推しの子 in SAGA   作:片倉の推しの子Bです

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ゾンサガの好きな回の一つです。

あえてこっちの話を先に持って来ました!

調子乗って書きたいこと書きまくってたら、膨れすぎたのでBパートは後日投稿します。





第六話 君のハートにナイスバード SAGA

 

 

前回までのあらすじ!

 

私の名前は星野アイ!

アイドルだったけど死んで生き返って、今はゾンビのアイドル!新しい名前はフランシュシュ七号!

ユニットの皆と喧嘩しちゃったけど、リーダーのサキちゃんに教えてもらったラップで謝る事ができた!

やっぱり佐賀では気持ちを伝えるのはラップがいいんだね!

おかげで私は嘘をつかずに自分の本心を伝えることができたし!

・・・まだ私の口は考えるよりも先に嘘をついてしまう。

だから本心を歌に載せてみれば、伝えられるんじゃないかと思った。

結果は大成功!いつか嘘をつかずに、この気持ちを伝える為に、そして、今度こそ仲間と一緒にアイドルをやるために、私は今日もアイドル活動を続けるのでした!

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

巽は先程までの騒ぎが、何事もなかったかのようにホワイトボードの前に立った。

 

「さて、やっとお前らフランシュシュが団結したところで・・・大きな問題ができました」

 

問題・・・?何だろう?

さっきサキちゃんが蹴り開けた拍子に吹っ飛んだ扉かな?

それとも私が閉じこもっていた部屋のバリケード、まだ片付けてなくてそのままにしてることかな?

 

 

「活動資金が尽きました」

 

あー・・・お金かあ。

まあ確かに、私達まだ二回しかまともにイベントやってないし、物販でグッズ売ってる訳でも無いから収入なんて実質無いようなものだしね。

そういえばルビーとアクアを産んだばかりの時も、二人を幸せにするにはお金が全然足りなくてミヤコさんに文句を言ったっけ。

 

「特にさくら!・・・この前のイオンモール佐賀でのライブの時、お前がすっ転んで壊したステージの機材の弁償がどれだけかかったかわかるか!?」

 

「ええ!?・・・そ、そげんなこと言われとーと・・・」

 

「・・・ほれ」

 

「えーと、いち、じゅう、ひゃく、せん・・・あ、あわわわわ」

 

さくらちゃんが目を回している。よっぽど高かったみたい。

 

「と言う訳でお前ら金食いゾンビ共と違って優秀な俺は、とある超有名企業のCMにお前らを出すよう交渉してきました」

 

「超有名企業?」

 

「私達にCMなんて来るんですか?」

 

「て思うじゃん?・・・ふふ」

 

よっぽど嬉しかったのか、興奮した巽が含み笑いをしていた。

うん、サングラスかけてあの笑いは完全に変質者だね!

 

「お前らビビりすぎて心臓動いても知らんぞ。お前らにCM出演依頼をした超有名企業とは・・・あのドライブイン鳥じゃーい!!」

 

「え!?」

 

サキちゃんが椅子から勢いよく立ち上がる。

ドラ・・・鳥・・・?聞いたことない名前。

有名なとこなのかな?

でもサキちゃん以外の他の皆の反応は薄い。

 

「ふっ、あまりに有名過ぎて声が出ない、といったところか」

 

「いや、もったいぶった割に聞いたことない企業だったから呆れているだけなんだけど」

 

「なにぃ!?」「なんやと!?」

 

皆を代表したリアクションをとった愛ちゃんにサキちゃんと巽が詰め寄る。

 

「あの佐賀でも指折りの焼肉屋やぞ!?」

 

「いや、知らないし」

 

「ならば思い出させてやる。もちろん、お前らもだ。この映像を観ればすぐに思い知るだろう。ドライブイン鳥の事を!」

 

そういうとホワイトボードの隣に鎮座してあったテレビをつける。巽がリモコンを操作すると、程なくして動画が流れ始めた。

 

 

 

『焼き鳥一番、鳥飯二番、三はサラダで良い健康!いつもニコニコ、鳥で満腹〜♪』

 

 

 

 

テレビの中では鶏の着ぐるみと黄色いひよこを模した衣装を着た人達が、歌いながら踊っている。

 

 

 

 

「・・・ま、マジでドラ鳥じゃねーか!」

 

「・・・うーん、聞いたことないけん・・・」

 

「馬鹿かおめー!あのドラ鳥だぞ!ぶっコロすぞ!」

 

「ご、ごめん・・・」

 

「リリィ知ってたけど行ったことなーい」

 

リリィちゃんは知ってるみたい。

とりあえずどんなところかだけでも聞いてみようかな?

 

「リリィちゃん、ドライブイン鳥、てどんなお店なの?」

 

「うーん・・・佐賀にある地鶏焼肉店・・・かな?あとマスコットキャラが可愛くない」

 

「へぇー、地鶏焼肉店かぁ。珍しいね、焼肉屋て牛と豚のイメージがあるけど」

 

「まあ全国展開しているチェーン店てわけじゃないし、ローカルな感じだよ。あとマスコットキャラが全然可愛くない」

 

とりあえずマスコットキャラが可愛くないのはわかった。

逆に見てみたくなったけど。

 

 

 

「・・・し、信じられん、お前ら全員佐賀失格じゃああああああ!!!!」

 

 

 

 

サキちゃんの絶叫が響き渡る。サキちゃんはよっぽどドライブイン鳥に思い入れがあるみたい。

 

「そ、そんな有名と?」

 

「お前らもすぐ知る事になるドラ鳥のすごさを・・・」

 

「で、いつだよ、いついくと!!?」

 

サキちゃんが我慢できない、と言わんばかりに巽に詰め寄る。

そんなサキちゃんに巽もノリノリで答えた。

 

「今からじゃあああああああああい!」

 

「きたあああああああああああああ!」

 

テンションのやたら高い二人を冷めた目で見つめる私達。

 

・・・まあともかく新しい仕事が決まった、て事でいいのかな?

CMのお仕事はゾンビになる前何度もやってきた。

だいたいソロでやってたけど、今回は久しぶりのユニットでのお仕事。

よし!私達新生フランシュシュの初めてのお仕事だし、いっちょ頑張りますか!

