原石青眼にボコボコにされてたらこんなに時間が経ってしまいました。
どうして大人しくファンサービスを受けてくれないんだ・・・。
ゾンサガ映画の公開日、あらすじ諸々出ましたね。
え!?佐賀で万博を!?相変わらず予想の斜め上を行く公式だ・・・(歓喜)
「───せんせ?」
震える声で告げた。
アクアの前世が本当に、私の想像通り
星野ルビーが天童子さりなだって、わかるはずだ。
だって、あれだけの時間を一緒に過ごしたんだから。
あの病室で、あの狭い世界で。
話した言葉も、触れたぬくもりも、私は一度だって忘れたことはない。
だからきっと、この確信は間違ってなんかいない。
アクアは私の視線をまっすぐ受け止めた後、ゆっくりと口を開いた。
「─────なんだ、それ?アイから聞いたのか?」
「───ッ」
その言葉は私の希望を砕くには充分だった。
足元から崩れていくような感覚。
だけど、わかっていたことだ。
限りなく可能性の低い、奇跡のような願い。
アイの子供として産まれ変わっただけでもありえないことなのに、せんせまでずっとそばにいたなんて、私に都合よくでき過ぎなのだから。
「───あ、あははー、ぴ、ぴんぽーん!ママから聞いたのでしたー!」
「やっぱりか・・・、これはただの変装用の白衣だ。東京ブレイドの舞台で俺も顔が売れたからな・・・」
あまり嬉しくなさそうに告げる。
だけど私はもうアクアの顔をまともに見れなかった。
例えわずかでも、期待してしまった。
せんせに二度と会えないと思ってたからこそ、一縷の望みに手を伸ばしたくなってしまった。
その落差が、後悔という形で私の心にのしかかる。
「・・・あっ、ほら、アクア!そろそろあかねちゃんとのデートの時間じゃない?遅れたらあかねちゃんに嫌われちゃうよ!」
「だから俺とあかねは・・・いや、確かにもういい時間か。俺がいないからってハメを外してアイに迷惑を掛けるなよ?」
「ふーんだ!抜け駆けした人の言葉なんか知りませーん!」
早く、どこかに行って欲しかった。
今だけは、そばにいて欲しくなかった。
アクアは会計を済ますと足早に出ていく。
その姿が見えなくなったのを確認してから、私は誰もいないところでそっと涙を拭った。
・・・・・・・・・
・・・・・・
「おい、何で俺らが入れんとね!?」
あかねと合流するために、待ち合わせ場所に指定した校門前で待っていると、何やら怒号が聞こえてきた。
声のした方を見ると警備員が誰かと揉めているようだ。
「ちゃんと入場チケットは待っとると!」
「そうばい!このチケット手に入れるのにどれだけ苦労したかとね!」
「そうは言ってもねえ、君たち・・・」
内容からして学園祭に参加する為にチケットを出したが、何やら警備員が看過できない問題があったらしい。
・・・正直、俺には関係ないことだ。
関わるだけ時間を無駄にするだけだろう。
「──アクアくん」
そんなことを考えていると、後ろから声を掛けられる。
聞き覚えのある声に振り向くと、予想通りの相手がいた。
「ごめんね、外で待たせちゃって」
「いや、俺も今来たところだ」
黒川あかね。
今ガチで知り合い、東京ブレイドで共演している、一応・・・俺の彼女だ。
彼女は落ち着いたデザインの黒のロングシャツに、ズボンを合わせた服装をしていた。
すらっとした足がズボンに合って生来のスタイルの良さを引き立たせる。
加えて今ガチの頃から髪を伸ばしたこともあって、全体的に年齢よりも大人びて見えた。
「・・・ど、どうかな?」
俺が見ていたことに気づいたのか、少し恥ずかしそうに視線を下げる。
「・・・ああ、似合ってる」
素直な感想を述べると、ぱあっと嬉しそうに笑顔を浮かべた。
こういうところは、やはり年相応だな・・・。
「あ、ありがとう。アクアくんは、今日はコスプレ?なんだね、白衣とメガネ、似合ってる」
「ん?あ、ああ。学園祭の出店の一つに貸衣装をやってるところがあってそこで借りたんだ」
「へぇ〜。珍しいね、アクアくんがそう言うのに興味あるなんて」
思わずドキリとする。
確かに、普段の俺からはコスプレするなんて想像できない、か・・・。
かといってさっきまでアイと会っていた、なんて言えるわけないしな・・・。
「・・・せっかくの祭りだしな。俺だって空気くらいは読む」
「稽古じゃ空気は読まないのに?」
「・・・」
「・・・じょ、冗談だよアクアくん・・・」
おそらく舞台の稽古中、俺がどのグループにも属してなかったことを指しているんだろう。
別にあれは空気を読めなかったわけじゃない。
あえて読まなかったんだ、と言っても負け惜しみみたいだしここは黙っておこう・・・。
「おい!いい加減に通すとね!?」
「早く行かんといい席取れんと!そしたらどうしてくれるとね!?」
再び、警備員と揉めてる男達の声が聞こえてきた。
あかねが、俺越しに興味深そうにそちらへと視線を向ける。
「何かトラブルでもあったのかな?」
「・・・ああ、どうやらチケットを持ってるのに入れない奴がいるらしい。まあ、大方ガラの悪い奴が入ろうとして警備員が止めてるんだろう」
ここ陽東高校は芸能人が多く通っている。
普段から警備は厳重だが、一般客も来る今日《|学園祭》はより強固にしてるのだろう。
「うーん、だからね?君たち、まずは鏡を見てからね?」
「俺たちのどこに変なとこがあると!?」
「どこに出しても恥ずかしくないパンクスタイルとね!?」
「・・・なんかだいぶ揉めてるみたいだね」
警備員も半ば呆れているみたいで、だいぶ投げやりになっていた。
ここからだと姿は見えないが・・・パンクスタイルってそりゃあダメだろ。
学園祭に何を求めているんだ。
・・・はあ、ここはあかねもいるしさっさと離れるか。
「みたいだな。・・・面倒に巻き込まれる前にさっさと中に入るか」
「え?あ、うん」
あかねの手を引いて中に入ろうとする。
だが・・・。
「ん?・・・き、君は!!」
「あー!あん時の学生くんやなかと!」
迷惑客は思いっきり俺を指差すと知り合いのように叫んでいた。
ゆっくりと、間違いであればいいのにと思いながら振り向く。
「あ・・・」
そこには見覚えのあるパンクファッションに身を包んだ太い男と細い男がいた。
・・・
「いやー、アクアくんのおかげでやっと入れたとよー!」
「ホント、あの警備員さんに顔が利いて助かったとね!」
