推しの子 in SAGA   作:片倉の推しの子Bです

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うわあ!?ゾンサガ映画効果でたくさんの人が読んでくれてる!!

おっはようございまああああああす!!

どうも、推しの子アニメ1話で脳焼かれて大好きなゾンビランドサガと勝手にコラボさせた妄想を垂れ流すプロジェクト担当の片倉の推しの子Bと申します。

映画では脱出したさくらとたえのもとに皆が駆け寄るときに愛ちゃんが勢い余って押し倒すところがやらしかです。

頭の中で手を銀河に伸ばそうのフレーズが流れ続けてるのは私だけじゃないはず・・・。

小説本編は今回ゾンサガ要素薄めですが、最後まで読んで頂けると嬉しかね。
高評価や感想も書いてもらえるともっと嬉しかよ!



第三十話 佐賀事変 SAGA 後編

 

前回までのゾンビランドサガは!

 

アイだよー☆

 

撮影現場に着いた私たちを待っていたのは、演技のえの字も知らないような大根役者達と昔の映画についてずっと語ってるアマチュア映画監督、そして地元の老人ホームから暇だからってことで観に来たおじいちゃんおばあちゃん達だった!

皆が予想してたのよりも数倍しょぼぼーんな現場に皆がしょぼぼーんと意気消沈するなか、何であれ映画に出れる!って喜んでるリリィちゃんと着物や刀の小物を撫でながら「・・・懐かしいでありんすね」なんて物騒なこと言うゆうぎりだけが目を輝かせて波乱の予感!

加えて今日一日で本編一時間半全カット撮り終えるからって聞かされた時はあまりの無謀さに流石の私達も(本当に)眼が飛び出したねー。

ただ幸いにもモチベーションマックスウルトラシューティングマジカルトゥインクルスター、天才子役のリリィちゃんや、やけに気合いが入ってるゆうぎりのおかげで演技初心者組(さくらちゃん達)のフォローは完璧!

監督の無茶なスケジュールをやり通して、何とか時間内に最終カットを残して他は全部撮り終えたのでした!

 

・・・ん?聞いてないし知らない?

あれ?言ってなかったっけ?

 

・・・なーんて、はい!実は・・・今ここで初めていいました!・・・えへ♪

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

「あれ?姉さんがいないとや」

 

押しまくりの撮影スケジュールにも終わりが見えた頃、ひと時の休憩中にサキちゃんが呟いた。

辺りを見回せば、確かに。

ゆうぎりの姿が見えない。さっきまで巽が化粧直ししてたはずだけど・・・。

もうそろそろ休憩も終わる時間。

終わりが見えたとはいえ、スケジュールには相変わらず余裕の余の字もない。

 

「私、探してくるよー」

 

サキちゃんに一言伝えて辺りの散策に向かう。

おっと、撮影で使った下駄のまま来ちゃった。

着物を着てるのもあって、普段と違って歩きづらい。

撮影中も皆転びそうになったり、実際に転んだりと大変だった。

そんな中、ゆうぎりだけはまるで羽が生えたように軽やかに動けてたなー。

普段から履いてるし、あの独特の歩幅とかにも慣れてるんだろう。

ゆうぎりは私たちの中で一番古い時代のゾンビだ。

その生きてきた時代は明治。

学のない私でも相当昔だというのはわかる。

だからゆうぎりが今回の時代劇に乗り気だったのは、そんな自分が生きた時代を感じられるからなのかも・・・。

 

そんなことを考えているとゆうぎりの姿が見えてきた。

ん?よく見ると他にも人影が見えるかも。

ゆうぎりを呼ぶために近づくと、そばにいた人物の正体にすぐに気がついた。

 

・・・アクアだー!

 

学祭ぶりのアクア、あまり日は空いてないけど、会うたびに何度でも愛おしく思えるから不思議だ。

・・・おっと、今はゆうぎりを呼んでこないと。

私はアクアに気付きつつも、気づかないふりをしてゆうぎりに声をかける。

 

 

「──五号ー!そろそろ撮影再開するってー・・・」

 

 

そこまで言ってようやく他の人物の存在に気がつく。

一人は男の子。

ボサボサの髪に無精髭だけど、整った顔立ちをしていて、アクアよりも少し背が高い。

・・・どこか見覚えが・・・あっ!東京ブレイドの人!

控え室でも会ったブレイド役の人だ。

 

そしてもう一人。

背中まで伸びた綺麗な黒髪に、淡いエメラルドのような青の瞳の女の子。

顔を見てピンと来た。

確か、アクアと付き合ってる・・・黒川あかねちゃん!

最近いろいろあって忘れてたけど、あかねちゃんには会ってみたかったから何とか思い出せた。

とはいえ、私は知ってるけど向こうからしたら初対面。

いきなりいろいろ聞いたら変に思われるかな?

あっ、でも付き合ってるのは公表してるみたいだし別にいっかー。

 

「あ──」

 

「おっ、星野妹じゃん」

 

私が話しかけるよりも前に、ブレイドの人が口を開いていた。

ん?ていうか星野妹って・・・ルビーのこと!?ルビーもいるの!?どこどこ!?

思わずキョロキョロと辺りを見回す。

それらしき人は見えない。

むぅ・・・見つからない。

そうだ!ブレイドの人の視線から探してみようっと!

再びブレイドの人へと顔を向けると眼が合った。

 

「・・・あれ?もしかして私のことを言ってる?」

 

「ん?違うのか?」

 

「姫川さん、ルビーちゃんはアクアくんと同じ金髪の女の子ですよ」

 

「なに?そうなのか?」

 

「まだそこまで有名じゃないとはいえ、顔すら知らなかったのか・・・」

 

「姫川さん、役者としてはすごいけど他のことは割とずぼらだから・・・」

 

アクアとあかねちゃんが呆れながら呟く。

おおー、息ぴったりだー。

 

「いやー悪いな、初めて会った時、なんか星野に似てる気がしてよ」

 

「え!?どこが似てた!?」

 

「うおっ!?」

 

ブレイドの人の言葉に思わず食い気味に反応する。

 

「えーと・・・たぶん雰囲気?つーか、なんとなーく合った時に思ったっつーか・・・」

 

初めて会った時を思い出そうとしてるのか、頭を悩ませている。

だけど正直途中からあまり耳には入ってこなかった。

というのも・・・

 

大好きなアクアとそっくりって言われたのが嬉し過ぎたから!

