暁に贈るアーカイブ【完結】 作:紛れもなく奴
「これはこれは。お待ちしておりましたよ、暁の……いや、ホシノさんでしたね。これは失礼」
ノノミと先生に今日の自分は休みと告げ、彼らの元を立ち去ったホシノの姿は、とある高層ビルの最上階のオフィスの一室にあった。
オフィスの一面は、ガラス張りとなっており、キヴォトスを見渡せる綺麗に整頓されており、置かれている物品も一目で安物ではないことが分かる。
この部屋に今いるのは、自身の過去の呼び名を聞き、不機嫌そうな表情を見せるホシノ。
彼女に対するは、先ほど謝罪の言葉を口にした人物のみ。
その人物は言葉使いも丁寧ではあるが、見た目がホシノが知る常識とは大きくかけ離れている。
高級そうな黒色のスーツを着込んでいるが、体もスーツと同様に黒く無機質。
本来、人間の右目に当たる箇所から光が溢れ出ており、その箇所を中心に顔全体に亀裂が広がっている。
さらには、スーツの胸元や手首にも同様の亀裂が走っており、スーツに隠れている箇所も同様に亀裂があるであろうと推測できる。
「いやいや、キヴォトスにはまだ馴染めていなくて、こちらへどうぞ、ホシノさん」
ホシノに黒服と呼ばれている人物は、丁寧な口調で、ホシノをオフィスに設置されているデスク付近の椅子を引いて座るように案内する。
「ここでいいよ。それで?今度は何の用?」
ホシノは、黒服の指示には従わず、動こうとしない。
以前にホシノに対して、黒服が提案をしてきた時も、彼女は同様にこの黒服の口調と立ち振る舞いから溢れでる不気味さを警戒し、必要以上の警戒を続けていた。
ホシノの対応は予測していたのか、黒服は不満も口にせず、ホシノに進めた椅子とは異なり、デスクに備え付けられている自身の椅子に移動し腰掛けた。
「ふふ、状況が変わりましてね。今回は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんに別のご提案をしようと思いまして」
「また提案?何を条件に出されても応じるつもりはないと言ったでしょ?」
そんな提案には興味がないと、冷静に答えるホシノ。
彼女は、この黒服と呼ぶ不気味な男に、どんな好条件の提案を出されようとも即断しないつもりで彼女はこの場所に訪れていた。
しかし、彼女は、自身の守る対象である後輩等や、自分を心配する様子を見せる大人…先生に嘘をつき、黒服の誘いに乗ってこの場を訪れている。
深く考えずとも、矛盾している彼女の行動……それはホシノ自身も分かってはいるのだ。
彼女は分かっているが、彼女が黒服と呼ぶこの者の異常性から、自身が求めている答えを知っているのではないかと、そのチャンスを逃してしまうのではないかと、悩んだ末に彼女はこの場を訪れた。
「まあまあ、話は最後まで聞いた方がいいですよホシノさん。以前ホシノさんは、この場所に来た際私に対して最後にこう言ったはずです…『もう、会うことは無いよ』…と」
「ですが、貴方は誘いに応じて再びここを訪ねていきた……その時点で私の目的の7割は終わっています」
「ホシノさん………貴方は私に聞きたいことがある……でなければ、私の呼び出しに貴方が答え、私の元を訪ねては来ないでしょう?」
笑っているのか、嘲笑っているのか、分からない黒服の表情。
ホシノのは表情ひとつ変えることなく、黒服と相対を続ける。
黒服の言う通り、ホシノはこの場に本来来る必要がない。どんな提案をされても呑むつもりが無いのなら最初から合わなければいい。それだけの話である。
黒服は勿論、彼女が探し求める何かを求めて、彼女自身で解決出来ない問題……それの解決策を探して自分のの元に近寄って来たことを理解していた。
相手は、罠に掛かった。
黒服は、罠にかかった小鳥をゆっくりと絞め殺すように、言葉を続ける。
黒服がホシノを呼び出す口実に使ったのはたった1葉の写真が入った封筒。
その写真一枚で、ホシノは黒服の元を訪れることを選んだ。
黒服は、そんなホシノの心情を知ったかのように、ホシノに送りつけた物と同じ写真を胸元とポケットから取り出し、ホシノにも見えるようにして手に持つ。
「ホシノさん…貴方は本当にあらゆる手段を用いて在籍しているアビドス高校を守っていますよね。私も色々調べましてね?」
「本当に素晴らしい対応の数々ですよ。私も見習わなければならないと痛感した点もありました。」
