推しの子 in SAGA   作:片倉の推しの子Bです

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嬉野温泉編です。

短くしようと思ったのですがまた長くなってしまいました。
読んで頂ける方は、ゆっくり読んで貰えると幸いです!


第九話 ウォーキングデッド SAGA

 

 

ガタリンピックが終わって洋館に帰ってきた私達は翌日、巽に地下に呼び出されていた。

 

「昨日の今日なんて今回は早いですね・・・」

 

「まあ仕事があるのはいいことだから」

 

「やっぱあのドラ鳥のCMが効いたけんな!お前等、コッコさんとドラ鳥にしっかり感謝するけん!」

 

「ええー、リリィあの可愛くない鳥に感謝したくなーい」

 

「ヴァアヴァーイ」

 

「んだと!ちんちく!」

 

「リリィちんちくじゃないもーん!」

 

「あはは・・・でもやっぱりテレビに出る、てすごい効果があるけんね。こんなにすぐ仕事に繋がるなんてばりすごかね」

 

「わっちはやっぱり信じられないでありんすなあ。あんな小さいかめらで撮ったものが、あんな小さいはこを通じて全国の人に観られるなんて」

 

「ゆぎりんが一番ギャップを感じるかもねー」

 

「そっか、ゆうぎり・・・さんが生きてた頃はテレビもカメラもなかったんだよね、そりゃあ信じられないのも仕方ないよー」

 

「アイはん、わっちの事は呼び捨てで構わないでありんす。・・・これでもわっち、アイはんに同い年と言われて嬉しかったのでありんすよ。遠い時代を生きたものでも生きた齢は変わらない、そう言って貰えたような気がして。なのでどうか、わっちの事はゆうぎり、と呼んでくれなんし」

 

「ゆうぎり・・・うん、わかった!これからはそう呼ぶね!」

 

「あい。・・・もちろん、純子はんもそう呼んでくれて構わないのでありんすが・・・」

 

「わ、私はその・・・すみません。やはり皆さんのこと、さん付けで呼ぶのにもう慣れてしまったので・・・」

 

「ふふ・・・わかりんした。では好きなように呼んでくれなんし」

 

 

 

「でもあのCM、監督も凄いこだわって撮ってたしねー。あんなにリテイク出るなんて思わなかったよー」

 

あの時の監督は熱が入ってたなー。巽と仲良さそうだったし、案外気が合うのかな?

 

「ふーん、あいつ冴えない顔してたけど結構気合い入っとったな!」

 

「あの人、たぶんかなりこだわりが強いタイプの監督だとリリィは思うな。典型的な自分の撮りたいものの為なら、どんな不都合も飲み込むタイプ。ああいう人に気に入られると、またあの人が映画とかCM撮る時に呼んでくれるから、今回コネクション作れたのは良かったかも」

 

「へ、へぇー。やっぱりリリィちゃんが天才子役やってた時も、ああいう監督は多かったとよ?」

 

「うん!リリィ、結構どこの現場のスタッフさんとも仲良かったから。ああいうおじさんは敬語とか使わないで対等に話すと、気に入られ易いかな?」

 

「おお、リリィちゃん正解!監督は物怖じしない子役とか結構好んで使ってたよー」

 

「でしょー?撮影現場の事なら、リリィ詳しいから!」

 

リリィちゃんが胸を張って自慢げに言う。

いやーやっぱりリリィちゃんの事、とっても可愛く見えちゃうなー。ちっちゃい頃のルビーとアクアを思い出してつい甘やかしたくなる、ていうか・・・。

 

「アイちゃんも声、戻ってきたけんね。良かったとよ」

 

「ホントだよー。昨日は水たくさん飲んだからまだお腹がたぷたぷしてる気がする・・・」

 

「アイちゃんずっと水道に張り付いてたもんね・・・」

 

「私達にとって声は大事な商売道具の一つです。お客さんの前で歌を披露するのも仕事の一つなのですから、気をつけてくださいね」

 

「はーい」

 

純子ちゃんにも怒られちゃった。CM撮影の時もさくらちゃんにゾンビバレの事気をつけるよう言われたし、最近ちょっと気が抜けてるかな?

そういえば昔もよく佐藤社長に怒られてたっけ。

あれ?もしかして私、結構抜けてるタイプ?

いや、でもなんだかんだでルビーとアクアの事は世間にバレなかったし・・・。

 

「ですがアイさんは本当に有名なアイドルだったんですね。短期間でお知り合いに何度も会うなんて・・・」

 

「ホントだよねー。私もこんな遠いところで会えるなんて思わなかったよー」

 

ルビー、大きくなってたな。でも元気そうで良かった。やっぱり写真で見るのと本物を見るのは違うなー。メンバーの仲間とも仲良さそうだったし、アイドル活動、これからも頑張ってほしいな。

 

・・・そうだ!ルビーと会ったからルビーの事で頭がいっぱいだったけどアクアの相手!今ガチの結果、調べられてない!結局アクアが今ガチで恋人作ったかもわかってないし・・・。でももし相手ができてたら・・・うん、まあ私はアクアの母親な訳だし?どんな相手か知りたいと思うのは普通だよね!うんうん、私の大事な息子の相手を私が見極めるのは当然なわけで・・・。私が認められない相手だったらどうしよう・・・。とりあえずライブに呼んでからお話しすればいっか!

 

「──で、アイちゃんはどう思う?」

 

「へ?」

 

「もー、アイちゃん考え事でもしてたと?次のお仕事、何かなーて話やけん」

 

「ごめんごめん、そうだねー、私は・・・」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

そんなことを話していると巽が扉を開けて入ってきた。

 

「はいおはよ!」

 

いつも通り、変なテンションのままホワイトボードの前まで歩いてくる。

 

「ふむふむ、元気がないようだがお前等はゾンビィだ。昨日のガタリンピックの疲れもすぐ忘れるだろう・・・」

「さて、そんなわけで新しい仕事の時間です」

 

そういうと巽がホワイトボードをくるりと一回転させる。

そこには営業と書いてあった。

 

「営業?」

 

「そうじゃい!今回も知名度アップを狙う事で、より多くの仕事に繋げるのが目的なんじゃい!」

 

「ふーん、今度はどこの企業なの?」

 

「営業先は佐賀の大手製薬会社、久中製薬。うまくいけばタイアップのチャンス!」

 

「たいあっぷ」

 

確か別の企業と協力する、て事だっけ。私達はアイドルとして、その企業の商品のCMに出演したり、イメージソングを歌ったり。

 

「よくわからんと、その営業てのはいつやると?」

 

「まさか・・・」

 

「ふっ、もちろん今からじゃい!先方の慰安旅行に出演予定だった芸人が出られなくなったらしい」

 

「はぁ・・・だからなんでそんな無茶をやろうとするの?」

 

「少ないチャンスを逃さないためじゃ。・・・このご時世アイドルの需要は限られている。そしてお前らゾンビは無茶しても死なん!としたらやらん手はない!」

 

「確かに、一理ありんすな」

 

「とりあえずいつも通りやって、ちょちょちょいと実力みせてやれ。ちなみに場所は嬉野温泉だ」

 

「温泉!?・・・あ・・・」

 

温泉に反応した純子ちゃんが、恥ずかしそうに視線を下げる。

でもわかるなあ、私達ゾンビになってから庭での水浴びだけだったし、久しぶりに湯船に入りたいのもわかるかも。

 

「よかやん!あたし達ずっと庭で水浴びだけやったしな!」

 

「ほんならついにフランシュシュから、腐乱臭が抜けてなくなってしまいんすね」

 

「「「「「!!」」」」」

 

一斉に皆、自分の匂いを嗅ぐ。た、たぶんまだ腐った感じの臭いはしないから大丈夫のはず・・・!

