8/2
後から見返すと最新話含めかなり短かったので誠に勝手ながら併合させていただきました。
──傲慢、慢心……我が軍はその二つに塗れていた、それもその筈数は此方が優っている、更には彼方の大将は齢10にも満たぬ童であると言う、いくら彼方が精鋭揃いと言えど此方の軍に勝てる道理など無いと高を括っていた。
正直なところ俺もそう思っていた、今回の戦も余裕の大勝であろうと、周りの奴らは終わった後の戦利品の分配や宴の事を話し合い既に戦に勝った気分でいる、俺はこの軍のこう言うところが苦手だ、カーリア王家のお抱えになったからと言って好き放題やっていい道理など無いだろうに、寧ろ尚の事しっかりと励まなければならないと言うのにこいつらは……いやよそう、そんな軍に入隊したのも俺の選択なんだ、クヨクヨしてても何も始まらない、だからこそ今は目の前の敵に集中しなくてはならない。
兵長の命令で兵士達が飛び出す皆我が先に獲物を仕留めに掛かろうとする、何せ敵軍は彼の黄金の勢力だ、装備品一つでもかなりの価値になるだろうと見ての行動だろう、目先の欲に釣られた馬鹿ほど見るに耐えぬ物はない、俺はそんな奴らを内心蔑みながら前進する。
前進しつつ遠方に敵軍の最前線が見えてくる、その中でも目立つのは一番前を走るのは輝かしい金髪を携えた美青年だ、アレが噂のゴッドウィンだろう、噂に違わず年相応の体格では無いらしい、周りの奴等は輝かしい黄金を見て速度を上げてしまった、馬鹿な奴らはここまで馬鹿なのかと思わざるを得なかった、だが奴らは向こうの出方を伺える、それによって──。
そんな俺の悠長な考えを嘲笑うかの様に先ほどまで全速力で突撃をかました味方“だった物”が吹き飛ばされていった、原因など考えるまでも無い、ゴッドウィンが全て吹き飛ばしてしまったのだ。
俺はその瞬間漸く──否遅すぎたと言ってもいいが、現実に気付かされた、
ゴッドウィンの暴威はまるで嵐の如く吹き荒れる、なす術もなく周りの奴らは吹き飛ばされ命を散らしていく、そしてとうとう俺の番が回ってきた、ゴッドウィンの拳が迫る──、刹那見たのは走馬灯ではなく敵軍の顔立ちだ、全員が慢心する事なく油断なく事に構えている表情だった。
俺達の軍の様に女王レナラが居るからと相手を舐めた態度を取っていない、それを見た時俺は死の瞬間だと言うのにどうしようもなく相手に羨望を感じざるを得なかった、──あぁ、どうして俺はあっちの軍じゃ──。
◆
叩く、叩く、そして駆ける、この戦は速さが命だ、時間をかけることは許されない、故に迅速に且つ的確に相手を処理していく、先程までの敵は斥候の類だろう、おそらくあの一軍を使い私達の出方を伺ったのだろうが……それならなぜ何も無い平野で戦闘を起こさずもう少し引き込まなかったのか、個人間での連携も取れてなかったので容易に蹴散らせてしまった。
まだ武器を使う場面では無い、私の膂力に耐えられる作りとは言え下手な消耗は避けるべきだ、後続の兵士達の為にも出来る限り敵の戦力を削らねばならない、と言うよりも彼奴等の足が遅すぎて足並みを整えるのが億劫になったので飛び出したのだがな、最初は馬に乗り従軍してたが途中で私自身が走った方が早いことに気づき今に至っている、そんな重苦しい甲冑など着てるから足が遅いのだ全く。
とかなんとか憂いている内に敵の前線の陣地を制圧してしまった、えらく拍子抜けと言ったところだな、戦う前に一部戦意喪失している腑抜けも居たが……敵前逃亡は罪なので名誉の死をくれてやり地に伏せさせた。
