暁に贈るアーカイブ【完結】 作:紛れもなく奴
先生、アビドス高校の正門にたどり着くと、正門前にたたずむノノミの姿があった。先生が、便利屋のお見送りをしている間、ノノミとシロコは行方が分からないホシノの捜索。アヤネとセリカは、アビドス自治区の土地を調べていた。
「あれ、先生?思ったより早かったですね☆」
ゲヘナ学園風紀委員長のヒナが登場したことにより、行政官のアコの暴走が鎮圧された。
ヒナは対策委員会に対して謝罪をしたことにより終戦を迎えた今回の一戦。
アビドス高校の生徒は、人数は少ないものの、個々の力が突出している。それでも、終ぞ現場に現れなかった最高戦力であるホシノがいなかったことが原因か、前衛が足らず、生徒らは壊滅こそしなかったが、それなりの被害を受けていた。
ヒナはゲヘナに帰還する間際に先生に対して「カイザーコーポレーションはアビドス砂漠で何かを企んでいる」という情報を残していった。
「ホシノは見つかった?」
「いいえ、学校の掃除をしつつ、普段寝ている場所も探したんですが、何処にもいません・・・・・・・ほんと何処行っちゃったんでしょうか」
一見して、普段通りの姿を見せているノノミではあったが、先生には、彼女の瞳に、若干の焦りが見て取れた気がした。
「先生がいらっしゃってから、本当にいろんなことが起きました・・・次は、何が来るんでしょうか・・・・」
ノノミと先生が、今後の相談をしていると、ホシノの捜索を自転車で実施していたシロコが戻ってくる。
愛用の自転車を手で押し、校門を潜るシロコ。そんな彼女の後をノノミと先生が続く。
シロコもホシノの姿を発見することができず、戻ってきたが、いったん捜索を切り上げて、教室に戻り、状況を整理することとなった。
「先輩!!、先生もこれを見て!! 」
教室に戻った3人の姿を見て、慌てて駆け寄ってくるセリカ。
セリカが先生たちに見せた書類それは、アビドス高校の土地の権利書の控えだった。
ノノミがセリカから書類を受け取り、視線を落とすと、ある個所で目を見開いた。
「カイザーコンストラクション・・・・・・カイザーコーポレーションの系列ですか?!」
アヤネとセリカが調べた内容をそこに記されていたのは、区分分けで、本来はアビドスの自治区の土地であるはずの土地が、カイザーコーポレーション系列の管理となっているものだった。
「私たちが調べた限りでは・・・本来のアビドス高校本館と、その周辺の荒れ地等で本来の管理地の約6割がカイザーコーポレーションの土地になっています」
「学校が保有している所有権は、今は本館として使っているこの校舎と、周辺の一部地域だけです」
シロコもノノミも苦悶の表情を見せている。しかし先生は、アヤネが話した内容からおかしな点に気が付く。
「学園が管理している土地がそこだけ?それだと・・・おかしい。残りの土地は誰の管理になっているんだい?」
「さすが先生。お見事です。カイザーコーポレーションが6割、いまの学園の管理が1割程度あると仮定しても残り3割は別の管理者なんです・・・・・・」
アヤネはさらに別の資料を先生たちに見せる。
「その管理者は・・・・・・・ホシノ先輩です」
先生と4人の生徒がアビドス高校の教室に集まり、状況を整理する一同。
土地をカイザーコーポレーションに奪われてしまったこと、ここにいないホシノが土地の管理者であること。
一同を困惑させる事態が多発したが、当事者がいないため、推測の域を出ることはなかった。
一同は、ホシノの捜索と並行して、先生がヒナから聞いた「カイザーコーポレーションはアビドス砂漠で何かを企んでいる」という情報をもとに、アビドス砂漠に向かう……各々が準備をし始めたタイミングだった。
「ごめんくださーいアビドス対策委員会様宛にお荷物ですぅ~」
対策委員会の元に一つの荷物が届けられるのだった。