 

「ちなみに向こうさんのご厚意で一泊二日だ」

 

「泊まりですか!?」

 

「それめちゃくちゃのんびりできるやん!」

 

「温泉旅行なんて久しぶりー!」

 

 

 

「はいでもお前ら温泉入れませーん」

 

「え?」

 

「メイク落としたら部屋の外、出れないからです!はい残念!・・・温泉ランドにうつつぬかす暇があったら練習してくださーい!」

 

巽が私達を煽るように目の前で変なポーズをとっている。それに対してサキちゃんが私達の気持ちを代弁して殴ってくれていた。

 

 

「あ、あの・・・」

 

「ぐふっ、・・・なんじゃい?」

 

「その製薬会社てどんな会社なんですか?」

 

「・・・これじゃい」

 

そういうと巽がダンボールの箱を一つ床に置く。

それを開くと中には"サガンシップZ"と書かれた湿布が入っていた。

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

メイクを終えた私達は巽の運転する車で嬉野温泉のある宿泊施設、華翠苑までやってきた。

 

「はー、ずいぶんでっけえとこやけんなあ!」

 

「これが今日の私達のステージなのですね・・・」

 

へー立派なホテル・・・。こういうとこだと私達がライブする場所はたぶん宴会室みたいなところだから、観客はだいたい二、三十人くらいかな?

 

「お前らの部屋は六〇六号室。ステージは十八時会場じゃい。それとサガンシップZは部屋に送っておいた。・・・俺が観光する間、お前らは練習していろ。レッスン用にフランシュシュ名義で娯楽室を借りたからな」

 

「わかりました。・・・はい?あの・・・幸太郎さんが何の間に・・・?」

 

「観光じゃい」

 

巽が車のエンジンをかける。

 

「わしは観光じゃーい!!」

 

そういうと車を発進させてどこかへ行ってしまった。

そっかー、私達が練習してる間に観光かー。相変わらず自由だなー。まあとにかく、せっかくメイクもしていて、私達にとやかくいう人がいなくなった訳だし・・・。

 

「さーて、あたしらはどやんする?」

 

お、サキちゃんは私と同じ考えみたい。

 

「どやんする、て?」

 

「は?、おまえまじですぐ練習するじゃなかよな?」

 

「練習せんと?」

 

「するさ、あとで!なんでグラサンだけ好き勝手やるかつう話やろが!」

 

「いかんて!」

 

「あん?ぶっコロすぞ?」

 

「ええ・・・」

 

「さくらちゃん、私達普段からずーっと洋館の中でレッスンばっかりなんだよ?たまには外の空気吸って羽伸ばさないと、良いパフォーマンスもできないって!」

 

「アイの言う通りやけん!せっかく嬉野まで来とんだぞ?」

 

「リリィも散歩したい!」

 

「はい!ちんちくりんもきた!」

 

「ちんちくじゃないもん!リリィだもん!」

 

「僅かでしたらええんやありませんか?わっちにもこの時代の街、みせてくれなんし」

 

「ゆうぎりもこう言ってるし、皆一緒にいれば大丈夫だって!」

 

「リリィ達もゾンビバレしないように気をつけるから!」

 

「うーん・・・皆がいいなら・・・」

 

「愛、純子いいよな?」

 

「・・・気乗りはしませんが」

 

「ま、いいんじゃない?」

 

愛ちゃんと純子ちゃんもオッケー出したし、さくらちゃんも折れてくれたみたい。

 

「よっし!じゃあ嬉野市の観光に・・・」

 

「しゅっぱーつ!」

 

私とサキちゃんを先頭に私達は歩き出した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

「・・・て、早速迷子になってるしー!」

 

空に向かって叫ぶも、観光客ぽい人に変な目で見られるだけだった。

うう・・・アイちゃんもサキちゃんもどんどん先に行っちゃうからはぐれちゃったけん・・・。

 

「駄目、やっぱり近くにはいないみたい」

 

周囲を見てきた愛ちゃんが戻ってきた。

私と愛ちゃんは皆と観光中に、風月堂と書かれたお菓子屋さんでケーキを眺めていたら皆とはぐれてしまった。

 

「やっぱりこう言う時、スマホがあれば、て思ってしまうわね・・・」

 

「うう・・・ごめん、愛ちゃん。私がケーキに釣られたばかりに・・・」

 

「まあ私達、なかなか甘いもの食べる機会がないから釣られるのはしょうがない、て」

 

「愛ちゃん・・・」

 

うう・・・愛ちゃん優しいけん。あれ?でも愛ちゃんはケーキを見てなかったはず・・・なんで愛ちゃんも迷子に?確かあの近くに他に目を奪われるものなんてなかったような・・・?せいぜい近くで焼肉弁当食べてるおじさんが居たくらいな気が・・・

 

「愛ちゃんはどうして迷子に・・・」

 

「ああっ、さくら!あそこに地図があるみたい!たぶん最終的には皆、今日のステージである華翠苑まで戻ってくるだろうから私達は先に戻ってましょ?」

 

「え?あ、う、うん」

 

愛ちゃんが地図の書かれた案内板のところまで走り出す。まあ今は皆と合流する事を考えればいっか。

私も愛ちゃんを追いかける。

 

「やったー!美味しそうなケーキ屋見っけ!」

 

そこへ私達が先程までいたお菓子屋さん目掛けて走ってくる女の子がいた。

あれ?何かあの子見覚えがあるような・・・。

 

「あれ?あなた・・・」

 

「・・・? どこかでお会いしましたっけ?」

 

金色の髪。宝石のような綺麗な瞳。その片方に星を宿した少女。先日、ガタリンピックで出会った彼女は・・・

 

「星野、ルビー・・・」

 

アイちゃんの生前の妹だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

 

ガタリンピックの後、私達は提携相手である久中製薬が慰安旅行で泊まっている華翠苑までやってきていた。

簡単に久中製薬の広報部長に挨拶をした後、疲れが溜まっていた私達はそのまま爆睡。

翌日は先方との打ち合わせがあった為、部屋のシャワーで汗を流して食事を摂り、すぐに打ち合わせ。タイアップは無事決まり、私達は簡単にコラボ告知用の写真を撮る事になった。

 

「本日は良いお話ができてありがとうございました」

 

「いえ、こちらこそありがとうございました。むしろ慰安旅行の最中にお時間を取らせてしまいまして・・・」

 

「とんでもない。むしろ弊社の社員ばかりで息が詰まってないかと心配でしたとよ」

 

「そんな・・・むしろ私達の宿泊料まで工面して頂きありがとうございました。是非御社とのタイアップ、弊社のB小町が精一杯努めさせて頂きます」

 

「ええ、こちらこそ。宜しくお願いします」

 

写真撮影もスムーズに終わり、私達は空いた時間ができた。

先輩とMEMちょが部屋で足を伸ばして寛いでいる。

 

「ああ〜昨日の疲れが残ってるわ〜。結局昨日は温泉にも入れてないし、私は温泉に入ってゆっくりしようと思ってるけどあんた達はどうする?」

 

「私もそうしようかなー。ここの温泉、美肌効果もあるみたいだし。午後は温泉でゆっくりしようかなー。ルビーは?」

 

「私は・・・ちょっと観光したいから散歩してくる。ミヤコさんにも伝えといて!」

 

まだ先方と打ち合わせ中のミヤコさんへの伝言を残して私は旅館を出た。

 

昨日のガタリンピックで会った七号と名乗った子。彼女が気になる。

ホームページで見た七号の写真、そこにはアイそっくりの子が写っていた。よくよく考えてみれば彼女と話したわずかな時間、私はアイによく似た何かを彼女に感じていた。顔は泥だらけでわからず、声も何か濁ったような変な声だったけど、確かに私は彼女にアイを重ねていた。

そして帰りに見たホームページの写真。それはアイに瓜二つだった。私の中で明確な疑念が湧いてくる。フランシュシュ七号はもしかして・・・。

でも、アイは死んだ。十二年前に私とアクアの前で。それは確かだ。だから彼女がアイなわけがない。

でも、私は・・・希望を捨てきれない。だって、生まれ変わりなんて本来ありえない事が起きる世界だ。死人が生き返る、なんて事ありえないとは言い切れない。

私達と同じく生まれ変わりでは・・・たぶんない。彼女は見た目、私達と同じくらいだったし。なら生き返った?・・・でも私は定期的にお墓参りに行ってるけど、お墓が荒らされた形跡はなかった。ならやっぱりアイのそっくりさん?でも、それなら私が感じたアイの既視感がわからないし。

 

・・・駄目だ。考えがまとまらない。こういう時は・・・甘いものを食べるに限る!

