推しの子 in SAGA   作:片倉の推しの子Bです

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ガタリンピック編後編です!

今回文字数多いのでゆっくり読んで頂ければ幸いです!



第八話 泥だらけの再会の隠し味はワラスボ SAGA

 

佐賀県に到着した私達は今夜の宿に向かっていた。

場所は嬉野温泉。久中製薬の人がちょうど慰安旅行で滞在しているらしく、一緒にどうかと誘われたのだ。

つまり、実質温泉旅館での二泊三日の旅行!いやー運がいいね!

 

「ミヤコさん!久中製薬の担当者の人と会うのは明日なんだっけ?」

 

「ええ。明日顔合わせも兼ねての打ち合わせ、問題なければそのまま撮影もすると聞いているわ。商品のサンプルは持ってきてる?」

 

「うんっ、これだよね?サガンシップZ!湿布て私貼った事ないんだけど実際に効果あるの?」

 

あ、良いこと思いついた!こっそり先輩に貼って驚かしてやーろぉっと・・・。

 

「あんたね・・・。それ、あたしに貼るんじゃないわよ?他人に湿布を貼る行為は医療行為にあたるから資格がない人はやっちゃいけないの」

 

そ、そうなんだ・・・危ない危ない。

 

「おおー、先輩物知りー」

 

「あんたがものを知らな過ぎるだけ。前にも言ったけど、暇な時間があれば少しでも勉強しておいた方がいいわよ。アイドルなんて旬が過ぎたらすぐお払い箱なんだから」

 

「うーん、でも先輩が前読んでたエリマキトカゲの本は間違いなく将来役に立たないと思うけど・・・」

 

「あれは私の趣味。意外と雑学て知ってるとメディア受けいいのよ」

 

「おお〜、さすが芸歴十七年の大ベテラン、哺乳瓶咥えた頃から活動してるのは伊達じゃないね〜。そうだ、社長、今日は自由行動でいいんですよね?」

 

「ええ、もしB小町チャンネルで使いたい動画が必要なら今日のうちに撮っておいてね。あ、でも撮影が駄目なところもあるだろうからそこは気をつけること」

 

「任せて!こっちには有名インフルエンサー兼現役アイドルのMEMちょがいるから!」

 

「いや、そこは他人任せなのかよ!」

 

「あはは・・・ま、そこはまっかせなさーい!撮影NGのところも、案外交渉次第じゃOK貰える時もあるからねー♪」

 

 

 

「で、あんた。確かどうしても行きたいところがある、て話だったわよね。当日教えるーて言ってたけど結局どこなの?」

 

「お、気になる?気になっちゃう先輩?しょうがないなあ、特別に教えてあげましょう!」

 

「むかつくな、この後輩・・・。・・・で、どこなの?」

 

「答えはーーここ!鹿島ガタリンピック!」

 

私はスマホで調べたガタリンピックのページを皆に見せる。

先輩とMEMちょはそれを見て微妙な表情を見せていた。

 

「・・・あんた正気?なんでわざわざ佐賀まで来て泥だらけになりたいのよ」

 

「うーん、まあ確かに撮れ高は撮れそうだけどアイドルがやること、としてはちょっと古くない?」

 

「えー!そんなこと言わずに行こうよ!一年の内今日しかやってないんだよ!?私達が今日佐賀に来たのも何かの縁だしさあ!」

 

「やだ、汚れる、めんどくさい」

 

「私もチャームポイントである角が汚れるのはちょっとねぇ」

 

「そんなー!」

 

「だいたいあんたね、なんでそんなにガタリンピックにこだわるのよ。別に他のイベントでもいいじゃない」

 

「だってここでしかやってないんだよ?それに・・・この機会を逃せば二度と参加できないかもしれない」

 

自分の前世を思い出す。寝たきりだった私には何かをやりたいと思っても、その選択肢すらもてなかった。

 

「人生は一度きりなんだよ。やろうと思ったらやれる時にやらないと!私は自分の人生に後悔なんて絶対したくない!」

 

「・・・あんたがどれだけ参加したいのかはわかった。でも、これから私達は先方の用意した宿で打ち合わせがあるのよ?そこで靴とか髪に泥が少しでもついてたら、悪いイメージをもたれるかもしれないじゃない」

 

「う・・・」

 

先輩の言い分も最もだ。私のわがまま一つでB小町の評判を悪く言われる訳にはいかない。

でも諦めたくないし・・・うーん何かいい方法はないかな・・・?

私が頭を悩ませてると、ミヤコさんが助け舟を出してくれた。

 

「あら、それなら問題ないわよ。ガタリンピックには今回の提携先である久中製薬も出資しているから」

 

「あれ?そうなんですか?」

 

「ええ、前も言ったけど久中製薬は佐賀の町興しに力を入れているの。今回のガタリンピックにも協賛会社として名前が上がってたわ」

 

「じゃ、じゃあ、私達が参加しても・・・」

 

「ええ、むしろ話のネタにもいいかもね。取引先との円満な関係を作る為の第一歩はね、共通の話題を持つ事よ」

 

「むむむ・・・」

 

「それにガタリンピックは海外からわざわざ参加しに来る人がいるくらい大きなイベントよ。あなた達B小町はジャパンアイドルフェスに参加したとはいえ、まだまだ新参のアイドルグループ。少しでも知名度を上げるチャンスがあるなら、逃す手は無いんじゃない?」

 

「まー・・・確かに」

 

ミヤコさんがこっそり私にウインクしてくれる。

さっすがミヤエもん!頼りになる!

 

「先輩!MEMちょ!」

 

「うっ・・・」

 

二人に目で訴える。先輩は特に押しに弱いしいけるはず・・・!

 

「ま、そこまで言われたらしょうがないよねぇ。その分撮れ高は期待するけど!・・・ね、有馬ちゃん。社長もこう言ってるし行かない?」

 

「・・・あーもう、わかったわよ!」

 

「あれ?でもこれ、参加には事前の予約が必要、て書いてあるけど」

 

「大丈夫!もう三人分の申請はしてあるから!」

 

「あんたねえ!最初から予約取ってた、て事はあたし達の返事聞く前から行く気満々だった、てことじゃない!」

 

「あははは!用意がいい、ていってよせんぱーい!」

 

「あなた達、騒ぐのもいいけど忘れないうちに日焼け止めはしっかり塗っていきなさい。今日は陽射しも強いから、しっかり紫外線へのケアもする事。アイドルが意図せぬ日焼けをするのは厳禁だからね!」

 

「「「はーい!」」」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

会場に着いた私達は荷物をロッカーに入れると急ぎ足で競技場の方へと向かう。

時刻は既に十三時を回っている。開会式は終わっていて、既に第一競技が始まっているはずだ。

運営に遅れる旨は連絡しているので、簡素なTシャツとズボンに着替えてすぐ外に出る。

ちょうど第一種目のガタチャリの最終レースに滑り込めた。

司会のお姉さんの指示に従って、私達はスタート位置に立つ。

 

「うえ・・・初っ端から泥だらけになりそう・・・帽子被ってこなくて正解だったわ」

 

「あはは♪いやー、これはカメラをミヤコさんに渡してきて正解だったかも・・・」

 

目の前には自転車が一台と、大量の泥の上に敷かれたコース代わりの長い板が一枚。

 

自転車のグリップを握ると思い出す。

昔、ママがまだ生きてた頃、ダンスで身体を動かす事にはまった私は次に自転車に乗りたいと思った。

まだ私が天童寺さりなだった頃、同世代の子達が乗っているのを病室の窓からずっと眺めていた。いつか身体が動くようになったら乗ってやるんだ、なんて昔は思ってたけど結局乗る機会はなかったからだ。

早速ママにお願いするとママは二つ返事で買ってくれた。

アクアとお揃いの自転車。アクアはすぐに乗れてしまったけど私は最初苦戦した。

でもアクアは私が乗れるようになるまで毎日遅くまで付き合ってくれた。ママも仕事がない日は疲れてるのに付き合ってくれた。結局ママは私かアクアが荷台を掴んでないと乗れなかったけど。

 

・・・なんか懐かしい事思い出しちゃった。

天国のママ、私は今日佐賀まで来てガタリンピックに参加してます。ママが思い描くアイドルとはちょっと違うかもだけど、少しづつアイドルとしての一歩を踏み出しています。どうかこれからも見守っててください。

 

司会のお姉さんが私の前のサングラスのお兄さんにインタビューを終え、私の元にやってくる。

 

「はい!じゃあ次の方、本日のレースの意気込みをお願いします!」

 

 

 

 

「東京から来ました!星野ルビーです!B小町、てアイドルユニットで活動しています!皆ー、今日は名前だけでも覚えていってねーッ!」

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「おおー、遠いところからありがとうございます!では次の方に聞いてみましょう!」

 

「同じく東京から来ました有馬かなですこんにちわ!そこのルビーと同じくアイドルやってますよろしく!」

 

 

司会のお姉さんが隣にいた赤い髪の子の方に移動していく。

 

私は先程、星野ルビーと名乗った女の子を見る。

 

「B小町・・・星野・・・」

 

B小町・・・はアイちゃんが昔所属していたアイドルユニットで、この前撮影で一緒になったぴえヨンさんの話だと最近復活した、ていってたけん・・・。

 

星野・・・はアイちゃんの本名が星野アイだから・・・。

 

!!

