暁に贈るアーカイブ【完結】   作:紛れもなく奴

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誤字脱字、感想、評価ありがとうございます。




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 「ねぇ先生…お願いがあるんだけど」

 「いいよ。私に出来ることなら何でも協力するよ」

 時刻は深夜、街の明かりは消え去り、点在する街灯のみが不気味に街を照らす。

 

 サンクトゥムタワーから少し離れた箇所に立つビルの一階。

 普段どおり大らかな表情をしてはいるが、その目つきは異なっており、後輩達に見せることがないであろう、鋭い目つきで睨みつけるかのように先生を見上げるホシノ。

 相対する先生には、ホシノの豹変に若干の驚きを持ちつつも、彼女に余裕がないことを感じ取っていた。

 

 事情を聞く素振りも見せず、先生はオフィスの出入口を開け、ホシノを招き入れた。

 そんな先生の対応に、今度はホシノが驚きを見せる。

 

 後輩であるセリカの所在が分からなくなり、焦るホシノは、後輩達に学園付近の捜索を依頼すると同時に、一直線で先生がいるであろうシャーレまで、走ってきたのだ。

 

 使えるものは何でも使う。

 ホシノは未だ先生の一切を信用していない。

 先生がそのことを理解していることも彼女は理解していた。

 

 一刻でも早く、良い人間関係を構築したい先生は、自分からのお願いは断らないだろう。協力にどんな対価を要求されたとしても、断らない。

 

 そんな、考えを持ってオフィスを訪ねたホシノ。

 しかし、一部は彼女の予想通り、先生は彼女の依頼を断ることはなかったが…予想していた、協力に対する対価の要求や、要件を聞くこともなく即答で協力することを明言した先生に、若干の驚きを見せていた。

 

 先生に招き入れられシャーレの事務所に入るホシノ。

 事務所の電気は消されているが、一つの作業机に設置されているライトだけが、点灯しており、シャーレへの要望書等の書類が山積みにされており、つい先ほどまで誰かが作業をしていたであろう後が残っていおり、その傍らには飲み終えた無数のエナジードリンクが置かれている。

 それだけ、業務に追われているのだろう。

 ホシノが部屋を見渡し終えたタイミングを狙ってか声がかかる。

 

 「それで? 私は何をしたらいいのかな?」

 今日の昼に、セリカのバイト先である柴関ラーメンに5人で向かい、和かに話していた時とは違い、真剣な表情で見つめあう先生とホシノ。

 

 「………連邦生徒会のセントラルネットワークを使わせてくれないかな?…セリカちゃんの行方が分からないんだ」

 

 

 

 ホシノから聞かされた話は、先生にとっても寝耳に水の話。

 

 本日の昼時に、セリカのバイト先であるとあるラーメン屋にセリカを除くアビドス生徒全員でお邪魔し、昼食を食べた時、散々文句を言っていたセリカであったが、特段、悩みがあるようには先生には思えなかった。

 先生は即座に端末を起動させ、セントラルネットワークに接続、セリカの情報を探し始める。

 

 彼の前に鎮座するディスプレイに無数に表示される街を写すカメラの数々。そこには、深夜であっても眠らない悪い生徒や、何かしらのトレーニングに励んでいるであろう姿。

 生徒の日常が映し出されていた。

 正直プライバシーもクソもないが、全てはこの権限を有している者の人格に任されているのだろう。

 

 数多の情報の中で、セリカを探す先生。その横で、ホシノも画面に表示された無数の情報から、セリカに関する情報を必死に探し、一つの防犯カメラ映像に目を止める。

 「先生、このカメラの奥を写してる映像ってないかな?」

 

 ホシノが示した、一つの街カメラ。

 カメラのリアルタイム映像には、何かしらの争った形跡が写し出されている。

 そこはアビドスの管理区ホシノが毎晩昨日警戒していたからこそ分かるであろう変化、彼女が夜中に警戒した場所であり、その時にはなかった戦場跡であった。

 

 「少し待ってくれないか…今、画面にだすよ」

 ホシノ指示を受け、ホシノが示したカメラの次の地点の街カメラに不正に接続し、表示された映像を大きく画面に映し出す。

 

 表示画面を操作し、過去の映像を遡ること数時間。

 そこには、複数の傭兵と争うセリカの姿が映し出されていた。

 

 