 

えー、やっぱりわかっちゃうんだー。まあ隠していても似ちゃうものは似ちゃうんだろうなーえへへー。

ブレイドの人、いいこと言うなあー。流石人気俳友、目利きが違うねー!

 

口にはせずに何とか言葉を飲み込む。

だけど嬉しくて思わず顔がニヤけてしまうのは止められなかったみたい。

 

「あ、あのー俺、何かしました・・・?」

 

「えー、別にー。何もしてないよー?」

 

思いっきりブレイドの人に不審に思われちゃった。

まあいっか!

 

「・・・」

 

「・・・アクアくんどうしたの?なんか、顔怖いよ?」

 

「いや、何でもない」

 

「・・・」

 

 

はっ!つい周りを置いてきぼりにしちゃった!

ゆうぎりも若干呆れ顔してるように見える。

 

「あはははー、ごめんねー。ちょーっと暴走しちゃったー」

 

「あー、いえ、気にすん・・・ないでください。・・・どうも調子狂うな・・・」

 

頭を掻きながらブレイドの人が困ったように視線を逸らす。

 

「あ、私フランシュシュ七号!そこの五号と同じでアイドルやってまーす!」

 

気を取り直して自己紹介することにしよう。

アクアが私のことを話してるかもしれないけど、印象を回復するためにも念のためだ。

・・・このままだと急に現れて急にニヤニヤした変な人だと思われかねないし、あかねちゃんにはいろいろと聞きたいこともあるしね。

 

「──改めて、ご紹介に預かりんした。フランシュシュ五号でありんす。どうぞよしなに」

 

「──!!どうも、姫川大輝です。役者やってます」

 

ブレイドの人、姫川くんがゆうぎりに向けてキメ顔で自己紹介する。

ゆうぎりは涼しい顔で流していた。

皆の視線がまだ自己紹介してないアクアとあかねちゃんに向けられる。

 

「・・・星野アクアだ。一応役者」

 

「く、黒川あかねって言います。ええっと、私も役者です」

 

「──ああ、やっと合点がいきんした。お三方は東京ぶれいどの芸者でありんすな」

 

ゆうぎりがぽん、と手を叩く。

姫川くんの後ろでアクアとあかねちゃんがひそひそと話していた。

 

「今気づかれたってことは完全に姫川大輝として認識されてなかったな・・・」

 

「た、駄目だよアクアくん。姫川さんあんなに自信満々に名乗ってたんだから・・・」

 

「・・・ええ!その衣装を見る限り五号さんも演技のお仕事をされてますよね?宜しければこの月9主演経験もある俺が演技のコツを手取り足取り・・・」

 

 

 

「───な、七号ちゃーん!!」

 

 

 

姫川くんのセリフを遮るように今度は私の後ろの方から声がした。

振り返ればさくらちゃんがこちらに走ってくるのが見える。

 

「た、大変なんとよ!!実は・・・ってブレイドと刀鬼と鞘姫がおるうううう!?」

 

「おっと」

 

驚きながら走り寄ってきたさくらちゃんが転びそうになるのを何とか支える。

今までのパターンだと、ここで転んだらいろいろ取れてゾンビバレしかねないし、危ない危ない。

 

「あ、ありがと・・・ってええ!?なんで東京ブレイドの人達が集まっとーと!?」

 

「一号ちゃん、先に何が大変だったか教えてくれる?」

 

「え?あ、うん」

 

このままだと話が進まないと思い、無理矢理さくらちゃんの意識を戻す。

さくらちゃんは一瞬、眼を白黒させるがすぐに思い出したようで慌てふためいた。

うん、結局これじゃああまり変わらなったかも☆

 

「実は・・・」

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

さくらちゃんの話をまとめるとこうだ。

最終シーンの撮影に参加予定だった役者たちが急に食中毒で倒れたらしい。

しかも運の悪いことに残りのカットは主人公と主人公の友人、そしてゆうぎり演じるヒロインのラストシーン。

この映画のクライマックスとも呼べる重要なシーンだ。

変なこだわりの強い監督も妥協はしたくないらしく、撮影は完全に止まってしまっていた。

 

 

「──くそっ!なして撮影前に生カキなんて食べてると!」

 

「四丁目の婆さんが差し入れで持ってったらしいと。採れたてホヤホヤやって」

 

「あんれ?あいどるの子達は大丈夫だったと?皆美味しそうに食べとったし、ほら、あの長か黒髪のお嬢ちゃんなんて口いっぱいに頬張っとって」

 

「まったく、あんな可愛か嬢ちゃんたちがピンピンしとーとに、うちの若い男衆はダメダメやっとね」

 

「どうすると?佐賀藩士役の男からひっぱってくるか?」

 

「無理っちゃね。普段沖で働いてる連中に今から新しい芸仕込んとも使いものにならんと」

 

 

撮影現場に戻ってきた私たちは、これからの撮影をどうするか悩んでいる監督達を横目に見つつ、皆と合流する。

 

「ただいまー」

 

「おう、姉さん達がいない間にやべぇことになってんぞ」

 

「聞いたよー、せっかく撮影全部終われそうだったのに」

 

「代役は立てられないんでありんすえ?」

 

「撮る予定だった演者と同じくらいの背丈の人がいないみたい。自主映画だし、キャストはほとんどが他に仕事をもってる一般人。そんな人達の予定をやりくりしたから、今日一日で撮影なんて無茶なスケジュールになったみたいだし」

 

「ここまで何とか漕ぎ着けたのに・・・最後の最後で躓くなんて・・・悔しいです」

 

「・・・そうだ!背丈が問題なら衣装の丈を仕立て直せばいいんだよ!」

 

「そっか!幸太郎さんが東京ブレイドの時にツルギの衣装を六号ちゃんのサイズに仕立て直したって!」

 

「おお!グラサンにそんな特技あったな!よし、すぐに呼ぼーぜ!」

 

 

 

・・・

 

 

 

「無理だ」

 

巽はすぐ見つかった。

・・・トイレの前でお腹をさすってる姿で。

 

「確かに俺ならすぐに衣装をお前らのサイズに仕立て直すことはできる・・・だが今は・・・!?」

 

セリフの途中で巽がカッ、と音が聞こえるくらい勢いよく空を見る。

 

「う、うおおおおおお!!!」

 

そう言うが早いか、再びトイレに引き篭もった。

 

「もしかして・・・幸太郎さんも・・・」

 

「そういえば食べてたねー」

 

「ああ!?じゃあ仕立て直しはできなか!?」

 

「ていうか何で私たちは無事なんだろ?」

 

「私たち、ゾンビですから・・・お腹も頑丈なんじゃないですかね・・・たえさんなんておかわりもしてましたし・・・」

 

「ヴァウ?」

 

巽が動けないなら、この案(仕立て直し)は難しいかも。

うーん、万事休すってやつ?

