見合う努力もしてきたつもりだ。
だが、そんな私も一人の人間。
毎日頑張ってる以上、気を抜きたくなる時もある。
早朝、まだ暗い時間に私は変装して自宅を出るとジョギングを始める。
毎朝の日課。体力作り、健康的な肉体の維持の為の運動だ。
そのまましばらく走った後、目的地に辿り着いた。
目の前には木造の古めかしい銭湯。
そう、私には世間に明かしていない秘密がある。
それは銭湯巡りが趣味ということだ。
最初は美容目当てで色々と調べているうちにいつのまにか趣味になっていた。
全国ロケで地方へ出かける際も時間を見つけて入っている。
例えスケジュールの都合で5分しか入れなかろうと、時間を縫って堪能する。
銭湯巡りは奥が深いのだ。
「──ふっ、今日はここにしましょうか」
しばらく走った後、汗が滴り落ちる頃合いに一軒の銭湯が見えてきた。
木造の扉をガラリと開ける。
中には眠そうに船を漕ぐお婆さんの番台が一人、お婆さんを挟んで男湯、女湯の暖簾がおりている。
レビュー通り、雰囲気はグッド・・・!
銭湯を楽しむ上で、雰囲気は大事だ。
お湯に様々な効能があろうと、それを楽しむ前の前菜とも言える銭湯の内装が悪ければ私の中で評価はぐっと下がる。
だが私から見て、この銭湯は十分合格点に達していた。
さらに今は朝の5時。中には誰もいない可能性が高い。
有名人である私にとって、身バレ防止は死活問題だ。
いくら自宅から離れたところを選んでいるとはいえ、正体を知られることはできるだけ避けたい。
・・・さて、今日の銭湯は私をどれだけ楽しませてくれるのかしら?
靴を脱ぎ、机に肘をついて寝ているお婆さんの前に、チャリンと利用料を置く。
そして私は悠々と女湯の暖簾をくぐった。
・・・
「・・・あら?いけないいけない。つい、うとうとしちゃった。お風呂掃除の途中だったのに。暖簾戻しておかなきゃ」
・・・
服を脱ぎ、浴室に繋がるドアを開けた私は早速湯気の洗礼を浴びる。
ふふ・・・やはり一番風呂はいいわね。
タオルを身体に巻いて最低限隠し、ゆっくりと中に足を踏み入れる。
予想通り、誰もいない。
私は安心して身体を洗おうとタオルを外そうとして───すぐ隣で頭を洗っている人を見つけた。
あら、独り占めできるかと思ったけど、先客がいたのね。
背を向けて頭にはシャンプーハットをつけている。髪はシャンプーまみれの為、顔は見えない。
けどその背中は、男の人のようにがっしりしてるように見えた。
何かスポーツでもやってるのかしら?
疑問は浮かぶが声をかけるつもりはない。
銭湯では静かに。当然のマナーと言える。
・・・それに不知火フリルだと知られたくもないしね。
私は彼女から離れて身体を洗う為、再び歩き出そうとする。
その時、頭を洗っていた彼女の方から何か小さいものが飛んできた。
その白い何かは浴室の床に落ちると、勢いのままつるりと滑って私の足元へと向かってくる。
私は慌ててそれを避けようとして、前に出した足を戻そうとする。
だがその前に、軸足の方を滑らせた。
バランスを崩し、宙に浮いた身体が一瞬床と平行になる。
奇妙な浮遊感を味わった後、天井を見ながら私の身体は床に叩きつけられた。
全身に流れる衝撃と痛みの後、視界が暗くなっていく。
最後に見たのは驚きのあまり、大きく口を開けてこちらを見ているサングラスをかけた男の人だった。
・・・
「───というわけで新メンバーの紹介です」
「はぁ?」
廃ビルの一室、パイプ椅子が並べられただけの簡素な部屋にサキちゃんの声が木霊する。
ここは東京のとある廃病院だ。
巽が用意した敷金家賃オールゼロの私たちの住処。
最初はガスも電気も止まっていたが、今は無事利用できるようになり、正直佐賀での活動拠点である洋館よりも、住み心地は良かったりする。
現在はリリィちゃんが出演している舞台『東京ブレイド』が続く間の活動拠点として、ここに住み着いていた。
「フランシュシュ八号です、はい拍手」
巽はサキちゃんの疑問を無視して話を進めようとする。
だけど私たちの視線は、目の前に転がるタオルでぐるぐる巻きにされた何かに集中していた。
「はいっ!!!拍手っ!!!」
一方で巽は、私たちに質問させないようにするかの如く声を荒げて激しく手を叩き続ける。
「あのー、よくわからないんですけど・・・」
「いや、わかるでしょ!?わかるじゃんっ!!」
いつもの余裕もなく、冷静さを失ってるのは明らかだった。
目の前に倒れている何か、そこからは二本の白い足が伸びている。
状況から察するに、もしかして・・・。
嫌な考えが頭をよぎる。
私たちはゾンビだけど、死体を見慣れてるわけじゃない。
転がっているこれが想像通りのものならば、今私たちは目の前で犯罪の片棒を担がされようとしている・・・のかもしれない。
「お風呂壊れて銭湯行ったんですよね?」
「そのミイラみたいな人・・・人ですか?」
「メンバーなんだから当たり前なんじゃろがい!」
「死んでるってこと!?」
愛ちゃんの叫び声に、思わず全員が息を呑む。
嫌な予想があたった。この男は、やってはいけないことをやったのだ。
「あー!皆そこ気にしちゃう?気にしちゃうタイプかー?」
「当たり前やろ!」
「しーんぱい入りませんから!ちゃんとゾンビになるよう段取り、組んでますから!」
「死んどるやないか!」
「どこから運んできたとですか!」
「え?なになに?違うじゃん、運んだとかじゃないじゃん?導かれた的なことじゃん?」
「誰によ!?」
「そんなもん知らんわ!そんなもん神社とか寺とか・・・その辺にうじゃうじゃいる神様じゃーい!」
いつも以上に支離滅裂な発言。
もはや冷静さを失うどころか、気が動転しているのは明らかだ。
その姿がより・・・私たちの不安を加速させる。
「グラサン・・・お前・・・」
「やってません、やってませんってば・・・僕やってませんって!」
「情緒不安定過ぎでしょ」
「じゃあなんで死──」
「──やってないっていっとるじゃろがーい!」
巽の有無を言わさぬ大声に、一瞬静まり返る。
だけど、私達の視線は冷ややかだった。
巽のこと、変な人だけど信じていたのに・・・。
荒い息を繰り返し吐き、落ち着きを取り戻そうとする巽の呼吸だけが霊安室に響き渡る。
そんな中、倒れていたタオルの怪物が急に立ち上がった。
「!?」
わっ、びっくりしたー!?