 数的不利をものともせず、抵抗していたセリカだったが、、数の暴力には敵わず、最終的には眠らされてしまう。

 眠るセリカの前で、何か話す素振りをみせる傭兵、そのうちの1人は眠る彼女の頭に銃口を向けている。

 映像が映し出されているディスプレイの前で息を呑む2人。

 もしかしたら、ここで…そんな思考を回してしまうホシノ。

 

 しかし、彼女らの悪い予想は外れ、縛られトラックに運び込まれるセリカの姿。

 トラックは、傭兵が乗り込むと、勢いよく動き出し、録画範囲からその姿を消した。

 「先生!!」

 「今、やってる!!」

 普段は聞くことがないであろう、ホシノの大声。

 冷静を意識していても、大事な後輩の危険が迫っている、彼女の余裕は殆ど残されていなかった。

 

 先生は、手を止めることなく、セリカを乗せたトラックの追跡を始め、ものの数分で、現在走行しているおおよその場所を把握する。

 

 「今いる場所から考えて…彼らの目的地はおそらくアビドス自治区のこの辺りだ」

 シャーレの事務所にあったアビドス自治区の地図を引っ張り出し、赤ペンで車両の進行方向と、おおよその目的地を書き込む先生。

 

 セリカの居場所の特定まで、30分もかかっておらず、先生がこのシステムを使い慣れていることがヒシヒシと伝わってくる状況ではあったが、ホシノにはそれを追求する時間が勿体無い。

 

 

 座標は把握した。後は助けに行くだけ。

 「ありがと先生、あとは大丈夫……迷惑かけちゃったね」

 答えは聞いていない。依頼した上、切り捨てるのは不義理であるのは彼女にも分かっていた。

 分かっていて、先生を連れて行くことにリスクリターンを考え、置いていく選択を彼女は選んだ。 

 

 消え入りそうな声で、言い残し、シャーレを立ち去ろうとするホシノ。勿論先生にも聞こえていないだろう。

 これは、彼女の罪悪感から出た独り言。

 

 

 しかし、事務所を出る直前、彼女の足が止まる。

 時間にして、瞬き程度の時間だろう。彼女は歩みを外に向けることなく振り返る。

 

 彼女の視線が、今助けてくれた先生の方に向かう。

 先生は、出ていくホシノに気付いておらず、彼女の視線にも気づかず急いで、荷物を纏めていた。

 その視線は真剣で、手際よく纏めていく姿やその瞳に嘘があるようにも見えない。

 

 

 

 先生のその視線が…瞳が、彼女には妙に懐かしさを思い出させていた。

 

 この世界から忘れられてしまった彼女。

 普段は、何もかもをサボろうとする癖に、困っている時は何だかんだ文句を言って手伝ってくれていた彼女。

 

 

 彼女と先生、性格、姿何もかもが異なっているが、その既視感を信じてみたい。

 無意識にそう思ってしまった彼女がいた。

 

 そして

数刻のうち、準備を終えた先生が荷物を担ぎホシノの前に立つ。

 「ごめん。少し時間がかかっちゃった」

 自分が置いてかれる寸前だったとは思いもしないのだろう。先生は、遅れたことを詫びて、シャーレの扉を開け外に踏み出していく。

 

 

 「先生……正直なところ困ってるんだ…助けてくれないかな」

 

 それは、今の誘拐された後輩のことか、それとも別のことについてなのか…知り得るのは彼女ただ1人。

 

 「勿論最後まで付き合うよ」

 

 即答で発せられた…言葉。

 その言葉が、凍りついた少女の心、ほんの少しだけ溶かす。

 

 一度は断ろうとしたホシノ…しかし、彼女は悩んだ末に先生に協力を依頼し、2人でシャーレの事務所を後にしアビドス学園へと歩みを進め、高校に集まり、情報の擦り合わせをした後、アビドス生徒+先生でトラックに積み込まれ、誘拐され泣き顔のセリカを無事に救出することが出来た。

 

 

 しかし、この救出作戦で、ホシノは、予想し得ない事態が発生する。

 彼女にとって予想外の事態……敵戦力との戦闘中、死角から救出したセリカを狙う狙撃手。

 それに1番早く気がついたのは、サポートに徹していた先生だった。

 セリカが撃たれても、ただ痛いだけの銃弾。しかし、圧倒的に肉体の強度が弱いはずの先生が、セリカを身体を張って守ろうしたのである。

 ホシノは最前線で戦っており、気がついた時には既に弾は打ち出される寸前。

 

