絶園の商人   作:ポーシャ

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第二幕 天より恵みは降り注ぎし

 二人、岬の墓へ行く。

 資産家であるから他より豪勢なその墓に線香を沿えて、二人で手を合わせる。

 

「……マヒロ。変なことを考えていませんか?」

「変な事ってなんだよ」

「たとえば、翔花を探しに行く、とか」

「……それが変な事か?」

「いいえ。私達にとっての至上命題とも言える行為です」

 

 不破真広。不破愛花。

 義理の兄妹はここで、いなくなった妹を偲ぶ。

 

「行かねえよ」

「ホントですか?」

「最初に誓わされただろ。いざという時、翔花より愛花を優先する。──くだらねえ話だが、誓いは破らねえ。それは不合理が過ぎるからな」

「……翔花はわかっていたのでしょうか」

「何をだ」

「自身が攫われることを、です。思い返せば、そういう言動ばかり取っていたように思います」

「……」

 

 事件から十か月。

 手掛かり一つ掴めていない、不破翔花の誘拐事件。行方不明とされていたが、誘拐事件として扱いが変えられたのは曲がりなりにも不破翔花が資産家不破家の娘だからだ。

 ただ、犯人は身代金を要求することも、なんらかの声明文を出すこともしてきていない。

 

 ただ。

 ただ、日常から、翔花が失われた、というだけ。

 

「不合理だろ」

「ええ。ですが」

「……アイツだけが、式を知っていた」

 

 いくら不合理で不条理に見える事件も、ただ情報が足りないだけだとすれば、辻褄が合ってしまう。そして翔花が不破の姓を得たその時から、ずっとずっと彼女はそれを隠し続けてきていた。

 けれど、果たしてそれは。

 

「私達にも言えない事だった、というのは……悲しいですね」

「ああ。っとに、人の気持ちを考えられねえ大馬鹿野郎だよ」

「……一つだけ、あの子との誓いを破らずに、あの子を探しに行ける方法があります」

「それは?」

「私が同行すればいいんです。まだ私、高校一年生ですから。多少早めの冬休みを取ったって問題ありません」

「……」

 

 不破翔花との誓い。

 いざという時、何があっても翔花ではなく愛花を優先すること。家族になるために、警戒を解くためにと強いられたその誓いを、真広は今でも後悔している。

 

「行くか」

「ええ」

「……吉野には」

「告げずともいいでしょう。何ならあとでメールでも入れておきます」

「その必要はないよ」

 

 気付けば、二人の後ろには少年がいた。

 滝川吉野。二人と同じくらい、翔花の行方不明を気にしている少年。

 

「……探しに行くんだね、翔花ちゃんを」

「ああ。んで、誘拐した奴をぶっ殺して、翔花にもわからせてやる」

「何を?」

「アイツだって大切な家族の一人だってことをだよ」

「……うん、そうだね」

「お前は来るか?」

 

 問いに。

 

「……ううん。僕はここで待ってるよ。もし……もし翔花ちゃんが帰ってきた時、こっちに誰もいなかったら困るだろ?」

「それもそうか。だが良いのか? お前だって誓わされただろ。翔花より愛花を優先すること」

「でもそれは、いざという時、の話だろ?」

「……成程。まだその時じゃねえ、ってか」

「うん。少なくとも僕はそう思ってる」

 

 一瞬、愛花と吉野の視線が交差する。

 真広から一歩引いた位置にいる愛花は目を伏せ、小さく首を振り。

 吉野は頬を掻いて、小さくうなずいた。

 

「……じゃあな、吉野。次遭う時には、翔花も一緒だ」

「うん。愛花ちゃんも、気を付けて。ついでに真広が暴走したら止めてあげてね。路銀が無くなって窃盗とかしそうになったら」

「しねぇよンなこと!」

 

 世界の関節は外れてしまった。

 ならば、それを正しに行く二人は、誰役なのか。

 

「またな」

「また」

「うん。またね」

 

 そうして──不破真広、不破愛花の両名もまた、滝川吉野の前から消えることとなる。

 