思わず後ずさる私達に対し、タオルの怪物はくるくると回りだす。
そしてぴたっと止まると、私達のいる方へと駆け出した。
「「「「きゃああああああああ!!!??」」」」
思わず大声をあげてタオルから避ける。
タオルの怪物は私達が座っていたパイプ椅子に足を取られてその場にすっ転んだ。
倒れた拍子にタオルの隙間から大事な部分が見えそうになる。
あ、やっぱりこの子、女の子なんだーって、そうだ!この場には巽もいたんだった!流石に知らない男の人に見られるのは可哀想だし・・・!
「──何見とるとこの助平!」
「理不尽!?」
と思ったら既にサキちゃんに殴られていた。
流石サキちゃん、手が早かった。
ほっとしたのも束の間、タオルちゃん(仮)がひょこっと立ち上がると再び、私達に襲いかかった。
「動きよる!動きよる!!」
「死体が動く訳ないでしょ!」
「いやっ、やっぱり動いてるよあれー!」
「人は死んだら動きません!」
純子ちゃん達と一緒に逃げ回る。
ゾンビ映画とか、皆のすっぴんで怖いものには多少慣れたと思ってたけど、やっぱりよくわからないものは怖い。
ましてやそれに追われるなら尚更だ。
「・・・ヴァヴェヴゥー!!」
「たえちゃん!?」
たえちゃんが走り回るタオル目掛けて飛びかかると、その頭?らしき部分に噛みついた。
その攻撃が効いたのか、タオルの怪物がバランスを崩してフラフラと揺れ出す。
そのままよたよたとさくらちゃんの方へと歩いていく。
「ひぃ!?こっちこんとー!?」
さくらちゃんが逃げきれずに躓き、その場に転ぶ。その衝撃で頭がすっぽ抜けた。
それと同時にタオルちゃんの頭のタオルがたえちゃんと共に取れる。
タオルの下は意外にも綺麗な顔をしていた。
流れるように長く濡れた黒髪。長いまつ毛に爬虫類を思わせる瞳は硝子細工のよう。整ったその顔立ちは、まさしく美少女の造形を丸ごと詰めた豪華な装いをしていた。
この子・・・綺麗・・・。
私が可愛い系なら、この子は彫刻や絵画を思わせる美麗さがあった。
「あ」
そんなことを考えていたら宙を舞っていたさくらちゃんの頭が、綺麗にタオルちゃんの両手の中に収まる。
さくらちゃんとタオルちゃんの視線が合った。
「あ、あのー、死んでるんですよね?」
「・・・あら?私、死んだの?」
・・・・・・
・・・
「・・・なんでちゃんと確認しなかったのよ」
あの後、片付けた病室の一室にタオルちゃんと一緒に移動し、余っていた私達の下着や私服を着てもらった。
今は少しラフな格好で、待合室と思われるところからもってきた比較的綺麗なソファーに座っている。
急に知らないところにタオル一枚でいたにしては、やけに落ち着いてるように見えた。
「・・・生きてる女子高生連れてきたって、ただの犯罪者じゃないですか」
「しかも裸にひん剥いてタオルでぐるぐる巻きって流石に引くかも」
私達が悪態をつくたびに、巽の背中がびくびく震える。
この様子だと本当に死んだと勘違いして連れてきたっぽい。
「えっと・・・とりあえず、名前を教えてもらっていいと?」
さくらちゃんが怖がらせないようにするためか、座っている彼女に目線を合わせるように屈んで話しかける。
それに対して、彼女は驚いたかのように眼を見開いた。
「・・・私のこと、知らないの?」
不思議そうに逆に質問を返してくる。
その眼は本当に自分のことを知らないのか、疑問に感じてるように見えた。
確かに、この子は誰が見ても美人だ。
これほどのルックスなら、街を歩いていればナンパは日常茶飯事だろうし、なんならモデルや子役として芸能界にスカウトされていてもおかしくはない。
つまり、私達が知らないだけで本当に有名人の可能性があるのだ。
「知らん!」
「さ、サキちゃん!・・・えっと、私達、普段は佐賀で活動しているからあまりこっちの流行とかに詳しくなくて・・・」
「そう・・・」
さくらちゃんも彼女の反応から察したのか、サキちゃんの態度を嗜めるように弁解する。
この子がどれくらい有名人かは知らないけど、この反応からして、よっぽど自分の知名度に自信があるのかも?