速達で届けられた一つのダンボール箱の宅配物。
シロコが代表して受け取り、宛名を確認驚きの表情を見せた。
「ん…これホシノ先輩からだって」
シロコは先の戦闘で、複数の銃弾を受けた影響でシロコのふとももには包帯が巻かれ、簡易的な手当がされている。
「・・・っ!!」
普段と変わらず、読みにくい表情をしているシロコだが、荷物を受け取る際、手当がされている足を庇うように動かしたため、痛みが走ったのか、その表情を歪ませていた。
対策委員会は、本来、ホシノが前衛となり、攻撃を引き付けてくれるため、彼女の後輩であるシロコ達がけがを負うことは、ほとんどない。
ゲヘナ学園との戦闘は、ホシノ不在なためシロコが、前衛を務めていたため、ある程度被弾していたのだ。
「シロコ先輩その足……」
「大丈夫、すぐに治る。それよりもこの荷物……どうする?結構重たいけど」
「とりあえず、机に置きましょうか☆」
ノノミの提案にうなずき、シロコが机の上に置く。
「じゃあ開けるわよ」
セリカが、周りの同意を得て、素早くに荷物を開封し中を物色し始める。行方が分からないホシノから対策委員会あてに届けられた荷物……皆気になっているのだ。
「えーと、何?このサブマシンガン……?黒と赤で塗装されてるし、グリップもサイトもカスタマイズされてるから相当使われているものだとは思うけど……」
セリカがまず、荷物から引っ張り出したのは、年期の入っているように見える一丁の小銃だった。
「よく手入れされていたんだと思う……だけど所々焼け焦げてるし、マズルは溶けて歪んでる……これじゃあ使い物にならない」
「ほんとですね……でも、ホシノ先輩はどうしてコレを私達宛てに送ってきたのでしょうか」
セリカから小銃を引き継いだ、シロコが、点検しつつ感想をのべていく。
「ちょっと、これ【対策委員会】宛てって書かれてるけどホシノ先輩からよね……こっちは先生宛」
その間も、セリカが荷物を漁り、ピンク色の手紙を1通発見する。
そこに書かれていたのは、ホシノの謝罪と別れの挨拶……そして退部届が入っていた。
「……つ!!」
セリカから手紙を受け取り、一読した先生が驚きの声を上げ、顔を上げようとした瞬間
「ふざけんじゃないわよ!!!」
ふと、先生が視線を上げると、対策委員会宛ての手紙を破れんばかりの力で手に持ち、その手を震わせていた。
「セリカちゃん落ち着いてください!!なんて書かれていたんですか?」
セリカを心配し、すぐそばに駆け寄る一同、セリカは、何も語らず手紙をアヤノに渡すと、その場にへたり込んだ。
セリカの姿を見て一同は、ただ事ではないと表情を引き締め、各々が読み始めた。
『アビドス対策員会のみんなへ』
『ますは、こうやって手紙でのお別れの挨拶をすることになったこと、許してほしい。おじさんにはこういう、古いやり方が性にあっててさ。みんなには、ずっと話していないことがあって・・・・・・いや、みんなは、私が隠し事をしていることも既に知っていて触れないでいてくれたのは分かってたんだ。』
『そのやさしさに甘えて・・・・・・私はダメな先輩だよ。』
『実は昔からずっとスカウトを受けてたんだ。カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負っている借金の全額を肩代わりする・・・・・そういう話でね。』
『・・・・・・借金のことは、私がどうにかする。 』
『一度も話したことはなかったけど、 私が 』
『がむしゃらに守ろうとしていた学園 』
『この学園を誰もが去っていく中、二人しかいない生徒会 で守ろうとしたんだ。
『でも今、 後輩のみんながいるから安心なんだ』
『最後に・・・・勝手なことしてごめんね』
『でもこれは全部私 が責任を取るべきこと、私、アビドス最後の生徒会だから・・・・・・だから、ここでお別れ。じゃあね』
