絶園の商人   作:ポーシャ

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第九幕 少女のパラドックス

 過去に跳んだ葉風は、海を越えて国を越えて、そうして日本に辿り着く。

 事前に聞いた不破家の住所。それを辿って。

 

 そして、出会う。

 街中。11月23日の、少しばかり肌寒い日に、少女の姿があった。

 

 ジェシカ。否、翔花だ。

 

「……お姉さん」

「う、ぁ、……な、なんだ」

 

 まさかあちらから話しかけてくるとは思っていなかったから、少し戸惑って。

 葉風が戸惑っている内に、翔花は声を発する。

 

「ちょっとカラオケ行こう」

 

 一瞬、白む。

 言っている意味がわからなかったからだ。

 

「本当に一瞬だから。一瞬、会話をするだけだから」

「お前は何を」

 

 言っているんだ、と続けようとして。

 翔花の後ろに、もう一人見覚えのある少女を見た。

 

「こら、翔花。初対面の人をカラオケに誘うなんて、何を考えているの?」

 

 不破愛花。

 ──おかしい。

 この時点で葉風と愛花が出会っているのなら、愛花が葉風を知らないはずがない。まさかもうタイムパラドックスを引き起こしてしまったのか。

 否、ならば葉風の記憶にもなんらかの変化が生まれているはず。ではなぜ、どうして。

 

 そうぐるぐると葉風が考えている内に、姉妹の会話はどんどん進む。

 

「今すぐ帰って、姉さん。そして何も考えずに寝て」

「はい?」

「この人は危険だから、早く帰って」

「き、危険!? オイ私は別に何も!」

 

 指を差されて、思わず言い返してしまう。

 危険度で言えば明らかに翔花の方が上なのだから。

 

「はいはい、人を指差さないの。それに、危険って。今貴女がカラオケに連れ込もうとしていた人なのに?」

 

 ぎょろり、と。

 愛花の方を向いていた翔花が、葉風を見る。

 愛花を少しばかり幼くした顔。ジェシカとして振る舞っている時よりも──遥かにピリピリとした雰囲気を纏う少女。そう、絶園の魔法使いになる前の方が、その身に殺意に近しいものを纏っている。

 

「聞かせて欲しい」

 

 そんな少女が問うのだ。

 葉風に。

 

「なにを──」

「そっちに、私はいる?」

 

 その驚愕は、恐らく透けてしまったことだろう。

 未来視持ち。魔法に頼らぬ未来視を持つ少女が、何を見たのか。何を問うたのか。

 

 けれど、そんな葉風を見て翔花は興味を失った、とばかりに振り返った。

 振り返り、愛花の手を引く。

 

「姉さん、帰ろう。一緒に」

「それはいいけれど、まずこの人に謝ってから」

「……勘違いで迷惑をかけた。謝る」

 

 おかしい。おかしいおかしいおかしい。

 この時点で愛花は絶園の魔法使いであるはずだ。だから、葉風の気配に気づかないはずがない。このすぐ後に翔花は絶園の魔法使いになっている。愛花の力を奪っている。なれば、葉風のことを愛花が忘れているはずがない。

 

 ──だから、葉風はある仕込みをする。

 それは仮にも彼女が一族きっての魔法使いであり、高度な魔法を使い得る存在だったから、といえるだろう。その可能性に思い至れたことが、何よりもの証拠。

 

 姉の手を引いて去っていく翔花。

 その後をこっそりつける。屋根を伝い、気付かれないよう細心の注意を払いながら。

 

 して、葉風はそこを知る。

 屋根の上からではあったが、今愛花と翔花のいる場所。そここそがはじめ、翔花が誘拐された場所である、と出た場所だ。

 

 そこで。

 そこで、姉妹は対峙していた。

 

 愛花はその手に絶園の力を迸らせ、反対に翔花はその歳にして驚異的な身体能力でその魔法を避ける。

 

 さらに事態は急変していく。

 

 何事かを話していた二人だったけれど、突然翔花が大声をあげたのだ。

 

「絶園の樹! 当主交代だ──今、幸福を享受し続けている姉さんにその役割は相応しくない!」

 