「・・・不知火フリルよ。よろしく」
名前だけ伝えた後、ちいさくぺこりと頭を下げる。
うーん、名前は聞いたことないなぁ・・・。
まあ、ネットに気軽に触れない私達が流行になんて乗れるわけないので気にしないことにする。
それに今はこの子が誰、というよりも・・・
「ゾンビって、多分バレたよね・・・?」
「まあがっつり頭取れてるとこ見られたし・・・」
「どうしましょう・・・」
そう、ゾンビバレだ。
結局、霊安室でのドタバタから一転、フリルちゃんが着替えた後、私達はメイクをする暇がなくてゾンビフェイスのままだった。
フリルちゃんも気にしているようで、チラチラと私達の顔に視線を送っているのが感じられる。
さくらちゃんの頭が取れたのも見られてるし、もう誤魔化しようはないかもしれないけど・・・。
「あの・・・」
フリルちゃんがおずおずと口を開く。
「その顔・・・すごいですね。もしかしてゾンビですか?」
「え、ええ!???な、なんでわかったとおお!?」
さくらちゃんは慌てるあまり、語尾が上擦っている。
相変わらずさくらちゃんは隠し事とか苦手だなー。
「あちゃー、あっさりばれちゃった」
「こういう瞬間って突然やってくるんですね・・・」
「どうするのよ・・・」
「仕方ありんせん、死んでもらいんしょう」
「「え?!」」
「・・・というわけにもいかんでしょうしなあ」
ちらりと巽の顔を見る。
なんだかんだで頼りになる時は頼りになる巽だ。
さっきは幻滅したけど、案外こういう時のゾンビバレ対策を考えてたりして・・・。
と思ったら、巽はあっけに取られたかのように、大袈裟に口を開いていた。
目元のサングラスがズレているのもあって、だいぶ間抜けに見える。
この顔・・・何か気づいてる?さっきの不知火フリルって名前に聞き覚えがあるのかな?
巽は私の視線に気付いたのか、自分の顔をばばばっと手で覆う仕草をする。
あっという間にいつものキリッとした表情を作ると、何事もなかったかのようにフリルちゃんの前に出た。
「・・・初めまして、不知火フリルさん。私達はフランシュシュというアイドルグループです」
「フラン・・・?ごめんなさい、知らない名前だわ」
「知らないのも無理はありません。私達は普段、そこの一号が言ったように佐賀を拠点に活動していますので」
思いっきり女の子ウケの良さそうな外面を作り、落ち着きのあるイケボに物腰丁寧な口調で語り掛ける。
何も知らない人が見たら絵本の王子様かと思うんじゃないかな?
本性を知ってる私達からしたら、気味が悪い光景にしか見えないけど。
「改めまして、私達の自己紹介を。彼女達がフランシュシュのメンバーで左から零号、一号、二号、三号、四号、五号、七号です。そして私がプロデューサーを務める巽幸太郎といいます」
「プロデューサー・・・」
フリルちゃんが意味深に呟く。
そして何か思い当たったことがあったのか、私達の方を見た。
「なるほど・・・」
何がなるほどなんだろう?
それに対して巽も意味深にニヤリと笑う。
フリルちゃんもそれを見て、合点がいったように頷いた。
???わけがわからない。
「だ、だれか今のやりとりわかったと?」
「わかるわけないでしょ・・・」
「ヴァウ?」
どうやら私だけじゃないらしい。
ほっ。
「・・・一つ、お願いがあるのだけど」
「・・・何でしょう?」
「今回のきか──いいえ、私もフランシュシュに入れて欲しいの」
「ええ!?」
思わずさくらちゃんが叫ぶ。
唐突な展開についていけない私達。
しかし、巽は眉を顰めただけで話を続けていく。
「・・・それは何故?」
「そうね・・・面白そうだからかしら」
「・・・b」
巽はフリルちゃんの提案に、親指を立てて応えていた。
・・・
「いったいどういうことですか!?」
フリルちゃんが帰った後、私達は巽を囲んで問い詰めていた。
さくらちゃんの全力の問いかけに、巽は余裕そうにサングラスをくいっと直して応える。
わー、腹立つなー。
「・・・ふっ、秘密がバレそうになった時、それを隠し通すにはどうするのがいいのか、わかるか?さくら?」
「ええ?・・・見逃してーてお願いするとか?」
「んなもんで済むなら警察も探偵も皆廃業じゃーい!頭の中お花畑かバカゾンビー!」
「頭の上がお花畑は既にいるとや」
「ふっっっ、・・・いえ、すみません」
「サキ、ダンスレッスン一人だけ三倍ね」
「なんでアタシだけとや!」
「日頃の行いだねー」
「お前ら俺の話を聞かんかい!・・・つまぁり!秘密がバレたなら、同じく秘密を守る立場にすればええんじゃい!」
「いや、それお前が最初やろうとして失敗したやろ」
「失敗?何のことだ?ここまでこの巽幸太郎様のシナリオ通りだが?」
「こいつ・・・、あんだけ取り乱しておいてよく平気な顔で言えるけんな・・・」
「まっこと、幸太郎はんは顔の皮が南瓜のようでありんすな」
「・・・ともかく、俺の天才的な頭脳で何とかなったことを感謝するがいい」
「でも何でフリルちゃんは急に納得したんだろ?」
「確かに・・・私達がゾンビだと気付いてるみたいだったけど、特につっこんで聞いてこなかったわね・・・」
「巽が何か合図してたけど、あれのせい?」
巽が名乗ったあたりから、フリルちゃんは何かに気付いて納得してるみたいだった。
「おかげと言わんかいおかげと・・・。ふっ、お前らにはまだわからないか、この伝説のプロデューサーだけが使えるアイコンタクトの意味・・・あだっ、あだだだ!」
「よし、いっぺんシメる」
「とりあえず右耳にお別れを言いなさい」
「ぼ、暴力はいかんてー!」
「と、とにかく!これで彼女はフランシュシュの一員となった!もはや一蓮托生、新たな仲間と共にフランシュシュの足跡を佐賀から遠く離れたこの地に刻むんじゃああああい!!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
目を覚ました私が見たのは、ツギハギだらけの女の子の首だった。
真っ白を通り越して土気色になった肌に、紅く爛爛と怪しく光る瞳。
触れている手のひらからは、生きているとは思えない程の冷たい体温が伝わってくる。
およそ作り物とは思えないその頭はボーリング球のように重く、まるで本物だと思えるほどの質感があった。
見渡せば、周囲には私を遠巻きに囲むように見つめる同様の紅い瞳が並んでいる。
現実とは思えないその光景を前にして、不思議と私は落ち着いていた。
私、どうしてこんなところにいるのかしら・・・?