ここから前線を広げていかなくてはならないのだが……何か気に掛かる……何か重大な見落としがある気が──。
◆
ゴッドウィンはレナラの魔術の腕を最大限警戒していた、レナラの魔術こそが最大の障壁であると認識していた、ただしそれは──、
ゴッドウィンの警戒は正しい、今この狭間の地にてレナラ以上の魔術師は存在しない、かつて深淵を垣間見たアズールやルーサットをも上回るであろう魔力と知識を兼ね備えたレナラの実力は生半可な物では無い、つまりレナラの魔術の腕はゴッドウィンの想像を上回っていた。
レナラが仕掛けた魔術、それは転送魔術の応用だ、本来転送魔術は自分の位置から別の場所に送る際に使われる物、高度な術式だが利便性が高い魔術として注目されていたが幾つかの欠点が存在する、それは消費する魔力が多い事と転移させる位置を脳内ではっきり補完しなければならない事、これらを満たさない限り転送魔術は不発に陥る、だがレナラはリエーニエ全域を収める女王でありリエーニエの地形は全て脳内に叩き込まれている、さらにレナラはこの世界の魔術の歴史において5本の指に入る程の魔術の使い手、故に問題なく転送魔術を使用可能だ。
しかし今回レナラが見せたのはその先の部分、転送魔術は条件を満たせばある程度熟達した魔術師なら容易に扱えるのだが今回レナラが飛ばしたのは己ではなく学院の外にいるゴッドウィンである、つまりレナラは学院内から遠く離れたゴッドウィンに対し転送魔術を行使したのである。
己ではなく他人を、然も己から遠く離れた位置に存在する人間を飛ばすのは
後に転送罠としてこの地に扱われるこの技術を使えるのは現在レナラただ1人でありレナラの魔術の腕はもはや神域に在しているだろう、これが全盛期の女王レナラの魔術行使である。
◆
不味いことになった、女王レナラの魔術の腕を甘く見ていた、まさか超遠距離からのピンポイントの魔術行使とは。対魔術師の戦法を誤った……この地は彼女の支配する地なのだからこの地域全てが彼女の領域内と見なければならなかった、すぐさま戦場に戻らねばならないのだが──。
グルルル……
「まぁ当然……飛ばした場所に兵士は配置しているか……寧ろそうでなくては拍子抜けと言った所だが」
夥しい数の敵、更には質にも拘ったのか人間の兵士が殆どおらず代わりに檻の様な鎧に身を包んだ多腕の人工兵や武装されたトロル族の姿が多く見受けられる、その数凡そ30体弱。極め付けには奥に鎮座するトロル族背丈を優に超え大きな翼を携えた“アイツ”。
“ソイツ”はかつてこの狭間の地を支配していた種族の末裔であり尚力強く生存している
そんな強力な種族が3体……更にはトロル族の大盤振る舞い……こちらの数も大凡30体弱……そして先ほどから気になっていたあの多腕兵……あれは私の記憶に間違いでなければ恐らく人形兵、こいつらは脆いが決して無視出来ない戦力だ、そんな代物が推定50体強、総じて80強の戦力をたった1人の私にぶつけてきたと言うわけか、後ほど増援が来ると想定して合計100体程と想定しておくべきだな、あっちには先ほど私に浴びせた神業の転送魔術がある、不意をついた増援も十分あり得る。
ククッ……随分と私も高く見積もられた物だ、私が成すべき事はたった一つで至極単純な物だ、姿の見えぬレナラの魔術を警戒しながら目の前のコイツらを一掃し戦場に舞い戻らねばならない、然も迅速に‼︎
あぁ、なんと言う困難‼︎なんと言う荒業‼︎なんと言う試練‼︎そして…なんと言う幸運か‼︎