糖分は疲れた脳に良い、て先輩が言ってた気がするし!さーて、どっかにケーキ屋とか無いかな〜。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

私達の目の前には星野ルビー・・・ちゃんがいた。

名前を呼ばれた彼女がこちらに振り向く。

 

「あなた・・・どこかで見たような・・・」

 

しばらく頭に指を当てて悩んでるようなポーズを取った後、思い出したのか、私達の方を見た。

 

「そうだ!フランシュシュの・・・一号と三号!」

 

し、しかもバレとるー!ど、どやんす、どやんすー!・・・あ、でも私達がフランシュシュてバレても別に問題はないやけん。アイちゃんが七号てのがバレなきゃ別に──

 

「ねえ、教えて!貴方たちのメンバーの七号はアイなの!?」

 

て、バレとるー!思いっきりアイちゃん=七号て疑われとるけん!

 

「アイ?何の事?」

 

「何の事、て・・・」

 

「アイ、て十年以上前に亡くなったアイドルの名前でしょ。確かにうちにアイに似ているアイドルはいるけど本人なわけないでしょ」

 

「・・・」

 

さ、さすが愛ちゃん。全く動じずに返してる・・・。わ、私だけだったらこんなこと言えなかったけん・・・。

 

「そっ、か・・・」

 

ルビーちゃんはしばらく黙り込んだ後、私達に頭を下げた。

 

「ごめんなさい、変なこと言っちゃった。さっきの事、忘れてくれると助かるかな・・・」

 

悲しそうな顔で謝られる。うう・・・ゾンビてバレる訳にはいかないから本当の事は言えないとはいえ、申し訳ない気分になるけん・・・。

ルビーちゃんは顔を上げると、もうアイちゃんみたいな太陽のような笑顔を浮かべていた。

 

「別に。あの子もよくアイに似てる、て言われるて普段から言ってるし。気にしなくていいと思う」

 

「そう?良かった・・・。ちなみに失礼ついでに聞きたいんだけど・・・」

 

「? なに?」

 

「三号も昔いたアイドルの水野愛に似てる、て言われない?アイアンフリルてユニットでセンターやってたんだけど」

 

!!

こ、この子、愛ちゃんの事も知ってると!?

あれ?もしかして私が知らないだけでアイちゃんも愛ちゃんもすごい有名人と!?

 

「・・・ええ、よく言われる。まあもう言われ慣れたけどね。特にこうやって同じアイドルをやってると、水野愛を知ってる人からどう思われるかは何となくわかるし」

「でも水野愛は関係ない、私は私だから。・・・私は私の意志でフランシュシュでアイドルを続けて、いつかドームに立つ。ただそれだけ」

 

「・・・そっか。私もその気持ちわかるかも。少し違うけど私も目標があってアイドルになって、いつかドームに立ちたい、て思って頑張ってるから」

 

「・・・そう。ならお互い頑張ろう。これは持論だけど例え失敗したって後悔したって、それはダメな事じゃない。それを踏み超えた先にこそ、誰にも負けない自分があるから」

 

あれ?今の愛ちゃんの言葉、どこかで聞いたことあるような・・・。どこで聞いたんだろう?

 

「三号・・・。なんか新人アイドル、てよりもすごいベテランのアイドルて感じがするね。今の言葉とか貫禄があったし」

 

「そ、そう?まあそんな気概でやった方がいい、て事」

 

「うん、ありがとう!・・・そういえば二人はどうしてこんなところにいたの?」

 

「ああっそうだったやけん!私達、皆とはぐれちゃって・・・」

 

「他のメンバーの連絡先とかわからないの?」

 

「わ、私達、ケータイがなくて・・・」

 

「ああ、忘れたのー?意外とおっちょこちょいなんだ、二人とも」

 

「・・・というか持ってないのよ、携帯電話」

 

「ええ!?今時スマホも持ってないなんて・・・。大丈夫?もしかして変な事務所だったりしない?」

 

「まあ、普通ではないかな・・・」

 

ゾンビなアイドルを抱えてるボロい洋館やし、プロデューサーも常にサングラスかけた変な人やし・・・。

 

「あっ、良かったら私が案内しようか?行き先教えてくれたら私が調べるよ!」

 

「本当?ありがとう!華翠苑、てとこなんだけど・・・」

 

「華翠苑?嘘・・・私達と同じ旅館だよそれ!嬉野温泉があるとこでしょ?」

 

「ええ!?ルビーちゃんも同じところやの?すごい偶然やけん!」

 

「ねー!なら一緒に行こう!私もちょうどこれから戻るところだったし!」

 

やった!これで皆と合流できるけん!

 

〜ア・ナ・タのアイドル〜♪ サインはB!〜♪

 

そんな事を思ってるとルビーちゃんのケータイが鳴った。聞き覚えのある声で歌のワンフレーズが流れる。どうやら着信みたい。

 

「はいはーい!あ、ミヤコさん?・・・うん。・・・うん、これから戻るところ。うん・・・大丈夫だよー、変な人とかそんな遭遇しないって!うん、じゃあまた後でねー!・・・うちの社長さんからだった、私がなかなか戻ってこないから心配して電話掛けたみたい。・・・よし、じゃあいこっか!」

 

ルビーちゃんが先導しようと歩き出す。

私もついて行こうとして・・・。

 

「待って」

 

愛ちゃんが急に呼び止めた。

 

「どうしたけん?」

 

愛ちゃんが神妙な顔になっている。

ど、どうしたんだろう?今の一瞬で何か愛ちゃんの気に触ることをしたかな・・・。

愛ちゃんはそのままの顔でルビーちゃんの方を向くと呟いた。

 

 

 

「今の、もしかして"サインはB"のアイソロver?」

 

 

 

って、さっきの着メロの事やと!何かと思ったけん・・・。

 

「え!もしかして今の一瞬でわかったの?すごーい!もしかして三号、て実はかなりのアイファン?」

 

「はぁ?そんな訳ないでしょ。あんなの常識だから誰でも答えられるわよ」

 

いや、私はアイちゃんの声かなー?て思ったけど曲名とか全然わからなかったやけん。

 

「ちなみにアイの曲だとどれが好き?私はヒムラさんの曲、どれも好きなんだけど特にSTAR☆T☆RAINが好きでさー」

 

「あの曲も確かにいいわね。特にジャパンアイドルフェスでアイのいたB小町が初めてステージの上で披露した時にサビでアイが客席に向かってしたファンサービスが・・・」

 

「うっそー!わっかるー!その後アイがステージの中央でやったダンスも良くてぇ!」

 

「あのステップ踏みながら頬に指を向けるやつね!ええ、あの振り、サインはBにもあってアイはあれをする時いつも・・・」

 

「そうそう!しかも顔がめちゃめちゃ良いアイがそれをやる事で、さらに尊みが増してぇ!」

 

「ええ。あのライブは最高だった!まさしくアイドル アイが売れていくきっかけの一つになったと私は・・・」

 

「うんうん!それで・・・」

 

ルビーちゃんと愛ちゃんが何やらアイちゃんの昔の活躍を語り合って納得し合ってる。

は、話が濃すぎて会話に入れんけん・・・。

 