『先生へ」
『分かってたとおもうけど、私は大人が大嫌いなんだ。冷たい態度をしてごめんなさい』
『シロコちゃんが先生をおんぶしてきたあの時だって「なんかダメな大人が来たな・・・また私から奪うのか」って思ってたし』
『・・・・・でも、セリカちゃんの救出に行ったとき、ほっとけば、騙そうとする大人がいなくなるのに、私は先生を無意識に庇ってしまうぐらい、期待もしちゃってたんだと思う』
『私は、悪い生徒だから、先生を信用することが最後まで出来なかったよ。・・・でも、私にはもう先生にしか頼める人がいないんだ』
『我儘言ってるのは分かってる、それでもお願い。シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かがささえてないと、どうなっちゃうかわからない子で、だから悪い道に進まないように、支えてあげてほしい。先生・・・お願いね』
『シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃんお願い、私たちの学園を守ってほしい』
『砂だらけのこんな場所だけど……私に残された、唯一意味のある場所だから』
『それから、もしもこの先どこかで万が一、敵として相対することなったら……』
『その時は、私のヘイローを「壊して」……よろしくね』
「何なの!?あれだけ偉そうに話しておいて!!切羽詰まったら何でもしちゃうって、自分で分かってたくせにっ!!こんなの受け入れられるわけないじゃない」
「助けにいこう…対策委員会に迷惑かかるし、私一人で……」
「落ち着いてください、今はまず足並みを揃えないと…!」
ホシノから対策委員会宛てに書かれた手紙、一同で最後に目を通した先生。
それはお別れの手紙……しかし、先生にはその手紙に違和感を感じていた。内容は分かる文章なのだ……それなのにやたらと空欄が目につく文章。空欄が影響か文章にも違和感を覚え始める。
読み終えた生徒たちは、混乱し、焦るように今後の方針について話している……誰も、この文章の違和感を覚えていない。
「みんな、一回落ち着こう…ノノミ、この手紙違和感を覚えないかい?」
「………いいえ、納得できない内容ですが、私には先生が言う違和感が分かりません」
先生に再度、手紙を渡され、注意深く内容を読むノノミは先生の期待に応えられないのがくやしいのか、申し訳なさそうに手紙を先生に手渡した。
誰もが違和感を覚えるはずの手紙の空白…しかし。対策委員会の誰に聞いても帰ってくる内容は同じ……考え込む先生は、ふと、視界の隅に、今まで無かったものを見つける。
それは、以前にも一度だけ見た気がする、一振りの刀…それが、一瞬、燃えるような赤色になった姿が、先生の視界に映ったきがしたのだ。
さらに、同様の色が、セリカが調べていた荷物の中から見えていた。
先生は、直感を信じ、セリカが漁った段ボール箱の荷物に目を向け、中を調べ始める。……そしてその中に、対策委員会宛てではない、宛名が書かれていない赤色の便せんを発見する。
「えっ…!!?先生その手紙どこから取り出しました?」
「荷物の中からだよ。段ボール箱の一番下に入ってた」
「う、うそ?!さっき探した時は、入ってなかったわよ!!」
驚きの表情を見せるセリカ…彼女が嘘をついているわけもなく、本当にこの手紙を先生が手に取るまで、認識していなかったのだ。
一同が、先生に集まったことを確認した、先生が手紙を確認する。
「…………なにも書いてないじゃない」
「本当ですね~入れ間違いですかね」
「何かの暗号かも」
何も書いていない赤色の便せん………各々が手紙の意味を考える最中、アビドス高校に爆発音と、衝撃が駆け抜ける。
急遽押し寄せてきたカイザーコーポレーションのPMC。