今までに無い程に血が迸るのが分かる、五体の隅々の感覚が冴え渡るのが実感出来る、そして今までに無い程に私は今、高揚感に包まれている‼︎
そして私にも偉大な父の戦士の血が流れているのだと否が応にも実感する‼︎ 今の私の表情など鏡を使うまでも無く口角が上がっているのが分かる‼︎死地に放り込まれて尚私は、今から始まる戦いに心を躍らせているのだ‼︎素晴らしい‼︎私は今‼︎最高に生を実感している‼︎
「さぁ、我が偉大なる父と母よ‼︎我が命‼︎我が戦いを御照覧あれ‼︎」
そう言い放ちゴッドウィンは背負っていた武器を構える。右手に戦斧、左手は大剣という奇抜な構え、だが今のゴッドウィンの戦闘スタイルには合っている。
それは己の膂力を最大限活かした戦法、頑丈で重い武器を思いっきり振り回すと言う至って単純な戦法、単純ではあるが単純が故に強力、ましてや実行者は華奢な見た目とは裏腹の怪力を持つゴッドウィン、開戦で見せた嵐と見間違う暴威を見せたその膂力を今全開にして発揮する。
◆
一方此方は黄金の勢力軍、彼等は今ゴッドウィンが姿を消したことによって慌てふためいて──などはいなかった。
彼等は良くも悪くもゴッドウィンに依存していない、ゴッドウィンがこの場にいようと居なかろうと彼等は皆全員己が最善を尽くす、そもそもが誰もゴッドウィンの心配をしていない、確信しているのだ、“私達の総大将は生きていると”。
ならばいっそな事本人が帰ってくる前に戦争を終わらせて逆に揶揄ってやろうと言う気概ですらある、取り分けマリカ……基ラダゴンは己が息子に降り掛かった災難に笑みを堪えるのに必死な辺り結構な愉快犯素質だ。
つまり彼等からしてみれば確実に生きているだろうゴッドウィンの姿がこの場消えただけなのだ、逆に孤軍奮闘するゴッドウィンを思い戦意を高ぶらせていく、王都軍はこれしきでは狼狽えない。
確かにレナラは上策を打った、寧ろ最善策と言って差し支えない、しかし相手は屈強揃いの王都軍、誰一人として惰弱はおらず、総大将がいなくなっでも戦意を喪失する輩は存在しない。
それでもレナラは焦らない、冷静に戦況を読みながら情報を整理していく、今までの戦でも幾度か読み間違えた事はある、それでも最終的には己が動けば決着がつくのだ、士気が落ちなかったのは想定外だがゴッドウィンを別の場所に飛ばし孤立させるのには成功している、ゴッドウィンは学院より湖を挟んで更に南下した高台の荒野*1に飛ばした、その上そこに大量の兵を配置させてある、もし仮にゴッドウィンが倒せなかったとしても相当消耗する筈だろうしあの位置からここまではかなりの距離がある故に戻ってくるまでにはそれなりの時間を有する筈、ならばその前に王都軍を殲滅し疲弊したゴッドウィンを叩けば良い、レナラはそう判断を下した。
つまりこの戦は以前変わりなく時間勝負、互いに早急な決着を望んだのだ、遠方のゴッドウィンは己が五体を最大限駆使し敵を屠る、此方のラダゴン含む王都軍は士気を高め進軍する、レナラは残った残存戦力と魔術兵器を全て使い迎え撃つ。
後にリエーニエ戦役と呼ばれるこの大戦はこの地に戦火の跡を大きく残し、ゴッドウィン並びにラダゴン、レナラの名を狭間の地に一気に広める事になるが、これはこの地に起きる様々な出来事の序章に過ぎない。
成りウィン君、痛恨の慢心+成長の時
全盛期レナラはどれだけ盛ってもいい、古事記にもそう書いてる。
と言うかこれくらいしてくれないと成りウィンとラダゴンの蹂躙になっちゃうので
ってことでね成りウィンは別の所で戦ってもらいます