 

 *

 

 

 今さっき辿り着いて、盗み聞きを始めて。

 そうなるとは思っていなかった、というのが事実だ。

 記憶の絶縁が曖昧過ぎたか。あるいはあの二人の兄妹愛を見誤っていたか。

 

 何故手放すのか。折角高校一年生になることができて、滝川吉野との時間も増えたというのに。

 

 山場の一つは無事越えられた。

 だけど、これから先どうなるかはわからない。はじまりの樹の干渉によって鎖部葉風のボトルメールをあの二人が拾う確証はない。もしかしたらそれが間に合わず、二人ともが黒鉄病によって──なんて可能性さえある。

 

 絶園の樹は順調に果実を集め始めた。だけど──鎖部左門に協力を取り付けることができなかったのは、正直痛い。

 

 コミュニケーションスキル。吉野のような中庸さは、私には無い、か。

 

 思い返す。

 

 

 

 あの日は、まぁ、タイミングも悪かった。

 

「何者だ」

 

 達人の一人であることは間違いないのだろう。

 鎖部夏村よりは下だろうけれど、それでもかなりの使い手だ。

 

 その背後に降り立つのは、少し悪かったと自覚している。格好も悪かった。とかく顔や身体的特徴を悟られまいと、まるで吸血鬼が羽織るようなコートをたなびかせ、フードを被っていたのだから──まぁ、怪しかっただろう。

 

「ジェシカ。そう名乗っている」

「そうか。ならばジェシカ。この神聖なる場に何用か」

「絶園の樹を取り返しに来た。──無駄な復活の儀式をしていないで、私に任せて」

 

 次の瞬間、眼前に刃があった。あったけれど、しゃがんで避ける。私は常に絶園の力を使っている。だから身体能力は桁違いに高いし、相手が鎖部なら尚更に戦いやすい。

 

「姫様の手駒か?」

「はじまりの姫宮には会っていない。そも、その死体はそちらにあるはず。手駒であるはずがない」

「……どうやらジェシカ、君は知る必要のないことまで知っているようだ」

「私は協力関係を結びたいだけ。絶園の樹の復活を阻むために作られた鎖部一族では、絶園の樹の復活に長い時間をかける。その点、私ならすぐにできる」

「それは、何を根拠にした自信かね?」

「絶園の魔法使い。それが私」

 

 赤雷と共に作り出すは、鎖部左門に合わせた日本刀。

 私の身長に合わせた刃渡りにはしてあるけれど、破壊の力を持つ絶園の魔法製だ。その破壊力は推して知るべし。

 

「……君が本当に絶園の魔法使いだというのなら、尚更君を絶園の樹に近づけさせるわけにはいかない」

「何故。復活させたいのでしょう」

「復活はさせたい。だが覚醒……狂乱状態に陥らせるつもりはない」

「だから、それを任せろと言っている。復活させるなら私が最も効率よく」

「信用ができない。理由はそれだけだ。君が本物の絶園の魔法使いだとしても、絶園の樹に操られて絶園の樹を覚醒させる可能性は否めない」

 

 鎖部左門。

 どこまでも堅実な男。その内心は案外テンパりやすいけれど、計画や行動は堅実を極める。

 

 現時点で私を信用しきるほどの博打は打てない、か。

 

「幸いにして、先ほど供物が大量に手に入ったばかりだ。たとえ相手が絶園の魔法使いといえど、存分に戦える」

「……悪魔と鬼を天秤にかけたか」

「なに?」

 

 この世の条理ははじまりの樹を復活させるために働く。ゆえにはじまりの姫宮である鎖部葉風は絶対的な魔法の力を扱えるし、反対に彼女を死なせようと画策している鎖部左門には次々と災難が降りかかる。

 だけど──絶園の樹の復活。その速度を高めんとする私の方が、未だ遅々とした方法で絶園の樹にアプローチをかけ続けている鎖部左門より、上位の排除対象にあるとはじまりの樹が判断した、ということだろう。

