絶園の商人   作:ポーシャ

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第三幕 稀人、在り処に集いて

 絶園の果実に乗って移動する。

 眼下に広がる住宅街は、閑静を通り越して静寂だ。当然、黒鉄病によって全生物が金属化しているのだから、音を発するはずもない。植物だけが、いつものままに佇んでいる。

 

 ……車を爆発させる。火事を起こす。地割れを起こす。 

 様々な「他人の興味を引くもの」によって出来得る限りの人間を寄せ集め、黒鉄病の効果範囲外に逃がす。それでも助けられない者は当然いるし、すぐに政府が出張ってくるから焼け石に水。

 ただそれでも、余計な犠牲はない方が良い。

 だってもし、それに真広や愛花が気を取られでもしたら、余計な魔具を使わせることになるだろうから。

 

「成層圏でも、寒くないか」

 

 絶園の魔法ははじまりの魔法と違って供物を必要としない。

 使い続けて消耗することも無ければ、出力が落ちることもない。文字通りの超常の力。

 ゆえに私は成層圏でも温度変化を感じずにいられるし、身体が凍り付くことも燃え盛ることもない。酸素もなんなら必要なくできる。

 

 すべてははじまりの樹を滅するための力。「破壊」に寄り切っているはずのその力は、だからこそはじまりの樹と対峙するための全てを与えてくれる。

 

 目的地上空付近に来たので果実から飛び降りて、その後は飛行する。

 亜音速で飛ぶことだって可能だけど、通り過ぎる懸念の方が大きい。その点、ゆったりとではあるけれど決まったルートを直進する絶園の果実は乗り物として丁度いいのだ。

 

 そして、目的地──ある橋の上空で静止。

 見る。

 覚えのあり過ぎる金髪と茶髪。その眼前に佇む白いトレンチコートの男性。

 

 ……そういえば、結局不破家で犯人捜しの魔法は使ったのだろうか。

 いや、それはないか。此度私が消えたのは、家の前のあの岐路。不破家は血に濡れていないし、金銭も塵になってはいない。

 ならばただ、絶園の果実の復活の予兆を感じてこっちに来ただけ、か。

 

 どちらにせよ──ギリギリの戦い、なんてさせない。

 私が当主交代を宣言した以上、はじまりの樹にとっての邪魔者は私であるはずだけど、その私が死なば姉愛花にまた力が戻るという可能性はゼロではない。そうなったとき、あるいはそうであるという可能性がゼロではないだけで、はじまりの樹が姉愛花だけを集中的に攻撃する可能性がある。

 真広は鎖部葉風に必要だけど、姉愛花に用はない、と言わんばかりに。

 

 そして、はじまりの樹が最も干渉しやすい一族が鎖部だ。

 今はただ盲信の中にある鎖部葉風は勿論、他の一族だって少し認識を弄ったり不信感を持たせたりするだけで簡単に操れる。それが条理を操るということ。

 

 ゆえに、はじまりの姫宮の手駒が安全に捕獲されるとは限らないし、鎖部左門が「どちらかだけでいい」という可能性だってある。

 全ては可能性に過ぎないけれど、私が動く理由としてはそれで十分だ。

 

 急降下する。

 

 

 *

 

 

「やっぱり絶園の魔法使いのヤロウが犯人か……無駄骨になっちまった感は否めねえが」

「あの言葉がブラフでないと知れただけで十分でしょう」

「だな。んで、奴は葉風、お前のトコの幹部と繋がってると」

『そうらしい。……すまない。一族を代表して謝罪する。そして私がそちらへ戻った暁には、必ず絶園の魔法使いをお前の前に叩きだしてやる』

「忘れんな。翔花を連れ戻すのも条件だ。──幸い、生きてるってのは間違いないみたいだしな」

 

 二人。

 不破兄妹は、先ほどある魔法を使って来た。

 二人の妹である不破翔花。彼女の攫われたと思われる地点四つ。その内の一つが網にかかり、犯人が確かに鎖部一族の者ではなく、しかして魔法使いであるとわかった次第だ。

 