見た目にそぐわぬ人懐っこい笑みで二人が礼を言ってくる。
俺は苦笑いでそれに応えた。
この二人はフランシュシュの熱狂的なファンだ。
以前握手会に潜入した時、アイを引き止めようとしてこの二人に止められた。
そしてファンとして、推しとは一線を引くこと、距離感が大切、と力説した後、とくに何もせずに解放したのだ。
今思えばあの時はだいぶ考えなしだったな・・・。
「・・・しかし、アクアくん!僕ら見とってたとよ!」
太い方の男が目を輝かせてずいっときた。
「な、何をでしょうか?」
ちらっと後ろに視線を向ける。
あかねには、あとで事情を説明するからと言って少し離れた場所で待ってもらっている。
よほど大声でなければ聞こえないだろうが、早めに切り上げた方がいいだろう。
「そりゃあ決まっとるたい!佐賀ロックでの君の献身とね!」
「・・・え゛」
「まさかステージの上で立ちつくす推しのために、身を挺して盛り上げようとするなんて・・・」
「」
「もう俺ら、雨と汗と涙でまともに前が見えなかったい!あの時、ちっちゃかった学生っこがあんなに推しのために頑張るとなんて・・・ううっ!」
「・・・??」
「まっ、俺らの指導の賜物やけんな。弟子はいずれ師匠を超えるものけん。それが遅いか早いかとよ」
「????」
どうやらあの佐賀ロックのライブにもこの二人はいたらしい。
そしていたからには当然、俺の渾身のオタ芸も見ていたわけで・・・。
「・・・ぐうっ!がはっ、・・・っっ!!」
「ど、どうしたと!?アクアくん!?」
「具合でも悪いとね!?」
し、死にたい・・・!
ほぼ関係ないやつに、全力で踊ったオタ芸見られていたなんて末代までの恥だぞ・・・っっ
せ、せめてここは口止めをしないと・・・!
「・・・あ、あの、お二人にお願いがあります」
「ど、どうしたと!?」
「実は・・・一緒にいた女の子、俺の彼女でして・・・」
「おおっ、あのべっぴんさんやと!」
「綺麗な東京っこやけんなーって思っとったけどアクアくんの彼女だったとね!」
「は、はい・・・。実は彼女にフランシュシュのファンであることは黙っていまして・・・」
「そ、そうだったとね!」
「なので、お二人にも俺がファンであることは黙っていて欲しいんです・・・」
せめて、これ以上知られるわけにはいかない。
この見るからにヤバい見た目の二人と知り合いだとバレてる以上、隠し通せないかもしれないが、何もしないよりはマシだ。
「・・・」「・・・」
俺の言葉に二人は何も言わない。
しまった・・・こいつらはフランシュシュの熱狂的なファン。
もしかして、彼女がいながらアイドルも推してる俺を許さないんじゃ・・・。
「・・・任せるばい。同じユニットを推すもの同士、俺らは固く絆で結ばれた仲間とね!」
「ふっ、彼女もいながらアイドルも推す・・・まさしく、茨の道を選ぶ弟子とね!俺たちも誇らしいとよ・・・」
「あ、はい」
杞憂だった。
ていうか誰が弟子だ。
「・・・じゃ、俺らはもう行くとね」
「アクアくん、ホントにありがとうな」
二人はそう言うとゆっくりと俺に背を向ける。
だが立ち去る直前、俺にだけ聞こえる声で告げた。
「・・・今日のライブは15時から。場所は中央第二体育館」
「学園祭のステージイベントの一つにデス娘は出演するけん」
「しかも事前告知では何やら新発表があるとか・・・」
「俺たちは新曲発表と予想してるけん。・・・けどあの子達はいつも俺らの予想を飛び越えてくると。きっと、あっと驚くようなサプライズがあるとね」
「「・・・先に席を取って待ってるけん」」
・・・。
なんか、誤解されてしまった・・・。
・・・・・・
・・・
「・・・お待たせ」
「あれ?アクアくん、お友達とはもういいの?」
「あれは別に友達じゃない」
「・・・ふーん」
あかねは何やら意味深な返事でこっちを見ている。
「・・・本当だぞ?」
「べっつにー?」
「・・・引っかかる言い方だな」
「気にしなくていいよ?ただアクアくんって以外と歳上の友達が多いんだなって思っただけ。それより何処に行く?私、アクアくんのクラス観に行きたいな」
「だから友達じゃ・・・、はぁ・・・もういいか。うちのクラスは展示だからつまらないぞ」
「アクアくんがどんなところで授業を受けてるのか知りたいの。ほら、彼氏なんだから案内してよ」
「・・・そんなところより、今の時間は出店が空いてるからオススメだぞ」
「少し食べてきたからお腹はそんなに減ってないかな。・・・それより教室から遠ざけようとしてる気がする」
「・・・勘弁してくれ。付き合ってるのは周知の事実とはいえ、あかねみたいな美人を連れて行ったら何を言われるか・・・」
「びっ・・・!?」
それまで余裕のあった表情を見せてたあかねが顔を真っ赤にして言葉に詰まっていた。
「・・・別に言われ慣れてるだろ。天才役者って肩書きでいろいろな記事に書いてあったし」
「か、彼氏に言われるのと他の人とじゃ違うんだよ!」
あかねはそう言うと真っ赤な顔を手で仰ぎながらそっぽを向いてしまった。
舞台の上では天才と言われている役者だが、こうやって恥ずかしがってるところはまだ子供だな。
「も、もうっ、アクアくんが変なこと言うから汗かいちゃったよ!」
「悪かったな。お詫びをしたいからそこのクラスの喫茶店に入ろう」
「・・・なんか乗せられた気がするけど、まあ、いっか」
何とかうちのクラスに来ることを回避した俺は、内心一息つくと教室の扉を開けた。
「い、いらっしゃいませー♪・・・って何であんた達が!?」
「か、かなちゃん!?」
・・・まだ自分のクラスに招いた方がマシだったかもしれない。
・・・
「へぇー!その格好かなちゃんすごい似合ってるねー!」
あかねが笑顔でスマホのシャッターを連続で切っている。
対して有馬は涙目で身体を捩って必死に隠そうとしていた。
「う、うう・・・もういっそ殺してぇ・・・」
偶然入ったこの店は有馬のクラスだったらしい。
出し物はネコミミ喫茶。
有馬も頭に猫耳をつけて簡素なウェイトレス服を着ている。
どうやらその姿があかねの琴線に触れたらしい。
笑顔を浮かべてはいるが眼は大マジだった。
「あのー・・・お客さん、撮影は禁止でして・・・」
「はっ!そ、そうよ!撮影は禁止よ!早くその連写する指を止めなさい!」
「ちぇー、・・・ララライの皆にも見せてあげたかったのにー」
