推しの子 in SAGA   作:片倉の推しの子Bです

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どうも、片倉の推しの子Bと申します。
ネバーランドSAGA、リリィちゃん回です。
この話もゾンサガの全エピソードで一、二を争うくらい好きで、本編視聴した際は正直泣きました。
To my Dearestでパピーとリリィの生前の姿が流れるとことかもう⋯ね?

この作品では推しの子キャラも登場して勝手にコラボってます。
是非、最後まで呼んで頂けると嬉しいです。


第三十四話 GO!GO!fathers and SAGA 前編

釣り堀に一人の男が座っている。

その手には釣り竿があり、糸は水面へとたれている。

時折、釣りざおが揺れるが男が釣り上げる気配はない。

ただくわえた煙草のくゆる煙だけが立ちのぼって消えていく。

隣には釣った魚を入れるバケツがあるが、当然中身は空だった。

 

「──よう、釣れてるか?」

 

どれくらいそうしていたのか、後ろから別の男が声をかけてきた。

少し訛りの入った言葉に、座っていた男はいつものように気だるげに返す。

 

「・・・まずまずだ」

 

もう何度目だろうか。

こうして釣り堀にいるとたまに声をかけられることがある。

その度に人相の悪さを見て、不機嫌を隠さない声を聞いて、すぐに声をかけてきた相手は離れていく。

もともとここには一人になりたくて来ているのだから構わないが、人の顔を見るだけで回れ右するのはどうかと思うときもある。

 

「そうか?さっきから竿が震えてるのに引いてねえじゃねえか」

 

だが意に反してこの男は食い下がってきた。

・・・まあこんな日もある。

無視していれば勝手に離れるだろう。

そう判断して男は見向きもせずに煙を吐く。

 

「・・・おい、聞いてんのか?」

 

その態度が気に入らなかったのか、声をかけてきた男が不機嫌そうに近づいてくる。

迫る足音が耳に入るが、気にする様子もない。

 

ついに、すぐそばまで来た男がその肩を掴んだ。

 

「いつまで無視してやがる・・・っ」

 

怒声と共に触れた手に力が入り、肩に痛みが走る。

だが肩を掴まれた男は全く意に介さず、その視線は釣り糸の先から動かない。

どうでもいい。

男の態度がそう物語っていた。

 

「っっ・・・てめえ、こっちを見やがれ!壱護!!」

 

拳が走る音と共に椅子から転げ落ちる。

名前を呼ばれ、ようやく男が殴ってきた相手へと視線を向ける。

 

「・・・新太」

 

その眼には、久しぶりに再会した友人の姿が写っていた。

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

「おうよ、てめーと腐れ縁の大古場新太とよ。忘れたとは言わせなか!」

 

「・・・ふん」

 

思わず視線を逸らす。

大古場新太。

こいつとは昔からの付き合いだ。

俺がアイドルプロデューサー、こいつは新聞記者。

なんとなく目指す業界が近いこともあって、学生時代からよくつるんでいた。

上京してからも互いに時間を見つけては酒を飲みに行って愚痴を言い合った。

だがこいつが急に地元に帰るって言い出してから・・・それっきりだった。

 

「・・・今更何の用だ」

 

「・・・ああ?何の用やとお?」

 

新太が逃さないとばかりに俺の襟首を掴む。

 

「んなもん、決まっとるけん!腑抜けたてめえを殴りにきたとね!!」

 

「・・・じゃあもう用は済んだろ。とっとと消えろ」

 

「っっ!てめえ!まだ殴り足りねえようだな!!」

 

再び大古場が拳を握る。

だが俺は、特に抵抗もせずにその拳を見つめていた。

 

「・・・なんで殴り返さねえ。なんで何もしねえ!」

 

「・・・別に。お前を殴る理由がねえからだよ」

「あるやろが!俺が相談もせずに地元に帰ったこと、あんだけ互いに上京してからの夢を語ったのに勝手に一人で降りたこと、てめえにもいくらでも俺を殴る理由があるとが!!」

 

「・・・そんなもん、もう忘れちまったよ」

 

「っっ!!」

 

再び拳が振り下ろされ、痛みと共にその場に倒れる。

だがそれ以上は新太も何もしなかった。

ただ荒い呼吸を繰り返す音だけが響く。

 

「・・・てめえが目を掛けていたアイドルに起きたことは俺も知ってるけん。でもな、それでてめえがてめえのカミさんを捨てていい理由にはならねえんだよ・・・!」

 

「・・・」

 

脳裏にミヤコの姿が浮かぶ。

アイが死んで、俺は何も言わずに苺プロから出ていった。

残されたミヤコがアイの子供と苺プロを守るためにどれだけ苦労したかなんて・・・想像に難くない。

 

「何とか言えや!この馬鹿野郎!」

 

「・・・うるせえな」

 

思わず口を開いていた。

アイのこと、ミヤコのこと、何も知らねえくせに。

知った気になって突っかかって来やがって。

勝手に俺の前から消えたてめえが・・・っっ

 

「俺が何も考えずにアイツの前から消えたと思うか?」

 

ゆっくり立ち上がり新太と向かい合う。

 

「やることがあんだよ・・・アイツから離れたのもそのためだ」

 

「やること・・・?」

 

「決まってんだろ・・・?アイをあんな目にあわせたやつをぶっころすんだよ」

 

「・・・っっ」

 

新太の眼が動揺でゆれる。

 

「・・・何でだ?てめえにとって、あのアイドルは単に所属していた事務所のアイドルだろ?目を掛けていたのは知ってるけん、ばってんそこまで・・・」

 

「はっ!てめえにはわかんねえだろうよ。・・・確かに、俺にとっては事務所のアイドルの一人だが、それ以上に──」

 

アイの姿を思い出す。

普段から馬鹿みたいに考えなしに行動してこっちに迷惑ばかりかけて、最後まで俺の名前をちゃんと覚えなかった失礼なやつだった。

だが・・・

 

「──自分の娘みたいなもん、だったんだよ」

 

