太平の要になってイケメン英傑とイチャイチャしたり、禁足地で護竜タ・シンの討伐をしてたら二ヶ月経ってました・・・。
その間にゾンサガは映画の、推しの子は三期の新情報が出ましたね。
スクリーンでフランシュシュに本当に会えるなんて・・・
前回のお話、もし覚えてなければ宜しければ1話から読み直してみてください。
たった26話なのですぐ追いつけます・・・たぶん(文字数から目を逸らしつつ)
『──星野さん、またここにいたのか』
『せんせ』
私が夜風を浴びるために屋上にいると、せんせは必ず迎えにくる。
アイドル、アイ。
本名、星野アイ。
私は今、芸能活動を休止して宮崎にある病院にいる。
その理由はこのお腹だ。
妊娠三十五週。
もはや隠せないほどに膨れたお腹。
その中には、私の未来の家族が入っている。
赤ちゃんを産むために、都会から離れたこの病院に来たのだ。
『あれ?ここじゃ私は海野さん?じゃなかったっけ?』
『・・・ここには誰もいないしね。なんて呼ぼうが問題ないだろうさ』
『それもそっかー』
せんせは屋上の扉を閉めると私のそばまでやってくる。
『前も言ったが・・・ここの夜風は冷たい。母体にもお腹の中の子供にも良くないからほどほどにしなさい』
『前にも言ったけど、ちゃんと厚着してるからへーきだってばー。せんせは心配性だなー』
『だとしても毎晩は感心しないな』
『だってここから見る夜空が綺麗なんだもん。星がくっきり見えて、都会じゃ見ることできないからね』
私の言葉にせんせは説得を諦めたのか、持っていた袋から毛布を取り出した。
『ならせめてもっと暖かい格好をしてくれ。それと長居はしないこと。これが医者として許可をだせる最低条件だ』
『はーい』
せんせから受け取った毛布を羽織る。
ふわっとした質感と柔軟剤のにおいが鼻腔をくすぐった。
『よっと』
せんせが後ろでくつろぐ音が聞こえる。
どうやら私がちゃんと戻るか監視するつもりらしい。
振り返れば持っていた魔法瓶から、何やら暖かい飲み物をカップに注いでいるところだった。
『あー!一人だけずるーい!』
『ずるくないさ。医者の言うことを聞かない不良患者の監視をするなら、これくらいのご褒美がないと・・・うおっ!』
言い終わる前に私はカップを取ろうと手を伸ばす。
せんせは慌てて身を捩って避けた。
『こ、こらっ、妊婦が激しい運動をするんじゃない!』
『せんせは知ってるでしょ?私がアイドルなの。ダンスもやってるしこれくらい、激しい運動に入らないって・・・ばっ!』
二度目のダイブ、だが今度はカップを空に掲げることで回避される。
むぅ、背の高さを利用するなんて卑怯な・・・。
尚もカップに手を伸ばそうとしてると身体を押しつけてると観念したのか、せんせは顔を真っ赤にしながら叫んだ。
『わ、わかった!僕の負けだ!わかったから離れてくれ!』
よーしっ、大勝利!
諦めたせんせからカップを貰うと口をつける。
寒空の中、時間は経っていても中身はまだ暖かかった。
『はふぅ・・・あったか〜。てかココアだったんだー。色的にコーヒーかと思った』
『こっちの方が患者に喜ばれるんだ。僕自身はコーヒー派だよ』
せんせはもう一つカップを取り出すと魔法瓶からココアを注ぎ始める。そして一息でぐいっと飲んだ。
私もそれに倣ってカップに残ったココアを一気で飲み干す。
『『ぷはぁ〜』』
全く同じタイミングで白い息を吐く。
夜空に消えてくのを見ていた私は自然と胸の内にあった疑問を吐露していた。
『せんせはさ』
『ん?』
『人の顔を覚えるの得意だよね』
『・・・そうか?』
思い出したのは昼間のこと、せんせに薦められた妊娠中の人向けのヨガの帰り道、偶然診察中のせんせを見た。
『佐藤さん、お腹の子の調子は良好ですよ』
『高梨さんは今日顔色が良いですね。何か良いことでもありましたか?』
『中野さん、旦那さんが来られましたよ。何かご用があれば遠慮せずにナースコールで呼んでくださいね』
入院してる人、診察を受けに来た人、一人一人に丁寧に対応していく。
顔を見て、名前を呼んで、その人を安心させるように優しく話す。
私の空っぽの話し方とは違う、暖かさに満ちた言葉。
『私はちょっと苦手なんだよね、人の顔を覚えるの。だから何かコツとかあるのかなー、て』
『カルテを見て顔を覚えただけだよ。特別なことをしているわけじゃない』
特別なことじゃない。
それはあなたにとっては普通のことなのかもしれないけど、私にとっては特別なこと。
・・・だけど、わかっていたことだ。私の悩みは誰にも理解されないことだって。
自分の膨らんだお腹をさする。
産まれたこの子達の名前を、顔を、母親である私が覚えられなかったら、・・・愛せなかったらどうしよう。
最近ずっと感じている不安。産むと決めてから、ずっと私にまとわりついている。
『───って、こう言うアドバイスが欲しいわけじゃないよな。うーん、そうだな・・・』
・・・驚いた。
まさか本当に考えてくれるとは思わなかったから。
以前、他のメンバーの子に聞いた時は適当に答えを濁された後、裏で陰口を言われたものだ。
覚える価値がないってこと?
ずっとセンターだからって調子に乗ってるよね。
何度も聞いた言葉。
けど目の前のこの人は違う。
私の疑問に、真正面から向かい合ってくれる。
せんせは一通り考えた後、思い出したかのように告げた。
『──覚えたい相手の名前の由来を考えてみるといい』
『名前の・・・由来?』
『昔、俺がまだ医者の卵だった頃、よく時間を潰しに患者の病室に遊びに行ってたんだが・・・』
『不良じゃん』
『間違えた。日々不安に怯える患者を勇気づけるために日課の診察に行った時だ』
『わー、嘘っぽーい』
『おほんっ、患者の中に君くら──まだ幼い子がいてね。その子が自分の名前の由来を教えてくれたんだ』
『──せんせ!私の名前がなんで[さりな]なのか知ってる?・・・これはね?お母さんがつけてくれたの!お母さんは私を産んでとっても幸せだったんだって!だから私にも幸せになってほしいって思って、自分の名前をもじった名前にしたんだって!』
『──名前にはつけた人が考えた意味が一つ一つ込められている。その意味を考えながら口にするのが覚える為の近道かな』
せんせは懐かしむように夜空を眺めながら呟く。
その瞳は星ではなく、もっと遠くのものを見ているみたいだった。
『──母親が子供につける名前に苦悩することはよくあることだ。だけどどんな名前であれ、その子の幸せを願ってつけるなら、産まれた子供は喜んでくれるって俺は思うよ』
『そっか・・・ん?私、自分の赤ちゃんの名前のことなんて言ったっけ?』
『わかるさ、俺が何年この仕事をやってきてると思うんだ』
せんせが当然と言わんばかりに胸を張る。
こういった子供っぽいところが、他の大人と比べて親しみやすいのかもしれない。
『私も、その子のお母さんみたいに産まれてくる子供を愛してあげられるかな?』
私がつぶやいた言葉に、せんせは泣きそうな顔をしたかのように見えた。
だけどそれは一瞬のことで、いつもの顔に戻ると淡く笑いながら答えた。
『・・・ああ、きっと』
『──』
祈るようなその短い言葉は、とても儚くて。
私はそれが嘘だと気づいてしまった。
『──そっか。じゃあまずはすぽぽーんと元気な子供を産まないとねー』
話を切るように、夜空の星に視線を向ける。
せんせも続けたくなかったみたいで、あっさりとこの話は終わった。
『・・・産まれてくる子の名前、候補はもうあるのかい?』
『うん、いくつかあるよ?こう、キラキラーって綺麗な名前!・・・だけどせんせにはまだ内緒!この子達が産まれたら教えてあげる!』
『そうか、なら産まれる日を楽しみにしておくよ。・・・さて、そろそろ部屋に戻ろうか。これ以上はドクターストップだ』
『はーい』
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「──って感じで、宮崎の病院にいた頃、お世話になってたんだー」
アイが語ったエピソード、それは間違いなくゴローの思い出だった。
それにしても・・・
当時の俺、そんなにキザったらしかったか!?