別の店員に止められて目の前で撮った写真を削除する。
だがだいぶ満足したようで、上機嫌だった。
「満足したなら早く出てきなさいよ・・・」
「え?店員さーん、お冷とメニューもらって良いですかー?」
「こいつ・・・居座る気満々か・・・!」
有馬の弱みを握れて嬉しいのか、あかねはさっさと席に座っていた。
「・・・まあ、元気出せよ」
「うっさい・・・。あんたからは何もないの?」
有馬が恨めしそうにこちらを見る。
そんな眼で見られても俺にはどうしようもないんだが・・・。
「似合ってる・・・と思うぞ」
「えっ!?」
感想を言われると思ってなかったのか、有馬が一瞬で火がついたかのように顔が真っ赤になった。
「ふ、ふーん?ま、まあ褒め言葉として受け取っておくわっ」
すぐにそっぽを向く有馬に対して、席に座っているあかねがものすごいジト目でこっちを見ていた。
「・・・なんだよ」
「・・・アクアくーん、私お腹すいちゃった。デザート頼んでもいーい?」
「別に構わないが・・・」
「店員さーん、メニューのここからここまでお願いしまーす」
「・・・さっき腹は空いてないって言ってなかったか?」
「何か言ったかな?」
「・・・いや」
笑顔だがどことなく不機嫌オーラを発しながらあかねが注文していく。
あかねはあまり奢られたがらない。
付き合っている証拠作りの為のデートでは、必ずと言って良いほど折半しようとする。
だが、流石にこの空気でそれは良くないとわかる。
少しでもあかねの機嫌を取るために、今できることは・・・。
俺は財布の中にいる諭吉の人数を思い出しながら、内心ため息をついた。
・・・・・・
・・・
「はぁ、なんで俺はこんなところにいるんだ・・・?」
メイド服に身を包んだ高校生の女の子達が忙しそうにする中、俺は一人テーブルに肘をついてひとりごちた。
フランシュシュはルビーのクラスに着いたら、他のメンバーがいたとかで裏に引っ込んじまった。
ルビーはシフトで接客に忙しそうだし、せめてアクアを巻き込もうと思ったらアイツもいつの間にかいねえし・・・。
「・・・」
ぐっ・・・流石にこの空間におじさん一人はきつい。
とりあえずここから出るか・・・。
俺は会計を済まそうと席を立とうとする。
だがその前にメイドの一人に呼び止められた。
「あのー・・・すみません、席が足りてなくて・・・相席でもいいですか?」
「いや、俺はもう・・・」
出るから。
そう続けようとして、おもわず言葉に詰まった。
「───そう言わずに、少しつきあって貰えませんか?五反田監督」
「お前は・・・」
目の前にいたのは件のアイドルグループ、フランシュシュのプロデューサーだった。
・・・
「お久しぶりです。ドライブイン鳥のCM撮影以来ですね」
「ああ」
当然のように向かいに座るとコーヒーを注文する。
出る機会を失った俺も、諦めてもう一杯コーヒーを注文した。
「最近はいかがですか?映画業界も人の出入りは激しいと聞いてますが」
初めて会った時とは別人のように丁寧な言葉遣い。
ただ勢いだけの向こう見ずだと思っていたが、ちゃんと営業用の仮面も持っているらしい。
心の中でこの男の評価を上げつつ、言葉を返す。
「何とか食いっぱぐれずにいられてるよ。万年ノミネート止まりの映画監督でも多少はネームバリューになるらしい」
「ご謙遜を。五反田監督ほど演技に真正面から向き合っている映画監督もそうそう居ないでしょう」
「何だ?気持ち悪りぃな、俺のご機嫌取りにでも来たのか?」
「それもあります。ただ本題は・・・」
そう言うと懐から何やら封筒を取り出す。
何の変哲もない茶封筒。
それを机に置くと封を開き、中身を一枚取り出した。
万札。出てきたのは諭吉だった。
つい視線が封筒へと向かう。
大きさ、厚さからして相当な額がまだ中に入っているのが見て取れた。
「・・・何の真似だ?」
「ただのお礼です。うちの六号がお世話になってると聞きました。これは宿泊費とでも思ってもらえれば」
六号がうちに住み始めてからもうすぐ一ヶ月になる。
その間の光熱費や宿代を考えればこの封筒もわかるが・・・。
見るからにそれ以上の金額がありそうな厚みを見て、この金はそれだけの意味を持たないと俺は推測した。
「別に、気にしなくても構わねえよ。俺も合意の上で六号の滞在を受け入れてる。母ちゃんも気に入ってるし、文句もねえ」
・・・強いて言うなら六号が来てから露骨に『泰志が孫を見せてくれるのはいつになるのかねぇ』って言ってくるのがうざいくらいだ。
「そうですか、それはよかった。・・・実はもう一つ
お話があります」
そらきた。
本題はこっちだろうな。
「──五反田監督の撮る作品に、うちのアイドルを出して欲しいのです」
「・・・まっ、そんなこったろうとは思ったけどな」
仮にも映画監督という立場の俺に持ち込む話なんて決まっている。
キャスティングに口を挟む、これしかない。
さて、俺はこの提案にどう応えるべきか。
フランシュシュの連中は気に入っている。
アイツらが俺の撮る映画の中で、どんな画を描いてくれるのか・・・正直言って知りたくないと言えば嘘になる。
なら答えは決まっている。
だが・・・。
「──条件がある」
俺はフランシュシュのプロデューサーに人差し指を上げて告げた。
「───フランシュシュ七号を主演として起用すること。それが絶対条件だ」
・・・
「まさか本当にゆうぎりだったなんてねー」
「あい、合流できてよかったでありんす」
再び、ルビーのクラスの、暗幕で覆われた簡素な控室で皆と顔を並べる。
先程と違うのはゆうぎりもいることだ。
「でも良かったと?一緒に歩いてた子達、置いてきよって・・・」
「元々さくらはん達を見つけるまで、衣装を着て校内を練り歩くという約束だったでありんす。それに別れの挨拶もやりんしたし、あの子達も納得しんしょう」
ゆうぎりは私とアクアも寄ったあの貸衣装屋で、お店の人に気に入られたらしく、せがまれるままに着せ替え人形にされてたみたい。
途中で仲間を探してることを話したら、ならとびきり派手な衣装を着て歩けば仲間に気づいてもらえるだろう、と言われてあんな格好をしていたんだって。
・・・まあたぶん、それだけじゃなくて、ゆうぎりに綺麗な服を着せて適当に歩かせれば貸衣装屋の宣伝にもなるって考えはありそうかも?