 

もしかして・・・あの子・・・

 

 

 

 

 

アイちゃんの妹!?

 

 

 

 

 

そ、そう考えるとなんとなく面影もあるような気がするかも・・・。

あ、あわわ・・・この前の監督さんに続いて今度は妹さんなんて・・・どやんす、どやんすー!

 

 

と、とりあえず皆の意見も聞かんと・・・!?

隣にいるリリィちゃんの方を見る。

けどリリィちゃんは先程インタビューを受けていた赤い髪の子をずっと見ていた。

 

「有馬かな・・・」

 

そう呟くリリィちゃんはいつもよりも悲しそうに見えた。

 

「リリィちゃ──」

 

「おい、さくら。あいつ、アイの関係者じゃね?」

 

思わず声をかけようとするも、サキちゃんに遮られる形で肩を組まれる。

リリィちゃんも心配だけど、今はアイちゃんの事だったけん!

 

「やっぱりサキちゃんもそう思うと・・・?」

 

「ああ。聞いてた昔のユニット名と一緒やし、苗字も一緒やしな」

 

「見た目的に妹、てとこ?でも現役時代のアイに妹がいたなんて話聞いた事ないけど・・・」

 

「アイオタクの愛が言うならそうなんやろうな。「オタクじゃない!」・・・わかった、わかった。とにかく、今はどうするかっちゃな」

 

「どうする、ていうと?」

 

「・・・そりゃあ妹なら会いたいやろ。一度死んだ身とはいえ家族なら会いたい、て思うんじゃなかとか?」

 

「なんで疑問系?」

 

「あたしは家族おらんかったからそういうのはわからん」

 

「・・・なんかごめん」

 

「あたしのことはどうでもいいっちゃね。とにかく今はアイの事だ。あたしは妹なら、家族なら会わせてやりてえと思う」

 

「それは例え・・・アイがフランシュシュを抜ける事になるとしても?」

 

「アイさんが抜けるなんて・・・まだそうと決まったわけじゃ・・・」

 

「家族の縁も、仲間の縁も、早々切れるものではないでありんす。どちらが大切でどちらを選ぶかは、結局アイはん次第になってしまうでありんすなあ」

 

「幸太郎さんが言ってた・・・、ゾンビが生きてる人間と関わる事は良くない、て。でも、やっぱり死に別れた家族と会えるなら会わせてあげたいけん・・・」

 

だって家族がいるかすらわからない人もここにはいるのに。

その言葉は口に出さずにしまい込む。

 

「と、とにかく──」

 

 

 

 

 

「内緒話?」

 

気がつくとすぐ隣にアイちゃんがいた。

び、びっくりしたけん・・・!

 

「あ、アイちゃん!?いつの間に・・・」

 

「あはは、私、人より耳が良いんだ。だからこんなに近くで内緒話されたら聞こえちゃうんだよね」

 

「う・・・あの金髪の子、もしかしてアイちゃんの・・・」

 

「お察しの通り、あの子は私の・・・関係者かな?でも安心して。私、あの子に会うつもりはないから」

 

「で、でも・・・せっかく会えたのに・・・。アイちゃんはそれでいいと?」

 

「いいのいいの!・・・それにさくらちゃんも言ってたでしょ?ゾンビがバレたらマズい、て。・・・多分ね、あの子も私が死んじゃって、すっごい傷ついたと思うんだ。でも今はああやって立ち上がって、夢に向かって進んでる。だからその邪魔はしたくないんだ」

「前に監督が言ってた。私はもう過去の人だって。それは悔しかったけど、でも私の死を受け止めた人にとって、私がまだ生きていることはきっと重しになる。だからこそ、フランシュシュ七号なんて新しい名前で活動してるわけだしね」

「ま、そんなわけだから!私の事は気にせずに今日はガタリンピックで活躍しよう!ほらほらっ、知名度を上げるためには、あの表彰台に立つくらいしないと駄目だって!」

 

アイちゃんは気丈に振る舞ってるように見えるけど、きっと家族に会いたいはずやけん・・・。

でも、アイちゃんは会いたくない、て言いよるし・・・どやんしよう・・・。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

実際にルビーをこの目で見て考えた事がある。

アクアは写真でだけど、ルビーもアクアもとっても成長していた。

あんなに小さかった二人は今や背なんて私よりも大きくて、私の知らない年月を感じさせられた。

だからかな。私が二人の目の前に出る事が、良くないことなんじゃないかな、なんて思ってしまった。

もちろん私は二人に会いたい。二人を抱きしめて、あの時伝えられた"愛してる"をもっと二人に言ってあげたい。

でもあの子達の気持ちは?あの子達はきっと、私の死を乗り越えてる。それなのに今更私が出ていくのは、あの子達に嫌な気持ちを思い出させてしまうだけなのかもしれない。

 

 

 

 

 

「さて、では全ての選手の意気込みを聞き終わりました!早速最終レースを始めていきましょう!では皆さん!位置について・・・」

 

その言葉に思わずスタート位置に並ぶルビーに目線が吸い寄せられてしまう。

自転車に乗って走ろうとするルビーは、私の記憶の中のちっちゃい頃のルビーがアクアに荷台を押さえてもらいながら、練習していた姿が思い起こされた。

思わず緊張で拳を握る。

 

「よーい」

 

パンッ。

ピストルの音と共にルビーが走り出した。

ルビーは時折バランスを崩しそうになりながらも自転車を漕いでいく。

私はあの時と同じく、転んでしまわないかハラハラしながらもその光景を見ていた。

 

そしてルビーの仲間の子が転んで泥まみれになっていく中、ルビーは誰よりも早くゴールした。

 

「やっ───」

 

自分のことのように嬉しくて思わず叫びそうになる。

しかし、ルビーはそのまま減速できずに泥の中に飛び込んだ。

あっ、そういえばあの自転車、ブレーキついてなかったっけ・・・。

 

泥に飛び込んだルビーが慌てて泥から這い出る。

そのまま周囲を見渡して自分がどうして飛び込んだのか、理解したルビーは思いっきり笑っていた。

 

笑顔は観客席にも伝播して皆笑い出す。

中には

 

「すげえぞ嬢ちゃん!」「東京もんもやるやないか!」「良い飛び込みっぷりやったぞー!」

 

等野次を飛ばす人もいた。

ただ誰もがルビーを見て笑顔になっていた。

ルビーが皆から認められ、皆から愛される。

私はその光景が自分の事のように嬉しかった。

 

 

 

 

「──けっ、何が会わなくてもいいだぁ?ばり会いたくて仕方ない、て顔してるつか」

 

サキちゃんの言葉に思わず振り返る。

しまった、ついいつもの笑顔を崩しちゃってた・・・!

