絶園の商人 作:ポーシャ
そして、時が来る。
愛花のケータイに入った一通のメール。場所と日時だけが簡潔に書かれたそれを受け、鎖部一族、軍、政府はその場所を完全に封鎖した。仮に一般人の一人でも迷い込もうものなら、全てが台無しになる可能性があるからだ。
その場所。
不破邸──だから、愛花たちの家。
愛花らが自らの家に辿り着き、ドアを開けた時──彼女はエントランスの椅子に座り、目を瞑っていた。
肩にかけた大鎌。赤黒いローブ。けれどフードはしておらず、だからよく知っている顔がそこにある。
「来たか」
「あぁ、来てやったぜ。ご所望通り、盗聴器も監視カメラもねぇし、遠くでサーモとか使ってる奴もいねぇ。不躾な奴は全部排除して、今俺達だけがここにいる」
不破真広。不破愛花。滝川吉野。鎖部葉風。
世界を救うには少女一人で事足りる。
少女を救うには、果たして何が必要か。
これがラストチャンス。
終幕のはじまりだった。
「まず、だ。この場においてはお前のことを翔花と呼んで良いんだろ?」
「構わない。もう取り繕う必要もなくなった」
「そうかよ。んじゃ翔花。てめぇ、死ぬ気だな。いや、消える気、っつった方が正しいか」
「肯定する。はじまりの樹の消滅と同時に私は消える。そのつもりで動いてきた」
「んじゃまぁ、ありきたりな質問からさせてもらうぜ。"
「それが最も被害の少ない手段であり、それが最も悲しみの無い手段だからだ。私は姉さん程非情にも非道にもなれない。考えに考えて、最小の代償で済む方法がこれだと断定した」
四つ、椅子が浮いて、愛花たちの前に置かれる。
立ち話もなんだ、ということなのだろう。その配慮に、吉野が少しだけ頬を緩める。
「ま、確かにな。どうせ忘れるんだ、今がどんだけ悲しかろうと苛立たしかろうと、お前が消えたらそれで終わり。世界は救われ、めでたしめでたし、なワケだ」
「流石。怒ってない時は物分かりが良い、真広。その通り。ただし、私に世界を救う、なんて献身精神は存在しない。私ははじまりの樹を消滅させたくてこれをやっている。その副産物として世界が勝手に救われるだけ」
「そこにもなんで、を挟ませてもらうよ、翔花ちゃん。君は何故、はじまりの樹を消滅させたいのかな」
「はじまりの樹は姉さんの命を狙っている。理由はそれだけ」
「愛花ちゃんの? それはまた、どうして」
「この世の条理を左右するのがはじまりの樹ならば、この世の運命の舵を切るのが吉野だから」
そこで──そこで初めて、吉野にスポットライトが当たった。
今まではただの観客、あるいは推理小説を手に取って、謎を読み解く読者でしかなかった彼が、いきなり盤上に上がらされたのだ。
「僕……が?」
「真広。電話口での口ぶりから察するに、吉野と姉さんが付き合っていることについてはもう知っている?」
「ああ。それについちゃ、きっちりケジメはつけた。もう気にしてねえ」
「そういうこと」
「どういうことだよ」
「かつて絶園の魔法使いであった姉さんは、吉野と交際を始めた。その時点で吉野には、世界の命運を左右できる力があった」
「そんな……そんなのないよ、僕には」
「姉さん。仮にあの時──私がいなくなる直前か直後あたりではじまりの樹復活の兆候が見えていたとして、私や真広を殺すことは容易だっただろうけど、吉野を殺すことはできなかった。違う?」
「……殺さずとも我慢してくれる、とは思ったかもしれないでしょうね」
「そう。けれどそれは姉さんらしくない。可能性があるというだけで殺しておくのが姉さん。絶園の魔法使いとはそういう存在。自らの行動の妨げとなる可能性がゼロではない者は、全て消して置く。合理的に考えて、土壇場での機転が利くとわかっている、さらに彼氏である吉野を姉さんが放っておく、ということはあり得ない」
そうとまで断言されて、愛花は──吉野を見る。