 

「────あー、ちょっといいか?」

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

アイとフランシュシュ五号は一号に呼ばれて慌ててどこかに行ってしまった。

取り残される形で俺とあかね、そして姫川がぽつんと立っている。

 

「・・・」

 

哀愁漂う背中。

流石の姫川大輝でも彼女達のあの反応はこたえたか・・・。

姫川とは付き合いの長いあかねも、どう声をかけて良いかわからずにおろおろしている。

俺はため息をつくとその背中に声をかけた。

 

「・・・彼女達も仕事中みたいだし忙しかったんだろ。今日は間が悪かったと思って・・・」

 

「・・・おいおい、星野。俺がいつ諦めたって?」

 

姫川がゆっくりと振り返る。

その濁った瞳は全く諦めてるようには見えなかった。

 

「いや、諦めた方がいいですよ姫川さん!どう見てもトラブルがあって呼び出されたみたいですし!邪魔になっちゃいますって!」

 

「男には引けない時ってのがあるのさ。それにピンチはチャンスって言うだろ?」

 

「口説く相手のピンチにチャンスって言うやつ初めて見た」

 

「ばーか。そんな下心はねえって。俺はただ純粋にな?この二十年の芸歴が五号さんの助けになるかもって親切心で・・・」

 

「どう見ても下心満載なんだが・・・」

 

「最低・・・」

 

俺たちの冷めた眼も気にせずに姫川がアイ達の消えた方へと向かおうとする。

今の姫川を放置するのも忍びない・・・か。

仕方ない、誰かが止めないと際限なく暴走しそうだしな。

あかねも俺と同じ考えのようで隣で思いっきりため息を吐いている。

 

「・・・ごめん、アクアくん。同じ劇団だし流石に今の姫川さんは見過ごせないかも」

 

「いや、俺も同じことを考えてた。一旦あいつを追うぞ」

 

あかねと頷きあうと俺たちは姫川の後を追いかけた。

 

 

 

・・・

 

 

 

「あー、ちょっといいか?」

 

俺たちが追いつくと、ちょうど姫川がフランシュシュのメンバーに声をかけているところだった。

 

「あん?誰や・・・」

 

「あー!姫川くんだー!」

 

金髪のゾンビ、フランシュシュ二号を押し退けて六号が現れる。

流石は伝説の天才子役。

今の姿の姫川にもすぐ気づいたらしい。

 

「おう、久しぶりだなー、六号!」

 

いえーいと姫川と六号がハイタッチする。

それを見て他のメンバーも姫川が誰かわかったのか、警戒を解いていた。

 

「あれ?さっきのブレイドだー」

 

「さ、先ほどは挨拶もできずに・・・」

 

「なに!?ホンモノと!?・・・ん?てかなんでブレイドがここにいると?」

 

疑問に対し、姫川が五号へと視線を向けながら右手で前髪をかきあげる。

ファッション雑誌の写真みたいなキメ顔を作ると、舞台の上でしか見せないような涼やかな笑顔を見せた。

・・・まさかあいつ。

 

「───キャストが足りなくて困ってるんだろ?手を貸してあげようと思ってさ☆」

 

────あのバカーー!

慌ててあかねと共に、ドヤ顔の姫川の首根っこを引っ張って物陰へと引きずり込む。

 

「・・・おいおい星野、黒川も。いいところだったのに何すんだよ?」

 

「何すんだよ・・・じゃない。あんた、自分が何を言ってるのかわかってるのか?」

 

「困ってる人に手を差し伸べてるだけだろ?」

 

「姫川さんはプロの役者でしょ!?事務所の許可も無しに勝手に映画に出演なんてできないですって!」

 

俺たちはそれぞれが事務所に所属するプロのタレントだ。

組織に所属する以上、許可も取らずに勝手によその撮影に出演することはできない。

バレたら最悪、出演した本人だけでなく、事務所もパッシングを受けることになる。

 

「大丈夫だって、自主制作の映画らしいし。エンドロールの名義変えて載せてもらえばバレないって」

 

「姫川さんはもうちょっと自分の知名度を知ってください!そんなんじゃいつか足元掬われちゃいますよ!」

 

「ファンってのは良くも悪くも目敏い奴が多い。そいつらはあんたの味方になることもあれば敵になることだってある。『姫川大輝が佐賀で撮影してた』・・・たったそれだけのSNSへの投稿で信頼が地に堕ちることだって・・・」

 

「──もしかして、大輝くん出演してくれるの!?」

 

声がした方を見ればいつのまにか六号がそばに来ていた。

その眼は純粋に共演できることへの期待でキラキラと輝いている。

 

「・・・なあ星野、黒川。この眼を前にしてできないって言えるか?」

 

味方を得た姫川がにやにやと笑う。

・・・悪いな姫川。これでも俺は元小児科、子供の相手は慣れてる。期待に満ちた顔をしている六号には悪いがここは大人の対応で・・・

 

「・・・うう、ずるいですよ。はぁ・・・わかりました、今回は眼を瞑ります・・・」

 

あかね!?