「・・・そうか」

 

何かを察したのか、先程までの勢いは失せ新太が眼を伏せる。

だがすぐにこちらを見ると口を開いた。

 

「・・・だとしても、俺は苺プロにお前は戻るべきだと思ってる」

 

「・・・」

 

「お前が考えてる以上にお前のカミさんは頑張ってる、だがそれ以上に傷ついてもいるけん」

 

その言葉に胸がずきりと痛む。

苺プロの活動は俺の耳にも入ってる。

アイの子供である星野ルビーが、B小町を襲名して復活させたことも知っている。

その活動が、少しずつだが軌道に乗り始めたことも。

そして、それはミヤコの負担が大きく増えているだろうことを意味することも。

 

「・・・俺はお前じゃねえからよ。手塩にかけて育てたアイドルが亡くなった気持ちも、カミさん捨ててその復讐に走る気持ちもわからんけん」

 

腐れ縁だからこそ、わかることもある。

こいつは昔からお節介焼きだった。

 

「だがな、いつまでも亡くなったアイドルに引っ張られてたら、拾えるものも拾えなくなんぞ」

 

・・・新太は無神経なやつだが悪いやつじゃない。

だから、心から俺のことを心配して言葉をかけていることはわかってる。

だが、俺は・・・

 

「・・・今のお前に何言っても無駄やな」

 

ようやく俺の襟首を手放すと乱れた服を直す。

 

「・・・壱護、一度佐賀に戻って来い。そして、フランシュシュのライブを観ろ」

 

「フラ・・・?新太、お前急に何を言って・・・」

 

「フランシュシュだ。佐賀のご当地アイドルだ。・・・お前に見せたいアイドルがいる。だから来い」

 

新太はそれだけ言うと来た道を戻っていった。

フランシュシュ。

聞いたことないグループ名だ。

 

「・・・当たり前か。佐賀になんてもう何年も戻ってねえしな」

 

別にどうでも良かった。

今の俺にとって、大事なのはアイの復讐をすること。

アイをころしたクソ野郎を、地獄の果てまで追いかけてその仇を取ること。

それだけが・・・。

 

「くそっ、新太が余計なことを言うせいでミヤコの顔がちらつきやがる・・・」

 

このままだと気分は晴れないままだ。

なら・・・

 

「あいつ、最後に妙なことを言っていたな」

 

フランシュシュ。

佐賀のご当地アイドル。

なんでそんなことを言ったのか理解ができなかった。

アイドルの姿を見せて、俺にプロデューサーとしての頃のモチベーションを取り戻させたかったのか。

それとも・・・

 

「考えたって、答えはでねえか」

 

アイの事件、直接アイの命を奪ったストーカーはすぐに自殺した。

だが、そのストーカーにアイの住所を調べられるだけの力はなく、間違いなく共犯者がいる。

だが時間も経ち、警察は実質捜査を打ち切った。

あれから十年あまり、俺は私財を使って、調査会社や探偵を雇って調べ続けている。

ちょこちょこ日銭は稼いでいるが当然、懐に余裕なんてものはない。

正直、佐賀になんて戻る理由も時間もない。

 

「調べるだけ調べるか・・・」

 

新太は・・・あれで俺のことを心配してここまで来たはずだ。

なら最後に言ったあの言葉は、きっと何かしらの意味があるはず。

俺はスマホでフランシュシュについて検索をかける。

そして・・・

 

「・・・アイ?」

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

 

佐賀旅行から帰って、自宅のベッドで一息つく。

 

「この旅行はいろいろありすぎたなあ」

 

奇妙で不可解で、だけど1本の線で繋がっていそうな・・・。

 

 

 

 

『──許されるなら、あかねの隣にいさせてほしい。今度は俺が・・・あかねを守りたい』

 

 

 

 

・・・あれって、正式に付き合うってことでいいんだよね。

番組とか関係なくただの男女として・・・。

顔が熱を帯びるのを感じる。

 

「・・・えへへ」

 

寝返りを打ちながら、旅行中に撮影した写真をスクロールする。

証拠づくりも兼ねてアクアくんと佐賀を観光した時の写真が流れていく中、急に全く異質の写真が映った。

 

「・・・そうだ、フランシュシュ・・・」

 

それはとあるノートの写真。

フランシュシュのプロデューサーが書いたと思われる、フランシュシュの正体に繋がる重要な資料だ。

 

「・・・やっぱり、ここからこのページまでは上から塗り潰されてる・・・」

 

比較的最初の方のページが読めなくされてる。

もしかして見つけた人に情報を渡さないようにするため?

そうとしか考えられない。

巽幸太郎。

彼はいったい何者なんだろうか・・・。

 

「少なくとも、アクアくんのお父さんじゃない・・・んだよね・・・」

 

アクアくんは追っていた相手がもう亡くなってると言った。

どうやって突き止めたかはわからないけど、もしそうなら私が疑っていた巽幸太郎は犯人じゃないことになる。

 

「フランシュシュをゾンビにして、アイドルとしてプロデュースしている謎の人物・・・」

 

言葉にすると本当にわけがわからない。

 

「このノートを読み進めれば、その謎も解明できるかも・・・」

 

アクアくんの復讐が終わった今、急いで巽幸太郎を追う理由はない。

だけど、フランシュシュがゾンビであるという疑惑はまだ晴れてない。

むしろ、深まったとも言える。

 

「あのアイが本当にゾンビだとしたら・・・その目的は調べないと・・・」

 

もしかしたら、アクアくんやルビーちゃんに危害を及ぼそうと考えてるかもしれない。

・・・いや、本人がそう考えてなくても、悪意を持った人に利用されれば容易に二人は傷つけられる。

 

「アイは本物だと確信できる・・・。けど他のメンバーは確証まで至ってない。せめてあと一人くらいは確かめたいな・・・」

 

フランシュシュのメンバーはおそらく全員がアイと同じゾンビ。

写真フォルダをスクロールしていき、目当ての人物の写真を表示する。

 