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

 

巽にメイクしてもらった私達は、早速今回のCM出演を依頼したドライブイン鳥伊万里店まで来ていた。

そこには、『やき鳥一番 鳥めし二番』と書かれた大きな看板にイメージマスコットと思われる鶏のようなキャラクターが描かれていた。

 

「なんて言うかローカル、て感じやね」

 

「・・・超有名企業?」

 

「あー・・・確かにあんまりあの鳥可愛くないかも・・・」

 

 

私達が思い思いの感想を言っているとサキちゃんは感極まったのか、涙を流しながら

 

「・・・っ、この掘っ建て小屋感、なんも変わっとらん・・・!」

 

「サキちゃんは何度か来たことあるの?」

 

「・・・あたしらがくる日もくる日も単車で走ってた頃、派手な喧嘩をした後は必ずここに来よったさ・・・」

「いつだって仲間と一緒に一番定食食ったもんさ・・・」

 

「サキちゃんやっぱり荒れとったとね・・・」

 

「やっぱりあの鳥可愛くない!」

 

「てめっ、ちんちく!ドラ鳥の不死鳥コッコさんに失礼やろがあ!」

 

「こっこさん?」

 

「あのイカしたポーズの鶏の事に決まっとるやろが!ドラ鳥を影から支え続けた大黒柱やろが!」

「ちなみに正確には『コッコ君』さんじゃ!、奥さんがゆっこの『夢子』さん、で、ひよこの『ミオちゃん』『アミちゃん』この四羽がコッコ君ファミリーじゃけん!」

 

「サキちゃんはコッコさんのファンなんだねー」

 

 

 

「何やってんじゃい!お前ら!はやくこっちこんかい!」

 

私達が話していると、先にお店の人と挨拶をしていた巽が店の中から私達を呼んできた。

そちらを見ると巽の隣に店長と思われるエプロンをつけた中年の男の人がいた。

 

「こちらがドライブイン鳥の社長さんじゃい」

 

「こんにちは、初めまして」

 

「こんにち──「ちゃーす!!」」

 

サキちゃんの大声で私達の挨拶がかき消された。

リリィちゃんが思わず小さくうっさ・・・と呟く。

聴覚が鋭い私も結構効いた・・・。ゾンビになって痛覚が鈍くなったとはいえ・・・うう・・・耳がキーン、てする・・・。

 

 

「本日はありがとうございます。皆さんには思う存分、うちの宣伝をしてもらいたいと思います。

まずは中に入って当店自慢の焼肉を食べてください」

 

「ありが──「ちゃーす!!!」」

 

 

何とか二回目は耳に手を当てるのが間に合った・・・。

 

 

・・・

 

 

お店の一角に案内された私達は、早速焼肉を味わっていた。

 

「焼肉といえば牛肉と思われがちですが実は鶏肉なんですよ。それで・・・」

 

社長さんが何か話しているけど、私達は久しぶりのお肉にお箸が止まらなかった。

最近はラップの練習でずっとごはん食べてなかったから、久しぶりの食事だし、しかも焼肉なんて・・・んー美味しい♪

 

「っ・・・美味しい!鶏肉の焼き肉てこんなに美味しいんだ!」

 

「さくら!そのタレにニンニク胡椒つけてみてん、ばりあうけん!・・・お、これもう良い感じやけん」

 

「ああ!それリリィが育ててたのに!」

 

「リリィちゃん、良かったら私のお肉あげるね」

 

「わぁ!いいの?ありがとう、アイちゃん!」

 

「・・・取っちゃってそれ。端が焦げてるから早く食べないと」

 

「愛はん、ありがとうでありんす。純子はんは何見てりんすか?」

 

「このはちみつ黒酢カルピスていうの美味しそうですね」

 

 

 

 

 

「──以上がドライブイン鳥の七箇条です」

 

「ふむふむ、てお前らも話聞かんかーい!」

 

巽の言葉で我に返り、社長さんの方を向く。

しまった、ついお肉食べるのに夢中になっちゃった。

 

 

「いえいえ、美味しく食べて頂けるのが何よりの喜びですから」

 

 

「あの、本当に美味しいです!」

 

「うん!これ本当に美味しいよー!」

 

 

「それは良かった。うちの鶏肉はとても新鮮な・・・」

 

「ああー!たえちゃん、生肉食べてるー!」

 

リリィちゃんが指差した方を見ると、たえちゃんがまだ焼いてない生肉をばくばく食べていた。

 

社長さんが青い顔でそれを見る。

 

「いやいくら新鮮でもそれは・・・」

 

それを見た巽が社長さんの顎を持ちイケボで囁いた。

 

「さて、撮影の調整をしますか・・・」

 

社長さんが頬を赤く染める。

 

「は、はい・・・。で、ではうちの駐車場を出た先にある伊万里夢みさき公園に撮影スタッフがいるのでそちらまでお越しください・・・」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

 

俺の名前は五反田 泰志。しがない映画監督だ。

世間一般からは監督賞にノミネートだけして、毎度受賞できない残念な奴、みたいな感じに思われている。

撮る映画も予算が少ない小さな企画から、予算の潤沢な大作映画まで幅広く撮ったことはある。

今回、受けた仕事は予算が少ない小さな企画だった。

佐賀県とかいう九州の端、そこにある小さなチェーン店のテレビCMを撮る企画だ。

昔一緒に仕事をした人から紹介された為断りづらかった、というのもあり俺はわざわざここ佐賀県まで来ていた。

 

しかし、正直全然気乗りはしない。

もちろん、仕事なのでしっかりCMは撮る。

ただわざわざ佐賀県まで来たのにやることが、映画でもなく、CMを撮るだけ、というのは正直モチベーションが下がるものだ。

・・・とっとと撮って観光でもして帰ろう。

そんな事を思いながら、俺は今日のCMに出演するキャストの到着を待っていた。

 

「はーい、それでは諸々準備よろしいでしやーすか?」

 

タンクトップを着た副監督が特徴的な語尾を伸ばしながら、キャスト陣を紹介していた。

 