確かに小さい子や年配の人から好評だったからココアは良く飲んでたが・・・。
こう、他人の口から語られると言いようもない恥ずかしさに死にたくなるような・・・ぐうっ
しかもキラキラな名前って本当にキラキラネームだったのか・・・
「でもゴローせんせってば、出産当日に蒸発しちゃったんだよー!信じられないよねー?」
アイが大きなため息をつきながら呆れたように言った。
「よく面倒見てくれたナースさんに聞いたら、『女関係のトラブルだと思います』だって言うしさー。最低だよねー」
ナース・・・まさかあいつか!?
・・・何をアイに吹き込んでるんだあの女!
思わず叫びそうになるのを食いしばって我慢する。
幸い、アイはこちらを見ていなくて気づいていないようだった。
「本当はアクアも会ってるんだよ?こーんなに小さくて、まだ私のお腹にいた頃だけどねー?」
「・・・アイはその医者のこと、恨んでいるのか?」
「んー、まあ正直に言えば、昔は怒ったよ?よくも約束破ったなーとか、せんせの嘘つきーとか」
ぐっ、君のファンに襲われていたとか、君の産まれてきた子供に転生したとか絶対に言えないし、信じてもらえるとも思えない。
・・・ここは甘んじてアイの誹りを受けるしかない、か。
「──だけどそれ以上にお礼を言いたい、かな。なんだかんだで、私の悩みにちゃんと向き合ってくれた大人は少なかったから」
──その言葉に、今度は泣きそうになる。
病院で初めて言葉を交わした日から、君はずっと気丈に振る舞っていた。
十六歳での妊娠。
子供を産んで、アイドルも続けると決める覚悟。
とてもじゃないが、まだ十代の女の子が背負えるものじゃない。
毎日が不安だっただろう。
親はおらず、事務所の社長が保護者として付き添おうとそれは拭いきれるものじゃない。
だけど誰にも悟らせず、君はいつも笑顔だった。
そんな君の、・・・さりなちゃんを救ってくれた君の助けになればと思って、自分なりに彼女の願いを叶えようとした。
・・・ああ、結果的に俺は死んでしまったけど、彼女が少しでも救われていたのなら。
それは雨宮吾郎にとって、確かな報酬だった。
「・・・どうしたの?アクア?何か悲しいことでもあった?」
「・・・いや、なんでもない。なんでもないんだ・・・」
アイが心配そうに背中に手をやる中、俺はただ目頭を押さえ続けていた。
・・・・・・
・・・
ウチ、寿みなみは現在進行形で困っていた。
「──でー、他にも何人か陽東生に声かけててさー」
「──ちょっとくらい学校抜け出してもバレないってー」
理由は明白で、進行方向を塞ぐように立っている二人の男の人のせいだ。
かれこれ10分近く、この人達はウチに声をかけている。
つまりナンパだ。
学園祭だから普段よりも警備が厳しくなってるってゆうとったけど・・・蓋を開ければこんなもの。
おおかた芸能人目当てで転売されてたチケットでも買ったのだろう。
ウチは他の子と比べて上背だけど、顔立ちが幼いため、気が弱く見えがちだ。
加えて顔に不釣り合いなほど大きい胸もあって、ナンパされることは少なくなかった。
普段はうまくかわすか、無視しとるけど・・・この二人はしつこかった。
「ならロインだけでも交換しよ?そしたら俺らも消えるからさー」
男の一人がずいっとスマホを持って前に出る。
周りには何人か、こちらを見ている視線が感じられるが誰も助けに入ろうとはしない。
それも当然か・・・誰も助けに入ったところで得なんてしないのだから。
加えて脳裏に先日、フリルちゃんから言われた言葉が蘇る。
『みなみも芸能界で働くタレントだし──』
そう・・・ウチらは芸能界で働く以上、周りからのイメージというものがついてまわる。
例えばここで強い言葉を使ってこの人達をあしらおうとしたら、悪いイメージを周りにもたれるかもしれない。
そうしたらウチだけじゃなく、所属する事務所にも迷惑をかけてしまう。
そう思うと、安易に声を上げられなかった。
これで穏便に済むなら・・・半ば諦めてスマホを取り出そうとする。
「───おいてめぇら、嫌がっとるやなかとや」
だけど、割って入るかのように鋭い声があった。
「ああ?」
男達と一緒に声の方を見る。
そこには一人の女の子がいた。
眼を惹くのは赤と緑のメッシュが入った、膝まであるかのような長い金髪のポニーテール。
服は上にスカジャンを着て、ロングスカートを履いている。
少しばかり小柄なその女の子は端正な顔立ちをしているにも関わらず、目の前の男達を臆せず睨みつけていた。
「おいおい、今俺らはこの子とお話し中なの」
「・・・なあ、この子も可愛くね?」
「ああ?・・・確かに。どうせならこの子も一緒に・・・」
男達がその子の容姿を見て、鼻の下を伸ばし始める。
だけど、私は逆に凍りついていた。
・・・も、もしかしてこの子・・・っっ
見覚えがある。
記憶に蘇るのはつい先日の出来事。
友達に誘われて向かった廃病院。
じゃんけんで負けたウチは、この学校に通う人なら誰でも知っている有名な病院跡に一人で入ることになった。
懐中電灯をもって、中をぐるりと一周回るだけ。
そう言われて向かった先、・・・当然お化けが存在する、なんて本気で信じてはいないけど、真夜中に誰もいない病院を一人で探索するのは不気味で恐ろしかった。
びくびくしながら歩いていると、自分の足音以外がすることに気づく。
怖くて慎重に歩くウチに対して、二つの足音はドタドタと慌ただしく、その異常な存在感を雄弁に示していた。
怖くなって必死に声を我慢しつつ、来た道を引き返そうとする。
だけど、足がすくんで動けなかった。
そうこうしているうちに足音はすぐそばにある、曲がり角の向こうまでやってきて───
ウチは思わず持っていた懐中電灯を向けてしまった。
一瞬、光の先の、相手の顔が眼に写る。
『───ひっ、』
───その顔は、まさしく、人のものじゃなかった。
そこから先はちゃんとは覚えていない。
ただただ恐ろしくて、夢中になって逃げ出した。
振り返ることはしなかったけど、背後まで迫ってる気配があったことは確かだ。
何とか友達と合流して自分が経験したことを涙ながらに伝えた。
友達は全然信じてくれなくて、別の日にルビーやフリルちゃんに話しても全く安心できなかった。
早く忘れてしまいたい。
そう思っていた矢先だったのに───
「──おい」
ウチの意識を取り戻させるかのように、再びその女の子が口を開いた。
「聞こえてないとや?・・・嫌がっとる言うとが」
苛立つように、眉根を顰める。