「フランシュシュ六号・・・星川リリィ」

 

かなちゃんと同じ時代に活躍した天才と呼ばれた子役。

当時、私も子役の端くれだったから本人と話したこともある。

だけど、流石にその頃の記憶は曖昧で、今の私が六号と話しても星川リリィ本人とわかるかは自信がない。

 

「けど、身内なら流石に本人だってわかるはず」

 

頭の中で彼女の正体を暴くための必要なピースを組み上げていく。

・・・これは褒められないやり方だ。

誰かに知られたら、その人はきっと私を非難するだろう。

だけど、私にも守りたい大切なものがある。

大切な、人がいる。

だから・・・。

 

ううん、いくら理由をつけても誤魔化せないな。

私がフランシュシュにこだわる理由はそれだけじゃない。

 

ゾンビというありえない存在(オカルト)

私はオカルトが好きだ。

だけど、好きだからこそ実在することを望まない。

 

だから、ゾンビについて私は全てを解明しなければならない。

私の大好きなオカルトを守るために。

 

そのためには、また佐賀に行く必要がある。

私は自身の罪悪感を振り払うようにスケジュール帳を開いた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

 

 

『──今日あったこと、フランシュシュの皆には内緒にしてほしいの』

 

 

 

「──ってアイは言っていた。ほかのメンバーを不安がらせないようにしたかったのかもしれない。・・・けど、アンタにだけは伝えておくべきだと思ったから言っとく」

 

「・・・そうか」

 

今日の仕事が終わり、皆が寝静まったのを確認した私は部屋を抜け出して巽のいる書斎にいた。

現状、防犯を意識するならコイツに頼るのが一番。

アイには悪いけど、コイツにだけは話しておこうと思ったのだ。

 

 

「わかった。俺の方でも対策する」

 

「・・・大丈夫なの?」

 

「問題ない。俺はお前らのプロデューサーだぞ。──すべて任せておけ!!」

 

自信満々に胸を張る巽に、いつかさくらが言っていたことを思い出す。

 

『こ、幸太郎さん、あれで頼れるとこは頼れるから・・・』

 

・・・そうよね。

何だかんだコイツのおかげで、私たちフランシュシュはピンチを何度も乗り越えてきた。

きっと今回も何とかしてくれるはず。

 

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

そう、思ってたのに・・・。

 

「──おい!お触り禁止いったやろが!おっさん!!」

 

私たちの眼の前で一人のおじさんが詰められている。

やたらとガタイがよく、顔には大きな傷があり、普通の人とは思えないくらいの強面だ。

サキがヤーさん、と呼ぶのも正直わかるかも・・・。

 

このおじさんは握手会中にリリィを見て襲いかかろうとした・・・らしい。

肩を掴み、近寄ろうとしたところをサキが思いっきり蹴飛ばしたのだとか。

まったく、アイの件もあって、こっちはピリピリしてるっていうのに・・・っ

ていうか、アイツは何していたわけ?

俺の方でも対策する──っていったのは何だったのよ!

 

 

 

「・・・すまない、あの子が似ていたんだ」

 

 

 

「ああ?誰にだよ」

 

「昔、テレビによく出ていた、星川リリィという子役に・・・」

 

「!?」

 

リリィのことを知っている・・・生前の関係者?

リリィも暗い表情を浮かべており、このおじさんと何かしらの関係があることは明白だった。

 

「・・・サキ、ここは一旦出直してもらいましょ」

 

「ちっ、しゃあねえな」

 

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

その日の夜、握手会が終わり、就寝前の反省会をしていた私達は昼間のリリィちゃんの件について話し合っていた。

 

「まさかリリィちゃんのことを知ってる人も出てくるなんて・・・」

 

「リリィの件はあの子だけの問題じゃない。現にアイに関しては一人二人じゃすまないくらい関係者が現れてる。なら今後も、私たちのことを知ってる人は出てくると思ったほうがいい。私と純子なんて特にね」

 

「確かに、名乗ってないとは言え不安になりますね・・・」

 

「目立つ人ことしはる人ほど身が悪うなるんは、いつの世も同じでありんすな」

 

「かっー!めんどくせっ!」

 

「・・・そういえばリリィちゃん、水浴び遅いね」

 

「私、様子を見てくるよー」

 

そう言って部屋を出る。

リリィちゃん・・・帰ってきてからずっと暗かったな。

あのヤーさんとどんな関係なんだろう?

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

いつも水浴びをしている水道のとこに行ってもリリィちゃんはいなかった。

 

「リリィちゃん・・・いったいどこに・・・」

 

真夜中とは言え、今の私たちはメイクをしていない。

普通の人に顔を見られたらパニックになるかも。

でもリリィちゃんは賢い子だ。

当然そんなことはわかってるだろうし、ここから遠くまでは言ってないはず。

となると・・・

 

「公園、かな?」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「やっと見つけたー」

 

「アイちゃん・・・」

 

公園でぽつんと座り込むリリィちゃんを見つけ、声をかける。

こちらを見たその顔は昼間と同じく、暗い表情をしていた。

 

「こんな夜更けにお散歩だなんて、リリィちゃんも悪い子だね〜」

 

隣に座るとリリィちゃんは視線を再び地面に向けた。

 

「どうしてここがわかったの?」

 

「リリィちゃんを追いかけるのは二度目だからねー、私の中のリリィちゃんセンサーがビビーンと反応したのだー☆」

 

「あはは・・・。何それ、変なのー」

 

リリィちゃんは私の冗談に乾いた笑みで返す。

だけど、先程よりはほんの少しだけ明るくなったかな。

そのままリリィちゃんの隣で空へと視線を向ける。

 

「・・・やっぱりこっちの空は星が綺麗だねー」

 

「えっ?・・・ホントだ、キレイ・・・」

 

「私、宮城にいたこともあるんだけどあっちも星が綺麗だったんだー。まあ、あっちは山の上だったからってのもあるけど、佐賀の空も負けてないなって。こういう景色は、やっぱり東京じゃ見れないよねー」