見て。
「そうかもしれない、という所までは認めてあげる」
「可能性がゼロではないということは、あるいは姉さんは吉野を相棒に、彼氏としてはじまりの樹消滅の旅路に連れ立った可能性も勿論ゼロじゃない。絶園の魔法に枯渇という概念は存在しないから、それくらい容易だった」
「否定はしない。はじまりの樹が存在する以上、絶園の魔法使いは枯渇に陥ることはない。そして、吉野さんを連れて行く、という選択肢も……可能性としては、ゼロではなかったでしょう」
「吉野。吉野は姉さんの彼氏である、というだけで、姉さんという破壊兵器を操れる立場にあった」
兵器、という部分で真広と葉風が眉を吊り上げる。
けれど口を挟まないのは、いちいち突っかかっていたら無駄話と断ざれて翔花が消えてしまうことを恐れてだろう。
「か、仮にそうだとして、なんではじまりの樹は愛花ちゃんを狙うの? その話が本当なら、真に狙うべきは僕だ」
「いいや、違う。姉さんがいなくなれば、吉野には何の力もなくなる。──少なくともこの世界のはじまりの樹はそう判断した」
「……なら、翔花。
「同じく、姉さんを狙った。吉野が鎖部葉風と恋仲になったから」
今度は葉風がきょとんとする番だった。
だって葉風には、吉野への恋心など存在しないのだから。
「そ、それはあり得ん! それともなんだ、私が傷心中の男に漬け込むような最低女だとでもいうのか!」
「違う。恋仲になったのははじまりの樹消滅後の話。恋仲になる前までは、鎖部葉風の片思い状態だった。──はじまりの姫宮たる鎖部葉風が誰かに恋をする。そうなった場合、はじまりの樹は果たしてどう動くと思う?」
「ンなもん決まってる。葉風の恋を成就させようと手あたり次第に邪魔モン殺してくんだろうな。葉風の意思に関係なく」
「そう。だからその未来においては、吉野は鎖部葉風を操れる立場にあった。そして、その立場にあったから、姉さんは死んだ。運命に殺された」
「……僕、が」
いきなり舞台上に上げられて、お前が愛花の死の原因だ、と突き付けられて。
ただ呆然とするしかない吉野のその手を、愛花がぎゅっと握る。
「はじまりの樹はパラレルワールドを観測できるわけじゃない。私のように未来視が行えるわけじゃない。ただその場その場において、人類にとって最善の試練を与えられるように動くシステムでしかない。そこに悪意も善意も存在しないし、人為的なものですらない。姉さんの存在は吉野にとってあまりにもマスト過ぎるから、姉さんが死なないのなら故意に狙う。あるいは姉さん自らが死ななければならない状況を作り出す」
「今の今まで、今この時に至るまで愛花が殺されてねえのはなんでだ。そこまで言うんだ、今でも狙ってるんだろ」
「そう、今でも狙っている。富士山麓でも、今も。だから私は御柱以外の触覚を全て消滅させた」
「待て、待て翔花! 私が吉野に恋心を抱く、という点がまだ解消されておらん! 私はそんなに軽い女であるつもりは──」
「テンペスト」
弁明をしようとする葉風を単語の一つで止める翔花。テンペスト。シェイクスピアの喜劇。
「仮に姉さんがもう死んでいたら。あの場──鎖部左門と相対したあの場にいたのが真広と吉野だけだったら。吉野はどういう行動を取っていたと思う?」
「そうね。吉野さんなら、テンペスト……絶海の孤島に取り残された葉風さんと、不合理な運命で死を迎えた私を重ねて、なんとしてでも救い出そうとする。マヒロが敵に回っても、軍や国が敵に回っても、孤立無援で一人絶望の果てに死を待つしかない女性を見捨てる、なんてこと、吉野さんにできるはずないもの」
「買い被り過ぎだよ、それは……」
「いいや。それは俺も背を押す。吉野はタチの悪い奴だが、俺達みたいに合理だけで物事を考えられねえ情の厚い奴だ。俺なんかは一瞬で葉風を見捨てるだろうな。葉風がもう死んでる、ってな情報を聞いた時点で。だが、吉野ならあの時間の檻を抜け出す方法に必ず辿り着いただろ」