不機嫌なのは明白だった。
「ごめんごめん。てかそれ方言?可愛いねー。良かったら君も一緒にどう?」
「俺らの完全奢りでカラオケとかクラブとか・・・」
「失せろ」
彼女の声色に気づいているのかいないのか、男達がウチから離れて、その子に近寄っていく。
ウチはどうすればいいかわからず、その場から動けなかった。
「まあまあ、そう言わずにさー。まずは連絡先でも・・・」
見下ろすように男達に囲まれる。
だが彼女は全く恐れずに、より目を鋭くすると言い放った。
「耳の穴にクソ詰まっとるんか?・・・失せろ、ぶっコロすぞ」
先程よりも、低く、静かに告げる。
距離が離れている私にもはっきりとわかるくらい、彼女の声は怒気を孕んでいた。
今度こそ、自らの状況を理解した男達が思わず後ずさる。
だが諦めきれないのか、再び口を開こうとして───
「──ひっ!?」
男の一人が怯えるように尻餅をついた。
男の影に隠れていた彼女の表情が顕になる。
その眼光は、まるで、昔観たヤンキー映画の主役の子みたいで───
「───かっこええ・・・」
「に、逃げんぞ!」
「ま、待って・・・!!」
目の前の彼女が自分たちじゃ敵わない相手だとわかったのか、男達が一目散に逃げ出す。
彼女も追うつもりはないのか、その場で悪態をつくだけだった。
「けっ、情けねー奴らと。・・・っかし、勝手にケンカすんなってグラサンがうるせーし、・・・あーもうめんどくせー!」
残ったのはウチと彼女だけ。
だけど、まるでウチなんて最初からいないかのようにぶつぶつと何か言っている。
彼女はしばらく不機嫌そうに呟くと、ようやくウチに気づいた。
「あ?お前、まだいたとね」
彼女に睨まれて思わず、廃病院でのことを思い出してびくっとする。
彼女はウチの反応を見て勘違いしたのか、それ以上近づかずに立ち止まった。
「・・・別に取って食いやしなかと。すぐアタシも消えるけん」
そう言って彼女はくるりとジャケットを翻すと、来た道を戻っていく。
「あ・・・」
心の中でどこかほっとしてるウチと、何故か彼女を呼び止めようとするウチがいる、そんな気がした。
まるでここで彼女を呼び止めなければ、自分は後悔する、そんな予感があった。
せやけど・・・
後ろからでもわかるほどの不機嫌オーラ。
ど、どないしよう・・・声かけたらそれだけでちびるかも・・・。
ってか、本当にこんな根拠もない予感なんかに従ってもええの!?
も、もしかしてとってもアホなことしようとしてるんじゃ・・・。
あわあわしている間にも、彼女はずんずんと大股で離れていく。
ああ・・・こんなんばっかりや。
ルビーやフリルちゃんみたいに自分の中に芯みたいなものがないまま、周りに流されてばかりの・・・。
もはやその背中が小さくなってきた頃、彼女が急に立ち止まった。
「・・・あ、そやけん」
「・・・え?」
彼女は思い出したかのようにその場でUターンすると、先程の倍の速度で戻ってきた。
「なあ、これだけ聞かせてと」
「ひいっ!?」
突然の事態に再び恐怖心が呼び起こされ尻込みする。
しかし、彼女は今度は全く気にせずに視線を合わせると尋ねてきた。
「ちゅーおうだいに体育館ってどこにあると?」
「・・・へ?」
・・・
「よーしっ、とうちゃーく!」
アイに連れられた俺はようやくルビーの教室に辿り着いた。
しかし・・・ここまで長かった・・・。
アイがあれ見よう、これ見たいと寄り道するからだいぶ時間が掛かってしまった。
「〜♪」
・・・まあ、俺も楽しめたからいいか。
「でもすごい行列だねー、こんなに並んでるとこ、他になかったよね?」
「ああ・・・、確かにやたらとここだけ人が多いな」
ルビーのクラスは確かコスプレ喫茶だったはず。
芸能科なだけあって、ルックスの良い子が多く在籍してるのは確かだが他にも何か理由がありそうだ。
「はっ!?もしかして・・・」
「何か思い当たることでもあったのか?」
アイが何かに気づいたように顎に手をやる。
意味深な表情・・・以前の俺なら騙されるところだがこうして再び接するようになって思い出した。
アイは俺が思ってたよりアホの子だ。
突拍子のないことを平気で言うタイプだ。
だからこそ、わかる。
今回もわかったような顔で斜め上のことを・・・
「ルビーって言う天才的な可愛さを持ったアイドルが看板娘だからなんじゃ・・・?」
「・・・なっ!?」
───天才か!?
「・・・いや、ありえないだろ。アイドルって言ったってまだまだ無名な方だ。大手と比べるべくもない」
・・・確かに。最近のあいつは下手だった歌も少しづつだが良くなっている。
「B小町内での人気だって有馬やMEMの方が上だ。ダンスは得意だが総合力でまだ劣っている」
俺が運営している非公式ファンクラブでも、ルビーのファンは徐々に増えてきている。
「ルビーが実力をつけてきたのは事実だが、アイドルという厳しい世界ではまだまだ・・・」
まさか本当に・・・いや、だが・・・ありえないことでは・・・
「アクアー?もうすぐ入れるよー?・・・聞こえてないのかな?うーん、・・・よし!とりあえず入ろっか!」
ん?いつのまにか、列の先頭に並んでいたのか・・・。
「おっ邪魔しまーす」
アイが目の前で教室の扉を開け、中へと入る。
・・・ここはアイとは別の客として入った方がいいだろうか。いや・・・今更だな。
少し迷ったが、俺も後に続く。
「い、いらっしゃいませー!こ、コスプレ喫茶によ、ようこそー!」
視界に飛び込んできたのは、着物をアレンジしたメイド服に身を包んだゾンビのような顔つきの女の子。
なるほど、コスプレ喫茶の名前通り、店員がコスプレして接客するのが売りの店みたいだ。
しかし・・・学生の出し物にしてはなかなかコスプレのクオリティが高いな。
服も細部まで凝っている。スカート丈が若干短いのが納得いかないが、指摘するとまたルビーにおじさんと言われそうだから黙っておこう。
だが本当にすごいな・・・、接客してる彼女の顔。
こけた頬、窪んだ眼下、そして何より土気色の肌。
まるで俺のよく知る本物のゾンビのようで・・・。
「あれ?さく・・・一号ちゃん?」
「えっ?七号ちゃ・・・え、ええええええええ!?!?」
・・・前言撤回、どうやら本物だったらしい。
・・・
「えー!?!?ここ、ルビーちゃんのクラスだったんとー!?」
「そだよー。ていうか、一号ちゃんその服似合ってるねー☆」
ルビーがいるはずの教室に入ると、何故かさくらちゃんがいた。
しかも化粧が取れていて完全なゾンビ顔。
何がどーなってるの??