 そうでなければ、私が来るこのタイミングの直前に供物が大量に手に入る、なんてことは起きないはずだから。

 

「ここは一度退く。ただし、私はいつだって絶園の樹に干渉できる。あの程度の不可視結界、取るに足らない」

「ではなぜ私にコンタクトを取って来た?」

「より良い未来のために私は動いている。たとえ何を犠牲にしてでも私は絶園の樹を復活させるけれど、だからと言って自ら犠牲を出したいと思うような畜生ではない」

「……そうであってくれと願うがね」

「ゆえに、次私と会うことがあっても、こちらの邪魔をしないでほしい。私は絶園の樹の復活のために動いている。そして犠牲を最小限にするために暗躍している。同じ目的を持つ者同士で余計な小競り合いをして、大局を見られなくなる結果だけは避けたい」

 

 鎖部葉風が各地に隠した魔具。

 それらを私が回収してしまうことも勿論考えた。だけどそれでもし真広が黒鉄病に罹ったら、と思うと──それはできない。彼ならば世界を巡って魔具を回収し、姉愛花にそれを渡すくらいはするだろう。姉愛花を優先しろと誓わせはしたが、彼が私を探しに出ないとは思えないから、大筋では史実通りに進むはずだ。

 あとは私がどれだけ先回りできるかの問題。

 

「……いいだろう。だが、それはただ不可侵条約を結ぶ、というだけだ。我々鎖部一族は君の為すことに手を出さない。代わりに我々の行いにも目を瞑れ。絶園の樹は我々が復活させる。そしてそれを阻止せんとする邪魔者──姫様の手勢が現れたのなら、それを必ず妨害する」

「協力関係は結べなかったと判断する」

「なにっ!?」

「私は今、一旦退くだけ。絶園の樹の復活は私が効率よくやる。各地に被害を出してまでやることではない。適切な避難誘導も無しに黒鉄病を振りまいて、それが大義のためになると思っているそのやり方は気に食わない。そして、絶園の樹が必ず復活するのだから、はじまりの樹も必ず目覚める。その時はじまりの樹の手駒となっている人物は私の知り合いである可能性が高い。はじまりの樹の狡猾さは、そちらも知っているはず」

「……ジェシカ。君は──何を見ている?」

「より良い未来を。私の視た、私の受け入れられない未来ではない未来を」

「まさか、絶園の魔法使いは未来視まで行えるのか!?」

 

 違うけど、そうだと思ってくれていい。

 鎖部一族と協力関係になれなかったことは素直に残念だ。不可侵条約など、私のメリットが少なすぎる。

 だけど──絶園の魔法使いがいる、という情報を鎖部左門に与えられたのは大きい。

 これで吉野が変に疑われることもなくなるだろう。

 

「この世界は未だ舞台でしかない。誰もが一役を演じなければならず、そうであるからこそ脚本が存在する。──鎖部左門。はじまりの姫宮を相手取るのに、絶園の魔法使いを引き入れなかったことを後悔するといい」

「それはっ、……だが、あまりにリスクが……いや」

「去る。考えておくと良い。自分が何の役割なのか」

 

 絶園の力を用いてその場から消える。超遠距離高速移動。鎖部一族の魔法でも追いきれないよう痕跡を絶縁し、私はそこを去るのだった。

 

 

 

 という感じで、私の壊滅的コミュニケーション能力によって友誼を交わすことはできなかった。

 鎖部左門ならゴリ押しで行けると思ったのが間違いだったと言えるだろう。

 

 しかし。

 ……姉愛花までもが、私探しの旅に、か。

 

 私にははじまりの樹の条理がかからない。

 だから──せめて絶園の樹に祈ろう。仮に二つが同一存在だったとしても、私はこの世界の名を冠する方に祈りたい。

 

 ちゃんと鎖部葉風のボトルメールを見つけて欲しい。

 そしてちゃんと魔具を手に入れ──そして、そして。

 

 そして。

 

 

 *

 

 

 飛び回る。

 飛び回って、軍用ヘリから打ち出されるミサイルの全てを叩き落していく。

 