実際、別れる時も名残惜しそうにゆうぎりのことを見てたしね。
「流石は姉さん!もうこの学校を制覇しとったと!これはこの後のライブも楽勝ばい!」
「油断はしない方がいいと思う。アイドルや俳優がゴロゴロいる学校みたいだし、生半可なパフォーマンスじゃ見向きもされないかも」
「確かに・・・。このクラスの皆さんも芸能界で活動されてる方ばかりだそうで・・・コンサートの主演経験がある方もいました」
「え、ええー!?じゃ、じゃあそんなプロの芸能人の前で歌って踊らなきゃならんとー!?う、うちらよくてご当地アイドルやけん、ど、どやんすどやんすー!?」
「さくらちゃん、落ち着いて?佐賀ロックの時だって他のアーティストの前で歌ったよ?どこで歌っても変わらないってー」
「そうね、例えハコが駅前だろうと、ドームだろうと同じパフォーマンスができなきゃ。私達はアイドルなんだから」
「うう・・・頭ではわかっとるけど、心がまだ追いつかないというか・・・」
「まーどうせステージに立っちゃえば逃げられないから」
「おう、腹くくれさくら!ここが全国制覇の第一歩ばい!」
「ヴァウ!」
「・・・あとはフリルさんだけですね。どこにいるのでしょうか・・・?」
「──不知火フリルはここにはこない」
そう言って暗幕を開けて巽が入ってきた。
「幸太郎さん!」
「あ、巽!メイク取れちゃったからやってー!」
「お前ら・・・悪びれもなくゾンビィフェイスを晒しおって・・・」
「す、すみません・・・」
「おうグラサン、今のはどういう意味と?」
「・・・奴には先にステージ入りして機材の準備などを頼んでいる」
「巽ー、いくらフリルちゃんが新入りだからって雑用を任せるのは良くないよー」
「ちがわい!・・・あいつなりにこのステージを特別なものにしたい、ということだ。先に行って照明や音響にも口出しするそうだ」
「・・・へっ、アイツもなんだかんだでフランシュシュとして気合い入れてるっつーことばい」
「フリルさんの・・・新メンバーのお披露目、必ず成功させましょう!」
純子ちゃんの言葉に、皆が力強く頷く。
いつのまにか不安は吹き飛んでいた。
「それに私達もここでファンを増やすために頑張ったでしょ?きっと何人かは来てくれるってー」
「そ、そういえばアイとさくらはここでメイド服着て働いてたんだ?」
「リリィ達も見たかったなー、二人が働いてるところー!」
「ヴァウー」
「うん、お店のお手伝いしながらフランシュシュの宣伝をしてたけん」
「初めてカフェで働いたけど楽しかったよー!」
「ち、ちなみに写真とかはないのかしら?私達が来た時にはまた休憩に入ってたみたいだけど」
「あ、クラスの子が何人か宣伝用に撮ってくれてたけん。確か・・・」
「ぜひ見たいわ!できればデータとか・・・ううん、ネガでいいから欲しいのだけど!」
「実は・・・私達スマホ持ってないから断っちゃったけん。この場で現像して渡すのは難しいって言われとって・・・」
「・・・そう」
愛ちゃんがおおげさに手を床につけて残念そうにしている。
愛ちゃんも着たかったのかな?
「・・・うう、私はあまりお役に立てずにすみませんでした」
私たちと対照的に純子ちゃんがしょんぼりとしている。
フランシュシュの宣伝があまりできなかったのを気にしてるみたい。
まあ純子ちゃんは今回、裏方に入ってたからアピールする機会がなかっただけなんだけど。
「まー、純子ちゃんがいなかったら料理も出せなかったから。皆感謝してたよ?」
「そうやと、クラスの人も予想以上に繁盛したから、早めにお店閉めて皆で観に来てくれるって言ってたとよ?これも純子ちゃんのおかげやけん!」
ルビーのクラスは私達が抜けた後もお客さんが途絶えず、用意してた食材が先に切れちゃいそうな勢いらしい。
「いえ・・・私は所詮、アイドルよりも日曜大工が似合う女なんです・・・ふふっ、マイクよりもトンカチが似合うアイドル・・・」
「暗いねー」
「あい、純子はんがこうなるのは佐賀ろっく以来でありんすなぁ」
「うーん、なんか、今の純子ちゃんを見てると・・・こう、何か思い出しそうな気がする・・・ような・・・」
「何だ?さくら、変なもんでも食ったと?」
「───とにかく、壊れた純子はお前達が直しておけ。そろそろライブの時間だ、全員ステージへ移動しろ」
・・・・・・
・・・
学園からの帰り道を一人で歩く。
六号はフランシュシュのプロデューサーが送ってくれるらしい。
メンバーとの積もる話もあるだろうし、俺は先に学園を後にしていた。
『───あっ、それと演技指導、映画内のキャスティングは俺が決める。他の連中がモブAでも文句は言うなよ』
脳裏に浮かんだのは、十五年前の約束。
本当の私を撮ってください──結局、俺はあの約束を叶えてあげられなかった。
似ているフランシュシュ七号を撮ったところで、自己満足でしかないのはわかってる。
だがその自己満足で、心に傷を負ったあいつらが一歩でも前に進めるのなら───
「・・・さて、久しぶりにアイツに連絡取るか」
スマホをいじり、昔からの古い知人の番号を出す。
少し逡巡した後、俺は電話をかけた。
・・・
「ルビー、ウチらもそろそろ移動しよか」
お店の片付けも終わり、先ほどまでの忙しさが嘘のように静かになった教室で友人であるルビーの背中に声をかける。
「・・・」
「・・・ルビー?」
聞こえなかったのか、今度は近づいて肩を叩くとびくっとして振り向いた。
「みなみちゃん・・・」