「あ、ありがと・・・え、えへへ。な、七号ちゃんもおしゃれな格好しとるとね。メガネも似合ってるけん」
「だよねー?私ってば美人だからさー、それっぽく変装してもやっぱり隠せないんだよねー。こう・・・芸能人オーラ?的な?」
「おお・・・相変わらずの自信と・・・」
さくらちゃんと話していると、ついてきていたはずのアクアが存在感を消してちゃっかり席についていた。
どうやら私とは関係ないお客さんを装うことにしたみたい。
いつの間にかマスクもつけて、顔も隠している。むぅ・・・マスク禁止って言ったのにー。
「ところで、なんで一号ちゃんはメイドに?というか・・・」
自分の頬を指差すようにジェスチャーする。
さくらちゃんも気づいたようで困ったように笑った。
そう、何よりも・・・どうしてゾンビフェイス丸出しなの??
「じ、実は・・・」
・・・
『ご、ごめんなさい!まさかステージに参加するゲストの方だったなんて!』
『き、気にせんとって!私も鈍臭かったけん!』
『でも・・・』
『そ、それよりもその・・・わ、私達の顔のことやっと・・・』
『?・・・ああ!あれですよね!ステージではコスプレショーとかするんですか?』
『こす・・・?』
『それとも劇とか?でもすごいですね、そのメイク!本物の肌かと思いましたよ〜』
『あ、あはは・・・』
『そうだ!私達の教室、すぐそこなので来て貰えませんか?濡れちゃった髪とか拭くためのタオルも貸しますので・・・』
・・・
「・・・って言われて借りたタオルで拭いてたんだけど・・・急にお店が忙しくなってきて、あれよあれよの間に手伝うことになってたとよ・・・」
「なるほどねー。・・・ん?そういえば純子ちゃんは?一緒だったんだよね?」
「えっと、純子ちゃんは・・・」
・・・
「あとは火がつくか試して・・・よしっ、コンロ直りました!」
「わーっ、ありがとう、四号さん!」
「四号さん!こっちも見てもらっていい?」
「はいっ、任せてください!」
・・・
「・・・ドアの立て付け直したら、純子ちゃん火がついちゃったみたいで・・・いろいろ修理したり、大道具作りを手伝ったり・・・裏で活躍しとるとよ・・・」
「最近DIYにハマってるって言ってたもんねー」
「もともとお店を手伝う予定だった生徒さんが、急なお仕事が入ってたくさん抜けちゃったらしいと。だから猫の手も借りたいほど人手不足らしくて・・・」
「だからさくらちゃんもメイドさんになってたんだねー」
周りを見れば、確かにお店は繁盛してるらしく、他のメイドさんも忙しそうにしていた。
・・・ん?そーだ、いいこと思いついちゃったかも?
「アイちゃん、悪いけどもうちょっと待ってて欲しいと。聞いた話だと、ステージの時間までには落ち着くみたいだから・・・」
「──さくらちゃん、ちょっといい?」
・・・
今、俺の目の前では信じられないことが起きていた。
「いらっしゃいませー♪」
にこやかに笑顔を浮かべながら接客するコスプレメイド。
「お客様は何名様ですかー?」
バイト経験の少ない学生だからこそ、拙い対応もそこそこ目立つ。
「はーい、ではこちらの席に座ってお待ちくださーい」
だがその中で、一際輝く存在があった。
「どうぞゆっくりしていって下さーい」
───推しがウェイトレス姿で働いている!!
アイは今、他のフランシュシュメンバー・・・一号こと源さくらと共に、メイド服を着て接客していた。
───ちょ、超カワイイ〜!
現代風に改造した和服にメイド服をアレンジしたウェイトレス姿で、アイは楽しそうに客を案内していた。
惜しむらくは・・・
「な、七号さん!それ、まだ盛り付け中のやつ!」
「あれ?ごめーん」
「あれ?これ、うちらが頼んだやつじゃないですよ?」
「あ、そっか。こっちはお隣さんだねー、ありがとー!」
ちょくちょくミスしているのが目に入ることか・・・。
まあ持ち前のコミュ力でフォローできてるが・・・何か起こさないか心配だ・・・。
「うおっ!?メイドさん、すごい顔色ですね・・・!」
「コスプレ喫茶とはいえ、学生にしちゃすごいクオリティだな・・・」
「メイドゾンビ?ゾンビメイド?何にせよ、よく思いつくもんだ」
席に案内された客がアイや源さくらを見て呟く。
そう・・・彼女らは何故か、ゾンビ顔のままで接客していた。
最初からゾンビ姿だった源さくらだけでなく、新たに仕事に入ったアイも何故かメイクを落としてゾンビフェイスだった。
彼女らは皆、メイド服の胸の部分に名札をつけている。
そこには・・・
「あれ?お姉さん、この後のイベントステージに参加するの?」
「はい!私達、フランシュシュが参加するので見てってください!」
「そんじゃそこらのグループとは違うパフォーマンス見せちゃうから、友達とか呼んできてねー」
イベントステージに参加する旨と、彼女らの名前が記されていた。
早い話が宣伝である。
「へぇ・・・面白そう。時間あるし観に行こっか?」
「ねー、斬新なステージが観れそうだしー」
興味を持った客がイベントステージのスケジュールを確認し始める。
どうやら宣伝効果は抜群らしい。
窓の外から教室の廊下を見れば先程までとは段違いの長さの列を形成していた。
コスプレ喫茶にもフランシュシュにもメリットがある・・・まさにWin-Winだな。
しかし、ルビーはどこに行ったんだろうか。
教室は間違えていないはずだが・・・。
まあ待っていれば会えるだろう。
今はこのアイの姿を後世に残す為に写真を撮らねば・・・!
「お客さーん、当店はメイドさんとの撮影禁止なんでー」
「アッハイッ」
「それとお客さん増えてきたのでそろそろ・・・」
「アッハイッ」
ぐっ、結局ベストアングルでは撮れなかったか・・・!
まあいい、注意される前に撮ったのが一枚だけある。
「・・・」
とりあえずルビーに送っておくか。
あとでバレても面倒だしな。
簡素な文と共にルビー宛に写真を送信する。
「これでよしっ、と」
俺はスマホをしまうと再び長蛇の列の後ろへと並び始めた。
・・・
「はぁ・・・」
休憩用に拵えられた簡素な椅子に腰をおろす。
胸ポケットに入れたタバコを取り出して咥えようとするも、目の前の貼り紙を見て手が止まる。
『禁煙』
「・・・世知辛いねぇ。俺が学生の頃はガラの悪い奴がそこらじゅうでスパスパ吸ってたってのによ・・・」
これも時代か・・・。
そんなことを思いつつ、タバコを元に戻す。
俺、五反田泰志は今、とある学校の学園祭に来ていた。
元々行くつもりなどなかったのだが、こっちの舞台に出演する間、うちに居候しているフランシュシュ六号が行く、というので付き添いできたのだ。
「・・・結局、こいつは使わなかったな」
胸ポケットに手を入れた際に触れた紙切れを取り出す。
陽東高校学園祭の招待券。
珍しく早熟のやつが「余ったからやる」なんて言うから持ってたが・・・
まさかあいつらと再会するとはな・・・。
フランシュシュ。
佐賀で出会ったぶっ飛んだアイドルグループ。
初めて見た時はアイそっくりのアイドルがいる、くらいの認識だったがCM撮影や六号の演技を見て、気づけばその活動を追っていた。
これがアイドルのファンになるってことなのかねぇ・・・。ったく、早熟に知られたらまたヤジを飛ばされそうだ。
それに少なくとも俺は、俺の撮る作品であいつらを使いたい、既にそう思ってしまっているのは確かだった。
「さて、そろそろ戻るか」
零号を名乗る女が、道行く屋台で食べ物をせがむせいで俺の財布はすっからかんだ。
せっかく六号にいいところ見せたくて結構おろしてきたのによ・・・、これじゃあ計画がめちゃくちゃだぜ・・・。
俺はため息をつきつつ、六号達の元へと歩き出した。
・・・
「・・・いつのまにか増えてやがる」
戻ってきたら俺がいた時より一人増えていた。
そいつは何やら三号と楽しそうに談笑している。
アクアと同じ制服を着ているあたり、この学校の生徒だろう。
違うところがあるとすれば、女生徒であることか。
「・・・ん?あいつは確か・・・」
こちらに対して背を向けていた少女が笑った拍子に顔が見えた。
アクアと同じ金髪、そしてどこかその母親を思わせる笑顔。
一目で気づいた。
星野アクアの双子の妹、星野ルビーだ。
「・・・随分でっかくなったな・・・」
最後に見たのはアイの葬式だろうか。
アクアと会う機会は多かったが家まで行ったことはなかった。
必然、妹である彼女と会う機会もなかったわけで・・・。
「しかし・・・」
似ている。
アクアの母親がアイと知った今、その双子であるルビーに自然と重ねてしまう。
生前の彼女を知るからこそ、その遺伝子がどれだけ色濃く反映されているのか・・・。
「・・・神様ってのは残酷だねぇ・・・」
二人はしばらく話した後、途中で何か見つけたのか三号が早足で離れていった。
・・・どこ行くんだあいつ・・・?