 

「アイちゃん。リリィもね、家族に会いたい、て思う時もあるよ。でもね、きっと会いたい、て思った時に会える機会なんてそんなにないと思うの。私達はゾンビだから時間は永遠にあるのかもしれないけど、相手は普通の人だからまたいつ会えるかわからない。だからね、せっかく会えるチャンスがあるなら逃さずに会いに行ったほうがいい、て思うな」

 

「リリィちゃん・・・」

 

「ま、それに今のあんたが星野アイ、だなんて誰もわからないわよ。全身泥まみれだし、声もいつもと違うしね」

 

「今なら巽さんもいないですし、少しくらい良いのではないでしょうか?私達が黙っていればバレないでしょうし」

 

「皆・・・」

 

「ようし!そんじゃとっとと行くばい!次の競技まで時間あるし、少しでも長く話しておくけんね!」

 

皆の優しさに心が暖かくなる。

この感情は知っている。ルビーとアクアを抱きしめた時にも感じたものだ。

私、皆の事きっと"愛したい"んだ・・・。

愛する対象が増えた事を喜ぶと同時に、まだ心の底から"愛している"のかわからない自分に嫌気がさす。

だから今はこの暖かさに浸りつつ、私はその場を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

ちなみにルビーがゴールして泥まみれになる裏で、巽はちゃっかりゴールライン超えたところで停止していた。

どうやってやったんだろ、あの人。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「ありがとー!ありがとー!」

 

観客席の皆からの拍手を受けながら、私は競技場から控え室まで戻ってくる。

そこでは先にリタイアした先輩とMEMちょが、タオルで顔の汚れを落としながら待っていた。

 

「お疲れ。はぁ・・・まさかいきなり泥だらけになるとは思ってなかったわ」

 

「お疲れー。いやー角置いてきて良かったよ・・・。絶対取れてたか泥だらけになってたし・・・」

 

「二人ともお疲れー!いやー楽しかったー!・・・ふふっ、二人とも泥だらけじゃん!」

 

「いや、あんたも人の事言えないくらい泥だらけだから」

 

「とりあえずルビーも、このタオルで顔の泥落としてね。シャワー室は、外にあるホースで大きな泥汚れを落とした後じゃないと使えないみたい」

 

「んー、でもここで泥落としてもこの後の競技でまた汚れちゃわない?」

 

「あんたね・・・アイドルなら顔が大事、てのはわかるでしょ。あたし達は今日、少しでもB小町の事を知ってもらう、顔を覚えてもらう為にもこのイベントに参加してる、て事もう忘れたの?」

 

「ああー!そうだった、そうだった!」

 

「まあこんなど田舎で知名度アップ狙っても・・・とは思うけど、今のネット社会、どこでバズるかわからないんだから油断はしない事。あんた顔はすこぶる良いんだから、せいぜいB小町の客寄せパンダとして頑張んなさい」

 

「はーい・・・」

 

「ほらほら、早く顔拭いてー。この後洗い流す時間なくなっちゃうぞー」

 

私が顔の泥をタオルで拭いていると、控え室の扉が開いた。

中に泥だらけになった人が何人か入って来る。さっきのガタチャリの参加者かな?

 

「おうおう!お前らがB小町つうアイドルか?」

 

そのうちの一人が大股でこちらに近づいてきた。私の目の前で止まるとじろじろと無遠慮に見てくる。

おお・・・こんなコテコテの田舎にいそうな不良初めてみたかも。

 

「どちら様?あたし達、これから泥を洗い落としに行くのでそこをどいて貰いたいんですけど!」

 

先輩が私とヤンキーみたいな泥だらけの人との間に割って入る。

 

「あん?用があるからこうしてここに・・・」

 

「サ・・・二号ちゃんいきなり喧嘩腰は駄目やって、もー!・・・は、初めまして!わ、私達もフランシュシュてアイドルやってまして・・・せっかく同じアイドルだし挨拶がしたくて・・・みたいな?」

 

「いや、今のは完全に田舎のヤンキーが喧嘩売ってくる時の台詞でしょ」

 

「んだとっ?てめえ、ぶっコロすぞ!」

 

「はあ?やってみなさいよ!少しでも手を上げたら訴えてあんた達のアイドル人生終わらせてやるぞごらぁ!」

 

「ああ?いうじゃねえか東京もんがぁ!」

 

先輩とヤンキーの子が睨み合っている。

ヤンキーの子の仲間?はこの光景を見慣れてるのか、あまり驚いていない。

・・・いや、さっき自己紹介した子はあわあわしてるけど・・・。

 

「ちょっと二号、目的を忘れないで!・・・ごめんなさい。私はフランシュシュ三号。今日はあなたのファン、て子がメンバーにいたから会わせたくてここまで来たの」

 

「ファン・・・私の?」

 

「ええ、あなたの。星野ルビーさんのファン」

 

同じく泥だらけの別の女の子がヤンキーの子を抑えて、ここに来た目的を話す。

どうやらB小町の、ではなく私のファンらしい。

それは・・・正直嬉しい。私の事を可愛い、て思ってくれて、私の事を推してくれるのは自分がまるでここにいて良い、と言ってくれてるようで嬉しいから。

 

「ほらア・・・七号!」

 

七号と呼ばれた子が前に出てくる。

その子も泥だらけで顔はよくわからない。ただその両の瞳にどこか既視感を感じた気がした。

彼女は私の正面まで来ると、声を発さずにじっと私の事を見つめてきた。

 

「・・・」

 

「あ、あのー・・・?」

 

だ、大丈夫かな?本当に私のファンなのかな・・・?

 

「・・・ちょっと、あいつ大丈夫なの?」

 

「なんか怪しいよねー・・・ルビー、無理して付き合わなくてもいいかもよ?」

 

「うん・・・」

 

彼女は何も言わず、ただこちらをじっと見つめてくるだけだ。

だけど・・・私は特にその視線に不快な気持ちや恐れは感じなかった。むしろこう・・・むず痒いというか、気恥ずかしさがある気がする。

 

「・・・」

 

沈黙が続く。

うう・・・こういう空気苦手なんだよなあ。この子の仲間の人も見てるだけで何も言ってこないし・・・。

・・・よし!こういう時は私の方から詰める!

 

「初めまして!星野ルビーです!今日は会いに来てくれてありがとう!」

 

近づいて握手をしようと手を伸ばす。

彼女は私が差し出した手を見ると、同じように手を伸ばしてきた。

そのまま私の手に触れようとして・・・通り過ぎた。

 

「へっ?」

 

通り過ぎた手が私の背中に回り、身体ごと引き寄せられる。

わぷっ・・・。

バランスを崩した私の頭はその人の胸に抱き締められていた。

 

・・・冷たい。人の身体てこんなに冷たかったっけ?

それに何故か心臓の音も・・・全然聞こえない気がする。

心音がしないだけで、人の身体てこんなに不気味な静けさを放つんだ・・・なんてどこか他人事のように考える。

抱き締められたせいで私の顔が拭いたばかりなのに泥で汚れていく。だけど不思議と不快感はなかった。

まるで初めて会った人とは思えないくらい・・・むしろ優しい安心感があった。

呼び起こされるのはこの身体になってからの幼い日の記憶。

よく私はこうしてママに甘えて、抱きしめられて───

 

時間にして数秒、抱きしめられたあと私は解放された。

 

「顔、汚しちゃってごめんね、ちょっと会えた事が嬉しくて抱きしめちゃった」

 

「あ・・・」

 

つい名残惜しくなって声が出る。記憶の中の自分の血縁上の母と目の前の人物が被る。

 

ママ・・・?

 

でも聞き覚えのない声とアイは死んでいるという事実が私の疑念を否定する。

 

「私はフランシュシュ七号。あなたと同じアイドル。縁があったら共演とかできたら嬉しいな」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

フランシュシュと名乗るアイドルが控え室から出ていった後、私達は泥を落とす為、水浴びをしていた。

ホースから勢いよく出る水が、私達の身体についた泥を落としていく。

見る見るうちに私達のTシャツは元の姿に戻っていった。もう既に私の胸にはでかでかと書かれた『TWINS』の文字が蘇っている。

 

「よし、とりあえずはこんなところかしらね。今日は快晴だし気温も高いからすぐ乾くでしょ」

 

「あーやっと泥だらけから解放されたー・・・てどうせ次の競技でまた泥だらけになるんだろうなー・・・うう・・・」

 

「・・・」

 

「あんた、まださっきの連中の事、気にしてるの?」

 

「・・・そんな事・・・ある、かも」

 

「不思議な人達だったよね〜。皆泥だらけだから顔もわからなかったし、水浴びにも来なかったし」

 

「ていうか本当にアイドルなの?少なくともあのヤンキーは喧嘩っ早い、口が悪い、すぐ感情を表に出す、プロ意識が欠片もないただのチンパンジーじゃないの!」

 

「喧嘩っ早い、口が悪い、すぐ感情を表に出すのは先輩も同じでしょ〜」

 

「あたしはちゃんと共演者には敬語も気も使うっつの!とにかく、あんなのが仮にも同じ芸能界にいる、てのが信じられない!」

 

「まあまあ有馬ちゃん落ち着いて・・・。でもフランシュシュ、なんてユニット名聞いた事ないし、案外ご当地アイドルとかなのかもよ?」

 

「あーそれなら納得だわー、要するにこんなど田舎でアイドルやってる、芸能界の掟やルールを何も知らない生意気なクソヤンキーてことね。それならあの態度も仕方ないわー」

 

「先輩は相変わらずだねー」

 

でも本当になんだったんだろう。

今でもドキドキしている。あの懐かしい感覚は、アイと過ごした幼少期の記憶を呼び起こす。

あの頃は憧れのアイドルが母親になって、どれだけ甘えても許してくれる夢のような時間だった。

私の大切な思い出。私の人生で一番幸福だった瞬間だ。さっき会った七号・・・さんは雰囲気がアイに似てる気がする。案外泥だらけだった顔も、泥を落とせばアイそっくりだったりするのかも?