気がつけば隣にいたあかねがあっさり陥落していた。

恐るべし天才子役。計算でやってないなら底が知れないな・・・。

 

「あ、でも大輝くんが入ってももう一人男の人のキャストが必要で・・・」

 

「大丈夫だって。な?星野?」

 

「・・・俺は手伝わないぞ」

 

「おいおいつれねーな。俺とお前の仲だろ?」

 

心底嫌そうな顔で姫川の悪態に応える。

だが・・・

脳裏に浮かぶのは先程のアイの顔。

彼女はどんな現場でも笑顔だった。

嫌なことがあっても辛いことがあっても、仕事で笑顔を崩さなかった。

まるでそれが当然と言わんばかりに。

そんなプロ意識の塊でもある彼女が、映画が完成しないと聞いて少しばかり──ほんの一瞬だが笑顔が曇った。

その変化に気づけたのはきっと──彼女のファンとしてではなく、家族として少しでも近づけたからだと、俺は信じたかった。

 

「・・・わかった。あんたの提案に乗ってやる」

 

「お?やっと乗り気になったかよ」

 

「勘違いするな。あんたの下心のためじゃない」

 

「素直じゃねえなあー?」

 

鬱陶しく肩を組もうとしてくる姫川をいなしつつ考える。

身バレのリスクもあるが、姫川の言うように自主制作の映画だし公開する範囲は狭いはず。

念の為、クレジットには偽名で載せてもらって顔もなるべく隠すようにすれば問題ないだろう。

アイ(推し)のためなら多少のリスクは許容する。

それがファンというものだろう。さりなちゃん言ってた。

 

「わ、私もできる範囲で二人に協力するよ!」

 

「ああ、頼む」

 

「よし!これで役者は揃ったよな?」

 

「・・・うん!ありがとう!みんな!」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「なんかよくわからんがブレイド達が助けてくれると?」

 

「き、緊張しますね・・・!」

 

「まあでも、私たちの出番はほぼ終わってるからねー」

 

姫川くんとアクアが舞台経験者と聞いた監督は喜んで出演を了承した。

 

頭数が揃い、中断していた最終カットの撮影が大慌てで再開しようと現場が動き出す。

 

本当はアクアと同じカットで共演したかったけど、私の出番はもう全部撮り終えちゃったし今回は諦めるしかないかー。

むしろここからはラストシーン。

いくら二人がプロの役者でも、いきなりその空気に順応するのは大変なはず。

それに共演相手でもあるゆうぎりは今・・・

 

 

「──ふふ、東京ぶれいどのお侍さん達と演じられるなんて・・・血がたぎるでありんすな♪」

 

 

・・・めちゃくちゃノリに乗ってるからなー

案外二人とも食べられちゃうかも?

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

カチンコの音と共に俺たちの意識は切り替わる。

 

ここは遥か昔。

明治時代の佐賀。

 

俺の名前は百崎喜一。

この佐賀で活動する若い活動家だ。

 

若さゆえに眩しく、若さゆえに無鉄砲。

あと先考えない性格が災いして人から疎まれるも、やがてその姿に感化された仲間が集い、佐賀を無血で改革へと導く───はずだった。

 

結果的には理想だけが先走り、かつての佐賀戦争の生き残りに旗頭として担ぎ上げられ、一つの悲劇を生む。

 

これは、そんな男の物語だった。

 

 

 

ある雪の晩。

喜一の言葉も虚しく、かつての佐賀藩士の生き残り達は武器を持って決起しようと企んだ。

若きリーダーは自分たちのことをわかろうとしない。

所詮は口先だけの甘ちゃん、あの戦争を生き延びた俺たちとは違う。

武装した佐賀藩士達。

その行手を阻んだのは笠を被った一人の男。

 

 

決着は一瞬だった。

屈強な佐賀藩士達が、一人また一人と斬り伏せられていく。

 

 

喜一が異変に気づき、彼らを止めようと起った時にはもう遅く、目前にはかつて仲間と信じた者たちの無惨な姿とその凶行をやったと思われる男がいた。

 

「──だからやめとけって言ったんだ、俺は」

 

「伊東・・・なんで?何して、お前・・・なんでこれ・・・」

 

「・・・なあ喜一、これでも言えるか?諦めないって」

・・・

 

 

伊東──姫川が俺の前で刀を手に、セリフを言う。

飛び入りで参加した俺達だが、今日中にクランクアップしなければならない都合上、セリフを覚える時間はほぼなかった。

そのため、監督の許可を得たうえで脚本を大きく逸脱しない限りはある程度、セリフを改変してもいいと言われている。

だが流石は姫川大輝。

長ゼリフも淀みなく喋る。

まるで最初からこの撮影にいたかのような自然さだ。

 

「佐賀に潜む逆賊共の監視が俺の役目。単なるガキの戯言で終わればそれで良し。だが、こと一線を超えた以上は・・・」

 

「い、伊東はん・・・」

 

「これしかないんだ、・・・これは」

 

 

この映画の終盤、主人公の喜一が友人である伊東の正体を知る場面。

喜一は自身の信じてやってきたことが、悲劇を招き寄せたと知り絶望する。

・・・ここは感情演技で表現する場面。

少し前までの俺ならば過去のトラウマに怯え、表現できなかっただろう。

だが・・・

 

「そん・・・な・・・」

 

東京ブレイドを経て感情演技を学んだ今の俺ならば。

トラウマを乗り越え、この場面で最適な感情演技が出来る。

星野アクアの経験を利用し、喜一の心情を表現できる。

 

「 ──この国はまだ歪で野蛮だ。他のどこにも生きるすべを持たない、選べもしないやつがごまんといる」

 

だが、眼の前の男は俺にただ表現するだけでは許さない。

姫川大輝。

劇団ララライの看板役者。

その一挙手一投は、俺に半端な演技を許さない。

自身の演技に絶対の自信を持ち、共演相手に相応のクオリティを求める。

東京ブレイドのときはやつが明るく陽気なブレイドを演じ、俺は冷たく静かな刀鬼を演じた。

だが今回は逆。

やつが普段は喜一をたしなめる伊東を演じ、俺は伊東を振り回す喜一を演じる。

・・・わかってるさ。

今度は東京ブレイドの経験を活かしつつ、応用をしなければならない。

姫川はそれを理解したうえで俺を焚きつけた。

 

「──なあ、答えろよ。・・・喜一!!」

 

復讐が終わった今、この世界で成り上がる必要はもうない。

あいつと張り合うための理由も、トラウマを思い出させる辛く苦しい感情演技も無理にする必要もないのかもしれない。

だが・・・

視界の端に推し(アイ)の姿を捉える。

例え他の誰も見ていなくても、彼女の前でだけは無様な姿を見せられない。

 

姫川の挑発に真っ向から立ち向かう。

星野アクアにとって、今この瞬間が晴れ舞台だ。

 

 

・・・

 

 

──やっぱ最高だ、お前は。

星野の感情演技、東京ブレイドの時よりもレベルが明らかに上がっている。

最初はつまんねえ演技をするやつとしか思っていなかった。

あの舞台で俺の敵になるとしたら黒川か有馬だけだと思っていた。

だが実際は六号が、星野が俺の想像を上回る演技を見せてきた。

役者は舞台の上で常に成長する。

カメラの前で進化し続ける。

ああ、こんなに面白いもんは他にねえ。

感謝してるぜおっさん。

この世界に俺を誘ってくれてよ。

 

「やめ──伊東!!」

 

 

星野、お前と張り合うのも楽しいけどよ。

わりぃが今日の獲物はお前じゃねえんだ。

 

 

 

 

 

 

───べべん!