三号を見送った後、星野ルビーと、話に入らずに零号の面倒を見ていた六号がその場に取り残される。
「・・・」「・・・」「ヴゥヴゥ」パクパクムシャムシャ
ど、どっちも喋らねえ・・・!
零号が咀嚼する音しか鳴らねえ・・・!
てかあいつもよくあんな空気の中ずっと食べてられるな!?
なんだ・・・?六号は人見知りとかあんましないタイプだろ・・・?
ルビーだってさっきまで三号と仲良さそうに喋ってたじゃねーか・・・。
わからん・・・、最近の子供ってこんななのか・・・?アクアはダチの話とかしないから参考にならないしな・・・。
気まずい空気のまま、二人とも手持ち無沙汰に髪をいじったり、スマホを見ている。
くぅっ・・・!見てらんねえ・・・!零号、頼む!なんとかしてくれ・・・!!
必死に念を送るが気づいた様子はなく、満面の笑みで屋台で買ってきたものを頬張っていた。
だめだこりゃ・・・。こうなったら俺がなんとかするしかねえ・・・!
とりあえず、トイレから戻ってきたていで話しかけて何とか話題を繋いで・・・。
「「あ、あの!」」
二人同時に声を出す。
俺は慌てて元いた物陰に隠れた。
「・・・」「・・・」
「えっと、六号ちゃんからいいよ」
「ううん、六号はあとでいいから!ルビーちゃんが言おうとしてたことから話してほしいな!」
「私も別に後でも・・・」
「・・・」「・・・」
「「ふふっ」」
先程までの雰囲気はどこへやら、二人が顔を見合わせて笑い始めた。
な、なんだ・・・?何とかなったのか・・・?
「・・・えっとね、六号は謝りたかったの。この前共演した時に六号が軽はずみなこと言って怒らせちゃったから」
「ううん、私の方こそ。勝手な行動して周りに迷惑かけて心配させて。ちゃんと謝りたかったんだ」
「・・・じゃあこれで仲直りだね!」
「・・・だね!」
互いに嬉しそうに微笑む。
・・・どうやら俺の出番はないらしい。
二人の邪魔をしても悪いし、ここはもうちょっと時間潰すか───
「──何やってんのよ」
「どわぁ!?」
思わず後ろからの声に飛び退く。
声の主はフランシュシュ三号だった。
「女子高生と幼女を遠くから眺めるとか・・・どう見ても犯罪なんだけど」
「ち、ちげーから!おじさんはおじさんなりに気を遣ってだなぁ!?」
「あ!泰志くんと三号ちゃん!おかえりー!」
思わず声を荒げちまった・・・。
六号に見つかった俺は、すごすごと物陰から身を出す。
「あ、えーと、監督・・・さん?お久しぶりでーす!」
「おう・・・久しぶりだな」
星野ルビーとも会話を交わす。
やべ、心の準備ができてなかったで何話せばいいかわからねぇ。
「三号も久しぶり!四号さんに聞いてたけどこっちに来てたんだー!」
「ええ、久しぶり。あなたも元気そうね」
星野ルビーと三号が仲良さそうにハイタッチする。
二人は年齢も近そうだし、話が合うのかもな。
「まだ聞いてなかったけど、今日は何でうちの学園祭に来たの?」
「この後、ここのステージに出るのよ」
「え!?もしかして、一般科の方の体育館のイベントステージ!?えー、いいなー!」
「ちょっと伝手があってね。急遽参加させてもらうことになったの」
「あ、まさか監督がここにいるのってそういう・・・」
「いいえ、この人は知らない不審者よ。さっきあなた達のことを遠くから息を荒げて見てたもの」
「おい!?さっきのことは誤解なんだって!変なことアクアの妹に吹き込むな!」
「えっ、・・・五反田さん、もしかしてそっちの趣味が・・・」
「お前も引くなっての!だからちげーんだって!」
「・・・アクアって誰だっけ?」
「東京ブレイドで刀鬼役だった男の子だよ!とっても演技がうまいの!泰志くんのお弟子さんなんだー!」
「ああ・・・あのイケメンの。ルビーのお兄さん、役者として活躍してるのね」
「あんまり本人は役者の仕事乗り気じゃなかったんだけどねー、最近は嘘みたいに取り組んでて逆に不思議なんだよね」
ルビーの言葉に俺の中で思い当たる。
それは、おそらく芸能界にいるであろうお前らの父親を探す為に・・・。
やはり妹には知らせてはいない、か。
あいつらしいっちゃらしいが・・・あくまで自分一人で背負うつもり・・・なんだろうな。
「・・・と、噂をしてたらお兄ちゃんからだ」
バイブレーションが鳴ったのか、ルビーがスマホを取り出す。
そして、画面を凝視したかと思うと目を見開いた。
「な、な、な、な・・・何コレぇ!?」
思わず全員が耳を抑える。
「おい、急に大声出すな!周りに迷惑だろうが!」
「いいから!これ見てよこれ!」
顔面にぶつけるかのように突き出されたスマホのに思わずのけぞる。
ったく、あぶねぇなおい!
そう思いつつ、画面を見ると見覚えのある顔が映っていた。
肌の色が不健康そうだがこいつは・・・フランシュシュにいるアイ似のアイドルの──
「──何ですって!?」
今度は俺の後ろから覗こうとしていた三号が大声を上げる。
こいつら、俺を挟んで好き勝手に叫びやがって!
「わー!七号ちゃんカワイイー!」
今度は六号が覆い被さるように体重を乗せてくる。
お前の方が可愛いぜ・・・ってそうじゃねえ!