「マヒロ」

「なんだよ」

「……絶園の力は、正直言って強大です。元担い手である私が断言します。先日は見逃されましたが、今後あのジェシカという少女と正面切って戦うことは推奨しません」

「だが、あんとき魔具は互角を張ってただろ」

「手加減されていました。確実に」

『愛花の言う通りだ。絶園の魔法使いは強い。だが安心しろ、私も強い。私がそちらに戻ったら、魔法を使えなくなるまでボコボコにした上でお前の前に放り出してやる。だから今は』

「……ってぇ、ワケにもいかなくなったみたいだな」

 

 足を止める。

 二人の前には、白いトレンチコートを着た男性が立っていた。黒鉄病に罹っていない──そしてその手に十文字槍なんていう時代錯誤な武器を持つ男性。

 

『どうした? 絶園の魔法使いか?』

「いや、アイツじゃねえ。アイツじゃねえが、本物の魔法使いって奴だろ」

『っ、今度は左門の狗か! どんな見た目だ?』

「白いトレンチコートに十文字槍。黒髪を後ろで束ねた高身長の男性です」

『夏村か! 真広、愛花! 下がれ、無理だ! ソイツは手強いぞ!』

「だったらなんだ。絶園の魔法使いからも逃げて、左門の狗からも逃げて、んじゃいざって時どうする。どうせぶつかり合う未来しかねぇってんなら──」

 

 今ここで倒す。

 そう判断して地を蹴った……蹴ろうとした真広を、愛花がぐ、と引き留めた。

 

「んだよ愛花!」

「マヒロ、上です」

「上? ──ッ!!」

 

 隕石か何かが降って来たのかと錯覚するほどの轟音。衝撃。

 砂煙はすぐに晴れる。

 

 そこにいたのは。

 

「ッ……その風貌、絶園の魔法使いか!」

「鎖部左門から情報伝達は為されていたか。なら、話は早い。余計なことをするな、鎖部一族。絶園の果実はお前たちに見守られなくとも自ら樹を目指す」

 

 赤黒いロングコートとフードの少女。こちらもまた時代錯誤……というより現実離れした赤い大鎌を持つ、まるで死神といった風体をしている。

 青と赤。

 

「平時なら潔く退いていたが──今はそうは言っていられなくなった」

「そうか。ならばそのまま死ね、鎖部一族」

 

 均衡は一瞬も保たなかった。

 男が張った防御魔法はいとも簡単に割り砕かれ、その首に赤い大鎌が──。

 

「っ!」

 

 咄嗟に何かを察して回避を選択する絶園の魔法使い。

 何事かと判断に遅れた男に、防御の魔法を纏った真広による飛び蹴りが入る。

 

「チィ、避けられた! 愛花!」

「ジェシカさんを追うことよりも、まずその方の顔面から足をどけた方がいいのではないでしょうか」

「あぁ? ……あー、悪ィな、おっさん。アンタを攻撃するつもりは、まぁあったが、最優先はあっちだ。手打ちにしてくれ」

「……他人の顔を踏みつけておいてその態度。余程良い躾をされたらしい」

 

 首。

 雑談か牽制か、何かしらに興じようとした男の首に、光る刃があった。

 

 それを鎌と同じ進行方向へのロンダートで躱し、跳躍。男は信号機の上に降り立つ。

 

「不意打ちとは、不躾だな」

「不用心なそちらが悪い」

「……てめぇ、絶園の魔法使い。よくも俺の前にのこのこと──」

 

 パン、と。

 空気を打つ音が鳴った。

 発生源は、少し離れた所にいる愛花だ。

 

「ごめんなさい。少々場が混沌としているようなので、一度整理させて頂きたいと思います。まず、そちらのトレンチコートの方。貴方は鎖部左門さんの部下、ということでよろしいですか?」

「……鎖部夏村だ」

「そして次。ジェシカさん。貴方は鎖部左門さんと繋がっていると聞いていましたが、仲間割れですか?」

「余計なことをするのならば容赦はしないと告げてある。此度果実の出現場所に赴いたことは私にとって余計な事」

「成程」

 

 では、と。

 また手を打つ愛花。

 

「マヒロ。今回に限ってはその方と協力するべきかもしれません。私達の目的は絶園の魔法使いの退治。そして翔花を連れ戻すこと。鎖部左門さんとジェシカさんが今対立関係になったというのなら、鎖部左門さんの部下といがみ合う必要はない。違いますか?」

