ナイトレインにうつつを抜かしていたらこんなに時間が経っていました。
気がつけば忍者と極道のアニメが始まり、そして今日は・・・そう、ゾンビランドサガゆめぎんがパラダイスの上映初日!
映画化発表から長かったですが・・・皆、待ったかいがあったよ、ゾンサガじゃなきゃできないような映画で大満足の内容でした!
まだ見てない人は是非お近くの映画館へ!大スクリーンで見るの、おすすめですよ!
新メンバーであるフリルちゃんが脱退した学園祭ライブから時間が経ち、私たちは再び佐賀に戻っていた。
「いやー、しっかし・・・やっぱ佐賀は落ち着くとね!」
「何だかんだでこの洋館も長いし、慣れ親しんだって気持ちがあるからかもね」
「はい。・・・ですが正直、患者さん用の小さな浴槽とはいえ、お風呂に入れるという点ではあの廃病院も良かったですけど」
「こっちはお外の水道で洗うしかないからねー」
洋館の地下室で巽を待ちながら、皆で話す。
病院でも地下でミーティングをしていたけど、やっぱりここの方がしっくりくるなー。
「でもまさか、フリルちゃんがあんなに有名人だったなんて思わなかったとよ・・・」
「月9ドラマの主演に大手の広告会社のイメージキャラクターに抜擢・・・経歴を知れば知るほどに化け物ね。今更だけど、なんでそんな忙しい子があの一時だけでもフランシュシュに入ったのかしら・・・?」
「確かに・・・私たちって佐賀の一アイドルグループでしかないわけですし、特にフリルさんに得なんてないですよね・・・」
「・・・案外私たちのこと、応援したくなったんじゃない?フリルちゃん、とっても優しい子だったしね」
「おう!アタシらダチやけん!ダチが困ってたら手を貸すのは当たり前とよ!」
「はぁ・・・あんたたちはもう少し人を疑うことを覚えるべき。まあでも、結果的に私たちは損してないし、それでもいいか」
「むしろ、すごい助けてくれたとよ!愛ちゃんも見よっと!この前幸太郎さんが見せてくれたパソコンの画面!私たちのチャンネル、登録者数が爆増してたとね!」
さくらちゃんが言ってるのは、学園祭ライブの翌日のことだ。
上機嫌だった巽がニヤニヤしながら見せたパソコンには、私たちのチャンネル登録者数が数百倍に増えているのが映っていた。
「フリルちゃんがフランシュシュのチャンネルのこと、SNSで呟いてくれたとって!学園祭ライブの動画も拡散されてて、私たちのこと興味持ってくれた人が増えとってるって!」
「ほらー、やっぱりフリルちゃんの優しさだってー」
「そうだそうだー」
「あーもう、悪かったわよ。私だってフリルのこと、好きで疑ってるんじゃない。ただ・・・この世界には優しい人だけじゃないってことは覚えておいて」
「・・・わかってるってー☆」
「・・・まっ、あんたは大丈夫よね」
愛ちゃんがため息混じりに言うのに対して、ウインクで答える。
愛ちゃんの言うように、この世界は優しい人ばかりじゃない。
だけど、それだけじゃないことを私は知っている。
「てかよ?あのグラサンはフリルの正体知ってたんやろ?ならさっさと教えとけっての」
「幸太郎さん、『気づいてるに決まってるじゃろがい!俺があんなにわかりやすいリアクション取ってたのにこれっぽーっちも気づかない方が悪いに決まっとるやろがいこんぼけー!』って開き直ってたもんね・・・」
「やっぱアイツ、一度ちゃんとシメとかないといけないわねぇ・・・!」
「リリィはんも気づいてありんしたね」
「うん!あっちじゃCMにフリルちゃんがよくでてたの!早くリリィもテレビにたくさん出たいなー!」
「──グッモーニンエブリワンおまえら!」
そう言って勢いよく入ってきたのは巽だ。
「約一か月ぶりの故郷の朝はどうだぁ・・・?」
「でたわね・・・てか別に佐賀出身じゃないわよ!」
「ばぁかめぇ!お前たちは一度死に、ゾンビとして蘇った存在!新たな門出をここで迎えたお前たちにとって、この佐賀こそが第二の故郷といってふさわしいのだ!」
「まあアタシは元々佐賀出身やけどな」
「あはは・・・私も」
「とにかくぅ!この前の学園祭ライブで、お前たちの名は広く知れ渡った!今もフランシュシュチャンネルの登録者数、動画の再生数は鰻登りで増えてきている!・・・これを機に、更なるファン獲得に動くんじゃい!」
「おおー、気合抜群だねー」
「具体的には何をするのでしょうか?」
「ふっ、・・・動画コンテンツ等、所詮は若者向けの媒体。佐賀に多いお年寄り達の眼を引くには、別の方法でフランシュシュの名を知らしめる必要がある。すなわち、次の仕事は・・・時代劇じゃーい!!」
「「「「「・・・え?」」」」」
「時代・・・」
「劇?」
「ヴァウ?」
皆もよくわかってないみたいで首を傾げている。
たえちゃんに至っては、傾げ過ぎて一回転していた。
「そうだ・・・。時代劇こそ、相撲と並ぶお年寄りの覇権コンテンツと言っていい代物。ジャパニーズカルチャーとして海外にもファンが多く、数多くの俳優、女優が通り、大成した登竜門でもある・・・」
「わぁー!リリィ、時代劇やりたーい!」
「なあなあ!もしかして大河と!?時代劇って、アタシらが侍になって切った張ったの大暴れできると!?」
「ええっ!?大河!?」
「ふっ・・・」
興奮する皆を尻目に、巽が意味深に笑った。
わー、期待できそうにないなー。
「・・・老人ホーム向けの個人制作映画じゃい」
「・・・は?」「・・・え?」
「だから老人ホームで上映する個人制作の映画じゃーい!!」