でもまあ、流石にそれは出来すぎか。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「おいアイ、あんだけで良かったとね?」

 

「・・・うん、あれで良かったんだよ。私の正体がバレるわけにはいかないし、言葉を交わせただけでも私は満足」

 

成長したルビーは私よりも背が高くなってた。昔は膝の上で頭を撫でてあげると嬉しそうにしていたのに・・・、時の流れ、てのは本当に偉大だねー。

皆に心から愛されて、皆を心から愛せるアイドルに、きっとルビーなら慣れる。

それが間近で感じられたんだから、これ以上ないくらいの幸せだ。

 

「ありがとう、私、皆にとっても感謝してる。もう言葉で言い表せないくらいにたっくさん。だからこの気持ちを皆に返す為にも・・・フランシュシュとして皆とアイドルを続けたい」

 

正直な私の気持ちを告げる。

ああ・・・やっぱり皆に嘘吐きたくないなあ。

それがどうしてなのか、自分ではよくわからないけど、皆の事を愛してると思えたから、だといいな、なんて心の中で思ったりする。

きっとこの思いは嘘じゃない。こうやって少しずつ愛せる人を増やしていけばきっと、私がファンの皆から貰ってきた愛だって返せる日もいつか来るはずだから。

 

 

「ふんっ、当たり前でしょ。あんたはフランシュシュ、B小町じゃないんだから」

 

「こいつ、すぐこういう事いうけん。でも筋金入りのアイのファンやもんなー?一緒にアイドルやれて嬉しいけんなー?」

 

「はあ?なに勝手な事いってんの?私はただ、アイにフラフラされると全体のパフォーマンスが落ちるからしっかりして、て言いたいだけ!」

 

「・・・! 愛さん・・・フランシュシュだけにフラフラ・・・ですか?」

 

「はぁ!?」

 

「純子はん、さっきのはどういうことなんでありんすか?」

 

「えっと、つまり愛さんはフランシュシュとフラフラをかけて・・・」

 

「ちょっと!ゆうぎりに変な事吹き込まないでよ!あれは偶然そうなっただけで私は別に──」

 

「ヴァウ・・・フランシュシュッ!」

 

「たえまで・・・もう!」

 

「ふふっ、愛ちゃんはしょうがないなー。私が推し、て認めるならファンサービスしてあげてもいいけどー?」

 

「!!・・・だ、誰があん、たのこと、推し、てる、です、て・・・?」

 

「おお・・・あの愛ちゃんが唇を噛みながら強がってるけん・・・。なんかドキドキしてきたかも・・・」

 

「さくらちゃん・・・ちょっとそれは引くかも・・・」

 

 

・・・

 

 

 

 

 

観客席に来た斎藤ミヤコは日傘を差しながら星野ルビー達がガタチャリで走る姿を見ていた。

有馬かなとMEMちょがコースアウトして泥まみれになる。

ルビーは何とかゴールするも、ゴール地点で止まれずにそのまま干潟にダイブして泥まみれになっていた。

 

「全く、何やってるんだか・・・」

 

泥まみれになりながらも、笑顔で声援を受けるルビーを見ながらミヤコは苦笑する。

どのような姿であれ、元気そうに笑うルビーを見るのは親代わりの身としては嬉しいものだった。

 

「・・・失礼、斎藤ミヤコさんですか?」

 

突然、後ろから声を掛けられる。

振り向くとカメラを持った中年の男性がいた。

その顔に見覚えがあったミヤコは、頭に浮かんだ名前を口にする。

 

「あなた・・・確か壱護の・・・」

 

「大古場です。最後にお会いしたのはアイさんのお通夜の時でしょうか?」

 

大古場は苺プロの元社長、斎藤壱護の学生時代の友人だ。

二人の仲は良かったようで壱護とミヤコの結婚式にも出席していた。

また大古場は昔、東京の大手ファッション誌の編集部に勤めていた事もあり、仕事場で会う事も多かった。

 

 

「ええ・・・お久しぶりです。その節はお世話になりました」

 

「いえ・・・。その後、壱護の奴はどうですか?」

 

「・・・実は・・・」

 

ミヤコは壱護があの事件以降、行方がわからない事を伝える。

大古場はそれを知らなかったようで驚いていた。

 

「あの野郎・・・!こんな美人な奥さんほっぽって何やってんだ・・・!」

 

「・・・大古場さんは壱護が今どこにいるかご存知でしょうか?」

 

「・・・いえ、私もあの事件以降、奴と連絡を取ってなくて・・・。お力になれず申し訳ない」

 

「そんな・・・」

 

二人の間に微妙な空気が流れる。

大古場はひとまずこの雰囲気を変える事にした。

 

「奥さんは本日はどうしてここに?」

 

「・・・実はうちで新しくアイドル部門を立ち上げたんです。先日、佐賀県の企業からお仕事を頂いたので来たのですが、そこのアイドルの一人がガタリンピックに興味がある、との事で私はその付き添いで・・・」

 

「なるほど。確かにこのガタリンピックは佐賀でも有名なイベントですからね。もしかして先程ガタチャリでゴールまで行けたアイドルがその?」

 

「ええ。星野ルビー、新生B小町のアイドルです」

 

「B小町・・・復活させたんですね」

 

そこまで言って大古場は最近佐賀でよく見るようになったアイドルを思い出す。

どこかで見たと思っていたアイドルは、B小町のアイにそっくりだったのだ。

大古場は最初これを目の前のミヤコに言うか言うまいか悩んでいたが、結局伝える事にした。

 

「実は最近、佐賀で話をよく聞くようになったフランシュシュ、というアイドルグループがありまして・・・」

 

「あら、そうなんですか?活動する地域が違うとはいえ、同じアイドルグループ。是非頑張ってほしいものですね」

 

「・・・そのメンバーの中に一人、奥さんに見てもらいたい人がいまして・・・」

 

そういうと大古場は唐津駅前のゲリラライブの映像をミヤコに見せる。

その映像は直撮りだった為か、画質は悪かったがそこに写っている一人の少女に目を奪われた。

 

「・・・驚いた。この子、アイにそっくり・・・」

 

「やはり奥さんもそう思いますか。私も初めて見た時、同じ印象を抱きました」

 

ミヤコはその動画に出てくるアイそっくりの少女のあまりのクオリティに舌を巻く。

ダンス、歌、そしてカメラに向ける笑顔の角度、その全てがミヤコの知るアイそのものだった。もしこの映像の少女が本物だと言われても信じられるレベルだ。

 

「ここまでアイを研究して真似できるなんて・・・信じられませんね・・・」

 

「・・・実は今日このガタリンピックの会場に彼女がいます」

 

「なんですって?」

 

「先程、選手として参加してるのを見ました。この後の競技にも出るかもしれません」

 

ミヤコは考える。今このアイそっくりの少女にルビーが会ってしまったら・・・。

例え偽物だとわかっていても、これだけ本物そっくりだと嫌でもアイの事を思い出すだろう。

彼女はアイの事件が起きた時、間近でアイの死を目撃したアクアと違って警察の人に視線を遮られながら運ばれた。

それでも彼女が平静でいられなくなるのは、間違いない。それは彼女を雇用する会社として、何よりも母親として到底見過ごす事はできなかった。

 

「私は今後もフランシュシュを追うつもりです。あのアイドルグループには何かがある。そんな気がしてならないんです」

 

「・・・」

 

「ああ、それと・・・壱護の馬鹿野郎について、私の方でも調べてみます。見つけたらぶん殴ってでも連れてきますよ。こちらも何かわかれば連絡します」

 

そういうと大古場は自分の連絡先をメモ帳に書くとそれを破ってミヤコに渡した。

 

「・・・わかりました。何から何までありがとうございます」

 

「いえ、それでは私はこれで」

 

大古場がそういうとミヤコの元を離れていく。

 

ミヤコはルビー達にまず連絡を取ろうとスマホを取り出した。

 

「そうだった・・・今あの子達はスマホを持ってないんだった・・・」

 

汚れるのを防ぐ為、スマホや貴重品等は更衣室に置いていってるはずだ。

ガタチャリはもう既に全レース終わっていて、もうしばらくすれば次の競技が始まってしまう。

ミヤコは考えた後、競技が終わるまで待つことにした。

 

「ルビー・・・」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「では、次の競技ガターザンに参加する選手の皆さんは控え室までお越しください!」

 

アナウンスが流れた為、私達は控え室に向かう。

中に入ると他の選手はもう揃っているみたいだった。

あ、ルビーもいた。参加してるとわかるとつい探しちゃうなー。あっ、こっちみた!・・・どうしよう?手を振るくらい・・・なら、いいよね?

