勇者史:終わりと始まりを繋ぐ勇者   作:S1nO

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今回ちょっと短めです。微注意を、とだけ


幼気

 いつしか希望を持つのはやめた

 

 それは一時の気の迷い

 

 逃げ場のないこの現状から目を背けるための

 

 後にも先にも残っているのは呪いと宿命

 

 その間にある一瞬にも満たない今に絶望が付き纏う

 

 民を救えるのが神だと言うのなら神はとうの昔に死んだ

 

 現状維持で崇められる程度の信仰宗教などハリボテだ

 

 だから⬛︎⬛︎は⬛︎⬛︎なんて信じない

 

 

 

 

 

「せつなん早くー!」

 

「何で俺まで……」

 

「雪奈君。私たちは勇者なのよ。常日頃から緊張感を持たなきゃいけない。だから雪奈君は私たちに付き合わなければいけないのよ!」

 

「何だそれ……」

 

「わかるぞ雪奈。アタシも弟たちの世話をしてるからその気持ちがよくわかる」

 

「ならどうにかしてくれよ銀」

 

「こういう時は好きなだけそうさせるのが1番なんだよ」

 

「それが1番嫌なんだけど……」

 

 

 

 

 

神世紀298年

小学生の勇者4人は恐怖をもみ消すかのように日常を送っている。初めての御役目。邂逅した脅威バーテックス。絶えない生傷。死と隣り合わせの恐怖。

受け入れたくなかった。

 

特訓もした

 

仲も深めた

 

協力した

 

学習もした

 

なのに…胸騒ぎは治らなかった。

「やれば出来る子」じゃなかった

「なんでも出来る子」じゃなかった

「誰かのためにできる子」じゃなかった

何かの間違いだったんだ。

真実に、虚構に、深淵に

気づかなければよかったんだ。

逃げ出せるなら逃げ出したかった。

何もかも忘れて

自分の存在も名前も。

そうすれば何にも関係ない。

戦うことも、見捨てることも

正しいや間違いすら到達しない

 

 

 

でも今はその虚はない。縛り付けられている。いいや、すでに決まっていた。こうなる事も。こうする事も。

いつだって敷かれたレールの上を歩き続けている。別れ道のように見える一本線。途中で再生成されることはない

死というゴールは決まっていなかった。だがそれすら決められてしまった。

脱線しないように、他からの影響を受けないように。壁ができた。

 

 

おめでとう

 

もう逃げられない

 

これからの未来

 

背負うべきなんだ

 

未来?

 

希望?

 

そんな御伽話じゃない

 

理解してしまったんだ

 

全員が

 

課せられ

 

縛られ

 

向き合わされる

 

呪いに

 

 

 

 

     神世紀298年 ⬛︎月⬛︎⬛︎日   ⬛︎⬛︎ 雪奈

 

 

 

 

     資料名  ⬛︎⬛︎ 雪奈  の日記 298/⬛︎/⬛︎⬛︎

 

 

 

 

 

「待ってせつなん!1人で行っちゃダメ!」

 

「静かにしてろ園子……銀とすみすけのこと見とけ」

 

「せつなん!!」

 

すみすけと銀はダウン。園子は多少動けるけどもう無理に近い。体力がまだ残ってる俺しか動けない。つっても相手は3体。ほぼノーダメージ。持久戦には持ち込めねぇ。それだけで死ぬ。過労死しちまうかもな。なるべく真っ直ぐ一直線に刈る!

 

「3対1とか…卑怯だろうが!」

 

蠍のやつが1番やばそう。奥でチャージしてるやつもやばそうだけど身近な危険が最優先。尻尾の一本切り落とさなきゃマズイ

 

「ぐはっ…!」

 

刺さってくる矢の雨がキツすぎる。奥にいるアイツか。チャージは危険すぎる……。でもどうやったって届かねえ。捨て身の特攻。それしか残ってねぇ!

気合いでどうにかする!

必ず勝つ!

 

「見てろよお前ら……ピンチの時はっ!気合いで!」

 

かはっ!…っつ!

痛え。でも止まらねえ!