 

「うん・・・わかる。リリィも昔、よくマミーの星を探しにパピーと夜空を見上げてたから・・・」

 

空に浮かぶ星たちはとても輝いている。

昔から夜空を見上げて星を見るのは好きだった。

怒られて冬空の下お母さんに家から締め出された時も、毎晩誰かの泣き声が響く無機質な施設の窓から眺めた時も、ライブ終わりの火照った身体でゴミ捨て場にあった靴を見つけた時も。

変わっていく私の周囲とは別に、星だけは変わらず私を見つめていた。

 

 

いつか星を見る時間が、大切な人達と過ごす幸せな時間になっても、星はあいかわらず私を見つめていた。

 

こうして死んだあともその輝きは変わらない。

変わらないものがそばにあることは、ずっと変わっていくものに囲まれてきた私にとって嬉しいことだった。

例え他人にとって取るに足らないことでも、それを幸せに思えることこそがほんのちょっぴり自慢だった。

 

しばらくの間、二人で無言で星を眺める。

 

 

 

「・・・昼間のおじさんね、リリィの本当のパピーなの」

 

 

リリィちゃんが沈黙を割くように口を開いた。

 

 

「えっ・・・?あのヤーさんが?」

 

「誰それ?」

 

「あのおっきなおじさん。・・・えっ?あのおじさんがリリィちゃんのお父さんなの?」

 

「リリィはマミー似だから。まさかパピーが来るなんて思ってもなかった」

 

昼間見たおじさんとリリィちゃんを頭の中で見比べる。

・・・ヤーさん要素どこー!?

 

「・・・でもそっか。リリィちゃんもお父さんに会えたんだね」

 

「・・・本当はね、パピーのこと、忘れようとしていたの。でもパピーは・・・」

 

そこからリリィちゃんは生前のことを話してくれた。

お母さんが早逝してお父さんと二人暮らしだったこと。

テレビを見ることが大好きなお父さんのために、タレントになったこと。

そんなリリィちゃんのために仕事を辞めてマネージャーになった大好きなお父さんのこと。

そして・・・リリィちゃんの死んだときのこと。

 

「・・・それがパピーとの最後だったの」

 

「・・・」

 

リリィちゃんの過去を聞いて、いろいろと言いたいこと、考えたいことはある。

けれど・・・一個だけ聴き逃がせないことがあったような・・・。

 

「えっと・・・リリィちゃん、一個だけいい?」

 

「なあに?」

 

「話の中でたまーに出てきた『まさお』って誰のこと?」

 

「リリィの捨てた名前」

 

「・・・そっかー」

 

・・・うん、今夜はとっても星が綺麗だなー。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

「というわけでー、リリィちゃんはまさおくんだったのです」

 

みんなのいる寝室に戻ってリリィちゃんから聞いた話を伝える。

最後まで静かに聞いていたけど、サキちゃんだけは笑いをこらえきれなかったみたい。

 

「くっ、くく・・・!ひ、ヒゲで死ぬってマジで最高っ!そりゃあ伝説だわ!」

 

「サキちゃん!」

 

「で?で?ちんちくのフルネームはなんて言うと?」

 

「・・・豪正雄」

 

「でははははははは!!ごっつ!がばいつよそがばいつよそ!!わははははっ!・・・おっさんは!?おっさんは!?」

 

「・・・豪剛雄」

 

「あははははは!!まんまっ!まんまっておいっ!」

 

「サキちゃんきらーい!」

 

「悪い悪いっ!・・・ひひっ!」

 

まだお腹を抱えて苦しんでるサキちゃんを置いて、みんなに視線を向ける。

 

「これは驚きんしたなあ」

 

「アイさんの時もそうでしたが、意外と世界って狭いですよね・・・」

 

「はぁ・・・で、この先どうするの?」

 

「これからだってリリィはリリィのまま。ゾンビは成長しないんだもん、もう怖いものなしだよ、えへへ」

 

「・・・私のときみたいに、会いたかったら会いに行ってもいいんだよ?リリィちゃんのお父さんなんでしょ?」

 

「また会えたのは嬉しかったけど・・・、久しぶりにパピーの元気な顔も見れたしリリィ的には満足なの!」

 

「リリィちゃんがそう言うならいいけど・・・」

 

「ちなみにあいつは知ってたの?」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「知っていたに決まっているだろうが」

 

巽の部屋に突撃した私たちを待ってきたのはギターをかき鳴らしていた巽だった。

 

「はぁ・・・」

 

予想通りの答えに、全員がため息をつく。

まあ、私たちをゾンビにした巽が知らないわけないよねー。

 

「・・・てへ☆」

 

「お前それマジぶっころすぞ!」

 

「なんじゃあい!?じゃあなにか!?女性アイドルグループにまさおがおっちゃいかんのかーい!」

 

「もうまさおじゃないもん、リリィだもん!」

 

「はい!まさおじゃないです、リリィですぅ!お前らがまさお!俺はリリィ!だから明日もイベントがあるじゃろがーい!くだらんこと聞きに来る暇があったらさっさと寝ろこのスットコドッコイがー!」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

部屋から追い出された私たちは再び寝室へと戻っていた。

 

「あれ?愛ちゃんは?」

 

「なんか巽とまだ話があるんだってー」

 

「んなもん、どうでもよか。今はこいつのことやろ」

 

夜遅いこともあり、布団に入ってすぐ寝息を立ててしまったリリィちゃんを見る。

 

「・・・こんなに近くにいたのに、全然気づかなかったな」

 

「いいじゃねえか、ついてようがついてなかろうが」

 

「つ、つい・・・//」

 

「そもそもアタシらみんな、ゾンビなんだぜ?」

 

「・・・まこと、なんなんでありんしょうね、ゾンビいうんは。いつまでもこのままなんて」

 

「ほんと、不思議だよねー。・・・けどさ、別にどっちでも良くない?生きていようと死んでいようと、こうして私たちはここにいるんだし」

 