 移った。

 それがわかる。奪ったのではない。移ったのだ。

 

「試練は私が受ける! 私が担う! これは鎖部葉風(はじまりの姫宮)に告げられたことではない! ゆえに時間的矛盾(タイムパラドックス)は起きない! ──私が、他の何(自身の全て)を犠牲にしてでも対価を払う!」

 

 赤が、その手に移る。

 奪うのなら止めればいいと思っていた。何かアクシデントがあってのことなら助ければいいと思っていた。

 

 違うのだ。

 宣言に対し、絶園の樹が、はじまりの樹が、翔花を絶園の魔法使いに選んだのだと──わかる。

 

「寄越せ!」

 

 だから、飛び出した時にはもう遅かった。無理だとわかってしまった。

 何故なら自らこそがはじまりの樹の恩恵を最大限に受ける者。この選別は葉風に止められるものではない。

 

「待て、不破翔花! ──樹の中の樹、大樹の中の大樹、はじまりの樹よ! 我が意、聞き届ける意思があるのなら!」

「そういう未来なら、喜んで受け入れる。じゃあね、姉さん。今まで楽しかった」

「彼の者の力を封じよ!」

 

 果たして──その願いは、聞き届けられない。

 はじまりの樹は、ここにきて初めて葉風の言葉を聞き入れなかった。

 まるでそれよりも大事なことがある、と言わんばかりに。

 

「……そん、な」

 

 どさ、と不破愛花が倒れる。気を失っているらしい。

 そして──翔花が葉風に近づいてくる。

 

「はじまりの姫宮。これは初めましてになるのか。それとも、未来では顔見知りなのか」

「不破、翔花……何故だ。何故そうまでして」

「おやすみなさい。良い夢を。こんな悪夢は、忘れ去って」

 

 そうして、そして。

 

 

 

「……お帰りなさい、姫様」

「さ……もん?」

「はい、私ですよ」

「……待て。記憶の混濁が激しい。私は確か、過去に跳んで不破翔花が絶園の魔法使いとなるのを止めに行った。ここまではあっているか?」

「はい」

「……ダメだ。不破姉妹に会ったことまでは覚えている。だが、その後が……いや、いや、いや」

 

 必死に思い出す。

 あやふやな、まるで断ち切られているかのような記憶の最後を。

 辛うじて、何か操られるように現代へ帰ってきたことは覚えている……が、経緯がてんで不明。

 

「ご安心ください、姫様」

 

 そう、だから。

 おかしい、と思った時点で、葉風は仕込みをしていたのだ。

 

「一部始終──その全て、聞こえておりました」

 

 時間をも超える通信の魔具。それを起動していた。たったそれだけの仕込みを。

 

 

 *

 

 

 はじまりの樹対策本部。

 高層マンションの一室に、ジェシカを除く関係者全員がいた。

 

「案外早かったな、葉風」

「おかえりなさい、葉風さん」

「ご無事で何よりです、姫様」

 

 皆が口々に葉風の帰還を喜ぶ一方で、苦笑気味の二人――吉野と愛花。そしてどこか挑戦的な真広。

 

 彼ら彼女らを前にして、葉風は自信満々、威風堂々と言葉を発する。

 

「結論から言う。言わないでもわかるだろうが、翔花を絶園の魔法使いにさせない、ということはできなかった」

「だろーな。今もアイツは戦い続けてる。それで? だってのに落ち込んでねぇお前は、なんか見つけてきたんだろ?」

「ああ。まず、翔花がどのようにして愛花から絶園の魔法を奪ったか。これは単純だった。絶園の樹、及びはじまりの樹が愛花ではなく翔花を当主に選んだ。翔花が何らかの術を用いて愛花の力を奪い去ったのではなく、はじまりの樹が彼女を選んだのだ。その証拠に、その一瞬だけはあの二人に対して魔法が発動しなかった」

「とうとうはじまりの樹にも見捨てられたってか」

「うるさいぞ真広。茶々を入れるな。大事な話をするのだ」

 