 

 しかし、彼女の経験の成せる技か、はたまた覚悟の強さなのか、咄嗟の判断で、手持ちの盾を先生達と狙撃手の間に投擲する。

 弾丸が発射されたタインミングはその直後……盾は、彼女の意思を代弁するかのように、 弾丸の軌道上に割り込み、先生らに迫る弾薬を弾いた後、少し離れた地面に突き刺さった。

 ホシノが投げるタイミングを少しでも変えていたり、狙撃手が引き金を少しでも早く引いていたとしたら、確実に大怪我を先生は負っていただろう。

 

 その後は、先生の指揮も復帰し、瞬く間に敵戦力らを殲滅し勝利した一同……。

 

 喜びも束の間、ホシノが先生に掴みかかり怒り出す一幕はあったものの

 彼女らは、学校へ向かって転身し改めてセリカの無事を祝うのだった。

 

 

 

 

 

 

 _________________________

 

 

 

 

 

「ねぇ、何で、おじさんは先生に対してあんなことしちゃったんだろう」

 

 日は完全に落ち、付近は街路灯の灯りしかなく、子供が1人でいれば、その不気味さに泣き始めるのではないかと思うほどのアビドス高校臨時校舎。

 

 その臨時校舎の一部屋。

 誰かに、話しかけるように聞こえる彼女の声…しかし、教室から聞こえてくるのは1人の声のみである。

 

 声の正体であるホシノは……話しかけられているであろう、ベットに横たわる赤髪の少女。

 彼女の瞳を閉ざされ、今も眠り続けている。

 

 少女が眠りについてから、しばしの時間が流れ、その身体の所々に成長の兆しが見られるが、印象的な燃えるような赤髪は、ホシノが手入れをしているのか、綺麗な状態を維持していた。

 

 ホシノからの一方的に話しかけているだけではあるが、ベットで眠る少女とのやり取りは、ほぼほぼ毎日、行われている日常の一幕である。

 内容としては、今日1日の出来事をホシノが語り聞かせるというもの。彼女は自治区周辺の警戒を終えた後、決まってこの場所に訪れる。

 

 眠る少女に、自分の声が届いているか分からない。それでも世界から抹消された少女に対し、唯一覚えているホシノは、彼女がいつか目覚めると…または、何かしらの反応をしてくれるんじゃないかと期待して日々の出来事を語るようになっていた。

 

 

今日の会話の中心はもちろん、セリカ救出作戦と、それに付随する自身の失敗談だった。

 「へへぇ〜だって先生、覆い被さってセリカちゃんを守ろうとするんだもん。おじさんも驚いちゃってさ〜何でか怒っちゃったんだ〜」

  もう誰も傷つけさせない。自分の小さな手で守れるものは絶対に守り抜く…そう決めた彼女だったが、先生……大人が、負傷したとしても自分には関係ない、利用できるものは何でも利用する……そのつもりだったのに何故自分はあんなにも先生を怒ったりのか……。

 

 彼女自身が、何故怒ったのか理解出来ずにいる。

 

 結局、ホシノは先生に対し怒りを露わにした後すぐに謝り、いつも通りの眠たげな表情に戻ると何事もなかったように先生の元から離れ、生徒一同で学校に戻り、セリカを揶揄いつつも喜びあったのだった。

 

 しかしシロコ達は、空気を読んだのか、明日の予定等の話し合いを終えると、順々に帰り初めたが、先生は一向に帰ろうとせず、ホシノと話し合うことにした。

 そんな先生に対し、理由をつけて逃げようとしたホシノであったが、先生の引く素振りの見せない姿に根負けして「明日お話ししよう」と約束を取り決めたのが今日の流れだった。

 

 

 ホシノの語り聞かせは続く、彼女が話していた1日の出来事は、知らぬ間に彼女の心境の声に変わっていっていた。

 「先生は……私を…私たちを他の大人と同じように裏切るのかな?というか、明日先生に何て言えばいいのかな」

 

 

 消え入りそうな声にベットで寝る少女が反応を示す素振りはない。

 彼女が、起きていれば何と言うのだろうか。

 

 いろんな想像が、ホシノの脳内で展開されるがこれといった正解は無いと自身の考えを否定する。

 眠る少女は、ホシノが思いもしない考えや手段、成功率が低いがその後の行動が楽になるならば、それを完璧に遂行してみせる…その癖、自分が困った時は、何処からともなく現れて助けてくれる。