・・・!

ルビーも手を振り返してくれた・・・!きゃ、きゃわーーー!

やばい・・・!急に成長したルビーに会えたのもあるけど、反動が・・・反動が来てる!

さっき抱き締めたのもあって、生ルビーの感触が・・・!すごいまた抱き締めたい・・・!が、我慢しないと私!流石に誤魔化せないくらい次は話しかけちゃいそうだし・・・!

 

「よぉ!さっきぶりやけんな!東京もん!」

 

「げっ、さっきのヤンキー・・・」

 

サキちゃんがルビーと隣にいた赤いショート髪の女の子に話しかけた。

サキちゃんがこっそりこっちに親指を立てる。

もしかして私がルビーに話しかけやすいように・・・?

さ、サキちゃん!その気遣いは嬉しいけど今はまずいんだよー!

 

 

「お前らもガターザンに出るんやけんな、都会のお嬢様に泥んこまみれは大変やなかとか〜?」

 

「あらあら〜?田舎のヤンキーは普段から泥遊びしてるから今も顔が泥まみれなのに気づいてないのかしら〜?」

 

「ああ?相変わらず生意気やなこの丸顔があ・・・!」

 

「ちょっとー?芸歴一ヶ月も無さそうなヤンキーが何か言ってるんですけどー?」

 

「二号、喧嘩腰はやめて。ごめんなさい、うちのリーダーが失礼な事いって」

 

「いえいえこちらこそ〜。ほら、有馬ちゃんも謝ろう?」

 

「い、や、よ!謝るならそっちのヤンキーからでしょ?」

 

「二号」

 

「む・・・。悪かっ──」

 

「だいたいそこのヤンキーがリーダー?はっ!アイドルじゃなくて珍走団の間違いじゃないの?顔だって泥まみれでメンバーのプロ意識も無いし、とってもお似合いね」

 

「は?」「今何と言いましたか?」

 

サキちゃんが謝ろうとしたところに赤い髪の子が更に煽ってきた。

それを聞いた愛ちゃんと純子ちゃんが反応する。

 

「確かにうちのリーダーから絡んだ事だからそこは謝る。けど今の暴言は見過ごせない」

 

「私達は二号さんをリーダーとして精一杯アイドルとして活動しています。それを大して知らない人から侮辱されるのは納得できません。今の言葉、撤回してください」

 

「愛、純子、もういい。あたしが悪かった、これで終わりやけん」

 

「あんたは黙ってて」

 

「これはもう私達フランシュシュの問題です。大人しく引き下がる事などできません」

 

愛ちゃんと純子ちゃんが赤い髪の子を睨みつける。後ろでさくらちゃんがいつものようにあわあわしていた。

愛ちゃんはともかく、普段大人しい純子ちゃんまで怒るなんて珍しい。

・・・まあ私も最後のはカチンと来ちゃったけどな〜。

 

「・・・今のは先輩が悪いよ。ほら、謝ろう?」

 

「そうそう。あたしも謝るから、ね?」

 

「・・・」

 

 

 

 

 

「それでは次の競技の準備ができましたので、選手の皆さんは指定の場所までお越しください」

 

運営からのアナウンスが流れる。

それを聞いた赤い髪の子は、私達の方を見ずに外に繋がる扉に向かって歩き出した。

 

 

「・・・ほらっ、呼ばれたから行くわよ!」

 

「わっ、ちょっと!先輩!」

 

「有馬ちゃん!?・・・ごめんなさい。あの子ちょっと気が立ってるみたいで・・・後程謝りに行きますのでー!」

 

そういうとB小町が控え室から出ていく。

他の選手もいた為、部屋全体に気まずい雰囲気が流れていた。

 

 

「・・・らしくねーじゃないつか?こういうのはあたしの役割やろ?」

 

「・・・別に、ただあの子の言い草が気に入らないだけ」

 

「全くです。同じアイドル同士、互いを高め合う為の激励の言葉ならまだしも、あの内容は頂けません!」

 

愛ちゃん達は落ち着いたようだけど、純子ちゃんはまだぷりぷりしてるみたい。

純子ちゃんは普段気が弱いけど、結構頑固なところあるからなー。

 

「まあまあ落ち着いてー、純子ちゃん」

 

「ひゃっ!・・・あ、アイさん?」

 

後ろから背中を指でなぞって、純子ちゃんの意識をこちらに向ける。

 

「さっきの言い方は確かにカチンと来たけど、ここで言っても意味ないからね。こういう時は実力で見返さないと!」

 

「実力、てアイちゃん何すると?」

 

さくらちゃんが不安そうに聞いてくる。

私は皆の視線がこっちに向いた事を確認すると、人差し指を立てて言った。

 

「そりゃあこの後の競技で私達が勝ってあの表彰台に乗る、でしょ!本来ならアイドルっぽくライブで観客を沸かせる、とかしたいけどこの格好じゃ無理だしね」

 

「まあ確かに、本来の目的の知名度アップも狙えるし良いとは思うけど。あんたはそれでいいの?というかそもそも勝算はあるの?」

 

愛ちゃんが私をじっと見つめる。

多分愛ちゃんはこう言いたいんだ。私がルビー相手に戦えるの?て。

 

「ん?ルビーの事?全然いいよー。こういうのは全力でやらないと!勝算?勝算は・・・えーと」

 

「・・・あんた、もしかして勝算も無しに適当に言ったんじゃ・・・」

 

「あっ、そうだ!たえちゃん運動神経良いしきっと好成績だせるよ!」

 

「ヴァヴァゥエ!」

 

「・・・はぁ。とにかく次の競技であの子達を見返す、てことでいこうか。リーダーはそれで良い?」

 

「あ?たりめーよ。どっちにしろ勝負事なら負けんばい!」

 

「純子達もそれで良い?」

 

「・・・はい。今はそれしかないのならば従います」

 

「わっちも文句はありんせん」

 

「うん!私も良いと思うけん!」

 

「リリィもさんせーい!」

 

そういうと私達も控え室から出て競技場へと向かう。

ルビーには悪いけど、全力でやっちゃうよー!

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「・・・ああー!どうして私の口はこうも勝手に人の悪口を言っちゃうのよー!本当はあそこまで言うつもりなんてなかったのに!私の馬鹿!阿保!ぶり大根!」

 

「でも珍しいね。お兄ちゃんから先輩は撮影の現場とかだと、結構周りに合わせて演技するて聞いてたけど」

 

「私だって普段ならあんなヤンキーに絡まれても言い返さないわよ・・・。でもなんか・・・わかんないけど頭に来てこう・・・」

 

「先輩って、ほんとめんどくさい性格してるよねー」

 

「うう・・・ジャパンアイドルフェスで私はまだ新人のアイドルだーて息巻いたのに、早々にこんなこと言うなんて・・・」

 

「有馬ちゃん、素直になれないところあるもんねー・・・とりあえず後で謝りに行こう?一緒についていくからさ」

 

「うん・・・」

 

私達は控え室から出てスタッフから指示された場所で待機していた。

どうやら先程のガタチャリにも参加した選手は、先に飛べるみたい。

 

「まず最初に佐賀警察の方にデモンストレーションで飛んで頂きますので、その次が皆さんの出番です。一人ずつ飛ぶので先に順番だけ決めておいてくださーい」

 

「どうする?」

 

「あ、じゃあ私先に飛びまーす」

 

「じゃあ次はあたしね。ルビー、あんたがトリよ。さっきのガタチャリだって走り切ったんだから、今回のも期待してるわ」

 

「私達の飛び方を見て、ルールを把握してね。そしたらあとはルビーの運動神経次第、てことで!」

 

「オッケー!任せて!」

 

そういえば次の競技、さっきの人達も出るんだよね。

さっきは悪いことしちゃったけど、まずはこれに集中しないと!

 

 

 

「さあ続きまして、こちらの会場で皆さんに挑戦して頂く競技はガターザンです!」

 

「では先程同様、佐賀警察の方にまずは飛んで頂きましょう!」

 

「それでは、よろしくおねがいしまーす」

 

司会のお姉さんが言うと、事前に用意された高台の上に警察の男の人が立つ。

 

「飛んじゃうぞー、見とけよー」

 

クレーンから吊るされたロープを掴むとそのまま宙に飛び出した。

 

「有明海あーい、ぎゃあ」

 

そのまま数メートル先の干潟に落ちる。あっという間に泥だらけになっていた。

 

「・・・とこのように距離+空中でのパフォーマンスで競って頂きます!」

 

 

 

とりあえずあのクレーンから吊るされたロープに捕まって、タイミングを測って手を離して空を飛んだ時の距離を競う競技、かな?ターザンしながら距離を稼げばいいみたい。

パフォーマンス、てのは・・・なにすればいいんだろう?地元の人らしき人が得点板持って座ってるし、あの人達が満足するパフォーマンスを見せると得点を稼げるのかな?