 愛花と葉風の記憶は絶縁されている。

 だが、あの時翔花は気づかなかったのだ。未来と繋がった魔具の存在に。知っていたかもしれないけれど、そこまで手を回す余裕が無かった、というべきか。

 そしてそれらを全て聞いた左門は、すぐさま何が起きたのかの解析に取り掛かった。

 元々翔花と絶園の力を分離させる術を探していた左門や鉄馬らだ。すぐに、とはいかなかったが──可能性の一つには思い至れた。

 

「あの時翔花は、絶園の樹、及びはじまりの樹に対して"幸せを享受し続けている愛花は当主に相応しくない"と宣言し、"自らが全てを支払う"という代償契約のもと当主交代を為した。つまり」

「同じことが、翔花に対しても可能……ということですか」

 

 それは少しばかり食い気味に出た答え。

 零したのは愛花。愛花と吉野は、葉風が答えを持ってこれるとは思っていなかったから、だからこそ予想外だった。

 だって。

 だって。

 

「合理に適ってる。しかも現実的じゃねーか、それは」

 

 そう、真広の言う通りだ。

 未来視に類する何か特別な技法を以て翔花が愛花から力を奪ったというのなら難しかった。

 だけど、条件を満たし、宣言さえすればよい、というのであれば。

 

「たとえば俺がその力を貰い受けることも、葉風や、あるいは誰でもねぇ一般人が貰い受けることも可能だ、ってことだ」

「そうなるな」

「しかも、本人の意思は関係ない……愛花ちゃんが了承したとか、そういうわけじゃなかったんですよね?」

「そうだ。翔花は一方的に"愛花が絶園の魔法使いに相応しくないことの証明"をし、"自身が対価を払う"という宣言のもと"当主交代"を行った。そこに愛花の意思は介在していなかった」

 

 であれば、「翔花が絶園の魔法使いに相応しくないことを証明し」、「誰かが対価を払う宣言をすれば」、「当主交代が成る」と──。

 

 じゃあ、誰が?

 

「適任は、私でしょう。元々アレは私の力です」

「馬鹿言えよ。それで、翔花を残して消えるってか?」

「そうだよ愛花ちゃん。それじゃ翔花ちゃんとやっていることが同じだ」

「では、何も知らない一般人を犠牲にしますか? 私はそれでも構いませんよ」

 

 対価はわかっている。

 はじまりの樹を消滅させ、同じくして消えること。

 

 それを担う存在。

 

「まぁ待て、ヒートアップするな三人とも。もう犠牲云々の話は散々だ。左門、鉄馬」

「はい。──これを」

 

 これ、と。

 鉄馬が持ってきたのは、どこか見覚えのある樽。

 左門がその蓋を開けば、中からは。

 

「しょ──翔花ちゃん?」

「おいコラてめぇら! 人の妹に何やってくれてやがんだ!」

「落ち着け真広。これは人形だ」

「人形……」

 

 現れたのは、不破翔花そのもの。

 に、見える人形。

 

「覚えているか? 富士山麓での戦いのとき、不破翔花は腹から胸にかけてを串刺しにされた。その後あいつは絶園の力で自らを修復したが、貫かれた肉体組織は回収しなかった。それを」

「我々鎖部一族は総力を決してある魔法を編み出し、肉片に対し培養、成長促進を行った。この人形は不破翔花の魂こそ入っていないものの、骨の長さから頭蓋骨の形、肉や皮の全てに至るまで彼女と同一だ」

「……ってことはなんだ。てめぇら、翔花の裸を見たのか」

「余計なことを気にするな、不破真広。こうして服を着せてある時点で我々のデリカシーを重んじろ」

 

 真広にとっては全く余計な事ではない──けれど、大人しく引き下がる。

 

「それで、具体的にどうするんですか? 翔花ちゃんと寸分違わない人形を作った所で、この人形が翔花ちゃんになれるとは思えないんですけど」

「忘れたのかね少年。時間も距離も超えて、全く同一のものがあれば、鎖部の魔法によって転移が可能となる。肉体も魂も、だ。ゆえに」

「翔花がはじまりの樹を消滅させたその瞬間、彼女にこちらの肉体に移ってもらい、当主交代の宣言をしてもらう。その時点で絶園の魔法使いはこの人形となり、また即座に鎖部の魔法で彼女をもとの肉体に戻す。代償を支払うのはこの人形で、絶園の力もともに消滅する。こうすれば不破翔花は晴れてただの少女に戻ることができる。飛んでいる彼女を誰かが受け止める必要はあるがな」