「もう皆、体育館に移動したで。ウチらもそろそろ移動せんと始まってまう」
言うまでもなく、フランシュシュのステージのことだ。
ルビーもわかっていたようで時計の方へと視線を向ける。
「ああ・・・ホントだ。あははー・・・全然気づかなかったよ」
いつの間にかこんなに時間が経ってたんだねー、なんて言いながらルビーは着替え始める。
声に張りもなく、元気がないのは明白だった。
「・・・どないしたん?何か嫌なことでもあった?」
「そ、そんなことないよ?ほら、急ごう!早く行かないと良い席取れなくなっちゃうからー!」
そう言うとささっと着替えて教室を出て行った。
「うーん、お兄さんと何かあったんかな?」
考えられる理由はそれくらいやけど・・・。
本人が言いたがらんなら、無理に聞き出すのも良くないかもなぁ。
自然に言ってくれるまで待とう。
そう判断して、ルビーを追いかけた。
・・・
体育館に着いたら既にイベントは始まっていた。
ちょうどゲストとして呼ばれた芸能人のトークショーが終わったようで、観客が拍手をしている。
「皆は──あ、おった!」
先に会場入りしていたクラスメイトを見つけて、近くまで向かう。
「みなみ達きたよー」
「席はそこ使って」
「ありがとうなあ」
ルビーと共に空いてる席に座る。
少し遠いがステージ全体が見えるいい席だ。
「ナイスタイミング!」
「フランシュシュのステージはこの後だって」
「ほんま?間に合って良かったわー」
ルビーはまだ引きずってるのか、表情は暗めだ。
この後のステージを見て、元気になればええけど・・・。
「・・・さっきの芸人、裏で──さんと付き合ってるんだって」
「え?うそ?私は──と恋仲って聞いたけど」
周囲からひそひそと話声が聞こえる。
この学校は芸能人が多く通っていることもあり、この手の噂話が絶えない。
結局、人の口に戸は立てられない。
ただ互いに弱みを握り合っているから、公言されていないだけだ。
同年代が多いからこそ、仲間意識は強い。
だけど、ある意味でこの学校は芸能界の縮図と言ってもいい様相を示している。
「──さあ、続いてのステージは・・・おおっと、これはすごい!遥か遠方、九州から駆けつけてくれたアイドルの皆さんによるパフォーマンスです!」
あっ、二号さん達の番や。
照明が暗転し、音楽が流れ始める。
ステージ脇から現れたフランシュシュは間隔を空けて配置につくと歌い始めた。
「「「「「「「───目覚めRETURNER♪願えば良いんだ♪」」」」」」」
照明が点灯し、ステージが一気に明るくなる。
同時に、暗闇でわからなかった彼女達の姿も露わになった。
学ランをイメージした緑の服に、メンバーのカラーが入ったロングスカートやショートパンツを合わせた衣装だ。
頭にもそれぞれのイメージカラーのハチマキを巻いている。結び方にもそれぞれ違いがあって、彼女達の個性を感じさせた。
だけど、何よりも、私の眼を丸くさせたものがある。
それは・・・
フランシュシュ八号「バシッと決めたいこのsucceed〜♪」
あの子・・・フリルちゃんやないの!?
「「え、えええええええ!!??」」
思わずルビーと一緒に声を上げる。
フリルちゃん、確かにお仕事があるゆうてたけど、まさかフランシュシュのライブに出とるん!?
口をあんぐり開けて驚いていると、ルビーもさっきの暗さはどこへやら、眼を飛び出して驚いていた。
「ど、どどどどういうこと・・・!?」
「わ、わわわわからん・・・うちも全くわからん!?」
「え!?あれ、フリルちゃんだよね?そうだよね?」
「せ、せやろなぁ。他のお客さんも困惑しとるし、司会の人も驚いとるように見えるし・・・」
ウチ達が戸惑っている間に一曲目が終わる。
ライブ中、ほとんどの人が驚きのあまりシーンとなっていたので、急に静寂が訪れた。
そこでやっと我に帰った司会の人が、慌てて自分の職務を思い出す。
「え、えーと・・・あ、ありがとうございましたー!いやー、素晴らしいパフォーマンスでしたねー!つい私も聞き入ってしまいましたよー!」
笑顔を取り繕いつつも、視線はチラチラとフリルちゃんへと流れていた。
無理もない。
今をときめく大スター。
この学校一の有名人。
不知火フリルを知らない人は、多くの芸能人、業界人を抱えるこの場所にいるはずがなかった。
「あざっす!今のはアタシ達の定番曲、『目覚めRETURNER』っした!」
「元気が出る良い曲でしたねー!・・・と、ところでせっかくですしいくつか質問を・・・」
「あっ、先にちょっといっすか?」
「え?は、はい」
そう言うと隣にいた別のアイドルに目配せする。
二人はうなずくと背景だった白い布を取り払った。
「よっと!」「あい!」
眼に入るのは大きく書かれた文字。
『フランシュシュアイドル九偉人爆誕ライブ』
書いてあることは読める。
だけど、その意味がすぐに理解できた人はいなかった。
「・・・え?こんなの台本にな」
「えー、どうもフランシュシュです!今日はその、アタシら学園祭ってのが初めてで・・・なんつーか、その、とりあえず今日から九人になります!以上です!」
「」
もはや司会の人もついていけずにぽかんとしている。
言いたいことが言えて満足したのか、二号さんが一歩後ろに下がった。
代わりに前に出たのは、渦中の人物、フリルちゃんだ。
「──改めまして、新たにフランシュシュに加入しましたフランシュシュ八号です、よろしくね」
・・・いや、不知火フリルやろ・・・!!