 

 

 

 

 

・・・

 

 

三味線の音ともに伊東の刀を防いだのは布で顔を隠した女だ。

その手には三味線に仕込んでいたと思われる刀を握っている。

 

「あんた・・・いったい・・・っ!?」

 

ピイイイイイイイイイ!!!

赤笛の音とともに騒ぎを聞きつけた見廻りの足音が聞こえてくる。

 

「 ちっ!ここまでか!」

 

伊東が身を翻してこの場を去っていく。

俺も逃げなくてはならない。

この凶行の場に活動家の俺がいてはまずいことになる。

頭ではわかっていても、身体は意に反して動いてくれなかった。

 

「・・・喜一はん!」

 

そんな俺のもとに、伊東の刃から護ってくれた女、・・・いや、花魁であり、伊東と喜一の友人であるゆうぎりが駆け寄る。

 

「・・・今はここを離れんしょう」

 

ゆうぎりはその場を動けない俺に自分の肩を貸すと、引きずるようにその場を離れた。

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

「──どうか喜一はんの作る新しい佐賀、見せてくれなんし」

 

「・・・お、俺の全てをかけて誓う!!必ず新しい佐賀ば作って見せる!!」

 

喜一が涙を拭き、舞台からはけていく。

ゆうぎりはその背中が見えなくなるまで見送ると、持っていた煙管に火をつけた。

 

「 ──ったく、伝説の花魁ってのはとんでもねーな。あんたの旦那ってのは何者なんだ?」

 

追ってきた俺に対し、特段驚いた様子もない。

まるで来るのがわかっていたかのようだ。

 

俺の問いに対し、ゆうぎりは煙管から吸い込んだ煙を空へと浮かばせる。

そして、ゆっくりとこちらへ振り向くと煙管の中の煙草の葉をその場に落とした。

 

「抜かずの吉右衛門、という名を聞いた事はありんすか?」

 

「・・・ハッ?!・・・日比谷の鬼・・・!!こりゃあ俺も本気でいかねーとな・・・!」

 

そこで会話は終わりだと言わんばかりに刀を抜き放つ。

呼応するかのように、ゆうぎりもまた仕込み刀を抜いた。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

昔の、それこそ本物の刀を持って斬ったはったを繰り返していた時代は死が身近なものだったそうだ。

 

いわゆる達人と言われたもの達は刀を握ると人が変わったらしい。

それまでどれだけ温厚だろうと、その瞬間から相手の生命を奪うことも辞さない鬼になる。

その視線は氷の如く、対峙する相手に死への恐怖を感じさせる。

 

今の俺がまさにそうだ。

俺は今、間違いなくこの場で間近に迫る死を感じている。

彼女の持つ仕込み刀は当然、本物ではない。

今は血気あふれる動乱の時代じゃない。

 

だが彼女の存在が、彼女の放つ気迫が、俺に錯覚させる。

つまり今、姫川大輝は、彼女に呑まれているということ。

 

・・・おいおい、冗談きついぜ。フランシュシュは六号に加えてこいつも化け物かよ。

様々な舞台で演技をした。

何度もカメラの前で芝居をした。

劇団ララライの看板役者。

なんか偉そうな賞もたくさんもらった。

月9の主演もやった。

そんな俺が、どこの誰とも知らないアイドルに萎縮してる?舞台の上で?

 

───ざけんな。

 

頭の中で眼の前の鬼に勝つイメージをする。

己の手にある模造刀を握り、必勝の構えをとる。

 

勝つぜ、俺は舞台の上(ここ)じゃ最強だ。

 

次の展開は頭に入っている。

だが、あえてそれを頭から消す。

監督に心のなかで詫びを入れつつ、この先の新しい展開を思い描く。

勝負だ、フランシュシュ。

あんたが何者だろうと、ここじゃ俺は負けねえ。

もはや油断も驕りもない、姫川大輝(オレ)はこの未知の戦場へと踏み出した。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

木の枝に降り積もった雪が自重でミシミシと音を立てる。

やがて、耐えきれなくなった枝が折れ、雪が重力に従って落ちた。

 

その音が合図だった。

一瞬の攻防。

 

伊東は刀を振らず、ゆうぎりに斬られる。

──はずだった。

 

「──!?」

 

互いの刀が鍔迫り合う。

ゆうぎりの刀を、伊東が刀で止めている。

 

「・・・あれ?なんか話と違わない?」

 

周りからひそひそと疑問の声が湧き出る。

だが俺はあえてそれを黙殺する。

いや、そもそも気にする余裕すらなかった。

 

ゆうぎりは周りの意に反して刀を涼しい顔で受け止めている。

──こいつ、読んでやがった・・・!!

 

俺が脚本を無視することを・・・!!

 

刀に力を込めて距離を離す。

仕切り直し・・・だがテンポは崩さない。

そのまま息をつく暇もなく斬り込んだ。

 

今は呆気にとられている監督が冷静になり、カメラを止められたらそこで終わりだ。

だがそんなことは俺がさせない。

そんな余裕すら感じさせないほど俺の演技で魅せ続ける。

それこそが姫川大輝の役者としての実力だと、周りに思い知らせるのだ。

 

見栄を切るように派手に立ち回る。

本物の侍が見れば鼻で笑うような大振りも、舞台の上じゃ必殺の鉞になる。

どれだけここで魅せるかが役者の仕事。

 

しかし・・・ひらりと身を捻って躱したかと思えば舞うように斬り返す。

達人のような身のこなしを見せたかと思えば、能を意識したような鮮やかな振り付けも見せる。

この女・・・アイドル、と言うよりは・・・同業者に近い、のか?

