モブ術師は世界を救う   作:八島港

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第二話 錬力術

 転生から一週間が経過した。

 そこで三つ知ったことがある。

 

 一つ、ここは『霊滅のリオ』の世界だということ。

 二つ、俺はやはりモブキャラの『神堂院マナブ』だということ。

 

 三つ、鬼餓は予想通りのネグレクトクソ親父だということだ。

 

「俺が三つの頃には既に霊術で火を起こせたものだが……俺の息子がこんな愚図とはな」

 

 庭先で日を浴びて思考を巡らせていた俺へと、鬼餓がそう零した。

 

 マナブは神堂院家の跡取りでありながら、生まれついての霊力が低い。

 加えてどうやらこれまで霊術についても関心を示さず、学問や鍛錬も嫌がっていたようだ。

 

 俺は自身へ冷たい目を向ける鬼餓へと、両手の指を向けた。

 

「解釈一致!」

 

「な……なんだ、お前は!」

 

 鬼餓がビクッと、身体を震わせる。

 

 使えない息子に暴言を浴びせる。

 いい、それでこそ鬼餓だ。

 マナブの卑屈な性格にも納得がいくというもの。

 俺は鬼餓らしい台詞に感動さえ覚えていた。

 

「チッ、気色の悪いガキだ」

 

 足早に鬼餓が去っていく。

 その小物臭い動作にも俺は興奮していた。

 

 とはいえ、俺の目標は『霊滅のリオ』に降りかかる全ての不条理を、俺の力で跳ね返すこと。

 鬼餓は小物とはいえ名家の当主。

 奴から教わることも多いはずだ。

 

 最終的には人間界を裏切るはずなので切り捨てるとしても、まずは気に入られてあれこれと教えられておいた方がいい。

 原作のマナブは霊滅師の名家とは思えない程に弱かったが、その一端はマナブの怠惰にあることがわかった。

 霊力もどうやら多くはないようだが、こちらは補うことができる。

 

 霊力とは万物に宿る根源的な力。

 まずは霊力をどう上手く操るのかの修行だ。

 これができなければ話にならない。

 霊力の練り方一つでも数百の派閥が分かれ、これは錬力術と呼ばれている。

 錬力術によって霊力を練るだけでなく、本人の霊力の強さそのものを引き上げることもできる。

 

 そして錬力術によって霊力を鍛える修行は、十歳未満も子供の間が最も効果が出るとされている。

 

 まずは主人公リオの錬力術を試すことにした。

 リオの錬力術は〈丸法霊錬〉と呼ばれるもので、これは自身の強い感情を意識し、体内で大きな塊として認識して操る手法だ。

 爆発力はあるが、応用に欠けると評されている。

 

 主人公の手法が故に最も描写が濃く、イメージを具体的に掴みやすい。

 

 俺は手のひらを上にし、身体に流れる霊力を意識する。

 この世界に来られた喜びの激情を、自身の霊力と同調させる。

 

 霊力を練り上げ、そして火として手のひらから放出するイメージ。

 

「『霊滅のリオ』、最高オオオオオオオオオオッ!」

 

 シュウ……という音と共に、手のひらから黒い煙が出る。

 本当に身体に力が漲り、手から何かが出そうな感覚があった。

 

 本当にここは『霊滅のリオ』の世界らしいと俺は再認識し、自然と笑みが零れた。

 俺は本当にこの世界で……『神堂院マナブ』として、作中世界最強の存在へと至ることができるかもしれない。

 

 俺は寝食を行わず、〈丸法霊錬〉を続けた。

 やっていて本当に楽しかったのだ。

 途中で家政婦や母が止めに来たが、押し切って修行を続けた。

 

 父親である鬼餓の「愚図は放っておけ」という言葉で、放置されることになった。

 ありがとうクソ親父。

 指を立ててグッドサインを向けると、相変わらず鬼餓は動揺した素振りであった。

 

 

 ――そうして丸一日が経過した頃。

 

「『霊滅のリオ』、最高オオオオオオオオオオッ!」

 

 ゴウッと俺の手のひらから炎が上がる。

 

 いける、この調子ならば俺はどんどん強くなれる。

 自身の手から出た炎を目に、俺は自然に笑みが零れるのを感じていた。

 

 それからは食事にも参加し、睡眠もしっかりと摂るようにした。

 霊力の行使には体力を消耗する。

 多く食べ、多く寝ることが大切だ。

 俺は毎日庭先で『霊滅のリオ』への賛美の咆哮と共に霊力を行使する。

 