ここにいる全員が心の中でツッコミを入れる。
だけど当の本人はどこ吹く風で、ウインクまでしていた。
「あ、そうだ。今日六号は別の仕事で休みと、アタシらはあくまでメンバーが増えたってだけやけん、そこんとこ夜露死苦ぅ!」
ちゃう、聞きたいのはそこやない。フリルちゃんの方や。
再び全員が心の中で一斉にツッコミする。
「新メンバーも紹介したし・・・じゃあ次は新曲です!」
「今回、学校で歌うってことで、青春をイメージした曲になります!」
「皆の学園生活、その青春の一ページに今回のライブを刻んでくれると嬉しいな☆」
「聞いてください!『ぶっちゃけてフォーユー』!!」
私達の内心を知らずか、何事もなかったかのように次の曲の準備を始める。
それを見て再び我に帰った司会の人が、慌てて裏方に曲を流す合図を送っていた。
「「「「「「「「───ヘイヘイヘヘイ、はっちゃけなベイビー♪♪」」」」」」」」
・・・・・・
・・・
有馬のクラスのカフェに入ってしばらく経つ。
案の定というか、予想通りというか・・・あかねと有馬の口喧嘩はヒートアップしていた。
「・・・この前の殺陣、リハより袈裟斬りの踏み込みが深かったじゃないの!あたしだったから咄嗟に刀で受けられたけど!」
「違いますー!かなちゃんのステップが短かったんですー!・・・それを言うなら炎を避ける時に毎回、全体重かけてタックルしてくるのやめてほしいんだけど!」
「あーら?現天才役者様が他人の演技についてこれないからって泣き言いうのやめてもらえますー?」
「はー?私、泣き言なんて言ってないんだけど!!」
「憧れの役者と一緒に演技できて舞い上がっちゃったのよねー?私に憧れて役者になったんだもんねー?」
「むうううう!!!」
・・・下手に口出ししても拗れるだけだな。
諦めた俺は手持ち無沙汰にスマホを起動する。
ネットニュースを見ようとして、トレンド欄に見覚えのある単語が眼に入った。
「・・・不知火フリルアイドルデビュー?」
不知火フリルといえば今をときめくマルチタレントだ。そして妹の友人でもある。
最近は女優の道に舵を切るんじゃないか、と言われていたはずだが・・・。
まさかのアイドル路線か。
何ともなく、その記事を開く。
そして続く文言に思わず吹き出した。
「げほっ、ごほっ!?・・・っ、はぁ!?」
「うわっ!?急にどうしたのよ!?」
「あ、アクアくん大丈夫!?」
驚いたあかねが俺の背中を撫でてる間、もう一度確かめるように記事を読み上げる。
「・・・不知火フリル、アイドルデビュー、・・・ユニット名は・・・フランシュシュ?」
夢や幻ではない。
間違いなくそう書かれている。
何ならSNSで関連ワードを検索したらお祭り騒ぎの真っ最中だった。
『不知火フリルがアイドル!?』『え?マジ?』『証拠画像回ってるって!』『俺は信じねえ、不知火フリルは役者路線のはずだろ?』『公式の発表は!?ツイッターのアカは!?』『だんまりだ・・・ガセじゃね?』『じゃあこの画像は何なんだよ!?』
『ていうか、このフランシュシュって何?』『聞いたことないし、不知火フリルのアイドルデビューに合わせて作られたグループとか?』『いやでも結構前から活動してるみたい・・・主な活動場所は・・・佐賀?』『何それ?ご当地アイドルってこと?』『可愛い子いるじゃん』
あっという間にホットワードランキングにも上がり、憶測や意見が飛び交っていく。
中には『てかこの子、アイアンフリルの水野愛に似てね?』『子役の星川リリィにそっくりじゃん』等核心をついている意見もあった。
そして当然・・・
『この七号って子、昔いたアイドルのアイに似てるな』
・・・アイにも言及するやつが出てくる。
まさか本人だと気づく奴は出てこないだろうが・・・。
巽幸太郎、一体何を考えているんだ・・・?
・・・
「「「「「「「「まとめて Now is forever♪♪」」」」」」」」
決めポーズと共に、少なくない拍手と歓声が鳴り響く。
流石芸能人が通う学校、二曲目が終わる頃には、不知火フリルがアイドルデビューしたことも受け入れられつつあった。
予定では次の曲が最後。
MCの為、二号さんが再び前に出ようとしたところを制するように、先にフリルちゃんが前に出た。
「・・・あん?」
「──リーダー、少し時間を頂戴」
困惑する二号さんを横に、フリルちゃんが声を出す。
渦中の人物からの発言に、熱中していた観客が再び注目する。
場が静まり返ったのを確認してから、フリルちゃんは口を開いた。
「──本日はお集まりいただきありがとうございます」
凛とした声が体育館中に響く。
人前に立つことに慣れた、誰もが見惚れるお手本のような姿勢で会場中を見渡している。
よく見ればスマホのカメラを向けている人もいる。
写真撮影や動画を回すことは禁止されている筈だが、そんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりに彼女の一挙手一投足を見逃さまいと必死になっている。
「今からみなさんに大切なお知らせがあります」
固唾を飲んで皆が見守る中、不知火フリル・・・否、フランシュシュ八号は告げた。
「──私、フランシュシュ八号はこのライブを持ってフランシュシュを卒業します」
「「・・・え?」」
「「「・・・え??」」」
「──フランシュシュ八号最後の曲です、聴いてください、『光へ』」
誰もが驚愕のあまり開いた口が塞がらない中、彼女は一人、舞台の中心に立つ。
やがて導くように裏方へと視線を送ると、やや遅れて音楽が流れ始めた。
「──遠く、私は今、旅立ちます♪」
・・・
私の視界には、狐につままれたような顔がいっぱい並んでいた。
まあ当然の反応ね。
不知火フリルがアイドルデビューしたかと思えばすぐに卒業したのだから。
隣を盗み見ればフランシュシュの面々も同じような顔をしていた。
この反応も想定通り。
だって誰にも言ってないもの。
本当はアイドルをもう少し続けても良かった。
ルビーの話を聞いて興味がなかったわけじゃなかったし。
だけど、実際にフランシュシュのレッスンに加わってわかった。
この子達は全力でアイドルをやっている。
失ったものを取り戻すかのように。
諦めきれない願いに手を伸ばすかのように。
そこには妥協も甘えもなく、ただ必死に。
アイドルとして夢を叶えようとしている。
その姿に、私は、戸惑いを感じていた。
昔からずっと思っていたことだ。
月9のドラマで注目されて。
マルチタレントとして期待されて。
美少女として持て囃されて。
・・・周りの評価に応えるだけの自分に疑問を持っていた。
不知火フリルが本当にしたいことは何か。
それこそ、その他のことを捨ててでも進みたい道はどれか。
───その答えを見つけていないのに、この子達の夢に軽い気持ちで乗っかるのは失礼だ。
だからこれでおしまい。
「──出会い、別れて、心で感じて♪」
この曲はフランシュシュだった私の最後のわがまま。
本来は別の曲を流す予定だったから、皆の歌い出しはわずかに遅れる。
だけど、すぐにハモリを入れてくれた。
最後にこの曲を選んだのは、彼女達の歌の中で一番卒業ソングっぽかったから。
私はここでフランシュシュを辞めるけれど、少しくらい彼女達の心に傷跡を残したかったのだ。
「───さよなら、またね、あたたかいMemories♪」
まっ、本当はもう一つ、特大の置き土産があるのだけど♪
・・・
「ピーマン大好きアイドル!ピーマン大好きピーターパン!」
「うっさいわねー!ピーマンばっかり擦ってくるんじゃないわよ!それしか語彙力ないの!?」
もはや小学生レベルの争いを横目に、むしろいつ解放されるかを考えた方がいいのでは・・・と思いながら再びスマホに目を落とす。
「・・・ん?」
先程からひっきりなしに流れてくる不知火フリル関連のワードに変化があった。
「・・・『【悲報】 不知火フリルアイドル卒業』?」
数分前に投稿されたばかりの『不知火フリルアイドルデビューか!?』の記事に追記がされている・・・。
・・・『アイドルデビュー宣言から僅か数分後、グループからの脱退を発表、記者はドッキリ企画、または学友へのイタズラの線も考えて──』・・・つまりガセだった・・・のか?