 

互いの刀が交差し、再び距離が離れる。

監督も他のスタッフももう何も言わない。

ただ俺達の殺陣に魅せられている。

 

とはいえ、もう暗くなってきている。

決着は・・・近い。

 

「・・・そろそろ終わりにしようか」

 

「・・・あい。わっちもそう思ってたとこでありんす」

 

「へっ・・・気が合うね」

 

このセリフはいらなかったか。

刀を構えると向こうも既に構えていた。

 

全員が固唾を呑んで見守る中、俺達は同時に踏み出した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

 

「──さーがー♪」

 

三味線の音が鳴り、スポットライトが当たる。

 

「──さぁぁがぁぁぁ♪」

 

再び三味線の音とともにスポットライトが増える。

 

「・・・さぁぁがぁぁぁ──yeah♪」

 

音楽が流れ出し、スポットライトが当たったアイドル達が曲に合わせて踊りだす。

 

「「「「「「「ちきらんちきらんちきらんちきらん・・・♪」」」」」」」

 

大正ロマンを彷彿とさせる衣装に身を包んだフランシュシュがステージの上に飛び出す。

時代劇の撮影は終わり、フランシュシュのミニライブが始まった。

 

 

 

 

 

 

「いやー、こう見るとマジでアイドルだな」

 

隣でステージを見ながら姫川大輝が呟く。

既に衣装は脱いでおり、今は私服に戻っている。

 

「・・・当たり前だろ。何だと思ってたんだ」

 

「そりゃあ俺達と同じ役者だろ。なんてったってこの俺と舞台の上で張り合ってたんだぜ?」

五号の方を見ながら当然と言わんばかりに笑う。

先程までの勢いはどこへやら。

東京ブレイドの時も思ったが、こいつの切り替えの早さには驚かされる。

この二面性こそが、姫川大輝という男の本質なのかもしれない。

 

「しっかしすっかり暗くなっちまったなー」

 

「どこぞの誰かが勝手に殺陣のシーンを増やしたからだろう」

 

「おいおい、ちゃんと事前に監督から許可は貰ったろ?それに結果的にはめちゃくちゃ感謝されたしな。『この一本は間違いなく佐賀の歴史に残るテープになる』って喜んでたし!」

 

「歴史に残ったら困るだろ・・・」

 

撮影に参加する前にした約束をもう忘れたらしい。

黒川たちの苦労が浮かばれるな・・・。

 

「そういやあかねはどこいったんだ?」

 

「ん?おお、黒川ならもうちょっとステージを見やすい位置で見るってよ。伝言頼まれてたわ」

 

「・・・そうか。ならちょうどいい」

 

「・・・おいおい、彼女がそばにいないからってあんまりアイドルにお熱になるなよ?黒川は間違いなく根に持つタイプだぞー?」

えらくテンションの高いうざ絡みを無視すると姫川へと俺は向き直った。

 

「─── 何か言いたいことがあるんだろ。ここならステージに夢中で誰も聞いてないしチャンスだぞ」

 

「・・・まじか。・・・一応聞くけどいつから気づいてた?」

 

「こっちで会ってすぐだよ。あかねに理由聞かれて一瞬目が泳いだろ」

 

「あー・・・あれかー・・・」

 

姫川は気まずそうに頬をかく。

だがすぐに諦めたようで大きなため息をついた。

 

「・・・別に聞いても面白いことはねえぞ?」

 

「ここまで聞かされて秘密にされる方が気になるだろ」

 

「まあ、それもそうだよなー」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「実は俺の母親・・・姫川愛梨の家族からよ、会いたいって連絡があったんだ」

 

姫川の話はこうだ。

姫川愛梨・・・姫川大輝の母親である彼女の家族から、会いたいという連絡があったらしい。

今は佐賀の方に住んでいるらしく、以前から何度かコンタクトがあったが、姫川は仕事の忙しさを理由に断り続けていたそうだ。

 

「前々から何度か話はあったんだ。けどよ、親父たちが死んでからずっとだんまりだったのに、俺の名前が売れるようになってから時折連絡が来るようになってよ、虫のいいやつらだと思ってなあなあにしてたんだ。正直、生涯会うつもりはなかったよ」

 

「・・・それがどうして会うつもりになったんだ?」

 

「・・・まあ、いろいろと考えるようになったのと、あとは・・・お前に会ったからかな」

 

「俺・・・?」

 

「ああ。・・・おっさんに拾われて、役者始めてからは施設にいた頃みたいなムシャクシャした気持ちは薄まっていった。一生芝居やれればきっと満足して死ねるだろ、てずっと思ってた」

 

姫川が視線を夜空に向ける。

俺も釣られて空へと眼を向けた。

 

「けどよ、曲がりなりにも血を別けた弟が見つかって、・・・なんつーか、この世界にまだ俺にも繋がりがあったんだなって思うようになって・・・くそっ、言っててなんか恥ずくなってきた」

 

星を見ながら、その時の気持ちを思い出すように少しずつ吐露する。

俺にとって姫川はアイを殺した犯人へのてがかりに過ぎなかったが、こいつにとって俺はもういないと思っていた家族の繋がりが見つかったようなことだったらしい。

・・・雨宮吾郎も、祖母が引き取っていなければ同じように考えていたのだろうか。

 

「・・・とにかく!気が変わったから会いに来たんだよ!」

 

「そうか・・・、もう会ったのか?」

 

「 ・・・」

 

「まさか・・・まだ会ってないのか?」

 

 

呆れた。

こいつはわざわざ佐賀まできて、最後の最後に怖気づいたのだ。

 

「う、うっせーな!俺の心は繊細なんだよ!」

 

どこが、とツッコみたくなるのを我慢する。

はあ・・・仕方がないな。

 

「・・・何度も話があったってことは、向こうには会いたい意志があるってことだ。なら・・・一度くらいは会うべきだと俺は思う」

 

さりなちゃんの親もアイの親も娘の最期の時にすら会いに来なかった。

それに比べれば、この人達は有情だろう。

 

「それに医学的にも親を失った子供は将来、大人になったときにパートナーや子供を欲しがりやすい傾向があると言われている。子供のときに愛情に飢えた経験が新たな繋がりを求めるそうだ。あんたの会いたいって想いは別に不思議なことじゃない」

 

「お、おう・・・。まるで医者みたいなことを言うんだな」

 

「まあ第一志望は医者だし」

 

「え?もしかしてお前頭いいの?」

 

「・・・偏差値70くらいは」

「・・・やっぱ血の繋がりないんじゃね?」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「はぁ・・・まあ、うだうだ言っても始まらねーか」

 