「……黒鉄病が伝染病に見えているから、地上に降りたくない、というのはわかる。けれど……道路を吹き飛ばすのは普通にやり過ぎ。封鎖地区のボーダーにいた人間を引き離すのも一苦労。これ全部政府がやるべきことだと思う」

 

 思わず愚痴を吐きながら、背後に来たミサイルを鎌で破壊する。

 

 どうせこの格好なら、刀や剣より鎌の方が似合うと思ってのチョイスだったけど、うん、鎌はあまりにも使い勝手が悪い。

 どの道武器の形状をしていなくても絶園の力は使えるのだからそれにこだわる必要はないけれど──羽村めぐむよろしく、手加減を間違えて相手を消滅させる、なんてことになったら大変が過ぎる。

 そういう点で、武器の形状にしてあると何かと都合がいいのだ。出力の調整がしやすいというか、指向性がわかりやすいというか。

 

 ──眼下。

 

 それなりの距離があるから見えづらいけれど、あの金髪は間違いなく真広だし、彼に助けられているのは恐らく林美森だろう。それは構わない。全く構わない。

 だけど、辻褄が合わない。

 

 そこに真広がいるのなら。 

 では、愛花はどこに──。

 

「ッ!」

「あら、防がれてしまいましたか」

 

 出力は最小限。それでようやくせめぎ合うという事象が発生する。

 本来であれば鎖部一族の魔法など、それも魔具に込められた魔法など一瞬で砕き切れるけれど、それをやらなくて良かったと心から思う。

 

 声を変える。

 

「……はじまりの姫宮の手の者か」

「あら? バレてしまっているようですよ、葉風」

『バレているだと!? なぜ、というかどうやって!?』

 

 まるで無線機のような音質で聞こえてくる彼女の声。

 時間の檻。鎖部一族の魔法。

 

『愛花! ソイツの特徴を教えろ!』

「赤黒いコートにフードを被った何者か、と表現するのが最も的確でしょう。そして赤く光る大きな鎌を持っています」

『赤……赤だと? まさか、絶園の?』

「ええ、私の見立て的にも合致します」

 

 ……ああ、そうか。

 私が絶縁したのは私が消える一部始終だけ。けれど姉愛花は幼き頃から絶園の力と共にあり、その役目を理解してきていた。

 いつの間にか無くなった自らの力については当然考察しただろうし、真広に話したかどうかは知らないけれど、鎖部葉風とは既に相談していてもおかしくない、か。

 

「貴女、名前は?」

「ジェシカ」

「それで、ここで何をしているの?」

「政府の狗がする大雑把な封鎖を防いでいる。──眼下にいるあの人間二人。身を隠すよう伝えておけ。でなければ、政府が嗅ぎつけるぞ」

「あら。絶園の魔法使いのくせに、他人を気にするんですね」

「ただそこにいた、というだけで殺されたり追われる身になるのは合理的じゃない」

 

 恐らく魔具の力で空中に足場を作るなりして浮いているのだろうけれど、それを全く感じさせない所作には驚かされる。

 あるいは絶園の力がまだ残っているとか?

 

「ジェシカさん」

「なんだ」

「私の妹を知らないですか?」

「知るわけがないだろう」

「それもそうですね。けれど」

 

 上空に転移の気配。

 

「てめぇか──翔花を攫ったのは!!」

 

 防護フィールドを纏ったそのかかと落としを、先ほどと同じく最小限の出力で受けきる。

 

 攫った。

 ……そういう風に処理されたか。警察に潜り込んだとかじゃないから、行方不明で終わっていたと思ったんだけど、一応不破の娘ではあるから、か。

 良い。 

 その立場、実に使いやすい。

 

「さっきその女が言っていた妹のことか」

「ええ、そう。ついでと言ってはなんですが、その力も返してくれないですか?」

「断る。あの少女は絶園の樹の復活に必要不可欠だ。ゆえに」

「認めたな! 認めやがったな! なら俺は、てめぇをぶち殺す! そんで翔花を連れ帰る!」

 