ネット上にも安堵の声や惜しむ声等が流れている。中には自身の知名度を考えてほしい等の否定的な意見もあった。
だが流石は不知火フリル、炎上する程燃え上がりはしなさそうだ。
あとは・・・。
脳裏に浮かぶのは今回の騒動で、槍玉に上がった不知火フリルの名前と一緒にトレンド入りしたワード。
「フランシュシュ・・・この先いったいどうなるのか・・・」
・・・
ライブが終わり、出番を終えたフランシュシュを見送ろうと校門までやってくる。
予想はしていたが、皆の顔は来た時よりも暗かった。
「本番で言ってたこと・・・本当なんですね」
「ええ、私は今日限りでフランシュシュを抜ける。・・・実はマネージャーに無茶言ってたのが事務所の社長にバレちゃったの。私はアイドルとの二足のわらじでもいいと思ってたのだけど・・・、流石に怒られちゃった」
「フリルさんも芸能界で活動しているんですから事務所に所属しているのは当然でしたね・・・」
「クソッ、何とかなんなかったのかよ・・・!」
「・・・ありがとう。だけどこれで良かったとも思えるの。私は、軽い気持ちであなた達の隣に立とうとした。あなた達と過ごして、あなた達の想いを知って、アイドルに本気だって知っていたのに」
「そんなことなかとよ!フリルちゃんがレッスンを真面目に取り組んでたのも、遅くまで頑張ってたのも私たちは知っとーと!」
「・・・だけど私は、今の『不知火フリル』を捨ててまでアイドルにはなれなかった。だからこの話はここまで」
ああ。どうしてあの時、足がすくんだのかわかった。
ここは今の私には眩しすぎる。
自分の人生を精一杯走る彼女達は、目を開けられないほどに輝いて見えたんだ。
「・・・よくわからないけど、フリルちゃんが考えて出した答えなら止めない方がいいって思う」
「七号・・・」
「私たちがアイドルであることを選んだように、フリルちゃんも自分の意志で選んだんでしょ?・・・なら引き留めるんじゃなくて、背中を押してあげるべきなんじゃないかな?」
「あい。共に芸妓を渡世にするんでありんしたらいずれあいまみえる星にありんしょう。それまでのしばしの別れでありんす」
「ヴァウ!」
七号の言葉に、五号が古風な言い回しで同意する。
それに追随するかのように、零号が私に何かを差し出した。
「ありがとう・・・?」
受け取って見てみれば、それは食べかけのスルメだった。
えっ・・・と、これはどうすれば・・・。
「ぜ、零号さん・・・!それはいつも大切にしてるスルメじゃ!?」
「まさかそんな大事なものを分けてあげると!?」
「・・・零号と姉御がそこまでいうんじゃ、リーダーのアタシが認めねえ訳にはいかねえな!」
ああ・・・信頼の証だったのね。
「あれー?私が今良いこと言ったこと忘れてる?」
「いや、同じやつが言ったとは思えんと。ばってん、聞き間違いやなかとか?」
「よーし☆私がただの美少女じゃないとこ見せちゃうぞー☆」
七号と二号がじゃれあいを始める。
それを呆れ顔で眺める他のメンバー達。
その光景を見て、私は自然と頬が緩むのを感じていた。
「・・・ねえ、最後に一つわがままを言っていいかしら?」
私の言葉に全員がこちらへと視線を向ける。
「よく考えたら私、あなた達の名前を知らないわ」
「名前・・・」
「一号、二号・・・は芸名でしょう?せっかくなら、名前で呼びたいのだけれど・・・」
その言葉に皆が静かになる。
もしかしたら聞いてはいけないことだったのかしら・・・。
私なんかは本名で活動しているけれど、中には本名を公開したがらないタレントもいる。
この情報化社会において、名前を知られるのは大きなリスクだ。
中にはキャラを作る為、名前を売る為なんて理由で名前を変える人もいるが、一番の理由は身バレを防ぐ為、だろう。
だからこの質問は、彼女達を困らせることになるかもしれない。
そんな思いはあったけれど、純粋に名前も知らずにお別れになるのも寂しいと感じた。
「・・・ま、いいんじゃねーか?仲間に名前明かさねーのも変やと」
「・・・ですね。名前を隠したままと言うのもフリルさんに失礼です」
二号と四号の言葉に全員が納得したみたいだった。
「アタシはサキ、でこっちが・・・」
順番に名前を言っていく。
私はその名前を忘れないように、心の中で復唱する。
彼女達の誠意に応えるためにも、ここで覚えるべきだと感じていた。
「・・・ゆうぎり、リリィ・・・さくらとたえ、ね。で、最後が・・・」
私は最後に、星の瞳へと視線を向ける。
彼女はまっすぐ受け止めると、胸を張って答えた。
「───私もアイ、だよ」
どこにでもあるような名前。
事実、フランシュシュ三号も同じ名前だ。
だけどその姿に、何故か、大切な友人の顔が重なった気がした。
「───ありがとう、私、絶対に皆の名前を忘れないわ」
・・・
「万が一死んじまったらまたこいよ?」
「そうね、その時は私もメイクして貰おうかしら」
「今度は六号ともアイドルやろうね!」
「ええ、次は全員揃ったあなた達と、ね」
「短い間だったけど、フリルちゃんがフランシュシュに入ってくれてがば楽しかったけん!」
「・・・私もよ」
名残惜しそうに車に乗る皆を見ていると、運転席からプロデューサーが降りてきた。
「───最後に少し話そう」
・・・
「・・・すまなかったな」
「責任を押しつけるつもりはないわ。私にも非はあるもの」
「流石は大スター、器量も広いんだな」