朝のジョギングをした後、かねてより目をつけていた銭湯に入ったのは覚えている。
そこで一番風呂を堪能しようとしたら先客がいて・・・。
駄目だそこから先が思い出せない。まるで頭に靄がかかっているかのように記憶が曖昧だ。
「あのー・・・」
私を呼ぶ声が聞こえて現実に戻ってくる。
周囲の景色に変化はなし。どうやら今見ているこの光景が現実らしい。
「死んでるんですよね?」
「・・・あら?私、死んだの?」
なるほど、既に死んでいるのか。
それならこの状況にも納得だ。
この子達の生気のない顔も、この薄暗い壁に囲まれた窓ひとつない部屋も、彼女達の後ろにある棺のようなものも、私が死んでるから見えるのならまだギリギリ理解できる。
天国って感じはしないし、地獄寄りのどこかなのかもしれない。
さしずめ彼女達は私よりも先に死んだ先輩、といったところか。
・・・
目を覚ました後、彼女達は何事か相談し合うと私を連れて部屋を移動した。
階段を昇り、元は白かったであろう薄汚れた壁に囲まれた道を通ると、他より片付けられた部屋へと通される。
「今手頃な服がこれしかないから着とってね」
そう言って部屋着のようなものを複数渡される。
そういえば今の私は何故かタオル一枚だった。
あろうことか下着すら履いていない。
まあでも記憶の最後がお風呂場だったから、当然といえば当然か。
どうやら死んだ後、神様は服をサービスはしてくれないらしい。
渡された服にはサイズがいくつかあり、私は自身にあったものを選んで適当に羽織る。
そして部屋に鎮座している少し埃の乗ったソファーに腰を落ち着けた。
見た目とは裏腹に、意外と中身がしっかり詰まっていたソファーは私の身体を優しく受け止める。
力を抜いてゆっくりと体重を預けると、だんだんと思考がクリアになっていく。
・・・もしかして、私死んでいない?
この部屋には窓があり、外を見ると陽気な日光が燦々と降り注いでいた。
どうやら先ほどまでいたのは地下室だったらしい。
通り道で見えた案内板には、かすれていたが手術室などの表記があり、ここがもとは病院であることが察せられた。
窓の外には人っこひとり見えないが、のどかな田園風景が見える。
駅が近いのか、耳をすませば電車の走る音がかすかに聞こえた。
体重を預けるソファーに触れると、ごわごわとした感触が伝わってくる。
・・・やはり、ここがあの世とは思えない。
いや、実際に見たわけじゃないから知らないけど。
むしろ、現実離れしていたのは彼女達だけで───
「着替え終えた?」
扉を開け、地下室にいた一人がひょこっと顔を出す。
その顔色は相変わらずの土気色だ。
「ええ」
疑問を顔に出さずに答える。
仕事柄、表情を作ることは得意だ。
怪しまれることは避けた方がいいと判断して、疑ってることは隠して返事をする。
「よかったー、サイズはどう?一応、他のも持ってきたから合わなければ渡すけど」
「ありがとう。でもこれで大丈夫よ」
「そう?じゃあ皆も呼んでくるからちょっと待っててねー」
彼女は私の表情に疑問も持たずに笑顔で返すと踵を返して部屋を出て行った。
今の顔、地下室で見た時から思っていたけれど、どこか見覚えがあるような・・・。
その両眼に宿る星のような虹彩に、どこか既視感を感じた。
・・・
私が着替え終えたのを聞いたのか、先程地下室で見た全員が集合していた。
再び目の前に現れた現実離れした光景に思わずくらっとするが、なんとか耐える。
正直、先程よりも頭がスッキリした分、今の方がダメージは大きかった。
「えっと・・・とりあえず、名前を教えてもらっていいと?」
生首だった女の子の質問に思わず首を傾げる。
私のことを知らない?この不知火フリルを?
自慢じゃないが女優、タレントの中でも私は売れている部類に入る。
テレビにはしょっちゅう出てるし、雑誌のモデルや表紙を何度も飾っている。自慢じゃないけど。
そんな私を知らない?どうしよう、ここにきて再びここが死後の世界説がでてきた。
「・・・私のこと、知らないの?」
思わず疑問が口に出る。
「知らん!」
「さ、サキちゃん!・・・えっと、私達、普段は佐賀で活動しているからあまりこっちの流行とかに詳しくなくて・・・」
「そう・・・」
正直、全国的に知られている自信があったからフォローされても傷つくのだけど。
とはいえ、他の反応も見るに彼女の言っていることは事実みたいなので言いたいことを呑み込んでおく。
「・・・不知火フリルよ。よろしく」
「不知火フリル・・・うん、フリルちゃんとね!よろしく、フリルちゃん!」
生首子ちゃん(仮)が嬉しそうに近寄ってくる。
その土気色の顔がアップになる迫力に、思わず冷や汗をかいてしまった。
・・・そろそろ、彼女達のこの秘密に突っ込んでもいい頃合いだろうか。
「あの・・・その顔、すごいですね。もしかしてゾンビ・・・ですか?」
彼女達の顔、土気色の肌の正体はメイクに違いない。
以前、撮影の仕事で外国の人と共演した時に聞いたことがある。
ハリウッドでは昔、特殊メイクの研究が日夜行われていて、今ではCG技術で加工するのが当たり前になった
近くで見た時にも感じた、まるで本物のようなリアリティ。
よほど腕の立つ、その道に通じるメイクアップアーティストがここにはいるとみた。案外ハリウッドお抱えのプロかもしれない。
それまで黙っていたサングラスを掛けた男が急に前に出る。
ふと、その顔に見覚えがあるような気がした。
確かあの銭湯で見たような・・・。いや、でもこの人は男の人だし・・・きっと、人違いだろう。
「・・・初めまして、不知火フリルさん。私達はフランシュシュというアイドルグループです」
シュッとした身なりにそぐわぬ、涼やかな声の挨拶。話し方も流暢で、人前で喋ることに手慣れた印象を覚える。
「フラン・・・?ごめんなさい、知らない名前だわ」
「知らないのも無理はありません。私達は普段、そこの一号が言ったように佐賀を拠点に活動していますので」
正直に答えるも、彼は気にせずに話を続けた。
「改めまして、私達の自己紹介を。彼女達がフランシュシュのメンバーで左から零号、一号、二号、三号、四号、五号、七号です。そして私がプロデューサーを務める巽幸太郎といいます」
「プロデューサー・・・」
なるほど、やっと合点がいった。
つまり今この状況は、彼が仕組んだものだということ。よくよく考えれば病院まるまる一棟を舞台にハリウッド顔負けのゾンビメイクの女の子を七人も用意するなんて大掛かりな仕掛け、よほど大きなコネがなければ成り立たない。
このサングラスの男の背後にはどれほどの大物が
いるのか。
これほどの若さでどれだけのキャリアを積んできたのか。
私は目の前の謎に満ちた男が放つオーラに、思わず感心してしまった。
マネージャーから特に話を聞いてはいないが、彼女達の格好から恐らくドッキリ系の企画に違いない。
本来、こういう企画は事前に番組側から演者に話を通されるものだけど・・・。
「なるほど・・・」
自分の姿をちらりと見やる。
どれだけの人脈があろうと最悪、クビが飛ぶどころか、一生業界を追放されてもおかしくない程の覚悟をもってこの男は挑んでいる。
────ふふっ・・・、なんて面白いの・・・っっ!!