彼らは、アビドス高校を占領したようと学園を取り囲むように集まりだしたのだった。
急いで、迎撃を開始する対策委員会一同…先生も彼女らに合わせて指揮をとる。
生徒たちが、何も書かれていないと言っていた手紙……指揮をしつつも先生は、手紙を手放そうとしなかった。
ホシノが先生に託した最後の願い……その願いは、確かに彼に届いたのだった。
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【先生が、この手紙、この文章が読めることを願って書くことにするよ】
【この世界には秘密が隠れている】
【突然何を書いてるんだって思うかもだけど、信じてくれると嬉しいな……私は、誰もが忘れた・・・この世界から無かったことにされた女の子のことを覚えてるんだ。】
【もちろん後輩たちにも話そうとした、だけど、話そうと考えた瞬間、霞がかったように、記憶から抜け落ちていくし、無理やり口を押えられたみたいに声も詰まるんだ。結構苦しいんだよねアレ】
【紙に彼女のことを書いても他の人には見えないし、見えない箇所のせいで、文章があきらかにおかしくても違和感を何一つ覚えない】
【世界が彼女のことを忘れさせようとしてるようにも感じるんだ】
【私が覚えているのは、対策室の隅に立て掛けてある刀のおかげ・・・・・・何故か、私にしか見えないんだよね~】
【でもあれを見ると、ほかの人に話そうとして、抜け落ちた記憶も全て思い出せるし、彼女がこの世界にいた大切な証拠なんだ。手紙と一緒に入れた銃も元は彼女のもの…なぜか、私のものになってたけどね】
【話を戻すけど…あの刀は、不気味な刀で・・・私は見れるし触れることもで出来た。だけどそれだけ……でも、先生だったら何か起きるかもしれない】
【彼女の存在は、この世界に最初からいなかったことになってる。わたしも何故か名前を思い出せないんだ。あんなに呼んで、肩を並べて戦ったはずなのに必死に思い出そうとしても靄がかかって思い出せないんだ。私は、彼女へのお礼を後回しにして、最後の最後まで直接伝えられなかったよ】
【一瞬、刀が見えた先生が、この文章を読めることを心の底から願ってる。私をPMCに引き抜いた黒服って呼んでる不気味な奴も彼女をさがしているんだ】
【彼女今は、学園の校舎の最上階、突き当りの部屋で、今も寝ているんだ。この文章が伝わるかは分からない。我儘で悪いんだけど、この手紙が伝わって、もし信じてくれるなら彼女のこともお願い】
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あらゆる場所で火柱が登り続け、無限に広がる、荒れ果てた荒野は地獄と呼んでも相違ない空間なのでしょう。実際にはそんなに熱くないのが唯一の救いです。
「さて、どうしたものでしょうか」
地獄の世界の中……私は一人考え続けています。今の私が生きてるのか、死んでるのかと言われれば間違いなく死んでいます。
残念ながら、あの世界での私の意識は、刀の使用に伴い間違いなく消滅しています。
やっぱりあの刀、厄介物でしかなかったですね。
まぁ、その刀の中が、今の私……魂の一部、残留思念が残っているこの空間なのですが……
世界を歪ませる力を持った刀の中には、もう一つ世界がありましたとさ………まぁ中は地獄ですが。
そして、今も刀はキヴォトスが存在している世界にあり続けている。
簡単な例え話ですが、青色の水がグラスいっぱいに入っているとします。これがキヴォトスの世界です。
そこに赤色の水滴つまり、この刀の内部世界です。これを一滴垂らすと、普通は赤い水滴は青色の水に溶け、埋もれ、混ざり見えなくなります。
しかし、何故か、混ぜようが、振ろうが、外からしっかりと一滴の赤色が混ざらず、溶けずに見えているのが今の状況ですかね。