 その目的は両立しないのだけど。

 良い。

 怒りに狂いながらも、ずっと愛花を守れる立ち位置にいることが、とても良い。

 あくまで最優先は愛花。真広はしっかりと誓いを守ってくれているらしい。

 

『ま、待て二人とも! 相手が絶園の魔法使いだというのなら、今すぐに逃げろ! 私自身ならばともかく、魔具の一つや二つで敵う相手ではない!』

「うるっせぇ! 葉風、てめぇとの契約は翔花を攫ったやつを見つけて、ぶち殺し、翔花を連れ帰るってとこまでだ! 今、こんなにも早く犯人が見つかった以上、コイツをぶち殺して翔花を解放させて、アンタとの契約はそれで終わりなんだよ!」

「異なことを言うものだ。だが、はじまりの姫宮よ、残念だったな。お前の手駒はここで死ぬ。その絶海の孤島で大人しく朽ち果てろ」

『なんだと!? お前、何故私の現状を……まさか左門とも繋がっているのか!?』

 

 飛翔音。

 

 それは、あまりにも出来過ぎたタイミングだった。

 まるで「それは困る」と言わんばかりに全方位からのミサイルが私へ向かって発射されたのだ。あるいは私が二人を守ることもわかっていての所業だろう。

 はじまりの樹め。私を操れないからといって、やり過ぎはご法度だろうに。それでは試練にならないじゃないか。

 

 無論、防ぐ。

 まるで鎖部の魔法のような球形の防護フィールドを作り、全ミサイルを破壊する。

 

「話はここまでだ、はじまりの姫宮の手駒」

「不破愛花と申します。こっちは真広。ジェシカさん、あなたが本当に絶園の魔法使いだというのなら」

「それ以上を口にするな、不破愛花。はじまりの樹に嫌われるのは、何も今である必要はない」

「……わかりました。ただ、余計な犠牲を出したくない、というのなら、一つお願いがあります」

「次の果実の出現場所は、海だ。高低差の激しい街並み。岬の墓地。……今私が見えるのはこれくらいだ。十分か?」

『未来視だと!? まずい、まずいぞ愛花、真広! ソイツは私よりも強大な魔法使いの可能性が高い!』

 

 小さく、愛花の口が「それは当然ですが」と動く。

 かつては絶園の魔法使いだった彼女にとって、はじまりの姫宮の強大さなどたかが知れているのだろう。

 

「ごちゃごちゃうるせぇよ! 良いからてめえは俺が」

「ギャーギャーとうるさいのはお前の方だ、不破真広。目先のものにばかり囚われて、大局を見誤るな。……はじまりの姫宮も、そう焦る必要はない。私は絶園の魔法使い。絶園の樹の復活をこそ目的としているが、はじまりの樹に何をしようという気はないのだから」

『お前が左門と繋がっている! 信用できない理由はそれだけで十分だ!』

「感情的だが、まぁ間違ってはいない。──さらばだ、不破兄妹。せいぜいはじまりの樹に嫌われないよう頑張るんだな」

 

 そのまま消える。

 魔具の長距離移動では届かない程遠くへ。

 

 ……凡そ十か月ぶり、か。

 少し安心した。姉愛花は、怪我をしている様子も無かったし、なんなら最後に見た時よりちょっと健康そうだった。黒鉄病によって消えた街で、ちゃんと食事を摂っていたのだろう。

 だけどこれからは冬の季節。バスの中で寝るとかして、身体を冷やして風邪を引いたりしなければいいのだけど。

 

 なんて。

 ……大丈夫だろう。はじまりの樹の手勢である内は、加護があるのだから。

 

「それでも、会えたことは嬉しかった。元気でね、姉さん、真広。そして、吉野も」

 

 探されているというのなら。

 はじまりの樹を倒した後、ちゃんとただいまを言いに行こう。──勿論、最優先事項を忘れたつもりはないから、安心してほしい。

 絶園の樹。仮にあなたが復活しきれなくても、必ずはじまりの樹は滅して見せるから。

 今は微睡んでいて。

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