「……まぁ、それは筋が通る。合理的な判断だ」

「絶園の魔法使いは我々にとってもあまり快くない存在だ。協力関係を結ぶというのなら、先ほどの蹴りは水に流そう」

「──そういう働きかけをしてくるか」

 

 鎖部夏村と不破真広。

 鎖部一族の青い魔法を身に纏う二人が、絶園の力に溢れるジェシカと相対する。

 

「……鎖部夏村」

「なんだ、絶園の魔法使い」

「鎖部左門に繋げ。言うことがある」

「……」

 

 警戒は怠らない。怠らず、男──鎖部夏村は長距離通信魔法を起動した。

 

「左門殿」

『どうした』

「果実の現れた地で、金属化していない少年少女を発見しました」

『そうか。姫様の手駒か』

「直後、絶園の魔法使いと交戦。絶園の魔法使いの要求により今この通信を繋いでいます」

『なんだと? ……いや、わかった。話を聞こうではないか』

 

 釘を刺した木の板。

 それをジェシカに見せる夏村。

 

「鎖部左門。絶園の果実の守護、及び監視は全て私がやる。手を出すな。そんな暇があったら、遅々たる術であろうとも、術者の全てを絶園の樹の復活に回せ。それができないのならばまた結界を割りに行く」

『……いいだろう。その要求を飲む。夏村、今すぐに退け。そして今後、果実の出現ポイントには近づくな。他の部隊にもそう伝えろ』

「承知」

 

 夏村は、隣にいる真広に「そういうことだ」とだけ呟いて、高速移動によってその場から消える。

 残されたのは、三人だけ。

 

「結局対立関係にあんのか協力関係にあんのかはっきりしねぇな」

「ヒエラルキーにおいてジェシカさんの方が上なのでしょう。それより、ジェシカさん。少し良いですか?」

「なんだ」

「葉風さんが話をしたいそうで」

 

 そう言って、今度は愛花がその首にかけていた木彫りの人形をジェシカに向ける。

 

『鎖部葉風だ。ジェシカ、二つ、お前に聞きたいことがある!』

「対価を要求する。はじまりの姫宮」

『生憎だが私は今纏う衣服も布切れしかない! 加えて、お前も知っての通り私は今絶海の孤島にいる。何を要求されたところで支払いは不可だ!』

「ならば私から情報を出すことはない」

 

 交渉は決裂──かに思われた。

 

「でしたら、私達がその対価とやらを支払えば、貴方は葉風さんの問いに答えてくれるのですか?」

「おい、愛花。それは不合理だろ。葉風の聞きたいことの対価を、なんで俺達が支払う」

「ではマヒロは払わなくてもいいです。私だけで十分でしょうから」

 

 まっすぐな目。

 何かを確信しているようなその目が、ジェシカを貫く。

 

「いいだろう。それで取引を成立させる。なんだ、はじまりの姫宮。聞きたいことというのは」

『一つ目。お前の狙いはなんだ。絶園の樹を復活させること、という答えは受け付けんぞ』

「絶園の樹の復活は通過儀礼だ。私の目的ははじまりの樹を滅すること。絶園の魔法使いの目的など、それ以外には存在しない」

『二つ目。何故お前は不破翔花を攫った。お前はあの時こう言ったな。"あの少女は絶園の樹の復活に必要不可欠だ"と。不破翔花が絶園の樹とどう関係している?』

「不破翔花と絶園の樹の関係性と不破翔花を私が攫った理由は全くの別物だ。聞きたいことは二つなのだろう。どちらかに絞れ」

 

 一瞬の沈黙。

 しかしそれは、葉風でもジェシカでもない者によって断ち切られる。

 

「攫った目的なんざどーだっていい。必要だったから攫った。そんだけだろ。そこは合理が適ってる。だが、確かにそうだ。翔花と絶園の樹とやらに何の関係性がある。そっちの方が問い質すべきだろ、葉風」

『……そうだな。では、二つ目の質問はそれだ。不破翔花と絶園の樹。それらの関係性はなんだ』

「質。あるいは──贄」

 

 真広の目が限界まで開かれる。

 逆に愛花は目を細め、何かを思案する。

 