先程まで興奮していた皆がすん・・・となる。
まあ予想はしてたけどねー。
「アイドルとしてもゾンビとしてもぺーぺーのお前らにそんな大きな仕事が来ると思っとるんかーい!・・・いいか!?これは佐賀でフランシュシュ旋風を起こす為の貴重な一歩なんじゃい!わかったら大人しく撮影の為に外出の準備せんかいバカゾンビィィィィィィ!!」
勢いよくそれだけ言うと巽はさっさと出て行った。
私達も顔を見合わせたあと、ゆっくりと立ち上がりパイプ椅子を片付け始める。
いつものこととはいえ、今日も突然の展開だ。
まあ、でもこのお約束にも流石に慣れてきた。
それに個人制作の映画とはいえ、ドラ鳥以来の皆での撮影企画。
・・・きっと今日も、楽しい一日になるだろうな♪
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
アイ達が学園祭に来てから日が経ち、舞台『東京ブレイド』は千秋楽を迎えた。
カーテンコール、俺は鞘姫役のあかねを両手で抱え、エスコートする。
いわゆるお姫様抱っこ、というやつだ。
もともと交際を公言している俺たちに鞘姫と刀鬼の役を割り振ったのは、こういう売り方ができることも意図してのことだろう。
実際、このサプライズは好評だった。
観客からの、特に黄色い声が一層大きく聞こえた。
だが、結局は六号が最後も持っていった。
原作にいない舞台オリジナルのキャラクター、一癖も二癖もある設定、更に最年少のキャスト、しかも初舞台という情報も広まっていて、その人気は最高潮に達していた。
カーテンコールでは、得意のワイヤーアクションによる空中浮遊で登場し、その存在を会場中の観客の心に刻みつけた。
その鳴り止まない拍手は、次代のスターの誕生を祝う音のように聞こえた。
結果的に、最高の結果で舞台『東京ブレイド』は終えたと言えるだろう。
そして、その間、俺にもいろいろと衝撃的な出来事が起きていた。
『───俺と姫川さん、父親が同じなんですよ』
『お前の父親は上原清十郎、売れない役者だった。残念だけどもう故人だ』
『心中・・・もう、生きていない───?』
アイを殺した男、俺とルビーの父親を探すため、芸能界に入ってアイと関係者だと思われる連中にDNA鑑定をやり続けた。
地道に続けた甲斐あって、やっと手がかりを見つけた。
俺と同じ遺伝子を持つ男『姫川大輝』
だがその父親『上原清十郎』、アイの交際相手と思われる男は既に亡くなっていた。
十年、追い続けた。
アイを失って、生きる意味を無くして、ただその原因である男に復讐するために。
生涯をかけて、生きていることを後悔させる程の苦しみを与えて殺すと誓った。
だが、その相手がもういない。
なら、俺はこのどうしようもない程残った感情をどこにぶつければいいんだ───
暗い部屋の中、時計の音だけが鳴り響く。
備え付けのソファーに座り、何も映っていないテレビを視界に収め続ける。
──いいや、わかっている。
もはや、この激情はどうしようもないのだと。
だってもう二回目だ。
さりなちゃんを失ったあの日。
入院中、その最期まで見舞いに来なかったさりなちゃんの親を、難病に指定されどの医者も匙を投げ出す現状を、ただただ衰弱していくさりなちゃんを前にして何の力にもなれなかった自分を、許せなかった。
だけど、その怒りは誰にもぶつけることはできなくて。
長い時が鎮火させ、時折疼くだけの古傷になった。
今回もそうしてしまえばいい。
罪のように、罰のように。
誰の記憶に残らなくても俺だけが忘れず、ただその事実があったと記憶しておけばいい。
それに、まだ、俺には目的がある。
アイを失った時と同じように、生きる為の理由がある。
この目的のためならば、まだ走ることができる、
この人生を。
俺には生きる意味が残っている。
復讐を捨て、ただこの願いのために。
その為には────
「⋯黒川、あかね」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
最近のアクアくんは少し変だ。
舞台『東京ブレイド』で、アクアくんは五反田監督の元で感情演技を学んだ。
私はそのお手伝いをすることになって、五反田監督の家にも通うことになって・・・
そして、アクアくんが芸能界にいる理由も知った。
私の推測も含めての考えだけど・・・たぶん間違っていないと思う。
アクアくんが言った『芸能界に殺したい相手がいて、その協力をしてくれと言ったらどうする?』という問いかけ。
私は『一緒に殺してあげる』と答えた。
この答えは・・・きっと嘘じゃない。
私が命をあなたに救ってもらったように。
私もあなたのことを助けたいと思った。
例えそれで他人を傷つけることになっても。
あなたのためならきっとできる。
これが恋なのか、愛なのか、それとも別の感情によるものなのか。
いくら自問しても答えは出ない。
だけど、正しいことであればいいと願っている。
あの日、アクアくんの学校の学園祭に参加した日。
アクアくんが門の前でお友達と話している時、私は他の生徒たちが話していたある噂を耳にした。
曰く、学園祭で東京ブレイドに出ていた刀鬼役の人が女の人とデートしてたらしい。
思わず私は耳を疑った。
ついつい真偽を確かめたくなり、聞き耳を立てた。
曰く、仲良さそうに手を繋いで歩いていたらしい。
曰く、女性は綺麗な紫がかった長い髪だったらしい。
手を繋ぐ・・・刀鬼ファンの子が握手を求めたとか・・・?