そのまま華翠苑に着くまでルビーちゃんと愛ちゃんは語り続けていた。

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

「わっ、もう着いちゃった!こんなにアイについて語れたの、アクアと以来かも!それじゃあ私はこっちだから!またアイについて語ろうねー三号!一号もまたね!」

 

そういうとルビーちゃんは笑顔で去っていった。

ロビーにさっきまでの勢いがなくなってすんとした愛ちゃんと私が取り残される。

 

「私達も行こっか・・・」

 

「うん・・・」

 

フロントの仲居さんに声をかける。

 

「えっと、フランシュシュで予約したものなのですが・・・」

 

「お待ちしておりました。お連れ様はもう到着しておられます。中へお入りください」

 

 

 

・・・

 

 

 

「えーっと確か六〇六号室だから・・・」

 

館内の案内図を見ながら、幸太郎さんが用意してくれた部屋まで歩いていく。

 

 

「さくら・・・」

 

「ん?なに?愛ちゃん?」

 

「・・・さっきの事は忘れて」

 

「ああ・・・」

 

「・・・違うの。別に私はアイの事なんて好きじゃない、ていうか。いや、同じアイドルとして尊敬する点もあるから、過去のライブとかは勉強してた、ていうか」

 

「愛ちゃん、今更取り繕わなくてもたぶん皆知っとーよ」

 

「・・・え?」

 

愛ちゃんが信じられないと言った顔で驚いている。

ええ・・・愛ちゃん隠せてたと思ってたんだ・・・。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「あ、おかえりー。随分遅かったね」

 

部屋に入ると皆もう揃っていた。

皆は身体のどこかに白い紙を貼って、元気いっぱい、て感じではしゃいでいる。

 

「ただいまー・・・ん?ただいまで合ってるけんね?」

 

「・・・どっちでもいいでしょ・・・。てかなんであんた達、そんな元気なのよ」

 

「おう!今回の営業相手から貰ったサガンシップZな!実はあたしらゾンビにばりすげえ効果があったとよ!」

 

「どういうこと?」

 

「まあまあ。是非二人も体感してみて・・・よっと!」

 

いつのまにか後ろに回ったアイちゃんが、私と愛ちゃんの背中に手を入れてきた。

同時に背中に何か貼られた感覚が走る。

 

「うひゃっ!アイちゃんこれ何・・・んん!?」

 

「ちょっと何を・・・くっ!?」

 

な、何これ!?身体が急に軽くなって・・・はあああああ・・・。

 

「すごい!身体が嘘みたいに軽いけん!手足も羽みたいやし!うわー!うわー!」

 

手足をぐるぐる回したり、ジャンプしたりしても全く気にならない!

今ならなんでもできそうやけん!

 

「本当・・・これ、普通の湿布なのよね?」

 

愛ちゃんも身体の調子を確かめるように、握り拳を開いたり握ったりしている。

 

「そうだよー、正真正銘、試供品のサガンシップZ!」

 

「やっぱあたしらゾンビやからな!きっといろんな効果の吸収が早いやけんね!」

 

「見てみてー!こんなに激しく動いても取れないよー!」

 

リリィちゃんが激しいダンスを踊って、元気さをアピールする。

 

「ふふん、負けないよー、ほーら!」

 

アイちゃんはそういって私達に背を向けると、ゴキッとすごい音を鳴らして思いっきり海老反りした。

 

「見てみてー!エクソシスト!」

 

 

そのまま背中を下にして手足を床につけ、ブリッジのような姿勢でシャカシャカと歩き出した。

 

「アイちゃん!絵面!絵面!」

 

「いやー、昔監督に見せてもらったホラー映画に出てきてね?印象に残ってたから今ならできるかな、て」

 

「あはははははっ・・・アイ!お前それどうやってるんつか!?くっぷははははは!」

 

「ヴァウァァアゥァ!」

 

それを見たたえちゃんもブリッジの姿勢で、アイちゃんと同じように歩き出した。

 

「お?たえちゃんもやるねー!よーしこのままどこまで行けるか競走しよっか!」

 

「ヴァウ!」

 

「たえちゃん駄目!そんなの真似しちゃいかんとよ!・・・ほらっ、アイちゃんがそんなポーズするからたえちゃんも真似しちゃったけんね!」

 

「あははー、ごめんごめん、さくらママ!」

 

「ヴァヴゥウァヴァヴァ!」

 

「もう!誰がママとね!」

 

元気よくアイちゃんとたえちゃんが海老反りのまま部屋の中を走り回る。

こ、この二人・・・、手を組むと手がつけられないけん・・・。

と、とにかくうちらゾンビは湿布とかの発揮する効果が普通の人より早く現れるみたいやけん。

たぶん貼ったり飲んだり摂取するもの全般が・・・とかなのかな?

 

「そうだ!これ、パフォーマンスに活かせないかな?貼ったら元気になるよーとか」

 

アイちゃんが名案を思いついたとばかりに手を挙げる。

 

「でも人に直接貼ってはいけません、て書いてある。医療行為になるので、てことやけん」

 

「じゃああたしらは関係ねえな。あたしは人じゃなくてゾンビやし」

 

「ええ・・・でも私達はいいとしてもパフォーマンスで使う際は、ゾンビてバラせないし・・・」

 

「んなもん、言われたら辞めればいいけん。それまではパフォーマンスの一環てことにしてやろうぜ。堂々としてればバレないやろ」

 

「そうそう、上手く嘘をつくコツはね、私はさも当然の如く嘘をついてませーん、て顔と態度をすることだよ?生前嘘を吐きまくった私が言うんだから間違いないって!」

 

「ごめん・・・すごいツッコミ辛いからやめて」

 

ケラケラ笑うアイちゃんに愛ちゃんがツッコミを入れる。結局あの後、他にいい案も思いつかないので、お客さん相手に湿布を貼るパフォーマンスをライブの合間に取り入れる事になった。

相手は慰安旅行でここの温泉宿に泊まりに来てる宿泊客らしいから、湿布を貼って疲れを癒してもらう、てのはいいかもしれない。

 

「よーし!フランシュシュ、今回の仕事も成功させてやろうぜ!」

 

「おー!」

 

 

・・・

 

 

 

「それじゃあフランシュシュの皆さんはこちらの部屋で待機してください。司会の方が呼びましたら曲が流れるので、それを合図に部屋に入って頂いてパフォーマンスに入ってください」

 

そういうと、私達を通した部屋から仲居さんが出て行った。

隣の部屋からは楽しそうな声が聞こえてくる。

 

「曲は"目覚めRETURNER"、その間奏部分でさくらが私達の紹介、それと二番では歌いながらサガンシップZを観客に貼っていく、皆、忘れないようにね」

 

「おう!任せとけ!」

 

「うう・・・噛まずに言えるけんな・・・」

 

「さくらちゃん!長いセリフを噛まないコツはね?あっかんべーして、舌を伸ばすの!そうすると舌や口の周りのストレッチになるんだって!」

 

「へぇー、リリィちゃん詳しいとね。さすが元天才子役やけん!」

 

「・・・でも私達、ゾンビですけどストレッチは効果あるんですかね・・・?」

 

「ふふ、こういうのは心構えでありんすから、さくらはんが効果がある、と思うのが大事だと思うでありんす」

 

さくらちゃんは緊張してるみたいだけど、他の皆は大丈夫そう。

 

「大丈夫だって!さくらちゃんはお客さんの前で即興ラップ披露するくらい度胸あるんだから!あれに比べたら今回のなんて余裕でしょ?」

 

「うう・・・それは言わんといて欲しいけん・・・!あの時は必死だったからあんまり覚えてないんとよー!」

 

さくらちゃんが口癖のどやんすーを連呼し始める。でもさくらちゃん、あのゲリラライブ以降は本番に強いイメージあるから問題ないと思うんだけどなー。

 

そんな事を思ってると、さくらちゃんが思い出したかのように私に言った。

 

「あ、そうだ!アイちゃん!私達、さっきルビーちゃんに会ったとよ」

 

「えっ、ルビーに!?」

 

「うん。さっき、皆とはぐれた時に偶然会って、この温泉宿探してる、て伝えたらまさかの同じ宿に泊まってたけん、そのまま案内してもらったとよ」

 

ルビーがここにいる・・・。そっか、もしかしたらまた会えるかもしれないんだ。

 

「ん?ここに泊まってる、てことはもしかしたら隣の部屋にいる可能性もあるんじゃないつか?」

 

「まっさか〜、だってルビーはアイドルだよ?久中製薬とは関係ないし」

 

「まあそうですよね。今はパフォーマンスに集中するのがいいと思います」

 

「そうね、B小町がこの先の部屋にいるなんて事あるわけないでしょ」

 

「だよねー!あははー」

 

 

きっと偶然同じ宿にいただけだろうし、このステージが終わったらちょっと探してみよう。

ルビーと話せなくても、顔だけでも見れたら・・・。

まあ私がゾンビだって事は、顔さえ見られなければ・・・バレないよね?