「だから俺の上で会話を──うおっ!?」
するなと言い終える前に、更に追加で体重を掛けられた俺は耐え切れずにその場で下敷きになった。
「ヴァイ!・・・ヴァイヴァイ!」
俺の上でスマホの画面を見ながら零号が喜んでいるのを横目に、何とか下から這い出る。
くそっ、何で俺がこんな目に・・・。
お目付役のあのプロデューサーはどこにいやがんだ・・・。
・・・いやCM撮影の時あいつも暴走してたし、ここにいても意味ねえか・・・。
「ルビー!これはどこで見れるの!?」
「この衣装・・・間違いない、うちのクラスだ・・・!アクアめぇ・・・自分一人でマ・・・ア・・・七号のファッションショーするなんて・・・!!」
「七号ちゃん、メイド服似合うねぇー」
「ヴァェー」
急にキャピキャピし出す四人を見ながら、大きなため息をつく。
てか、アクアだけじゃなくてルビーも七号のこと知ってんのかよ・・・。
しかもなんか親しげだし、・・・もしかして俺の心配は全部杞憂だったか?
アクアも初日の演技以降は安定してるし・・・
だとしたらアクアの復讐は・・・。
「泰志くーん、早くルビーちゃんの教室に行こうよー?」
「・・・はーい♡」
・・・まっ、今はいっかー♡
俺はこちらに向かって手を振る六号の元へと歩き出した。
・・・
「なー?こっちであっとるとー?」
「は、はい」
金髪のポニーテールを揺らしながら前を歩く少女が、こちらを見ずに声をかけてくる。
どうしてこうなったんやったっけ・・・。
男の人に話しかけられて、連絡先聞かれて、どないしよって思ったら目の前の子が助けてくれて・・・。
でもこの子はこの前、肝試ししたあの病院にいた人で、何故か知らんけど道案内することになって・・・。
はぁ・・・神様、ウチ、何か悪いことやってしもたかなぁ?
女の子はウチの気も知らずに、興味深そうに辺りを見ながら先を歩いている。
・・・そういえばこの子、なんて名前なんやろ?
何もこの子のこと知らへん。
それに曲がりなりにも助けてもろたのに感謝の一言すら言っとらん。
・・・あかん、今更ながら罪悪感が湧いてきとる。
・・・よ、よし!
「あ、あの!」
「あー?」
「ひぃっ、すみません!」
つい、謝ってしもた・・・。
見たところ怒ってるわけじゃなさそうやし、落ち着いて・・・。
「う、ウチっ、寿みなみいいます。遅くなりましたけど、さっきはありがとうございましたっ」
「別に気にせんと。ただアタシがアイツらにムカついただけとね」
「い、いえっ、助けて貰ったのに何もしないなんて!せめてお礼させてください!」
「ならさっき言った場所まで案内して貰えばよかと」
「あ・・・はい」
そのまま会話が終わってしまい、再び静かになる。
ど、どないしよ・・・。感謝は伝えたけど会話の糸口が・・・。
「・・・ん?お、おおおお!?あ、ありゃああああああ!??」
急に奇声をあげて目の前の少女が走り出した。
その足は早く、あっという間に距離を離される。
「ええ!?ま、まってえな!?」
慌てて追いかけると、一つの教室に着いた。
「ここって・・・」
中に入るとそこでは様々なものが売られていた。
食器やおもちゃ、文庫本、古着など統一性はなく、どれも埃が被っていたりと古めかしい感じがある。
そしてそれらの前には手書きの値札が置いてあった。
教室に置かれた黒板には大きく、バザーと書かれている。
そういえば、保護者が持ち寄るバザーがどっかの教室でやるとか聞いたような・・・
そんなことを思い出しながら見て回っていると、先に走り出した少女を見つけた。
少女は何やら、一つの商品の前で膝を屈めて熱心に見つめていた。
何を見てるんやろ・・・?
そっと後ろから覗き込むと、丸いゲーム機のようなものが見えた。
小さな液晶画面には何やら荒いドット絵のキャラクターが動いている。
「あ、あの・・・何見てはるん──」
「──おや?お嬢さん、そのゲーム機に興味あるのかい?」
私の声を遮って店員らしき女の人が話しかけてきた。
「おお!コイツ、もしかしておばちゃんのと!?」
「そうなのよー、昔のおもちゃなんだけど、娘はこんな古いのいらないって言うから持ってきたの。もしかしてこれ、知ってるの?」
「当たり前とね!アタシは昔、まめっちも育てたプロブリーダーと!・・・今はもう持ってないとが」
「あら、そうなの?まさかこんな若い子が知ってるなんておばさん驚きだわ〜。・・・良かったらこの子、あなたが買わない?立場上タダじゃあげられないけど、値札の値段よりも安くするからどうかしら?」
「マジと!?おばちゃん、太っ腹やね!!」
「うふふ♪嬉しいこと言ってくれちゃってー。じゃあうんと安くしてあげるわね♪・・・じゃあこれくらいでどうかしら?」
おばさんが値札の横に新しく値段を書き加える。
その金額は元の値段からすると、半分以下になっていた。
どう見ても破格の値引きだ。よっぽど嬉しかったらしい。
「おおっ、こんなに安くしてくれると!?おばちゃんありがとなー!」
そう言って懐から財布を取り出す。
そして中身を見てピタリと動きが止まった。
「・・・」
先程までの喜びが嘘のように財布の中身を見たまま動かない。
もしかして・・・
そーっと後ろから覗き込む。
財布の中身は小銭しか入っていなかった。
どう見てもおもちゃの値段に足りそうにない。
おばさんも察したのか、困ったように頬に手を当てた。
「あ、あらあら、どうしましょう・・・。これ以上は流石に安くできないし・・・」
「・・・おばちゃん!せっかく安くしてくれたと。・・・そいばってん、今回はなかったことに──」
「──あ、あの!」
・・・
「いやー、悪りぃなー!アタシの代わりに金ば払うてくれて!」
「え、ええんですっ、お礼をさせてほしかったんで!」
よっぽど欲しかったのか、口では謝りつつも頬はゆるゆるだった。
ほっ、少しは恩返しできたやろか・・・。
彼女は往年の宝物を見つけたかのようにおもちゃを優しい眼で眺めている。
「・・・そのおもちゃ、めっちゃ思い入れがあるんですね」
「たまごっちっつってな?アタシにとっちゃあダチとバイクの次に大切だった相棒とよ・・・それこそ死ぬ時までな・・・」
「へ、へえー・・・」
よくわからへんけど、喜んでくれてるみたいやし少しはお礼できたのかなあ・・・?
「・・・こんなにいいもの貰って何もしないわけにはいかなか!みなみっ、アタシにも何か礼をさせて欲しか!」
「えっ、ええ!?い、いいです!いいです!あたしが助けて貰ったお礼で買うたものです!それに大した金額じゃなかったし、気にせんといてください!」
「ああ!?たまごっちバカにしたとか!?これ一個でまるっちから六つのたまごっちに進化できるとよ!?ぶっコロすぞ!?」
え、ええ!?な、なんで今度はウチ、怒られとるん!?
「この凄さにバカ二人ビビらすだけなんて全然釣り合わなか!待つと!今何か返せるものがないか・・・」
そう言ってゴソゴソとジャケットとスカートのポケットを漁り始めた。
しばらくしてようやく何か見つけたのか、くしゃくしゃの紙を取り出した。
「・・・お前は運が良か。アタシのファンでもなかなか手に入らないレアモノがあるけんね。たまごっちならまめっちやけん」
「例えがよくわからへんです・・・」
彼女は気にせずにその紙を私に渡してきた。
大切なもの・・・という割にはぞんざいなような・・・。
貰った紙を手に取って広げる。
『陽東高校イベントステージ特別招待券:フランシュシュ【アイドルグループ】』
「・・・あいどるぐるーぷ?」
「おお。アタシ、フランシュシュってグループでアイドルやってるけん」
「え、ええええええええ!?!?」
ア、アイドル!?ルビーと同じ!?