仮に、刀の世界が完全に押し潰されたら、私の存在を彼女が覚えているというイレギュラーも発生せず、刀も消滅しているでしょう。
それが、かつて暁のホルスと呼ばれた彼女が内包する神秘量が原因なのかは正直分かりません。
今も、私の周りには、無数の水滴が浮かんでおり、そこには、外の世界での出来事を見せてくれまています。
今、外ではまるで映画を見てるかのように、事態が動き、場面が目まぐるしくうつり変わって行きます。
私の古巣…アビドス高校の生徒達と、彼女らに守られながら指揮を取る大人の姿。なんか、この大人の人不思議な力を使ってますよね。
眠り続ける私の身体のところにも来ましたし……何も話さず、ただ深夜の学校の一室で、いつも彼女が使っていた椅子に数分座っていただけですが…
ですが、彼が私のものだった身体に近づいたことで、私はこうやって意識を持つに至ったのです。だから私が知りえていることは、死ぬ以前の知識と、彼が、部屋を訪れた時以降のみです。
多少の年月が過ぎたのに身長が一切変わっていないゲヘナ学園のヒナさん…どうやら今の役職は風紀委員長になってるらしいです。
おや、彼女は私に、アウトローについて尋ねてきた子ではありませんか。彼女は自分の理想に近づけているのでしょうか。
大量の空爆、カイザーコーポレーションのPMCをなぎ倒す光景も見えますね。
騙されて幽閉された彼女を助けるために各々が必死の表情で戦っています。
「………………」
いやぁ、困りますよね。今の私は……記憶の断片、キヴォトスの世界で本来の私が経験してきたことは知っていますが、それが自分の記憶だと認識出来ず、何処か他人事のように感じるのです。
明かりもない暗い部屋で、後ろ手で縛られうつ向く彼女。彼女はまた騙され、全てを無くし、幽閉されています。
彼女に関する知識はもちろんあります。記憶の残滓はあるので分かります。
以前の私が彼女をどんなふうに思い憧れていたのか……ですが、悲しいことに、他人事に感じてしまうのです。記憶はあってもそこに感情がないと、こうも灰色に見えてしまうのですね。
俯く彼女の表情は伺えません。
彼女の不幸を知っていますが、知っているだけ……。
彼女が黒服と呼び警戒していた人物に騙され、以前の私が守り、彼女に託した全ての土地の利権も奪われ、そして、全てを救うのをあきらめ手の届く範囲のみ守ろうとした……それさえも、今奪われようとしている。
彼女に対する感情はありません………それでも、心の奥底で何かが叫ぶのです。
今この光景を目にして…彼女から零れ落ちる涙を見て…本当の私が命を賭けて……自身の存在を消滅させてでも守ろうした本物の私の叫びが。
今の私は本物の搾りかすのはずなのに、今も心の奥底から何かが込み上げ続けているのです。
アビドス対策委員会と呼ばれる彼女たちの快進撃は様々な助太刀があって、確実にホシノの元に迫っていました。
しかし今、突如現れた大きな蛇のような化け物に遭遇し、苦戦を強いられています。
彼女たちであればいずれは、撃退することができるでしょう……ですがそれでは間に合わない。
はぁ……せっかくこうして意識がある状態になれたのに……運命とは残酷なものです。つくづく私は傍観者に向いていません。
【どこにいく】
立ち上がった私に背後から声がかかります。今まで一人だったこの世界。声を掛けてくる者など今も昔もただ一人。
「無論…相棒が泣いているんです。」
【そなたは、焼失した彼女ではないだろう。今ある命を自ら捨てるのか】
「私は本来の貴方の使い手とは、程遠い存在なのでしょう。ですから、使用に伴いその代償を支払った。今の私も焼失した彼女から生まれた偶然の産物……そう長くはないでしょう」
【そうか、分かっているなら止めはせぬ。だが、お主がどう藻掻いても彼女を助けることは出来ぬぞ。お主はこの世界から出ることは叶わないからの】