「……それは」

 

 それは。

 

「ダメです。上手くいきません」

「何故そう言い切れるんだ吉野。これ以上にいい方法はないぞ」

「彼女にその気が無いからです。彼女は消えたくて代価を払おうとしている。だから翔花ちゃんがその魔法を使うことも、当主交代宣言をすることもない」

「消えたがっているだと? それはまた、どうして」

 

 吉野は、愛花へ確認を取るようにアイコンタクトをする。その彼女が頷いたのを見て、語り始める。

 先日二人が至った翔花の行動理念を。

 

 それを聞いて。

 

「……なんだそれは」

「はぁ。黙って聞いていれば。……あの子、そんなことを考えていたのね」

「なんだそれは! それは、おかしい。おかしいぞ! そんなことを考える人間がいてはならん!」

 

 癇癪を起すように叫ぶ葉風。

 事前に聞いていた真広も、手が白むほどに拳を握り締めている。

 

 合理的ではある。

 だけど。

 

 誰もが納得のいかない顔をする中で、早河巧が冷静な判断を下す。

 

「仮にこれしか手法が無かったとして、問題点は二つだな。まず一つ。不破翔花が絶園の魔法使いに相応しくないと、どのようにして証明するか。そして二つ。彼女の意識改革をどのようにして行うか」

「アイツは消えたがってる。ってことは、今の状況はアイツにとって幸せだ。そりゃ相応しくねえ、ってことにはできねぇか?」

「そうして力が人形に移った瞬間、同じことをするだけだろう。不破翔花が消えたいという意思を持っている以上、この話に進展はない」

 

 今の今まで腕を組んで胸を張って、「自信があります!」といった風体だった葉風も、これにはへなへなと崩れ落ちてしまう。

 徒労。そんな言葉が葉風の脳裏に一瞬浮かんで、けれど(かぶり)を振って言葉を消す。

 そんなこと、思ってはいけない。

 

「なんとか……なんとかできないのか、真広、吉野、愛花! お前達で、なんとか翔花を引き留めることは……あいつにまだ生きていたいと思わせることは不可能なのか!?」

「翔花の意思を変える、ね。……吉野、愛花」

「無理かな……翔花ちゃん、一度こうだと決めたらてこでも動かない子だし」

「あなたが絶園の力を手放さなければ私が死にます、とでも言えば、動いてはくれそうですが」

「……愛花。それ、本気で言ってんのか?」

「まさか。以前ならいざ知らず、もうそんなことは考えませんよ」

 

 八方塞がり。

 このことじゃなければ一体何を指し示すのか、という程に、八方塞がりだった。

 

 

 ──その時、左門のケータイが着信音を鳴らす。

 左門は「失礼」と言って、その電話に出た。

 

『鎖部左門。鎖部葉風は帰って来たか』

「っ、ジェシカ!」

 

 通話相手が分かった瞬間、全員の注目が左門に集まる。

 左門はバレないように、慎重にケータイをスピーカーモードにした。

 

「ああ、姫様はお帰りになられた」

『……そうか。なら私は、一度はじまりの樹に対する攻撃を止める』

「なに?」

『取りに行くものがある。よってお前たちが敷いていた各国主力艦隊への干渉も不要だ。ではな』

「ま──待て、ジェシカ! こちらから言うべきことがある!」

 

 切られたかけた電話()が、左門の声でギリギリ繋がる。

 電話口からは、明らかな溜め息。

 

『……なんだ。私は暇じゃないぞ、鎖部左門』

「どこに何を取りに行くのか、それは私達に協力できることか」

『教えないし、協力は要らない。以上だ』

「待てよ、翔花」

 

 ガッと奪って。

 酷く挑戦的な声で、真広がケータイに言葉を吐く。

 