「・・・一つ、お願いがあるのだけど」
「・・・何でしょう?」
「今回のきか──いいえ、私もあなた達フランシュシュに入れて欲しいの」
「ええ!?」
「・・・それは何故?」
「そうね・・・面白そうだからかしら」
確信した。
この男はまともじゃない。
だけど、それに見合うほどの底知れなさを感じる。
「・・・ニッ」
サングラスの男がニヤリと笑って手を差し出す。
この表情・・・私が気づいたことも察しているに違いない。
この差し出された手が、悪魔との取引のように思えてきた。
だけど、構わない。
最後に笑うのはこの私なのだから。
私はその手を、同じく笑みを浮かべて握り返した。
正直、イケメン俳優にご飯を誘われるのも、誰もが羨む美少女タレントも飽きてきたところだ。
順風満帆なだけの人生なんてつまらない。
流されるだけのお人形なんてイヤ。
・・・さて、あなた達はどんなふうに私を楽しませてくれるのかしら?
・・・
彼らの拠点である病院から解放された後、私はその足で銭湯へと向かった。
番台の老婆に、忘れ物をしたと伝えてスマホや貴重品を探してもらうとまもなく持ってきてくれた。
本来なら警察に届けてから返すそうだが、私の顔を見てすぐに不知火フリルだと気づいたらしい。
特に疑われることはなく、返してもらえた。
お礼に孫へのプレゼントに、とお願いされた色紙にサインを書いて手渡す。老婆は眼に涙を浮かべながらお礼を告げてきた。
そう、これが普通なのだ。
不知火フリルを前にした人間の反応は。
なのに、先程の少女達は一切私に気づかず、あまつさえ裸にまで剥いた。
「・・・ふふっ」
恥ずかしさよりも、おもわず笑みが溢れる。
私は上機嫌のまま、スマホからマネージャーの番号を探すと電話をかけた。
「私よ、・・・ええ、連絡が取れなくてごめんなさい。出演予定だった番組にはなんて?・・・そう、今度、私からも謝っておくわ。それと私、しばらくの間お仕事休むから。・・・ええ、何と言われても気を変えるつもりはないわ。私、やりたいことができたの。・・・今入ってるスケジュールはどうするって?その辺は任せるわ。・・・何か言ってくるなら、この不知火フリルがあとで帳尻を合わせてあげるって言っておきなさい。それでたいていは何とかなるもの。・・・ええ、学校にはちゃんと行くから。それじゃあ何かあればまた連絡するわ」
電話口から聞こえるマネージャーの悲鳴を流しつつ、電話を切る。
ふふっ、こんなに心が踊るのはいつ以来かしら?
私はこれから起きることに期待しつつ、スキップしながら自宅へと帰った。
・・・・・・
・・・
「フリルちゃん、すごかねぇー!」
フリルちゃんがフランシュシュに加入して数日が経った。
彼女は昼間は学校に通っている学生なので、学校の合間に廃病院にきてレッスンに参加している。
「今あるフランシュシュの曲、もう全部歌もダンスもマスターしよるなんて・・・!」
「マジで気合い入っとるつか!こりゃあアタシらもうかうかしてられんばい!」
『目覚めRETURNER』を歌い終わったフリルちゃんが水を呷る。
見た感じ呼吸も乱れてないし、まだまだ余裕が感じられる。
加えてその美貌だ。タオルで汗を拭く姿も美術品のように綺麗だった。
「本当に・・・歌もダンスも多少経験があるって言ってたけど、正直どっちもプロレベル。これなら今すぐに戦力になれるわ」
「はい、私も同意します。フリルさんの歌声は伸び伸びとして、聴いててとても心地が良いです」
トレーナー役の愛ちゃんと純子ちゃんも太鼓判を推している。
正直、私の眼から見てもフリルちゃんはハイスペックだ。
緻密な歌にダンス、それをこなす体力、身体も柔らかいし繊細な表現もできている。
・・・ひょっとすると私達が思っている以上に、すごいタレントなのかもしれない。
「ありがとう、アイドルは初めてだけど足を引っ張らないように頑張るわ」
クールに返事をする姿には、新人アイドルとは思えない程の貫禄がある。
これは私達もうかうかしてられないね。
「これなら新生フランシュシュ発進もすぐやけんね!」
「だな!・・・きっとちんちくのやつ、戻ってきたらびっくりするとね!がばいメンバーが入ったとってな!」
「・・・他にもメンバーがいるの?」
「ええ、今は別の仕事で一時的に休んでるの」
「名前はフランシュシュ六号ちゃん!ちっちゃいけど、可愛くて元気いっぱいなんだー」
「へぇ・・・」
「舞台の仕事が落ち着きんしたら、フリルはんにも紹介する時がきんしょう」
「まっ、明るいやつやけん、すぐ仲良くできるとね!」
「ええ、楽しみにしてるわ」
「・・・けど、なかなかお仕事が見つからないね」
さくらちゃんが悔しそうにためいきをつく。
皆も同様に肩を落としていた。
さくらちゃんの言うお仕事とは、フランシュシュ全員でのお仕事だ。
これまで、巽の指示でソロのお仕事を中心に取ってたけど、フリルちゃんの加入によってリリィちゃんの抜けた穴がカバーしやすくなった。
せっかくの新メンバー加入、巽はフランシュシュ一大イベントとして各所に営業をかけてるけど難航してるみたい。
リリィちゃんの活躍に加えて、私達がソロで名前を売ってるとは言ってもまだまだフランシュシュは弱小アイドルグループ。
お偉いさんとのコネが毎度あるならともかく、現実はそう簡単にお仕事を回してくれないのだ。
「フリルちゃんのお披露目を大々的にやりたいってのはわかるんだけどねー、それでお仕事が取れなきゃこうやって細々とレッスンするしかないわけで・・・」
「私は皆とレッスンするのも楽しくてよかとよ?もちろん、ライブも早くやりたいけど・・・」
「七号さん、いけませんよ?私達アイドルは、ファンの皆さんの前で十全のパフォーマンスを見せなければならないんですから。そのためのレッスンを煩わしく思うのは・・・」