「そう、辿り着いた。紆余曲折を経て辿り着いた。──たった一人、誰もいない島。一族の総意として殺される運命にあった鎖部葉風を、ようやく拾われた魔具の先にいた相手が真広みたいな人格破綻者だと知って落胆気味だった鎖部葉風を、唯一全力で助けてくれようとした人物。箱入りお嬢様な鎖部葉風が懐かないはずがない」
「~ッ!」
赤裸々に語られる自身の知らない自身の恋模様に言葉の出ない葉風。
そして。
そして、愛花は確信する。
「やっぱり、その未来にも、翔花はいない。そうね?」
「……うん」
そうだ。そうだった。
今の話には一人欠けがあった。鎖部左門と相対するのが、まるで当然のことであるかのように真広と吉野だけになっていたのだ。
翔花がいない。
不破翔花という少女の情報が、どこにもない。
「使い方は間違っているけれど、さっきのホワイダニットに重ねるのなら──
「……翔花は」
「その可能性に思い至れていただけで、十分。そう、その通り。私は姉さんの妹じゃなかった。不破翔花でも、翔花でもなかった。ただ
吐露に、けれど驚く者はいない。
そうである、という可能性は、事前に吉野と愛花が示唆していたからだ。驚きに余計な時間を使わないために。
でも、それでも。
「全く無関係のお前が、何故愛花にそこまで肩入れする? ……お前達の前で言うことではないと重々承知しているが──死など、この世界にはいくらでも転がっているだろう。私がその死地に立たされ、救い出された身として言えた義理ではないことはわかっている! だが、何故そうまでして愛花を……自己の存在と引き換えに、など」
「答えたはず。ただ、受け入れられなかった。だからやった」
「それがおかしいと言っているのだ! 他人の死をだぞ! お前の言が本当なら、お前と愛花は本当の本当に全く無関係の赤の他人! その死を受け入れられない、ということ自体が理解の範疇外だ! この言葉を使わせてもらうが、私にとってはそれが何よりもの不合理だ!」
泣き叫ぶような糾弾。
おかしい、おかしいと。
──ああ、そうだ。そうなのだろう。こうも感情的になってくれる葉風がいるから、吉野と真広は声を荒げずに済んでいる。確かにここに葉風を同席させたのは正解だったのだろう。もし彼女がいなければ、真広は怒りで、吉野は諦めで思考を止めてしまっていたはずだから。
「吉野。真広」
「……何かな」
「んだよ」
「仮に、姉さんが死んだとして──そのことを知った時、そしてその死が不合理ではないと知った時」
言葉を一度切って、翔花は。
「時間を巻き戻してでも彼女を救える手段がその手にあったら──実行しないでいられる?」
「……」
「……」
「私は無理だった。それだけ」
強く唇を噛む真広。握られた手を握り返す吉野。
二人とも、無理だろう。合理が適えば納得する真広も、どれほど不合理でも感情を表に出さないでいられる吉野も。
もし──神の如き力が手元にあったら。
合理も条理も時間も関係性も、全てを書き換えられるような力があったら。
使う。使って、愛花を助ける。
「恋愛感情だとか、親愛だとか、友情だとか、そういうのじゃない。私は勝手に姉さんの死を見て、ただ受け入れられなかっただけ。そして、受け入れられなかった私に、たまたま世界を渡る機会が訪れて、たまたま未来視に恵まれていて。だからやった。出来ると知ったから、死に物狂いでやった」
「……わからん。そうまでして……」
「鎖部葉風。それは多分、貴女が若いからかもしれない」
「若い……?」