やっぱ蠍もヤベェじゃん。

 

「全力デッ!」

 

ヤバい。痛すぎて身体が揺れる……。でもそんな理由で倒れるわけにはいかねぇよ……。後ろにいるアイツらに不甲斐ない格好見せたくねぇし。

 

「なんとかするんだよー!!!!」

 

 

 

なん……だよ…。こんなにやってこれだけかよ……なっさけねぇ。

向こうは元気ピンピンじゃねぇかよ……

俺の攻撃なんか痛くも痒くもねぇっことか?

キモすぎるだろ

俺の全力じゃ掠り傷程度しかつけれないのか……。

もうギアは上がんない……。最終手段か。

 

「オーバーヒートさせる!……落花、機動!」

 

最後の砦だ。この力しかもうない。俺の命を。全てを犠牲に。アイツらにぶち込む!

 

「はぁぁ……はぁっ!!」

 

打突!打突!打突!殴るしかない。俺の体が崩壊しきる前に!ヤツらを崩壊させる!

 

「ウンッ!オラッ!」

 

もっと!もっと!まとめて。全部!壊す。跡形もなく!

 

「ッツ!そんなんじゃ止まらねえぇぇぇぇええ!!」

 

痛みは一瞬だけだ。今なら体の心配はいらない。殴る拳を止めなければいい!

 

「ブッ壊れろぉぉぉぉおおお!!」

 

これで終わらせる!

 

「うぉりぃャアァァァァァ!!!」

 

……これで……全部、壊した。もう無理だ。

 

「俺1人の命と女の子3人……。お釣りにしては多すぎるくらいだろ……」

 

           

 

 

 

 

「雪奈君!」「雪奈!」「せつなん!」

 

満身創痍の3人の少女は駆け寄る。怪物を倒した功績者に。自分たちを助けてくれた救世主に。

満足に動かない体。深く刻まれた傷。ボロボロになりながら樹海の地を踏みしめるかのように進んでいく。いつもならすぐ届くのに。傷がなければ真っ先にに駆け寄れるのに。その一歩一歩が求めるかのように近づいていく。

もう目の前には自分たちより少しだけ背の高い少年がいる。

不愛想で面倒くさがりな。

人思いで芯の通った。

自分たちの仲間が。

 

「雪奈君!!」「雪奈!!」「せつなん!!」

 

魂の叫びが響き渡った。

 

 

体に突き刺さった矢の束。塞がっている傷口。

表面上にダメージはなかった。

木枯雪奈は這っている木の根の上で立ったまま笑っていた。

笑いながらそれでも彼の指先は動かなかった。

 

 

 その日。

 木枯雪奈は『死んだ』。

 

 

 

 

 

 7月12日。木枯雪奈は死を称えられた。勇者として、お役目で死ねるのは名誉だと。その功績をたたえるその告別式が行われた。

神樹館小学校5年生生徒。少年少女にはあまりにも重すぎるものだった。友人が、仲間が死んだ。目を背けられない事実が視界を、脳を支配している。怖くて、恐ろしくて叫ぶことすらできないのかもしれない。それを誰よりも理解しているのは鷲尾須美、三ノ輪銀、乃木園子。仲間として、人々を守るものとして、自身の無力さを痛いほど感じた。

『彼なら』という信頼

『彼に』という不足

『彼さえ』という不安

少女たちは何度目かの再認識をする。『私は弱い』と。だから彼を失った。だから彼を助けられなかった。だから彼を行かせてしまった。

 

「…ッ!――ハッ!ハァハァッ!」

 

須美の喉が閉まる。呼吸が難しい。食道から嫌な酸を感じる。目を開く力が強くなる。受け入れられない事象に身体が抵抗し、認識を拒む。

 

「須美!」「わっしー!」

 

薄暗く冷めきった廊下に吐き出された。無色透明な純粋な胃液。水鏡となったそれは須美の顔をはっきりと映し出した。酷く歪んだ顔が須美の瞳に映った。自分のものだとは思えないほどにパーツが歪んでいた。今にも泣きだしそうな顔に嫌気はささなかった。吐き出した須美もそれを支える銀も園子も手足が震えていた。