 

MEMちょが高台に登り、ロープを掴む。今回は司会のお姉さんは高台の下にいるから、意気込み等は言わなくていいみたい。

 

「それじゃあ、いっきまーす!」

 

そういうとMEMちょがロープを掴んで、宙に飛び出す。ちょうど真ん中くらいで手を離したMEMちょは、最初に飛んだ警察と人より少し先の場所に飛び込んだ。

 

「おーっと!これは飛距離は・・・八メートル!初めて飛んだにしては中々の距離だ!審査員の皆さんの出した得点は・・・2、2、2。パフォーマンスは微妙だったか!?」

 

泥だらけになったMEMちょが肩を落としながら戻って来る。

 

「いやー、なかなか難しいよこれ。結構高さもあって飛ぶの勇気いるし。審査員に向けてのパフォーマンスなんてする暇がなかったよ〜」

 

「へー、やっぱり高いんだー。次先輩だけど大丈夫かな?」

 

先輩が高台の上でロープを掴む。顔色を見る限り、怖いとかは思ってなさそう。

先輩はなんだかんだで芸歴も長いし、本番には強いタイプだ。初めてのこのガターザンでも、審査員にウケるパフォーマンスもできるはず・・・!

先輩が宙に身を投げ出す。それと同時にロープを握る手が滑ったのか、真下の干潟に足から落ちた。

 

「おおっと!これは・・・飛距離は5メートル。足から綺麗に落ちた為か審査員からは2、3、3とそこそこの点数です!」

 

スタッフに引き抜かれた先輩が、下半身を泥だらけにして戻って来る。

 

「・・・笑いなさい。哀れで泥まみれな私を笑いなさいよ!」

 

「よしよし、しょうがないよぉ。結構あれ滑るもんねー」

 

先輩を見届けた私は高台の上に立つ。

確かに、結構高いかも・・・。とりあえず先輩みたいにすっぽ抜けないようにロープを強く握って・・・。

 

「よーし!星野ルビー、いきまーす!」

 

宙に飛び出した私は、遠心力で反対まで振り子のように浮き上がる。

まだ手を離さずに・・・次の浮き上がりに合わせて勢いよく飛ぶ!

それまでは笑顔で観客席にアピールして・・・!

あ、ミヤコさんいた。カメラを構えてる。よし、あのカメラに向かって笑顔を向けながら・・・ここだ!

 

「いっけえええ!」

 

そのまま私は干潟に飛び込んだ。

 

「これはすごい!本大会トップの記録です!飛距離は一ニメートル!審査員の得点も4、4、4と高得点です!暫定一位!」

 

やった!全身泥まみれになりながら干潟から這い出る。

ミヤコさんにピースしながら先輩達の元へと戻った。

 

「ふふーん!どう?結構良い点取れたと思うんだけどー?」

 

「おお〜これなら壇上ももしかしたらいけるかもねぇ!」

 

「ええ。あたし達の犠牲の甲斐もあった、てものね」

 

「先輩はただ落ちただけだけどね」

 

よしよし。

次の人は・・・あ!さっきのふらんしゅしゅ?てアイドルの子だ。ショートの気の強そうな子・・・確かあのリーダーの子に愛、て呼ばれてたはず。名前が名前だから覚えてたんだった。

 

 

ロープを掴む。そのまま飛ぼうとして・・・先輩のように真下に足から落ちた。下半身が干潟に埋まってるところも先輩と同じだった。

 

「記録の方は5メートル!審査員の点数は・・・2、3、3・・・これは微妙だ!」

 

審査員の人も完全に先輩と同じ点数でいいや、て感じで板掲げてるし・・・。ちょっと可哀想かも・・・。

 

その後も次々とフランシュシュのメンバーが飛んでいく。

けど得点は高いのに飛ばなかったり、ものすごい距離を飛んでも得点が低かったりとなかなか奮わなかった。

でも・・・楽しそう。きっと皆、心からこの競技を楽しんで飛んでるんだな、てのが伝わってくる。

 

「では次の選手は・・・おおっと、ガタチャリで頭から泥に突っ込んだ選手だ!ヒヤヒヤするから今度は気をつけてくれよ?」

 

観客席から笑いが起きる。次の選手は七号さんだった。

 

「はーい、気をつけまーす!フランシュシュ七号、いっくよー!」

 

相変わらず泥だらけで顔はわからないけど、たぶん笑顔なんだろうなー。

ロープを掴んだ七号さんが振り子のように反対まで浮かぶ。まだ飛ばない。元の位置へと戻っていく。たぶん私の時と同じく次のタイミングで飛ぶつもりだ。

 

「せーっの!」

 

彼女が手を離す。彼女の身体は前に・・・ではなく、手を離すのが遅かったのか空に向かって飛んでいった。

太陽に向かって真っ直ぐに飛ぶ。そのまま太陽が背になるように、くるりと振り返った。

 

 

一瞬時間が止まったのかと思った。私達を、観客席の人全てを見下ろすような構図。太陽の光はまるで後光のようだ。彼女の表情は太陽の光を背にしてできた影に隠れて読み取れない。ただその両の瞳、吸い込まれそうな星の光だけが妖しく輝いて私達を見ている。

・・・まるで神様みたい。誰もがその神秘的な姿に目を奪われている。この感覚を私は知っている。確かあれは・・・天童寺さりなが病室の中でテレビに映っていた推しを眺めていた時に感じていたものだ。でも頭の中の星野ルビーの記憶がそれを否定する。だってママはもう───

 

 

 

何かが落ちる音で思考の海から意識が浮上する。

慌てて競技場の方を見ると、先程まで飛んでいた七号さんの足が泥から出ていた。

 

「お、おおっと!?何やらものすごい高さまで飛んだようだが!?飛距離は・・・三メートル・・・。だ、だが芸術点はどうだ?!審査員の掲げる得点板は・・・1、2、2点!どうやら逆光であまり見えなかった事が良くなかったそうです!」

 

どうやら頭から落ちたらしい。周りのスタッフさんが慌てて助けに行こうとするが、それよりも早くフランシュシュの他のメンバーが助けに出ていた。

泥から引き抜かれて、メンバーに引き摺られていく。顔は泥だらけでよくわからなかったけど、たぶん笑ってたんだろうな。何故か自然とそんなふうに思えた。

 

 

 

・・・

 

 

 

あの後、飛んだたえちゃんがバラバラになったり、たえちゃんの身体を直しに皆で干潟に飛び込んだりいろいろあったけど、なんだかんだでたえちゃんが一番を取った。

けど表彰台でフランシュシュのアピールしようにもたえちゃんは喋れないし、さくらちゃんのひらめきで重ね着していたTシャツを破いたら下に着ていたのがドライブイン鳥のTシャツだったり、まあ結局私達のフランシュシュアピール作戦は失敗したのだった・・・、残念。

 

壇上から戻ってきたたえちゃんと合流した私達は、ばったりルビー達と会ったのだった。

 

「さっきは悪かった。つい喧嘩売っちまったやけん。確かにあたしのプロ意識が足りなかったけんな」

 

「・・・いいえ、こっちこそ。あなた達のこと、何も知らないのにあんな事言ってごめんなさい」

 

サキちゃんと赤い髪の子が頭を同時に下げる。

うんうん、仲直りできてよかった、よかった。

 

「よし!これでスッキリしたけんな!三号、四号もこれでええな?」

 

「リーダーがそう言うなら私ももう何も言わない」

 

「はい、私も構いません」

 

「おし!・・・しかしお前、都会っ子の癖に度胸あるけんな!アイドルやる前はどっかのチームに入ってたつか?」

 

「チーム?よくわからないけど昔・・・ていうか今もだけど役者をやってるわよ。それとあたしは有馬かな、これでも昔は十秒で泣ける天才子役ーなんて言われて持て囃されたんだから」

 

「有馬かな?知らん!」

 

「ぐはっ」

 

有馬かな・・・かなちゃんが名前を知られて無いことにダメージを追って膝をつく。

ん〜?有馬かな・・・聞いた事があるようなないような・・・。もしかして共演した事あったかな?