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

宴会場に通されると既にそこにはたくさんの料理が並んでいた。

ホテルのスタッフに案内されて用意された席に着く。

 

「うわ〜、美味しそう〜!」

 

「へ〜地元で取れた新鮮な食材を使ってます、だって!」

 

「もしかしたらワラスボも入ってるかもね」

 

「ぐっ、流石にあの見た目の料理を口にするのは・・・でもユーチューバーとしては再生数を稼げさうなネタだから、あえて動画のために口にするのもありかも・・・!」

 

「温泉にも入れて、美味しい料理も食べれるなんて・・・久中製薬さん、ありがとう〜!」

 

「温泉いいな〜、私も後で入りに行こう〜。あ、そうださっき散歩中にフランシュシュに会ったよ」

 

「ぐっ!?・・・げほっ、ごほっ」

 

「ミヤコさん!?・・・大丈夫ですか?」

 

「え、ええ、ありがとう。・・・ルビー、その・・・フランシュシュて確か昨日ガタリンピックで会った、ていうアイドルの事かしら?」

 

あれ?ミヤコさんに言ってたっけ?まあ私が言ってなくても先輩かMEMちょが話してるか。

 

「うん、そうだよ。一号さんと三号さん!今日は二人とも素顔だったんだけど、三号さん、水野愛にそっくりだったの!」

 

「水野愛、て・・・確か昔亡くなったアイドルだよね?確かライブ中に落雷に打たれて・・・」

 

「ええ、当時あのニュースを見た時は目を疑ったもの。アイアンフリル不動のセンター、アイの次に来るアイドルはまたも愛、なんてネットでもよく言われてた。・・・懐かしいわね、ちょうどあの頃は初代B小町も解散したタイミングで・・・」

 

ミヤコさんがそこまで言って目を伏せる。・・・B小町は実質アイがいたから売れていた。そのアイがいなくなって数年でB小町は解散したから・・・。

 

「でもフランシュシュて不思議だねぇ。水野愛にそっくりなアイドルもいれば、アイにそっくりなアイドルもいる。芸能人のそっくりさんを集めてバズらせるのが目的とか?」

 

「確かに・・・昨日、あたしもフランシュシュのサイトを見てて気づいた事があった。あの元子役ーて言ってたやつ。・・・あいつ、昔テレビで引っ張りだこだった星川リリィにそっくりだったのよ」

 

「星川リリィ?誰だっけ?」

 

聞いた事ない名前だ。まあ、子役全般に詳しくないから私が知らないだけかもだけど。

事実、先輩やMEMちょがこいつマジか・・・みたいな顔してるからきっと有名な人なのかな?

 

「あんたねぇ・・・。まあでもあいつが活躍してたのは数年だったから案外知らない子も多いのかしら。・・・星川リリィ、かつて全チャンネルのゴールデンタイムで主演を務めるという快挙を成し遂げた天才子役よ」

 

先輩が憎らしげに名前をあげる。あの演技に関して厳しい先輩がここまで評価するなんて・・・。

 

「けどあいつはもう死んだ。ストレス性の心不全でね。あたしより年齢は上だったから、生きてたらライバルになってたか、あたし同様に落ちぶれてたかもだけどねー」

 

先輩が投げやりに会話を締める。

確かに、芸能人に似ている人、ていうのはそれだけで注目を集める。アイドルとして活動するなら一つのアドバンテージになるだろうし。

でもアイも水野愛も星川リリィも、もう亡くなった人ばかりなのはなんでだろう?

 

・・・。

まさか・・・ね。

頭の中で自分でも信じられない考えがよぎる。

だってこれは・・・きっと生まれ変わりなんて奇跡よりもあり得ないことだ。

実は皆死んだけど生き返って今もアイドルとして活動してる、なんて。

 

「で、結局ルビーはフランシュシュと何を話したの?」

 

「そう!聞いて聞いて!三号さんがすごいアイオタクでさ、もうお互いに盛り上がっちゃってー!」

 

「へー意外。ちょっとしか話してないけど、クールな感じだったから、アイドルオタクだったとは思わなかったかも」

 

「水野愛似の子がアイオタク・・・か。不思議なものね」

 

「? なにが?」

 

「水野愛はインタビューとかでもアイをライバル視する発言が多かったの。アイが亡くなった後もアイの伝説に挑むかのように精力的に活動して・・・。実は水野愛はアイの熱心なファンだったんじゃないかーなんて言われてたくらいだったわ」

 

「あー、ちょっとわかります。そいつの技術に心を奪われて・・・いつか同じ舞台で見返してやるーなんて思いながら頑張ってたのに、そいつが役者辞めてたらムカつくもの。でも、そいつが憎くて、て訳じゃなくて、ついどんな時も意識しちゃう、ていうかむしろ・・・」

 

「有馬ちゃーん!ストップ!途中からダダ漏れになってるから!・・・友達!友だちの話だよねー?」

 

「!! え、ええ!あたしの友人がそう言ってたの!本当よ?」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「はい、それでは宴もたけなわですが、ここでゲストを呼んでおります!」

 

宴会場の端にある壇上に立っていた司会の人がマイクを通して、全員に聞こえるように声を張り上げる。

 

「あれ?何かイベントとかあったっけ?」

 

「そういえばさっき貰ったプログラムに芸人さんが来る、て書いてあったわね」

 

「へー、楽しみ〜」

 

食事の手を止め、壇上に向き直る。

誰が来るんだろう?詳しくはないけど知ってる人だといいな。

 

 

「佐賀を盛り上げる為に活動していると豪語するアイドルグループ、フランシュシュの皆さんです!」

 

「こふっ!」

 

ミヤコさんがまた咳き込む。

慌ててMEMちょが背中を撫でていた。

 

「なんであいつらがいるのよ!?」

 

「あれ?言わなかったっけ?さっき会った時にこの旅館までの行き方がわからない、ていうから案内したの」

 

「聞いてないわよ!」

 

そういえば三号が水野愛に似てる、て話になってから先は伝えてなかったかも?