「じょ、冗談ですよね?」
「あー?どういう意味とね?お前・・・ぶっコロすぞ?」
この反応・・・どうやら冗談じゃないらしい。
正直そう言われても信じられない。
私の中のアイドル像がガラガラと音を立てて壊れていく。
「アタシの名前はフランシュシュ二号!アイドルグループ、『フランシュシュ』のリーダーとね!」
「ええ!?リーダーなんですか!?・・・実はそういう挨拶のお笑いグループじゃなく?」
「あっはっは。お前、実は面白いやつとね?」
そう言って背中をバシバシ叩いてくる。
つい口を滑らしてしまったけど、どうやら運良く機嫌は損ねなかったらしい。
「ほ、ほんまにアイドルなんですか・・・?」
「だからそう言ってるとね」
アイドル・・・ほんまなんか・・・。
なら廃病院にいたのはアイドルの企画・・・?
あの恐ろしい顔もバラエティの収録ならわかる・・・かも?
けど・・・
脳裏に浮かぶのは先ほどの助けてくれた時の姿。
アイドルとして表の顔があるのなら、人前で一般人相手に啖呵切るのは不味かったんじゃ・・・。
「・・・ご、ごめんなさい」
「あ?急にどうしたとね?」
「た、だってウチが絡まれてるところ助けてくれたけど、あんなにたくさんの人前であんなことを言うたらアイドルとしてのイメージが・・・」
「・・・なんだ、そんなことかと」
「そ、そんなことって!だ、誰か動画とか撮ってて、それをか、拡散とかされたら・・・!」
「──そんなん知らなか!!」
うちの言葉を遮るように大声で被せてくる。
急に響き渡った声に周りから一斉に注目されるのを感じる。
「に、二号さん、こ、声が大き・・・」
「アタシはお前を助けたこと、何も後悔してなか。もしあそこで無視してたらアタシがアタシじゃなくなっちまうからだ」
周りを気にせず、まっすぐ見つめて言葉を続ける。
「自分の生き方曲げちまったら、それがアタシの本当の終わりだ。コレだけは死んでも治んなか」
その眼を見れば嘘でも冗談でもなく、本気で言っているのだとわかった。
「・・・すごい」
何者にも憚らず、誰の眼も気にせず、ただ自分を信じている・・・そんな姿に圧倒されて・・・かっこいいと思ってしまった。
それに比べてウチは・・・
「・・・ウチも二号さんみたいにかっこよくなれるやろか・・・」
しまった、つい口に出してしまった。
慌てて口に手をやるがしっかり聞こえていたらしい。
二号さんはウチをまっすぐ見つめると言い放った。
「──そんなん知らなか!!」
・・・え、ええ・・・二度目ぇ・・・?
自分で言うのも何やけど、そこは励ましたりとか適当でもなれるよーとかいうんじゃ・・・?
「アタシはお前のこと、何も知らねえし、夢を語れるほど仲良くもなってねえ・・・。けどな、お前がそうなりたいってんならいくらでも付き合ってやると!仲間が悩んでる時は力になるのがアタシの
力強く手を握られる。
ああ、この人は自分の中に絶対に曲げない芯を持っていて、それを飾らないところがかっこいいんだ。
「・・・おい、何か言うと」
私が言葉に詰まっていると、不審に思ったのか二号さんが声をかけてきた。
「あ、その・・・」
「・・・なんやとね、ダチと思ってたのはアタシだけかよ」
拗ねたように恥ずかしげに頬をかきながら、そっぽを向く。
その先程までの勇ましい姿とのギャップに、ウチは───
「・・・ふっ、ふふ・・・っ」
───何故かおかしくなって思わず吹き出してしまった。
「おいてめー!何笑っとるつか!?ぶっコロすぞ!?」
「あっ、あはははは!ご、ごめんなぁ!あ、あははははっっ」
あんなに強くてカッコよかった人の、普通の女の子みたいに狼狽する姿につい笑みが溢れる。
あかん、ツボに入ったかも・・・っ
ウチと全く違う、なんも正反対の人やと思ってたけど、実はそんなに違いはあらへんのかもしれない。
ならきっとウチも変われる。
慌てながら物騒なことを言い続ける彼女に、ウチは笑いながらそんなことを思っていた。
・・・
「おっし、ここがちゅーおうーだいに体育館とね!」
あれから色々と話しながら歩いていたら、目的地に着いていた。
「あとはライブの時間までにここに来ればよかとねー、いやー助かったばい!」
「ううん、ウチの方こそおおきに。いろいろと話聞いてくれて助かりました」
二号さんに対して頭を下げる。
実際、話しているうちに胸の内が軽くなった気がした。
「ウチもそろそろ自分のクラスに戻ります。ライブ、頑張ってください!必ず観に行くさかい!」
「おお、任すばい!」
教室に戻ろうと一歩踏み出すと、視界の端に先程ナンパしてきた男たちが見えた。
どうやらまだ学校にいたらしい。
違う道・・・ううん、ウチかてさっきまでのウチとは違う。
ここで逃げたんじゃずっと変わらない。
勇気を持って一歩──
「みなみ、お前の教室はどんな出し物出しとるつか?」
「え?・・・コスプレ喫茶やけど・・・」
「こす・・・?よおわからんけど喫茶店ってことはメシ出すとこやと?なら腹減ったし案内するとね!」
「え、ええですけどライブは大丈夫ですか?」
「よかよか、どうせ時間まで暇やったと。あ、ちなみにアタシは文無しだからお前の奢りな」
さりげなく二号さんが肩を組んでくる。
それを見た二人組は一目散に逃げ出していた。
「・・・そこまでせえへんでもええのに」
「あー?何の話と?」
「・・・本当はタカりたかったんじゃないですか?って言ったんです」
「気にすんな、ダチが困ってたら助けるのは当たり前やろ?」
「・・・はぁ、わかりました。あんま高いのは頼まんといてくださいよ」
「おう!いやー、東京のサ店、楽しみやわー!」
調子の良いこと言いつつ、ズンズン進んでいく二号さんに慌てて歩幅を合わせながら私は心の中で感謝した。
「・・・てかお前、近くで見るとやっぱでけえな」
「ひゃあ!?ど、どこ触ってるんですか!」
「ばってん、つい気になったけん。・・・まっ、姉さんほどじゃねーけどな!」
「誰ですか・・・、てかいい加減に離してえなー!」
・・・・・・
・・・
「・・・で、偶然とはいえ、こうして合流できるなんてね」
愛ちゃんがため息をつきながら告げる。
今、この場にはゆうぎりさんとフリルちゃんを除くフランシュシュのメンバーが集まっていた。
「あはは・・・、まさかルビーちゃんと愛ちゃん達が偶然会ってて、サキちゃんがルビーちゃんのお友達と偶然出会うなんて・・・」
「不思議だね〜」
ひょんなことからルビーちゃんのクラスの出し物を手伝うことになって、今は休憩時間に裏にある急造した休憩スペースで休んでるところだ。
そこに事情を説明して、フランシュシュのメンバーで集まっている。
「まさかみなみのダチがルビーとはなー、案外世界は狭いけんね」
「この分だとゆぎりんともすぐに合流できるかも?・・・なーんて・・・」
わああああああああ!!