 どうにも最近屋敷の穴かで『当主様が厳しすぎるばかりに跡取りが奇声を発するようになった』と噂されているようで、屋敷内で避けられつつあるようだが、そんなことは関係ない。

 

 一週間が経ち、〈丸法霊錬〉が馴染んでからは炎以外も出すように鍛錬を変更した。

 霊力には六つの属性がある。

 

 火、水、地、風、光、闇。

 それぞれを十全に出せるようになるまでに一ヵ月が掛かった。

 

 それからは〈丸法霊錬〉以外の錬霊術へと切り替えることにした。

 〈丸法霊錬〉はあくまで最も習得が容易いと判断したまでである。

 

 最強格と噂される錬霊術、〈六竜錬〉の鍛錬へと移る。

 作中において、不老不死の伝説の霊滅師が編み出した錬霊術である。

 

 六属性の霊力を身体の中で循環させ、それらを束ねて操る……といったものである。

 素早く複数の霊術を行使できる他、純粋に霊力操作の精度が上がり、霊力の出力自体も大きく向上するため、修行としても一級品である。

 

 身体の中に霊力を流した後に、それらを逆向きへ押し戻す意識を持つ。

 そうして複数の霊力の流れを作った後に、体内でそれぞれに属性を付与していく。

 この順番を誤ると体内で霊力の暴発が起きて、大怪我を負うことになる。

 だが、『霊滅のリオ』オタクの俺はそんな単純なミスは犯さない。

 

 水の霊力の中に火の霊力を通し、風の霊力の中に土の霊力を通し、光の霊力の中に闇の霊力を通す。

 この順番である。

 

 好きこそものの上手なれ。

 俺は『霊滅のリオ』の異能を手にできた興奮が冷めぬまま、寝食以外の全てをこの修行に注ぎ込んだ。

 いや、寝食もこの修行のための準備のようなものなので、時間の全てを費やしたと言っても過言ではない。

 

 

 ――そして、転生から一ヶ月後。

 俺は最強の霊錬術である〈六竜錬〉を身に着け、六属性の霊力を自在に扱えるようになっていた。

 

 

「小間使いが、お前が霊力を操るのを見たと口にしていた。多少は鍛錬を積んだようだな。だが、独学の見様見真似など、悪しき癖がつくばかりだ。余計なことを」

 

 そして俺は父の鬼餓から説教を受けていた。

 

 途中任務で館を外していたとはいえ、今日まで気付かなかったのはあまりにも無関心が過ぎる。

 いや、奇声の件で避けられていたこともあるだろうが。

 

 そんな中、つい俺は悪戯心が首を擡げた。

 

「父上、どうか私の霊力をご覧いただけませんか?」

 

「お前の霊力など見ても……」

 

「はああっ!」

 

 俺は全身から六属性の霊力を放出し、身体の周りで循環させる。

 豪風が巻き起こり、鬼餓が思わず手で顔を覆った。

 

「あ……有り得ん……複数属性を……? いや、それは伝説の〈六竜錬〉……どこでそれを身に着けた!」

 

 鬼餓は今まで見たこともない表情で狼狽えていた。

 

「父上の様子から見よう見真似で霊力を練って見たのですが……」

 

「そんなはずは、有り得ん……いや、しかし、実際に……」

 

 鬼餓は頭を押さえて混乱しているようだった。

 顔を青くして、俺へと物の怪でも見るような目を向けて、ブツブツと小声で何かを漏らしている。

 ちょっと楽しくなってきたな?

 

「フフ……フフフ……直感だけで、伝説の錬力術に近しいものを発現させるとは。ただの愚図かと思っていたが、どうやらお前には才能があったようだ」

 

 鬼餓は俺の様子に脅えはしていたようだったが、それ以上に利用価値を感じたようで、仄暗い笑みを浮かべていた。

 伝説の錬力術に近しいじゃなくて、それそのものなんだが……。

 

「マナブ……お前ならば、俺の悲願を果たせるかもしれん」

 

 鬼餓の悲願、それは神堂院家がかつての栄華を取り戻し、鬼餓自身が世界を支配することである。

 無論、そんな真似を許すつもりはないが……。

 

「修行をつけていただけるんですか父上!」

 

 鬼餓は重要人物で、利用し甲斐がある。

 たっぷり修行を付けてもらうとしよう。

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