「そうだよね、リリィちゃんはリリィちゃん、私たちは何も変わらんよね、ゾンビやもんね」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「・・・なんじゃい、愛。まだ話があるんかい」

 

「当たり前でしょ、昼間のあれは何?」

 

みんなを寝室に帰したあと、私は再び巽の部屋に入っていた。

 

「この前不審者に襲われたばかりなのに、また不審者が入ってきた!あんた、まともに対策するつもりはあるの!?」

 

私の怒りの声に巽はため息をつくとこちらへと向き直った。

 

「・・・警備の話なら進めてる。だが、ファンとの交流が目的である握手会ではどうしたってあの手の連中の侵入を完全には阻めん」

 

「あの時の犯人はまだ捕まってない。何かあってからじゃ遅いのよ!?」

 

「そのためのゾンビィでもある。そんじゃそこらの不審者に襲われてもお前らが負けることはあるまい」

 

「・・・私たちだって身体はゾンビでも心は人間なのよ。ゾンビみたいに中身まで腐ってるわけじゃない。心が壊れたらアイドルは続けられない、それくらい、あんただってわかるでしょ・・・」

 

「・・・」

 

しばらくの間、巽は無言になる。

けれど、すぐに口を開くと真剣な口調で答えた。

 

「・・・お前たちが自らの死因にトラウマがあることはわかっている。だがアイドルである以上、いつかは向き合わなければならないことだ。これから先、ずっと野外ライブを避け、佐賀を出ず、配信のみでライブを行うつもりか?」

 

「・・・っ」

 

「ゾンビであることは必ずしもデメリットばかりではない。その朽ちない身体には無限の可能性が秘められている。・・・お前たちが諦めない限り、な」

 

「・・・」

 

「警備の件は進めておく。今日はもう寝ろ」

 

話は終わりだと言わんばかりに視線を切ると再びギターを弄りだす。

正直、完全に納得したわけじゃない。

けれどこれ以上、ここで話を続けても変わらないだろう。

それにこいつの言うことにも一理ある・・・そんな気がした。

私達は、奇跡のような力でゾンビになり蘇ったのだから。

 

 

「・・・ほんと、いったいゾンビってなんなのかしらね」

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

 

 

 

佐賀についた私は、宿を取るとすぐに目的の場所へと向かった。

『豪』と彫られた表札を確認し、インターフォンを鳴らす。

事前に調べた内容では目的の人物は休日でも家を空けていることが多い。

だから非常識ではあるが、朝早い時間を狙ってきてみたけど・・・

 

『・・・はい、豪ですが』

 

ビンゴ。

目当ての人物がいることを確認した私は、用意してた台詞を口にする。

 

 

「突然すみません。私は・・・」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「わざわざ東京から来てくれたのにたいしたもてなしもできんで悪かね」

 

「いえ。こちらこそ、急な訪問だったのにお時間を取っていただきありがとうございます」

 

目の前で豪剛雄氏・・・星川リリィの父親兼マネージャーだった男がカップを並べ、ティーポットからお茶を注いでいる。

その巨体ゆえにティーポットは普通のサイズなのに、この人が持つとまるでミニチュアみたいだ。

彼がお茶を用意する間に通されたリビングを見渡す。

まず目を引くのが補修中と思われる壁の跡。

上からブルーシートで覆われており、中はわからないが結構な大きさに見える。

そしてそばにある仏壇。そこには星川リリィともう一人、綺麗な女性の写真が飾られていた。

 

「・・・隣にいるのは妻やけん。正雄の母で、正雄が幼かった時に亡くなったとね」

 

「そう・・・なんですね」

 

いつも父親が現場に付き添いできていたのは知っていたが、母親が亡くなってるのは知らなかった。

思えば当時、かなちゃんに夢中だった私はリリィちゃんと踏み入った話まではしなかった。

なんとなく、父親と仲が良いんだな、くらいにしか考えていなかった。

 

「でも、あの黒川あかねちゃんがこんなに大きくなってるなんて知らんかったとよ。今も役者は続けてるのかい?」

 

「はい、今は劇団ララライというところに所属しています。今日も撮影の仕事で佐賀まで来たのですが・・・、昔、お世話になったリリィちゃんの生家がここにあると聞いたことがあったので、もしかしたらお線香だけでもあげられないかと思って散歩してたら偶然おじさんを見かけまして・・・」

 

「はは・・・、おじさんはおっきいうえにこの顔だからね。よく顔も覚えられやすかったし、遠目からでも見つけられるとよく言われるけん」

 

用意した理由を疑いもせずに返す豪剛雄氏に、少しばかり罪悪感を感じる。

いや、それよりも今聴き逃がせない言葉があったような・・・。

 

「その・・・正雄・・・と言うのは?」

 

「ん?・・・ああ、そういえばテレビの前では星川リリィと名乗ってたばい。本名は豪正雄と言うけん。本人は嫌がっとったけどね」

 

「そ、そうだったんですね・・・」

 

そ、それは知らなかった・・・。

衝撃の事実・・・。

 

「それにしても懐かしかね。正雄と同年代の子役だった子か・・・、そうだ、他にも有馬かなちゃんとかいたけんね、あの子はどうなんだい?」

 

「かなちゃんは・・・私と同じで役者を続けてます。この前、舞台で共演もしました。今はアイドルとの兼業ですけど・・・」

 

「アイドル?そうかそうか!あの子も昔から可愛かったけん。きっと人気もあってファンから好かれとるんやろうね・・・。あかねちゃんはアイドルやらないのかい?」

 

「わ、私はそんな・・・っ!アイドルなんて向いてせんよ!かなちゃんみたいに可愛くないですもん・・・!」

 

「そうかい?おじさんはそうは思わないけど。・・・でもそうか、二人とも今も活躍してるけんね」

 

突如、豪剛雄氏の瞳からぽろぽろと涙が流れ始める。

 

「・・・っ!?」

 

「・・・ああ、ごめんね。急に涙なんか流しとって。二人の話を聞いてたら、正雄のことを思い出してつい・・・」

 