リリィちゃんの言葉を外から聞こえてきた歓声が遮った。
「・・・何だろう?」
「外から聞こえたとね」
休憩スペースから外に顔を出す。
ちょうど、教室の窓から歓声を聞きつけて廊下の様子を見ている生徒がいた。
「何かあったとですか?」
「ん?ああ、お疲れ様、一号ちゃん。実はすごい綺麗な人が各クラスを回ってるみたいで、うちの近くにも来てるらしいんだ」
「綺麗な人・・・」
「廓言葉を使う綺麗な和服を着た美人だってさ。この学校で美人って表現されるくらいだし、相当な別嬪さんなんじゃないかって噂になってるんだ」
「へ、へぇ〜・・・」
も、もしかして本当にゆうぎりさんなんじゃ・・・。
思わず皆と顔を見合わせる。
「やっぱりゆうぎりかな?」
「まっ、確かに姉さんなら美人って言われても納得できるけんな!」
「でもそんな目立つようなことを進んでやりますかね・・・?」
「まあ少しズレてるところあるし・・・」
「あっ、来たみたいだよー!」
リリィちゃんの声に、再び廊下の方を見る。
そこには和服を着た二人の女の子がいた。
どちらもゆうぎりさんじゃない。
ほっ、どうやら杞憂だったみたいけん。
二人は着物に沿った化粧をしていて、日本人形のように色白で綺麗だった。
確かに、これなら美人って言われるのもわかるかも・・・。
下駄を鳴らしながらゆっくりとこちらに歩を進める。
半歩ずつ歩くので先程から見えているのに、全然近付いてこない。
よく見れば、その後ろには同じような格好をした人たちがずらりと並んでいた。
「なんか本格的ですね・・・」
「なんだっけ、確か・・・江戸時代にあんな着飾って列を作る文化があったような・・・」
「リリィ知ってるー!花魁道中って言うの!」
「リリィちゃんは物知りやねー」
花魁・・・おいらん?
あれ?確かゆうぎりさんがそんなことを名乗っていたような・・・?
「──都一番の花魁のぉ!おなぁりぃ!」
片方の女の子が大声でそう言うと先頭の二人を皮切りに、海が割れるかのように人波が左右に分かれていく。
そして奥から、別の人影がゆっくりと現れた。
途端、周囲からどよめきが起こる。
それは声にならない驚きが重なってできた音だ。
その理由は明白だった。
新たに現れたその人影。
距離があって顔はまだよく見えないが、明らかに他と違ったのだ。
纏う着物は一目で周りの女の子達のものとは比べ物にならない程、豪華で荘厳。
履く高下駄も厚底で、頭一個分他より大きく見える。
立ち振る舞いも気品があり、その高貴さを際立たせていた。
見れば誰もが気づく。
噂の美人は彼女だと。
半歩ずつ、半歩ずつ焦らすように近付いてくる。
その間も姿勢を正し、着物の裾を乱さず、下駄の鳴らす小気味良い音が響き渡る。
その間、行列を見守る者たちは最初のどよめき以降、一言も口にしない。
いや、できなかった。
それほどまでに、視界に映る景色は非現実的だった。
誰もが言葉を失い足を止める中、その花魁だけが時が動いていて───
「───おや?一号はんではないでありんすか」
「───へ?」
ようやく目の前を通り過ぎる頃、急に声をかけられた。
・・・・・・
・・・
「いや〜よくもやってくれましたねぇ、お兄ちゃん」
私は目の前で素知らぬ顔でコーヒーを啜っている血縁上兄に対して仁王立ちしていた。
三号と六号、零号、そして何故かいた五反田監督と偶然出会った後、送られてきたママのコスプレ写真を見て怒りのあまり自分のクラスに戻ったら・・・ご丁寧に私から隠れるかのように変装してうちのクラスにいたのだ。
アクアめ・・・、前もママのライブにこっそり変装して参加してたし、そう何度も抜け駆けするなんて許せないよねぇ?
「・・・」
アクアは優雅に足を組んで座りながらティーカップを空にした後、ゆっくりと息を吐いてから口を開いた。
「ヒトチガイジャナイデスカ」
「あっ、この状況でまだ抵抗するんだー」
露骨な棒読みに棒読みで返すとようやくまずいと気づいたのか、アクアはティーカップをソーサラーへと戻した。
「待て、誤解だ」
「へー、私が何を誤解してるの?」
「・・・」
アクアがしまったと言わんばかりに視線を逸らす。
・・・チャーンス♪いつもはアクアに言い負かされることが多い私だけど、これは仕返しするいい機会だ♪
「と・こ・ろで何で白衣なのー?」
「・・・別に、アイに付き合わされただけだ」
「ふーん?」
仕事でもなければコスプレなんて絶対にしないアクアだ。
何てことのないていを装ってはいるが、実は無理をしているに違いない。
ふっふっふ・・・どうせならいつもの辛気臭い鉄面皮を剥がしてやろーっと。
きっとママと会って気が緩んでるんだろうしね?
こちらと目線を合わせないアクアの顔を見ながら心の中でニヤリと笑う。
・・・いやでもメガネ似合うなぁ。
ふとそんな感想が浮かんだ。
アクアの視力は別に悪くない。
普段からメガネを掛ける機会はなく、せいぜい子供の頃に演じた役で一、二度見たくらいだ。
これだけ成長してからメガネをしている姿は見たことがなかった。
どくん。
そして、メガネをかけながらどこか気恥ずかしそうに視線を逸らす姿に。
どくん。
私は何故か、心臓が高鳴るのを感じていた。
「・・・どうした?」
黙っていた私を不審に思ったのか、いつのまにかアクアがこちらを見ていた。
その姿に、再び心臓がどくんと鳴った。
「へ!?べ、別に何でもないよ?!」
思わず声が上擦るのを自覚する。
おかしい。
こんなのはおかしい。
どう考えたって変だ。
ただアクアがメガネをかけただけ。
子供の頃にも見たことがあるはずだ。
白衣を着た姿を見るのは初めてかもしれないけど、それだってたかが布が一枚増えただけだ。
なのに、どうして、私の心臓は、痛いくらい、鳴っているのだろう──?
「・・・ねえ、アクア。ちょっとそこに立ってみて」
「?・・・何故だ?」
「・・・お願い、だから」
私の様子がおかしいことに気がついたのか、アクアは一瞬心配そうにしたが言われるままその場に立った。
私は一度目を瞑って大きく深呼吸をする。
視界が暗くなっても心臓の音は鳴り止まない。
・・・いや、また止まったら困るのだけど。
むしろ今はけたたましく鳴ってうるさくて仕方ない。
心の中でまさか、と思う私とありえない、と叫ぶ私がせめぎ合う。
だけど一度疑問に思ってしまったら、確かめずにいられなかった。
ゆっくりと眼を開く。
あなたは、本当は───
「─────せんせ?」
アクアがゴローのコスプレをしたらどうなるか?
そりゃあ・・・アイもルビーもすごい反応をするじゃろ。
そんな妄想が爆発したので文にしたためた次第。
サキとみなみ、ルビーと愛は相性良さそうよねー。
・・・いや、サキって割と誰とでも仲良いよね。
本編でも持ち前のリーダーシップでモテモテ?だったし。
ライブまで書こうと思ったのに全然進まない。
なので引き続き書いていきます。
また読んで頂けたら感想や誤字を指摘してくれると嬉しいです。
クエスト受注中の合間に見ながらにやにやしますので・・・。