 駆け付けた安芸先生によって処理された須美のモノ。3人は安芸先生に支えてもらいながら雪奈のいるホールへと向かっていった。

 彼の顔は美しかった。眠っているだけかのようだった。傷はなく「目を覚ますのではないか」という期待を持たせてしまいそうだ。

棺いっぱいに詰められた桃色の菊の花。それに囲まれた雪奈は甘い夢を見ているのかもしれない。死人が夢を見るわけないかもしれないが、その思いを込めているのかもしれない。

改めて彼の顔を覗き込む3人。後悔しきれないほどの思いが胸を締め付ける。今はそんな詩情を抑えて儀式を、形なりの別れを告げなければならない。

 献花

 故人に花を捧げる。

 それは別れの挨拶だ

ここで花をささげてしまえば本当に離れてしまう気がした。織姫と彦星のように、ロミオとジュリエットのように会うことはないんだと感じた。抵抗感が須美の手を震わせた。いつまでもその事実を逃れようとする。自分の弱さだと自覚している。成長のカギだと知っている。今だけは、この瞬間だけはそうさせてほしい。

それが認められるわけもなく。安芸先生に手を重ねてもらいなんとか捧げた。本当の別れを告げたような気がする。さよならすら言えない。もうここにもいない。私も――――――

 

「うわあああ'’!!」

 

静寂が壊された。会場はその音源に釘付けになる

 

「神様なんだったならなんで守ってくれなかったんだよ!

 雪奈兄ちゃんはずっと頑張ってただろ!?

 何で兄ちゃんなんだよ!!」

 

銀の弟、三ノ輪鉄男。目に涙を浮かべ叫んだ。親に掴まれながら、制止されても。雪奈の死を嘆いた。銀とは違う本当の兄弟のように思っていた。男ならではの話や遊び、ニカッと音の出そうなほど大きな笑顔。脳裏に焼き付いた思い出が鉄男をそうさせた。

 

「兄ちゃん…を連れてかないでくれよ!!

 こんなの神様なんかじゃないよ…!」

 

魂の叫びだった。掛け替えのない人を失った悲しみは少年を怒らせた。

 

 

 

「こんな時に敵が…!?わっしー!ミノさん!」

 

「ああああああああ!!」

 

再び訪れて静寂は人為的なものではなかった。敵の襲来によるものだった

 

 

 

 

 

 闘いは酷い物だった。鷲尾須美は怒り狂い、目に映るものすべてを破壊せんとする勢い。三ノ輪銀は嘆き悲しみ、それを忘れようとするかのように振るった。乃木園子は覚悟を決め、彼の遺志を継いで槍を突き刺す。

平和などどうでもいい。自分の魂の望むままに戦った。噛み合ったことが奇跡のように。三者三様と言えば聞こえがいいかもしれない。本質はそんな言葉でまとめられるほど整っていない。

残ったのは達成感ではなく虚無だった。空っぽになった。何も感じない。彼の存在だけが3人の魂に刻まれていた。

 

 

 

 

 

「あなた達三人はまさしく勇者だわ」

 

「先生……一番偉いのはね…せつなんなんだよ

 たった一人で三体も追い返したんだよ…だから…っ……せつなんのこと…忘れないであげて…

 強かったから…凄かったから…!私たち…三人じゃなくって

 四人…っ、勇者なんだから…っ」

 

車中3人の少女の泣き声が響く。彼を忘れない思いが彼女らを強くさせる。自分たちは四人で勇者。生涯忘れることのない心からの本気の誓い。

 

「ごめんね、訂正する。四人とも…立派な勇者よ…」

 

 

 

 

 

 その日、木枯雪奈の親は告別式に来なかったらしい。理由は「死んだからって理由で息子に会いに行けるわけがない。私たちは息子をずっと一人にしてきたんだ。合わせる顔がない。息子も嫌がってるだろうから……」ということらしい。




カット多いと思いますが、過去編において大事な部分は戦闘ではないのです。一部を除いて。
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