「えーまずは今回出演して頂くフランシュシュの皆さんです!よろしくお願いしやーす!」

 

「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」

 

顔だけ露出している白い鶏の着ぐるみと黄色いひよこを連想させる園児服のような衣装を着た八人の女の子が現れて挨拶をする。

何でも彼女らはアイドルらしい。

やれやれ、どこにでもアイドルを目指す若い子はいるもんだ。これも時代かね。

・・・ん?あの頭に星をつけてる一番小さいガキ、見覚えがあるような・・・。

それにあの白髪の大人しそうな子も昔どっかで見たような・・・。

まあ気のせいか。

 

その時、白い鶏の着ぐるみを着ていた子の一人が、頭を下げた拍子に鶏の頭部分を深く被ってしまい、顔をすっぽりと覆ってしまった。すぐに頭を上げるも、前が見えづらかったのか一瞬頭を覆っていた部分の着ぐるみを脱いだ。

 

・・・!!

似ている。紫がかった黒のロングの髪、目を引く整った顔、そして特徴的な星を宿した両の瞳。

 

「アイ・・・?」

 

おもわず口からその名前が零れる。

意外と声が大きかったようで周りにいた人が一斉にこちらを見ていた。

 

「あれ?監督、どうしやした?」

 

副監督が不思議そうに聞いてくる。

 

「アイ?」

 

「誰?」

 

「なんか昔そんなアイドルがいたような・・・?」

 

他のスタッフの間でも俺の呟きを聞いてヒソヒソと話す声が聞こえる。

やべぇ、監督の俺が余計なこと言ったせいで現場を混乱させちまった。

確かにあの子はアイに似ている。記憶の中の彼女にそっくり過ぎるくらいだ。

だが、彼女はもう十年以上前に亡くなっている。

葬式にだって参加したし、アイを失って絶望し、苦しんできた少年の顔もずっと見てきた。

こんな遠く離れた場所に、最後に見た時と同じ姿でいるなんてありえない。

 

そんな昔のアイドルに似ている、なんて急に言われたら本人も気を悪くするだろう。

俺は謝罪を述べながら、キャストの紹介を続けるよう副監督に伝えようとした。

 

「ああ・・・すまん。俺の勘違いだ。続け──」

 

「ごめんなさい!私、この容姿のせいで昔いたアイドルのアイによく間違えられる事が多いんです!」

 

急に大声を出したアイ似の少女に面食らう。小声で喋ってたスタッフも、びっくりして声の出どころに視線を向けていた。

思いっきり頭を下げた彼女は、周囲のヒソヒソ声が完全に静まったことを確認すると頭を上げ、にっこりと笑った。

 

「現場にはご迷惑をお掛けしないように頑張るので、今日の撮影よろしくお願い、しやーす!・・・なんちゃって☆」

 

「あ、ああ・・・よろしくな」

 

またしても驚いて息を呑む。

記憶の中の彼女と瓜二つと言っていい笑顔。正直悪い夢にしか見えない。

思わず頬をつねるが、痛みをじんわりと感じるだけだった。

こりゃあ早熟には言えねえな・・・。

自分のよく知る彼がこのアイ似の少女を見たらどんな反応をするのか、想像に難くない。

 

「では、続いて、コッコ君さんです!よろしくおねがいしやーす!」

 

「ッコー!」

 

副監督がそういうと今度は妙にスリムな全身鶏の着ぐるみを奴が出てきた。

事前に貰った資料で見たこのドライブイン鳥のマスコットキャラクターか。

さっきのアイの衝撃がある分、こっちはそこまでインパクトはねえな。正直気を落ち着けるから助かる。

 

「では、最後にもう一人、CM出演するキャストを紹介しやーす!」

 

ん?そう言えばもう一人、ゲストが来てるんだっけか。

確か所属は早熟と同じ苺プロダクションの──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぴえヨンさんです!よろしくお願いしやーす!」

 

「よろしくお願いピヨピヨ!」

 

 

 

 

 

 

 

ひよこの覆面をつけた海パン一丁の半裸の男かよ!

完全に変質者じゃねえか!?

 

「えー、ぴえヨンさんは小中学生に大人気のユーチューバーでやーす!今回ドライブイン鳥社長の強い要望もあって来て頂きやーした!」

 

「いやー息子が好きなんですよね。私も大ファンなんですよ」

 

しかも社長の推しかよ!お前のとこのコッコ君を推してやれよ!

てか今の小中学生てこんなのが好きなのか・・・。これも時代・・・なのか・・・?

 

「ピヨピヨ・・・本日は招待して頂きありがとうございます。精一杯やらせて頂きますので宜しくお願いしますピヨ」

 

めちゃくちゃ丁寧だなおい!いかん、こんなに面白い絵面、つい撮りたくなっちまう・・・!

 

「・・・ッコー!」

 

な、なんだ?急にコッコ君がぴえヨンの前に立って・・・。

 

くいっくいっ。

 

な!?指先っちょの羽?で手招き・・・挑発しやがった!

やっぱりホームてこともあって同じ鳥科には負けられねえプライドでもあんのか・・・?

 

「・・・ピヨ」

 

ぴえヨンも負けてねえ!コッコ君に正面からメンチ切ってやがる!

 

「ッ・・・。ッコー!」

 

なっ!?あれはマイケルみたいなムーンウォーク!さらに斜め45度に傾くダンスまで!?このレベルのダンスがこんなところで見れるなんて・・・!!

 

「ピヨピヨォ!」

 

なっ!?こっちはコサックダンス!?しかもあんなに腰を低くして!?さらにあれはリンボーダンスだと!?あんなに後ろに反りながら人間の身体は前身できるもんなのか!?

 

くそっ!カメラ回してえ!

こんなCMよりもこいつらを使った映画が撮りてえ!

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

あ、あっぶなかー!