「・・・ごめんなさい。私の配慮が足りませんでした。急に訪ねてこんな話をして・・・」

 

「いや、良かかね。おじさんから聞いたことやけん。それに正雄も昔の友達が訪ねてきてくれてきっと喜んどるとよ」

 

涙を拭いた豪剛雄氏が笑顔を浮かべる。

 

「親のおじさんが言うのもなんだけど、本当に妻に似て可愛い子だったばい。だけど男である以上、いつかは今みたいな服は着れなくなる、身体ば成長するんだからもっと男らしい服ば着んと困るとよって言っても正雄ば嫌がって、いつも家では喧嘩ばっかしとったばい」

 

「あはは・・・、当時の私から見てもリリィちゃんはキラキラして可愛かったので、当の本人からするとあまり信じたくなかったのかもしれませんね」

 

「かもしれんとね。・・・結果、あんなに幼くして正雄を死なせたんだから親としておじさんは失格やけん」

 

「そんな・・・」

 

「おっと、つい言わんでいいことまで口にしてしまったばい。ごめんね、せっかく来てくれたのに気が利かない話しかせんで。お線香やったよね?すぐ用意するばい、待っとってな」

 

そそくさと席を立つ豪剛雄氏を見送って、仏壇へと向かう。

見れば見るほど、星川リリィはフランシュシュ六号にそっくりだ。

 

ねえ、あなたは本当にフランシュシュ六号なの?

もしそうなら何故アイドルをやっているの?

何故こんなに大切にしてくれた父親の前に顔を出さないの?

アイと共に、何をしようとしているの?

 

家の中は片付いていたけど、家具のうえに埃が積もっていた。

察するに散らかっていたら片付けはするけど、掃除をするほど家にはいない・・・いいや、いたくないのだ。

ちらりとブルーシートで覆われた壁を見る。

ソファーの角度、テーブルの位置、・・・おそらくあそこにはテレビがあった。

だけど、何らかの事情で取っ払った。

おそらく、リリィちゃんの死と共に・・・。

 

頭の中で、東京ブレイドの舞台に一緒に立ったフランシュシュ六号のことを思い浮かべる。

心の底から演技を楽しんでいた彼女は、嘘をついているようには見えなかった。

 

もしかして、私がこれからやろうとしていることは間違っているのかな・・・。

心のなかでふと、一抹の不安を覚える。

だけど、私はすぐにその疑念を振り払った。

 

 

 

・・・

 

 

 

「あの・・・改めてありがとうございました」

 

「よかよか。おじさんも久しぶりに正雄の話ができて楽しかったばい。これからも役者のお仕事、頑張ってな」

 

「・・・はい。それでは、失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん?玄関に何か・・・あかねちゃんの忘れものかね?ばってん・・・これは・・・正雄の写真?けどこんな衣装、着せた記憶ば・・・。裏に何か・・・フラン・・・シュシュ?」

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

 

 

 

公園のベンチでコーヒーを片手に項垂れる。

今日一日、まったく仕事に手がつかなかった。

それもこれも昨日いったフランシュシュというアイドルの握手会のせいだ。

フランシュシュ六号を名乗る子供。

間違いない、あれは正雄だった。

この七年、一日だってあの子を忘れたことはない。

親として、子供のことを見間違えるなんてことは・・・

 

「・・・いいや、正雄はもうおらんけん」

 

絞るように出した言葉は、自分でも信じられないほど空虚だった。

 

「・・・あの、少しよかですか?」

 

声をかけられ、顔を上げる。

そこにはサングラスをかけた金髪の男が立っていた。

ベンチを使いたかったのだろうか。

この図体で丸々一個占拠してるのも気が引ける。

急いで離れようとしたところ、男は先程の考えを否定するかのように言葉を続けた。

 

「豪さん、ですよね?覚えてませんか?苺プロの斉藤です」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「お久しぶりです。最後に会ったのは東京で・・・星川リリィさんのマネージャーをやられていた時でしたか。・・・まあ、私はその時にはほぼ苺プロを辞めたようなものでしたが」

 

男のサングラスを外した素顔を見て、頭の中で古い記憶が蘇る。

 

「・・・覚えてますよ。鏑木さんの紹介で、あの伝説のアイドル、アイを育て上げた敏腕社長がいるから営業のノウハウを学んで来いと言われて訪ねたらすっぽかされたときのこと。当時はまだこの業界に足を踏み入れたばかりの新米だったので、凹んだものです」

 

「いや、その説は申し訳ない・・・」

 

「いえ、あんな事件があって間もなかのに、気軽に会えると思っとった私も青かったけん」

 

当時、超人気アイドルだったアイがストーカーに殺害された事件。

もう十年近く前のことで、正雄もまだデビューしておらず、ニュースを見て衝撃を受けた思い出がある。

 

「・・・確か、斉藤さんも佐賀出身だったけんね。今日は里帰りとですか?」

 

「いやあ、そんなところです。豪さんは・・・仕事中ですか?」

 

「ええ、見ての通り、今は土方やってるけん。昔から力だけは有り余っとるし、結構現場でも頼りにされとるんよ」

 

「そう・・・なんですね。・・・もう芸能界に戻るつもりはないんですか?」

 

「・・・」

 

その質問は昔、芸能界を去る際に同僚や社長からさんざん言われたものだ。

 

「星川リリィさんが存命だった頃の活躍は聞いてます。星川リリィさんが当時、彗星のように現れて全チャンネルのゴールデン番組主演制覇という偉業を成し遂げたのは、彼女だけの力じゃない。あなたという裏方があってこその記録(レコード)だった。星川リリィという原石を輝かせるために、あらゆる手練手管を用いて・・・第一線を退いた私の耳にも聞こえてきた話です。業界にいたものなら皆知っているでしょう。・・・あなたなら、またあの世界に立てる。返り咲けるはずだ。それなのに何故・・・」

 