「私はもうそれなりの時を生きている。不破翔花となる前の生がある。その生のことはもうほとんど覚えていないけれど、少なくとも人生を一回分は経験している。だから──その余剰分で姉さんを救えるのなら、これほど素晴らしいことはない。多分、私がただの中学一年生だったら、可哀想なのかもしれない。私が無関係の一般人で、二十と生きていない少女だったら、可哀想なのかもしれない。でも、そうじゃない。正確な年数はわからないけど、少なくとも私は不破翔花として新しい生を受けた」
余剰の生。余暇の生。
人生の終着点の、その後の生。
仮にそれが、その人生が、全て自身のためだけに使い果たしたものなのだとすれば。
余白である今を他人に使うのは、なんらおかしなことではない、と。
「
それは、ずっと黙っていた愛花から発された言葉だった。
今の今まで聞くに徹していた愛花が、そして真広が、吉野が。
「あぁ、そうだな。翔花、言ってやるよ。納得が行かねえんだ、こっちは」
「うん。納得できないんだよ、翔花ちゃん」
口々に言う。
「してくれなくても構わない。どうせ忘れる泡沫の夢だし」
「何言ってやがる。俺が納得できねえつってんだよ。お前の事情なんざ知ったことか。お前がどこの誰で、どんな動機があって、どうやってもどうしても心底からどうでもいい。いいか、よく聞け不破翔花。翔花。
「翔花ちゃん。君は正しくない。欠片も、そのどこを見ても。君の人生の隅から隅まで
「マヒロと吉野さんの言う通り、翔花。貴女は全てを間違えているし、全てが正しくない。そして、貴女の行動の全てが
「──……ッ」
そこで初めて、揺らぎが見える。
吉野と真広の言葉では揺らがなかった意思に、罅が入る。
「何度も言わせないで、姉さん。今嬉しくなくてもどうでもいい。はじまりの樹を消滅させて、私が消えれば、私との思い出も全部消える。嬉しくなかった感情も全部全部消えて、思い出せなくなる。……なんど同じ問答を繰り返す気? 貴女たちの言葉は、その一切が私の耳に入ることはない。──時間を無駄にした。喧嘩別れという形になるのは残念だけど、それも忘れることだから──」
「"恋は盲目。だから恋人たちは、自身の愚かなたくらみが目に入らない"」
それは、ヴェニスの商人の引用。
シャイロックの娘ジェシカの言葉だ。
「姉さんは引用の切り取りが激しすぎる。その言葉はネガティブな意味を孕まない。"もし目に入ってしまったのならば、愛の神キューピッドとて顔を赤らめるだろう。さぁよく見ると良い、この偽りの姿を"。それがその言葉に続く台詞。恋をする者達の愚かしい行動を罵る言葉じゃない。そこまでしてまで恋を貫きとおす姿を誇る言葉」
「誰も貴女のことだ、なんて言ってないでしょう? ──私のことよ、翔花」
「──話を聞いていなかったの、愛花。私は、貴女の妹じゃない。仮に立場が逆転したとして、じゃあ、愛花。貴女は私に──身勝手に、嬉しくもないことをし続けている私に──」
「ええ、そう。吉野さんには悪いけれど。私には翔花がいたから。翔花を恋人にしようと思うの」
激震、だった。
走ったのは翔花だけではない。吉野も真広も驚愕を浮かべている。葉風も「こいつらは何を言っているんだ?」と疑問符を大量に浮かべている。
打合せ済みの行動ではないのは明白だった。衝動的な言葉なのだろうことはあまりにも明らかだった。
「馬鹿な……ことを言うな、愛花。誓ったはずだ。吉野を愛すると」
「ああ、そういえば。じゃあ吉野さんも愛します。愛情って、二人を相手に持ってはいけないものではないでしょう?」
「屁理屈を言うな、愛花。ようやくだ。ようやくなんだ。愛花は知らない。知らないだけ。知らないだけなんだ。自身が道半ばにして死ななければならなかったあの苦しみを。合理で考えてしまう、はじまりの樹消滅に身を捧げてしまう性質を、ようやく捨てられた! ようやく人間らしい、少女らしい、ちゃんとした恋愛ができる未来を貴女は手に入れた! 吉野、お前も黙っていないで愛花を引き留めろ! 愛しているんだろう!? 私なんかに取られたら嫌だろう!?」