まさかアイちゃんの正体に気づく人がおるなんて・・・。

あのひよこの覆面被ったムキムキの人のおかげで何とかごまかせたみたいやけんど、今後は気をつけなきゃあかんね・・・。

 

ん?アイちゃんがまださっきの監督の方を見てる・・・。

 

「あ、アイちゃん、どうしたと?もしかしてさっきの監督さん知り合いけん?」

 

「うん・・・生前何度か親交のあった人・・・かな」

 

「え、ええ〜!そ、そんな、アイちゃんが本物のアイちゃんだとバレたら不味いとよ!?」

 

「ああ、多分その辺は大丈夫。監督、たぶん私が死んだ事は知ってるだろうし。まさかゾンビになってるなんて普通思わないって〜」

 

「ええ・・・本当に平気かな・・・?」

 

「大丈夫、大丈夫♪それにさっき、私のキメ顔で皆の視線集めて顔見たけど、他に私がアイだと勘付いた人は多分いなかったよ?」

 

「い、いつの間に・・・。ん?でもそんなアイちゃんの笑顔見せたら逆に疑われるきっかけになったりするんじゃ・・・」

 

「平気だって、一瞬だったし。さくらちゃんは心配性だな〜」

 

アイちゃんがカラカラと笑う。

た、確かにメイクしてない時の素顔でも見られない限りは、普通の人と同じに見えるだろうけど・・・。

やっぱりアイちゃんはあまり危機感を持ってない気がするけん・・・。

こうなったらアイちゃんの分までうちが気をつけるしかなかと!

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「はーい!それでは!諸々宜しければ始めさせて頂きやーす!し、やーす!」

 

 

「「「「「「よろしくおねがいしまーす!」」」」」」

 

「気合い、入れて、いきまああああす!」

 

・・・よし、サキちゃんが大声出すタイミングもわかってきた。今回も耳ガード間に合ったし。

 

でもまさか、こんな遠いところで監督に会うとはねー。

最後に会った時とあまり変わってないように見えたし、元気そうでよかったよかった。

結局、B小町のドキュメンタリー映画は私が死んじゃったことで完成しなかったんだろうな。

せっかく監督が嘘つきじゃない、本当の私を撮る、ていってくれたのに。あーあ、本当に悪いことしたなあ。

謝ることもできないなんて、なんか複雑。

 

今この場で『私は星野アイです』て言ったらどうなるんだろう?

ルビーとアクアとの関係はたぶん気づいてるだろうし。

それに面倒見の良い監督のことだ。

ルビーとアクアのところまで連れて行ってくれるかもしれない。

 

でもそうなったらフランシュシュの皆とはどうなるかな・・・?

正直今の私は、皆のことも大切だ。

生前得られなかったアイドルとしての仲間。

フランシュシュとして、一緒にトップに上り詰めたいと本気で思っている。

 

巽が言ってた。

ゾンビが生者と馴れ合うのは偶像であるアイドルの時だけだ、て。

実際私の素顔は巽のメイクがないと人前にも出られない。

今の私が生前の知り合いと会う事はやめた方がいいのかもしれない。

でもそれだと私は・・・ルビーともアクアとも一生会えない、て事になる。

せっかく奇跡が起きてこうして生き返ったのに、そんなのはあんまりだ。

 

 

・・・うーん、考えても答えは出ないし、まあいっか!

どうせ星野アイとしての幸せ、フランシュシュ七号としての幸せ、どっちも諦めるつもりはないんだし!

 

「はい、じゃあ早速テスト始めるぞ!スタート!」

 

監督の声とカチンコの合図で思考の海から引き揚げられる。

私は事前に覚えた歌詞を歌い始めた。

 

「焼き鳥一番、鳥飯二番、三はサラダで良い健康!いつもニコニコ、鳥で満腹〜♪」

 

「イェーイ!」「ッコー!」「ピヨッー!」

 

曲に合わせて私達は軽いダンスを、コッコ君とぴえヨンは激しいダンスをする。

コッコ君は着ぐるみを着ているのにそれを感じさせないくらいキレッキレのダンスをするし、ぴえヨンもその鍛えられた肉体美を活かしたポーズが決まっていた。

 

正直、あの姿だから甘く見ていたけど、あの二人・・・二羽?・・・相当できる!!

気を抜いたら私達が食われるね、これは。

愛ちゃんと純子ちゃんも気づいたのか、カメラに向ける笑顔の中に本気のオーラが見え隠れしていた。

まあ、でもまずは・・・

 

「アア・・・ヴァエ・・・オォ・・・ヴィエ」

 

たえちゃんの歌声どうしよっか!

 

 

「よし、カットだ!」

 

「し!やーす!」

 

「・・・なんか今、変な声聞こえなかったか?」

 

「し、やーしたね・・・」

 

 

 

 

「す、すいません!」

 

「たえ、しっかり歌え!」

 

「ヴァ・・・ヴァ・・・」

 

「無理やって!たえちゃん音とれんし!」

 

たえちゃんは私達の中で唯一喋れないゾンビだ。

ライブの時、今回みたいに全員で歌ったりするパートは歌わずに独特なダンスを披露したりすることになっている。

しかも何故かそれが一部のファンには好評だったりする。

今回のCM撮影はスポンサーの意向もあるだろうし流石にそんなワンマンプレイはできないしなあ・・・。

 

そんな私達の事情を知らない副監督が無情にも再開の言葉を告げてきた。

 

「オッケーでやすか?」

 

「あ、あのその・・・」

 

「じゃあさっきの、おえおえ、だけNGでしやす!じゃあ本番いきやーす!」

 

「本番?!」

 

「監督し、やーす!」

 

副監督はそれだけいうとすぐ監督の元まで戻ってしまった。

 

「ど、ど、どやんすどやんすー!?もう本番だって!」

 

「んー、こうなったら最後の鶏の鳴き声のとこだけやってもらおうか?あそこだけ言ってくれれば、それまでたえちゃんが歌わなくても違和感ないしね」

 

「そ、そっか!たえちゃん!最後のコケコッコー、てとこだけ言える?」

 

「ヴァェ!?・・・ヴォン!」

 

頷いてくれてるし大丈夫そう・・・かな?