前に今ガチや東ブレでファンが増えたっていつもの仏頂面で言ってたし、評判を気にして外ではファンサを良くしてるのかも。
今ガチの時も最初は明るいキャラで行こうとしてたし。
それかアクアくんの妹のルビーさんって可能性もある。
双子だし、あまりアクアくんは話さないけど、実はとっても仲良しなのかもしれない。
・・・だけどルビーさんはアクアくんと同じ金髪だった。
前に舞台を観に来てくれた時に、自分の眼で見たから間違いない。
・・・いい加減に認めよう。
私は、アクアくんを疑ってしまっている。
元々、私たちの関係は一時的なものだ。
今ガチで名前を売るために、互いに利害が一致したに過ぎない。
恋とか愛とかそういうのはなくて、番組の流れ的にあそこは付き合うのが自然で。
・・・少なくともアクアくんはそう思っているだろう。
だけど私は・・・
・・・・・・
・・・
学園祭からの帰り道、並んで歩いているとアクアくんの肩に何かついているのに気づいた。
「アクアくん、肩に何かついてるよ?」
「ん・・・?」
肩を手で払うも、なかなか取れない。
私は手を伸ばしてそれを摘んだ。
「はい、取れたよ」
「ああ、助かった」
「ううん、気にしないでい・・・っ」
紫がかった長い髪・・・!
脳裏に昼間のことが呼び起こされる。
さっきまでアクアくんはお医者さんが着てるような白衣を羽織っていた。
今は学校の外だし、当然羽織っていない。
つまり、学校の中でついたことになる。
・・・ううん、結論づけるのは早すぎる。
偶然肩がぶつかった可能性も、風で飛んできたものが肩についてただけの可能性だってある。
だけど、もし本当に、私との待ち合わせまでアクアくんが知らない女の人とずっと一緒にいたとしたら・・・。
胸にずきんと痛みが走る。
私は、どうしようもないほどの不安感に襲われていた。
「・・・どうした、あかね?」
アクアくんの声ではっとする。
気づけば距離が離れていた。
いつのまにか立ち止まっていたらしい。
「う、ううん、なんでもないよ」
「??・・・そうか」
急いでアクアくんの隣に並んで歩きだす。
神様、どうか私のこの不安が思い過ごしでありますように。
私はそう願わずにいられなかった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「ユーチューブテコ入れプランその1!PVを撮ろう!」
「「新曲のMVを作ってくれる!?」」
「そっ。いやー、持つべきものはクリエイターの友人だよねー」
私達B小町は、有名な作曲家、ヒムラさんが作った新曲をどう公開するか悩んでいた。
初の新生B小町オリジナルの曲、それもママがいた旧B小町の頃から作曲を手掛けていた、ヒムラさんの久しぶりの新曲だしどうせなら特別な場で披露したい。
私達はミヤコさんも交えて、あーでもない、こーでもないと毎日顔を突き合わせて悩んでいた。
そこへ、MEMちょがしたり顔で放ったのだった。
「地方でデザイン会社をやってる人がねえ、MVとかも撮ってるクリエイターなの!こっちまで来るなら友達価格で撮ってくれるって!いやー、私の人脈に感謝してほしいねえ!」
「しかも帰りに観光もできて一石二鳥ってわけさ!」
「わーい!旅行だー!!」
「・・・休演日週一しかないし、舞台終わってからじゃないと私動けないわよ」
「それも考慮したスケジュール組むよー♪もうすぐ東ブレも千秋楽でしょ?撮影は一日で終わらせて慰安も兼ねて二泊三日とかどう?」
「東ブレの慰安・・・いいわね」
「撮影場所はどこ?」
「あー、実は・・・佐賀」
「「佐賀!?」」
私と先輩の声が重なる。
だけどその表情は正反対だった。
「何でまた佐賀なのよ!ついこの前も仕事で行ったじゃない!」
「あはは・・・普段は宮崎で活動してる人なんだけど、偶然別の仕事で佐賀にいるらしくて、どうせ撮るならこっちで、て・・・」
「うえぇ・・・行き慣れてるから全然旅行感ない・・・。宮崎が良かった・・・」
「えー?佐賀いいじゃん!空気は綺麗だし、ごはんは美味しいし!」
「あんたはあいつらに会えるかもしれないのが嬉しいだけでしょ・・・」
「えー?なんのことー?」
正直、宮崎にも行きたかった気持ちはある。
「・・・クリエイター」
ずっと部屋の隅でパソコンと睨めっこしていたアクアがぼそっと呟く。
どうやらしっかり話を聞いていたらしい。
だけどそれ以上は何も言わずに、再び手を動かし始めた。
・・・そうだ!
「ね、アクアも行かない?先輩もいるし、せっかくなら東ブレの慰安も兼ねてさ」
「・・・佐賀、か」
あれ?