 何とも不思議な人物だった。

 彼女は、ホシノから見ても戦闘が苦手な身体の身のこなしではなかったし、時々、どう見ても、銃弾を見てから躱しているようにしか見えなくて、驚愕したのを覚えている。彼女は戦闘が苦手ではなくただめんどくさがっているだけだった。

 

 

 自分が、どんな選択をしても、文句を言いつつもあの時…あの一瞬まで、見えないところで助け支え続けてくれていた。

 最初は何処かの学園の間者じゃないかと、変な勘繰りをしたこともあったが、同じ時を過ごすうちに、次第に彼女を信頼し、背中を任せられるから、突っ走れたことも多かったのだ。

 

 普段、嫌だ嫌だ言っていた彼女が机に向かって何かやっていたのは知っていた。

 疑問に思うこともあったが、その頃は余裕がなく、聞くのを後回しにして、最後まで聞くことができなかった。

 ホシノが彼女が行っていた様々な対策に気がついたのは、彼女が眠りについてから少ししてからのこと、彼女が学校を守るために実施していた対策は、その殆ど全てが、彼女の存在の抹消の辻褄を合わせるために、ホシノが行ったことになっていた。

 

 彼女の…相談せずに実施されていた汚い大人への対策は十全ではないけども、功を奏し、本来学校が抱える借金を大きく減らしている。

 

 

 それだけではない。彼女の存在を知っているからこそ、ホシノだけが気が付くことができる違和感の数々。

 この世界の中で無意識下に存在する世界が修正しきれなかった事象の数々。

 そして、修正しきれず大規模災害という名で表面化した事象。

 

 それだけ、彼女の存在がこの世界に与えた影響は大きかった。

 もしくは……未だに、影響を与え続けているからこそ修正しきれていないのか

 

 

「うへぇ〜そういえばあの黒服がまた、接触してきたんだよね〜嫌だなぁ」

 

 今日1日の出来事を話し終えたホシノ。彼女は腰掛けていた椅子から立つと、荷物を纏め、今日のお別れの挨拶をすると、部屋を軽く見て回った後、少女の寝顔を少しの時間見つめた後に教室を離れる。

 

 

 

 

 

 

 ホシノが明かりを消し、教室から離れていくと、教室は静寂に包まれる。

 

 

 眠る少女は、微動だにせず、ただひたすらに眠り続けている。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 「おはよー、先生」

 「先生、おはようございます。今日は早いですね?」

 先生がアビドス高校に到着し、対策室の扉を開けると室内にいた生徒はホシノとノノミ2人のみ、ホシノはノノミの太ももを占領しだらけきった表情を見せており、ノノミはその姿を見て笑顔を浮かべている。

 

 膝枕をされて、上を見上げれば、近くには可愛いノノミの顔と、桃源郷が見えるであろう誰でも羨ましいものである。

 先生は誘惑されかけた意識を押し留め、脳裏をよぎった羨ましいという感情を必死に追い出しつつ話題を変えるため、ほかの生徒ついて問いかけてみると、今日1日は対策室として何か行動する予定はなく、生徒各々が好きなことをして過ごしていらしい。

 

 他の生徒の様子を聞き終え、聞くことがなくなれば、話は自然と冒頭に戻る。

 「ホシノは相当リラックスしてるね?」

 たまに見せる眼光は何処へやら、ホシノの表情は緩み切っている。

 「うへぇぇ〜いいでしょうノノミちゃんの膝枕は柔らかくてサイコーなんだよ。私だけの特等席だもんね〜」

 そこまで言われると気になるのが当たり前。先生も人の子である、手に入らないと言われると無性に欲しくなる欲望がある。

 

 そんな先生の気持ちを汲み取ったのかノノミが、先生を手招きして先生を呼ぶ。

 「先生も如何です?はい、どうぞ〜⭐︎」

 

 誘われたなら仕方ない。先ほどまで自制していた意識は何処へやら、ノノミに向かって歩みを進める先生。

 人は誘惑には抗いきれない生き物なのだと。

 「ダメだよ」

 そんな先生を静止させるホシノの声。

  膝枕を止め立ち上がってホシノは、先生の正面に立ち彼の進行を妨害する。

 

 「ホシノ、当人が許可を出しているんだそこを退きたまえ」

 「いーや、さっきも言ったけど、この枕はわたしの専属だよ。 先生は、あの硬そうなパイプ椅子にでも座っているといい」

 