「どぉいうことだ」

「不破翔花は絶園の樹に対する契約書だ。彼女の存在を対価として、私は絶園の魔法使いとなった。──他にいないだろう。絶園の樹の仲介を担える存在など」

『不破翔花が、契約書……? いや、待て。今絶園の魔法使いとなった、と言ったな。やはりお前のその力は、愛花から奪ったものか!』

「質問は二つだけだ、はじまりの姫宮」

『いや、だからか? 愛花から絶園の力を奪うために、血縁である翔花を……』

「対価を要求する」

 

 勝手に進んでいく話に、爆発寸前、と言った様子の真広があった。

 贄。その言葉だけでも彼の沸点はとうに超えていたというのに、契約書だの対価だのと、あまりにも、あまりにもふざけたことを抜かす絶園の魔法使い。

 

「この件から手を引け、はじまりの姫宮の手駒」

「……んだと」

「絶園の樹は私が必ず復活させる。そして同時期に起きてくるだろうはじまりの樹を必ずや滅する。鎖部一族が絶園の樹を悪用しようとしているというのなら、鎖部一族を滅することも視野に入れる。──ゆえに引け。ここから先は死が付き纏う。生半な気持ちで踏み込んでくれるな」

「おかしなことを言いますね。まるで私達を心配しているように聞こえます」

「そうだ。お前達二人は不破翔花の精神的支柱。お前たちが死地に踏み入ることは、彼女の精神を不安定にさせる。鎮静状態にある彼女が私を通じてその事実を知れば、その狂乱は絶園の樹へも伝播する」

『まさか、不破翔花の精神状態が絶園の樹の暴走を招くと?』

「まさか、などということはないだろう、はじまりの姫宮。お前が生き証人だ」

『っ……』

 

 はじまりの姫宮である鎖部葉風には、はじまりの樹の加護がついている。彼女が勝つと思っている限り彼女は勝てるし、彼女が諦めたその時彼女の負けは確定する。そしてもし、鎖部葉風が誰かを傷つけたいと願うか、あるいは排除したいと無意識にでも考えれば──はじまりの樹はあらゆる手を使ってその者を排除しにかかる。

 それは絶園の樹の縁者とて同じである、ということだ。

 

「そもそも、これは既に飲まれた対価だ。大人しくこの件から手を引け、不破真広、不破愛花」

「──ってぇ事は、だ!」

 

 声は、ジェシカの背後。

 彼女の側頭部に青の防御フィールドを纏った鉄パイプが叩きつけられる。

 

「アンタは必要以上に俺達を傷つけられねえ。が、俺達はアンタの事情も絶園の樹の事情も知ったこっちゃねえ」

 

 ダメージはない。 

 ジェシカの纏う赤い光に阻まれている。

 

「……取引は成立したはずだが?」

「ああ、だから今後一切愛花に手出しはさせねえよ。だが俺がその対価を払うとは言ってねぇ。対価を払うのは愛花だけだ」

「そうですね。加えて私は鎖部一族の内紛や絶園の樹復活に関して首を突っ込んでいるつもりはありません。私も真広も、ただ攫われた妹を探しに旅をしているだけです。この件、というのが何を指し示すのか明確にされていない以上、こう解釈しても問題ありませんよね?」

『そして、私は手を引けと言われていない!』

 

 屁理屈である。

 屁理屈であるが──。

 

「……そうか。だが、取引は成立した。そちらの解釈で問題を失くすというのなら、こちらの解釈で問題とするのも同じこと。不破愛花」

「なんでしょうか、ジェシカさん」

「今、私に何ら意味を為さない攻撃を仕掛け続けている不破真広──コイツの手綱を離すな。不破翔花の心が乱れかねん」

「貴女から絶園の力を奪い返すために、そういう行いをするかもしれませんよ?」

「そういうことができないから、絶縁の樹はお前を先代の宿主にした。──そうだ、行き掛けの駄賃をくれてやる。そろそろ政府の攻撃が始まる頃合いだ。手を引かぬというのなら、早々に身を隠すことだな」

 

 それだけ言って、ジェシカはその場から消失する。

 最後の最後に一撃を食らわせようと大きく振りかぶっていた真広の攻撃はスカり、そのままバランスを崩して道路へと転落した。

 