 

「てかうちにも元子役ならおるけんな!な?ちんちく?」

 

「だからちんちくじゃないもん!」

 

サキちゃんに呼ばれてリリィちゃんが頬を膨らませる。

そんなリリィちゃんをかなちゃんがじっと見つめていた。

 

「元?どっかの芸能事務所に入ってたの?」

 

「あ、あはは・・・。リ・・・六号はすぐ辞めちゃったからもう覚えてないかもー?」

 

「・・・あんたの声どっかで聞いたような気がするのよねー」

 

「そ、そう?六号はあなたの事知らないけど?」

 

「がふっ・・・ま、まああなたくらいの年齢なら私の全盛期を知らなくても・・・ぐふっ」

 

「ああっ!有馬ちゃんが自分で言って自分にダメージを!」

 

ルビーとは別のメンバーの子に支えられながら、かなちゃんがよろよろと立ち上がる。

 

「あ、私はMEMちょ。ユーチューバーとか配信者としても活動してるんだ〜」

 

「ど、どうも。私は一号です。ん?ユーチューバー、ていうとぴえヨンさんと同じ?ひよこのマスクを被ってる・・・」

 

「おお!ぴえヨンさんの事知ってるんだ〜。そうそう、あの人は一応同じ事務所の先輩・・・になるのかな?」

 

「この前あたしら、ぴえヨンとCM撮ったやけん!こっちにいるならテレビで流れる事もあるとから見てくれよな!」

 

「CMの仕事貰ってるの?いいなー。私達まだ、チャンネルでの配信とライブしかした事なくて・・・。そうだ!あなた達もアイドルなんだよね?配信とかしてないの?」

 

「ちゃんねる?確かに最近コマーシャルは撮りましたけど、今ここにてれびがないのでどのちゃんねるかは・・・」

 

「ていうかさっき、零号さん凄い勢いで飛んでたけど大丈夫だったの?なんか逆光で良く見えなかったけど、何か落としてなかった?」

 

「だ、大丈夫やけん!ほらたえちゃん、頑丈で運動神経いいやけんから!落とし物も私達が回収したし!」

 

 

 

皆が和気藹々と話す。

良かった。ルビーのグループと喧嘩別れはしたくなかったし。

そんな事を思ってるとルビーが近寄ってきた。

 

「あ、あの、七号さんさっきのジャンプ凄かったです!」

 

「ありがとー!私の事は七号、て呼び捨てでいいよ?私もルビーて呼んでいい?」

 

「・・・!うん!よろしくね、七号!」

 

ルビーが太陽みたいな笑顔を見せる。

ああーもう!うちの娘可愛すぎ!一生見ていたいな〜。

 

「ねぇ、後で連絡先交換しよう!あ、ロインやってる?・・・そうだ!今度私達のチャンネルでコラボ配信とかしない?」

 

「ルビー落ち着いて、ね?ゆっくり話してごらん?ほら深呼吸ー」

 

「ああ、ごめん!・・・すーはーすーはー。ふふっ、なんか七号て不思議な人だね、大人びてたり、子供っぽかったり」

 

「え?私そんな子供っぽく見えるかな?」

 

「見えるよ〜。私と話す時は大人っぽいけど、他のメンバーの人と話す時は子供っぽい感じ!」

 

「そっかー、うーん、私このグループだと年上なはずなんだけどなー」

 

確かに、元々そんなに気にしてなかったけど年下の愛ちゃんやサキちゃんからも敬語とか使われてない気がする。

サキちゃんはゆうぎりさんには姉さん、て言って敬ってるみたいだけど・・・。

でも良かった。ルビーと普通に話せてる。今もルビーの事、可愛くて仕方ないけど、このままアイだとバレずにすみそうだ。

 

「そういやあなた達、どこに向かって──」

 

「?どこって・・・泥を落とす為にシャワーに行くとこだけど?あ、でも先に大きな汚れは外にあるホースで落とすんだってー」

 

そういうと先程、私達が泥を洗い落とした場所に着いた。既に他の参加者も何人か泥を落としにホースで水を掛け合っている。

それを見た私達はすぐに肩を組んで顔を突き合わせた。

 

「やべぇぞ!こんなところで水掛けられたらゾンビがバレるけん!」

 

「人目もあるし、隠れられそうなところもないし、まずいね」

 

「あれ?もしかして・・・絶体絶命、てやつ?」

 

「まあ私達もう死んでますけどね」

 

「どやんすー!どやんすー!」

 

 

 

「そういえばあんた達、ずっと泥だらけだったわね。・・・ちょうどいいじゃない、いい加減に素顔、見せなさいよ」

 

「そうだよー!この後一緒に写真も撮ろう!せっかく会えたんだし、記念にさ!あ、あと良かったらその写真、私達のチャンネルでもアップしていい?」

 

「MEMちょ天才!ねえねえっ、七号もいいでしょ?」

 

ルビー達が嬉しそうに聞いてくる。

かなちゃんなんかホースを持って準備万端だ。

 

「わ、私達はいいかなー、もっと空いてきたら泥を落としにくるけん。気にせずに先流していいけんよー」

 

「なーに?もしかして、すっぴんが見せられない程自信が無いとか?安心なさい、写真は加工してあげるから」

 

「そだよー、最近の加工アプリはすごいんだから。多少の肌荒れとかむくみなんてちょちょいのちょいだよー」

 

あ、これは逃げられないやつだね。

まあ私達の顔、肌荒れどころか土気色だし、目の周りなんて青白い隈ついてるから加工どころじゃないけど。

 

「あ、あははー、悪いけど遠慮しておくけん。それじゃあまたいずれ・・・」

 

 

「隙あり・・・!ああー手が滑ったー」

 

 

わざとらしくかなちゃんがいうと、ホースの先をこちらに向けた。

中から水が勢いよく飛び出し、純子ちゃんとさくらちゃんに直撃する。

あっという間に泥が落ちて、元のゾンビ顔が出てきた。

 

「これは事故だからしょうがないわよねー?さーて、その顔拝ませてもらおうじゃ・・・」

 

 

 

 

 

「ああっ、たえちゃん!何食べてるの!?」

 

リリィちゃんの大声にその場にいた人達の視線が集まる。

その先ではたえちゃんが何かを口に咥えていた。

 

「ヴァヴァ?」

 

たえちゃんの口の端から飛び出てるもの、それは細長い魚のミイラのような姿をしていた。口の部分には細長い鋭利な歯がついていて、見た目は完全にエイリアンだ。

 

「駄目でしょ、変なもの食べちゃ!ぺっ、しないと、ぺっ!」

 

リリィちゃんが口を大きく開けてジェスチャーもしながらいうが、たえちゃんはそれを離そうとしない。

 

「うえ〜、何あのエイリアンみたいなの・・・?」

 

「あれはワラスボよ。有明海にしかいない魚、見た目はグロテスクだけど炙ったり、揚げたりして食べると美味しいらしいわ」

 

「おお〜有馬ちゃん、博識〜。本当に雑学強いね」

 

「子役の頃も食レポの仕事はやってたからね。ああいうインパクト強いものの食レポは、知識があるのとないのとじゃテレビ受けも全然違うのよ」

 

リリィちゃん、たえちゃんナイス!

ルビー達の視線がたえちゃんと咥えているエイリアンに集まってる間に、何としないと!

 

 

「今のうちやけん!隠せ、隠せ!」

 

「ど、どど、どうしましょう?!こ、この辺に顔を隠せるものなんて・・・っ」

 

「どやんすどやんすどやんすー!」

 

「あっ、じゃあまたあれ使おうか!」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「で、お前等はずっとその姿でここまで来たのか・・・」

 

今私達は巽が乗ってきた車に全員いる。

結局あの後、私達はリリィちゃんとたえちゃんが時間を稼いでいる間にまたカラーコーンに隠れながら巽の乗った車まで戻ってきた。

 

「全く、急にカラーコーンに囲まれたからびっくしたじゃろがい・・・。どこのトイストーリーかと思ったわ!」

 

「咄嗟に思いついたにしてはいいアイデアでしょ?カラーコーンなら駐車場にたくさん有っても違和感ないしね」

 

「いや、一台の車を囲んで置いてあったらおかしいじゃろが!」

 

「もー、細かい事をいちいち気にする大人は担当アイドルに嫌われるよー?私がいた事務所の元社長なんて若い子贔屓もあって、メンバーから散々なこと言われまくってたし」

 

「・・・肝に銘じておく」

 

あ、意外と効いてる。出発前に愛ちゃんに殴られたのがまだ響いてるのかな?