 

 

 

「よし、本番入んぞ」

 

「本番し、やーす!」

 

監督が再びカチンコを手に取る。

たえちゃんは・・・あ、珍しくめちゃくちゃ緊張してるみたい。

 

「よーい、スタート!」

 

合図と同時にたえちゃんは声高らかに叫んだ。

 

「コッケコッコー!」

 

「カッート!」

 

「し、やーす!」

 

 

「す、すいませーーーーーーーん!」

 

さくらちゃんの謝る声が佐賀の空に響いていた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

何度目かのリテイク後、ついにたえちゃんも自分の叫ぶタイミングをわかってきたみたい。

その間に愛ちゃんが提案したハモリのアイデアが見事ハマり、私達の歌の方も安定してきた。

元々皆、純子ちゃんのトレーニングを日頃から受けていたこともあって、地力はできてたしね。

 

 

 

「焼き鳥 一番、とりめし 二番 三はサラダで、良い健康〜♪」

 

「いつもニコニコ、鳥で満腹〜♪」

 

「「「「「イェーイ!」」」」「ッコー!」「ピヨー!」

 

「新鮮、美味しい、楽しい、皆で行こう、今日も元気だ〜♪」

 

「コケコッコー!」「ッコー!」「ピヨー!」

 

「ドライブイン と・り!」

 

 

皆と一緒にポーズを決める。

結構今のは良い感じだったかも!

たえちゃんもしっかり鶏の鳴き声が決まってたし、私達の歌とダンスも一番のキレがあった!

 

「よし、カットだ!」

「し、やーす!、じゃあ今のチェックしやーす!」

 

監督達が先ほど撮った映像のチェックを始める。

 

「愛ちゃんのハモリのアイデア、正解だったね」

 

「ええ、ありがと、さくら」

 

「たえちゃんも最後の鳴き声決まってたよ〜!ホントの鶏がいるのかと思っちゃった!」

 

「・・・!コッケコッコー!」

 

「うわぁっ!?たえっ、急に大声出すんやなか!びっくりするやろが!」

 

「あははっ、ごめんごめん。たえちゃんに私がお願いしたんだ。さっきのもう一回見せてー、て!」

 

「君たち本当に仲が良いんだね」

 

「ひっ」

 

私達が話しているとそれまで黙っていた、ひよこのマスクを被った半裸の変態が話しかけてきた。突然声をかけられた純子ちゃんが小さな悲鳴を上げて、私の後ろに隠れた。

前から思ってたけど純子ちゃんはあまり男の人が得意じゃないのかも。

 

「おっと失礼、挨拶がまだだったね。僕はぴえヨン。筋肉系ユーチューバーさ。ピヨピヨ」

 

「ゆーちゅーばー?なんでありんすか?それ?」

 

「幽蟲刄・・・知らんチーム名やけんな・・・!」

 

「ちがう、この人はユーチューバー。動画配信で生計を立ててる人達のこと」

 

「ピヨピヨ〜。君達今時ユーチューバーを知らないなんて珍しいね。最近の若い子には結構僕、知名度あると思ってたからちょっとショックピヨよ」

 

「わ、私達ぱそこん?に疎いので・・・」

 

「ていうかお前、いい身体してるからてうちのツレ怯えさせるなや、ぶっこ──」

 

「ヴゥグルルルルル・・・!」

 

「わわっ、たえちゃん、サキちゃん駄目!共演者に対してそんな言葉使ったらあかんよー!」

 

「ん?驚かしちゃったらごめんね。実は僕も昔はダンスの振り付けなんかもしていてね。君達のダンス、結構良かったよ。基礎をしっかり練習している人の動きだった」

 

「ありがとう!あなたのダンスもキレッキレでびっくりしちゃった〜!ダンスの振付師、てのも納得だよ〜!」

 

「僕の所属する事務所にも最近アイドル部門ができてね。たまにダンスの練習を見てあげたりするんだ」

 

「へぇ〜、なんてアイドルなの?」

 

「B小町、て三人のユニットでね。確か昔あったアイドルユニットの襲名だったかな」

 

「B小町・・・」

 

その名前を口にする。

それはまさしく、生前の私がセンターを務めていたアイドルユニットの名前だ。

襲名、てことは解散してたけど最近になって復活した、てことかな?

そういえば今は私が死んでから十二年くらい後の未来だ。

もしあの時、私が伝えた言葉を二人が今も覚えてくれていたら・・・ルビーがB小町を継いでアイドルになっていたりするのだろうか。

もしそうだとしたら・・・え?ヤバくない?

いつか夢だった親子で共演したり、とかもできるかもしれないし!

そうだ!私は今死んだ時の年齢の身体だから十九歳くらい、ルビーはたぶん十六歳くらいだし、同じステージに立っていても違和感ない!

生きてた時だとルビーと同じステージに立つのは私が三十代だったから流石にきついか・・・とか考えてたけどゾンビなら関係ないし。

いやー、まさかゾンビになることで叶うかもしれないとは・・・。人生何があるかわからないものですなー。

 

私が妄想に耽っていると、他の皆が私のことを心配そうに見ていた。

さくらちゃんが近づいてきて耳打ちしてくる。

 

「アイちゃん・・・大丈夫と?」

 

「ん?ぜーんぜん平気だよ。ごめんね、ちょっと昔の事思い出しただけ!」

 

「そ、そう?ならよかとやけど・・・。な、何かあれば力になるけんね!」

 

「ありがとー!・・・うん、どうしても皆の力が必要な時は相談するね」

 

 

 

 

 

 

「よし!オッケーだ!」

 

「はいっ、さっきのテイク、オッケーした!」

 

どうやらさっきのテイクで問題なかったみたい。

名残惜しいけどこれで今回の仕事はおしまいかー。

久しぶりに監督の顔も見れたし、私的にはまあ満足かな?

 

 

 

「本当に今ので良かったと思うか?」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

CMは無事撮影終了。

リテイクは何度かあったが、撮影現場が初のイベントの人間がこれだけいてこの時間で終わったのなら上々だな。

あとはこの映像を軽く編集して──

 

「本当に今ので良かったと思うか?」

 

今まで黙っていたグラサンをつけた男が喋り出した。確か・・・巽、だったか。

てかこいつ、最初はCMに出演する役者だと思ってたがあの子らのプロデューサーだったのか。

てかなんで胸ポケットからゲソ?