ママにも会える(かもしれない)佐賀ならアクアも行きたがるだろう、そう思って話を振ってみたけど・・・。
アクアは一瞬悩む素振りを見せたあと、OKを出した。
「そうだな、こっちから会いに行くのもいいかもな」
後ろで先輩がガッツポーズをとってるのが見える。
あかねちゃんと形だけとはいえ付き合ってるのに、先輩もよくこんな女たらしを好きでいられるなぁ・・・。
そうこうしてるうちに、先輩とアクアが旅行に持っていくキャリーケースをどうするか相談し始める。
アクアは以前と比べて明るくなった。
心境の変化だろうか、ママが死んじゃってからたまに感じていた余裕のなさがなくなった気がする。
・・・思えば最近は先輩と再会したり、彼女ができたりと仕事だけじゃなくて私生活も忙しそうだ。
いつか・・・この日常が続いてアクアもママを忘れてしまうのかな。
ふと脳裏にアイのポスターをたくさん貼っている自室を思い出す。
星野ルビーとして二度目の生を受けて以降、アクアとはずっと一緒だった。
アイを大切にしていて、アイを愛していた他人とは思えない双子の兄。
だけどいつかは、アクアも私を置いていってしまうのかな───
・・・・・・
・・・
「いいなー、佐賀かー。私、家族と海外旅行は行くけど友達と旅行とか行ったことないから羨ましいなー」
「・・・ならあかねもいくか?」
「え?」
「どうやら東ブレの慰安旅行も兼ねてるらしい。ならあかねがきても問題ないだろ」
「い、いいのかな・・・?」
「別にいいだろ」
「な、なら行こうかな・・・」
何度目かのアクアくんとのデート。
証拠の写真も撮り、今は他愛のない話をしている。
いつもの時間。
いつもの流れ。
だけど、今日のアクアくんはどこかいつもと違っていた。
「ああ、・・・それにあかねとはそろそろじっくり話をしなければならないと思ってたし」
「じっくり話・・・」
その言葉に、思わず無言になる。
この空気、この表情、このタイミング。
否が応でもアクアくんが何を言おうとしているのか、気づいてしまう。
「・・・アクアくんはそろそろ私と別れたいんだ」
「!!」
「言い回しが下手だよ。それじゃあ私でも察しちゃう」
アクアくんはバツが悪そうな顔をするも、すぐに私に視線を戻した。
「・・・」
あ⋯綺麗。
アクアくんの名前に恥じない宝石のような瞳。
その二つの光が私をまっすぐ見つめている。
そして意を決したように口を開くと──
「・・・でもこんな気持ちのまま、旅行の日まで過ごさなきゃ行けないのは嫌だよ。そういう話をするなら今からしようよ」
私はその答えを先送りにするかのように、口を挟んでいた。
・・・・・・
・・・
誰もいない道を二人で歩く。
「今ガチからはもう半年くらい?いろいろあったけどあの番組楽しかったよね。アクアくんと一緒にいる間はあの頃がずっと続いてるみたいで楽しかった」
「俺は・・・いつまでもあかねを縛っておくのは良くないと思ってる。これは番組の形式上はじまった関係で・・・本物じゃないから」
「・・・そうだよね、本当の恋人じゃないもんね」
どこに行くかなんて決めていない。
ただ今はアクアくんの表情を知りたくなくて、私はアクアくんよりも一歩前を歩きながら話し続ける。
「おかしいと思ってたんだ。キスはあれから一度もしてないし、手だって繋いだことない」
「こんなの不自然な関係だもんね。いずれそういう話はすると思ってた」
「私はもう必要ない?・・・何かの役に立てた?」
「知ってるよ、君が私を何かしらに利用できそうだからそばに置いておいたってことくらい。そういう狡賢いところがあることは最初から知ってた」
淡々と伝える。
自分でも驚くほどスラスラと言葉が出る。
舞台の上じゃなくても私、こんなに話せたんだ。
・・・でもそれはきっと、君のおかげ。
今ガチで君に助けてもらってから、私は変わった。
自分に自信がついた気がする。
お芝居じゃなくても、胸を張れるようになった気がする。
全部、ぜんぶ君のおかげ。
歩道橋の階段を、靴音を鳴らしながら登っていく。
君はここがどこか、気づいてるかな。
ここは私にとって大切な場所。
大切になった場所。
辛いとき、嫌なときにここに来て、私は何度も元気をもらった。
だけどきっと、今日を最後に私はここに来なくなる。
「うん。だから、いつかこういう日が来たら、私は──」
君にお礼を言いたくて───
急に鼻の奥がつんと痛み、目頭が熱くなる。
あれ?おかしいな、私、なんで涙が出そうになってるんだろう?
こうなるのはわかっていたのに。
何度も何度も、シミュレートしてきたのに。
駄目だ、泣いちゃだめだ。
アクアくんを悲しませちゃだめだ。
たくさんもらったのに、最後まで迷惑をかけるなんてだめだ。
お願い、もう少しだけ勇気を貸して。
この関係を、悲しいままで終わらせないで───
「───今までありがとう、アクアくん。──紫の髪の彼女とお幸せに」
「ああ───ん?」
・・・よかった。
最後まで言えた。
これであとは、元通りの関係に戻るだけ──
「あ、あれ?おかしいな。泣かないって決めてたのに・・・」
私の意志とは別に涙がぽろぽろと流れ落ちる。
ああ・・・やっぱり私はだめだなあ・・・。
せっかくここまで我慢できたのに。
結局彼の前で泣いてしまった。
アクアくんに悪いと思ってほしいわけじゃないのに。
アクアくんは私の言葉に対して、なにか考えるような素振りを見せていた。
よく見ればその表情には困惑も混じってるように見える。
「待ってくれ、あかね・・・。その・・・最後のは、一体何の話だ・・・?」
「・・・隠さなくてもいいよ。アクアくんが学園祭の時も彼女と会ってたのは知ってるから・・・」
「彼女・・・?学園祭・・・?・・・・・・あっ」
ようやくアクアくんは思い当たったといった感じで顔を上げる。
白々しいなあ・・・別に怒ってなんかいないのに。
「・・・アクアくんのこと、恨んでなんてないよ。だって私たちは恋愛リアリティショーから始まった嘘の関係で・・・いつか終わりが来るかも、なんて思ってたから・・・」
「落ち着けあかね。あれには事情があってだな・・・」