辛いことではあるがあまり気を落とすな、おまえほどの才能が埋もれていくのはもったいない。

・・・当時、あの業界で関わった様々な人物から慰めの声をかけられた。

今思えば正雄のマネージャーとして足を踏み入れてから、出会った人達は良い人ばかりだった。

最後までこんな自分を引き止めてくれたし、それを断って退職する際もいろいろと便宜を図ってくれた。

 

「・・・斉藤さん、私はね、あの子がいたからあの世界にいられた。あの子の頑張りを近くで見れたからどんな辛い仕事にも耐えられた。あの子がいない芸能界に、まったく未練なんてなかったとよ」

 

「・・・」

 

「星川リリィの死に関する噂、斉藤さんもご存知じゃなかとですか?」

 

「・・・死因、ですね」

 

「ええ。当時、どんなメディアも星川リリィの死を報じた。悲しい出来事として新聞の一面を飾ったこともあるけん。けどどのメディアも、その死の原因についてだけば口を閉ざしていた」

 

「・・・」

 

「人の口に戸は立てられぬ、とはよく言ったもので箝口令を敷かれたとはいえ、噂だけは独り歩きしていたとね。曰く、星川リリィは過労で亡くなったんやなかとって」

 

「・・・ええ、芸能界を離れて久しかった俺の耳にも入ってきました。あの年齢の子供が、あれだけのスケジュールをこなすのは不可能だ、と」

 

「・・・私はね、斉藤さん。親ば失格なんですけん。星川リリィは大人でも倒れるような過密スケジュールを笑顔でこなしてたと。血の気の失せた顔色を独学で覚えた化粧で、少なくなる食欲を最低限の栄養が取れるサプリで誤魔化していたとです。亡くなったときの体重、いくつだったかわかりとりやすか?・・・同年代の平均体重の半分しかなかったんです。私はだんだんと弱っていく我が子が横にいるのに、テレビに映る星川リリィに夢中だったんですけん」

 

「・・・」

 

「あの子はたまの休みによく、お出かけしたいとせがんできよっと。神野公園でお花見しようと。またパパと二人で遊びたいと。それなのに私は・・・わたしはっ!その時、次の仕事のことしか頭になかったとっ!次のドラマ、あの監督なら星川リリィを誰が見ても可愛く撮ってくれる、今のカット、カメラの角度が甘かったなって、・・・本当は苦しんでいたあの子のことを見てやれなかったんですけん!」

 

「・・・」

 

「・・・そんな私が、どうしてあの子の親を名乗れるとね・・・っっ。星川リリィの華々しい伝説の一端に名を連ねられるとねっっ!!」

 

「豪さん・・・」

 

「・・・正直、この七年、自分で自分の命ば絶とうと何度も思いました。妻にも子どもにも先立たれて、もはや生きる意味なんてなかて」

 

「そんな・・・」

 

「・・・斉藤さん。斉藤さんはどうやっとですか」

 

「俺・・・ですか」

 

「はい。私と同じように・・・大切なアイドル(アイ)を失って、あなたは芸能界から去った。あくせくかけて大きくした会社も、それまで培ってきた信頼も、全て捨ててしまったやなかとですか」

 

「・・・」

 

「それでもあなたは、・・・まだ芸能界(この世界)に未練があるように見えるけん」

 

「・・・そんなことはありません。俺も似たようなもんです。俺はアイドルのマネージャー失格ですよ。何せ・・・自分が手塩にかけて育てたアイドルに信用されてなかったんですから」

 

「・・・あの事件・・・ですか。確か真犯人がまだ見つかってないとか」

 

脳裏に例の事件に関する記事を読んだときのことが思い浮かぶ。

刺した大学生にアイの家を特定するような能力はなく、殺人を教唆した相手がいるのでは、と噂されていた。

 

「考えてみれば当然のことでした。俺はあいつの願いに何一つ具体的な答えをやれなかった。ただ口八丁に聞こえの良い言葉ばかり並べて、右も左もわからない子供を騙してこの世界に(芸能界)に招き入れたんです」

 

「あいつを着飾るための装飾品(引き立て役)を並べて、自我を持つようなら容赦なく切り捨てた。グループ内の空気は常に最悪で、心を休ませる暇なんてなかった。・・・いっそ壊れてしまえば楽だったろうに、あいつの・・・アイドルとしての才能がそれを許さなかった。・・・結果があの惨劇です。あの世がもしあるのなら、俺は間違いなく地獄行きでしょう」

 

その瞳はサングラスをしてもなお暗く、淀んでいるように見えた。

 

「・・・だけど、地獄に行くのは俺だけじゃない。もう一人、絶対に連れて行かなきゃならねえやつがいる・・・っ!」

 

「斉藤さん・・・あんたばまさか・・・」

 

「・・・すみません、忘れてください。こんな話がしたくて呼び止めたんじゃなかった。俺が知りたいのは、あなたならこのアイドルグループについて、何か知ってるんじゃないかと思ってのことでした」

 

「アイドルグループ?」

 

「ええ、佐賀のご当地アイドル、フランシュシュについて、です」

 

その名前に、つい先日のことを思い出す。

メンバーの中には、アイにそっくりな子も確かにいた。

 

「あなたも・・・なんですね」

 

「・・・やはりご存知でしたか」

 

「・・・存在を知ったのはつい先日とです。詳しいことは何もわからなか」

 

「構いません。何でもいい、知っていることを教えていただけませんか」

 

斉藤さんが頭を下げる。

その姿は真摯に頼んでいるようにしか見えなかった。

 

「・・・先に言っとくけん。死んだら人は生き返らなか。当たり前のことやけん」

 

「ええ、承知のうえです。それでも俺は・・・」

 

「わかりました。でしたら明日、一緒に会いに行きませんか?」

 

 

・・・

 

 

翌日、再びフランシュシュのイベントに顔を出すと、他のメンバーに緊張が走ったのが見て取れた。

それも当然だろう。

何せ、仲間のアイドルに手を出そうとした男が性懲りもなくまた来ているのだ。

彼女たちの態度はあって然るべきとも呼べるものだった。

なのに、一番怒るべき相手はまったく気にしていない。

ニコニコと変わらない笑みを浮かべながら、俺の顔を見上げている。

その姿に・・・それまであった毒気はあっさりと抜かれてしまった。

 