 

「今のでやり切ったと言えるか?お前らは何だ?どう言う立場でそこに立っている」

 

どうやら自分のアイドル達に聴いているらしい。

巽の声はよく通っていて不思議と耳に残った。

 

「ええっと・・・アイドル?」

 

「鳥じゃろがーい!!」

 

「うええ?!」

 

「お前ら鳥なんじゃろが!違うかい!?純子!」

 

「ええっ、あ、はい」

 

「だったらもっと、鳥にならんかーい!見えてこんのじゃい!リアル鳥の感じが!ジリジリと網で焼かれる中で渦巻く鳥の情念が!鳥の叫びが!」

 

 

何を言っているんだこいつは。

アイドルも戸惑ってるし、こいつがさっきの撮影に納得がいかずにごねているように見える。

ったく、まだ年端もいかない子役がごねる、とかならわかるがいい歳した大人が何を言ってるんだか。

現場でコミュニケーションが取れない奴は、次からその現場に呼ばれない。この業界に長く関わる奴には常識だ。

これじゃああのアイドル達も可哀想だな。

・・・悪いがこれも仕事だ。監督の俺が一度オッケー出したものに、一人のわがままで撮り直すなんて無駄な時間は掛けられない。

 

 

「・・・グラサンの言う通りかもしれん」

 

「サキちゃん?」

 

「うちら全然、鳥になりきれとらんやないか!?」

 

て、おいおい。

アイドルの一人が説得されてやる気出しちまってるじゃねえか。

全く、ここらで口を挟んでおくか。

 

「いや、別に今のでオッケーなんだが・・・」

 

「こいつらっ、やればできる奴らなんです監督!もう一回やらせてください!」

 

「え?」

 

巽が今度は俺に向かって檄を飛ばしてきた。

てか、初撮影現場の初対面の監督によくここまで吠えられるな。

普通は今後仕事が振られなくならないよう大人しくしておくべきだろ。

こいつ・・・まともじゃねえな。

 

だが・・・面白え。

 

 

「あれみろよ!、お前らあのコッコさんに負けてられんよなあ?」

 

アイドルの一人が指差す先には、コッコ君とぴえヨンがまたガンを飛ばしあっていた。

てかまだ仲悪かったのかよ!

 

「全国制覇目指すアイドルなら!主役を食うくらいの気持ちでやってやろうぜ・・・!!」

 

その言葉を聞いた、先程まで鶏の鳴き声を担当していたアイドルが、急に手を地面につけたかと思うとコッコ君達の元へと四足歩行で走り出した。

一瞬見えたその目は血走っていて、まるで本能に従って餌を襲う獣のようだった。

 

「ヴァァァァァ!」

 

「たえちゃん!?」

 

コッコ君が近づいてくる獣に気づくがもう遅い。尻から噛みつかれたコッコ君は、着ぐるみを食い破られてしまった。

てか、本当に着ぐるみ食ってないか?あのアイドル・・・?

そのまま目の前にいるぴえヨンもロックオンしたのか、顔を上げて襲い掛かろうと体勢を低くしている。

まずいっ!このままでは被害が拡大する!

 

「おいっ!誰かあのアイドルを止めろ!」

「は、はいっ」

「し、やーす!」

 

スタッフに指示を出して止めさせようとする。

しかし、先程まで檄を飛ばしていた巽が、俺の肩を掴むとカメラを回していた椅子に無理矢理座らせてきた。

 

「何しやが──」

 

「待てぃ!キャメラを回せ!」

 

「何を言ってやがる!?これ以上怪我人が増えたらどうするつもりだ!?」

 

「責任はこの俺が取る!これこそがリアリティ!これこそ我々が知るべき物語じゃああああい!」

 

俺のその言葉に思わず心を打たれていた。

最近は早熟の世話や母ちゃんの小言を聞く毎日で納得のいく映画を撮れていなかった。

しかし今日、俺はアイ似のアイドルやイロモノ着ぐるみからいろいろと創作心を刺激するインスピレーションを得ていた。

・・・わざわざ佐賀まで来たのだって、安っぽい誰でも作れるCMを作るためにじゃねえ。

燻っていた俺の映画監督としての炎が、燃え盛っていく。

 

・・・ったく、俺も骨の髄まで良い作品の奴隷だった、て訳だ。

それに、一アイドルプロデューサーに過ぎないこいつにここまで言わせちまった。

これ以上、俺が止める側に回るのは監督としてのプライドが許さねえ・・・!

 

 

「監督ぅ!」

 

「お前らっ、こっからはラストまでカメラは一度も止めずに生の演技で通すぞ!責任は全て俺が取る!ガンガン、カメラ回していけえ!」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

今ボクの目の前には一羽の鶏の無惨な死体が転がっている。先程までボクをライバル視し、喧嘩を売ってきた相手。同じ共演者、同じ鳥科ということもあって、絡まれていてもボクは彼のことは悪く思っていなかった。その彼は今、尻の部分が破かれ、中身のトランクスが見える悲惨な姿を晒している。

その隣にはこの死体を作った元凶、先程まで一緒にCMを撮っていたアイドルの子がいた。

その顔は目は血走っていて、開いた口の端からはよだれが垂れている。

一目でまともじゃないのがわかった。

 

アイドルが姿勢を低くする。瞬発力を最大まで高めるその姿は、アイドルではなく肉食獣のようだ。その目はボクの事を次の獲物として完全に捉えていた。

 

面白い・・・!!

 

ボクも姿勢を低くする。これは逃げの一手ではない。重心を低くする事で万全の姿勢で目の前の獣を迎え撃つ。カウンターの構え。

確かにボクは鍛え上げたこの自慢の筋肉を持っているけど、この力は人を傷つけるためのものじゃない。例え街で不良に絡まれても、この力を奮おうとは思わない。

だけど・・・仲間を、友を傷つけられた時だけは別だ。ボクを見た目通りのひよっこだと侮るなよ・・・!

例え相手がアイドルだろうと、獣だろうと、ケジメはつけさせてもらうよ・・・!