後ろの座席を見る。そこには皆疲れたのか重なるように寝ていた。

仲良さそう・・・て、でもさくらちゃんはうなされてる・・・寝言的に夢の中でもゾンビバレしないように頑張ってるのかな?いつも頑張ってるし起きたら労わってあげよう・・・。

 

「あれ?リリィちゃんは寝なくていいの?」

 

「うん、ちょっと目が冴えちゃって・・・」

 

「そっか。・・・さっきはありがとね。リリィちゃんとたえちゃんのやり取りがなかったらゾンビバレしてたかもだよー」

 

「ううん。あれはアイちゃんの真似してみただけだよ。周りの人の目を集めるーてやつ。たえちゃんが何か食べてたし、ちょうどいいや!て思って」

 

「おおー、すごいね。リリィちゃんもアイドルとして成長してきたんじゃない?」

 

「そうかな?・・・そうだといいな・・・」

 

なんかリリィちゃんの声に元気がない気がする。

やっぱり疲れちゃったのかな?それとも・・・

 

「リリィちゃん、もしかしてだけど何か悩んでない?」

 

「・・・」

 

「・・・リリィちゃんが言いたくないなら言わなくていいからね。でも、悩んでいて、どうしても答えが出ないなら・・・私でも皆でも、巽でもいい。誰かに言ってみるといいと思う。私は皆が察してくれなかったら、多分もっと苦しかったと思うから」

 

「アイちゃん・・・」

 

リリィちゃんは暫く悩んでいたけど、少しずつ喋ってくれた。

 

「今日会った有馬かなちゃんね、リリィが昔テレビに出てた頃、よく共演してた子なの」

 

「かなちゃんが・・・」

 

知らなかった。でもそうだ。私ばかりゾンビになってから知り合いに会ってるけど、皆の知り合いに会う可能性だってあるんだ。

 

「かなちゃんとは同じ子役だった事もあって、仲良かったの。だから今日、久しぶりに会ったらとっても大きくなってて・・・リリィびっくりしちゃった」

 

その気持ちはわかる。私もルビーに久しぶりに会ったけど、私よりも大きくなっててびっくりしたから。

 

「でね、思ったの。もしリリィもアイちゃんみたいに家族に会ったら・・・リリィはどうしよう、て」

 

「アイちゃんがね、家族に会ったのを見た時、やっぱり会わせて良かった、て思ったの。例え正体が明かせなくても、やっぱり家族は仲良くしてる方がいい、て思うから。でもね、リリィは・・・もしパピーに会ったら、思いっきりパピーに甘えたい、パピー、リリィは生き返ったよ!ここにいるよ!て言ってあげたい。そう思っちゃったの・・・。リリィ達はゾンビだからそんな事言っちゃいけないのに・・・」

 

「リリィちゃん・・・」

 

そっか、リリィちゃんも悩んでるんだ。でもそれは当然だよね。リリィちゃんはたまに大人びてる時があるけど、きっとそれは子役として大人の世界で生きてきたからだ。

いくら大人びていても、リリィちゃんはまだ子供、親に甘えたい年頃だよね・・・。

 

「ねえ、リリィちゃん。皆には内緒にしておいて欲しいんだけどね、私も実はルビーに会った時、正体を明かしたい、て思ってたんだ」

 

「え?アイちゃんも?」

 

「うん。でもね、別の理由があったから言わないことにしたの」

 

「別の理由?」

 

「・・・ふふふ。恥ずかしいんだけどね、私、結構フランシュシュの皆の事、好きなんだ。それこそ、本当の家族と同じくらい。だから迷っちゃったの。正体を明かして、受け入れてくれるかもしれないルビーを選ぶか、ルビーには正体を明かさずに、同じゾンビである皆と一緒に引き続きアイドルをやっていくか」

 

「・・・それで、アイちゃんはフランシュシュを選んだの?」

 

「そう。皆と一緒にアイドルをやって、有名になって、いつかドームにも立ってみたい。生前の夢、て訳じゃないけど結局私は行けなかったし。その為に、ルビーといられるかもしれない時間よりもフランシュシュを選んだ」

 

「でもリリィは・・・」

 

「ううん、いいの。これは私の場合の話。リリィちゃんはね、まだ悩んでいいの。私と同じ選択をしてもいい。私と違って本当の家族を選んでもいい。ただ、まだ答えを出さなくてもいいの。もっともっと悩んで、答えを出せたらその時は私達に教えて欲しいな」

「例えそれがどんな選択でも、私は受け入れる。もちろん、皆もきっと応援してくれると思うから。・・・私の時みたいにね」

 

「そっか・・・うん、わかった!いつか答えが出せたら、アイちゃんに真っ先に教えてあげるね!」

 

リリィちゃんのいつもの笑顔。うん、やっぱりリリィちゃんは笑顔じゃないとね!

 

「・・・お前等、俺の前で堂々とゾンビバレしようとするからに・・・」

 

あ、巽の事忘れてた。

 

「大丈夫、大丈夫♪巽は細かい事気にしない、てさっき言ってたもんねー?」

 

「そうそう、リリィ達、巽の細かい事気にしないとこ大好きだよー!」

 

「やかましいわ!」

 

 

・・・

 

 

 

「ちっ、結局顔見れなかったわねー」

 

ミヤコさんが運転するレンタカーの中で先輩がぼやいていた。

あの後、ワラスボを食べていた零号さんに注目してる間に、フランシュシュの他のメンバーは皆いなくなっていた。

零号さんもいつの間にかいなくなってたし・・・。

 

「全く、どんだけすっぴん見せたくないって話よねー。普段から加工盛り盛りなのかしら。これだからご当地アイドルは」

 

「この前まで私は新人アイドル・・・!て言ってた人とは思えないくらい言うねー」

 

「ま、私達もジャパンアイドルフェスでライブした経験があるからもう新人じゃない、てことで!」

 

でもフランシュシュかぁ、私達と同世代でああいうアイドルもいる、てわかったのは良かったかも。

 

「ねぇ、ルビー。今日会ったそのフランシュシュてグループ・・・その・・・」

 

「ん?ミヤコさんどうしたの?」

 

「いえ・・・何でもないわ」

 

なんかミヤコさんの歯切れが悪い。何かあったのかな?

 

「ミヤ──」

 

「そうだ!あいつらもアイドルなんだからSNSやってるはずよねー、流石に自撮りの一枚や二枚あるだろうし調べてやーろぉっと」

 

そういうと先輩がスマホで調べ始める。

 

「趣味悪いよー、有馬ちゃん。嫌がってたんだからやめなよー」

 

「そう言いつつあんたもエゴサ始めてるじゃない・・・」

 

「いやーああも頑なに隠されると、こう、気になるというか・・・」

 

・・・

 

「ああ!もう!何でこいつ等誰もSNSやってないのよ!」

 

「ねー、珍しいねぇ」

 

「あ、でもホームページが出てきたわ。早速開いて・・・」

 

「先輩?」

 

「いや、これはないわー。流石にこのサイトはない」

 

「あー、懐かしいね、このホームページビルダー感」

 

「どれどれ・・・」

 

ヒットしたページをクリックすると簡素なホームページが表示される。

うわ・・・なにこれ。私が生きてた頃にも滅多に見ないレベルのダサさ・・・。フランシュシュの文字が虹色なのも、一面紫の背景に薄らとフランシュシュて文字が並んでるのもダサい。てかあなたは何人目の訪問者です、て久しぶりに見たな・・・。

 

「あ、でも流石に所属アイドルの顔写真が載ってるじゃない。さあーて、ご開帳といこうかしら・・・!」

 

「ね、ねえ、あなた達。そろそろ宿に着くしそろそろ降りる準備でも・・・」

 

やっぱりミヤコさんの様子がおかしい気がする。まるで何か調べられたくないみたいな・・・?

ただ先輩は気になってたようですぐ開いていた。

 

「・・・いや、普通に可愛いじゃない!」

 

「おおー、本当だ。普通にアイドルグループのセンターでも通じるレベルだねぇ」

 

「ちぇー、つまらないわね。下手に可愛い分、ネタにもできないじゃない、はーやだやだ」

 

先輩は数人見て飽きたのか、途中から自分のエゴサを始めていた。

MEMちょはへー、ほー、といいながら見続けている。

 

「私も見てみよーっと・・・」

 

あ、そうだ!結局七号の顔見れなかったし、見てみよう。フランシュシュ七号・・・七号・・・あ、あった。

フランシュシュ七号と書かれたページを開く。

そのページに表示された姿に私は目を奪われた。

 

「う、そ・・・」

 

これ、アイ・・・?

 

 




自転車の話はそうだったらいいな、と思って入れました。
アイは乗れなさそう。ルビーはアクアに手伝ってもらって乗れるようになってたらいいな。

次はついに嬉野温泉回です!
今回ちょっと長過ぎたので次はもうちょい短くするつもりです。

では引き続き、たくさんの感想、ご指摘、高評価、お待ちしております!
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