「よく考えれば変なことだよね。デートの時もお友達同士みたいな距離感だし、アクアくんはやたらとエスコート慣れしてたし・・・あはは、もしかして最初のデートの時にはもう彼女と付き合ってたのかな?」
「・・・あかね、今のお前は冷静じゃないんだ。普段ならそんな根も葉もない噂なんて簡単に信じないだろう?俺の知るあかねはいつも論理的に考えてから結論を出してたはずだ。ほら、一度深呼吸をしよう。深呼吸は気分を落ち着けるのに良いと医学的にも・・・」
アクアくんは往生際が悪くも、まだ何か言っている。
・・・浮気されて捨てられる。
本来なら怒るべきなのかもしれないけど、私はアクアくんのことを怒る気になれなかった。
それ以上に、自分の力不足が許せなかった。
「アクアくん、私ね?ずっと考えてたの。もしアクアくんから別れを切り出されても・・・受け入れようって。でも実際、・・・し、知らない女の人とのう、浮気を理由に振られるって思ったら・・・私、わたし、なんかやるせなくなっちゃって・・・っ」
私は本当に、彼のことを好きだったんだろうか。
初めてのお付き合い。
初めての彼氏。
あの日、彼と初めてキスをして。
ドキドキしたのは本当だ。
嬉しかったのは事実だ。
付き合ってる証拠作りのためにデートをして。
舞台の上では私たちの関係を意識したキャスティングをされて。
嫌な気持ちになったことなんてない。
むしろ、何度も会ううちに見せてくれたさりげない気遣いや時折見せる素顔は嫌いじゃなかった。
だけどずっと・・・この気持ちが恋なのか、私は確信が持てなかった。
「アクア・・・くん・・・?」
背中から伝わる温もり。
上着越しに聞こえる心音。
ああ──この優しさを、私は知っている。
「・・・嬉しい。覚えててくれたんだ」
背中から回された彼の手に私の手のひらを重ねる。
あの日、この場所で、馬鹿なことをしようとした私を君は止めてくれたよね。
「ここは、私にとって大切な場所。アクアくんが私を救ってくれたところだから・・・」
雨の中、自暴自棄になった私を見つけてくれた。
手を伸ばしてくれた。命を⋯助けてくれた。
あの日から私は、君に感謝し続けている。
君の助けになりたいと思った。
例え彼が私を利用しようとしていることに気づいても、その力になれるのなら構わないと思った。
だから⋯
「だからね、アクアくん。・・・私、アクアくんと一緒にいるの嫌いじゃないよ。・・・ううん、アクアくんとならキスだって、エッチだってできる。だから・・・」
「・・・あかね」
私の独白を静かに聞いていた彼がようやく声を出した。
私はその先の言葉を聞くのが怖くて、思わず肩を震わせる。
そんな私の心情を察したのか、彼は私の手を解くと肩に手をやってゆっくりと振り向かせた。
「・・・一つ、誤解を訂正させてくれ」
深い蒼の瞳。
彼の名前のような、海のような、宝石のような二つの青。
互いの吐息が感じられる距離で私と彼は向かい合っている。
その固く閉ざされていた唇が、ゆっくりと開いた。
「──学園祭の日、俺が一緒にいた紫の髪の女性。その人は学園祭のイベントに出演するアイドルの子だ。道に迷っていたから案内したんだ」
また言い訳を・・・とは思わなかった。
だって彼は嘘をついていなかったから。
例え彼とともに過ごした時間が一年にも満たなくても、その言葉が真実を指しているのだと、私は確信が持てた。
「実は・・・」
アクアくんは静かに話してくれた。
ルビーちゃん達が佐賀県でのお仕事でフランシュシュのメンバーと仲良くなったこと、その繋がりでアクアくんもメンバーの子に何人か顔見知りがいること、そしてこの前はアクアくん達の学校のイベントにフランシュシュがお仕事で来て、メンバーの一人が校内で迷っていたのを見つけたアクアくんはイベント会場まで案内したことを。
「こっちに来てることは六号経由で聞いてたからな。まさかうちの学祭のイベントに出るとは思わなかったが」
アクアくんの言ってることに矛盾はない。
彼の瞳を覗いても嘘をついてるようには見えない。
・・・もしかして本当に私の勘違い?
思い返せば、私の言ってることは全部私の主観から勝手に想像したものばかりだ。
いつもはもっと客観的事実ももとにプロファイリングしてるのに・・・。
途端に体温が高くなるのを感じる。
は、恥ずかしくて別の意味で消えてしまいたい・・・。
「・・・」
アクアくんは何も言わない。
私がなにか言うのを静かに待ってくれている。
あ、まつげ、こんなに長かったっけ・・・。
というか、くちびるも近い。
見てるとあの日のキスを思い出す。
みんなが見てる前で告白されて、ゆっくりと近づいてくる眼の前の顔を・・・。
「──ママー、あのお兄ちゃん達何してるのー?」
「──しっ!見ちゃいけません!」
どれくらいそうしていただろう。
どこからか聞こえた子供の声と、それを嗜める母親の声ではっとした。
よくよく考えればここは天下の往来。
日も落ちてない夕暮れ時で、子連れ等の通行人も多い時間帯だ。
思わず自分が何をしようとしていたのか、思い出して彼の手を振りほどく。
アクアくんも気まずそうに視線をそらしていた。
「・・・帰るか」
「・・・うん」
「・・・駅まで送る」
「・・・ありがとう」
駅まで向かう間、私は恥ずかしくて彼の顔を見れなかった。
・・・・・・
・・・
ずっと顔を赤くして俯いたままのあかねを見送ると俺も一人帰路に着いた。
どうにかなった・・・か。
ずば抜けたプロファイリング能力を持っていても、あかねは心身ともにまだ子供。
不安定なところはまだまだある。
結果的にはそこにつけ入る形になってしまったが・・・。
「・・・我ながら最低だな」
俺は先程までの自分の行動を思い出し、自嘲気味に息を吐いた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
アクアくんと変な空気になって数日が経ち、慰安旅行当日になった。
その間、旅行の詳細を詰める以外に彼とはまともに話せてない。
私としても、あんなことを言った手前、話し辛かったところもある。
けど・・・
冷静になって考えてみれば、何であの時の私、あんなこと言っちゃったんだろ・・・!?