黒服は本心からホシノを誉めているようで、彼女がいなければ、アビドス高校は3年前に無くなっていたのは確実だったと話す。
「貴方がいなければ、あなたがいる高校…アビドス高校は既に無かったでしょうし、今のように本来の学園の土地の6割以上残り続けているのこともなかったでしょう………おっと話が逸れてしまいました」
黒服は、話が脱線したことを詫びると、再度話し始める。話は再び、ホシノを呼び出した写真の話題に戻る。
「………貴方に送らせていただいたこの写真。えぇ、ご存知であろうこのキヴォトスで発生した原因不明の大災害」
「キヴォトス中気温が瞬時に上昇し始め…その災害の発生場所付近の写真です」
写真には、砂漠化した大地、そして焼け焦げた大地の写真であり、誰がどう見ても災害の被害を表す以外に深い意味は感じられないだろう。
しかし、何か確信を得ているのか、黒服は言葉を紡ぎ続ける。
「私は、一つホシノさんにお尋ねしたいことがあるんですよ」
「 ………」
ホシノは何も語らず、黒服の次の言葉を待っている。
「…………………私も調べさせていただきましたよ。これほどの大災害、後輩を大事にされるホシノさんが、
「しかし、可笑しな事態が分かりまして……ホシノさん貴方は、この大災害に対して何一つ、調べた形跡が見当たらないのです。このような危険な災害が、貴方が守る学校の校舎で発生する可能性は0では無いですよね」
「………」
「おや、何も話されないのですか?…でしたら私の推測を一つ言わせていただきます」
「……貴方はこの災害の原因を知っている。それが、どのような現象なのか分かっているから対策を練らないし、他の学園のように調べることもない」
「むしろ、あなたはこの付近を学園の自治区の裁量だと、強権を振り翳し、調べようとする他の学園のあらゆる介入を、ましてや連邦生徒会の調査さえも跳ね除けました」
彼の話はこれだけでは終わらない。むしろここからが、本番だと、部屋の温度が突然下がったかのように、緊迫感が広がっていくようだ。
黒服は、流れるような動作でデスクに備え付けてある一番大きな引き出しを引き出し、その中から、とある物を引き出すと、デスクの上に置いた。
「 ……っ!」
その物を視界に入れた瞬間、ホシノは僅かに目を見開いて驚き、黒服はホシノのその変化を見逃すことはなかった。
黒服の元を訪れた時点で、相手に情報を渡してしまうのは、ホシノ自身も理解していた。
ホシノがあの大災害の関係者であることは、黒服に勘づかれているのも予測はしていた。
黒服の底が見えない以上、ここでの相対は、顔の表情一つも相手への情報になってしまうため、感情を心の奥底に沈め、無表情を貫いてきた。
大災害について聞かれるのは、覚悟していた。最悪、あそこでの戦闘があったのではと、聞かれることも考えていた。
それでも。ホシノが黒服の元を訪れた理由…それは、勿論、眠り続ける彼女のため。
キヴォトスの外の世界から来た、と以前の提案をされた時に話していた黒服ならば、彼女を目覚めさせる何か手掛かりを得られるのではないかと考えて、不気味で底が見えないこの人物の元を訪れたのだ。
大人を信じない。
あらゆる対策を考えて相対していたホシノに黒服が見せたものは、彼女の予想の範囲外、一瞬の表情の変化で済ませた彼女を褒めるべきだろう。
彼女の心情を知ってか知らずか、黒服は少し間を空けた後、話を続ける。
「これなんですが、大災害の中心地付近に落ちていたみたいなんですよ。どうにも、地盤沈下で地中に埋まってしまっていたらしく、どこかのコソ泥が発見して、ブラックマーケットに流したもののようです。」
デスク上に置かれた物。
それは、ホシノが見間違う筈がない。彼女が大災害の日からずっと探して続けていたもの。
熱による融解で溶けてしまったとも考えてしまったそれは、フルカスタムされた、眠り続ける彼女の相棒が使っていた戦場での友。
その彼女が愛用していた赤と黒色のパーツで構成されたサブマシンガンだった。
無意識に唾を呑むホシノ。
外の世界から来たという黒服……彼は何処まで知っているのか……修正され、抹消された存在を知っているのか分からないホシノには、黒服の次の言葉を待つことしか出来なかった。
黒服は指で触っていた、デスクの上に置かれた銃を両手で手に取ると、なんと、相対するホシノに向かって差し出したのだった。