「こんにちは!この前はごめんなさい、皆も悪気があったわけじゃないの!」

 

「いや、あれはおじさんが悪かったけん。えーと、Tシャツをひとつ」

 

「うん、でもきっと入らないな、いつも5Lでしょ?」

 

「よくわかるね」

 

「あっ!え、えと、いろんなファンの人いるからわかるの!」

 

「そうか、でも欲しいのはXSなんだ」

 

「え?」

 

小さいTシャツを指差すと眼の前の子共が、驚きのあまり笑顔を崩す。

・・・正雄も、たまに予想外のことがあるとよくこういう顔になってたなぁ。

そんなところも、瓜二つやけんね。

 

 

「おじさんにもね、君くらいの子供がおったとよ。でもね・・・おじさんいいお父さんになれんかった。自分のことばっかりで、その子のこと、ちゃんと考えてあげられんやった。・・・君のお父さんはやさしか人ね?」

 

「う、うん!ぱ・・・お父さんはすっごく優しいの!すっごくすっごく優しいんだよ!」

 

本当に父親のことが好きなんだろう。

きっとこの最低な男のようなやつではなく、本当にこの子のことをちゃんと見ている頼りになる父親なのだ。

良かった。

この子はきっと、正雄のようにはならない。

それがわかっただけでも、またここに来たかいがあった。

 

「・・・いろいろと怖がらせてしもて悪かったね。おじさんはもう来んけん」

 

「えっ・・・?」

 

「すまなかった、それだけ言いたくて」

 

それじゃ、と言って列から離れる。

後ろから困惑するような声が聞こえたが振り返らない。

たった数日だけど、夢が見れた。

正雄が生き返ったような気がして嬉しかった。

それだけで・・・俺は満足やけん。

 

 

 

・・・

 

 

「今のは・・・」

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

「豪さん・・・」

 

「斉藤さん、私はもう良かかね」

 

握手会の会場を離れ、再び公園に来た豪さんと俺は一息ついていた。

 

「本当はまた会った時にあれこれ聞こうかと思ってたとよ。・・・けど実際に会ったら頭から吹っ飛んでしまったけん」

 

「そう・・・ですか」

 

「あの子はきっと、大丈夫やけん。正雄のようにはならなか。斉藤さんはどうやっとか?」

 

「俺は・・・」

 

握手会の会場で、フランシュシュ七号がいたのは見た。

けど、その列に並ぶことはできなかった。

 

「怖くなっちまいました。いざ眼の前にあいつがいるところを見て、足が震えて動かなかったんですよ。本人じゃないとわかっているのに、・・・情けない話です」

 

別人だろうと本人だろうと、またあいつの前に立つのが怖かった。

アイに俺はどう思われていたのか。

アイが人生半ばで死んだ時、最後に何を思ったのか。

俺にはわからない。

その最後の時を過ごしたアイの子供達は何も語らなかった。

だが無理もない。

まだ五歳という幼さで母の死に立ち会ったのだから。

ショックのあまり、思い出したくもないだろうし覚えていなくてもおかしくない。

アイは最後に母親として子供を愛したのか、刺した犯人への怒りを口にしたのか、あの事件を引き起こした真犯人への想いを馳せたのか・・・それとも、自分を地獄(芸能界)に誘った男への恨み言か・・・。

 

「すみません、わざわざつきあって頂いたのに」

 

「よかよか。私も心細かったけん。もし斉藤さんの心の整理がついて、また会うつもりならつきあうとよ。・・・まあ、もう会いに行かん言うたけん、会場の近くまでやっど」

 

見かけに似合わず強面を歪ませながら申し訳なさそうに笑う。

当時からこの人はそうだった。

目立つ図体で腰の低い対応をするからギャップがあって印象に残るのだ。

きっと戦略ではなく、この人の素なのだろうが・・・だからこそ、あれだけ引退を惜しまれたのだろうな。

 

「是非、その時は声をかけさせていただきます。・・・良かったらこのあと呑みませんか?せっかくですし、もう少しお話でも・・・」

 

「あー・・・昔は明かしてなかったのですが、実は下戸でして・・・」

 

「えっ?そうだったんですか?知らなかった・・・。でも昔は飲み会によく参加してたって話を聞いたような・・・」

 

「付き合い、ってやつです。あの子の仕事を取るためなら、飲めなくても飲めるふりくらいはするけん。今日は無理やけんど、まだこっちにいるなら別の日にでも、食事で良ければ奢らせてください」

 

そう言って頭を下げると公園を出ていった。

 

「・・・仕方ねえ。せっかく佐賀まで来たんだし、馴染みの店で一杯やるか」

 

 




どうも、勝手にフランシュシュの死因を盛ることに生きがいを見つけたものです。
ヒゲによる精神的ショックが原因とはいえ、そこまで至るまでにかなり衰弱してそうだな⋯と。
パピーも弱っていくリリィに気づけず後悔してましたし、実際はもっと酷かったかもしれませんね。
ただ天才子役ですし普段から大人に囲まれて仕事をしてたし、自分が弱ってるのを知られれば大好きなパピーが悲しむことも当然わかってたはず。
誤魔化すことでパピーが笑顔になってくれるなら、どんな無茶なこともする⋯リリィはそんな子だと思います。

アイは結構劇中で星を眺めるシーンが多いですよね。
星が綺麗発言は宮崎の病院で言ってたし、アニメでもアクルビと共にベランダから星を眺めてるシーンがあったりと、やはり星を見ることが好きなのかなーって思います。
悲しい過去を背負ってますし、いつも夜空を見上げれば同じ姿を見せてくれる星には救われてきたんじゃないかな。

後半も間を開けずにあげられそうです。
引き続き書いていきますので、読んでいただけると幸いです。
もちろんコメントや高評価も大歓迎!
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