でもお仕事てここでのステージだったんだ・・・。

 

 

 

 

・・・〜♪目覚めRETURNER、願えば良いんだ奇跡、感じてみたいんだ〜♪

 

曲が流れ始める。

それと同時に隣の部屋からフランシュシュが入ってきた。

そのまま壇上まで上がると曲に合わせてパフォーマンスが始まる。

 

 

 

憧れたのはいつの頃の夢〜♪

胸の奥に、隠したストーリー♪

 

 

 

 

「へぇ・・・上手いわね」

 

「うん・・・私達より凄いかも」

 

「これが・・・フランシュシュのステージ・・・」

 

 

すごい・・・!皆、歌もダンスもクオリティが高い。いろんなアイドルを見てきたからわかる。このユニットは全体的に高レベルだ。

 

 

 

パシッと決めたいこのsucceed〜♪

止まっちゃいけないこのproceed〜♪

 

 

 

あれ?この声・・・。

私は、壇上で歌う一人のアイドルを見る。

フランシュシュ七号。アイに似ているその人を。

初めてみるはずの彼女のダンスと歌は、私のよく知る人のものにどこか似ていた。

頭の中に病室での記憶が思い起こされる。

病室についている小さなテレビ、そこに映し出される一人のアイドル。せんせに会う前の、私の光がまだ一つしか無かった頃の記憶。

 

もちろんこの曲を聴くのは初めてだ。だから振り付け等はわからない。

それでも彼女の歌声を、ルビーとさりなが、彼女が私の知るアイと、ママと同じ人だと告げている。

だって私がアイの歌声を間違えるはずがない。私が死ぬ間際まで、アイの歌声は私の頭の中で響いてたんだから。

 

 

 

 

「皆さん、いつもお仕事お疲れ様です!今夜は私達が、少しでも皆さんの癒しになれればと思います!」

 

 

一号がそういうと他のメンバーが座っていた久中製薬の社員さんの側に行き、背中や肩に湿布を貼っていく。

 

 

 

 

「あれ・・・て確か医療行為になるからやっちゃ駄目なんじゃ・・・」

 

「間違いなくアウトね・・・。まあでも、久中製薬の社員の人は喜んでるみたいだし、わざわざ口に出さなくてもいいんじゃない?」

 

「私達は何も見ていない・・・。よし、これでオッケー!フランシュシュさーん!こっちもお願いしまーす!」

 

MEMちょがそういうと近くにいた二号がやってきた。

 

 

「おう!・・・て、東京もんじゃなか!お前らもおったんか!いつから製薬会社に就職したと?」

 

「相変わらず失礼なやつね。私達はこことタイアップすることにしたのよ」

 

「なに?お前らだったんか、先にタイアップした相手、てのは」

 

「そだよー、もしかしてそっちも狙ってた系?」

 

「まあな、けどこういうのは早いもん勝ちやろ?今回はうちらの負けやけど次は負けんばい!」

 

「あーはいはい、あんたはそういうやつよね。ほら、そろそろ曲のサビでしょ。戻らなくていいの?」

 

「おっと!じゃあまたなー東京もん!」

 

二号が先輩とMEMちょが話してる間、私は別のところで湿布を貼って回る七号をずっと見ていた。

間違いない、彼女はアイだ。どうしてこれまで気づかなかったんだろう。ダンスの癖、息遣い、・・・一度アイと確信できたら、彼女の動き全てがアイのものと認識させられる。

そうだ。別にここで見ているだけじゃなくてもいい。今すぐにママに話しかけて──

 

 

「・・・ルビー」

 

そんな私にミヤコさんが心配そうに声をかけてくる。

 

「あの子は確かにアイに似ているけど、アイじゃない。だから・・・」

 

「・・・うん。わかってるよミヤコさん。ただちょっと昔の思い出に浸ってただけ」

 

「そう・・・」

 

それだけいうとミヤコさんは私を抱きしめてくれた。

・・・駄目だ、ミヤコさんがいる前でママに会いにいくのは得策じゃない。

狙うならこのライブが終わった後、皆が寝静まってからだ。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

いやー、終わった、終わった!

ステージは無事成功!結構お客さんも喜んでたと思うし、私達の名前も覚えてもらえたと思うんだよねー。

でもルビーがいるなんて思わなかったな。

サキちゃんが呼ばれたから対応は任せちゃったけど、やたらとルビーからの視線を感じた気がする。

 

 

・・・あれ?もしかしてバレた?

いや、確かに素顔は普通に晒してたし、声も普通だったからありのままの私だったけど。

でも、私死んじゃってるから、流石に私から正体明かさない限りそんな簡単にバレない・・・よね?

 

うん、きっと大丈夫!

とにかくメイクを落としに行きますか!

 

そう思って洗面所に行こうとする。

あれ?サキちゃんだ、まだ起きてたんだ。

 

「やっほー、サキちゃん、どうしたの?」

 

「おわっ!?・・・てアイか驚かすなや。ま、ちょうどいいや、お前も行こうぜ」

 

「?どこに行くの?」

 

「ふふん、ここは温泉旅館やぞ?行くところは一つやろ?」

 

そういえばルビーがいたから忘れてたけど、私達温泉旅館に来たんだった。

確かにここまできて、温泉に一度も入らないのはもったいない。

 

「・・・なるほどね〜。もちろん私も行くよー!」

 

「よしっ、決まりやな!」

 

「私も、て事は他に誰かいるの?」

 

「おう、さくらと純子も一緒やけん、あっちで待たせてる」

 

「オッケー、じゃあ早速行こっか!」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

浴室に入ると、遅い時間もあって案の定、誰もいなかった。

 

 

「流石にこの時間なら誰もいないですね」

 

「うん、これなら誰にも気づかれなさそうやけん」

 

「ひゃっ、ほーい!!」

 

サキちゃんがいきなり湯船に飛び込んだ。

 

「急げ急げ!ザバっと入ってザバっと出んぞ!」

 

それを見た私達もサキちゃんに倣って湯船に飛び込んだ。

 

「あー久しぶりの温泉〜」

 

「極楽、極楽♪」

 

「生き返る〜」

 

「ですね、もうゾンビですけど」

 

しばらく湯船に浸かっていると肌がツヤツヤと輝き出した。

 

「あ、もうお肌がツヤツヤになってる」

 

「ゾンビやけん、吸収が早いやけん・・・!」

 

「すごい!」

 

「やけんいったやろ!卵顔もプルンプルン・・・なんかお前皮蛋みたいな顔してんな!」

 

「あ?」

 

「サキちゃん、ぴーたん?てなに?」

 

「卵料理やけん、確か外国の・・・どこやったっけか。とにかく、緑っぽいツヤツヤした卵やな」

 

「ああ、なるほど。ゾンビのグリーンフェイスが温泉の効能でツヤツヤしたから皮蛋と」

 

「へー、サキちゃん物知りだねー!」

 

「結構あれが美味えんだ!今度食ってみるけん!」

 

「・・・ちょっと、サキちゃん!私、皮蛋呼び納得してないんやけど!」

 

「ああ?いいじゃねえか。ただの卵顔よりはマシやろ?」

 

「いいや!というかグリーンフェイスはお互い様やけん!」

 

 

 

「きゃっ!?」

 

急に純子ちゃんが大声を出して飛び跳ねた。

 

「な、何かに触られました!」

 

そのままこっちまでくると、私の後ろに隠れる。

それを見たサキちゃんが、純子ちゃんがいた位置を睨みつけると、声を上げながら近づいた。

 

「おうおうおう!うちのもんに手出すとはいい度胸してるやないか!」

 

私達以外に誰かいる?それにしても私達の素顔見て、驚かないなんてすごいけど・・・。ん?あれって・・・。

サキちゃんが湯船に何か浮いてるのを見つけて拾い上げる。

 

「なんかはんぺんみたいなの浮いてんぞ・・・サガンシップZじゃなか!」

 

「でろんでろんになってるね」

 

「あ、純子ちゃん背中に貼ったのちゃんと取った?」

 

「あ、忘れてました。すみません・・・」

 

純子ちゃんが恥ずかしそうに声が小さくなっていく。

それを見た私達は、ほっと安心した。

 

「・・・けどよ?結構うまくいったよな?今日」

 

「ばってん・・・」

 

さくらちゃんがちらちらと私と純子ちゃんの方を見る。

ああ、そっか。私達アイドル経験者の意見が聞きたいんだね。

 

「うーん、私は良かったと思うよ?お客さん、笑顔だったし。まだ人前でのライブ経験あまりないのに、MCもちゃんとできてたから上々じゃない?」

 