なんですかこの爺。夢の中で生前の私を死ぬほど鍛えてたくせに、今更現れて、無理だ無理だと……なんか腹立ってきました。
私が振り返ると、そこには一人の老人が佇んでいます。顔は陰で暗くなっており、表情は伺えませんが、以前いじめられていた時と同じ姿です。なんかむかついてきました。
売って来たのはそちらです。その口喧嘩買ってあげましょう。
「……既に刀の中にある魂の摩耗も激しく、限界が近いのでしょう?誰にも気が付かれず朽ちていくのがお好みですか?」
「それは、それで大いに結構…ですが一つだけ……」
【……】
「摩耗して朽ちかけた魂と、新鮮だけど欠けた魂のかけら…合わせてミキサーすれば一個分ぐらいにはなるでしよ?」
「私に付きまとって、終いには青春を謳歌することも出来ずに、乙女の命を燃やした責任…とってくださいよ」
長い沈黙の末、老人は口を開きます。
【……よかろう、私の力…すべてお主にくれてやろう。お主の隻腕もそれで補われる。しかし、お主が記憶を継承することはおそらくできぬ。お主が今覚えてる記憶の残滓すら残らないだろう】
【おぬしは、刀…刀はお主だ。暴力的なこの力……使い方を見誤るなよ】
老人は元々そうするつもりだったのでしょうか、それとも、私の願いに答えてくれたのか……真実は分かりません。
彼は、そう最後に伝え、忽然と姿を消しました。
地獄の業火は消えていき、火が陰っていきます。もうここに留まる必要はありません。
間違いなく、起きた私は、全てのことを忘れている。そんな確信があります。
それでも……例え、目覚める私が、私で無くなっていたとしても、この気持ち…思いだけは無くさない。
行かなくちゃ……あの、一度も涙を見せなかった……無駄に強がりなホシノが泣いているんです。
これが本当に最後の手段…残り滓の私の残滓も消え、刀の主も消失する。
だから頼みましたよ。目覚めた私……貴方に私のすべてを託します。
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先生の要請を受け、ゲヘナ、トリニティ等のあらゆる学園の生徒が力を貸し、大きな蛇のような怪物をも退け、捕らえられたホシノの元へと進むシロコ達を後押ししてくれた。
ホシノがいる場所はもう、目と鼻の先……しかし、シロコ達の敵は、無数の傭兵、視認出来る敵数を上回っている。
無数の弾幕により、一歩も前に進めない状況が続いていた。
もう少し、あと一手が足りない…
誰もが諦めない覚悟を持ってはいる。しかし事態は好転せず、時間だけが過ぎていく。
最初に気がついたのは、シロコと敵対する敵兵の一般兵だった。
砂漠化しているこの戦場…最後尾で指揮をとる先生の後ろから歩いてくる人影を見つけたのだった。
戦場に向けて歩いてくる赤髪の少女。生徒等は敵側の応援かと警戒した、誰もが彼女の違和感に気がつき彼女を注視した瞬間、目視した全員が銃弾を放つのを停止した。
砂の地面をしっかりとした足取りで歩く彼女は、戦闘に必要な銃火器を持っておらず、その手に握るは、一振りの刀のみ。 しかし、ここにいる対策委員会の全員、そして兵士全員は、燃えるような赤髪の少女の背後に悪魔としか形容出来ない巨人の姿を幻視した。
次に感じたのは、明らかな気温の上昇。砂漠で銃撃戦を繰り広げているため、暑いのは間違いない。しかし、先程までこんなに汗をかいていただろうか、砂漠の砂が融解しているかのよう蒸気が登っていただろうか。
「君は……」
「邪魔…行きなよ。ここは私一人で十分。あんた達はやることがあるんでしょ」
自分が何者かも分からない。頭を抱えてうずくまりたくなる頭痛に悩まされ、露骨な不機嫌さを見せる目覚めたばかり彼女の第一声は、呪い殺さんばかりのぶっきらぼうな言葉だった。