『ジェシカだ。翔花と呼ばれても反応する気は無い』

「じゃあジェシカでもいい。お前、俺にこんだけ迷惑をかけて、散々振り回しておいて、"面倒をかけた"なんて簡単なメールで許されると本気で思ってんのか? 俺達には散々誓いだの対価だのを要求しておいてよ」

『なんだ、謝ればいいのか。謝罪もしよう。頭も下げよう。なんなら当初の予定通り、この頭蓋を吹き飛ばしてくれても構わない』

「ちげーよ。──顔を見せろ。どうせ俺達の記憶からお前は消えるんだ。いいだろ、一回くらい。家族水入らず、まぁ吉野もいたっていいが、最後に話をさせろ」

『……それに何の意味がある。どうせ記憶から消えるのだから、思い出にさえ残らん』

「お前が話をしねぇ、っていうんなら──俺が愛花を吉野から奪う」

『──は?』

 

 その「は?」は。

 どす黒いでの怒りの込められた「は?」だった。

 

「おう、良い声するじゃねえか。思わず背筋が凍ったぜ」

『──どうせスピーカーモードにしているだろうから言うが、愛花。吉野が好きなら、吉野を愛せ。この阿呆の言葉に踊らされるな。私を引き摺り出したいからといって変な気を起こすな。何より真広には、林美森という気のある少女がいる。騙されるな』

「は、はぁ!? なんでお前がんなこと知ってんだよ!」

『未来視持ちを舐めるな』

 

 動揺した真広。

 その彼から、さらにガッと。

 愛花がケータイを奪った。

 

「ジェシカ」

『……なんだ、愛花』

「お願いだから、来て。脅しも要求も何もしない。記憶から消えたってかまわない。最後に、私は貴女と話がしたい。──お願い」

『……なら、対価を要求する』

「あなたが来てくれるのなら飲む」

『さっきも言った通り、ちゃんと吉野を愛して。自分が死ぬとか、馬鹿なことを一切考えないで。いざという時、不破翔花より不破愛花を優先する──その誓いを、愛花、貴女も立てて』

「わかった。誓います。これでいい?」

『……私には取りに行くものがある。それを取り終えたら、一度だけ連絡をする。その後に……会う。吉野はいていい。だけど、他の人間はお断りだ。……いや、鎖部葉風もいて、いい』

「私が?」

『話す内容は大体わかっている。私の意思は変わらないが、当事者である鎖部葉風はいて然るべきだ。ただし、他の人間は排除する。指定した場所には絶園の結界を張る。その強度、及び効力は軍関係者や鎖部一族であればよく知っているだろう。不正な手段で入ろうとしたり、盗聴器や監視カメラの類が取り付けられていたりした場合は、即刻話し合いを中断し、私は最後の戦いに挑む。──これが最大限の譲歩だ』

 

 ぎろりと真広が睨みつけるは政府関係者や鎖部一族の者たちだ。

 余計な事をすんじゃねえぞ、と。言葉には出さなくても、その場にいる全員に伝わったことだろう。

 

「……切られました」

 

 愛花がそう言えば、どっと皆が崩れ落ちるように座る。

 緊張の糸が解けたのだ。

 

 だけど。

 

「蜘蛛の糸、渡りに船、鶴の一声って奴だな、これは」

「ああ。私が同席して良い理由がイマイチ掴めんが、その話し合いの時に彼女を説得できれば──全てが上手くいく。そして」

「翔花ちゃんを説得できなければ、翔花ちゃんははじまりの樹を消滅させて、僕らの記憶からも消える」

「聞いての通りです。余計な事は絶対にしないでください」

「ああ、一族全員に通達しておく」

「こっちもだ。指定の場所がどこになるかはわからないが、その指定の場所が連絡され次第、近辺には軍人もヘリも近づけないよう厳命する」

 

 鎖部左門が、早河巧が。

 それぞれに頷いた。

 

 正真正銘、これがラストチャンス。

 

 合理に適った世界救済か。

 感情に抗った少女救済か。

 

 その"時"は、すぐ、そこに。

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