 ホシノが冷たい目つきで指し示すは、誰も使っていないであろう、教室の隅に置かれた折り畳まれたパイプ椅子。

 掃除はされているか、一目で年季が入っているのが分かる一品だった。

 「ふん、この部活の顧問は誰だいホシノ?そう私だ。 なら、もっといい椅子でもバチは当たらないんじゃ無いかな?」

 「出会って、数日の先生に私の可愛い後輩達はあげません。出直してきなよ〜」

 

 絶対に譲る気がないホシノと、当人から許可を得たと主張する先生。

 両者の意見は平行線。二人がノノミの膝枕の権利を主張し、言い合いを続ける様を貸し出す本人は止めることもせず見守っている。

 

 ノノミからすれば、軽口を言い合うようになった二人の姿が見れて嬉しいのだろう

 先生が来た初日、セリカが攫われた日、この期間は言うなれば冷戦に近い状態だった。

 それが、銀行強盗をしたり……ブラックマーケットを駆け巡ったり、便利屋との戦い等の出来事を得て少しづつだが、ホシノが先生に対し心を開いているようにノノミには見えているのだ。

 

 

 ノノミがこの学園に入学した時のホシノは、今のホシノとは大きく異なっていた。

 彼女が知るホシノは、この学校で一人だけの2年生。いつも寝ぼけたような姿はなく、常に何かに追われているように見えていた。

 ノノミは、ホシノが何に追われていたのか、その全ては知らない。先輩の話を聞かせてくれたこともあった。しかし未だに、話してくれないことがあることも理解していた。

 1年生の二人は分からないが、シロコもノノミは彼女が話してくれることを待つことを選んだ。

 だから、彼女が眠るといって、何処かに消えたとしても追うことはしない。後輩達は後輩なりの方法で先輩を支えることを決めたのだった。

 

 

 他校に敵意をむき出しにしていたホシノが丸くなり、こうして先生と自身の膝枕をめぐり言い争いをする姿は、ノノミが求めている光景の一つなのかもしれない。

 

 

 彼らの論争は続く。

 「なら、半分こにしよう。ホシノが右、私が左でどうだろう」

 「いーや、半分だって譲る気はないよ。決定権は私にあるんだよ。先生はそこの椅子。可愛い後輩に如何わしいことはさせないよぉ」

 「くっ、そ、そんなことするわけないじゃないか。ああ、そうとも!私はただ、ノノミの膝枕を体験したいだけなんだ誓ってもいい。破ったらそこにある刀で切腹するとも(・・・・・・・・・・・・・)

 「ふーん。そこまで言うなら…………………ちょっとまって先生……いま何て言ったの?」

 「いや、だからそこにある…………」

 

 

 子供のように理屈をぶつけ合う二人を見て、再度笑顔を見せたノノミは、優しく叱るように二人の仲裁に入ろうとして、ノノミは、二人の言い争いが止まったことに疑問を抱く。

 「どうしたんですがお二人とも……」

 

 2人に近寄り視線を向けると、何もない部屋の隅を先生が指差しながら首を傾げており、一方のホシノは目を見開いて驚いた表情で固まっていた。 

 二人の姿を見て、ノノミも話かけるのを躊躇してしまう。

 先生が指差す方向にノノミは視線を向けるが、そこはこの対策室の一つの隅。そこには何も置かれていない。

 

 

 先生は、壁を指差し、自分が何を言ったのか思い出そうとするが、何故が思い出せず、考えこむ。

 確かに、そこに何かがあったはずなのだ。口論の際視界に入り口にしたはずの言葉が、記憶から抜け落ちている。自身が指し示す先に確かに見えたはずだった。

 「いや、勘違いだった『先生 その違和感は勘違いじゃないよ』…ようだ」

 頭の中で燻っていた違和感も考えこむと次第に霞のように消えていく。気のせいだったと思い始め訂正しようと声に出したタイミングで、先生の声にホシノの声が重なった。

 

「いやぁ先生ごめんね。突然話を遮っちゃって、でもその違和感は、忘れないでほしいなぁ〜とおじさんは思うんだ。」

「先輩……」

 

 

 普段通りの声色に戻ったホシノの声、しかし、ノノミと先生には、まるで、お願いするような、縋るような悲しみを含んだ声に聞こえていた。

 

 




高評価、感想ありがとうございます。誤字脱字の訂正も感謝です。

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