「やはり気づいていたのね」
「この業界にいて不知火フリルを知らない奴はいない。いや、アイツらはこう・・・少しズレてるから気づいていないだろうが」
「素敵ね、その感性は是非ずっと大切にしてほしいわ」
「・・・何故黙って協力してくれたんだ?」
本題だと言わんばかりにサングラスがキラリと光る。
あれ、一体どうなってるのかしら。
「・・・今度の月9、オファーが来てたんだろう。それを断ってまでお前は練習に参加していた」
「お前にとってこのアイドル活動は、自身の経歴に傷こそつけれど、プラスにはならなかったはずだ。それを知ってて協力していた・・・俺にはそう見えた。何故だ?」
・・・正直、最初はあなたの言葉に乗ってみたくなったとか、面白そうだったからだったけれど・・・。
ここでそれを告げるのは違う気がした。
だから代わりに、紛れもないもう一つの本心を口にする。
「───知らなかったの?私って、結構友達想いなのよ」
・・・
車が走り去る。
もうじき夕暮れ、学園祭もそろそろ終わる頃だ。
「──フリルちゃーん!」
声のした方を振り向けば、こちらに走ってくるルビーとみなみの姿が見えた。
「やっと見つけたでー」
「なんで黙ってたのさー!?私、フリルちゃんがフランシュシュに入るなんて知らなかったよー!」
「突然ステージに現れたからホンマびっくりしたんよ」
「そこんとこ教えてくれるまで逃さないからね!」
「別に隠すつもりは無いわ、でもその前に・・・」
迫ってくる二人を手で制しながら私は時計を見る。
まだ学園祭が終わるまで時間はある。
よかった、無事に約束も守れそうだ。
「朝から忙しくて何も食べてないの。屋台巡りでもしながら話しましょう?」
私の提案に二人は顔を見合わせると、やがて満面の笑顔を浮かべた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「──やってくれたねぇ、フランシュシュ」
手元のグラスを揺らしながら、もう片方の手で見ていたスマホの画面を眺める。
そこにはとあるアイドルグループの動画チャンネルが映っていた。
最近、何かと目をかけている彼女達の活躍は喜ばしいことだ。
だが将来性があるからこそ、その扱いには細心の注意が求められる。
不用意に注目を浴びせるのではなく、機会を見計らい、適切なサポートをすることでより高みへと羽ばたかせられる。
そしてそんなスターとも呼べる存在の一助となって大きな恩を売ることができれば・・・更に
「その為にも、今はあまり注目されても困るんだよねぇ・・・」
イレギュラーは極力排除すべき。
だが、そんな予想外を楽しんでいる自分もいる。
それを自覚しているからこそ、自分の口元に笑みが漏れていることがわかった。
「───楽しそうですね、鏑木さん」
それまで黙っていたもう一人の男が口を挟む。
鏑木があまりに楽しそうにしていたので、タイミングを見計らっていたかのように見えた。
「そう見えるかい?」
「ええ、鏑木さんが千両役者でもなければそうにしか見えませんでしたよ」
「他ならぬ君にそこまで言わせるのなら、認めざるを得ないね」
「ご冗談を。僕はその世界から逃げた落伍者ですよ」
男は涼しい微笑みで返す。
その表情から真意は読めない。
彼の現役時代からの長い付き合いだが、その微笑みの裏にあるものを見れたことはない。
明確な一線を引いてるからこそ、ここまでの付き合いができた。
少なくとも、今この場で一緒に酒を傾けている私はそう思っている。
「そうだ、どうせなら君の意見も聞きたいな」
「鏑木さんが目をかけているのなら、さぞ顔が良いのでしょうね」
「ははは、周りからどう思われているか、自覚はしているつもりだよ。だけどルックスだってこの世界では大事な武器の一つだ。例えそれが神様が気まぐれで与えたものでもね」
「気まぐれ・・・ですか」
男はその言葉に、一瞬微笑みを崩す。
だがすぐにいつもの笑顔に戻っていた。
「せっかくですし、今の鏑木さんのお気に入りを肴に飲み直しますか」
「嬉しいね、ぜひ君のお眼鏡に叶うといいのだけど」
鏑木がスマホを操作すると画面に動画が流れ始める。
アイドルがメンバーを順番に紹介するだけの簡素な動画。
男はグラスを傾けながらその動画を流し見していたが、やがて一人のアイドルの紹介のところでぴたりと動きを止めた。
「───」
男にしては珍しく・・・いや、決して見せたことのない表情。
普段は隠している素顔を、驚きのあまり晒してしまった、そんな印象を鏑木は感じる。
「──鏑木さん、このグループはなんて名前でしたっけ?」
「フランシュシュ。佐賀の明るい未来を作る伝説のアイドルグループらしいよ」
「フランシュシュ・・・ですか」
いつのまにか、元の顔へと戻っていた男は妖しく微笑む。
「───是非、僕も会ってみたいですね」
その二つの瞳には、暗い星が爛々と輝いていた。
「ところで、彼女達はこの登録者数のこと、知っているんですか?」
「さあねぇ、けど遅かれ早かれ知ることになるだろうから」
「・・・驚くんじゃないですか?ご当地アイドルグループなら尚更」
「これに関しては僕も予想外だったよ。とりあえずは静観するさ」
・・・
学校編はこれで終了です!
次は佐賀に戻るかも・・・。
引き続き書いていきます!
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