観念したのか、姫川が大きなため息をついた。

だがその顔は嫌そうな声を出しながらも、どこかすっきりとしている。

大方ここで話しかけた時点で、背中を後押ししてもらいたかっただけだろう。

 

「どーせ戻ったらおっさんに怒られるんだし、ここまで来たなら会わなきゃ損だしな」

 

まだ言い訳を並べている姫川だが、思い出したかのように口の端をニヤけだした。

 

「まあ、このあとはお楽しみタイムがあるし、明日は覚悟決めるか!」

 

「なんだ気持ち悪い」

 

「おい、シンプルな暴言は人を傷つけるぞ。・・・そうか、理由が知りたいのかー?しょうがねえなー特別だぞー?」

 

ニヤニヤしながら手招きする。

うざったい動きにいらっとするも、あかねがいない今、こいつを止められるのは俺しかいないので仕方なく近寄った。

 

「・・・実はこのあと、五号さんと飲みに行く約束してる」

 

「いつの間に・・・」

 

撮影が終わったあとに姿が見えないと思ったが、フランシュシュの楽屋に顔を出してたのか・・・。

 

「・・・わからないな。あんたがなんでそこまで執着するのか」

 

「そりゃああの美貌だろ?正直かなりストライク」

 

「美人系なら他にもいるだろ。七号とか」

 

「いやー、あの子はちょっと・・・」

 

「あ?コロすぞ?」

 

「こわっ!なんだよ急に!」

 

しまった。推しを馬鹿にされてつい本音が。

 

「 別にあの子も可愛いと思うぜ?ただ・・・どうもあの子を前にすると調子が出ないというか、苦手というか・・・」

 

自分でも理由がわからないのか、頭を悩ませながら唸っている。

そういえば前も似たようなことを言ってたな。

俺とこいつが兄弟である以上、母にあたるアイに対して無意識に感じるところがあるのかもしれない。

 

「で、どこで飲むんだ?」

 

「お前未成年だろ、ついて来させねえぞ」

 

「 別に、ただの興味本位だよ」

 

一応、お目付け役であるあかねには伝えておこう。

金田一さんに報告するかどうかは任せるか・・・。

 

「そうか?ならいいか・・・。『BarNewJofuku』っていう五号さん馴染みの店らしい。あの人の行きつけだし、きっといい雰囲気の店なんだろうな・・・、星野もそう思うだろ?」

 

聞いたことがない店だが、相手の馴染みの店ならこいつも暴走し過ぎないだろう。

 

「まあ、ほどほどにな・・・」

 

「ふっ、次会うときはカワイイ彼女を紹介するぜ」

 

なぜ自信満々なのかわからない姫川を放ってステージへと視線を戻す。

そういえば、あかねはどこへ行ったんだろうか。

見やすい位置に移動したらしいが・・・。

 

 

 

 

 

「「「「「「「・・・ちきらんちきらんちきらんちきらん♪」」」」」」」

 

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

ダンスの時の足の高さ、笑顔の時の口角、骨盤の位置、高音から察せられる普段の声の大きさ。

その一挙手一投足が、かつて調べ上げた記録と一致する。

 

そして何よりも、私の中のアイが告げている。

彼女が偽物ではなく、本物なのだと。

 

「ありえない・・・」

 

アイはずっと昔に亡くなっている。

あれだけ調べ上げたから間違いない。

死亡記録だって確認した。

 

じゃあ私の眼の前にいるこのアイはいったい・・・?

 

死んだはずの人間が、当時と変わらぬ姿で生きている。

 

「・・・調べなくちゃ」

 

私は眼の前の少女たちのすべてを見逃さないように、スマホのカメラで撮り続けた。

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

「あーあ、すっかり暗くなっちゃった」

 

MVの撮影初日が終わり、旅館の周りを散歩していた私は、空を見ながら呟いた。

自然に溢れたのどかな風景。

佐賀は東京と比べて星もよく見える。

 

せっかく佐賀まで来たのに、ママに会うどころかまともに観光もできてない・・・。

 

MVの撮影は明日もあるし、しばらくは動けないだろう。

一応、ミヤコさんがスケジュールを調整してくれて最終日は丸一日空けてくれてるけど・・・。

 

「アクアは今頃、ママのライブを観に行ってるんだろうな・・・」

 

・・・ずるいずるいー!

私も観に行きたい!

欲を言えばもっと甘えてバブってオギャりたいよー!

 

「・・・はぁ」

 

虚しい。

明日の仕事に備えて早く寝よう。

もう少ししたらMEMちょと付き添いのミヤコさんも旅館に戻ってくるだろうし。

 

 

 

 

──カァー!

 

 

 

 

「きゃっ!」

 

突然、頭上からカラスの鳴き声が聞こえてきた。

予想よりも近かった音に、思わずびくっと震える。

 

夜闇で見えないがカラスは一声鳴くと、羽ばたく音とともに離れていった。

 

「・・・もー、なんなのさー!」

 

元凶がもう近くにいないことはわかってるが、つい文句が口に出る。

流石にこの暗さにカラスの声は少し不気味かも・・・。

背中に薄ら寒いものを覚え、私はまっすぐ旅館に戻ろうとする。

 

 

 

 

 

 

「───こんばんは」

 

 

 

 

 

 

だけど、急に背後からかけられた声に足を止めた。

振り返ると年端もいかないような女の子が一人、ぽつんと立っている。

 

いつの間にそこに・・・?

ついさっきまで、近くには誰もいなかった。

私は先程までの薄ら寒い感覚を思い出し、思わず後ずさる。

 

「だ、だれ?」

 

少女は答えない。

ただ口元に薄っすらと笑みを浮かべただけ。

 

「───忘れ物を、届けに来たの」

 

少女が後ろ手にしていた手を前に出す。

小さな両手で包まれたものがなにかはまだわからない。

 

「わ、私の質問に答えてよ!」

 

「───別に、何でもいいのだけど・・・うん、じゃあツクヨミって名乗っておこうかな」

 

ツクヨミ。

意外にも私の質問に答え、そう名乗った少女は、見た目に不釣り合いな笑みを崩さない。

こちらの心を見透かしているみたいで・・・私は嫌悪感を覚えた。

 

「さて、君の質問には答えたんだ。今度は私の番だね」

 

そう言って彼女はこちらににじり寄る。

私は警戒のあまり、再び後ずさろうとする。

 

「怖がらなくてもいいよ。───だってこれは、君が探していたものだから」

 