「……情けないですね」

「うっせぇ。……愛花。吉野の奴、どこ行くって言ってた?」

「そういえば」

 

 それは二人が鎖部夏村、ジェシカと遭遇する前の話だ。

 

 丁度絶園の果実が出現すると予測されるポイントが生家の近くであり、翔花誘拐の事件を探るためにも訪れていた不破家之墓地にて再会した、真広の悪友滝川吉野。──そして愛花の彼氏でもあるその少年。

 彼は絶園の果実の出現タイミングに丁度二人と共に居たということもあってか、金属化を免れ、そのまま二人の現状を知った。魔法使い、鎖部葉風との契約と、絶園の魔法使いの話を。

 

 その後二人は彼に「街を出ろ」と促し、そうして先ほどに至ったわけだが──。

 

「……アイツ、ちゃんと出たよな」

「そう思いたいですが、マヒロ。……あの黒煙は、なんだと思いますか」

 

 愛花の指さすその先に、黒い煙が上がっていた。

 これが黒鉄病──金属化の起きた直後の話であれば、ただ車なんかが衝突して爆発しているだけ、と捉えただろう。しかし、既に黒鉄病の発生からかなりの時間が経っている。だというのにあの煙は。

 

「まさか、さっきの女か!?」

「可能性としては高いでしょうね。魔具による高速移動をした私達と違って、吉野さんは徒歩での移動でしたし」

「チィ──殺人がダメだとかいうくだらねえ誓約がなければ、あんな女ぶち殺してやってたってのに!」

 

 鎖部の魔法に攻撃性のあるものはない。

 且つ、その魔法で殺人を行ってはならない。これは魔法を使える術者本人も、魔具を用いる一般人でも同じこと。鎖部の魔法は条理を守るための魔法であり、もしそれを違えれば、魔法使いだろうと一般人だろうと長期間魔法を使うことができなくなる。

 

『落ち着け真広。今黒煙が上がったということは、吉野は逃げている真っ最中ということだ。つまり』

「死んでねえ。アイツはそう簡単に死ぬタマじゃねえ。なら、助け出せる」

「マヒロ、魔具はまだ残っていますか?」

「──葉風、良いな。鎖部左門の企みを阻止するためでも、絶園の魔法使いを倒すためでもねぇが、吉野を救うために魔具を使う。認証しろ」

『ああ、良いだろう。行け、間に合わなくなる前に!』

 

 二人は頷き合って──その場から、姿を消した。

 

 

 *

 

 

 さて。

 成程、とは思う。

 絶園の魔法使いとなった私を倒すために、鎖部一族と真広たちを共闘関係に置かせるとは、はじまりの樹の干渉もここに極まれり、だ。

 それを提案したのが姉愛花だというのが多少気にはなる。彼女であれば、はじまりの樹の干渉に気づきそうなものだけど。

 

 エヴァンジェリン山本と吉野の戦いは、おおむね史実通りだ。少しばかり長引いていることが気になりはするけれど、それだけ。

 今はそれより──。

 

『目標発見! 宙に浮く、ロングコートに大鎌を持った少女! 攻撃許可を!』

『攻撃を許可する!』

 

 無線機の音だけを拾うよう聴力を強化した。

 全体を拾うとヘリの音で鼓膜がやられるのは目に見えていたから。

 

 発射されたミサイルを破壊しながら、できるだけ吉野の戦っている方に注目が向かないよう飛び回る。

 

 ……ちょっと数が多いな。私撃墜用に六機、街の封鎖用に二機。あの二機も引き付けられたらいいんだけど、流石にちょっかいをかけると政府側の同士討ちが発生しかねない。それこそ余計な被害というものだ。

 

 まぁ、魔具があれば河川の一本や二本抜けられるだろうし、鎖部夏村に追われていないのなら問題自体が無い。大丈夫だと判断しよう。

 

 であれば──。

 

『全弾命中! ッ──目標健在!』

『我々の役目は時間稼ぎだ! 封鎖を行う二機が仕事を終えるまで、火力を集中させ続けろ!』

 

 奇しくも同じ狙いのようだから。

 せめて、全弾使い尽くしてもらおうか。

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