「まあ、お客さんに喜んでもらえた、て点ではよかったんじゃないでしょうか?・・・ですがパフォーマンス的にはまだまだでした。今度は歌と踊りだけでもお客さんの心を掴めるように、頑張りましょう」

 

私達の意見を聞いたさくらちゃんが笑顔になる。

まあ、内心は不安だよね。私も初めてライブやった時はちゃんとできてたか不安だったし。

でも、私から見てもフランシュシュの皆はアイドル経験無い割には、しっかりできてると思うけどなあ。

 

「なんだ、まるっちがたまっちになった気分だな!」

 

サキちゃんが嬉しそうに私達をまとめて肩を組む。

言ってる事はよくわからないけど、また皆と仲良くなれた気がして私も嬉しくなった。

 

 

ガラララ。

突然、入口の扉が開く音が聞こえた。

それと同時にひたひたと床を素足で歩く音と、人の喋り声も聞こえてくる。

 

「いやー、やっぱり温泉に来たからには何度も入らないと勿体無いわよねー」

 

「だねー。でもルビーも来れば良かったのに。疲れたから寝るー、て言ってたけど昼間そんなに遠くまで散歩に行ったのかな?」

 

「さあ?ま、昨日から何か考えてるみたいだったし。誰だって人に話したく無いこともあるでしょ」

 

 

 

 

この声・・・間違いない。昼間見たB小町のメンバーの子だ。

私達は急いで岩場に隠れる。

 

「何でこの時間にあいつらがここにいると?」

 

「どやんすーどやんすー!」

 

「と、とりあえずバレないように隠れないと・・・」

 

「あ、やばいかも。もうこっちに来る」

 

「え?」

 

かなちゃんがこっちに真っ直ぐ向かってくる。

 

「潜れ潜れ!ゾンビやし息しないでもいける!」

 

サキちゃんがそういうと湯船に潜っていく。

純子ちゃんと私もそれに倣って水中に潜った。

 

「え?あ!わ、私も!・・・ぐえっ」

 

さくらちゃんも潜ろうとして、頭を岩にぶつけてしまった。その拍子にさくらちゃんの頭が取れて、頭だけ別に湯船に落ちる。

 

「? 誰かいるの?」

 

その音を聞いたかなちゃんがゆっくりとこちらに近づいてくる。

あ、これやばいかも。さくらちゃん、完全にパニックに陥って身体の方は死んだふりしちゃってるし・・・。

頭は流されてかなちゃんの方に近づいてるし・・・。

 

「? なによ、これ?」

 

そう言ってかなちゃんが浮いていたサガンシップZを拾う。

その下には・・・さくらちゃんの顔(ノーメイク)があった。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「ぎゃああああああ!!」

 

有馬かながゾンビ状態のさくらの顔を見て、驚き叫び声を上げる。

それを聞いたMEMちょが慌てて、湯船にやってきた。

 

「ちょっ、どうしたの有馬ちゃん!」

 

それと同時に湯船の中からサキ、純子、アイが口から温泉を吐きながら立ち上がる。

当然三人ともゾンビィフェイスだ。

 

「「きゃああああああああ!!!」」

 

それを見たかかなとMEMちょは大声を上げて浴室から飛び出した。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

「先輩とMEMちょは温泉に行った、ミヤコさんも疲れて寝た・・・よし、今のうちに」

 

かなとMEMちょが温泉に行き、ミヤコが疲れて寝落ちしたのを見て、部屋に一人になったルビーはこっそり部屋を抜け出した。

そして、事前に調べておいたフランシュシュの部屋に向かって歩き出した。

 

「ごめんね、ミヤコさん。・・・でも私は、ママに会えるなら会いたいんだ」

 

フランシュシュ七号がアイだと確信したルビーは、深夜の旅館の廊下を歩いていく。廊下には最低限の明かりがついてるだけで、薄暗かった。当然他の客は寝静まっていて、誰ともすれ違わない。

 

「思ったよりも暗いな・・・不気味だし早く駆け抜けちゃおう」

 

不安になったルビーは自然と足を早めていく。

そこで違和感に気づいた。

・・・足音が自分のもの以外にも聞こえる。

 

巡回の警備員だろうか。それならまだわかる。

でも、足音が変だった。普通は一定の速度で聞こえるはずの足音が、明らかに早く、多く聞こえる。複数人いる?でもそれにしては足音の感覚が一定だ。

それに私よりも少し早い、なんてものじゃない。これはまるで・・・足の数が倍くらいあるんじゃ・・・。

 

ちょうど突き当たりで、足音は止まった。

それに反応してルビーも立ち止まる。

・・・

誰も突き当たりから出てこない。

 

「あのー・・・誰かそこにいるんですか?」

 

声を掛ける。誰も反応しない。

不気味な存在に思わず足がすくむ。だがルビーは意を決して、突き当たりを曲がった。

 

「・・・あれ?」

 

そこには誰もいなかった。先程まで聞こえた足音が嘘のように、人の影も形もない。

 

「聞き間違い?でも確かに・・・」

 

ルビーが疑問に思いつつも先に進もうとする。

それと同時に急に黒髪の女が天井から降ってきた。

 

「きゃあああああ!」

 

ルビーが驚いてその場で尻餅をつく。

目の前に背中から落ちてきた黒髪の女は、その態勢のまま、ブリッジのように両手足を床につけて背中を浮き上がらせる。

逆さになった顔はおよそ生者とは思えない、土気色の顔がついていた。

逆さになった状態でルビーと目の前の女の目線が合う。

ルビーは急いで立ち上がるとそのまま駆け出した。

 

「な、何あれ!?何あれえ!」

 

後ろを振り向くとブリッジのまま四つ足で黒髪の女が追いかけてきていた。

 

「ヴゥアアアアア!」

 

「ひぃ!だ、誰か助けてええええ!」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

浴室からタオルを巻いて飛び出したかな達は、ホテルの廊下を走っていた。

 

「な、何なの!?今の!これ、夢じゃないわよね!」

 

「い、いふぁい、いふぁい・・・。うん、これ絶対夢じゃないよ!」

 

「じゃああれは何なのよ!生首に、土気色の首なし死体・・・、しかも、明らかに人間じゃない肌色のやつが温泉から出てきたわよ!?何あれ?ゾンビ!?」

 

「わ、私に言われてもわかんないよぉ!と、とにかく、一旦ルビーと社長と合流して・・・」

 

廊下を走っていると急に電気がチカチカと明滅しだした。そして、一瞬視界が暗くなり、すぐに明るくなる。

するとそこに、先程までいなかった小さな子供が立っていた。子供は下を向いており、よくその顔は見えない。

先程までいなかったその子供に思わずビクッとした二人はその場に立ち止まる。

 

「ねえ!さっきまであんな子、いなかったわよね!?」

 

「う、うん!私も見てないっ、知らないよぉ!」

 

その子はフラフラとこちらに近寄ってくると顔を上げた。

そこには先程の温泉から出てきたゾンビと同じく土気色の顔をしていた。

 

「う〜ん、ムニャムニャ・・・zzz」

 

「「ぎゃああああああ!!!」」

 

再び二人は回れ右すると元来た道を逆走し始めた。

 

「ねえ!有馬ちゃん!これ、戻ってるだけだよね!?もし最初に会ったゾンビが追いかけてたら挟み撃ちされちゃうよぉ!」

 

「わかってるわよ!でも、あんなに近くまで来てたらあの場はこっちに逃げるしかないでしょ!?」

 

そのまま走り続けた二人は、こちらに背を向けて歩いている人を見つけた。

背格好からして女性のその人は先程までの叫び声が聞こえてないのか、その歩き姿からどこか優雅さも感じられた。

 

「ちょ、ちょっとあんた!あっちにやばい奴がいる!ここは危ないわ!早く逃げたほうが──」

 

「やばいやつ、というのは・・・」

 