「もー、わかってるってー。四号ちゃんは心配症だなー」
純子ちゃんは最近、私に対しての小言が多くなった。とは言っても、目につくからーとか嫌な感じじゃなくて心配してくれてる感じがして・・・ミヤコさんみたいで私は嫌いじゃない。
「でも実際さー、お仕事が貰えないとずーっと私達この病院でしかライブできないよ?」
「それは・・・そうですけど・・・」
そういえば佐藤社長はやり手だったなー。
昔、B小町がまだ無名だった頃、地方巡業した時も無茶なやり方でバンバン仕事持ってきたっけ。
今更だけど、巽の仕事の持ってき方って社長にちょっとだけ似てるかも?
「なんの話をしているのかしら?」
フリルちゃんが会話に混じってくる。
そうだ、この際フリルちゃんにも聞いてみよう。
「皆でできるお仕事が見つからないなー、て。私達、こっちではあまり知名度がないから中々お仕事が見つからないみたい」
「・・・佐賀と比べるとアイドルグループも多いでしょうし、見つけるのは苦労するでしょうね」
「フリルちゃんから見て、何かいい方法とかあったりしないかな?」
「そうね・・・正直、この世界では事務所の強さがものをいうと言っても過言ではないわ。無名のあなた達が仕事を選びたいならそれこそ、もっと大きな事務所に所属するとか・・・」
「あーそれは・・・」
「ほら、私達見ての通り、ゾンビやけん。流石にこのグリーンフェイスを他の人にも知られるわけにはいかんとよ」
さくらちゃんが困った顔で自分の顔を指差す。
フリルちゃんはあまり驚かないから忘れそうになるけど、私達の素顔は到底人前に出せるものじゃない。
事情を知る人しかいないグループだから活動できるのであって、本来表舞台に私達の居場所はないのだ。
「・・・なるほど。徹底的なキャラ作り、ということね。ごめんなさい、今のは私が悪かったわ」
「ええ!?べ、別に謝らなくてもよかよ!ほら、私達が変なだけやけん!」
フリルちゃんが何か察したのか、頭を下げる。
「いえ、今のは私の失言。挽回の機会をちょうだい。そうだ、もしかしたらあれが使えるかも・・・ちょっと失礼するわ」
フリルちゃんは小声で何事か言うと、スマホを持ってレッスン室を出て行ってしまった。
「・・・気を遣わせてしまいましたでしょうか?」
「あいつ、アタシらのこの顔見ても気にせんで話すくらい良いヤツやけんな」
「・・・どやんす、実は無理、させてたのかも・・・」
「・・・」「・・・」
皆と眼を見合わせる。
うん、考えることは一緒だね。
「おし!あいつが戻ってきたら明るく迎えてやろうぜ!」
「あい、気を衒うよりも普段通りが喜ばれるでありんす」
「自然な笑顔だねー!まっかせてー!」
数分後、再び戻ってきたフリルちゃんは何事もなかったかのようにさらりと告げた。
「ライブのお仕事、決まったわ」
「「「「え、ええええええええ!?」」」
あ、純子ちゃんとさくらちゃんの眼が飛び出しちゃった。
「ど、どういうこと?」
「私の通ってる学校で今度学園祭があるの。そこでやるイベントステージの一つとしてライブをやる許可を貰ったわ」
「学園祭・・・」
「学校・・・」
確かに、私が生きていた頃も学校に芸能人を呼ぶイベントがあるって聞いたことがある。
学生であるフリルちゃんだからこそ、思いついた案と言えるだろう。
それにしても・・・
「学校かー」
正直、私は学生時代にいい思い出がない。
施設育ちだった私はクラスに馴染めなかったし、アイドルになってからはお仕事も重なってまともに通えなかった。
バラエティ番組で学校の話を振られてもいいように、メンバーにいた学生から話を聞いて、その場しのぎのエピソードを作ったりはしたが羨ましいとは思えなかった。
──その普通からかけ離れた感性をあの子達に感じてほしくなくて、ルビーとアクアには絶対に学校に行かせたいって思ったっけ。
「──いいじゃなかと、フランシュシュがついに他校にカチコミばい!」
「フランシュシュは学校じゃないし、カチコミでもないけど・・・うん、学校でのライブは賛成。若い層にアピールできる機会は貴重だと思う」
「二十一世紀の学校・・・わくわくしますね!」
「当世の寺子屋を見れるなんて、あいどるの仕事は誠に多彩でありんすなあ」
「アイちゃんはどう思うと?」
「・・・私も楽しみだよー!学校なんて最後に行ったの何年前って感じだし!」
いつもの笑顔で咄嗟に答えてしまう。
ああ、嫌だな。
皆には本音で接したいのに、私の口は考えるより先に嘘が出る。
最近はあまりなかったけど、急に話を振られると口にしてしまう。
自己嫌悪を更に嘘で塗り固めて誤魔化しつつ、私は何事もなかったように話を続けた。
「フリルちゃんの通う学校ってどんなところなの?」
「特別変わったところはないけれど・・・、しいていうなら校内に噴水があるわね」
「噴水!?」
「あれって学校にあるものなの・・・?」
「芸能科と普通科に分かれていて・・・」
「げ、芸能科って何と・・・?」
「あ、アイドルとか俳優になるための学校でしょうか・・・?」
「・・・昼食の後はお昼寝タイムがあって好きな枕を持ち込んでいいの」
「ま、まくら持ち込み!?」
「おい、どういうことやけん!?愛、お前ガッコ通ってたやろ!?お前んとこはなかったとや!?」
「あるわけないでしょ!・・・まさか、ここ数年で学校がこんなに変わってるなんて・・・」
「寺小屋も随分と様変わりしたんでありんすなぁ」
「・・・ふふ、こんなことで驚くなんて。まるでタイムスリップしたみたいね、あなた達」
いつの間にかフリルちゃんがくすくすと笑っていた。
思わず騒いでいた皆が恥ずかしそうに顔を赤くする。