声を荒げている。確実に効いている。
その慟哭は、聞く者にさえ悲哀を覚えさせる程に感情の籠ったもの。
「別に……いいんじゃないかな。取られるって言ったって、僕のことも愛してくれるみたいだし。だよね、愛花ちゃん」
「はい。吉野さんとの時間に手を抜くつもりはありません。ただ、私は翔花のことも愛したいと思いました。それを許容する器はありますよね」
「勿論。なんなら僕も翔花ちゃんを愛そうかな?」
「む。それは許しません。違う未来では葉風さんと恋仲になっていた、などという浮気性の情報を聞いてしまった以上、これからはこれまで以上に私だけを見てもらいます」
茶化しているわけでも、故意に話を逸らそうとしているわけでもない。
愛花は本気で言っている。それがわかる。たとえ前に違う生があろうとも、生まれてからずっとを共に過ごしてきた翔花には、それがわかってしまう。
「真広! お前は」
「あ? 俺に助けを求めてどーにかなるわけねえだろ。ケジメはつけた、って言っただろ、翔花。俺は認めたよ。確かに少し前まで、俺は愛花に気が合ったんだろうさ。が、吉野になら任せられる。諦められる。──そんでもって、まぁ、放っておけねえ奴が一人、俺にもできたからな。お前の言う通りの奴だ」
「鎖部葉風!」
「私に頼られてもな。私にはまだ愛も恋もわからんし、違う未来で私が吉野を愛していたと聞かされても……他人事でしかない。それを聞かされた所で愛花や吉野に何かを想うわけでもなし。まぁ良いのではないか? この国は一対一の純愛こそを至上としているが、他国に行けばそういう繋がりも存在するだろう」
誰も、翔花に手を差し伸べる存在はいない。
違う。愛花ががっちりと抱擁しているから、誰も手を出せないのだ。
「そ──れ、でも、ダメだ。愛花。貴女の気持ちは嬉しい。ありがとう。そう言って貰えて救われた気がする。だが契約は変わらない。私が代償を支払うことに変わりはない。忘れる前にそう言ってくれて嬉しかった。その思いを抱えて、私ははじまりの樹を消滅させに行く。ありがとう、美しい思い出を。それで」
「姉さん、って呼んで。貴女は私の妹なのよ?」
「俺の妹でもあるぞー」
「……知っている。お前たちが何かを画策していることくらい知っている。大方富士山麓にあった私の肉体組織から私のクローンでも作り出して、そのクローンに代償を支払わせるとか、そんなことなんだろう。……そこまでしてくれてありがとう。鎖部葉風、鎖部一族にそう伝えてくれ。クローンなんて、ともすれば条理に反しかねない行為だ。そこまでしてくれて本当にありがとう。──だけどこの契約は私の魂に紐づいたもの。だから、無理なんだ」
だから、と。
翔花は赤い力を愛花と吉野に纏わせて、それぞれ葉風と真広に押し付ける。
破壊の力とは到底思えない程の優しさで、けれど明確な拒絶。
「ありがとう。私は、貴女達の言葉を忘れない」
「翔花……」
「さようなら、姉さん。真広も吉野も、
消える。
高速移動だろう、一瞬で姿の見えなくなった翔花と共に、周辺一帯を覆っていた結界も消える。
消えて。
消えた、から。
「──おっし、第一段階は成功だ。葉風、頼んだ」
「任せろ! 最速で行く──舌を噛むなよ!」
計画第一段階。「不破翔花の"自らが幸せを享受している"と思う理由を、自身の消滅以外のものにする」。これでようやく、本当の意味で不破翔花は絶園の魔法使いの役割に
葉風の周囲に集まる三人。
ここから先は全てがぶっつけ本番。何の稽古もしていない大舞台。
でも、それぞれの脳内に脚本がある。
世界も救って、翔花も救う──ハッピーエンドの脚本が。
「吉野さん」
「うん。行こうか、愛花ちゃん」
一族きっての魔法使い、鎖部葉風の使う高速移動で、四人は向かう。
──目的地は勿論、御柱。
彼女の向かった先である。