絶対、変な女の子だと思われたよね!?
よくよく考えれば私が聞いた内容もアクアくんが知らない女の子と一緒に歩いてたってだけだし、そもそも自分で調べて知ったわけでもないし・・・。
はぁ・・・。
自分の情けなさに泣きたくなる。
曖昧な情報に踊らされて、あんな恥ずかしい姿を晒すなんて。
これじゃあ何のためにプロファイリングをかじってるんだか。
あーあ、舞台の上ならもっとちゃんとできるのに。
・・・それともこれが恋をするってことなんだろうか。
「・・・なーんて、思ってみちゃったり・・・」
「・・・?あんた、顔赤いわよ。熱でもあるんじゃない?」
いつのまにか、隣にいたかなちゃんが覗き込んでいた。
昔から変わらないあどけなさを残した顔に思わずドキッとする。
「べ、別に!何でもない・・・よ!」
「?ふーん、ならいいけど」
びっくりした・・・!
急に端正な顔立ちのかなちゃんに近づかれると、アクアくんとは別の意味でドキドキしてしまう。
だけど、それもしょうがないことだ。
いくらかなちゃんが天使のような姿から成長していろいろとやさぐれてしまっても、その可愛さは損なわれないのだから。
「・・・でさー、そこでアクアが私の好みを完全に理解しててさー?『肉料理、予約しておいたぜ?』って先回りしててー」
「そ、そう・・・」
既に五回は聞いた話を自慢げに話すかなちゃん。
どうやらこの前、キャリーケースをアクアくんと買いに行けたのがよっぽど嬉しかったみたい。
本来ならアクアくんの彼女として、何か反応するべきなんだろうけど、あまりそんな気分になれなかった。
おかしいな・・・紫の髪の子の話を聞いた時は自分でも信じられないくらい胸がざわついたのに。
「・・・? なによ、言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「ううん、何でもないよ。──それよりそろそろ到着するみたい」
不思議そうなかなちゃんに悟られないようにしつつ、私は降りる準備を始めた。
・・・・・・
・・・
佐賀に着くと、かなちゃん達B小町組とは撮影の時間が押してるということでそうそうに別れることになった。
残された私とアクアくんは先に宿泊先の旅館に荷物を置いて、当初の予定通り皆より先に観光することにした。
「こういう文明の利器があるとあまり田舎に来たって感じがしないね」
「確かにな」
電動キックボードに乗りながら先を走るアクアくんに声をかける。
初めて乗ったけど結構スピードは出るし、切る風も心地いいしでかなり快適だ。
交通量が少ないのも追い風になって、スイスイ走れている。
「・・・で、呼子町ではイカが有名だから、家族に酒好きがいるなら土産としておすすめだ」
「へー、・・・アクアくんって佐賀に詳しいんだね」
「・・・何度か来てるからな」
「今日向かってるのはどこなんだっけ?」
「諸富町だな。徐福伝説で有名な」
「徐福伝説?」
「──昔、中国が秦と呼ばれてた頃に、当時の始皇帝に命じられて不老不死の霊薬を求めて海を渡って佐賀に来た学者の伝説だよ」
「不老不死・・・何だかロマンがあるね」
「興味あるのか?」
「不老不死にはそこまでないけど、オカルトとかにはあるかな。これでも結構タロットカードとか占星術とか詳しいんだよ?」
「・・・ああ、確かに。あかねは好きそうだな、今ガチの時とか本番前にやってたのが眼に浮かぶ」
「あの時は初めて一人で出たお仕事だったから緊張をほぐすためにやってたというか・・・」
「本当にやってたのか・・・」
・・・よし、普通に話せてる。
ぎこちなくなんかなってない・・・よね?
あれから二人で話す機会がなかったけど、私たちの関係は変わっていない。
そう思えると少し安心できた。
そんなことを考えていると、やがてアクアくんが言っていた目的地に着いた。
「うーん、潮の香りだね」
「流石にここまで海が近いとな」
潮の香りに加えて、微かだが波の音も聞こえてくる。
都会じゃなかなか味わえない感覚だ。
「まっすぐここまで来たけど、誰かと待ち合わせしてるの?」
「ああ、実は・・・」
「──あれ?星野と黒川じゃん」
急に名前を呼ばれて振り返る。
そこには、サングラスをかけてマスクをつけた見るからに怪しい人物がいた。
「・・・変質者?」
「ちげーよ、俺だ俺」
男がサングラスとマスクを外す。
そこには見知った顔があった。
「・・・姫川さん?」
「おう」
姫川大輝。
私が所属する劇団の看板柱、様々な舞台やドラマで活躍する大人気俳優だ。
もしかしてアクアくんが会う約束をした人って、姫川さん?