「ごめんなさい、最後のは冗談よ。・・・是非、私の通う学校を案内したくなったわ」
「へ?冗談?」
「本当かと思いました・・・」
「あなた、表情の変化がわかり辛いから冗談だと気づきにくいのよ・・・」
「あら、小粋なジョークだと思って欲しいわ」
イタズラっぽく笑うフリルちゃん。
そこには彼女の素の姿が垣間見えた。
・・・わかるなぁ。
フランシュシュの皆と話していると、ついつい仮面が取れちゃうんだよね。
それにしてもフリルちゃんの通う学校・・・うん、やっぱり楽しみになってきた。
フリルちゃんの着ていた制服・・・あれは確か、アクアが見せてくれたルビーの写真と同じものだ。
つまり、フリルちゃんの通う学校にルビーもいる・・・はず。
ルビーも同じ芸能科にいるだろうし、お仕事がなければルビーにも会えるかも!
早くライブ当日にならないかなー!
・・・
朝、いつものように身支度を整え、家を出る。
向かう先は学校だ。
陽東高校。
中高一貫で日本では数少ない芸能科のある学校だ。
「おはよー」「おはー」「おはようございます」
私と同じ制服を着た学生達が互いに挨拶をしつつ、校舎へと入っていく。
しかし、私の周囲は違う。
誰も私には声をかけない。
不知火フリルを避けるように人波の中にぽっかりと大きな穴が空いている。
芸能科は文字通り、芸能界で活動する学生が多数在籍する。彼らは同じ世界で競い合うライバルであり、仲間でもある。十代と言う多感な時期に大人の世界で活動する彼らにとって、同年代の子供達しかいない空間は気の休まる場所だった。
だが、それは相手が自分と同格という条件のもと、だ。
不知火フリルという大人も霞むトップスターを前に、彼らが取った行動は、遠巻きに眺めて極力関わらないことだった。
「・・・まあ、いつものことね」
特に気にせずに校舎に入り、自分が所属するクラスへと向かう。
教室に入った私は、自分の席に鞄を置いたところで後ろから声をかけられた。
「フリルちゃん、おはよー!」
「不知火さん、おはよーさんやなあ」
振り向くと馴染みのある金髪の女の子と桃色の髪の女の子がいた。
「・・・ルビー、みなみ、おはよう」
挨拶を返すと二人がそばまでやってくる。
私にはこの学校に二人の友人がいる。
一人はいつも明るく、名前の通り
もう一人は柔らかい雰囲気を纏った、スタイル抜群のグラビアアイドル、寿みなみ。
この学校で浮いている私にとって、気軽に話ができる貴重な存在だ。
「不知火さん、最近は学校休まずに毎日登校しとるなぁ」
「ええ、スケジュールの都合。今やってる仕事は昼間、時間が空いてるから」
「いいなー、私もお仕事を理由に学校を何度も休みたい・・・」
「・・・ルビーはなんか言ってることがズレとるなぁ」
軽口を言いあう彼女達を見ていると、自分が学生だと再認識できて、心が軽くなる気がする。
私は二人に感謝しつつ、会話に混ざった。
「ルビーもみなみも容姿は悪くないからいずれ、仕事が増えて学校を休む日もあるわ。私、美男美女へのメガネは肥えてるから信じていいわよ」
「だよねー!私、美少女だし、フリルちゃんもいうなら間違いないよねー!」
「不知火さんはともかく、ルビーはどうしてそんなに自信満々なんや・・・」
みなみが呆れたようにため息をつく。
だいたい私達の会話はルビーと私がボケてみなみがツッコむか呆れて終わる。
いつもの日常を感じていると、ルビーが別の話を切り出した。
「そういえばあの話、フリルちゃんにも聞いてもらったら?」
「あー・・・」
「あの話?」
ルビーに振られたみなみが、話すか悩むそぶりを見せる。
どうやら言い辛いことらしい。
けど、ここまで言われたのなら内容が気になってくる。
そうだ・・・。
私は心の中でイタズラっぽく笑うと、一芝居打つことにした。
「・・・そう、みなみは隠し事するんだ・・・」
台詞と共に、役者としてのスイッチを入れる。
脳内に、先日演じたドラマの登場人物が蘇る。
隠し事をした友達に、ナイフを持って襲いかかる役。
次の月9ドラマで演じるこの役は、今の私のやろうとしていることにぴったりだ。
案の定、私の変わりようを見た二人はびくっと驚いている。
「しくしく・・・私はみなみのこと、友達と思っていたのにみなみは私に言えないのね・・・」
両眼から涙も流しながら、みなみにしなだれるように頬に触れる。
ルビーも場の空気に流されて、疑いもせずに息を呑んでいた。
「ええ!?そ、そんなことはないんよ?」
あたふたするみなみを見て満足した私は演技を解く。不知火フリルに戻るといつものトーンで言葉を繋げた。
「──ていう役をこの前お仕事で演じたから、二人も観て。来春放送開始、よろしく」
「・・・もおー、不知火さんの冗談は心臓に悪いんよー!」
「すごーい!途中まで演技ってわからなかったよー!」
「ふふ・・・苦しゅうない。で、何があったの?」
「・・・実はうち、この前な・・・」
・・・
みなみの話を要約するとこうだ。
駅前にある、ホラースポットで有名な廃病院に、みなみは友人と一緒に度胸試しで忍び込んだらしい。
そして病院内を彷徨っていたところ、この世のものとは思えない顔をした女の子を見たそうだ。
「もう本当に怖くてな?私が見つけたと同時にもう一人、別の女の子が現れてうちのことを追いかけてきたんよ。慌てて病院から出たら追ってこなくなったけど、恐ろしい呻き声に、暗闇でも紅く光る眼が頭に残ってってな・・・うう・・・」
みなみが震えながらいう姿を前に、私は脳裏にフランシュシュのことを思い出していた。
駅前の廃病院・・・、呻き声・・・、暗闇で紅く光る眼・・・。
間違いなく、彼女達だろう。
あの病院はドッキリ企画で使うロケのはずだけど・・・もしかして立ち入り禁止にしてないのかしら?