女性がゆっくりと振り向く。その顔は先程まで見たゾンビと同じ顔をしており、首には生々しい大きな傷跡も見えた。

 

「どういう顔でありんすか?」

 

「「いやあああああああああ!!」」

 

再び二人は回れ右して走り出す。恐怖のあまり、先程見た小さいゾンビの事は忘れていた。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「ルビー!あんた!どうしてここに!」

 

「先輩!MEMちょも!良かったー!」

 

走っていた二人は、同じく走っていたルビーと合流していた。

 

「何であんたがここにいるのよ!部屋にいたんじゃないの?」

 

「い、今はそんな事よりも私、ば、化け物に追われてて!」

 

「え!?ルビーも!?わ、私たちもさっきからゾンビみたいなのに遭遇して・・・」

 

「ええ!?私が会ったのはエクソシスト走りしてくる化け物だよ!!??」

 

「「「・・・」」」

 

「こ、この旅館どうなってるのよ!」

 

「と、とにかくミヤコさんと合流してさっさと出よう!」

 

「うん!・・・あれ?先輩何持ってるのそれ?」

 

「え?・・・いつの間に・・・これ、久中製薬のサガンシップZだ。さっき温泉で拾ってそのままだったのかも」

 

そういうとかなは、持っていたサガンシップZを床に投げ捨てる。

 

「さあ!早く行きま・・・」

 

かながルビー達の背中を見ながら、言葉を途中で切る。不思議に思ったルビーとMEMちょが振り向くと、そこには先程温泉にいたゾンビ達がサガンシップZで滑りながらこちらに向かってきていた。

 

「「「いやあああああああああ!!?!?!!」」」

 

そこで三人は限界が来たのか、意識を失った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 

 

「おかえり。佐賀での仕事はどうだった?」

 

東京に帰ってきた私とミヤコさんは、一度家には帰らずに苺プロの事務所に来ていた。

ちなみに先輩とMEMちょは直帰だ。

事務所に入ると、いつものようにアクアがソファーでノートパソコンを弄っている。

 

「もうー、大変だったよー!」

 

私は荷物をほっぽり出すとそのまま、アクアの隣に倒れるように座った。

それに合わせてアクアがソファーから立って、ノートパソコンを畳むと、私とミヤコさんの荷物をテキパキと運んでいく。

私は遠慮なく広くなったスペースに足を伸ばして、リラックスできる体勢を取った。

 

「ありがとー、お兄ちゃん!」

 

「あら、悪いわね。アクア」

 

「いいよ、疲れてるだろうし」

 

戻ってきたアクアはお盆の上に、グラスに注いだコーヒーを四つ乗せていた。

 

「ここに置いておくから、飲むときは座って飲めよ。また寝ながら飲もうとして服に全部溢しても知らないからな」

 

「もう〜わかってるよ〜。いつまでそれ引っ張るのさー!ていうか、コップ一つ多くない?」

 

「そりゃあもう一人来ているからな」

 

「ピヨピヨ・・・お疲れのところすまないね」

 

そういうと扉の奥から見知ったひよこ頭の人が出てきた。

 

「ぴ、ぴえヨンさん!?い、いたんですね・・・」

 

慌てて姿勢を正してソファーに座り直す。家族であるミヤコさんとアクアだけならともかく、流石に他の人がいる前で思いっきりだらけて座るのは気が引ける。

 

「ピヨピヨ・・・あまり気にしなくていいピヨよ。僕も社長に報告だけしたらすぐに帰るピヨから。あ、アクアくん、この前の編集助かったよ。これ、二人と被っていたら申し訳ないけど、佐賀土産ね」

 

「ありがとうございます。よかったらぴえヨンさんも食べていきませんか?」

 

「せっかくの申し出だけど遠慮させてもらうよ。この後ジムの予定だからね。コーヒーだけ頂いたらお暇するよ」

 

「ぴえヨンさんも佐賀にいたんですか!奇遇ですね!佐賀には観光ですか?」

 

「いいや、仕事でね。とあるCM撮影にお邪魔させてもらったよ」

 

「CM撮影!すごい!」

 

「・・・いや、ボクは未熟さ。今回の撮影で世界の広さを知ったよ・・・」

 

ぴえヨンが哀愁漂う視線を下に向ける。

な、なにかあったのかな・・・?ぴえヨンさんがこんなに落ち込んでるの初めて見た気がする・・・。

 

「君たちはどうだい?佐賀は楽しめたかい?」

 

「私達は・・・」

 

・・・? おかしい。昨日の記憶を思い出そうとするも何も思い出せない。

かろうじて覚えているのは何かに追われて怖かった事と・・・何か大切な事を忘れてしまったような喪失感。

思い出そうとすると、何かに追われた時の恐怖感が蘇って、思い出せない。

結果的に私は昨日の嬉野温泉での記憶がなくなっていた。

 

「うーん、その前のガタリンピックでの活躍は覚えてるんだけど・・・。昨日の記憶が丸々すっぽ抜けてるんだよねー」

 

「なんだそれ・・・。頭でも打ったのか?見せてみろよ」

 

私が答える前にアクアは背後に回ると私の頭を調べ始めた。こぶや傷跡がないか調べてるみたい。

 

「どこも怪我をした痕はない、か。念の為、あとで病院に行ってこい」

 

「心配性だなーお兄ちゃんは。別にどうって事ないってー。たぶんはしゃぎ過ぎて一時的に忘れてるだけだって!」

 

まだ心配そうに頭を触るアクアを、無理矢理引き剥がして立ち上がる。

 

「もう!そこまでいうなら今日はこのまま家に帰って寝ますぅー!じゃあおやすみ!」

 

そういうと私は事務所を出た。

全く、アクアのシスコンぷりにも困っちゃうなー!

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

ルビーが出て行った後、ぴえヨンもミヤコと話した後、コーヒーを飲んだらすぐに帰った。

事務所には社長であるミヤコとアクアだけが残される。

 

「はぁ、相変わらずの過保護ぷりね。いい加減に卒業しないと、ルビーからも嫌われちゃうわよ?」

 

「構わない。その時は気づかれないようにやるだけだ。それよりも、本当にルビーは大丈夫なんだろうな?」

 

「私だって訳がわからないわよ・・・。昨夜は温泉に行く、て言った有馬さんとMEMちょも気がついたら部屋の外で寝ていたし、疲れたから先に寝る、て言ったルビーも外で寝ていて、起きたら何も覚えてない、て言うし」

 

「・・・寝ている間に何かされたり・・・」

 

「そこは大丈夫よ。あの後、一応ホテルにいたお医者さんに診てもらったし、特に身体に異常はない、て結果だったし」

「目を離した事は悪いと思ってる。けど、あの子ももう立派な芸能人なのよ?ずっとあなたと私が見ている、て訳にはいずれいかなくなる」

 

「・・・」

 

「だからあなたも少しはあの子の事、信じてあげなさい」

 

そこまで黙って聞いていたアクアは、飲み終わったコーヒーの入っていたグラスを片付けると洗い場に持って行った。

部屋にはミヤコだけになる。

 

「・・・こんなことしか言えないけど、私はあの子達の親をしっかりやれているのかしらね・・・」

 

ねぇ、アイ。最後の言葉は口に出さず、ミヤコはグラスに残ったコーヒーを飲み干した。

 




アクアとルビーの絡み、書いてて楽しい。

アイがゆうぎりをさんづけするか呼び捨てにするか、悩みましたが呼び捨てにしました。アイにはゆうぎりにも物怖じせずに親しくなってほしい・・・。

次はサガロック!とりあえず、東京ブレイド前にここまでは終わらせる予定です!

たくさんの感想、高評価ありがとうございます!感想は長文も短文もしっかり読ませて頂いてます!
引き続き書いていきますので面白いと思いましたら感想、指摘、高評価よろしくお願いします!
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