アクアくんの方を見る。
アクアくんはいつものクールな表情で姫川さんを見た後、
「・・・なんであんたがここにいるんだ?」
訳がわからないと言わんばかりに質問をぶつけていた。
あ、別に姫川さんに会いに来た訳じゃないんだ。
「そりゃあこっちのセリフだ。わざわざ東京からこんな端っこまで」
「あれ?でも姫川さんは収録じゃなかったっけ?東ブレの稽古も他のドラマ数本撮りながらやってたし」
「あー・・・それはだな」
姫川さんがちらりとアクアくんの方へと一瞬視線を向ける。
「・・・ま、野暮用ってやつだ。お前らはデートか?わざわざ佐賀まで・・・おアツいね〜」
「茶化すな。・・・ルビー達B小町の撮影に着いてきただけだ」
「え?マジ?ってことは有馬もいるの?お前・・・流石に女二人連れて旅行はプレイボーイ過ぎるだろ」
「俺の話を聞いてたのか?有馬だけじゃない。MEMとルビー、事務所の社長もいる。だいたいそれを言うならアンタだって女癖・・・」
「おいおい、星野、あの夜のことは互いに内緒にしようと話したじゃねーか」
「あかねに誤解されるようなことばかり言うな!」
姫川さんとアクアくんが軽口を言い合っている。
なんていうか・・・
「・・・二人ともいつの間にそんなに仲良くなったの?」
アクアくんは稽古中、周りから浮いていた。
姫川さんとは役柄上、一緒に稽古することが多かったから二人で話してるとこはたまに見かけたけど、ここまで親しげには見えなかった。
この前の打ち上げで座長と一緒に抜けるとこを見たけど・・・。
男の子同士だし、案外打ち解けたらすぐに仲良くなれたのかもしれない。
「別に、いつも通りだ」
「ははは、だな」
不満げなアクアくんに対し、姫川さんは楽しそうに笑っていた。
「さて、デートの邪魔しちゃ悪いしそろそろ俺は消えるかな」
満足したのか姫川さんがアクアくんから離れる。
「あっ、俺がここにいたことは周りに黙っててくれよ。・・・特におっさんには絶対内緒な、うっさいから」
「あ、はい。わかりました」
金田一さんにも内緒・・・珍しいな。
正直金田一さん絡みでここにいると思ったのに。
「じゃっ、また──」
「・・・おや?そちらにいんしは」
姫川さんの去り際の声を遮るように、別の方向から女性の声が聞こえてきた。
声のした方に視線を向けると着物を着た綺麗な女性がこちらを見ていた。
わぁ、綺麗な人・・・。
服の上からでもわかるスタイルの良さ。
着物に着られない、むしろ着こなす美貌。
まるで昔の時代から飛び出したかのような。
そんな、印象をもった女性だった。
誰・・・だろう?
少なくとも私の知り合いにこんな綺麗な人はいない。
周りに声を掛けられたような反応をした人はいないし・・・。
ちらっと横目でアクアくんの方を見る。
普段のクールな表情だったが、一瞬、その表情が変わるのが見えた。
もしかして・・・アクアくんの知り合い?
一瞬、脳裏に先日のことが蘇る。
浮気はしてないとアクアくんは言っていた。
正直、何度も彼を疑いたくはない。
それに、伝え聞いた特徴とも一致しない。
紫がかったロングじゃないし、どちらかと言うとかなちゃんみたいに赤みがかった髪色だ。
背だって女性にしては高いし、別人な気がする。
・・・うん、そうだよ、間違いない。
私はアクアくんを信じるって決めたんだから。
胸の奥がズキリと痛む。
着物を着た女性はゆっくりと貴賓を感じさせる歩みでこちらに近づくと、アクアくんの方をまっすぐ見た。
「もし──」
「──初めまして、俳優の姫川大輝と言います」
一瞬の出来事。
まるで遮るかのようにアクアくんと女性の間に姫川さんが割り込んでいた。──しっかりサングラスとマスクを取って。
「お姉さん、大変お綺麗ですね。私、あなたみたいに綺麗な方を初めて見ました。ところでどこか事務所に所属してる方ですか?見たところ、髪やメイクはスタイリストにセットされてるように見えたので、同業かと──」
「わあああ姫川さん!ちょっと、ちょっとまって!」
慌てて姫川さんの口を抑えつつ、物陰に引っ張っていく。
アクアくんも呆れ顔でついてきていた。
「な、何言ってるの!月9にも出演して顔も売れてる姫川さんが真昼間から女の人をナンパなんて・・・だ、誰かに見られてたらどうするんですか!」
キョロキョロと辺りを見回す。
幸いにもこちらを見ている人はいない。
俳優、姫川大輝がいることは気づかれてないらしい。
「大丈夫だって、あの子多分同業だぜ?お互い炎上するようなことにはならないって」
「だとしても天下の往来に顔出しで、しかも初対面でやることじゃないだろ・・・」
「そうだよ!姫川さんはララライの看板でもあるんですよ!?常日頃からカメラに気をつけないといけない立場なんですから自重してください!」
私とアクアくんのお説教にもどこ吹く風だ。
昔から姫川さん、あまり自分の外面を気にしないんだよね・・・。
金田一さんがいっつも口を酸っぱくして言ってるの見るし・・・。
はっ、もしかして姫川さんがここにいるのって、有名になったことでたまったストレスを解消するために・・・?
「おいおい、そこまで甘く考えてはいないって。まずはちょっとした世間話をしようと思っただけさ」
「その割には思いっきり顔晒して、いきなり口説こうとしたように見えたが」
「ははは、星野はあまり女性経験がないんだな。あんなの挨拶みたいなものだって。良かったなー、黒川」
「姫川さん、もしかして真昼間から酔ってます?」
朗らかな笑顔で当然かのように話す姫川さんは否定するように首を振っていた。
シラフでこれならもっと心配なんですけど・・・。
「まあ見てな、ここから華麗に連絡先をゲットして見せるから」
「絶対酔ってますよね!?」
「諦めろ、あかね。どう見ても今のこいつはまともじゃない」
「───もし、わっちからもいいでありんしょうか?」
いつの間にか、近くまできていた着物の女性がおずおずと声を掛けてきた。
思わずビクッとしながら振り返る。
・・・うん、やっぱり綺麗だ。
華がある、というのだろうか。
余裕のある大人びた表情。
所作の一つ一つが完成された彫刻のように美しい。
花形と言うのはこの人みたいなことを指すのだろう。
「ええ、置きざりにしてしまいすみませんでした。何かありましたら──」
「──そちらの金色の髪の方、確か都会の寺小屋でのお祭りにおりんせんしたか?」
姫川さんを通り越して、アクアくんの方をまっすぐ見る。
明らかにアクアくんに向けた言葉のように感じた。
「寺・・・?」
「・・・星野かー」
がっくりと項垂れてる姫川さんは無視して今言った言葉を考える。
寺小屋・・・って確か、昔の学校を指す言葉・・・だよね?寺小屋のお祭り・・・学園祭のこと?