そう言って開いた手のひらには───

 

 

 

 

「──────なん、で」

 

 

 

────見覚えのあるキーホルダーがあった。

 

 

 

 

 

『アイ無限恒久永遠推し!!!』

そう書かれた隣にはデフォルメされたアイの顔が描かれている。

昔、無理をして連れて行ってもらったアイのライブ会場で、ガチャガチャを回して出たキーホルダー。

そして・・・天童寺さりなが死の間際にせんせーに渡した大切なもの。

 

間違いない、あれは私がせんせーにあげたものだ。

遠目からでもわかる。

だって、あれは病室で穴が開くくらいずっと眺めていたものだから。

細かい傷も、剥げた塗装も全部、全部覚えてる。

 

「───これはね?一人の男が、その死の間際まで、肌身はなさずつけていたものさ」

 

私の脳裏に、忘れようとしていた記憶が蘇る。

誰も来ない山の中、たった一人で放置されて、何十年も亡骸をさらされた。

優しくて、すぐサボって、でも誰よりも大切だったせんせー。

その理不尽()が、誰かの悪意によって行われたことを。

 

「彼は当時、とあるアイドルの秘密の出産を担当した医者だった。そして、出産当日、彼は───ふふっ、別にここから先は言わなくてもわかるかな?」

 

「 ・・・何を、言いたいの」

 

「 ・・・彼を死なせたのは、アイを刺したストーカーだった。つまり、当時、このストーカーはあの病院までいたことになる」

 

知っている。

せんせーの遺体が見つかったあと、警察の調査でママが死んだ事件の犯人と同一犯だったとニュースで見た。

 

「───実はね?もう一人、あの場にはいたのさ。当時、中学生くらいの男の子が、犯人であるストーカーと一緒に」

 

その言葉に、心臓が大きく高鳴る。

まだ、終わってない──?

 

「・・・それは、だれ?」

 

「───さあ?それを見つけるのが君の役目だろう?」

ツクヨミの楽しそうな顔が見える。

だけど、もう私にはどうでも良かった。

せんせーを殺したやつが、まだどこかでのうのうと生きている。

許せない、絶対に許せない。

必ず捕まえて、私の手でその命を─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

────ルビーはきっと、アイを超えるアイドルになれるって信じてる。

 

 

 

 

────当然!ルビーは私譲りでとーっても可愛いいんだから!

 

 

 

 

 

 

 

───────────あ、

心のなかで溢れようとしていた黒い感情が消えていく。

そうだ、私は──────

 

 

 

「────それは、受け取れない」

 

 

「────え?」

 

 

 

私は彼女の持つキーホルダーに伸ばしかける手をおろす。

初めて、ツクヨミの笑みが崩れた。

 

「 なぜ?だってこれはあなたの復讐の証。君の大切なものを奪った奴らへの──」

 

「───ねえ、知ってる?アイドルになって、ドームのステージに立つことができる確率」

 

「は?」

 

その少し間の抜けた顔がおかしくて、思わず笑みがこぼれる。

 

「たくさんのアイドルに勝って、たくさんの人に認められて、たくさんの時間をかけて、ようやく立つことが出来るステージ」

 

目をつぶればまぶたの中に浮かび上がる。

たくさんのファンで埋まったドームで、赤と白と黄のサイリウムの光に囲まれて、ステージの上で歌って踊る私達。

 

「そこから見た光景がどんなものか、アイだって知らない」

 

ステージ袖にはミヤコさんがいて、きっと涙を溢しながら心配そうに応援してくれている。

 

「私はそんなステージに、本気で立とうとしてるの。・・・それ以外のことになんて、構ってられないよ」

 

あの病室にいた頃、世界のすべてを憎んでいた。

テレビの中の世界だけはキラキラと輝いていて、私だけが苦しい現実に取り残されてるんだと感じた。

だけど、ママの子供に転生して、可愛い容姿とまともに動く身体を貰って、やっと自分の夢を踏み出せた。

 

アイドルの世界は厳しかったけれど、一歩ずつママの歩いた道を辿ってるみたいで嬉しかった。

 

・・・病室にいた頃はすぐそばに終わりがあったから、考えられなかった。

 

人生は長いけどタイムリミットがあって、アイドルでいられる時間はその中でもとりわけ短い。

 

ママみたいに突然の不幸でその道を閉ざされることも、そもそもスタートラインに立つことすらできない人がいることも知っている。

応援してくれる家族も頼りになる仲間もいることが、どれだけ幸運でどれだけ恵まれているかを知っている。

 

せんせーを殺した犯人のことは憎い。

 

だけど、それ以上に私はアイドルでありたい。

 

だから、私は、もう迷わない。

 

この道は、私自身が選んだものだ。

 

星野ルビーは、誰のためでもなく、自分のために夢を叶えてみせる。

 

天童寺さりなの後悔も、せんせーの無念も背負って。

 

 

 

 

 

 

「・・・そう、か。君は────」

 

私の告白を静かに聞いた後、ツクヨミは一瞬、悲しそうに眼を細め、惜しむように目を伏せた。

 

「────もう、あの病室にいる君じゃないんだね」

 

 

 

───カァー!

 

 

 

 

再び鳴き声とともにたくさんのカラスが現れ、ツクヨミを囲うように飛び回る。

カラスが飛び立ったときには、既にそこに彼女はいなかった。

ふと、彼女が立っていた場所に何かが落ちていることに気づく。

 

「・・・これって・・・」

 

『アイ無限恒久永遠推し!!!』

彼女が手に持っていた、せんせーの形見だ。

 

「 あの子・・・どうして・・・?」

 

置いていった意図がわからず、途方に暮れる。

だけど心のなかで、別の疑問も渦巻いていた。

 

───あの子、最後に消える瞬間、ちょっと寂しそうだったような・・・。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 




姫川さんはアクアが絡むとテンション爆上がります。
やっぱ仲良いエピソードがあればあるほど原作最後の姫川さんの味が・・・ね?

佐賀事変は本編では過去の話でしたが、こっちでは時代劇にしました。
脚本はもちろん、あの人です。
配役は一部声優繋がりです。


日曜の応援上映は行けなかったので17日の応援上映は行きたいところ・・・!
もしまだゾンサガ映画見てない人は是非見て下さい!
来週から4DXも始まるよ!

遅筆ですが、引き続き書いていきますのでよろしくお願いします!
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