 

「・・・ヴァァァァァ!!」

 

「ピィヨォォォォォ!」

 

タイミングは同時、アイドルの突撃に合わせて取っ組み合う。

しかし、拮抗は一瞬だけだった。

 

・・・馬鹿なっ!?このボクが押されている・・・!?

 

ボクの身体が彼女の力に押され、後退させられていく。

手は抜いていない。慢心もしていないはずだ。最初から全力だった。なのに、この結果はなんだ・・・!?

この細腕のどこに、これ程の力が!?

ずるずると押されていく。足は力を入れ過ぎて地面にめり込んでいる。それでも止められずにボクの身体は後退を続けていた。

 

くっ、このままではやられる・・・!

 

目の前のアイドルが歯をカチン!カチン!と鳴らす。

もはやこれまでか・・・!

 

しかし次の瞬間、別のアイドルの子が彼女の身体を後ろから押さえつけようと覆い被さった。

 

「たえちゃん!主役を食う、てそう言う事じゃないけん!」

 

すると先程までの万力のような力が消え、ボクに襲い掛かろうとしていたアイドルは地面に引き倒された。

同時にボクも解放され、思わず尻餅をつく。

な、なんてことだ。あの力を一瞬で・・・!

この子もまた、なんというパワーを持っているんだ・・・!

 

「カッート!!!」

「し、やああああす!」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

皆と一緒にたえちゃんを追いかけていたけど、結局さくらちゃんが追いついてたえちゃんを止めていた。

今はたえちゃんを起こして一緒にぴえヨンに頭を下げているみたい。

 

「ご、ごめんなさい!あ、あのこの子食べ物に目がなくて、今日美味しい鳥肉料理を頂いちゃったこともあって、コッコ君さんとびえヨンさんに飛びかかっちゃって・・・!」

 

「・・・完敗ピヨ」

 

「えっ!?」

 

「ボクは筋肉系ユーチューバーを名乗っていたけど、まだまだ自分が未熟だったと思い知らされたピヨ・・・」

 

「そ、そんな・・・」

 

「自分を鍛え直すことにするよ・・・。今のままではボクは名前負けしちゃってるからね」

 

ピヨピヨいう語尾も忘れちゃってる・・・。

本当にショックだったみたい。

 

「ああ、そうだ。あとで君たちのプロデューサーにも渡そうと思ってたんだけど、これボクの名刺ね」

 

そういうと私に名刺を渡してきた。名刺には大きくぴえヨンと書いてあり、左下には会社名が載っていた。

 

「苺プロダクション・・・」

 

名刺に書かれた会社名を思わず口に出す。

そっか、苺プロ・・・。B小町が復活した、ていってからまさかと思ったけど。

佐藤社長や社長夫人のミヤコさんは元気にしてるかな。

ドームでライブする為にたくさんお金使ったーて言ってたし、私が死んじゃってきっといろんな人に迷惑かけちゃったよね。

 

「今日は楽しかったよ。君達がもしネットでも活動を広げていく、て考えてるならそこに連絡するといいよ。一応ボクの所属する事務所、複数の配信者を抱えるインターネットに強い事務所、てのが売りだから力になれると思う」

 

「ああん?お前みたいなコッコさんのパクリみたいな奴が活躍してる事務所なんやろ?役に立つんか?」

 

「ちょっ!?サキちゃん!」

 

「・・・」

 

「す、すみません!サキちゃんはその・・・コッコ君さんのファンでしてーあのー」

 

「いや、いいんだよ。実際ボクは今日、自分がまだまだだって思い知ったからね。ただ・・・言われっぱなしもなんだしこれだけは言っておくね」

 

「あ?何言うとね?」

 

「・・・ボク、年収一億ダヨ」

 

「・・・」「・・・」

 

「・・・い、いちお・・・。ま、待って。この前の壊したステージの弁償が・・・だから、え、えーとそのー」

 

「さ、さくら!一億てたまごっち何個分だ!?何個買えるんだ?!」

 

「わ、わからんけん!とにかくたくさん!」

 

「やべええええええ!!」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「それじゃあボクは彼を介抱するよ、同じ鳥科の仲間として見過ごせないからね」

 

「あ、私達も行きます!ズボン破いちゃったので起きたら謝らないといかんけん・・・。ほら、たえちゃんも行くとよ!」

 

「ヴァウ・・・」

 

そういうとコッコ君をお姫様抱っこするぴえヨンに、さくらちゃんとたえちゃんはついていった。

他の皆も、スタッフさんと話したり思い思いの行動をしている。

 

その後、入れ替わるように監督がこっちにやってきた。

 

「待たせてすまねえな、動画チェックも終了した。これで今日の撮影は全て終了だ」

 

「本当?いやー疲れた疲れたー。監督も良かったよ!」

 

「はっ、お前もお前のとこのプロデューサーと同じで馴れ馴れしいな。・・・さっきは悪かったな。故人に似てる、て言われるのは気分が良くないだろ?」

 

「ん?ぜーんぜん気にしてないからヘーキ、ヘーキ。だいたい私、産まれた時からアイに似てるー、て言われてきたからもう慣れっこだよ?」

 

「そうなのか?まあ確かに十年以上前に亡くなったアイドルだしな。もう昔のこと、て考えるやつは多いのかもな。全く時代だねえ」

 

「・・・うん、そうだね」

 

昔のこと、かあ。確かに十年も芸能界にいなきゃ過去の人になるよね。

アイドル『アイ』の名声に未練があるわけじゃないけど、口に出されるとなかなか堪えるなあ。

 

「・・・ふんっ、例えアイが過去のアイドルだろうと、私達には関係ないでしょ」

 

「あ・・・三号ちゃん」

 

いつのまにか近くに来ていた愛ちゃんが会話に割り込んできた。

 

「私達は必ず、あの夢のステージに立つ。立って見せる。このCM撮影だってその足掛かりに過ぎない。あんたもわかってるでしょ?これくらい完璧にできないと私達の目指す場所は夢のまた夢だ、て」

 

「おーおーいうね、未来のトップアイドル様は」

 