「・・・」
アクアくんは答えない。
怪訝そうな顔のままだ。
「・・・ふむ、伝わりんしたでありんしょうか。現代の言葉は難しいでありんすね。確か・・・寺小屋の名前は・・・よう、ようとうさい?でありんしたか?」
陽東・・・アクアくんが通う学校、陽東祭はその学園祭の名前だ。
もしかしてこの前の陽東祭にこの人もいたのかな?
「人違いでありんしたら申し訳ないでありんすが・・・偶然うちのメンバーとおんしが一緒にいたのを見かけたんでありんす。何か助けてくれたのなら一言、お礼を申したいと思いんして」
屈託のない笑顔。
どうやら本当にお礼が言いたくて声を掛けた、少なくとも私にはそう感じられた。
アクアくんも同じ結論に至ったのか、ようやく警戒を解いた。
「・・・別に気にしなくて構わない。困っていたように見えたから声を掛けただけだし、お礼を言われるようなこともしていない」
「おや?やはりあの時の殿方でありんしたか。・・・でしたら勝手に感謝されてくれなんし。ふふ、思ったよりもかいらしい方でありんすなぁ」
口元を袖で隠して笑う。
その上品さは彼女の神秘性を裏付けるかのようだ。
・・・そう。美少年のアクアくんと並んで立っていると、まるで本の中から飛び出したかのような一幕で・・・。
「・・・すごいなあ」
嫉妬よりも、その絵画のような美しさに息をこぼす。
私じゃこうはいかない。
舞台の上では天才なんて呼ばれようと、私はかなちゃんみたいに可愛くない。
きっと、アクアくんの隣に立つのはこの人のような──
「・・・よし。黒川、共同戦線と行こうぜ」
「へ?」
思わず口元をこぼれた言葉に、隣で黙っていた姫川さんが反応する。
私がその言葉の意味を理解するよりも先に、姫川さんは飛び出していた。
「──おーい、星野。いくら美人さんが相手とはいえ、彼女がいるのに二人の世界に入るなよなー!」
わざとらしく大声でアクアくんの肩に腕を組ませる。
な、な、何を言ってるのこの人はー!?
「・・・何の真似だ?」
「言葉通りだってー!恋人想いのアクアくんが浮気しないように、黒川の気持ちを汲んでやっただけさー!」
わざと周りに聞こえるように大声でアクアくんに話しかける。
いや、確かにちょっとモヤモヤしてたのは本当だけど、そんな露骨に伝えて欲しいわけじゃ・・・!
ていうかこっそりウインクすんなー!
「おや?そちらのお嬢さんは彼と恋仲なのでありんすか?」
ほらー!ちょっと気まずくなっちゃったじゃん!
「え、ええとー、はい・・・」
「ふむ・・・そうなんでありんすね・・・」
あ、あれ?
なんか気落ちしてる・・・?
もしかして本当にアクアくんのこと、気になってたんじゃ・・・。
「というわけでお姉さん!良かったらこの後、相手のいない俺とお茶でも・・・」
「あい、残念ながら今は仕事中でありんして」
速攻でフラれた姫川さんが地面に崩れ落ちる。
この人こんなにリアクション激しかったっけ・・・。
「──五号ー!そろそろ撮影再開するってー・・・」
そんな時、今度は別の声が聞こえてきた。
声のした方を見れば、着物を着た女性が走って来るのが見える。
着物に撮影・・・、宣材写真か何かの収録とかだろうか。
距離があって顔はわからないが、着物を着てるし目の前の女性の仲間だろう。
事実、五号と呼ばれた綺麗な人は控えめに手を振り返している。そんなところも儚く見えて似合っていた。
対照的に、走って来る女性は活発な印象が見て取れた。
近づくにつれ、徐々に輪郭が顕になる。
紫がかった綺麗な長い髪。
小柄な体躯。小さな顔に小さな口。
眼は大きく、瞳は星のように輝いている。
誰もが羨むような、隣の綺麗な人とは違うタイプの美貌。
だけど私は────ただ戦慄していた。
彼女の美しさにではなく、記憶と寸分違わぬその顔に。
脳裏にその人の名前が浮かぶ。
私は自然とその単語を口にしていた。
「─────アイ?」
・・・・・・
・・・
推しの子、好きな男キャラランキングがあれば間違いなく監督と並んで上位にくる人、それが姫川さん。
コミックス最終話でファンになった人も多そうですが、私も大好きです。
血の繋がりがあることを伝えてからは、作中に書かれてないだけでこんなやり取りがあったはず・・・!
二人でドライブとかしてないかな・・・いやきっとしてるはず。
後編はもうほぼ書き上げてるので近いうちに上がります。
いつもコメントありがとうございます。
誤字修正ほんと助かってます。
どんな感想も励みになるのでお時間ある方は書いて頂けると嬉しいです!
ゾンサガ映画についても語りたい・・・。
引き続きよろしくお願いします!