「苦労しましたが、やっと持ち主が見つかりましたので、お返したいと思いまして」
「えっ?」
「驚くことはないでしょう。たとえ、貴方の体型に合わないカスタマイズがされていようとも、購入者、所有者は間違いなく貴方で登録されていました。探すのに手間がかかりましたよ」
「ホシノさんも探しているなら、前回お話しした際に、教えてくれればよかったものを」
「持ち主を探す過程で、これの解析はすでにを終えてしまいましたし、私が持っていても意味はありません。なので、本来の所有者がいるなら、返そうと思っていました」
「…あぁ勿論お礼は入りませんよ……さぁどうぞ」
数秒警戒し、その場に止まっていたホシノだったが、やがて黒服にゆっくりと近づき、それを受け取る。
ホシノは机の上に置かれたそれを手に取ると、すぐさま元の場所に戻る。
ホシノは元の場所に戻ると、慣れた手つきでマガジンを外し、弾の有無を確認するが、弾薬は一発も入っていない。
グリップや、レールは焼け爛れ使い物にはなりそうもない。
しかし、付けられたサイトやグリップ、後付けのフラッシュライト…全てが彼女が手入れしていた物に間違いがなかった。
その使い古された銃は…ホシノの記憶、誰にも見えない刀…それ以外に、誰からも見える…彼女が存在していたという証だった。
見つかったのは嬉しいが、情報の多さに彼女は脳内は混乱する。
「……どうして、見返りもなく私に返すの?」
「ですから、もう私たちには必要のない物だからです。そちらには何も神秘が宿っていないのは確認しました」
「……えぇ、ですから、
「さて、話を戻しましょうかホシノさん。」
「突然ですがホシノさん。貴方は…色彩という言葉をご存知でしょうか?私は……いや、私達はそれに対抗し得る手段を探しているのです。あの大災害の原因は、それに対抗し得る手段となり得るかもしれないと考えているのです。」
「私の送った写真で、貴方が私の元を訪れた。あの写真には、大災害の惨劇を写す以外特殊な映り込みなどはありません。ですが、貴方は私の元を訪ねてきた。」
「つまりこの写真には、私達が理解することができない、何かが写っているのか……それとも貴方が、この場所で発生した災害に関する何らかの当事者であり、何か困っていることがあって、解決策を見つけるため藁にも縋る思いで私の元を訪ねてきた………と私は推測したのです……
黒服は一人で話続ける。餌になるかも分からない、一枚の写真とホシノの表情の変化だけで一つの推測を作っていく。
「結局私だけでは、結論に辿り着くことができませんでした。ですから貴方をお呼びしたのですホシノさん……私の推測では、貴方は間違いなくこの答えを識っている。
貴方が、探している物。私も協力しましょう。学園の借金も大半を私が受けましょう。
その代わりに、ホシノさん……貴方には私の提案を一つ呑んでいていただきたい。」
「興味深い提案だと思いますので、どうかご清聴ください。」
黒服はそう告げると不気味に笑い始めるのだった。
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黒服とホシノが相対している最中…………アビドス高校直近で営業している柴関ラーメン。
ここで食事をしていた便利屋一行のリーダである社長のアルの言葉を誤解し、ハルカが店に仕掛けていた爆弾を起爆。
一瞬のうちに消え去った柴関ラーメンと、その爆発を検知し出動してきた先生を含むアビドス高校との戦闘が始まり、終いには、ゲヘナ学園の風紀委員会が乱入し、三つ巴の大乱闘が始まっていた。
アビドス一同が、圧倒的な人数差を跳ね返し、ゲヘナの風紀委員会の一師団を壊滅させたタイミングで、風紀委員会の行政官のアコが現れる。
彼女の目的が、便利屋のカヨコによって先生の確保だと判明し、最終的に敵対することになった対策委員会一同。
アコの指示によって新たに現れた委員会側の戦力に対し、彼女らは、この場を切り抜けるために便利屋とアビドスが一時的に正式な同盟を組み立ち向かう。
アビドス高校と、便利屋の共同戦線……それと対峙するゲヘナ学園
その戦いは、激化し、お互いに負傷者を出す混戦へとなっていく。
やがて、風紀委員長のヒナが現場に現れ、事態は鎮静化するが……ホシノが戦場となった場所に現れることは最後まで無かった。
鬱展開も好きな人生ですが、個人的にはハッピーエンドのほうが好みです