「別に。・・・要するに私が言いたいのは弱気になんかなるな、てこと。私達はフランシュシュ。それ以外の何者でもないんだから」

 

優しいなあ、愛ちゃんは。愛ちゃんも元はアイドル。目覚めたら芸能界に自分の居場所が、自分の築き上げてきたものがなくなっていれば、かなり怖いだろうに、私のことを気遣ってくれた。

だから私も嘘偽りない言葉で、お礼を言いたくなった。

 

「・・・ありがとう、三号ちゃん」

 

「・・・」

 

愛ちゃんは照れているのか、顔を逸らしてしまった。

私はそれがまた微笑ましくて、自然と顔が綻んでしまう。

そんな私達のやりとりを見ていた監督が驚いた顔でこちらを見ていた。

 

「どうしたの?監督?」

 

「いや・・・なんでもねえ。フランシュシュだっけか。お前らの活躍を影ながら願ってるよ」

 

そういうと監督は背を向けて手を振りながらカメラのあった場所に戻って行った。

 

 

 

 

 

「おいっ、アイ似のアイドル!」

 

私も皆のところに行こうとして監督に呼び止められる。

振り向くと監督が振り返ってこちらを向いていた。

気まずそうに視線だけ逸らしていたが、意を決したのか私と視線を合わせる。

 

「どうしたの?」

 

「・・・お前の名前を教えろ」

 

「・・・! 私はフランシュシュ七号!七号でいいよー!」

 

「よし、七号!お前らフランシュシュがもし有名になったら俺のところに連絡して来い!特別に最高のドキュメンタリー映画を撮ってやるよ!」

 

「・・・ならそれまでに一個くらいはノミネートじゃなくて監督賞、取っておいてよねー!」

 

「・・・! けっ、いってろ・・・」

 

最後に悪態をついた監督に笑顔で応えたあと、私はフランシュシュの皆の元に向かって走り出した。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

フランシュシュ七号が背を向けて走っていく。

最後に俺に言った言葉、あれはまさか・・・。

いや、ありえねえか。きっと俺の名前でエゴサでもしたんだろ。

しかしまあ、随分と・・・。

正直アイとは違うと頭ではわかっていても、どうしても重ねて見てしまう。

あの七号はB小町のアイと比べると、心から笑っているように見えた。

早熟達以外にもあんな風に笑えるんだな・・・。

アイに頼まれて作っていたB小町のドキュメンタリー映画、あれは結局未完のままだ。

ただの自己満足なのはわかっている。贖罪にはならないとわかっていても、つい口から出てしまった。

 

「ったく、俺も女々しいもんだね」

 

俺はため息をつきながら、ポケットからタバコを取り出し火をつけた。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

「いやー皆さんが演じた鳥、本当に素晴らしかったです」

 

いつもの私服に着替えた私達は社長から御礼がしたいとのことで、お店の前にいた。

社長は紙袋を手に下げており、厚みもそこそこにあるように見える。

 

「こちらお店からのお礼なんですが・・・」

 

社長が紙袋を巽に渡す。

 

「お、お肉かな・・・」

 

お肉!思わず皆目を輝かせながら紙袋を見る。

巽が紙袋の中に手を入れて中のものを引き出した。

 

「Tシャツです」

 

ドライブイン鳥と書かれたTシャツが出てきた。おそらく袋の厚み的に人数分ある。

 

「またTシャツ・・・」

 

「いやー完成が楽しみですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

 

 

『焼き鳥一番、鳥飯二番、三はサラダで良い健康!いつもニコニコ、鳥で満腹〜♪』

 

 

「お、CMかわった」

 

佐賀県にあるとある出版社、そこで刊行しているローカル情報誌、『サガジン』の編集部で二人の男が仕事の傍ら、テレビを見ていると見慣れないCMが流れてきた。

 

内容はドライブイン鳥というローカルチェーン店のCM。

佐賀県でしか流れてないマイナーなCMだ。

それを見ていたサガジンのライターの一人、犬走 歩は呟いた。

 

 

 

 

「なんだこいつら?」

 

同じくサガジンのライターである大古場 新太もCMを見て反応を示していた。

 

「あれ?知らないんですか?大古場さん。この子達、この前唐津駅前でゲリラライブして駅前を人で埋め尽くしたアイドルですよ」

 

「ああ・・・そういや、動画が出回っていたな」

 

「そうっす。その子達ですよ。俺も偶然現場にいたんですけどね、一人がばいめんこい子がいて」

 

「ほお、てか現場にいたんなら関係者に話聞いてこい。俺らの仕事をなんだと思ってんだ」

 

「いや、聞こうとしたんですよ!でも警察も来ましたし、ライブ終わったらすぐに車乗って逃げちゃったんで・・・」

 

「ったく・・・」

 

「で、ですね、そのがばいめんこい子、てのがこの・・・ほらっ、これっ、この子です!」

 

犬走が指差した先には、鶏を模したフードを被った衣装の女の子が笑顔でドライブイン鳥の曲を歌っていた。

その瞳には特徴的な星の瞳が輝いており、どことなく目を引かれる。

 

「めちゃくちゃめんこくないですか?俺、ファンになっちゃいましたよ〜」

 

「この子、どっかで見たような・・・」

 

「・・・でも佐賀でアイドルてのも大変ですね、頑張って欲しいですけど」

 

「アイドル・・・」

 

CMはすぐに終わり、犬走と大古場は仕事に戻る。

しかし、大古場の頭の中では先程見たアイドルの顔がずっとちらつくのだった。

 




監督とぴえヨン登場回です!

本当のコッコ君さんはきっとぴえヨンとすぐ仲良くなれると思うけど、動かしたかったからこんなキャラにしました。

監督は出す予定なかったけど推しの子見直してたら出したくなったので出しました。その結果文字数がめちゃくちゃ増えてガタリンピックと分けることになりました・・・。

引き続き書いていくので感想、指摘等それと高評価も頂けると嬉しいです!

※感想全部読ませて頂いてます!最初全部返信しようと思ってたのですが、本編がただでさえ遅筆なのにさらに遅くなるので・・・。モチベの元なので長文、短文なんでも嬉しいです!
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