「みなみちゃん、かわいそうに・・・。うん、やっぱり許せない!きっとホームレスとか不良とかが勝手に根城にしてるんだよ!警察とかに通報すればいいよね!?」
「お、落ち着いて、ルビー。うちも勝手に入ったし、悪いさかい。二度と近づかなければええだけやよ」
「でもさぁー!」
みなみに同情はするが、私も関わってる以上ここは二人を宥めないと。
「・・・通報とかはしない方がいいと思う。ルビーもみなみも芸能界で働くタレントだし、確実な証拠もないのに警察に駆け込むのは事務所にも迷惑かけちゃうんじゃないかしら?」
「せやなぁ・・・。うちもそこが気になってなぁ、この話をしたのもルビーとフリルちゃんだけなんよ」
「むー、確かにそうかもしれないけどさー。泣き寝入りしかできないなんて・・・」
納得がいってないのか、ルビーがぶーぶーと文句を言い続ける。
だけど当人であるみなみに宥められたからか、これ以上大事にすることはなさそうだ。
「そういえばさっき、登校する生徒が話していたのだけどもうじき学園祭なのね」
話題を変えるために、ついさっき聞いたていで切り出す。
「せやったなぁ。一般科の子達がはしゃいどったわぁ」
「そう!そうなんだよ!一年に一度のビッグイベント!・・・な、の、に!
さっきの話はどこへやら、ルビーが興奮した面持ちで声を荒げる。
どうやら一番話したかったのはこの話題らしい。
「まあしゃーないわぁ。芸能科は仕事が忙しくて参加できない人も多いやろうし、エスカレーター組は毎年のことやから今更反応せんのやろねぇ」
「おかしい!もったいない!私達、花の女子高生だよ?せっかくの学園生活、それも年一のイベントがあっさり消化されるなんて許せないよー!」
メラメラと燃えるルビーを、そうゆうものなのかしら、とどこか冷めた眼で見る私がいる。
私自身、学園祭や体育祭などのイベントは参加できることの方が少なかった。
もちろん、マネージャー等は配慮しようとしてくれたが私自身、そこまで興味を持てなかったのと、何より
「私自身、参加できなかった組だからかもだけど、結局は大人の世界で大人と同じ責任を負う選択をした以上、自分の都合を優先できない時もあるってことね。ルビーも将来売れたいなら、その辺も考えておくといいかも」
「・・・でもさあ」
ルビーはつまらなさそうに頬を膨らます。
「せっかくこの学園で出会って、三年間っていう短い時間を一緒に過ごすんだから、何か学園の友達との思い出も一個くらいは欲しいじゃん・・・」
その発言に、思わずみなみと眼を見合わせる。
ルビーとはまだ友達になって間もないけど、こういう恥ずかしいことをスラッと言う時がある。
まるで後悔しないように生き急いでるみたいで、・・・私はこの子のこういうところが嫌いじゃない。
みなみも同じみたいで、優しく微笑んでいた。
「ルビーはいざとなったらお兄さんを誘えばええんとちゃう?確かシスコンって・・・」
「そうだけどー。多分その日は公演があるだろうから・・・」
「ああ・・・お兄さんも仕事なんやねぇ」
「フリルちゃんもその日は仕事でしょ?」
「・・・そうね、仕事よ。だけど、収録現場が近いから少しなら一緒に回れるかも」
「ほんと!?」
ぱあっと一瞬で明るくなる。
私は肯定の意を示すように頷いた後、みなみにも視線を向けた。
「うちもOKやよ。時間作ってみんなで回ろかー」
「よし!約束だからねー!・・・ちなみにこの近くの収録現場ってどこなの?」
「それは・・・ふふ、当日まで秘密ね」
同時に、朝のホームルームを知らせる鐘がなる。
ルビーとみなみが席に戻ったタイミングで先生が入ってきた。
「きりーつ、れーい、ちゃくせーき」
いつもの朝が始まる。
窓の外の景色を眺めながら、私は少しだけ楽しみが増した学園祭に期待を馳せた。
・・・
フリルちゃんはフランシュシュ向きのキャラしてるはず。
きっと仲良くなれるでしょう。
まいまい氏は犠牲になったのだ・・・。
原作でもっと見たかったものの一つにフリル、みなみ、ルビーの会話シーンがあります。
もっと学校の話・・・出してもええんやで。
引き続き誤字報告、高評価、感想!を頂けると嬉しいです!
どうかよろしくお願いします!!!